2022 年 71 巻 2 号 p. 375-380
糖尿病合併妊婦における血糖管理は母児合併症予防のために重要であり,妊娠中の血糖管理目標は厳格な基準が設けられているが,1型糖尿病合併妊婦では重症低血糖などの不安定な血糖変動を示すことが多く問題となりやすい。SAPは,CSIIとCGMを合わせたデバイスで,2018年4月より低血糖時に基礎インスリン注入を停止させるLGS機能が搭載された。当院ではSAP導入・継続指導を臨床検査技師が担当しており,今回,妊娠前よりSAPを使用し血糖管理を行った症例を経験した。症例は30歳代で1型糖尿病を発症,MDIにてHbA1c 9%前後とコントロール不良だったが,挙児希望がありSAPを導入した。SAP導入から半年後にLGS機能付きのSAPに切り替え,その1ヶ月後に妊娠した。SAP導入後からHbA1cは徐々に低下し,妊娠時は6.3%であった。また妊娠中に測定していたGA%は経時的に低下し,出産時は15.1%であった。妊娠前の低血糖頻度の平均は23.3回/月だったが,妊娠中の低血糖頻度の平均は9.9回/月であった。第37週3日に母児合併症無く,3,292 gの児を出産した。本症例では継続指導によりSAPを有効に使用することができ,妊娠直前にLGS機能付きSAPに切り替えたことにより,妊娠中の低血糖が大幅に減り,厳格な血糖管理を達成できた。適切な指導のもとSAPを用いることで母児合併症のリスク軽減に期待ができる。