2023 年 72 巻 3 号 p. 458-464
神経耳科学的検査の結果,上半規管裂隙症候群(superior canal dehiscence syndrome; SCDS)の診断に至った1例を経験したので報告する。SCDSはCTにて上半規管瘻孔の有無を確認することで,疾患を疑うことが可能であるが,上半規管の骨菲薄化は,健常人でも加齢に伴い生じることがある。そのため骨欠損が疑われても,実際は薄い骨壁に覆われており骨欠損が存在しないこともあるため,CTだけでは診断に至らない。症例は40代女性,2年前より耳閉感・聴覚過敏症状があり,複数のクリニックを受診し,耳管開放症と診断された。加療されるも改善に乏しく精査・加療目的にて当院へ紹介された。CTでは両側に上半規管の一部骨欠損を疑う所見を認めた。聴力検査では低音域で軽度の伝音難聴を認めた。耳管機能検査では正常型を呈し,Valsalva刺激による眼振検査では下眼瞼向き垂直性および時計回りの眼振を認めた。また前庭誘発筋電位検査(vestibular evoked myogenic potential; VEMP)では左側の振幅増大ならびに閾値の低下を認めた。よって,各種検査結果を総合的に判断し,左上半規管裂隙症候群と診断された。本症例のように,耳閉感・聴覚過敏症状が続くような場合は,潜在的SCDSを念頭に,CT施行前に各種神経耳科学検査を施行することは簡便で侵襲性も少なく診断に至る過程として有用と考える。