2023 年 72 巻 2 号 p. 264-271
【はじめに】輸血関連情報カード(以下,カード)は臨床的意義のある抗体を保有する患者に対してその旨を記載したカードを発行し携帯させることで遅発性溶血性輸血反応防止に役立つ。カード導入にあたり,タスク・シフトの一環として検査技師がカード説明をすることを輸血療法委員会へ提案し承認された。導入に至る経緯,準備,導入後の実績について報告する。【決定事項】1.カードは輸血部門システムより発行。2.説明場所は外来時に検査説明室で実施。3.患者誘導方法は患者案内表に表記。4.対象は,カード導入後に不規則抗体検査を実施した患者。【実績】2020年7月から2021年12月において,説明実施50名,説明不可能13名,説明未実施2名であった。期間中に他施設のカードの提示を受けた事例はなかった。対象者の診療科は10診療科であった。【考察・結論】期間中,他院からのカード提示を受けたことはないが医師や看護師のカード認識不足から輸血部門に情報伝達がなされていない可能性もあるため,スタッフへの啓発活動を広める必要がある。対象者の診療科は多岐にわたり検査技師が説明することでカードの意義を適切に伝えることができ,効果的な活用に繋がると考える。カード説明は現行制度下で実施可能な業務であり,タスク・シフトの観点からも検査技師が積極的に参画すべき業務である。
Issuing transfusion-related information cards to patients with clinically significant antibodies, which they should carry at all times, is useful for preventing delayed hemolytic transfusion reactions. The Transfusion Therapy Committee approved a proposal to have medical technologists (MTs) explain the introduced card as part of their task shift. The background, preparation, and results of the introduction of the card will be reported. Cards were issued through the transfusion system. Explanations are given in the examination room during outpatient visits. Patient guidance is indicated on the patient information sheet. Patients who underwent irregular antibody tests after the introduction of the system were included. From July 2020 to December 2021, explanations were given to 50 patients, explanations could not be given to 13 patients, and two patients were scheduled for explanations. No patient was presented with a card from another hospital during this period. The patients belonged to 10 different departments. Although there were no patients who presented cards from other hospitals, it is possible that the information was not communicated to the transfusion department because its staff did not recognize the cards. The target patients belonged to different departments, and it is considered that the explanation provided by MTs will appropriately convey the significance of the card and lead to its effective utilization. Explanation of the card is a task that can be performed under the current system, and from the perspective of task shifting, MTs should actively participate in this task.
「輸血療法の実施に関する指針」や「赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン(改訂3版)」では,輸血関連情報カード(以下,カード)の作成・発行を推奨している1),2)。カードを活用することで,遅発性溶血性輸血反応防止や輸血情報がないことに起因する輸血開始の遅延防止に有用である。また,2017年には,日本輸血・細胞治療学会から「輸血関連情報カード」発行アプリが公開されている3)。
カードを作成・発行している施設からの報告はあるが4)~6),検査技師によるカード説明の実施についての報告は,筆者の調べた限りでは一編のみであった7)。
また,昨今,医師の働き方改革を推進するため,医師業務のタスク・シフト/シェアが求められている8)。当院では,カードを新規導入するにあたり,タスク・シフトの一環として検査技師によるカード説明を開始した。
カード導入に至る経緯,準備,導入後の実績について報告する。
当院は,愛知県尾張北部医療圏の高度救急救命を担う中核病院である。病床数は520床。標榜診療科は血液内科,心臓血管外科,産婦人科など32診療科である。血液製剤使用量は,赤血球製剤7,802単位,血漿製剤2,872単位,血小板製剤12,635単位(2021年)である。輸血部門は臨床検査科に属し,臨床検査技師は専任3名体制である。2020年12月より臨床検査科が二交代勤務体制となり,8割以上の日数で日常業務を2名で遂行している。そのためマンパワー不足が懸念されるが,他の検査部門と同一フロアであるため,要員の融通を利かして運用している。
電子カルテシステムは,HOPE LifeMark-HX(富士通株式会社),輸血部門システムは,BTDX(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)を使用している。
2. カード導入に至る経緯当院では,不規則抗体を保有している転院患者において,その情報の提供がなかったことにより,抗体同定に苦慮し輸血開始までに時間を要した事例を経験した。過去の経験を踏まえて,カードの作成・発行することを輸血検査室から輸血療法委員会へ提議した。カード導入は,新規診療業務となり,カード説明を開始することにより,医師・看護師の業務負担が増加すると予想された。医師・看護師の業務負担軽減のため,タスク・シフトの一環として,臨床検査技師によるカード説明を提案し承認された。輸血関連情報カードは,不規則抗体情報だけでなく輸血検査に影響を及ぼす投薬歴や移植歴などの情報も共有するものではあるが,新規導入のため,カード発行対象者を不規則抗体保有者に限定して開始することとした。
日本輸血・細胞治療学会からもカード作成アプリが公開されているが,当院では輸血部門システムBTDXのアドイン機能「輸血関連情報カード印刷」を使用した。システムを使用することで,不規則抗体スクリーニングが陽性であった患者を漏れなく抽出することが可能である。システムに登録されている患者名,抗体名,抗体検出日,最新輸血日がカードに印字されるため,誤入力・誤登録等による患者誤認のリスクは限りなくゼロとなった。
カードはラミネート加工し,携帯しやすいように名刺大サイズに裁断した(Figure 1)。
オモテ面に患者名,抗体名,抗体検出日,ウラ面にカードの注意点などが記載されている。
カード説明のオペレーションをわかりやすくするため,説明は外来受診時に実施することで統一した。入院中検査で抗体陽性と同定された患者への対応は,退院後の外来受診時に実施することとした。
説明場所は,中央採血室併設の検査説明室で実施した(Figure 2)。
採血室の隣に検査説明室が併設されている。
患者が外来受診後に漏れなく検査説明室に立ち寄ってもらうために,カード説明の検査オーダーを新設し,外来受付時に患者に発行される受付票(スケジュール表)にカード説明の予定を表記させた。蓄尿検査や便中ヒトヘモグロビン検査の検査説明のために既に運用していた既存の「持ち帰り検査」の説明オーダーを活用することにより,システム改修によるベンダーへのカスタマイズ費用が発生することなく,患者受付票への表記を可能とした(Figure 3)。
受付票(スケジュール表)に,受付場所及び内容が記載される。
受付票には実施場所が中央採血室と表記されるため,患者を中央採血室(検査説明室)受付へ誘導することが可能となった。電子カルテへのオーダー入力は医師の検査オーダー入力の負担を軽減するため,臨床検査技師による代行入力とした。電子カルテの掲示板機能(患者ごとのスタッフ向け伝言板)を活用し,担当医へ患者に診察終了後に中央採血室へ来室する旨を伝える書き込みを行った(Figure 4)。また,診察終了後に中央採血室受付までの患者誘導を円滑にするため,診察日前日に臨床検査技師が外来部門へ電話連絡を実施することにした。
電子カルテ掲示板には,不規則抗体陽性のためカードを発行すること,検査結果は医師から患者へ伝えること,カード説明は検査技師が実施すること,診察終了後に患者に採血室(検査説明室)に来訪するように伝えることを記載している。
輸血療法委員会で,検査に対する結果説明は医師が行うべきと決定された。はじめに,医師が不規則抗体陽性であることを患者に説明したのちに,不規則抗体に関する事項を含めてカード説明を臨床検査技師が行うこととした。
5. カード説明方法及びカード説明時の留意点について当日のカード説明の流れは,患者が中央採血室受付に到着すると,受付事務より輸血検査室へ連絡が入る。輸血検査担当者が中央採血室へ出向き,検査説明室へ呼び込みをする。本人確認を行った後,患者にカード及び日本輸血・細胞治療学会が公表している患者向けのカード説明文書を手渡し,PowerPointで作成したスライドを用いてカード説明を実施する。説明の構成内容は,「はじめに(血液の成分について)」,「輸血が必要な時(輸血療法について)」,「輸血検査について」,「ABO血液型について」,「ABO以外の血液型について」,「規則抗体と不規則抗体について」,「不規則抗体による副反応について」,「副反応を回避するために」,「患者に協力してほしいこと」,「最後に」の10テーマで,15分程度の時間をかけて説明を実施している(Figure 5)。
PowerPointを用いて,1テーマにつき,スライド1枚で簡潔に説明。
説明後は患者に対し,スライド内容,カード全般について疑問点がないかを確認し,カード説明を終了している。カード説明時は,不規則抗体を保有していることと患者の病気とは関連がないということをお伝えし,患者の不安を煽らないように留意している。
6. カード導入以前に不規則抗体陽性と同定された患者への対応についてカード説明を実施するにあたり,前もって医師が患者に検査結果を伝える必要があるため,カード導入後に不規則抗体スクリーニングを実施した患者を対象とした。遅発性溶血性輸血反応を回避するため,最新の不規則抗体スクリーニングが陰転化した場合もカード説明の対象とした。
カード導入した2020年7月から2021年12月までの期間において,不規則抗体陽性として報告した患者は65名,内50名(76.9%)にカード説明を実施した。
説明実施不可能であったのが13名(20.0%),期間中に調整ができなかった説明未実施は2名(3.1%)であった(Figure 6)。
説明実施が76.9%,説明不可能が20.0%,説明未実施が3.1%であった。
説明実施不可能であった理由は,死亡退院が8件,転院が3件,患者の使用言語の問題により医師が不要と判断したものが1件,患者都合による未来院が1件であった。
また期間中に患者から他院発行のカード提示を受けた事例はなかった。
説明患者の患者属性は男性12名,女性38名であった。年齢は29歳~92歳(平均66歳)であった(Figure 7)。
60歳代以上が全体の半数以上(62%)であった。
診療科別では,整形外科14名,外科10名,血液内科9名,産婦人科6名,泌尿器科3名,他科8名であった(Figure 8)。
説明対象となった患者の受診科は,多岐にわたっている。
カードを発行するにあたり,患者情報の誤記載は起きてはならない。当院では輸血部門システムを活用することでカードへの患者情報の誤記載のリスクをゼロにすることができた。
また,カードには個人情報が含まれているため,カードの適切な取り扱いや説明時の周辺環境への配慮が求められる。カード説明を外来受診時のみとし,検査説明室で実施する運用としたことは,患者のプライバシー保護の観点から有用であったと考える。
患者受付票にはカード説明の予定を表記しているが,それに加えて,説明日前日に外来部門に電話連絡を行うことで,当日の患者案内が円滑になるだけではなく,院内医療スタッフへのカード認知度向上に繋がると考えている。
遅発性溶血性輸血反応防止の観点から,以前に抗体陽性と判定され,最新検査日では検出感度未満となった患者も説明対象としている。不規則抗体は時間経過とともに抗体価が低下することが知られており,二次免疫応答による遅発性溶血性輸血反応を引き起こす可能性がある9)。多くの施設がカードを導入することで遅発性溶血性輸血反応の防止に繋がるため,地域連携を軸としたカード普及の推進が必要であると考える。そのため,都道府県技師会主催の研修会や地区単位での勉強会,合同輸血療法委員会等での活動を通じたカードの普及が急務である。
導入後の実績について,説明不可能であった患者のうち,死亡退院を除く患者が5名いた。今後は,退院後一度も再受診しない患者や日本語でのコミュニケーションがとれない患者に対して,どのような説明の機会を設けるかが課題である。病診連携室との連携や説明文書の英語版,また地理的にポルトガル語を母国語とする患者が多いためポルトガル語版を作成することで対応を進めたいと考えている。
カード説明を開始して以降,2021年12月までに50名の患者に説明を実施してきたが,愛知県内でのカード普及率が低いこともあり10),他院で発行されたカードの提示を受けた事例には遭遇していない。しかしながら,カードの提示を受けても主治医あるいは看護師のカードへの認識不足から,その情報が輸血部門に伝達されていない可能性もある。そのため,カードを有効活用するためには患者へのカード説明のみならず,院内の医療スタッフに対しても,周知を広める必要がある。月一回発行している職員向け輸血広報誌に取り上げることでカードの啓発活動に努めていきたい。また,カードの提示を受けた際の輸血対応においては,カード情報はもとより,当院での不規則抗体スクリーニングの結果,3か月以内に輸血歴がないことを確認したうえで実施した患者赤血球抗原検査結果を踏まえ,総合的に評価して安全な製剤選択を行っていくべきと考えている。
カード説明を実施した患者の半数以上が高齢者であった。高齢者では視覚機能や聴覚機能の低下を認めることが多いため,カード説明に際して,パソコンの表示をできる限り大きくしたり,患者の反応を確認しながら説明したりすることが必要であると考える。また輸血の頻度が多い血液内科だけではなく,整形外科,外科など多くの診療科の患者に対してもカード説明を実施した。主治医が必ずしも輸血療法,特に輸血検査に精通しているとは限らない。臨床検査技師がカード説明を実施することで,カードの意義を適切に患者に伝えられることになり,カードの効果的な活用に繋がると考える。
令和元年より,医師の労働時間短縮・健康確保と必要な医療の確保の両立という観点から,厚生労働省において,医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会が開催され,令和2年12月に議論の整理として,法令改正を行いタスク・シフト/シェアを推進する業務と現行制度下で実施可能な業務が公表された8)。
医師または看護師が実施している業務の一部が法令改正により,臨床検査技師などの他の医療スタッフに移管可能となり,現在,各都道府県技師会にて講習会が開催されている。また現行制度下でも実施可能とされる業務のうち,輸血関連業務には「輸血に関する定型的な事項や補足的な説明と同意書の受領」「血液製剤の洗浄・分割,血液細胞(幹細胞等)・胚細胞に関する操作」がある。現在,医療現場が抱えるタスク・シフト/シェアは喫緊の課題であり,現行制度下で実施可能な業務は特に推進すべきである。とりわけ,カード説明は輸血検査技師の専門分野であり,積極的に関わることが可能である。輸血チームの一員として臨床検査技師がカード説明を担うことで,タスク・シフト/シェアの業務移管を前進させる足掛かりになり得ると考える。
輸血関連情報カードを効果的に活用し,遅発性溶血性輸血反応防止に繋げていくためには輸血検査に精通した臨床検査技師がカード説明すべきであり,タスク・シフト/シェアへの始めの一歩として,我々が積極的に参画すべき業務であると考える。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。