医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
技術論文
エクルーシスFT3 III改良試薬を用いた測定干渉の影響検証
立花 悟瀧田 尚子山﨑 望西原 温子吉田 博西原 永潤宮内 昭赤水 尚史
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 72 巻 4 号 p. 549-556

詳細
Abstract

多くの血中ホルモンの測定が免疫学的測定法で行われている。しかし,この測定法は使用する測定試薬により,測定値に乖離がみられる場合がある。その原因のひとつに,検体中のビオチンおよび試薬に含まれるストレプトアビジンに対する検体中の異好性抗体の影響がある。今回,測定値が乖離する原因を検討するため,異好性抗体の干渉を受けないように改良された電気化学発光測定法(以下,ECLIA法)を用いたエクルーシス試薬FT3 IIIビオチン改良試薬(以下,改良試薬),エクルーシス試薬FT3 III試薬(以下,従来試薬)および化学発光酵素免疫測定法(以下,CLEIA法)を用いたアキュラシードFT3試薬を用いた比較検討を行った。無作為抽出した1,005例の血清を用いた従来試薬と改良試薬間の相関性に問題はなく,試薬改良による測定値の大きな変動は認められなかった。また,改良試薬は従来試薬と異なり,検体へのビオチン添加による測定値の見かけ上の上昇がないことが確認された。さらに従来試薬とCLEIA法の間でFT3値が乖離し,従来試薬の偽高値が疑われた対象検体28例中13例で改良試薬の測定値に有意な低下を認めた。これら13例に関しては,PEG処理,HBT処理,Protein A試験の結果から免疫グロブリンの存在が疑われ,同時に改良試薬では異好性抗体の影響が低減されたことを確認できた。しかし,依然として改良試薬とCLEIA法の測定値が乖離している症例も存在しているため,更なる検討が必要である。

Translated Abstract

Methods based on immunology are used to detect many hormones in sera. In these immunological methods, however, we occasionally find a discrepancy in the detection values between different reagents. The causes of such discrepancy include the influences of biotin or heterophil antibodies in patient serum on streptavidin, a common component of reagents. To determine the cause of the discrepancy, we examined differences of the FT3 levels by comparing three different reagents, namely, “former Elecsys FT3 III reagent” (former reagent) based on the electrochemiluminescence immunoassay (ECLIA), “improved Elecsys FT3 III reagent” (improved reagent) based on ECLIA, which is improved to prevent the negative effect on streptavidin, and “Accuraseed reagent” based on the chemiluminescent enzyme immunoassay (CLEIA). We observed a significant correlation between the FT3 levels of the former reagent and the improved reagent in 1,005 random serum samples. In contrast to the detection values of the former reagent, no unexpected elevation of the FT3 levels of the improved reagent with the addition of biotin into the serum was observed. We found a significant decrease in the FT3 level of the improved reagent in 13 out of 28 serum samples, which was observed with the dissociation between the FT3 levels of the former reagent and the improved reagent, and the existence of immunoglobulin was suspected in those 13 serum samples, as shown by the results of PEG, HBT, and Protein A analyses. Further studies are needed because it is still unclear why the FT3 levels of the improved reagent are different from those of the CLEIA in 15 out of 28 serum samples.

I  はじめに

甲状腺刺激ホルモン(TSH),遊離型サイロキシン(FT4),遊離型トリヨードサイロニン(FT3)の測定は,甲状腺疾患の診断,管理において欠かすことのできない検査項目であり,日常臨床の場で広く活用されている。イムノアッセイ技術の進歩によってTSH,FT4,FT3の測定は短時間かつ高精度で行うことが可能となっているが,一部の症例では臨床所見と検査値に大きな乖離を認める場合がある。測定原理によって影響する干渉の種類は異なるが,電気化学発光測定法(以下,ECLIA法)を測定原理とした全自動免疫装置(コバスシリーズ)の専用試薬であるエクルーシス試薬TSH,FT4,FT3の場合,干渉原因としてビオチン過剰摂取,試薬中のストレプトアビジン(以下,SA)に対する異好性抗体,試薬中のルテニウム錯体と架橋剤の複合体に非特異的に反応する異好性抗体,試薬中の抗T3モノクローナル抗体に対する非特異反応などが報告されている1),2)。中でもビオチン過剰摂取と試薬中のSAに対する異好性抗体が原因の干渉による影響では競合法のFT4,FT3が偽高値を示し,サンドイッチ法のTSHは偽低値を示す症例が存在する3)。試薬中のSAに対する異好性抗体が原因のFT4に対する干渉の影響はエクルーシス試薬FT4 IIからエクルーシス試薬FT4 IIIに改良された際に低減したと報告されている4)。エクルーシス試薬FT3でも過去に抗T3ヒツジポリクローナル抗体から抗T3ヒツジモノクローナル抗体への変更やルテニウム錯体のスルホン酸化,ルテニウム錯体と架橋剤の複合体に非特異的に反応する異好性抗体の吸収剤の添加などの改良が加えられてきた2),5),6)。今回,新たに検体中のビオチンと試薬中のSAに対する異好性抗体による測定干渉の影響を回避する目的で,抗ビオチン抗体並びにSAに対する異好性抗体の吸収剤を添加したエクルーシス試薬FT3 IIIビオチン改良試薬(以下,改良試薬)(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)が開発された。

ECLIA法のエクルーシス試薬FT3 III(以下,従来試薬)と化学発光酵素免疫測定法(以下,CLEIA法)のアキュラシードFT3との相関性はCLEIA法をy軸としたとき,回帰式はy = 0.925x + 0.406,相関係数r = 0.971と報告されているが,稀に両測定法間で測定値が有意に乖離する症例が存在する7)。そのため,ECLIA法とCLEIA法の測定でFT3値に乖離を認めた症例について,従来試薬の影響因子を確認するため改良試薬を用いた検討を実施した。更に従来試薬との相関性確認と検体中のビオチンに対する耐性能の確認も併せて実施したので報告する。

II  対象と方法

1. 従来試薬と改良試薬の相関性試験

1) 対象

当院にて,TSH,FT4,FT3の甲状腺機能検査を実施後の残余検体1,005検体を対象として用いた。なお,選択基準として20歳以上の患者かつ残余検体が0.5 mL以上あるものを対象としている。

本研究は,医療法人 神甲会 隈病院の倫理委員会で承認を得た上で(承認番号20220113-1)実施した。また,これらの検体は,採血後に凍結保存した。

2) 方法

上記の対象検体を用いて従来試薬と改良試薬における回帰式,相関係数を最小二乗法により算出して相関性を確認した。

2. 検体中のビオチンに対する耐性能の確認

1) 対象

FT3値が(high: > 6.0 pg/mL, normal: 2.3–4.0 pg/mL)のプール血清2濃度を対象として用いた。

2) 方法

プール血清にSigma-Aldrich社製ビオチン(B4501-100MG)を溶解したビオチン溶液を血清とビオチン溶液の割合(9:1)で調整し,2濃度のプール血清から各6試料を作製してビオチン添加回収試験を実施した。なお,試薬添付文書中に血中ビオチン許容濃度が従来試薬では ≤ 70 ng/mL,改良試薬 ≤ 1,200 ng/mLと記載があるため,これら許容濃度を含む希釈系列を作製した。

3. 測定干渉が疑われる症例の影響確認

1) 対象

従来試薬を使用していた2021年4月から2022年3月までの凍結保存検体の中から,ECLIA法とCLEIA法の判定が乖離し,かつECLIA法の測定値がCLEIA法の測定値より20%以上高値を示す43例を抽出した。同一患者において期間内で重複する場合は1例として計算している。その中から残余検体が1.0 mL以上ある28例を測定干渉が疑われる症例の対象として用いた。

2) 方法

① 従来試薬と改良試薬の測定

従来試薬との測定値の差(変化率%)からビオチンもしくはSAに対する異好性抗体の影響を確認した。

② PEG(Polyethylene glycol)処理による対象検体の解析

対象検体と25%PEG溶液を等量混合し,30分間静置した後,12,100 gで10分間遠心分離した。遠心分離後の上清を従来試薬で測定し,PEG添加前後の測定値から回収率を求めた。判定基準として回収率が正常検体の基準幅117~204%を逸脱する場合,回収率の変動ありとした。なお,正常検体における回収率の基準幅は当院の非特異反応が認められない検体47例のMean ± 3SDから算出した。また,PEGについてはPEG-6000(和光純薬工業株式会社)を使用した。

③ HBT(Heterophilic Blocking Tube)処理による対象検体の解析

対象検体200 μLをチューブ内に加えた後5回転倒混和し,室温で1時間静置した。その後,従来試薬による測定でHBT添加前後の測定値から回収率を求めた。判定基準として回収率が正常検体の基準幅86~112%を逸脱する場合,回収率の変動ありとした。なお,正常検体における回収率の基準幅は当院の非特異反応が認められない検体43例のMean ± 3SDから算出した。また,HBTについてはHBT(Scantibodies Laboratory)を使用した。

④ Protein A試験(スピンカラム法)による対象検体の解析

対象検体とアガロース結合Protein Aを等量混合し,3,000 gで3分間遠心分離した。遠心分離後の上清を従来試薬で測定し,Protein A添加前後の測定値から回収率を求めた。判定基準として回収率が正常検体の基準幅84~107%を逸脱する場合,回収率の変動ありとした。なお,正常検体における回収率の基準幅は当院の非特異反応が認められない検体56例のMean ± 3SDから算出した。また,Protein Aについてはアガロース結合Protein A(Sigma-Aldrich社)を使用した。

III  結果

1. 従来試薬および改良試薬の相関性試験

1,005例の残余検体を用いて従来試薬と改良試薬との相関性試験を実施したところ,改良試薬をy軸としたとき,最小二乗法の回帰式はy = 0.981x − 0.07,相関係数r = 0.9996となった(Figure 1)。

Figure 1 従来試薬と改良試薬の相関性試験

改良試薬をy軸としたとき,傾きが0.981,切片が−0.070,相関係数r = 0.9996となり良好な相関性を示した。

2. ビオチンに対する耐性能の確認

プール血清2種類を対象としたビオチン添加回収試験の結果を示す(Figure 2)。従来試薬ではビオチン添加濃度70 ng/mLを超えたあたりから徐々に回収率の上昇が見られたが,改良試薬ではプール血清2種類ともビオチン添加濃度2,400 ng/mLまで回収率の上昇は認めなかった。

Figure 2 プール血清2種類を対象として用いた従来試薬と改良試薬のビオチン添加回収試験

プール血清2種類共に改良試薬では2,400 ng/mLまで,従来試薬では70 ng/mLまで回収率の低下は±3%以内であった。

回収率(%)=ビオチン添加血清/ビオチン無添加血清 × 100

3. 測定干渉が疑われる症例の影響確認

ECLIA法とCLEIA法で判定および測定値が20%以上乖離し,測定干渉が疑われる症例28例について改良試薬で測定した結果を示す(Table 1)。改良試薬でFT3の測定値が28例中13例で17~69%の有意な低下を認めたが,残り15例は±10%以下の変動であり,有意な低下を認めなかった。

Table 1 測定干渉が疑われる28症例における従来試薬と改良試薬のFT3測定値比較

No. 従来試薬
(pg/mL)
改良試薬
(pg/mL)
アキュラシード
(pg/mL)
変化率
(%)
1 9.25 2.85 3.16 −69
2 6.44 2.38 3.06 −63
3 7.12 3.08 3.62 −57
4 5.74 2.55 2.50 −56
5 5.51 2.73 2.94 −50
6 4.55 2.28 2.51 −50
7 4.44 2.23 2.41 −50
8 5.35 2.73 3.29 −49
9 4.68 2.42 3.00 −48
10 5.24 2.89 3.63 −45
11 4.63 2.93 3.01 −37
12 7.38 5.40 4.09 −27
13 5.22 4.35 3.03 −17
14 4.65 4.24 1.44 −9
15 4.49 4.10 1.35 −9
16 4.33 3.96 1.40 −9
17 4.70 4.30 1.74 −9
18 4.62 4.24 2.09 −8
19 4.43 4.08 1.53 −8
20 4.81 4.44 1.32 −8
21 4.53 4.19 1.78 −8
22 3.30 3.11 2.03 −6
23 4.06 3.83 2.01 −6
24 4.96 4.72 3.33 −5
25 5.83 5.77 3.60 −1
26 5.26 5.36 3.26 2
27 4.41 4.59 3.20 4
28 5.46 5.83 2.48 7

変化率(%)=(改良試薬-従来試薬)/従来試薬 × 100-100

エクルーシスFT3参考基準範囲:2.3–4.0(pg/mL)

アキュラシードFT3参考基準範囲2.51–4.16(pg/mL)

続いてPEG処理を28例全て実施したところ,改良試薬でFT3の測定値に有意な低下を認めた13例でPEG処理の回収率に変動を認めた(Table 2)。また,改良試薬でFT3の測定値に有意な低下を認めなかった残りの15例中4例(No. 22, 25, 26, 28)においてもPEG処理の回収率に変動を認めた(Table 3)。更にHBT処理,Protein A試験を28例全て実施したところ,改良試薬でFT3の測定値に有意な低下を認めた13例の中でHBT処理の回収率に変動を認めたのは13例中12例,Protein A試験の回収率に変動を認めたのは13例中7例あった。HBT処理の回収率に変動を認めなかった残り1例(No. 10)はProtein A試験で回収率の変動を認めた(Table 4)。一方,改良試薬でFT3の測定値に有意な低下を認めなかった15例の中でHBT処理の回収率に変動を認めたのは15例中3例(No. 26, 27, 28),Protein A試験の回収率に変動を認めたのは15例中2例(No. 27, 28)であった(Table 5)。

Table 2 改良試薬でFT3の測定値が17~69%の有意な低下を認めた13例のPEG処理結果

No. PEG処理前
(pg/mL)
PEG処理後
(pg/mL)
回収率
(%)
1 9.25 2.32 50
2 6.44 2.23 69
3 7.12 2.54 71
4 5.74 2.36 82
5 5.51 2.38 86
6 4.55 2.05 90
7 4.44 2.14 96
8 5.35 2.46 92
9 4.68 2.33 100
10 5.24 2.56 98
11 4.63 2.38 103
12 7.38 2.87 78
13 5.22 2.51 96

PEG処理(基準幅:117–204%)

回収率(%)=PEG処理後/PEG処理前 × 2 × 100

Table 3 改良試薬でFT3の測定値が±10%以下の変動で有意な低下を認めなかった15例のPEG処理結果

No. PEG処理前
(pg/mL)
PEG処理後
(pg/mL)
回収率
(%)
14 4.65 3.76 161.7
15 4.49 3.64 162.1
16 4.33 3.61 166.7
17 4.70 3.77 160.4
18 4.62 3.46 149.8
19 4.43 3.52 158.9
20 4.81 3.96 164.7
21 4.53 3.74 165.1
22 3.30 1.75 106.1
23 4.06 3.30 162.6
24 4.96 3.86 155.6
25 5.83 2.70 92.6
26 5.26 2.69 102.3
27 4.41 2.67 121.1
28 5.46 2.44 89.4

PEG処理(基準幅:117–204%)

回収率(%)=PEG処理後/PEG処理前 × 2 × 100

Table 4 改良試薬でFT3の測定値が17~69%の有意な低下を認めた13例のHBT処理,Protein A試験結果

No. HBT処理前
(pg/mL)
HBT処理後
(pg/mL)
HBT処理回収率
(%)
protein A処理前
(pg/mL)
protein A処理後
(pg/mL)
protein A回収率
(%)
1 8.66 6.66 77 8.66 2.94 34
2 6.68 2.68 40 6.68 5.99 90
3 6.36 4.85 76 6.36 2.84 45
4 5.59 4.01 72 5.59 2.61 47
5 5.43 3.98 73 5.43 5.07 93
6 4.08 3.43 84 4.08 3.54 87
7 4.04 2.66 66 4.04 3.57 88
8 5.24 4.31 82 5.24 5.06 97
9 4.73 3.48 74 4.73 4.63 98
10 4.88 4.68 96 4.88 2.79 57
11 4.46 2.81 63 4.46 2.84 64
12 7.00 3.29 47 7.00 3.29 47
13 4.85 3.54 73 4.85 3.07 63

HBT処理(基準幅:86–112%)

回収率(%)=HBT処理後/HBT処理前 × 100

Protein A試験(基準幅:84–107%)

回収率(%)=Protein A処理後/Protein A処理前 × 100

Table 5 改良試薬でFT3の測定値に有意な低下を認めなかった15例のHBT処理,Protein A試験結果

No. HBT処理前
(pg/mL)
HBT処理後
(pg/mL)
HBT処理回収率
(%)
protein A処理前
(pg/mL)
protein A処理後
(pg/mL)
protein A回収率
(%)
14 4.35 4.04 93 4.35 3.97 91
15 4.55 4.20 92 4.55 4.28 94
16 4.25 3.85 91 4.25 3.82 90
17 4.48 4.24 95 4.48 4.21 94
18 4.53 4.18 92 4.53 4.17 92
19 4.26 3.97 93 4.26 3.81 89
20 4.63 4.01 87 4.63 4.23 91
21 4.62 4.31 93 4.62 4.23 92
22 3.17 3.12 98 3.17 2.83 89
23 4.19 3.82 91 4.19 3.68 88
24 5.09 4.92 97 5.09 4.78 94
25 5.87 5.73 98 5.87 5.32 91
26 4.95 3.20 65 4.95 4.61 93
27 4.33 5.27 122 4.33 3.53 82
28 5.26 3.42 65 5.26 2.90 55

HBT処理(基準幅:86–112%)

回収率(%)=HBT処理後/HBT処理前 × 100

Protein A試験(基準幅:84–107%)

回収率(%)=Protein A処理後/Protein A処理前 × 100

IV  考察

免疫学的測定法では,臨床所見と検査値に乖離を認めることがあり,エクルーシス試薬TSH,FT4,FT3においては,特にFT3試薬で測定干渉の影響が当院でも2020年6月から2021年5月の間に2,000人に1人(0.05%)確認されており臨床上問題となっていた。同期間のTSH試薬の頻度は15,000人に1人(0.007%),FT4試薬の頻度は20,000人に1人(0.005%)と比較してもFT3試薬における測定干渉の頻度が明らかに高いことが分かる。今回,検体中のビオチンと試薬中のSAに対する異好性抗体の影響を回避する目的で開発された改良試薬を用い,乖離の影響因子を確認する検討を実施した。

今回の検討では,エクルーシス試薬FT3 IIIの従来試薬と改良試薬の相関性試験を実施したところ,回帰式はy = 0.981 − 0.07,相関係数r = 0.9996と良好な結果であった。このことから改良試薬においても,現在使用している基準範囲をそのまま使用できると考えられた。

検体中のビオチンに対する耐性能を確認するため,ビオチン添加回収試験を実施したところ試薬添付文書記載の血中ビオチン許容濃度70 ng/mLを超えたあたりから徐々に回収率の上昇が見られたが,改良試薬では試薬添付文書記載の血中ビオチン許容濃度1,200 ng/mLを超える2,400 ng/mLまで回収率の上昇は認めなかった。このことから,改良試薬についてはビオチンに対する耐性能が従来試薬に比べて向上していると考えられた。ビオチンは美容目的や治療,サプリメントとして摂取の機会が増え,皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素として,10 mg/錠というきわめて高含量のものが海外直送品として販売されている。健康障害などの報告はないと記載され,耐容上限量は定められていないのが現状である8)。ビオチン投与量と血中ビオチン濃度の関係性として,ビオチン投与量が10 mg/日,20 mg/日の場合,血中ビオチン濃度は最大100 ng/mL,200 ng/mLまで上昇すると報告されている9)。そのため,改良試薬ではビオチン投与量が10 mg/日,20 mg/日程度であれば臨床的に影響がないと推察される。

測定干渉が疑われる症例の影響確認を実施したところ,測定法間で乖離を認める対象28例中13例で従来試薬と比べ,改良試薬のFT3測定値が17~69%の有意な低下を認めた。測定法間で乖離を認め,非特異反応が疑われた13例を含む28例を含まない1,005例で実施した従来試薬と改良試薬の相関性試験における回帰式の傾き(0.981)および切片(−0.070)と良好な相関が認められる。一方,各種確認試験から非特異反応が認められた13例の回帰式では傾き(0.2197)および切片(1.7091)となり,改良試薬で測定値が17~69%と有意な低下を認められたことから,測定値変動は非特異反応による偽高値が解消されたものと考えられた。

この有意な測定値の低下は試薬改良によるものと推察されるが,13例全てビオチン過剰摂取の報告は無いため試薬中のSAに対する異好性抗体の影響が疑われる。そのため,脱水作用を利用した塩析法により免疫グロブリンを非特異的に沈殿・除去することができるPEG処理10),11)を実施したところ,13例全てで回収率に変動を認めたことから,偽高値の原因は試薬中のSAに対する異好性抗体の影響と考えられた。さらに,IgM型免疫グロブリンを吸収できるHBT処理12),IgM型やIgG型あるいはIgA型の免疫グロブリンの影響を確認できるProtein A試験13)を実施したところ13例中12例がHBT処理で回収率の変動を認めたためIgM型,残り1例(No. 10)はProtein A試験で回収率の変動を認めたためIgG型もしくはIgA型等の免疫グロブリンの影響と考えられたがIgG型免疫グロブリンの影響を確認できるProtein G試験13)やIgA型免疫グロブリンの影響を確認できるJacalin試験14)は検体量の都合上,未実施である。今回の結果から試薬中のSAに対する異好性抗体の影響を抑制させるために添加した吸収剤(ストレプトアビジン類似物質)はIgM型の異好性抗体に効果があることが確認できた。一方,改良試薬でFT3の測定値が±10%以下の変動で有意な低下を認めなかった残りの15例についてもPEG処理を実施した。結果は15例中4例(No. 22, 25, 26, 28)でPEG処理の回収率に変動を認め,そのうち2例(No. 26, 28)のHBT処理で回収率の変動を認めたためIgM型,残り2例(No. 22, 25)はHBT処理,Protein A試験の両方で回収率に変動を認めなかったためIgM型,IgG型,IgA型以外の免疫グロブリンの影響あるいはProtein Aに結合しにくい免疫グロブリンの影響が考えられる。また,PEG処理の回収率に有意な変動を認めなかったがHBT処理,Protein A試験の両方で回収率に変動を認めたためIgM型免疫グロブリンの影響が疑われる症例が1例(No. 27)あった。当院で算出したPEG処理の基準幅は117–204%であるが,No. 27は121%と下限値付近であり,他の症例と比較してもやや低下傾向にあった。そのため,PEG処理の基準幅の上限下限付近は弱い非特異反応等が起きている可能性があるため注意が必要といえる。なお,これら5例(No. 22, 25, 26, 27, 28)は今回の改良試薬でも影響を回避できないような試薬中のSAに対する異好性抗体の存在,もしくは試薬中のスルホン酸化ルテニウム錯体に対する測定干渉15)あるいはその他の原因の可能性が疑われる。さらに15例中10例ではPEG処理,HBT処理,Protein A試験のいずれも回収率の変動を認めなかったが,これまで当院で同様な傾向を示す症例を精査した際,試薬中の抗T3モノクローナル抗体に対する測定干渉が確認されていた。そのため今回の10例もその可能性が疑われるが検体量の都合上,原因の特定には至らなかった。

試薬中のSAに対する影響はエクルーシス試薬の測定干渉の原因として高頻度に発生していると報告されている16)。2020年6月から2021年5月の間で従来試薬のFT3値が偽高値となった当院の症例は17例あったが,その中で試薬中のSAに対する異好性抗体の影響を受けた症例は5例であった。残り12例については試薬中の抗T3モノクローナル抗体に対する影響を受けた症例が7例,試薬中のスルホン酸化ルテニウム錯体に対する影響を受けた症例が3例,原因不明が2例であった。そのため,今後はPEG処理で回収率の変動を示さない試薬中の抗T3モノクローナル抗体に対する測定干渉の影響が問題になり,発見が難しくなると推察される。誤診を招かないためにも,PEG処理で発見できない症例が存在することを知る必要がある。そのため測定干渉が疑われる場合には他法での測定を実施することが有用となる。

V  結語

今回,検体中のビオチンと試薬中のSAに対する異好性抗体に対する干渉の影響を回避する目的で開発された改良試薬を用いた検討を実施した。従来試薬と改良試薬の相関性に問題がないことに併せて,改良試薬ではビオチン耐性能の拡大と試薬中のSAに対する測定干渉の影響が低減したことを確認した。しかし,改良試薬においても一部症例では偽高値を認めるため,引き続き測定干渉の影響を考慮する必要があるといえる。

COI開示

本臨床研究はロシュ・ダイアグノスティックス株式会社からの資金および試薬の提供を受け実施された。

文献
 
© 2023 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top