医学検査
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原著
尿中硝子円柱生成機序の解明
星 雅人宇佐美 真奈鬼頭 慧堺澤 恵子松田 唱吾下山 祐里奈坂野 容菜太田 達也
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2023 年 72 巻 1 号 p. 33-42

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Abstract

尿中硝子円柱は,円柱類の中で最も遭遇する頻度の高いものであり,健常人でも少量認められることがある。尿中硝子円柱の検出は,近年様々な病態の推定に有用であることが報告されているにも関わらず,その生成機序や構成成分については十分に理解されていない。本研究では,試験管内における様々な硝子円柱生成条件の検討とレーザーマイクロダイセクション法を使用した,硝子円柱構成成分の同定を目的とした。硝子円柱は,①pHが酸性,②蛋白質濃度の増加,③尿の濃縮および④24時間の停滞条件において,有意に生成数が増加した。興味深いことに,生成された硝子円柱は鋳型を形成していた。レーザーマイクロダイセクション法により採取された硝子円柱およびろう様円柱を用いて,それぞれ質量分析装置により蛋白質を同定し,比較検討した。両円柱共に,78種類の蛋白質を検出できた。硝子円柱有意に検出された蛋白質は18種類,同程度検出された蛋白質は41種類,ろう様円柱有意に検出された蛋白質は19種類であった。重要なことに,硝子円柱で最も有意に含有された蛋白質はウロモジュリンであった。同定された蛋白質情報に基づき,硝子円柱構成に必要な蛋白質を検討したところ,トランスフェリンの添加により,臨床検体類似の硝子円柱を生成することができた。これらの結果は,硝子円柱出現メカニズムの基礎となるものであり,病態との関係性を理解するために役立つことが期待された。

Translated Abstract

Urinary hyaline casts are the most frequently encountered type of casts and are found in small numbers in healthy individuals. Although the detection of hyaline casts in urine has recently been reported to be useful for the estimation of various pathological conditions, the mechanism of formation and components of hyaline casts are not fully understood. In this study, we investigated various in vitro conditions for hyaline cast formation and used laser microdissection to identify the constituents of hyaline casts. The number of hyaline casts was significantly increased under the following conditions: (1) acidic pH, (2) increased protein concentration, (3) concentrated urine, and (4) 24 hours of stagnation. Interestingly, the generated hyaline casts were formed as a mold. Proteins were identified by mass spectrometry in hyaline and waxy casts collected by laser microdissection. Seventy-eight different proteins were detected in both types of cast. The number of proteins significantly detected in the hyaline casts was 18, the same number of proteins detected in both casts was 41, and the number of proteins significantly detected in the waxy casts was 19. Importantly, the most predominant protein in the hyaline casts was uromodulin. On the basis of the identified protein information, the proteins required for hyaline cast composition were examined, and the addition of transferrin enabled the generation of hyaline casts similar to those found in clinical specimens. These results provide the basis for the mechanism of hyaline cast appearance and may be useful in understanding the relationship between hyaline casts and pathophysiology.

I  はじめに

尿中硝子円柱は,円柱類の中で最も遭遇する頻度の高いものであり,健常人でも少量認められることがある。一方,著者らは硝子円柱の検出が,早期慢性腎臓病(CKD)のマーカーとして有用であることを以前に報告した1)。しかしながら,CKDを始め種々の腎疾患で硝子円柱が出現するにも関わらず,その生成機序や構成成分については十分に理解されていないために,尿中硝子円柱の意義が不明確となっている。多くの成書では,硝子円柱の生成条件として,①原尿流量の低下(停滞),②尿浸透圧の上昇,③アルブミン濃度の上昇および④pHの低下により,ヘンレの係蹄上行脚から分泌されるTamm-Horsfallムコ蛋白(ウロモジュリン)とアルブミンが尿細管腔でゲル化して鋳型生成されると説明されている2),3)。この根拠の一つとして,1962年にMcQueenら4)は,①硝子円柱はアルカリ溶液で溶解すること,②血清アルブミン溶液の添加により,濃度依存的にTamm-Horsfallムコ蛋白が沈殿すること,および③ ②の反応は精製水で最も顕著であり,正常尿では逆に阻害されることを報告している。さらに,Oritaら5)は,抗Tamm-Horsfallムコ蛋白抗体を用いて,尿中硝子円柱にTamm-Horsfallムコ蛋白が含まれていることを蛍光抗体法で証明した。従って,我々が調査した限りでは,実験的に硝子円柱の生成条件を検討した報告やTamm-Horsfallムコ蛋白以外の構成成分についての知見は限定的である。

本研究において,我々は未だ明らかではない硝子円柱の構成成分を同定し,硝子円柱が生成される条件と共にその形態学的特徴を調査した。

II  対象と方法

1. 臨床尿検体

対象は,藤田医科大学病院に外来受診し,尿検査の依頼のあった患者尿および健常者から採取された尿とした。患者尿は,免疫蛍光染色で使用し,それ以外の実験系では健常尿を使用した。尚,本研究は藤田医科大学医学研究倫理審査委員会の承諾を得て実施された(承諾番号:HM21-120)。

2. 硝子円柱生成条件

1) 原尿流量の低下

原尿流量の低下の模倣として,5倍濃縮尿検体(濃縮尿,5 mL)にペニシリン-ストレプトマイシン溶液(富士フイルム和光純薬,以下の条件すべてに添加)を添加した後,37℃で最大48時間反応した。

2) pH条件

濃縮尿検体(5 mL)に塩酸を添加し,pHを4.0,5.0,6.0および7.0に調整し,37℃で24時間反応した。

3) タンパク濃度の検討

濃縮尿検体(5 mL)に健常血清およびアルブミン,γ-グロブリン,トランスフェリン,Cohn Fraction IVを添加し,37℃で24時間反応した。

4) 尿浸透圧の上昇

尿浸透圧上昇の模倣として,Amicon Ultra-3Kを使用し,メーカー推奨プロトコールに従って尿検体中の蛋白質を5倍濃縮し,37℃で24時間反応した。

3. 尿中ウロモジュリンの定量

尿中ウロモジュリンの定量は,メーカープロトコールに従い,ELISA法(MBS2507946, MyBioSource)にて測定した。

4. 腎不全モデルラットの作製

7週齢のオスSDT fattyラットを使用し,9週齢で左腎摘出後,1週間の回復期間を置き,その後飲料水を0.3%食塩水に切り替え,15週間飼育した後に腎不全モデルラットを作製した。藤田医科大学動物倫理規定に基づき,室温,湿度および光量が適切に調整されたクリーンルームで飼育された。飼育後,解剖されたラットより右腎を摘出し,病理用およびレーザーマイクロダイセクション(LMD)用として作製された連続切片標本が提供された(藤田医科大学医学部解剖学II高橋和夫教授のご厚意により提供)。

5. LMD法と円柱含有蛋白質の解析

Figure 1に示すように,腎不全モデルラットから得られた腎組織ブロックから10 μm厚の連続切片を切り出し,LMD専用フィルムスライド(PEN/POL/Director, Leica)に接着後,ヘマトキシリン染色し,LMD(LMD-6000, Leica)により尿細管腔につまった硝子円柱またはろう様円柱を回収した。回収された各円柱は,界面活性剤(PTS Buffer)で処理し,超音波破砕を行った。Micro BCA Protein Assay kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて蛋白質の定量を行い,蛋白量を1 μgに調整した。次に,蛋白質に還元剤(Dithiothreitol)を加え,Indole-3-Acetic Acidと反応させ,トリプシン(0.2 μg/μL,37℃,12時間)で蛋白質を分解後,Pierce® C18 Spin Columns(Thermo Fisher Scientific)を用いて検体の精製を行った。精製検体は質量分析装置(Orbitrap Fusion, Thermo Fisher Scientific)で測定し,データベース(Mascot)を用いて蛋白質を同定した。

Figure 1 Identification of hyalin and waxy cast constituent proteins using a laser microdissection

6. 免疫蛍光染色

尿蛋白陰性尿で硝子円柱を認めた臨床検体を使用した。尿沈渣をPBSで2回洗浄後,G-block(ジェノスタッフ)を用いてブロッキングした(15分間,室温)。次に,1次抗体であるanti-transferrin抗体(sc-365871, Santa Cruz Biotechnology)およびanti-uromodulin抗体(bs-2189R, Bioss Antibodies)を加え,4℃で12時間反応させた。1次抗体反応後にPBSで洗浄し,2次抗体(R&D systems,30分間,室温)を反応させた。2次抗体反応後にPBSで洗浄し,尿沈渣標本を作製し,蛍光顕微鏡(オリンパス)で観察した。画像解析は,OLYMPUS Streamを使用した。

7. 統計解析

統計は,GraphPad Prism software(version 6.0)を使用して解析した。すべてのデータは平均 ± 標準偏差で表された。2群間の比較は,Student’s t-testを使用し,3群以上の比較には,one-way ANOVAを使用した。p値が0.05未満を有意と判定した。

III  結果

1. 硝子円柱の生成条件

原尿流量の低下(停滞)条件の模倣として,図示された条件下で経時的な硝子円柱の生成数を評価したところ,反応後2時間で硝子円柱様の凝集物が観察されはじめ,24時間で最も多く観察された(Figure 2A)。次に,pHの変化による硝子円柱の生成数を評価したところ,酸性条件で有意に生成数が増加し,pH 4.0で最も多く生成された(Figure 2B)。血清蛋白添加による硝子円柱の生成数は,濃度依存的に生成数が増加したが,300 mg/dL以上では濃度依存的な変化を認めなかった(Figure 2C)。尿の濃縮による硝子円柱生成数を評価したところ,5倍濃縮した尿検体では,濃縮前と比較して有意に生成数が増加した(Figure 2D)。尿濃縮処理による尿中ウロモジュリン濃度の変化を2症例で確認したところ,両症例共に濃縮処理により尿中ウロモジュリン濃度が増加していることを示した(Figure 2E)。上述した同様の条件下において,尿検体からPBSに変更したところ,いずれの条件下においても硝子円柱の生成を認めなかった(data not shown)。

Figure 2 Examination of the conditions for generating hyalin casts

A,5倍濃縮された尿検体をpH 5.0に調整し,血清300 mg/dLを添加した条件における,硝子円柱数の経時的変化。

B,5倍濃縮された尿検体に血清300 mg/dLを添加し,示されたpHに調整し,24時間反応後の硝子円柱数。*p < 0.05, **p < 0.01 vs pH 7.0。

C,5倍濃縮された尿検体をpH 5.0に調整し,示された血清濃度を添加し,24時間反応後の硝子円柱数。**p < 0.01 vs 30 mg/dL。

D,濃縮前後の尿検体をpH 5.0に調整し,血清300 mg/dLを添加し,24時間反応後の硝子円柱数。*p < 0.05 vs ×1。

E,異なる2症例の尿検体を使用した,各pHにおける尿中ウロモジュリン濃度の濃縮効果。

2. 生成された硝子円柱の質的変化

前述したように,硝子円柱の生成にはウロモジュリンに加えて,アルブミンなどの血漿由来蛋白が必要である。そこで,同一条件下でアルブミンを添加した群と血清を添加した群における,硝子円柱の生成数および形態学的変化を解析した。アルブミン添加群と比較して,血清添加群では有意に硝子円柱の生成数が増加した(Figure 3A)。さらに,両群共に生成された硝子円柱は鋳型形成していたが,アルブミン添加群では円柱基質が不明瞭であるのに対し,血清添加群では明瞭であった(Figure 3B)。

Figure 3 The hyalin casts observed in vitro are generated as a mold, and the casts show different morphological characteristics depending on the type of protein

5倍濃縮された尿検体をpH 5.0に調整し,アルブミンまたは血清を300 mg/dL添加し,24時間反応後の硝子円柱数(A)と生成された硝子円柱の形態的特徴(B)。

3. 硝子円柱の構成成分解析

硝子円柱の生成や形態は,構成蛋白により異なることから,我々はラット腎不全モデルより得られた連続切片から,LMD法を用いて硝子円柱またはろう様円柱を選択的に採取し,質量分析装置により解析した。すなわち,両円柱を比較解析することにより,硝子円柱に特異的な蛋白と共通する蛋白を弁別できることが期待される。Figure 46に示すように,両円柱ともに78種類の蛋白質を検出できた。硝子円柱有意に検出された蛋白質は,含有率の多い順にリスト化された18種類,同程度検出された蛋白質は41種類,ろう様円柱有意に検出された蛋白質は,含有率の少ない順にリスト化された19種類であった。とりわけ,硝子円柱で最も有意差をもって含有していた蛋白質はウロモジュリンであった。さらに,円柱構成蛋白として重要と考えられているアルブミン,一部のグロブリンやトランスフェリンは,両円柱に同程度含まれていた。これらの結果は,ウロモジュリンが硝子円柱を特徴づける重要な蛋白であることを示唆している。

Figure 4 List of proteins significantly detected in hyalin casts

Abundances, Found in samples:(左)硝子円柱,(右)ろう様円柱

Figure 5 List of proteins detected equally in hyalin and waxy casts

Abundances, Found in samples:(左)硝子円柱,(右)ろう様円柱

Figure 6 List of proteins significantly detected in waxy casts

Abundances, Found in samples:(左)硝子円柱,(右)ろう様円柱

4. 同定蛋白による硝子円柱の生成

検出された78種類のそれぞれの蛋白を使用した硝子円柱の生成を検討することは困難なため,我々はまず,アルブミン,α-およびβ-グロブリンで主構成されるCohn Fraction IV,γ-グロブリンおよびトランスフェリンを用いて硝子円柱構成に重要な蛋白質を分画別にスクリーニングした。これらの各蛋白を組み合わせ,生成された円柱を観察したところ,Cohn Fraction IVを含む組み合わせでは,ろう様円柱様の成分が観察されたが,含まない組み合わせでは,硝子円柱様の成分が観察された(Figure 7A)。次に,硝子円柱の生成に関与した組み合わせの蛋白質をそれぞれ単一で添加したところ,いずれの蛋白質においても硝子円柱を生成することができた(Figure 7B)。しかし,アルブミンおよびγ-グロブリン添加により生成された硝子円柱形態は,臨床検体から得られた硝子円柱と比較して,基質が薄く不明瞭であった。一方,トランスフェリン添加により生成された硝子円柱は,臨床検体で認められる硝子円柱に酷似していた。実際,異なる2症例の尿検体より検出された硝子円柱を用いて,抗uromodulin抗体および抗transferrin抗体による免疫蛍光染色で発現を確認したところ,両症例共に硝子円柱内にウロモジュリンとトランスフェリンの発現が確認された(Figure 8)。

Figure 7 Transferrin is an important protein for hyalin cast formation

A,5倍濃縮された尿検体をpH 5.0に調整し,示された混合タンパク質(各250 mg/dL)を添加し,24時間反応後に生成された円柱の形態的特徴。

B,5倍濃縮された尿検体をpH 5.0に調整し,示された単一タンパク質(各250 mg/dL)を添加し,24時間反応後に生成された円柱の形態的特徴。

Figure 8 Detection of transferrin in hyalin casts obtained from clinical specimens

尿定性アルブミン陰性患者尿中に認められた硝子円柱におけるトランスフェリンとウロモジュリンは,免疫蛍光染色法により検出された。

5. 硝子円柱生成におけるトランスフェリンの影響

トランスフェリン量と硝子円柱の生成数および形態学的所見の関係を調査するために,図示された濃度のトランスフェリンを添加した。トランスフェリンの量は,硝子円柱の生成数(Figure 9A)および形態学的所見(Figure 9B)に影響を与えなかった。

Figure 9 Transferrin concentration does not affect the number of hyalin casts

5倍濃縮された尿検体をpH 5.0に調整し,示された濃度のトランスフェリンを添加し,24時間反応後の硝子円柱数(A)と生成された硝子円柱の形態的特徴(B)。

IV  考察

本研究では,未だ実験的には明らかにされていなかった硝子円柱の生成条件と硝子円柱の構成成分について初めて明らかにした。さらに,硝子円柱を生成する上で,ウロモジュリンとトランスフェリンが重要な因子である可能性を示した。

ウロモジュリンは健常尿中に最も豊富に含まれる蛋白質であり,ヒトでは約50 mg/day程度排泄され,多くの哺乳動物の尿中に存在するものである6)。いくつかの研究では,ウロモジュリンの特徴として,0.1 mol/L付近の塩化ナトリウム濃度であることやpHが酸性条件でゲル化/凝集する傾向があること7),アルブミンおよびIgGは,ウロモジュリンと高い親和性で結合し,沈殿することが報告されている4),8)。このことは,我々の試験管内における硝子円柱生成結果を裏付けるものである。すなわち,硝子円柱生成条件として①原尿流量の低下(停滞),②尿浸透圧の上昇,③アルブミンを含む蛋白質濃度の上昇および④pHの低下が重要であることを示唆している。

近年,ウロモジュリンは様々な疾患のバイオマーカーとして注目されている。例えば,尿中ウロモジュリン量の低下は,CKD患者における急速な腎機能の低下と関連することや,AKIの発症リスクが高くなることが報告されている9),10)。一方で,ウロモジュリン過剰発現マウスおよびヒトUMOD遺伝子バリアントでは,腎臓のNKCC2活性化を通して,塩分感受性高血圧を引き起こし,多数の円柱形成を伴う高血圧とCKDのリスク因子であることが示された11)。このように,尿中ウロモジュリン量は腎機能を反映するバイオマーカーとして重要と考えられるが,疾患や病期に応じた尿中ウロモジュリン量の変化が不明であることや現状では臨床現場で測定されるまでには至っていない。この点について,本研究では尿中ウロモジュリン量の増加に伴い,硝子円柱数が増加することを示した。さらに,LMD法による質量分析結果から,ウロモジュリンは硝子円柱を構成する主成分であることを明らかにした。したがって,尿沈渣中に見られる硝子円柱は,尿中ウロモジュリン量をある程度反映するものであり,高血圧患者におけるCKD診断や治療戦略に役立つマーカーになるかもしれない。実際,高血圧患者における硝子円柱の出現数は,eGFRと負の相関があることを我々は以前に報告している1)。しかし,硝子円柱の意義を明確にするには,さらなる大規模な調査が必要と考えられる。

本研究では,生成された硝子円柱形態についてもまた,臨床検体と比較検討された。重要なことに,硝子円柱は試験管内であっても,形成する過程で鋳型となることを示した。従って,円柱の鋳型形成は,尿細管腔における構造的な形成だけではなく,ウロモジュリンと蛋白が重合する過程でもまた形成されることを示している。また,アルブミンやγ-グロブリンで生成したものより,硝子円柱とろう様円柱両方で同定されたトランスフェリンにより生成した方が臨床検体と酷似した形態であることを示した。トランスフェリン量の増加は,硝子円柱の生成数に影響しなかったが,重要なのは極めて微量のトランスフェリンで臨床検体同様の形態を示す硝子円柱を生成することができたことである。尿蛋白または尿アルブミン陰性患者において,硝子円柱が大量に出現する症例をしばしば経験するが,これらの結果は,本出現メカニズムを理解する契機となるかもしれない。トランスフェリンは,分子量がアルブミンと同等であるが,アルブミンより陰イオン性が低く,糸球体でより容易にろ過される。実際,糖尿病患者では,微量アルブミン出現よりも早期にトランスフェリンの排泄が増加することが複数報告されている12)‍~‍14)。すなわち,早期腎障害により尿中トランスフェリンが排泄され,ウロモジュリン量に相関して硝子円柱数が変化することが推察される。しかしながら,本研究結果で示したように,トランスフェリン以外の蛋白質であってもウロモジュリンと結合し,様々な形態的特徴の硝子円柱を生成することが可能であった。これらの結果は,鏡顕等により硝子円柱を判定するための根拠となるものであり,同時に硝子円柱と判定しているが,構成蛋白質は異なっている可能性があることを示唆している。

本研究にはいくつかの制限がある。1つ目は,直接的にウロモジュリンとトランスフェリン等の反応によって,硝子円柱の生成機序が評価されていない。2つ目は,ウロモジュリンと結合する蛋白質がどのような化学反応により硝子円柱を形成するのか明らかにできていない。今後さらなる研究により,硝子円柱の臨床的意義が明確になると考えられる。

V  結語

本研究では,硝子円柱の生成機序と構成成分について,その一端を解明した。尿沈渣検査は最も古い臨床検査の一つであるが,出現成分と臨床的意義の関係が不明なものが多い。今後基礎的な研究により,尿沈渣成分の出現メカニズムや形態的変化を理解することで,様々な疾患の診断や予後予測マーカーとなる可能性があり,スクリーニング検査として高い評価が得られることが期待された。

COI開示

本研究はシスメックス株式会社から資金提供を受けて実施された。

謝辞

本研究遂行にあたりご協力いただいた,藤田医科大学大学院保健学研究科大学院生および同医療科学部卒論生,ならびに鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科臨床検査技師コースの卒論生全員に深謝致します。

文献
 
© 2023 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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