医学検査
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原著
全身性エリテマトーデスにおける抗リン脂質抗体の血栓形成作用を増幅させる炎症メディエーターの探索
瀬分 望月金重 里沙中本 碧本木 由香里野島 順三
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2023 年 72 巻 1 号 p. 19-24

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Abstract

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)に合併する抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome; APS)は,血液中に多種多様な抗リン脂質抗体群(antiphospholipid antibodies; aPLs)が出現し,重篤かつ多彩な血栓性合併症を繰り返し発症することが知られている。私達はこれまでの研究で,aPLsが単球の組織因子(tissue factor; TF)発現やサイトカイン産生を惹起することにより血栓形成を促すことを明らかにしてきた。本研究では,SLE合併APS(SLE/APS)患者血中にaPLsの血栓形成作用を増幅させる因子が存在すると仮定し,各種サイトカインにて健常人単核球を前処理し,SLE/APS患者由来IgG-aPLsで刺激した後,単球表面TF発現をフローサイトメトリーにて定量した。その結果,TNF-α,IL-1β,IL-6にて前処理を施すことにより,aPLsによる単球表面TF発現が増幅されることを見出した。一方,IL-10を用いた前処理ではaPLsによるTF発現が抑制されることを確認した。ゆえにSLE患者では,自己抗体や炎症性サイトカインの作用により慢性的に単球が刺激され,加えて抗リン脂質抗体が存在することにより単球表面TF発現を中心とする血栓形成作用が増幅されると推測される。

Translated Abstract

In secondary antiphospholipid syndrome (APS) associated with SLE, a wide variety of antiphospholipid antibodies appear in the blood, which cause repeated serious arterial and/or venous thrombotic complications. Our previous study revealed that IgG fractions purified from APS patients promote thrombus formation by increasing the levels of monocyte surface TF expression and inflammatory cytokine production. In this study, we investigated the effects of inflammatory and anti-inflammatory cytokines present in SLE patients’ sera on thrombus formation caused by IgG-aPLs. After pretreatment of healthy human monocytes with various cytokines, we analyzed the changes in monocyte surface TF expression levels caused by IgG-aPLs. Monocyte surface TF expression was assessed by measuring TF on the surface of CD14-positive cells by flow cytometric analysis. We found that the pretreatment of monocytes with TNF-α, IL-1β, and IL-6 caused a positive priming effect (increasing the level of TF expression in monocytes). On the other hand, the pretreatment with IL-10 caused a negative priming effect (suppression of TF expression in monocytes). In SLE patients, many components of the immune system, including monocytes, T cells, autoantibodies, and cytokines secreted by cells, are considered to be involved in the pathologic processes that underlie the development of thrombotic complications. The results of our study suggest that IgG-aPLs cause persistently high TF expression levels on monocyte surfaces by interacting with inflammatory cytokines, which may be an important mechanism in the pathogenesis of recurrent arterial and/or venous thrombotic complications peculiar to SLE patients.

I  はじめに

抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome; APS)は,血液中にリン脂質およびリン脂質結合タンパクを標的抗原とする種々の抗リン脂質抗体群(antiphospholipid antibodies; aPLs)が出現することにより,動・静脈血栓症や妊娠合併症を発症する自己免疫疾患である1),2)。本症候群は,既知の膠原病や明らかな基礎疾患・誘因を持たない原発性APSも存在するが,多くは膠原病に合併する二次性APSであり,基礎疾患としては全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)が最も代表的である3)。SLE患者の約40%にaPLsが出現するとされ4),SLEに合併するAPS(SLE/APS)では,血中に出現するaPLsも多種多様であり,抗体により引き起こされる血栓性合併症も重篤な動脈血栓症から軽微な静脈血栓症まで極めて多彩で,再発率も高いことが知られている5)

当研究室では,これまでに代表的なSLE患者血清から純化・精製されたIgG-aPLsを用いて健常人の末梢血単核球への添加実験を行い,IgG-aPLsが単球表面組織因子(tissue factor; TF)発現および単核球からの炎症性サイトカイン(TNF-α・IL-1β・IL-6)産生を誘導することを明らかにしてきた6),7)。さらに,抗リン脂質抗体の中でも,抗カルジオリピン/β2-グリコプロテインI抗体(anti-cardiolipin/β2-glycoprotein I antibodies; aCL/β2GPI)並びに抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(anti-phosphatidylserine/prothrombin antibodies; aPS/PT)がともに陽性であるSLE患者で,血栓性合併症を発症する可能性が極めて高いことを示した8)。これらの研究成果より,SLE/APS患者血中では,TF依存性の血栓形成作用とサイトカインによる炎症反応の相乗効果により,重篤かつ多彩な血栓性合併症が繰り返し引き起こされると推測される。

本研究では,SLE/APS患者血中に存在する炎症性および抗炎症性サイトカインがaPLsの血栓形成作用にどのような作用を及ぼすか検討するために,健常人単核球刺激実験系にて,単核球を各種サイトカイン(TNF-α・IL-1β・IL-6・IL-10)で前処理を施すことにより,後続刺激であるIgG-aPLsの単球表面TF発現動態の変化を解析した。

II  材料および方法

1. 単核球の分離及び前処理

BDバキュテイナ® CPTTM単核球分離用採血管(Becton Dickinson, USA)に健常人末梢静脈血を8 mL採血し,遠心分離を行った(1,700 × g,15 min)。遠心終了後,単核球層を回収し,PBSにて3回洗浄した。洗浄後,RPMI 1640(Life Technologies, USA)に再浮遊させ,細胞数を調製し(1 × 106個/well),6wellプレート(Falcon, USA)に播種した(単核球a–f:6例)。単核球を播種・静置後,各種サイトカイン【TNF-α (Miltenyi Biotec, Germany): 10 pg/mL】,【IL-1β (Miltenyi Biotec): 50 pg/mL】,【IL-6 (Miltenyi Biotec): 10 pg/mL】,【IL-10 (Sigma Aldorich, USA): 10 pg/mL】にて20分の前処理を行った。コントロールとして,添加したサイトカインと同量のPBSにて20分の前処理を行ったものを無処理とした。

2. 単核球のIgG-aPLs刺激

サイトカインによる20分間の前処理後,SLE/APS患者血清より純化・精製したIgG-aPLs(aCL/β2GPⅠ(+)/aPS/PT(+))を添加し,6時間の刺激培養を実施した(37℃・5% CO2)。コントロールとして,添加したIgGと同量のPBSにて6時間刺激培養したものを無刺激とした。

刺激方法は,前処理 × 後続刺激の組み合わせにより,①無処理 × 無刺激,②無処理 × IgG-aPLs刺激,③TNF-α処理 × 無刺激,④TNF-α処理 × IgG-aPLs刺激,⑤IL-1β処理 × 無刺激,⑥IL-1β処理 × IgG-aPLs刺激,⑦IL-6処理 × 無刺激,⑧IL-6処理 × IgG-aPLs刺激,⑨IL-10処理 × 無刺激,⑩IL-10処理 × IgG-aPLs刺激の10通りとした。

IgG-aPLsはアメリカリウマチ学会の診断基準(1997年改訂)9)を満たした SLE患者で,aCL/β2GPI並びにaPS/PTがともに陽性である患者血清より純化・精製した。使用したIgG-aPLsの抗体価はaCL/β2GPIが87.45 U/mL,aPS/PTが17.38 U/mLであった。

3. 単球表面抗原の解析

刺激終了後,単核球浮遊液を回収・遠心した(300 × g,5 min)。その後,上清をアスピレートし,1% Bovine Serum Albumin(Fujifilm, Japan)Buffer 100 μLに再浮遊させたものをCD14-PE(Miltenyi Biotec)及びCD142-FITC(Miltenyi Biotec)を用いて染色した。冷暗所で15分染色後,OptiLyse C(Beckman coulter, USA)500 μLを添加し,固定・溶血を行った(室温・遮光10分)。固定後,PBS 500 μLを添加し5分反応後,遠心した(300 × g,5分)。遠心後上清をアスピレートし,0.1%ホルマリン500 μLに再浮遊させ,フローサイトメトリー(FCM)にて単球表面抗原解析を行った。

CD14を用いたFCM解析にて確定した単球分画は単核球中15.59 ± 1.49%(Mean ± SE)得られ,その分画中のTFをCD142発現量にて定量した。陰性コントロールとしてIsotype Control Antibody, mouse IgG, FITC(Miltenyi Biotec)及びIsotype Control Antibody, mouse IgG, PE(Miltenyi Biotec)を用いた。

統計解析にはStatFlex(Artec, Japan)を用いた。

本研究は,山口大学大学院医学系研究科保健学専攻医学系研究倫理審査委員会の承認(管理番号:617)を得て実施した。

III  結果

1. TNF-αにて単核球を前処理した際のTF発現量の変化

炎症性サイトカインであるTNF-αによる単核球の前処理後,IgG-aPLsにて刺激した単球表面のTF発現をFCMにて定量した。

その結果,TNF-αにて前処理し後続刺激(IgG-aPLs刺激)を行うと,IgG-aPLs単独で刺激した場合に比べてTFの発現が有意に増加することを確認した(Mann-Whitney U test, p < 0.05)(Figure 1)。一方,無処理 × 無刺激に比較してTNF-α処理 × 無刺激では,TF発現が増加しなかった(N.S.)。

Figure 1 TNF-αにて単核球を前処理した際のTF発現量の解析

TNF-αにて前処理し後続刺激(IgG-aPLs刺激)を行うと,IgG-aPLs単独で刺激した場合に比べて,TFの発現が有意に増加した。

Mann-Whitney U test:無処理 × IgG-aPLs刺激vs. TNF-α処理 × IgG-aPLs刺激(p < 0.05)

一方,無処理 × 無刺激に比較してTNF-α処理 × 無刺激では,TF発現が増加しなかった。

Mann-Whitney U test:無処理 × 無刺激vs. TNF-α処理 × 無刺激(N.S.

aPLs:抗リン脂質抗体群,TF:組織因子

2. IL-1βにて単核球を前処理した際のTF発現量の変化

炎症性サイトカインであるIL-1βにて単核球を前処理し後続刺激(IgG-aPLs刺激)を行うと,IgG-aPLs単独で刺激した場合に比べてTFの発現が増加したが,有意差はみられなかった(Mann-Whitney U test, N.S.)(Figure 2)。一方,無処理 × 無刺激に比較してIL-1β処理 × 無刺激では,TF発現が増加しないことを確認した(N.S.)。

Figure 2 IL-1βにて単核球を前処理した際のTF発現量の解析

IL-1βにて前処理し後続刺激(IgG-aPLs刺激)を行うと,IgG-aPLs単独で刺激した場合に比べて,TFの発現が増加したが有意差はみられなかった。

Mann-Whitney U test:無処理 × IgG-aPLs刺激vs. IL-1β処理 × IgG-aPLs刺激(N.S.

一方,無処理 × 無刺激に比較してIL-1β処理 × 無刺激では,TF発現が増加しなかった。

Mann-Whitney U test:無処理 × 無刺激vs. IL-1β処理 × 無刺激(N.S.

aPLs:抗リン脂質抗体群,TF:組織因子

3. IL-6にて単核球を前処理した際のTF発現量の解析

炎症性サイトカインであるIL-6にて単核球を前処理し後続刺激(IgG-aPLs刺激)を行うと,IgG-aPLs単独で刺激した場合に比べてTFの発現が増加したが,有意差はみられなかった(Mann-Whitney U test, N.S.)(Figure 3)。一方,無処理 × 無刺激に比較してIL-6処理 × 無刺激では,TF発現が増加しないことを確認した(N.S.)。

Figure 3 IL-6にて単核球を前処理した際のTF発現量の解析

IL-6にて前処理し後続刺激(IgG-aPLs刺激)を行うと,IgG-aPLs単独で刺激した場合に比べて,TFの発現が増加したが有意差はみられなかった。

Mann-Whitney U test:無処理 × IgG-aPLs刺激vs. IL-6処理 × IgG-aPLs刺激(N.S.

一方,無処理 × 無刺激に比較してIL-6処理 × 無刺激では,TF発現が増加しなかった。

Mann-Whitney U test:無処理 × 無刺激vs. IL-6処理 × 無刺激(N.S.

aPLs:抗リン脂質抗体群,TF:組織因子

4. IL-10にて単核球を前処理した際のTF発現量の解析

抗炎症性サイトカインであるIL-10による単核球の前処理後,IgG-aPLsにて刺激した単球表面のTF発現をFCMにて定量した。

その結果,IL-10にて前処理し後続刺激(IgG-aPLs刺激)を行うと,IgG-aPLs単独で刺激した場合に比べてTFの発現が有意に減少した(Mann-Whitney U test, p < 0.05)(Figure 4)。一方,無処理 × 無刺激に比較してIL-10処理 × 無刺激では,TF発現が減少しないことを確認した(N.S.)。

Figure 4 IL-10にて単核球を前処理した際のTF発現量の解析

IL-10にて前処理し後続刺激(IgG-aPLs刺激)を行うと,IgG-aPLs単独で刺激した場合に比べて,TFの発現が有意に減少した。

Mann-Whitney U test:無処理 × IgG-aPLs刺激vs. IL-10処理 × IgG-aPLs刺激(p < 0.05)

一方,無処理 × 無刺激に比較してIL-10処理 × 無刺激では,TF発現が減少しなかった。

Mann-Whitney U test:無処理 × 無刺激vs. IL-10処理 × 無刺激(N.S.

aPLs:抗リン脂質抗体群,TF:組織因子

IV  考察

SLEは,多種多様な自己抗体の出現と多臓器病変を特徴とする代表的な全身性自己免疫疾患である。以前よりSLE患者では,脳血管障害や虚血性心疾患などの動脈血栓症や,深部静脈血栓症などの静脈血栓症が好発することが知られていたが10),11),その原因は不明のままであった。近年の研究により,SLE患者における動・静脈血栓症の発症にaPLsの出現が関連していることが明らかとなったが2),4),その詳細な病態発症機序は未だ解明されていない。

SLE患者では,血管炎をベースに血栓性合併症が引き起こされることが知られており12),炎症部位では局所的にサイトカイン等の炎症メディエーターが高値であると推測される。このような炎症性サイトカインや自己抗体の作用により慢性的に単球が刺激されている可能性が示唆される。

本研究は,IgG-aPLsによる単球表面TF発現作用を増幅させる血中因子を探索する目的で実施した。その結果,炎症性サイトカインであるTNF-α・IL-1β・IL-6による前処理後にIgG-aPLs刺激を行うことで,単球表面TF発現が増幅された。単球があらかじめ少量の刺激因子(TNF-αなど)の作用を受けると,プライミング状態になり,続いて異なる刺激因子の作用によりTF発現が亢進したと考えられる。したがって,TNF-αなどの炎症性サイトカインはIgG-aPLsによるTF発現に対してポジティブのプライミング作用を有する可能性が示された。

一方,抗炎症性サイトカインであるIL-10による前処理では,IgG-aPLsによる単球表面TF発現が抑制されたことより,IgG-aPLsに対してネガティブのプライミング作用を有することが明らかになった(Table 1)。

Table 1  抗リン脂質抗体によるプライミングの作用
検体 TNF-α × aPLs-IgG IL-1β × aPLs-IgG IL-6 × aPLs-IgG IL-10 × aPLs-IgG
a PP PP NP
b PP PP PP NP
c PP PP NP
d PP PP NP
e PP PP PP NP
f PP PP NP

PP: Positive Priming, NP: Negative Priming

本研究成果より,TNF-α等の炎症メディエーターが存在することによって単球が持続的に刺激され,加えてaPLsが存在することにより,単球表面TF発現を中心とする血栓形成作用が増幅されると推測できる。また,抗炎症性サイトカインであるIL-10による前処理後にIgG-aPLs刺激を行うことでTFの発現が抑制されたことから,SLE/APS患者の炎症状態をコントロールすることで血栓形成を抑制できる可能性があることが示唆された。

V  結語

抗リン脂質抗体による単球表面TF発現は,APSにおける動・静脈血栓症発症機序の中心的な役割を担っていると推測される。本研究にて明らかにした炎症メディエーターによるTF発現増強作用は,SLE/APSで重篤かつ多彩な血栓性合併症が繰り返し引き起こされるという事象を裏付けるエビデンスである。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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