【目的】パラフィン包埋(FFPE)組織を用いた核酸増幅検査はカラム法での核酸抽出が煩雑で時間を要するため,実臨床であまり実施されないのが現状である。我々はFFPE組織からPCR法による抗酸菌検出・同定を試み,Zirconia beadsによる核酸抽出法(ビーズ法)の有用性についても検討した。【方法】培養,Ziehl-Neelsen(Z-N)染色ともに陽性の11例,培養,Z-N染色ともに陰性の35例に対して,カラム法にてMycobacterium tuberculosis(MTB),Mycobacterium avium(MAV),Mycobacteriumintracellulare(MIN)のPCR法による検出を実施した。また同症例に対してビーズ法にて同様の操作を行った。【結果】カラム法でZ-N染色陽性例はMTB 5/7例,MAV 2/2例,MIN 1/2例が陽性,Z-N染色陰性例はMTB 34/35例,MAV 34/35例,MIN 35/35例が陰性,ビーズ法でZ-N染色陽性例はMTB 6/7例が陽性,その他はカラム法と同様の結果であった。検査時間はカラム法で160分間,ビーズ法で70分間であった。【まとめ】本検討によりFFPE組織からPCR法による抗酸菌検出・同定が可能であり,カラム法と同様にビーズ法も核酸抽出法として有用であること示唆された。
[Objective] Genetic testing using formalin-fixed paraffin-embedded (FFPE) sections is hardly carried out in clinical laboratories because the nucleic acid extraction process is very complicated and time-consuming. We have found that nucleic acid extraction using zirconia beads (beads method) is useful for the detection and identification of Mycobacterium spp. from FFPE sections by polymerase chain reaction (PCR) analysis. [Methods] Eleven samples that were found to be positive for Mycobacterium tuberculosis (MTB), Mycobacterium avium (MAV), and Mycobacterium intracellulare (MIN) by the culture and Z-N stain methods and 35 samples that were found to be negative by the culture and Z-N stain methods were extracted by the column method for the detection of MTB, MAV, and MIN by PCR analysis. The same samples pretreated by the beads method were also detected by the same PCR analysis. [Results] In the column method, MTB was detected in 5 of 7 MTB-positive samples, MAV in 2 of 2 MAV-positive samples, and MIN in 1 of 2 MIN-positive samples. MTB and MAV were not detected in 34 of 35 MTB- and MAV-negative samples, and MIN was not detected in all MIN-negative samples. In the beads method, MTB was detected in 6 of 7 MTB-positive samples, and other results were similar to those of the column method. Measurement times were 160 min for the column method and 70 min for the beads method. [Conclusion] This study shows that PCR analysis using the beads and column methods is useful for detecting and identifying Mycobacterium spp. from FFPE sections.
結核菌群(Mycobacterium tuberculosis;以下MTB)の同定は,日常診療における喀痰や気管支洗浄液等を材料として塗抹検査,培養検査,抗酸菌同定検査あるいは核酸増幅検査が行われている。一方で,結核を疑わない組織が病理組織検査に提出された場合,パラフィン包埋(formalin fixed paraffin embedded tissue sample;以下FFPE)組織として処理されるため,Ziehl-Neelsen(以下,Z-N)染色による抗酸菌検出は可能であるが,結核菌群とMycobacterium avium(以下,MAV),Mycobacterium intracellulare(以下,MIN)の2菌種を主とするMycobacterium Avium Complex(以下,MAC)等の非結核性抗酸菌を区別することは困難である。FFPE組織を用いた抗酸菌核酸増幅検査では菌種の同定が可能となるが1)~4),核酸精製の操作が煩雑で時間を要するため,実臨床ではほとんど用いられないのが現状である。
GENECUBE®(東洋紡)で新鮮組織材料からPCR法を行う際に,Zirconia beadsにて物理的に細胞膜を破壊して核酸を遊離させる前処理方法(以下,ビーズ法)が用いられる(Figure 1)。この方法では,通常スピンカラムや磁性ビーズ等で抽出する際に行う核酸精製の工程を省略できるのに加え,Proteinase Kでタンパク分解を行う処理もないことから,煩雑な操作を行う必要がなく,核酸抽出時間を大幅短縮することが可能である。

It is possible to extract DNA of Mycobacterium spp. from sputum and fresh tissue.
そこで今回,我々はFFPE組織からのPCR法による抗酸菌検出および同定を行うとともに,核酸抽出法としてカラム法とビーズ法を採用した場合の検査結果を比較し,ビーズ法の有用性について検討したので報告する。
兵庫県立がんセンターで抗酸菌培養検査(以下,培養)が実施され,MTB,MAV,MINのいずれかが陽性であった試料21例,いずれも陰性であった試料35例の計56例を用いた。具体的にはFFPE組織として保管された試料のうち,培養,Z-N染色ともに陽性であった11例,培養陽性かつZ-N染色陰性であった10例および培養,Z-N染色ともに陰性であった35例である。いずれの検体も,組織固定は通常の病理検査においてマスクドホルムA(日本ターナー製)で固定されたものを使用した。
DNAの抽出は,スピンカラムを用いてDNAを抽出・精製するカラム法およびビーズ法の2種類の方法で行った(Figure 2)。尚,FFPEから5 μm厚でカラム法用とビーズ法用に交互に薄切し,脱パラフィン後,カミソリで組織切片を削り取ってチューブに回収したもの使用した。

The beads method has fewer operation steps than the column method, and could extract DNA from FFPE sections easily and quickly.
自動核酸抽出装置QIACUBE(QIAGEN社)を用いた。操作プロトコルはQIAamp DNA micro Kit(QIAGEN社)のマニュアルに従って実施した。抽出に要する時間は約160分であった。抽出したDNA溶液の濃度はNanodrop(Thermo Fisher Scientific社)を用いて測定した。PCR法で判定不能であった試料は25 ng/μLに調整し,再び測定試料として用いた。
2) ビーズ法イージービーズ(東洋紡)に滅菌精製水100 μLと溶解液100 μLを分注し,脱パラフィンした組織切片を入れ,オートミキサー(DISRUPTOR GENII)を用いて3分間攪拌した。90℃で1時間加温し,13,000 gで3分間の遠心操作を実施し,上清を検査に供した。抽出に要する時間は約70分であった。PCR法で判定不能であった試料は滅菌精製水で2倍あるいは4倍に希釈し,測定試料として用いた。
2. GENECUBE®を用いたPCR法による抗酸菌検出および同定 1) カラム法によるPCR法の検討培養,Z-N染色ともに陽性であった症例および培養,Z-N染色ともに陰性であった症例に対して,カラム法で抽出したDNA溶液を用いてPCR法によるMTB,MAV,MINの検出を実施した。培養・Z-N染色陽性例はMTB 7例,MAV 2例,MIN 2例,培養・Z-N染色陰性例はMTB,MAV,MIN各35例である。
2) ビーズ法によるPCR法の検討カラム法と同じ症例に対して,ビーズ法で抽出したDNA溶液を用いてPCR法によるMTB,MAV,MINの検出を実施した。
さらに,培養陽性,Z-N陰性であった10例について,ビーズ法により抽出したDNA溶液を用いてPCR法によるMTBの検出を実施した。
尚,検出試薬は既に体外診断用医薬品として承認されているジーンキューブ®MTB,ジーンキューブ®MAIを用い,全自動遺伝子解析装置GENECUBE®にて測定を実施した5)~8)(Figure 3)。

It is possible to quickly amplify DNA of Mycobacterium spp. in special capillary for only 40 minutes.
2種類の核酸抽出法により得られたDNAにてPCR法を実施したところ,全46例中カラム法で15例,ビーズ法で3例(カラム法の15例に含まれる)が判定不能となった。内11例でDNA濃度が100 ng/μL以上と非常にDNA濃度が高かったことから,カラム法ではDNA濃度を25 ng/μLに調整し,ビーズ法では滅菌精製水で2倍あるいは4倍に希釈して再度PCR法を実施したところ,全ての症例で解析可能となった。
カラム法によるPCR法の結果は,MTBの検出において,培養,Z-N染色ともに陽性の症例は7例中5例で陽性(陽性率一致率71.4%),培養,Z-N染色ともに陰性の症例は35例中34例で陰性(陰性一致率97.1%)であった(Table 1A)。MAVの検出において,培養・Z-N染色ともに陽性の症例は2例とも陽性(陽性率一致率100%),培養,Z-N染色ともに陰性の症例は35例中34例で陰性(陰性一致率97.1%)であった(Table 1B)。MINの検出において,培養,Z-N染色ともに陽性の症例は2例中1例が陽性,1例が陰性(陽性率一致率50%)であった。培養,Z-N染色ともに陰性の症例は35例全て陰性(陰性一致率100%)であった(Table 1C)。
| Column method | Beads method | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| PCR (+) | PCR (−) | Total | PCR (+) | PCR (−) | Total | ||
| A MTB | Culture (+) Z-N stain (+) |
5 | 2 | 7 | 6 | 1 | 7 |
| Culture (−) Z-N stain (−) |
1 | 34 | 35 | 1 | 34 | 35 | |
| B MAV | Culture (+) Z-N stain (+) |
2 | 0 | 2 | 2 | 0 | 2 |
| Culture (−) Z-N stain (−) |
1 | 34 | 35 | 1 | 34 | 35 | |
| C MIN | Culture (+) Z-N stain (+) |
1 | 1 | 2 | 1 | 1 | 2 |
| Culture (−) Z-N stain (−) |
0 | 35 | 35 | 0 | 35 | 35 | |
A: Comparison and rate of detection of MTB with culture test and Z-N stain or PCR
B: Comparison and rate of detection of MAV with culture test and Z-N stain or PCR
C: Comparison and rate of detection of MIN with culture test and Z-N stain or PCR
ビーズ法によるPCR法の結果は,MTBの検出において,培養,Z-N染色ともに陽性症例は7例中6例で陽性(陽性率一致率85.7%),培養,Z-N染色ともに陰性症例は35例中34例で陰性(陰性一致率97.1%)となった(Table 1A)。MAVの検出において,培養・Z-N染色ともに陽性症例は2例とも陽性(陽性率一致率100%),培養,Z-N染色ともに陰性の症例は35例中34例で陰性(陰性一致率97.1%)となった(Table 1B)。MINの検出において,培養,Z-N染色ともに陽性の症例は2例中1例が陽性,1例が陰性(陽性率一致率50%)であった。培養,Z-N染色ともに陰性の症例は35例全て陰性(陰性一致率100%)であった(Table 1C)。
次に,培養陽性かつZ-N染色陰性であった10例では,ビーズ法によるPCR法の結果,1例のみMTB陽性,9例でMTB陰性であった(Table 2)。
| Beads method | ||||
|---|---|---|---|---|
| PCR (+) | PCR (−) | Total | ||
| MTB | Culture (+) Z-N stain (−) |
1 | 9 | 10 |
カラム法で15例,ビーズ法で3例が判定不能であり,精製水で希釈することで測定可能となったことから,過剰なDNA量がPCR反応を阻害した可能性がある。これは,内部コントロール増幅用のプライマーが,混在する高濃度のDNAに非特異的に結合することによって,特異的な増幅反応が阻害されたと考える。そのため,炎症細胞や腫瘍細胞を多く含む組織材料等,抽出されるDNA量が多い場合には,PCR反応を阻害する可能性があり,カラム法では25 ng/μL程度に調整し,ビーズ法では2倍あるいは4倍に精製水で希釈して測定することが望ましい。しかしながら,希釈することで抗酸菌の検出感度が低下することが懸念され,Z-N染色で抗酸菌の存在を確認できた場合は,壊死や瘢痕部分等,ヒト由来の核酸を多く含まない部位を用いることも重要と考える。
塩沢ら2)によるとZ-N染色の抗酸菌同定率が14%であったのに対し,核酸増幅検査は57%でMTBのDNAが検出され,Z-N染色よりも核酸増幅検査の方が高感度であることが示されている。本検討のMTBの検出においても,培養,Z-N染色ともに陽性の7例はPCR法のカラム法,ビーズ法のいずれかで検出することができ,培養陽性かつZ-N染色陰性の10症例中1例がビーズ法で陽性となったことから,PCR法はZ-N染色とほぼ同等の感度であった(Table 1, 2)。培養,Z-N染色ともに陽性の7例で3例がカラム法とビーズ法のいずれかでのみ検出した要因としては,Z-N染色実施時と薄切面が変化し,組織中に含まれる菌の絶対量が少なくなり,検出限界付近になったことが最も考えられる。カラム法で検出できなかった症例4と症例6では,非常に多くのヒト由来のDNAが得られたため,PCR阻害を防ぐために希釈して用いた際に,カラム法の方がビーズ法よりもアッセイに用いた菌量が少なくなってしまい,ビーズ法で検出できなかった症例5では,カラム法でDNA精製を行う際に濃縮され,ビーズ法よりも多くの菌量を用いることとなったため,カラム法でのみ検出できたと考える。また,MINにおいても症例10でカラム法,ビーズ法のいずれも検出できなかった要因として,Z-N染色実施時と薄切面が変化したことで菌量の減少したことが挙げられる。実際に症例4,5,6,10で核酸抽出後に薄切切片を作製しZ-N染色を実施したが,陽性像は確認できなかった。一方で,培養,Z-N染色ともに陰性の症例でMTB,MAVで1例ずつ陽性が検出された要因としては,Z-N染色では検出できない量の死菌を検出したことが挙げられる。
FFPE組織は,ホルマリンの長時間固定や病理ブロックの長期間保管による核酸断片化の影響によりPCR検査を始めとする遺伝子検査で核酸が増幅されないことがある。そのため,日本病理学会が策定したゲノム診療用病理組織検体取扱い規定では6~48時間以内の10%中性緩衝ホルマリンによる固定,また組織由来のDNAを用いて次世代シークエンサー(NGS)を行う場合,作製後3年以内の病理ブロックの使用が推奨されている9)。FFPE組織中の抗酸菌DNAについても組織と同様のホルマリン固定や保管期間の影響を受けると考えられたが,本検討では陽性症例数が少なかったことから週末に提出された検体で推奨のホルマリン固定時間を超える検体(最大で固定時間72時間)や長期間保管していた症例も使用してPCR反応を行ったため,DNA断片化による増幅不良が懸念された。そこで,DNA Integrity Number(以下,DIN)と呼ばれるDNAの断片化度合いを10段階で表す指標を(Tapestation Agirent社)で全46例測定したところ,長期保管によりDINが低値の症例においてもカラム法,ビーズ法のいずれかでMTBの検出が可能であった(Table 3)。以上のことから,NGS検査のように長いDNA配列を増幅する際にはDNAの断片化が大きく影響するが,抗酸菌検出に用いるような300 bps未満の短いフラグメントのPCR反応を行う場合には,DNAが断片化されていてもある程度増幅でき,PCR法による抗酸菌検出が可能であったと考えられる。しかしながら,固定不良や7日間以上固定された検体では,NGS用のライブラリーの作製が困難となること,シトシンの加水分解に伴う脱アミノ化によりウラシルに置換し,その後のPCR増幅反応によってチミンが生成(C > T置換)されるホルマリン固定による核酸塩基の化学修飾が72時間から顕著となるといった実証データもあり,中性緩衝ホルマリンで6~48時間の推奨固定条件で作製されたFFPE組織からの検査が望まれる9)。
| Column method | Beads method | DIN | Storage period (years) | ||
|---|---|---|---|---|---|
| A MTB | 1 | + | + | 2.3 | 3 |
| 2 | + | + | 1.4 | 9 | |
| 3 | + | + | 1.5 | 8 | |
| 4 | − | + | 1 | 8 | |
| 5 | + | − | 1.7 | 8 | |
| 6 | − | + | 3.3 | 3 | |
| 7 | + | + | 3.2 | 2 | |
| B MAV | 8 | + | + | 2.4 | 2 |
| 9 | + | + | 2.5 | 2 | |
| C MIN | 10 | − | − | 1.6 | 5 |
| 11 | + | + | 1.4 | 2 |
また,FFPE組織中のDNAはホルマリン固定の影響により,核酸間,タンパク質間,DNA-タンパク質間等に架橋(以下,クロスリンク)が形成され,核酸増幅反応を阻害する可能性があり,DNAの精製操作でクロスリンクを解離すること(以下,脱クロスリンク処理)が必要となる。通常,脱クロスリンク処理にはProteinase K処理でタンパク質を分解した後,加熱処理にて核酸間の脱クロスリンクを行われる10)。本検討ではカラム法とビーズ法の2種類の核酸抽出法を用いたが,ビーズ法ではProteinase K処理を行わず,核酸間の脱クロスリンク処理の過熱処理のみを実施したため,DNA-タンパク質間のクロスリンクの解離が不十分であった可能性があるものの,ビーズ法では抗酸菌陽性の11例中9例が陽性となり,11例中8例が陽性となったProteinase K処理を行ったカラム法と同等の結果が得られたことから,DNA-タンパク質間のクロスリンクによる核酸増幅反応阻害が生じた可能性は低いと考える。その理由として,本検討での増幅産物は300 bps未満の短いフラグメントであり,クロスリンクによる阻害の影響が小さかったこと,ビーズ法に用いる溶解液は強アルカリ性であり,90℃ 1時間の加熱処理によってDNA-タンパク質間の加水分解が進み,結果的に増幅阻害に繋がらなかったこと等が考えられる。しかしながら検討に用いた症例数が限られていることから,要因の特定には更なる検討が必要である。
本検討によりFFPE組織を用いて抗酸菌の核酸検出を行うことが可能であることが確認された。本法ではFFPE組織からのMTB同定が可能であり,症例数を追加しての更なる検討が必要ではあるが,MAV,MINに関しても同定可能であると考える。また,クロスリンクの影響についてもさらに検討の必要はあるものの,ビーズ法でもカラム法とほぼ同等の抗酸菌検出感度が得られたことから,より操作が簡便で検査時間の短いビーズ法も核酸抽出法として有用であることが示唆された。
抗酸菌核酸増幅検査はMTB,MACの直接的な存在を証明する方法であり,DNA抽出法としてカラム法およびビーズ法を用いることによって,FFPE組織からも結核症や肺MAC症の診断が可能となると考える。
本研究は,兵庫県立がんセンター倫理審査委員会の承認(審査番号:G-308)を得て行った。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本論文作成に助言いただきました兵庫県立がんセンター病理診断科 佐久間淑子先生,兵庫県立尼崎総合医療センター検査部 上霜剛先生に深謝致します。