医学検査
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69 巻, 2 号
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原著
  • 藤森 巧, 飯尾 耕治, 筧 彩佳, 大倉 真実, 三鍋 博史, 岡田 健, 草野 展周
    原稿種別: 原著
    2020 年69 巻2 号 p. 145-151
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    本研究では,コバスTaqMan MAIによりMycobacterium intracellulareと判定されている株を対象として,MALDI Biotyperによる菌種の同定を行った。また,MALDI BiotyperとコバスTaqMan MAIの不一致株においてはCT値を比較し,さらに患者背景を調査した。不一致株の内訳は,M. lentiflavum 4株,M. colombiense 2株,M. marseillense 1株,M. arosiense 1株であった。また,M. lentiflavumのCT値は,他の菌種に比べて有意に高値であった。M. lentiflavumの病原性は,喀痰より分離された3例において治療対象例はなかったことから,M. intracellulareと病原性が異なると考えられ,両菌種を分類する意義があるといえる。一方,M. colombienseは2例とも皮膚病変より分離されたが,分離報告例は極めて少ないため更なる症例の蓄積が期待される。本検討から,MALDI Biotyperは分子疫学的解析と同等の結果が得られ,日常検査に有用であると考える。また,コバスTaqMan MAIによりM. intracellulareと判定された際には,CT値を確認することにより偽陽性反応を推測することが可能であると思われる。

  • 梅澤 敬, 鈴木 英璃, 梅森 宮加, 三春 慶輔, 伊藤 聡史, 廣岡 信一, 九十九 葉子, 沢辺 元司
    原稿種別: 原著
    2020 年69 巻2 号 p. 152-159
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    目的:口腔内擦過細胞診の細胞採取と検体処理の標準化および標本の品質向上をこころみた。オーセレックスブラシRTを用いて病巣部を擦過し,CytoRichTM REDを用いた非婦人科用LBC標本作製法であるBDサイトリッチTM(CytoRich: CRTM)法(日本BD)にてその有用性を検討した。方法:2014年3月~2016年3月までの口腔内擦過細胞診を対象とした。オーセレックスブラシRTを用いて患部で5回転させて検体を採取し,先端を専用のBDシュアパスTMバイアルに回収した。標本作製は非婦人科用のCRTM法で行い,全例とも2枚の標本を作製し,パパニコロウ(Papanicolaou)染色とPAS反応を行った。判定は細胞診ガイドライン5消化器2015年度版に準拠し6段階で評価した。PAS反応では真菌の有無を評価した。成績:CR法の検体適正率は99.5%(192/193検体)であった。検体適正192検体の内訳は,NILM:146検体(75.6%),OLSIL:22検体(11.4%),OHSIL:5検体(2.6%),SCC:10検体(5.2%),IFN:9検体(4.7%)であった。検体不適正は0.5%(1/193検体)で,その要因は細胞数過少であった。PAS反応は21.8%(42/193)で陽性を示す真菌を確認した。結論:オーセレックスブラシRTとCRTM法の併用により,採取細胞量と回収率が向上し,口腔内擦過細胞診の普及と細胞診判定の向上に寄与すると考えられた。

  • 原 和冴, 本木 由香里, 金重 里沙, 野島 順三
    原稿種別: 原著
    2020 年69 巻2 号 p. 160-167
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome; APS)は,血液中に多種多様な抗リン脂質抗体が出現し,その組み合わせにより動・静脈血栓症や習慣性流産が生じる自己免疫性血栓塞栓性疾患である。APSの臨床病態を適切に鑑別診断するためには,複数種の抗リン脂質抗体を患者毎に測定する必要があるが,現在汎用されている酵素固相化免疫測定法(ELISA)では複数種の抗体を同時に測定することは難しい。我々はこれまでに自動分析装置「ACL AcuStar®」を用いたMultiplex-EIA systemにより抗リン脂質抗体を複数種・同時に測定できる検査システム(aPLs-EIA)を構築し,臨床的有用性を検討してきた。本研究ではaPLs-EIAにより,血栓症リスクが高い抗リン脂質抗体を測定することで,APSの合併症パターンや発症を予測できる検査診断法の確立を試みた。その結果,動脈血栓症の発症にはaDomain1-IgGが,静脈血栓症の発症には抗β2-グリコプロテインI抗体IgGクラス(aβ2GPI-IgG)が最も強く関連しており,患者血液中に出現する抗体の種類により発症する合併症に違いが認められる可能性が示唆された。今後は単一の抗体測定で診断するのではなく,現在のAPS分類基準案に採択されていない抗体を含めて,効率よく見逃しの少ない検査診断法の確立が重要と考える。

技術論文
  • 佐瀬 正次郎, 太郎良 のぞみ, 宮負 哲, 寺田 将人, 田城 孝雄
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻2 号 p. 168-178
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    糖尿病患者が血糖自己管理のために行う血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose; SMBG)は,自宅や外出先など様々な環境下で測定する。今回,環境因子の中で温度に焦点をあて,その影響について検証するためSMBG機器5機種について,測定機器とセンサーの温度を低温,常温,高温下の7パターンを組み合わせ,血糖値への影響について検証を行った。その結果,SMBG機器およびセンサーが同一温度における低温,高温環境下では,一部の機種において血糖値が高値化あるいは低値化したが,いずれの機種もISO 15197の許容範囲内であった。一方,SMBG機器とセンサー間に温度差が生じた場合,SMBG機器が低温でセンサーが常温では一部の機種を除き異常高値に,逆に,SMBG機器が高温でセンサーが常温では異常低値となりISO 15197の許容範囲から外れた。復温中の血糖の経時的変化は,復温開始後5分で不安定ではあるがISO 15197の許容範囲に収まり,10分以上経過すると,ほぼ,温度の影響が認められなくなった。今回の検証結果から,SMBG機器とセンサー間に,急激な温度差が生じる危険性のある暖房器具や冷房直下での使用を避け,少なくとも室温に10分以上馴染ませる必要が確認された。

  • 坪井 五三美, 水村 千恵, 木下 瑞貴, 町田 聡
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻2 号 p. 179-183
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    キャピラリー電気泳動法を用いた尿中シュウ酸の濃度測定法の基礎的評価を行った。日内再現性と日間再現性は6.0%未満であった。希釈直線性の相対誤差(%)は良好な結果であった。添加回収試験も良好な結果であった。また,塩酸とアスコルビン酸はシュウ酸測定に及ぼす影響は特に認められなかった。イオンクロマト法との相関性は,良好な結果であった(y = 0.971x + 0.380, r = 0.997, n = 50)。この検討でキャピラリー電気泳動法を用いた尿中シュウ酸の濃度測定法は,ルーチン検査において有効な方法であることが検証された。

  • 菊地 良介, 度會 理佳, 鈴木 敦夫, 横山 覚, 後藤 香緒里, 安藤 善孝, 松下 正
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻2 号 p. 184-192
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    今回我々は,当院検査部でcarbohydrate antigen 19-9(CA19-9)を測定した162例の検査後残検体を対象とし,5種類のCA19-9測定試薬による測定値の相関と膵臓がん診断能の比較を行った。5種類のCA19-9測定試薬は,ルミパルスプレストCA19-9試薬キット,アーキテクトCA19-9XR・アボット,エクルーシス試薬CA19-9 II,HISCL CA19-9 II試薬,ビトロスCA19-9試薬パックを使用した。管理試料及びプール血清を用いた併行精度の結果から,アーキテクト試薬を除き変動係数(coefficient of variation; CV)0.5~4.3%と良好な再現性が確認できた。アーキテクト試薬ではCV 3.7~21.8%と再現性において分散が認められた。各CA19-9測定試薬間のCA19-9相関性評価では,コバス試薬とビトロス試薬の相関係数が最も良好であったが,ビトロス試薬はコバス試薬の測定値より2倍程度大きくなる傾向が認められた。さらに,CA19-9のカットオフ値付近での相関性評価から,アーキテクト試薬のCA19-9測定値は他4試薬と比較して乖離が大きいことが確認された。また,non NS19-9抗体を使用しているHISCL試薬のCA19-9測定値は,NS19-9抗体を使用している他4試薬と比較して乖離が確認された。一方で,receiver operating characteristics(ROC)解析によるCA19-9の膵臓がん診断能は,すべての試薬でROC曲線下面積0.739以上と比較的良好な結果が得られた。以上の結果より,5種類のCA19-9測定試薬に互換性は認められないものの,膵臓がんの診断能はほぼ同等であることが明らかとなった。

  • 鈴木 敦夫, 菊地 良介, 亀山 なつみ, 山本 ゆか子, 安藤 善孝, 松下 正
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻2 号 p. 193-197
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    本邦における自然災害のうち,特に震災の被災地では静脈血栓塞栓症の発症率が増加することが報告されている。災害拠点病院である当院においては,集中する患者に対し高いスループットをもった静脈血栓塞栓症スクリーニングが必要となる。今回我々は,無給水で使用可能な生化学免疫測定装置VITROS XT7600(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)を用いて,災害時を想定したDダイマー測定の妥当性を検証したので報告する。Dダイマー測定試薬にはナノピアDダイマー(積水メディカル株式会社)を使用し,対照機器・試薬にはそれぞれCS-5100およびリアスオートDダイマー・ネオ(ともにシスメックス株式会社)を使用した。これらを用いて併行精度,相関性および検体処理能力を検証した。併行精度は,変動係数が低濃度域で5.0%,高濃度域で1.6%であった。相関性は回帰式がy = 0.7188x + 0.8013,相関係数rは0.9253であった。検体処理能力としては,50検体の測定に約1時間15分を要した。併行精度および相関性試験の結果から,ナノピアDダイマーの性能は十分に発揮できていると考えられた。スループットについては,災害時・緊急時においてはPOCTや超音波検査を上回る処理能力を発揮できることが示唆され,VITROS XT7600によるDダイマー測定は災害時非常に有用であると考えられた。

  • 山下 史哲, 渡部 俊幸
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻2 号 p. 198-204
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    インターネット上で無償配布を行っている,試薬管理システムは,プロトタイプシステムの開発と運用経験の元,臨床検査室の試薬管理業務効率化のために,汎用性と導入の容易さを目標に開発した。本システムでは,試薬包装に表記されているバーコードのGS1-128シンボルを利用することにより,品質管理に必要とされる試薬の有効期限,ロット情報の自動取得と記録が可能である。また,試薬マスターの設定により,試薬の箱単位,もしくはその箱内の個包装数に対し,管理番号バーコードラベルを発行添付して管理することで,それぞれの開封日や使用完了日の記録に関してもバーコード運用を可能にした。その結果,試薬の在庫管理と共に記録の効率化と人為的ミス削減を実現した。完成後,無償配布を開始し,ダウンロード件数と導入施設からの問い合わせ件数より,必要性及び実用性が確認でき,本システムの開発と無償配布は有用であったと考えられた。

  • 田中 真輝人, 品川 雅明, 古谷 大輔, 髙橋 聡
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻2 号 p. 205-208
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    敗血症や血流感染症(bloodstream infection; BSI)は重篤な病態なため,血液培養が陽性になった際には,迅速な菌種の同定と有効な抗菌薬の選択が重要である。本研究では,レンサ球菌が検出された血液培養の培養液57検体を用い,Lancefield分類,pyrrolidonyl arylamidase(PYR)試験や肺炎球菌抗原検査を行うことで,レンサ球菌の迅速鑑別が可能かどうか検討した。β溶血性グラム陽性レンサ球菌が疑われた培養液12検体についてLancefield分類を実施したところ,B群6株,F群2株,およびG群4株に分類された。B群はStreptococcus agalactiae,F群はStreptococcus constellatus,G群はStreptococcus dysgalactiaeであった。非β溶血性グラム陽性レンサ球菌が疑われた培養液45検体については,41検体がPYR試験陽性,4検体が肺炎球菌抗原検査陽性であった。PYR試験陽性の41検体は,18株がEnterococcus faecalis,23株がEnterococcus faeciumであった。同様に,肺炎球菌抗原検査陽性の4検体は,Streptococcus pneumoniaeS. pneumoniae)であった。以上の結果から,陽性となった血液培養液を用いた迅速鑑別法は,β溶血性レンサ球菌,S. pneumoniaeEnterococcus属の予測が可能であり,敗血症やBSIの診断に有用と考えられた。

  • 渡部 加奈子, 仲田 夢人, 市川 ひとみ, 野上 智, 福田 哲也, 本倉 徹
    原稿種別: 技術論文
    2020 年69 巻2 号 p. 209-214
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)は非ホジキンリンパ腫や成人T細胞性白血病リンパ腫などで高値を示し病態を反映することから,治療効果の判定や補助診断,経過観察などに用いられている。今回,ルミパルスL2400(富士レビオ株式会社)で測定可能な「ルミパルスプレストIL-2R」(富士レビオ株式会社)が開発されたため,試薬導入に向けて基礎的検討を行った。併行精度,室内再現性,希釈直線性,検出限界および定量限界は良好な結果が得られた。共存物質や分注容器,保存条件等の影響は認められなかった。「ステイシアCLEIA IL-2R」(株式会社LSIメディエンス)との相関係数は0.995と高く,回帰式はy = 1.17x − 34.33と近似した値であり,極端な乖離検体も認められなかった。以上の結果より,基本性能は良好であることから,試薬の導入は可能であることが示唆された。

資料
  • 小林 剛, 石井 脩平, 木村 理恵, 吉田 美帆, 浅見 志帆, 出尾 優佳, 菊地 良介, 竹浦 久司
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻2 号 p. 215-223
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    2018年に若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(working group; WG)が発足し,このWGの最初の企画としてThe International Young BLS Forumが開催された。本フォーラムの目的は国内外の若手臨床検査技師(biomedical laboratory scientist; BLS)が臨床検査の未来像について国境を越えた論議を行うことである。我々は癌ゲノム医療をテーマに論議した。ゲノム医療において重要とされる病理分野における組織の固定方法や人工知能(artificial intelligence; AI)の活用に関する質問を5項目リストアップし,各国がそれに回答する形で事前準備を進めた。各国ともにガイドラインに従い固定液は10%中性緩衝ホルマリンを使用し,固定時間も徹底されていた。フォーラム当日はゲノム医療におけるAIの有用性について重点的に論議を行い,BLSとAIとが共存することにより様々な検査が統一化され,効率的かつ精度の高いゲノム医療を提供することが可能になるのではないかと考えた。結果的に患者にとっても大きなメリットになり得るという結論に至った。一方で,AIを操作するBLSの教育方法,ビッグデータの保管および活用方法,学習モデルの標準化および倫理的問題の解決など,今後の課題点も挙げられた。本フォーラム開催によって,各国のBLSが抱える現状と問題点を把握することができ,将来のBLSのあり方について国際的視点で論議することができた。

  • 松本 梨沙, 市村 直也, 青栁 栄子, 鳴海 純, 萩原 三千男, 東田 修二
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻2 号 p. 224-228
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    採血に関連して様々な意見が検査部に寄せられる。このうち患者接遇に対する意見について,採血時の患者とのやりとりの客観的な記録がなく,スタッフの対応や採血手順などの検証が曖昧になることが多い。そのため,患者接遇や採血手技に関する採血者への適切なフィードバックが困難になる現状があった。そこで採血の手技や患者とのやりとりを記録することを目的に,中央採血室の採血台にネットワークカメラを設置し,採血時の映像および音声の記録を開始した。記録システムの構成ならびにその採血業務における活用について紹介する。我々は,採血台にネットワークカメラを設置し,デスクトップPCにて常時採血状況をモニタできるようにした。録音・録画データは約120日間保存可能とした。記録システムの導入により,患者と採血者のやりとり,スタッフの対応,また採血時の使用器具や穿刺箇所,採血手順などを客観的な記録をもとに確認することが可能となった。本システムにより採血時の状況が明確となり,患者接遇や採血手技に関する採血者への適切なフィードバックができるようになった。録音・録画データの活用は,患者接遇や採血手技の改善につながることが期待できる。

  • 北川 大輔, 北野 泰斗, 枡尾 和江, 岡 美也子, 鈴木 崇真, 胡内 久美子, 中村 文彦
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻2 号 p. 229-234
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    新生児集中治療室(neonatal intensive care unit; NICU)における監視培養の目的は,水平感染を監視し,また,新生児が後天性感染症に罹患した場合に,適切な抗菌薬選択ができるため広く実施されている。我々は,2012年から2019年のNICUにおける監視培養を対象とし,2017年変更前後のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSA)およびメチシリン感性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus; MSSA)の検出率と費用を調査し,効果的な監視培養の検討を行った。変更前の2016年まではNICUに入院している全患者に隔週で鼻腔ぬぐい液,便および臍の検査を実施しており,MRSAの検出率は95.2%,84.6%,60%,MSSAの検出率は99.3%,68.2%,60.9%であった。MRSAとMSSA共に,鼻腔ぬぐい液から高頻度に検出されることが明らかになった。費用は2016年まで平均で808,331円/年であり,鼻腔ぬぐい液が267,957円/年,便が379,793円/年,臍が160,581円/年であった。この結果をふまえ,有効性と費用対効果を考慮し,2017年から監視培養を鼻腔ぬぐい液のみにする方針とした。これによりMRSAとMSSAの新規検出率に大きな変化なく,検体数は約65%減少し,費用も73%削減された。今後,感染対策や治療において問題が生じることがないようであれば新方針で継続して実施していく。

  • 三宅 妙子, 田中 伸久, 佐藤 敦子
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻2 号 p. 235-239
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    迅速診断キットを用いたロタウイルス(rotavirus; RV),ノロウイルス(norovirus; NV),アデノウイルス(adenovirus; AV)の検査結果について,各抗原陽性例の特徴を臨床検査所見から明らかにする目的で,後方視的に検討した。2015年1月~2018年12月に当院でRV,NV,AVのいずれかの抗原検査が行われた0~18歳の延べ633例(中央値2歳)を対象とした。RVは検査数563,陽性64例(陽性率11.4%),NVは検査数524,陽性46例(陽性率8.8%),AVは検査数312,陽性18例(陽性率5.8%)であった。発症年齢は3ウイルスとも0~2歳が全体の多くを占めていた。流行時期は,RVが春季,NVが冬季中心で,AVは夏季に比較的多く,流行時期が異なっていた。RV,NV,AV全てが陰性であった例を陰性群とし,臨床検査値について各陽性群と比較した。末梢血中の白血球数および血清中のCRP,AST,ALT,尿素窒素,クレアチニン,グルコース,ナトリウムについては,異常値の占める割合に有意差は認められなかった。また,異常値が50%以上を占めた項目はAV陽性群のCRP(60.0%)とUN(50.0%)のみで,RV陽性群,NV陽性群,陰性群では異常値が50%以上を占めた項目はなかった。各ウイルス感染とも,臨床検査所見からの特徴づけは困難と思われた。

  • 森部 龍一, 菊地 良介, 窄中 美帆, 齊藤 翠, 林 克彦, 佐野 俊一, 岡田 元, 中根 生弥
    原稿種別: 資料
    2020 年69 巻2 号 p. 240-246
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    今回我々は,愛知県臨床検査技師会(愛臨技)が主催する愛知県臨床検査精度管理調査(愛臨技サーベイ)臨床化学検査部門について,2016年度から2018年度の解析データを評価することで,現状の課題を抽出し,今後の展望を考えることを目的とした。対象は,日本臨床衛生検査技師会精度管理事業・データ標準化事業システム(JAMTQC)を用いて臨床化学項目の集計と解析を行った29項目とした。対象3年間の愛臨技サーベイ臨床化学検査部門の参加施設数(総参加数)は,113施設(135施設),120施設(136施設),124施設(141施設)であった。愛臨技サーベイでは,D評価1項目またはC評価2項目の施設に対して,任意参加でサポート事業(2次サーベイと結果検討会)を実施している。対象3年間の2次サーベイ参加施設(総対象施設)はそれぞれ,4施設(15施設),11施設(30施設),10施設(27施設)であった。また,結果検討会参加施設(総招聘施設)はそれぞれ3施設(15施設),8施設(30施設)および7施設(27施設)と少なく,サポート事業へ参加しやすい環境を今後整備していくことが必要であると考えられた。また,愛知県内には300超の医療施設(病院)があるが,未だ半分以上の病院が外部精度管理調査に参加できていない状況がある。今後,病院に愛臨技サーベイへの参加を促す啓蒙活動をより一層充実させる必要があると考えられた。

症例報告
  • 加藤 沙織, 山崎 卓, 北里 浩, 池本 智一, 小出 俊一, 伊藤 彰彦, 角田 隆輔, 鈴木 龍介
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻2 号 p. 247-252
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    乳頭状線維弾性腫(papillary fibroelastoma; PFE)は原発性良性心臓腫瘍であり,粘液腫についで2番目に多い腫瘍である。PFEの多くは単発性であり,多発性は稀である。症例は50歳代,女性。急性前壁心筋梗塞を発症し,経皮的冠動脈インターベンションを施行した。退院後,循環器内科外来で経過観察となり,9ヶ月後に施行した経胸壁心エコー図検査にて大動脈弁に可動性を有する複数の腫瘤を認めた。腫瘤は左冠尖に2つ(5.0 × 3.6 mm, 4.4 × 3.2 mm),無冠尖に1つ(2.3 × 3.8 mm)認めた。経食道心エコー図検査(3Dエコー)においても経胸壁心エコー図検査と同部位に腫瘤を認め,より明瞭に確認することができた。性状は球形で一部有茎性を呈しており,PFEが疑われた。塞栓症のリスクがあるため,腫瘍摘出術が施行された。手術所見にて大動脈弁には計6つの乳頭状の腫瘍性病変が確認され,病理組織検査の結果,腫瘍性病変はいずれもPFEと診断された。今回,心筋梗塞後の経過観察中に大動脈弁に多発するPFEを経験したので報告する。

  • 沖野 久美子, 酢谷 充寿, 川江 孝子, 木元 俊一, 池田 亮輔, 照澤 和仁, 照井 雅弥, 富樫 由衣
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻2 号 p. 253-260
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    細胆管細胞癌(cholangiolocellular carcinoma; CoCC)は比較的稀な腫瘍である。症例は70代女性。腹部CT検査で凹凸不整,動脈相でまだら状に濃染し,門脈相に造影効果が遷延する腫瘍がみられた。経動脈性門脈造影下CT(CT during arterial portography; CTAP)で造影欠損像。肝動脈造影下CT(CT during hepatic arteriography; CTHA)では動脈早期相で濃染を示した。腹部超音波検査で境界不明瞭不整な高エコー病変を認めた。ソナゾイド造影超音波検査動脈相で腫瘍の辺縁と中心部に染影がみられた。門脈相でwash outし後血管相で欠損像となった。MRIでは腫瘤全体がT1WIで低信号,T2WIで辺縁は高信号を示し中心部で低信号の混在がみられた。切除検体肉眼像は,被膜や隔壁を伴わない白色の結節病変であった。組織学的に,不規則な吻合管腔状構造で一部拡張を示す腫瘍腺管が認められた。粘液産生像(−)。免疫染色にてCK7(+),CK19(+),Hep-par1(−),上皮内膜抗原(EMA)管腔面(+)となりCoCCと診断された。高エコーに描出された領域には,異常に拡張した腫瘍腺管が多く見られ,先天性胆管形成異常でみられるductal plate malformationに類似した像を示し,やや特殊な組織像を呈すCoCCを経験した。

  • 小倉 昌弘, 柴田 瞳, 前田 隆平, 佐藤 翼
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻2 号 p. 261-266
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    緒言:子宮頸部小細胞神経内分泌癌(small cell neuroendocrine carcinoma; SCNEC)は比較的稀な腫瘍で悪性度の高い腫瘍として知られている。今回我々は細胞診で術前診断が可能であった子宮頸部原発のSCNECの1例を報告する。症例:患者は20歳代,女性。持続する子宮出血で,擦過細胞診が施行された。細胞診では特定構築のない集塊配列と核の相互圧排像,裸核状で乏しい細胞質と核の細顆粒状の細胞所見からSCNECと診断された。一方で,細胞質が豊富で大型核を有する異型細胞集塊の細胞所見から扁平上皮癌の存在も疑われた。生検による組織診断では小型で単一のN/C比の高い細胞が密に増殖しておりSCNECと診断され,その後広汎子宮全摘出術が行われ,免疫組織化学的検索により扁平上皮癌成分を含むSCNECと最終診断された。本症例は腫瘍径6 cmで傍大動脈リンパ節転移陽性であったが,術後36ヶ月間再発および転移は認められていない。結論:子宮頸部SCNECの細胞診断には特定構築のない細胞配列と核の相互圧排像および細顆粒状核クロマチンの出現が必要である。

  • 上田 彩未, 清遠 由美, 青地 千亜紀, 宮元 祥平, 石田 真依, 谷内 亮水
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻2 号 p. 267-273
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    左鎖骨下動脈狭窄を呈していたにも関わらず,左椎骨動脈の分岐異常のために,鎖骨下動脈盗血現象を認めなかった1例を経験したので報告する。症例は70歳代男性,左半身の痺れを訴え,当院を受診した。頭部CT,MRIより脳梗塞と診断され,原因検索の目的で頸部血管エコーを実施した。頸部血管エコーでは両側の頸動脈に狭窄,閉塞の所見は認めず,椎骨動脈の血流に逆流は認めなかった。翌日造影CTを施行したところ,左椎骨動脈は大動脈弓から直接分岐し,左鎖骨下動脈に高度狭窄を認めた。再度,頸部血管エコーを行い,左鎖骨下動脈を観察すると,中枢側にモザイクシグナルを認め,最大血流速度4 m/s以上と上昇していた。通常,鎖骨下動脈中枢側に中等度以上の狭窄があると,鎖骨下動脈盗血現象が起こるが,本症例では分岐異常のため,左椎骨動脈に逆流が生じなかった。本症例では,検査前に聴診することや,上肢血圧の左右差の有無を確認することで見逃しを防ぐことが可能であったと考えられた。

  • 石川 伸, 中井 統紀子, 日高 友梨恵, 薬師神 恭子, 大前 麻希, 石井 智子, 長谷川 章, 岡本 康幸
    原稿種別: 症例報告
    2020 年69 巻2 号 p. 274-277
    発行日: 2020/04/01
    公開日: 2020/04/01
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    末梢血スメアでマクロファージおよび血球貪食像を認めた症例を当院で初めて経験した。このような例は極めて稀とされているが,標本の観察方法によって検出頻度が高まることを指摘する報告もある。そこで,これ以降の検体で,血球貪食像が出現する可能性を念頭に置いた注意深い末梢血スメアの観察を続けたところ,5ヶ月間でさらに4症例を検出することができた。血球貪食症候群の診断基準を満たした症例は1症例のみであったが,すべての症例において経過中血球減少を示していた。また全症例で両側性胸水が認められたが,その意義は明らかでない。以上より,末梢血スメアにおけるマクロファージおよび血球貪食像の出現は,それほど稀ではない現象と考えられ,その検出のためには,血球減少や臨床像の特徴から出現が疑われる場合に,末梢血スメアの辺縁部やfeather edge部に注意を払って観察することが重要と考えられた。

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