医学検査
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資料
広島県における凝固検査検体取り扱いに関するアンケート調査報告
又賀 史織河野 浩善井上 礼子中川 浩美中島 静塔村 亜貴西村 龍太坂本 美智子
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2020 年 69 巻 3 号 p. 389-396

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Abstract

2016年に日本検査血液学会標準化委員会凝固検査標準化ワーキンググループより,凝固検査検体取扱いに関するコンセンサスが発表され,標準化への動きが高まっている。そこで,広島県臨床検査技師会臨床血液部門では県内各施設の現状を調査すべく,アンケート調査を実施した(回収率63.2%)。採血に関連した設問では多くの施設がJCCLSの標準採血法ガイドラインGP4-A2に準拠していた。遠心については,血漿中の残存血小板数を検討している施設は34.2%にとどまり,遠心力(g)ではなく回転数(rpm)のみ把握している施設が30.5%,遠心力不足や過剰な施設が36.6%認められた。凝固検査実施前の検体保存は,外部委託検査提出のための保存が83.3%を占めており,その保存状況は全血検体のまま保存するが最も多かった。保存温度や保存時間の条件も考慮すると,検査結果に影響を及ぼす可能性のある施設が散見された。また,冷所保存ではcold activationの発生が危惧されており,採血後速やかな血漿分離が望まれる。しかし,速やかな血漿分離が困難な施設もあり,外部委託検査用のコンセンサスの発表が待たれる。標準化の必要性については,必要・やや必要と併せて88.4%であったにも関わらず,コンセンサスの認知度は18.3%と低かった。今後も研修会を企画するなど,コンセンサスの普及に努めていきたい。

Translated Abstract

Consensus about the handling of specimens for coagulation studies was announced in 2016 by The Japanese Society for Laboratory Hematology, Standardization Committee, Coagulation Study Standardization Working Group. We carried out a questionnaire survey to investigate the current status of each facility in the prefecture through the Hiroshima Association of Medical Technologists, Clinical Blood Section (response rate, 63.2%). Concerning blood sampling, the answers were in good agreement. Among the facilities that responded to the survey, 34.2% counted the number of platelets remaining in plasma. As for plasma separation, the facilities that only know the number of revolutions per minute (rpm) were 30.5%, and the facilities where separation lacked centrifugal force were 36.6%. Specimen conservation before coagulation studies was consigned to an outside company by 83.3% of the facilities. In a conservative situation, whole blood conservation is generally carried out. The type of facilities might influence the test results when storage temperature and time are considered. Cold-induced activation may occur owing to cold storage. After blood sampling, immediate plasma skimming is necessary. However, rapid plasma skimming is difficult, and the presentation of a consensus for the conservation by outside trust examination is awaited. Among the facilities surveyed, 88.4% answered that standardization is needed, but the degree of consensus recognition was low (18.3%). We will plan a workshop in the future and try to reach a consensus on the standardization of the handling of specimens for coagulation studies.

I  はじめに

凝固検査は,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)およびプロトロンビン時間(prothrombin time; PT)をはじめ,フィブリノゲン(fibrinogen; Fbg),ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA),クロスミキシング試験など様々な検査が用いられており,フィブリン析出時間で血液凝固を検出する検査である。これらの検査は,術前検査や出血性疾患のスクリーニング検査,ワルファリンやヘパリンなどの抗凝固療法におけるモニタリングなどで用いられ,多くの施設で実施されている。

これまで凝固検査の標準化は進んでこなかったが,2016年に日本検査血液学会標準化委員会凝固検査標準化ワーキンググループ(以下,ワーキンググループ)より,最初に取り組むべき課題として凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス(以下,コンセンサス)1)が発表された。そこで,今回,一般社団法人広島県臨床検査技師会臨床血液部門が,広島県内各施設の凝固検査の検体取り扱いについて現状と,標準化への課題を把握する目的でアンケート調査を実施した。

II  対象

広島県臨床検査技師会登録の全医療施設(190施設)を対象とした。

III  方法

アンケートは自由参加型で,単一または複数回答形式とし,回答用紙と返信用封筒を同封し対象施設に送付した。アンケート内容は,凝固検査の日常業務で行う検体処理に沿って,採血,遠心分離,検査前後の保存状況,検体の再採血・検査不可の要件などに加えて,標準化の必要性とコンセンサスの認知度を含めた計28項目とした。また,アンケートの対象検査項目はPT,APTT,Fbgとした。

IV  結果

アンケートの回収率は63.2%(120施設)であった。

結果の一覧をTable 1に示す。

Table 1  アンケート調査集計結果(回答施設数:120施設,回収率63.2%)
回答内容 施設数 割合
全120施設を対象
問1 病床数
病床なし 25 20.8%
100床未満 23 19.2%
100~200床 38 31.7%
201~300床 14 11.7%
301床以上 20 16.6%
問2 自施設での凝固検査(PT, APTT, Fbg)実施状況
検査している(全部,一部) 73 60.8%
全て外部委託 38 31.7%
全く検査していない 9 7.5%
検査しているor全て外部委託の111施設を対象
問3 凝固検査の平均検体数(1日あたり)
0~50件 95 85.6%
51~100件 7 6.3%
101~300件 8 7.2%
301件以上 1 0.9%
問4 凝固検査用採血管の採血量(複数回答可)
0.9 mL 3 2.7%
1.8 mL 106 95.5%
2.7 mL 5 4.5%
4.5 mL 1 0.9%
その他(全血) 4 3.6%
問5 許容採血量の設定(公称採血量の ±何%)
±5%以内 24 21.6%
±10%以内 65 58.6%
±15%以内 1 0.9%
±20%以内 11 9.9%
その他(設定なし) 7 6.3%
無回答 3 2.7%
問6 凝固検査用採血管のクエン酸ナトリウム濃度
3.13% 8 7.2%
3.20% 97 87.4%
3.80% 3 2.7%
無回答 3 2.7%
問7 凝固検査用採血管の採血について
標準採血法ガイドライン準拠 95 85.6%
シリンジ採血,3番目以降 3 2.7%
不明/決まっていない 4 3.6%
無回答 9 8.1%
問8 採血から検査室提出までの時間(最大)
10分以内 23 20.7%
10~30分以内 20 18.0%
31~60分以内 12 10.8%
60分以上 54 48.7%
無回答 2 1.8%
問9 遠心分離機の種類
アングル型(固定) 5 4.5%
スイング型(水平) 77 69.4%
遠心機なし(外注先で遠心) 29 26.1%
自施設で遠心分離している82施設を対象
問10 遠心条件(2,000 × g・10分以上/1,500 × g・15分以上)
満たしている 25 30.5%
満たしていない 30 36.6%
満たしていない(疑い)※1 25 30.5%
無回答 2 2.4%
問11 遠心分離機の設定温度
4℃以下 0 0.0%
5~17℃ 0 0.0%
18~25℃ 28 34.2%
26℃以上 0 0.0%
設定なし 54 65.8%
問12 遠心分離機のブレーキ設定
設定している(最大) 7 8.5%
設定している(中間) 20 24.4%
設定している(最小) 8 9.8%
設定していない(OFF) 41 50.0%
無回答 6 7.3%
問13 上記遠心条件における残存血小板数の検討
5,000/μL未満 8 9.8%
1万/μL未満 17 20.7%
5万/μL未満 3 3.7%
10万/μL未満 0 0.0%
検討なし 53 64.6%
無回答 1 1.2%
検査しているor全て外部委託の111施設を対象
問14-1 検査実施前の検体保存
ある 66 59.5%
ない 40 36.0%
無回答 5 4.5%
検査実施前に検体保存している66施設を対象
問14-2 検査実施前の検体保存の目的・用途(複数回答可)
外部委託前 55 83.3%
時間外等の一時保存 11 16.7%
一括検査 4 6.1%
その他 3 4.5%
問15 検査実施前の保存における検体処理状況
全血のまま 31 47.0%
遠心後,そのまま 9 13.6%
血漿分離 19 28.8%
その他 0 0.0%
無回答 7 10.6%
問16 検査実施前の保存温度
室温(18~25℃) 35 53.0%
冷蔵(0~10℃) 9 13.7%
凍結(−20~−30℃) 14 21.2%
凍結(−40℃以下) 1 1.5%
無回答 7 10.6%
問17 検査実施前の保存時間
1時間以内 7 10.6%
1~4時間以内 30 45.5%
4~8時間以内 8 12.1%
8時間以上 10 15.1%
無回答 11 16.7%
院内で検査している73施設を対象
問18-1 検査実施後の検体保存
ある 55 75.3%
ない 18 24.7%
検査実施後に検体保存している55施設を対象
問18-2 検査実施後の検体保存の目的・用途(複数回答可)
追加検査への対応 42 76.4%
検討・研究目的 10 18.2%
その他 9 16.4%
無回答 2 3.6%
問19 検査実施後の保存における検体処理状況
全血のまま 33 60.0%
遠心後,そのまま 15 27.3%
血漿分離 0 0.0%
その他 7 12.7%
問20 検査実施後の保存温度
室温(18~25℃) 23 41.8%
冷蔵(0~10℃) 15 27.3%
凍結(−20~−30℃) 7 12.7%
凍結(−40℃以下) 4 7.3%
無回答 6 10.9%
問21 検査実施後の保存期間
4時間以内 7 12.7%
1日程度 25 45.5%
1週間程度 15 27.3%
1ヶ月以上 3 5.4%
無回答 5 9.1%
自施設で遠心分離している82施設を対象
問22 検査や保存における血漿分離
ある 64 78.0%
ない 18 22.0%
血漿分離することがある64施設を対象
問23 血漿分離条件
Aまで分離 2 3.1%
A~Bまで分離 54 84.4%
A~Cまで分離 8 12.5%
その他 0 0.0%
検査しているor全て外部委託の111施設を対象
問24 再採血または検査不可の要件(複数回答可)
凝固/フィブリン析出 93 83.8%
黄疸 1 0.9%
溶血 34 30.6%
乳び 10 9.0%
採血量の不足 95 85.6%
採血量の過剰 70 63.1%
ヘパリン混入 24 21.6%
その他 2 1.8%
要件なし・無回答 12 10.8%
問25 高度な多血および貧血への対応方法
ある 7 6.3%
ない 84 75.7%
無回答 20 18.0%
全120施設を対象
問26 『凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス』の認知度
コンセンサスについて読み,その詳しい内容を知っている 22 18.3%
聞いたことはあるが,その詳しい内容までは知らない 52 43.4%
全く知らない 40 33.3%
興味がない 1 0.8%
無回答 5 4.2%
問27 凝固検査検体取扱いにおける標準化の必要性
必要 70 58.4%
やや必要 36 30.0%
どちらともいえない 7 5.8%
あまり必要ない 1 0.8%
必要ない 0 0.0%
無回答 6 5.0%
問28 凝固検査の検体取扱いのうち,検査値への影響が大きいと考えられる項目(複数回答可)
クエン酸ナトリウム濃度 43 35.8%
採血器具 12 10.0%
採血手技 84 70.0%
採血量 105 87.5%
検体の凝固確認 93 77.5%
遠心分離機の種類 10 8.3%
遠心条件 55 45.8%
遠心分離機のブレーキ 20 16.7%
遠心分離機の温度設定 14 11.7%
残存血小板数 44 36.7%
保存容器 11 9.2%
保存条件 54 45.0%
無回答 3 2.5%

※1 回転数(rpm)のみの回答のため遠心重力不足が疑われる

凝固検査の採血について,許容量の設定はコンセンサス案である ±10%以内が80.2%と最も多く,±10%以上が10.8%,設定なしが6.3%であった。クエン酸ナトリウム濃度はコンセンサスで推奨されている3.13~3.20%が94.6%と大部分を占めたが,3.80%の濃度も2.7%使用されていた。採血手順はJCCLSの標準採血法ガイドラインGP4-A2(以下,採血法ガイドライン)2)に従っている施設が85.6%と多くを占めた。

遠心については自施設で遠心分離している82施設中,コンセンサス案(1,500 × g・15分または2,000 × g・10分以上)を満たしている施設は30.5%にとどまった。コンセンサス案を満たしていない,または回転数(rpm)のみの回答のためコンセンサス案を満たしていない可能性のある施設はあわせて67.1%と半数以上を占めた。遠心機の設定温度は,設定なしが65.8%と最も多く,18~25℃が34.2%であった。ブレーキ使用の有無は,使用しているが42.7%,使用していないが50.0%であった。遠心後の残存血小板数については,コンセンサス案である1万/μL未満を検討している施設は30.5%と少なく,検討はしているが5万/μL未満の施設が3.7%,検討なしが64.6%を占めた。

凝固検査実施前の検体保存については,対象施設111施設中,保存ありが59.5%,保存なしが36.0%であった。保存すると回答した66施設の目的および用途については,外部委託検査提出前の保存が83.3%と最も多く,時間外等の一時保存が16.7%,一括検査のための保存が6.1%,その他が4.5%であった(複数回答可)。その検体保存の処理状況については,全血のまま保存が最も多く47.0%であり,遠心後そのまま保存が13.6%,血漿分離が28.8%,無回答が10.6%であった。保存温度については室温(18~25℃)が53.0%,冷蔵(0~10℃)が13.7%,凍結(−20~−30℃)が21.2%,凍結(−40℃以下)が1.5%,無回答が10.6%であった。保存時間は1時間以内が10.6%,1~4時間以内が45.5%,4~8時間以内が12.1%,8時間以上が15.1%,無回答が16.7%であった。

検査実施後の検体保存については,対象施設73施設中,保存ありが75.3%,保存なしが24.7%で,検査実施後に保存すると回答した55施設の検体処理状況については,遠心後そのまま保存が60.0%,血漿分離が27.3%,無回答が12.7%で,保存温度については室温(18~25℃)が41.8%,冷蔵(0~10℃)が27.3%,凍結(−20~−30℃)が12.7%,凍結(−40℃以下)が7.3%,無回答が10.6%であった。保存時間は4時間以内が12.7%,1日程度が45.5%,1週間程度が27.3%,1ヶ月以上が5.4%,無回答が9.1%であった。

血漿分離状況は,血漿分離する64施設を対象にFigure 1のようにAまたはBまでが84.4%(54施設)で,Cまで分離するが12.5%(8施設)であった。

Figure 1 血漿分離状況

血小板などの血球の混入を避けるため,バフィーコートから最低5 mmは離れた上清を使用する必要性があり,AまたはBまでが84.4%を占めた。

凝固検査検体の取り扱いのある111施設を対象に,検体の再採血・検査不可の要件について回答の多いものから順に,採血量不足が85.6%,凝固・フィブリン析出が83.8%,採血量過剰が63.1%,溶血が30.6%,ヘパリン混入が21.6%と続いた(複数回答可)。さらに,検体の取り扱いのうち,検査値への影響が大きいと思うものは,採血量87.5%,検体の凝固確認77.5%,採血手技70.0%が過半数を超えていた。

標準化については,必要が58.4%,やや必要が30.0%と併せて88.4%であったにも関わらず,コンセンサスの認知度ではコンセンサスを読み,その詳細を知っていると答えた施設はわずか18.3%だった。

V  考察

使用採血管や採血手順はアンケート調査の結果,多くの施設が採血法ガイドラインに準拠していた。コンセンサスでも採血については,基本的に採血法ガイドラインに従うことが明記されており,その認知度の高さが分かる結果となった。

検体の再採血または検査不可の要件および検体の取り扱いにおいても,採血量,採血手技・手順,検体の凝固確認などが検査結果に及ぼす影響として認識されており,その原因に対する理解度も高かった。しかし,溶血,ヘパリン混入に関してはそれぞれ30.6%,21.6%の認識にとどまっており,乳びにいたっては9.0%と認識が低いことが分かった。溶血,乳びに関しては,使用する試薬や機器の種類,組み合わせによっても検査に対する影響度が変わってくるため,各施設で十分な検討を行い,再採血の判定基準を作成する必要がある。ただし,採血・分注操作を含むin vitroで生じた溶血の場合や食事による過度な乳びの場合は,検査不可を考慮することも必要である。また,ヘパリン混入が疑われる場合は,基本的には再採血の対象となるが,下村ら3)が考案した硫酸プロタミン添加試験での報告方法もある。しかしながら,硫酸プロタミン自体が抗凝固作用を有するため,ヘパリン濃度と対応する至適濃度の設定が必要であり,自施設のAPTT試薬を用いた検討により運用方法を決定することが重要である。

遠心についてコンセンサスでは,検査前に検体を凍結保存する場合や,LAの検査において結果に大きな影響を及ぼすため,残存血小板数を1万/μL未満になるよう遠心分離処理を行う必要があり,遠心力(g)を1,500 × gで15分以上,あるいは2,000 × gで10分以上とし,遠心温度は温度管理ができる遠心分離機を用いて室温とすることが推奨されている。アンケート調査では,コンセンサス案の遠心力を満たす施設は30.5%にとどまっており,61.0%の施設ではコンセンサス案を満たさない,あるいは回転数(rpm)のみの把握にとどまり,条件を満たしていない可能性があった。さらにその中には遠心時間短縮のため,遠心力(g)あるいは回転数(rpm)を過剰にかける施設も認められた。遠心力過剰の場合,凝固時間に影響を及ぼすマイクロパーティクルの発生原因になるため注意が必要である4)。遠心後の残存血小板数について,検討なしが64.6%を占め,また,検査値への影響が大きいと考えられる項目について,残存血小板数を回答した施設は36.7%であり,残存血小板数が検査結果に与える影響の認知度の低さが推察された。

検査実施前に保存すると回答した66施設の病床数別の保存目的と状態をFigure 2に示す。全ての病床数で外部委託提出のための保存が多く,処理状況は300床以下の施設では全血のまま保存するが多く,血漿分離されていない現状であった。保存温度は,室温が最も多く,冷蔵する施設も散見された。血漿で保存するよりも全血検体のほうが,また室温保存よりも冷蔵保存のほうが時間経過に伴って凝固検査が変動することは以前より知られており,その原因の一つにcold activationが指摘されている。cold activationにより凝固第VII因子,第VIII因子活性が低下することが報告されており5),6),採血後速やかに血漿分離し凍結することが望まれる。家子ら7)が外注検査の実態を把握する目的で外注施設を対象にアンケート調査を行っており,委託元からの検体提出状況は全血のままと,凍結保存以外の提出が半数以上を占め,搬送時間は3時間未満が多くを占めるものの3時間以上かかる施設もあると報告している。我々のアンケート結果では保存時間は4時間以内までが56.1%を占めたが,検査前の保存目的は外部委託提出のためが最も多いことから搬送時間や外部委託先での検査開始時間なども考慮すると保存時間はさらに延長し,コンセンサスの順守は困難と思われた。施設状況や設備等により速やかな血漿分離,検査開始が困難な場合もあり,コンセンサスの改訂や外部委託検査用のコンセンサスの発表が待たれる。

Figure 2 検査実施前の保存目的と状態

a:施設数別の保存目的を示す。外部委託提出のためが83.3%と最も多かった。b:施設数別の保存処理状態を示す。全血検体のままが最も多かった。c:施設数別の保存温度を示す。室温保存が最も多かった。d:施設数別の保存時間を示す。4時間以内が56.1%を占めた。

凝固検査の標準化については必要・やや必要と回答した施設は合わせて88.4%にのぼり,多くの施設が標準化の必要性を認識していた。しかしながら,コンセンサスを読みその内容を知っていると回答した施設は18.3%と低い結果となった。一方,病床数別では300床以上の施設で知らないと回答したのは0%であり,300床以上の中病院,大病院ではコンセンサスが周知されていた。しかし200床以下の施設においてはコンセンサスの認知度は低く,今後はこれらの施設にコンセンサスを知ってもらう必要があると感じた(Figure 3)。

Figure 3 コンセンサス認知度

病床数の増加に伴い認知度の上昇がみられた。

また,今回のアンケート調査を実施するにあたり,Web回答形式の事前調査(回答率38.9%,74/190施設)を行っており,内容は今回同様コンセンサスに沿った設問としている。事前調査の結果は,広島県臨床検査技師会ホームページに調査結果の掲載と,報告会を兼ねた研修会の開催,広島臨床検査に投稿・掲載,第18回日本検査血液学会学術集会にて発表を行った8)

今回のアンケート調査では,事前調査と研修会の参加状況,コンセンサス発表後の凝固検査の運用方法の変更や,検討の有無についても調査を行った。

事前調査と研修会の参加状況は,両方に参加した施設は全体の18.3%であり,両方参加していない施設が最も多く,特に200床以下の施設においては研修会の参加率が低いことが分かった(Figure 4)。また,凝固検査の運用方法の変更と検討の有無については,変更・検討をした施設(13.3%)と,その予定のある施設(5.0%)を合わせると18.3%の施設が凝固検査の運用の変更や検討を行い,そのきっかけとなる出来事は,事前調査後の報告会を兼ねた研修会が54.5%と最も高い結果であった(Figure 5)。そこで,研修会に参加した施設(事前調査と研修会両方参加と,研修会のみ参加:23施設)のみを対象に運用の変更や検討を行った施設は65.2%(15施設)であった。研修会は会員へ最新情報や詳細な情報伝達を行うには最適と考えられ,コンセンサスの認知度の向上を図るには,研修会の参加率を上げることも重要と思われた。参加率低値の原因として,現在は開催場所や時間が限定されており,地理的または時間的要因のため参加が困難であることが考えられ,今後はWeb配信を含めた研修会会場のサテライト化や広報活動の見直しなど取り組んでいきたい。

Figure 4 事前調査と研修会の参加状況

200床以下の施設で研修会の参加率が低かった。

Figure 5 事前調査と研修会後の運用方法の変更・検討およびそのきっかけとなる出来事

a:事前調査と研修会後に運用方法について変更・検討した施設割合を示す。b:運用方法の変更・検討のきっかけとなった出来事の調査結果を示す(複数回答可)。

今回のアンケート調査はコンセンサスの周知を図るとともに,事前調査後の各施設の動向を把握する目的で臨んだ。広島県内の凝固検査の検体取り扱いについては遠心条件や検体保存等,多くの課題が顕在化する結果であった。今後も臨床血液部門として,コンセンサスの普及とともに最新情報の提供に努めていきたい。

VI  まとめ

広島県内における各施設の凝固検査検体取り扱いに関するアンケート調査を行った。調査の結果,凝固検査検体取り扱いに関する意識が低く,今後もコンセンサスを含めたさらなる啓蒙活動を継続する必要がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)   日本検査血液学会標準化委員会凝固検査標準化ワーキンググループ 家子  正裕,他:「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」,日本検査血液学会雑誌,2016; 17: 149–157.
  • 2)  日本臨床検査標準化協議会:「JCCLSの標準採血法ガイドライン(GP4-A2)」,19–27,渡邊 卓(編),壮光舎,東京,2011.
  • 3)   下村  大樹,他:「未分画ヘパリン混入検体におけるプロタミン補充活性化部分トロンボプラスチン時間の方法と有用性」,日本検査血液学会雑誌,2009; 10: 175–181.
  • 4)   小宮山  豊,他:「血小板マイクロパーティクル」,生物試料分析,2007; 30: 195–202.
  • 5)   吉田  美香,他:「全血の保存条件および保存時間がPT測定に及ぼす影響についての検討」,日本検査血液学会雑誌,2013; 14: 267–273.
  • 6)   小宮山  豊:「凝固検査用サンプル取扱いの標準化」,血栓止血誌,2016; 27: 623–630.
  • 7)   家子  正裕,他:「凝固検査検体取り扱い標準化に関する2018年度の提言:外注検査による凝固検査の標準化」,日本検査血液学会雑誌,2019; 20: 152–159.
  • 8)   河野  浩善,他:「広島県における凝固検査の検体取扱いに関するアンケート調査報告」,広島県臨床検査,2017; 6: 26–30.
 
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