医学検査
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症例報告
メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患患者の尿沈渣中に異型細胞を認めた1症例
永川 翔吾酒井 瑠美子石川 道子嶋田 裕史小川 正浩
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2023 年 72 巻 2 号 p. 294-300

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Abstract

関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)患者においてメトトレキサート(methotrexate; MTX)は高い有効性のある薬剤であるが,その一方で様々な副作用も存在する。その一つとしてリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disorders; LPD)が知られており,MTXを中止することで病変部が消失するという特異な特徴がある。今回我々はMTX使用中のRA患者にLPDが発症し,患者尿中に造血器腫瘍由来と思われる異型細胞を認めた症例を経験した。MTX-LPDにおいて腎臓での発症例の報告は極めて少なく,患者情報,背景の確認が重要となった症例であった。

Translated Abstract

Although methotrexate (MTX) is a highly effective drug in rheumatoid arthritis (RA) patients, it also has various side effects. Lymphoproliferative disorders (LPDs) are one of them, and they have a unique feature of disappearing when MTX is discontinued. We encountered a case in which LPD developed in an RA patient who was using MTX, and atypical cells that were considered to be derived from hematopoietic tumors were found in the patient’s urine. There have been very few reports of MTX-LPD onset in the kidney, and it was important to confirm the patient’s medical information and background.

I  はじめに

関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)患者においてメトトレキサート(methotrexate; MTX)は高い有効性のある薬剤であるが,その一方で様々な副作用も存在する1)。その一つとしてリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disorders; LPD)が知られている。1991年にEllmanら2)がメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate associated-lymphoproliferative disorders; MTX-LPD)に関して報告して以降,特に本邦において多数報告がある。発生部位は節外部位では肺>骨髄>消化管>皮膚>脊髄>肝臓などの順で多いが3),腎臓に発症している報告は極めて少ない4)。今回RAの基礎疾患があり,MTXを使用していた患者にLPDが発症し,腎門部に病変の浸潤をきたしたことで,尿沈渣中に造血器腫瘍由来と思われる異型細胞を認めた症例を経験したので報告する。

II  症例

患者:68歳,女性。

病歴:20XX − 10年にRAのため当院整形外科に初来院し,MTX + PSL(プレドニン)の使用を開始した。使用量は患者の状態に合わせながら増減はあったが,この2薬剤をベースに治療が行われていた。20XX − 1年11月,全身倦怠感や食欲不振,リンパ節腫大を認めたことで,MTX-LPDが疑われMTXの内服を中止した。その後,全身倦怠感や食欲不振が改善されたため経過観察となった。しかし,20XX年2月より全身倦怠感が再燃。左頸部リンパ節生検が施行され,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma; DLBCL)と診断,同年3月に病状悪化により緊急入院となった。

III  入院時検査所見(Table 1)
Table 1  入院時検査所見
血液検査 生化学検査 尿定性検査
WBC 20.9 × 103/μL TP 5.3 g/dL LD 812 U/L 潜血 (2+)
RBC 3.38 × 106/μL Alb 2.8 g/dL Amy 13 U/L 白血球 (3+)
Hb 9.2 g/dL CRP 28.25 mg/dL sIL-2R 7,838 U/mL 亜硝酸塩 (−)
Plt 211 × 103/μL UN 41 mg/dL EBVDNA定量 2 × 102 コピー/mL 尿沈渣
白血球分類 Cre 2.14 mg/dL 赤血球 5–9/HPF
Band 3.0% UA 12.0 mg/dL 白血球 > 100/HPF
Seg 96.0% T-Bil 1.7 mg/dL 細菌 (3+)
Lympho 0.5% Glu 143 mg/dL 異型細胞疑い
Mono 0.5% AST 87 U/L
異常細胞の出現なし ALT 43 U/L

血液学検査ではWBC 20.9 × 103/μL,RBC 3.38 × 106/μL,Hb 9.2 g/dL,Plt 211 × 103/μL,白血球分類では異常細胞は認められなかった。生化学検査ではCRP 28.25 mg/dL,UN 41 mg/dL,Cre 2.14 mg/dL,UA 12.0 mg/dL,LD 812 U/L,sIL-2R 7,838 U/mLと高値であった。尿定性検査では潜血(2+),白血球(3+),亜硝酸塩(−)。また,尿沈渣検査では白血球 > 100/HPF,細菌(3+)と尿路感染症の所見に加えて,その中に造血器腫瘍由来と思われる異型細胞を認めた。

IV  細胞形態

1. 無染色およびSternheimer(S)染色(尿沈渣検体)

炎症性背景の中にN/C比が高く,核形は不整で核小体明瞭な細胞が認められた(無染色:Figure 1A,S染色:Figure 1B)。

Figure 1 尿沈渣所見

A:無染色,B:Sternheimer染色,C:MG染色,D:Papanicolaou染色

(全て×400,四角内は同倍率を拡大したもの)

2. May-Giemsa(MG)染色(尿沈渣検体)

大型でN/C比が高く,空胞を伴った細胞が認められた(Figure 1C)。

3. Papanicolaou染色(尿沈渣検体)

核形は不整で核小体明瞭な細胞が認められた(Figure 1D)。

4. 病理組織所見(左頸部リンパ節)

CD10(+),CD20(+),Epstein-Barr Virus encoded small RNA(EBER)は極少量陽性細胞があり,腫瘍細胞のKi-67 labeling index(MIB1)陽性率は80%であった(Figure 2)。

Figure 2 病理組織学検査(左頸部リンパ節)

A:大型の異型リンパ球がびまん性に増殖(×200,四角内は×400)

B:大型の異型リンパ球はCD20陽性(×200)

C:大型の異型リンパ球はCD10陽性(×200)

D:EBER陽性細胞は極少数見られる(×200,四角内は×400)

E:腫瘍細胞のMIB1陽性率80%(×200,四角内は×400)

V  CT画像検査

左頸部,左腋窩,縦隔および腹部傍大動脈領域,骨盤内,肝門部にリンパ節腫大を認めた。また,左腎門部にも軟部影が及んでおり,境界不明瞭なことから病変の浸潤が疑われた(Figure 3)。

Figure 3 CT画像検査

左腎は境界不明瞭であり,病変の浸潤が疑われる。

VI  経過

MTX-LPD の可能性が示唆されて以降,RAに関してはおよそ10年間使用していたMTXを中止して,PSLのみを継続した。また尿路感染症に関しては入院1日目よりセフメタゾール(CMZ)の投与が開始された。CMZの投与を10日間行い,尿路感染症も改善されたため,その後DLBCLに対するリツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン療法(R-CHOP療法)が開始された。治療経過とともに全身リンパ節が縮小し,尿沈渣中の異型細胞も消失していった。また,4カ月後のPET-CTでは全身のリンパ節の縮小が確認できた。

VII  考察

1991年にEllmanら2)がMTX-LPDに関して報告して以来,特に本邦において多数報告があり,その病態も様々である5)。MTX-LPDについては2001年のWHO分類に収載されて以降6),2017年のWHO分類改訂第4版においても他の医原性免疫不全症関連リンパ増殖性疾患(other iatrogenic-immunodeficiency associated lymphoproliferative-disorders; OIIA-LPD)として記載されている7)。この疾患の特徴の一つとして,MTXを中止することで病変が消失することが挙げられる。得平らの報告3)ではMTX中止のみで約2/3の患者で病変が消失したとある。しかし本例ではMTX中止後,一時は全身倦怠感や食欲不振が改善されたが再燃し,生検を施行した結果DLBCLの診断を得た。MTX中止によって病変が消失するものと消失しないものには様々な要因が関係していることが提唱されているが,明確な原因は未だ解明されていない3),5),8)。今回,特に関連している可能性が高いと示唆されている,末梢血リンパ球絶対数(absolute lymphocyte count; ALC),LD,CRP,sIL-2Rの4項目3),5)のうち,継続して測定していた3項目(ALC,LD,CRP)の推移を後方的視点より確認した(Figure 4)。得平ら3)はALCは,LPD消退群ではLPD発症に向かい徐々にALCが減少する一方で,MTX中止によりALCは著明増加すると解析している。本例もLPD発症が近づくにつれて減少は見られたが,MTX中止ではALCの増加は認められず,R-CHOP療法後に増加したため,LPD消退群には該当せず,また尿路感染症も併発していたため,真の経過は辿れなかった。尿路感染症が発症した原因としては,腫瘍が浸潤したことでリンパ節腫脹をきたし,尿管閉塞が生じたためであると考えられた。LD,CRPに関しては,全身倦怠感などの症状が確認されてから病状が悪化した,20XX − 1年11月~20XX年3月までの結果を確認した。LDが平均456 U/L,CRPが平均9.64 mg/dLと,得平ら3)が報告している再燃・再発群~残存群の中央値に該当した。また,吉原ら9)はsIL-2Rの値でLPD予後良好群(MTX中止のみで寛解しかつ再発を認めないもの)とLPD予後非良好群に分類しており,sIL-2Rが予後予測のマーカーになり得ると報告している。本例の数値は予後非良好群に該当しており,今回の経過とも合致していた。以上より継続的に確認できた3項目(ALC,LD,CRP)とポイント的ではあるがsIL-2Rの値を確認することで,解析報告があるようにこれらの項目は予後予測の一つの目安になる可能性が考えられた。さらにMTX-LPDではEpstein-Barr Virus(EBV)陽性例が多いことが報告されている。MTX使用による免疫機能の低下によってEBVが再活性化し,LPDが発症する可能性が指摘されている10)。本例も極少量ではあったがEBERが陽性であり,ウイルス量も2 × 102 コピー/mL(基準値:2 × 102 コピー/mL未満)と微増していたためEBVとの関連も考えられた。しかし,EBVの確認はできたが微量であり,今回の1症例のみであったためEBVがどれだけLPD発症に関与していたかは不明であった。今回多数のリンパ節腫大があり,腎門部への病変の浸潤もあったことで,尿沈渣中に異型細胞が認められたと考えられる。通常,尿沈渣検査でみられる異型細胞の多くは上皮性悪性細胞(主に尿路上皮癌)であり,非上皮性悪性細胞の出現頻度は低い11)。今回末梢血標本中に異常細胞の出現が認められず,尿沈渣中にのみ造血器腫瘍由来と思われる異型細胞を確認できたことで,腎臓にまで病変が浸潤している可能性があることを迅速に臨床へ情報提供できたと考えられた。

Figure 4 経過

VIII  まとめ

尿検査は侵襲性が少なく,スクリーニング検査として広く用いられている。しかし,時に尿沈渣中に異型細胞やその他様々な細胞の出現に遭遇することがある。そのような細胞に最初に気付くことができるのが臨床検査技師であり,臨床へ迅速に情報を提供する重要な役割を担っている。今回RAの基礎疾患があり,MTXを使用していた患者にLPDが発症し,尿沈渣中に造血器腫瘍由来と思われる異型細胞の出現を認めた症例を経験した。現在MTX-LPDに関する症例が多数報告されている中で,病変が腎臓に浸潤し,さらに尿沈渣中に異型細胞が出現している報告は,我々の調べうる限り発見することができなかった。今回尿沈渣検体での免疫染色等は施行されていないが,その他の標本の所見や画像検査,患者背景等から造血器腫瘍由来と思われる異型細胞の可能性が考えられた。改めて患者背景を知ることの重要性や,尿沈渣に出現する細胞は多岐にわたるということを再認識できたと共に,1例ではあるが本例が少しでもMTX-LPDの原因解明の一助になればと考える。

なお本論文の要旨は第55回九州支部医学検査学会にて発表した。また,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針ガイダンス」(令和3年4月16日)の第2 用語の定義より,本症例報告はこの指針でいう「研究」に該当しないため,倫理審査は受けていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2023 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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