医学検査
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技術論文
導出18誘導心電図波形を用いた心室中隔欠損症の肺高血圧予測
谷 侑美垣本 信幸瀧口 良重小川 智寿美橋本 安貴子森井 眞治大石 博晃赤水 尚史
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2021 年 70 巻 3 号 p. 410-415

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Abstract

肺高血圧症(pulmonary hypertension; PH)は先天性心疾患の予後を左右する重要な合併症の1つで,PHを伴う心室中隔欠損症(ventricular septal defect; VSD)の患児では早期の修復手術が求められる。PHでは標準12誘導心電図検査において右室肥大所見を認めると言われている。そこで今回導出18誘導心電図を応用しPHを簡便に予測できないかを検討した。2013年5月~2018年5月に当院を受診したVSD患児53例を対象とし,心臓カテーテル検査または経胸壁心エコー検査結果から対象をPH(+)群36例とPH(−)群17例に分類した。2群間において標準12誘導心電図のV1,V2誘導と導出右胸部誘導syn-V3R,syn-V4Rを比較したところ,PH(+)群はPH(−)群に比べsyn-V3R,syn-V4RのR波振幅,T波振幅において有意に高値であった。またガイドラインの右室肥大判定基準に基づき,標準12誘導心電図のみで判定する場合(V1, V6)と導出右胸部誘導を加えて判定する場合(V1, V6, syn-V3R, syn-V4R)の2者で右室肥大を判定した結果,右室肥大ありの時にPH(+)となる感度はそれぞれ61%,67%であった。さらに“syn-V4RのR波もしくはT波が陽性”の右室肥大に特徴的な心電図所見を示す場合,PH(+)となる感度は89%であった。これらから導出18誘導心電図を用い,より簡便にPHを予測できることが明らかになった。

Translated Abstract

Pulmonary hypertension (PH) is a serious complication of ventricular septal defect (VSD). Electrocardiography (ECG) effectively demonstrates right ventricular hypertrophy (RVH) in patients with PH, and this can be achieved more easily by applying right-sided chest leads in the synthesized 18-lead ECG. We examined 53 pediatric patients with VSD aged between 1 month and < 3 years who underwent the standard 12-lead ECG. Our pediatric cardiologists assessed the results of echocardiography and cardiac catheterization, and on the basis of which, classified patients as having PH (36 cases) or lacking PH (17 cases). The R and T wave amplitudes recorded via the left chest leads, V1 and V2 in the standard 12-lead ECG and syn-V3R and syn-V4R in the synthesized 18-lead ECG, were compared between the two groups. A significant intergroup difference was observed in syn-V3R and syn-V4R in the synthesized 18-lead ECG (p = 0.0001). When we determined the presence or absence of PH in the two groups using a combination of the standard 12-lead ECG on the basis of the Japanese guidelines (JCS 2009) (R and T waves of V1, and S wave of V6) and the synthesized 18-lead ECG (R of syn-V3R and syn-V4R), the sensitivity, specificity, and accuracy rate for PH were 61%, 88%, and 70% vs. 67%, 76%, and 70%, respectively. Furthermore, when the R or T wave of syn-V4R was positive, the sensitivity and specificity for the diagnosis of RVH were 89% and 82%, respectively, suggesting that PH can be easily discriminated by daily inspection.

I  はじめに

心室中隔欠損症(ventricular septal defect; VSD)は,心室間の左右短路により肺動脈から左心系の容量負荷を起こし,欠損孔が大きい場合には,肺動脈圧,右室圧の上昇を呈し,右心系の圧負荷も呈する。肺高血圧症(pulmonary hypertension; PH)は先天性心疾患の予後を左右する重要な合併症の1つで,PHを伴うVSDの患児では,有意な左右シャントが一定期間持続することでアイゼンメンジャー症候群に移行する可能性があるため,生後6ヶ月以内に修復手術を行うことが好ましいとされている1)。検査としては経胸壁心エコー検査がPHのgate keeper(門番)としての役割を担っており,標準12誘導心電図検査は診断に有用な情報を提供する手段の1つとされている。PHでは,標準12誘導心電図検査において右室肥大を認める2)が,日常検査で患児の左右両側の心電図検査を実施することは煩雑で,患児の協力が得られず困難を伴うことが多い。

近年,標準12誘導心電図をもとに右胸部誘導,背部誘導の波形を演算処理して導出する導出18誘導心電図が,成人循環器領域で注目されつつある。検査手技自体は標準12誘導心電図検査と同じであるが,右胸部誘導(syn-V3R, syn-V4R, syn-V5R)と背部誘導(V7, V8, V9)の追加6誘導の情報を得ることができる。成人循環器領域では右室梗塞・後壁梗塞の早期診断や心室性不整脈起源の推定など,その有用性が期待されている3),4)が,小児先天性心疾患領域において,導出18誘導心電図の有用性を検討した報告は少ない。そこで,我々は小児先天性心疾患領域の内でVSDに注目し,導出18誘導心電図を用いて,PHの有無を日常臨床で可能な限り短い検査時間で予測できるような誘導および心電図所見について検討した。

II  対象および方法

2013年5月から2018年5月の間に,当院で標準12誘導心電図検査を実施した生後1ヶ月以上3歳未満のVSD患児53例を対象とした。ただし,VSDの術後症例,肺動脈弁狭窄および右室流出路狭窄を合併する症例は対象から除いた。本研究では心臓カテーテル検査もしくは経胸壁心エコー検査によって得られた右室圧・左室圧を用い,右室圧が左室圧の50%以上となる症例をPH(+)群,50%未満となる症例をPH(−)群と定義した。右室圧は心臓カテーテル検査では実測した肺動脈圧(=右室圧)を用い,経胸壁心エコー検査では三尖弁逆流速度もしくはVSDの短絡血流速度を測定し,簡易ベルヌーイ式から算出された推定値を用いた。なお経胸壁心エコー検査では描出画像や血流速波形の妥当性を見極め精度良く計測した。左室圧は体血圧の収縮期圧を用いた。明らかにPHを認めていないと判断された症例で血圧が未測定の場合,「子供の血圧管理に関するタスクフォース」のノモグラムを参照し左室収縮気圧を90 mmHgと仮定した5)。なお本研究では導出18誘導心電図から得られる所見は右室肥大所見であり,右室圧を反映していると考えられ,“右室圧は肺動脈圧と等しい”と仮定してPHの評価を行った。

2群間において,標準12誘導心電図のV1,V2誘導と導出右胸部誘導syn-V3R,syn-V4RのR波およびT波の振幅をそれぞれ計測し,比較検討した。心電計は,ECG-2550(日本光電,東京)を用いた。計測する際に用いた心電図波形は,乳幼児によくみられるノイズ拍や呼吸性変動の影響を極力なくすため,日本光電社製のアベレージ波形結果(誘導毎に代表波形を検出しそれぞれ加算平均したもの)を用いた。導出右胸部誘導波形においては,呼吸性変動の少ない心電図波形を10倍に拡大表示し,画面上で計測した3心拍分の平均値を用いた。

また,「先天性心疾患の診断,病態把握,治療選択のための検査法の選択ガイドライン(以下ガイドライン)」6)の右室肥大判定基準7),8)に基づいて,PH(+)群,PH(−)群の2群における右室肥大について,標準12誘導心電図のみで判定する場合(V1, V6)と導出右胸部誘導を加えて判定する場合(V1, V6, syn-V3R, syn-V4R)の2者で判定を行い,感度,特異度,正診率を比較検討した。

さらに右室肥大に特徴的であるとされる誘導と心電図所見(1)V1でR > Sかつ陽性T波,(2)V1で陽性T波,(3)syn-V3RでqRs,qRまたはR型,(4)syn-V4R でqRs,qRまたはR型,(5)syn-V3Rで陽性T波,(6)syn-V4Rで陽性T波について,これらの項目を単独または組み合わせた場合のPH(+)と判定される感度・特異度を算出した。統計解析にJMP Pro Ver. 14 software package(SAS Institute Japan,東京)を用い,ウィルコクソンの順位和検定とカイ2乗検定を用いてp < 0.05を有意とした。

III  結果

患児の背景因子をTable 1に示す。対象53例のうちPH(+)群が36例,PH(−)群が17例と分類した。PH(+)群(男:女=23:13,日齢中央値=106日)とPH(−)群(男:女=12:5,日齢中央値=97日)で,年齢や性別に有意差は認めなかった(p = 0.782,0.629)。心臓カテーテル検査未実施がPH(+)群では3例,PH(−)群では13例であった。PH(+)群とPH(−)群で右室圧,右室圧/左室圧(%),欠損孔の大きさにおいては,いずれもPH(+)群の方が有意に高値であった。

Table 1  患児背景
PH(+)(n = 36) PH(−)(n = 17) p
日齢 106(38–299) 97(34–741) 0.782*
性別 男:女 23:13 12:5 0.629
心臓カテーテル検査 実施:未実施 33:3 4:13 < 0.001
右室圧(mmHg) 63(38–84) 22(2–38) < 0.001*
右室圧/左室圧(%) 82(55–100) 25(2–42) < 0.001*
欠損孔の大きさ(mm) 7.2(2.7–13.6) 2.0(0.8–6.2) < 0.001*
心室中隔欠損症の分類
  傍膜様部型 23 10
  漏斗部筋性部中隔型 3 2
  肺動脈弁下型 5 1
  筋性部 1 4
  その他(不整列型など) 4 0

数値は中央値(最小-最大)で示す。

* ウィルコクソンの順位和検定

カイ2乗検定

PH(+)群とPH(−)群の2群を比較したとき,標準12誘導心電図のV1,V2誘導と導出右胸部誘導syn-V3R,syn-V4RのR波振幅,T波振幅において,PH(+)群では有意に高値を認めた(Table 2)。

Table 2  2群におけるR波とT波の振幅の比較
各誘導のR波・T波 振幅(mV) p
PH(+)(n = 36) PH(−)(n = 17)
V1の R波 224.5(83.5–403.5) 99.5(11.0–282.5) < 0.001
V1の T波 10.8(−47.0–66.5) −30.0(−48.0–11.0) < 0.001
V2の R波 349.5(157.0–644.5) 212.5(78.0–386.0) < 0.001
V2の T波 19.8(−69.5–77.0) −30.0(−58.0–39.0) < 0.001
syn-V3RのR波 143.5(22.1–301.6) 57.8(24.7–183.5) < 0.001
syn-V3RのT波 8.9(−34.3–45.0) −19.6(−32.0–18.9) 0.008
syn-V4RのR波 87.2(0.0–221.5) 39.3(12.5–113.2) < 0.001
syn-V4RのT波 7.5(−22.0–36.4) −12.6(−23.6–17.6) 0.002

数値は中央値(最小-最大)で示す。

ウィルコクソンの順位和検定

T波振幅のマイナス値は陰性T波を意味する。

また,ガイドラインに基づいた右室肥大の有無によるPH判定では,標準12誘導心電図のみで判定した場合(V1,V6)は“右室肥大あり”でPH(+)群となったのは22例,“右室肥大なし”でPH(−)群となったのは15例であった。また導出右胸部誘導を加えて判定した場合(V1,V6,syn-V3R,syn-V4R)は“右室肥大あり”でPH(+)群となったのは24例,“右室肥大なし”でPH(−)群となったのは13例であった。標準12誘導心電図のみでPHを判定した場合,感度61%,特異度88%,正診率70%であり,導出右胸部誘導を加えてPHを判定した場合は感度67%,特異度76%,正診率70%であった(Table 3)。

Table 3  「先天性心疾患の診断,病態把握,治療選択のための検査法の選択ガイドライン」に基づいた右室肥大の有無によるPHの判定
標準12誘導心電図のみで判定
(V1, V6)
導出右胸部誘導を加えて判定
(V1, V6, syn-V3R, syn-V4R)
PH(+)
(n = 36)
PH(−)
(n = 17)
PH(+)
(n = 36)
PH(−)
(n = 17)
右室肥大あり 22 2 24 4
右室肥大なし 14 15 12 13

続いて,2群における各誘導と心電図所見の組み合わせ別の感度,特異度をTable 4に示した。

Table 4  右室肥大に特徴的な心電図誘導・所見の組み合わせおよびPH判定の感度・特異度
組み合わせ番号 誘導・所見 対象
(n = 53)
PH(+)
(n = 36)
PH(−)
(n = 17)
PH(+)となる
感度 特異度
(1) V1:R > Sかつ陽性T波 18 18 0 50% 100%
(2) V1:陽性T波 23 22 1 61%*1 94%
(3) syn-V3R:qRs/qR/R型 12 10 2 28% 88%
(4) syn-V4R:qRs/qR/R型 20 18 2 50% 88%
(5) syn-V3R:陽性T波 22 21 1 58% 94%
(6) syn-V4R:陽性T波 26 25 1 69%*1 94%
(2),(3) V1:陽性T波またはsyn-V3R:qRs/qR/R型 29 26 3 72% 82%
(2),(4) V1:陽性T波またはsyn-V4R:qRs/qR/R型 31 28 3 78% 82%
(2),(5) V1:陽性T波またはsyn-V3R:陽性T波 25 24 1 67% 94%
(2),(6) V1:陽性T波またはsyn-V4R:陽性T波 31 30 1 83% 94%
(3),(5) syn-V3R:qRs/qR/R型またはsyn-V3R:陽性T波 31 28 3 78% 82%
(4),(6) syn-V4R:qRs/qR/R型またはsyn-V4R:陽性T波 35 32 3 89%*2 82%
(2),(4),(6) V1:陽性T波
syn-V4R:qRs/qR/R型
syn-V4R:陽性T波
いずれかの所見あり 35 32 3 89%*3 82%
(3),(4)
(5),(6)
syn-V3R:qRs/qR/R型
syn-V3R:陽性T波
syn-V4R:qRs/qR/R型
syn-V4R:陽性T波
いずれかの所見あり 37 32 5 89%*4 71%

太字は組み合わせ項目数別に最も感度が高い値を示した。1項目でPH(+)を判定した場合,比較的高い感度を示した(*1で示す)。2項目でPH(+)を判定した場合でも3項目または4項目判定と同程度の感度を示した(*2,*3,*4で示す)。

右室肥大に特徴的な心電図所見のうち1項目でPH(+)を判定した場合,比較的高い感度を示したのは(2)V1の陽性T波と(6)syn-V4Rの陽性T波であり,感度はそれぞれ61%,69%であった(Table 4 *1で示す)。2項目では(4)と(6)の組み合わせで,syn-V4RのR波もしくはT波が陽性であることでPH(+)を判定すると感度89%,特異度82%と高値を示した(Table 4 *2で示す)。(4)と(6)の2項目に(2)を加えて3項目の組み合わせでPH(+)を判定しても感度は変化しなかった(Table 4 *3で示す)。さらに(4)と(6)の2項目に(3)と(5)を加えて4項目で判定しても感度は変化しなかった(Table 4 *4で示す)。

IV  考察

VSDは小児の先天性心疾患としては最多頻度の疾患であり,先天性心疾患の約30%を占めるとされている9)。VSDの患児では,有意な左右シャントが一定期間持続することで,PHが残存または出現し,アイゼンメンジャー症候群に移行する可能性があると言われている。PHは先天性心疾患の予後を左右する重要な合併症の一つであるため,早期に確定診断と重症度判定を行い,修復手術を行うことによって予後の改善が可能である。

標準12誘導心電図は先天性心疾患の診断に直結するものではないが,波形の異常,肥大所見や負荷所見,不整脈の合併等病態把握には不可欠な検査である。また負荷所見の有無が手術適応や手術時期の決定にも有用である10)。一方,経胸壁心エコー検査はPHが合併しているかどうかを診断するために非常に有用な非侵襲的検査法であり,PHの重症度に関してもある程度の評価が可能であるため,診断におけるgate keeperとして用いられる。ただし,経胸壁心エコー検査だけでPHの確定診断を下すことはできない。小児のPHの診断方法は成人とほぼ同様で,確定診断は心臓カテーテル検査である。しかし,乳幼児では成人に比べて心臓カテーテル検査に起因する心不全の悪化や不整脈の誘発などの合併症で危険な状態に陥る可能性が高いため,慎重な検討が必要である。今回,心臓カテーテル検査未実施がPH(+)群で3例,PH(−)群で13例であった。PH(+)群3例中2例は心臓カテーテル検査を実施する前に肺動脈絞扼術を施行した症例であり,1例は当院で経胸壁心エコー検査実施後に他院での心臓カテーテル検査,手術施行した症例であった。PH(−)群13例はVSDの欠損孔が明らかに小さくPHを伴っていないことが臨床的に明らかであり侵襲を伴う心臓カテーテル検査の適応とならない症例であった。これら16症例に対しては経胸壁心エコー検査を用いて算出された推定値を右室圧(=肺動脈圧)とした。通常,PHは(平均)肺動脈圧から診断される1)が本研究では臨床的意義が高いと考えられる「右室圧が左室圧の50%」11)をPH(+)群,PH(−)群の群分けの境界値とした。この境界値を用いると軽度のPH症例はPH(−)群に含まれてしまうが,実臨床の現場では,乳児期に手術を行う必要があるPHを伴うVSD症例を抽出することが重要であるとの観点から,軽度のPH症例はPH(−)群に分類されても妥当であると考えた。

PHの心電図所見として,右室肥大がよく知られているが,従来のガイドラインでの判定方法は合計点数によって右室肥大を判定するため,5項目全ての鑑別が必要であり,日常臨床で用いるには煩雑である。また,PHを診断する上で,標準12誘導心電図の右室肥大所見は感度・特異度ともに高くないとされている12)。本研究においても「ガイドライン」に基づいた右室肥大の有無によるPH判定の結果,標準12誘導心電図のみでの判定では感度61%であった。一方で近年,成人循環器領域では導出18誘導心電図が注目されつつある。標準12誘導心電図のデータから瞬時心起電力ベクトルを連続的に算出し,この情報をもとに右胸部誘導,背部誘導の心電図波形を演算処理によって求めている。右胸部誘導及び背部誘導の追加誘導の実測波形と,演算処理によって求めた導出波形の間には有意な相関関係があり,導出波形で十分に正確な情報を得ることができると報告されている13)。成人循環器領域では心臓の右室側・後壁側の虚血に伴う心電図変化の有無を類推することができ,その有用性が期待されている。そこで,今回,VSDにおけるPHの評価に導出18誘導心電図が応用できないか検討を行った。その結果,本研究から主に以下3つの点が明らかになった。第1に,PH(+)群はPH(−)群と比較して,syn-V3Rとsyn-V4RのR波,T波の振幅で有意に高値を認めたこと,第2に右室肥大の有無によりPHの有無を判定した場合,標準12誘導心電図のみ(V1, V6)と導出右胸部誘導を加えて判定する場合(V1, V6, syn-V3R, syn-V4R)では導出右胸部誘導を加えた方が,感度が改善したこと,第3にsyn-V4RのR波もしくはT波が陽性を示す場合,感度89%,特異度82%と高い確率でPHを判定できるということである。つまり標準12誘導心電図のみで判定した“右室肥大あり”のPH陽性率は対象において61%であったが,導出18誘導心電図のsyn-V4RのR波もしくはT波が陽性であれば,PHの陽性率が89%と高いことが証明され,導出18誘導心電図のsyn-V4Rのみの心電図所見でPHをより簡便に予測できる可能性が示唆された。

日常検査で患児の右側胸部誘導の追加記録を行う事は,患児は安静が困難なことが多く,検査時間が増加し,患児負担の増大にも繋がるが,導出18誘導心電図を代用することで検査手技自体は標準12誘導心電図検査と変わらずに右側胸部誘導の情報を得ることができる。また,実測波形との相関関係が認められているため,VSDにおけるPHの評価の際,経胸壁心エコー検査に加え,導出18誘導心電図のsyn-V4Rの心電図所見を診断の一助とすることで,日常臨床においてPHの確定診断及び重症度評価に有用な情報を提供することが示唆された。

V  結語

導出18誘導心電図の右胸部誘導syn-V4Rを用いて簡便かつ感度良くPHを予測することができ,VSD患児の心電図においてsyn-V4RのR波もしくはT波が陽性を示す場合,VSD患児は臨床的に重要なPHである可能性が高い。導出18誘導心電図はVSD患児のPH予測に有用であることが明らかになった。

 

本論文の要旨は第68回日本医学検査学会(2019年5月)にて発表した。

本研究計画は和歌山県立医科大学倫理審査委員会で承認された(承認番号:2443)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究にあたり御指導を戴いた和歌山県立医科大学小児科 鈴木啓之先生,武内崇先生,末永智浩先生に深謝いたします。

文献
 
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