2020 年 69 巻 2 号 p. 160-167
抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome; APS)は,血液中に多種多様な抗リン脂質抗体が出現し,その組み合わせにより動・静脈血栓症や習慣性流産が生じる自己免疫性血栓塞栓性疾患である。APSの臨床病態を適切に鑑別診断するためには,複数種の抗リン脂質抗体を患者毎に測定する必要があるが,現在汎用されている酵素固相化免疫測定法(ELISA)では複数種の抗体を同時に測定することは難しい。我々はこれまでに自動分析装置「ACL AcuStar®」を用いたMultiplex-EIA systemにより抗リン脂質抗体を複数種・同時に測定できる検査システム(aPLs-EIA)を構築し,臨床的有用性を検討してきた。本研究ではaPLs-EIAにより,血栓症リスクが高い抗リン脂質抗体を測定することで,APSの合併症パターンや発症を予測できる検査診断法の確立を試みた。その結果,動脈血栓症の発症にはaDomain1-IgGが,静脈血栓症の発症には抗β2-グリコプロテインI抗体IgGクラス(aβ2GPI-IgG)が最も強く関連しており,患者血液中に出現する抗体の種類により発症する合併症に違いが認められる可能性が示唆された。今後は単一の抗体測定で診断するのではなく,現在のAPS分類基準案に採択されていない抗体を含めて,効率よく見逃しの少ない検査診断法の確立が重要と考える。