医学検査
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資料
グループコミュニケーションアプリで立ち上げた認知症に興味がある臨床検査技師の集いの場の有用性調査
河月 稔松熊 美千代新屋敷 紀美代西野 真佐美宮原 祥子深澤 恵治
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2023 年 72 巻 4 号 p. 619-627

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Abstract

認知症に関する意見交換や情報共有ができる場としてグループコミュニケーションアプリであるBANDにて“認知症に興味のある臨床検査技師の集い”というグループを立ち上げ,2021年3月から運用を開始した。運用からある程度の年月が経過し,登録者数も増加してきたため,登録者にとって有用なものになっているかどうかをアンケート調査にて検証した。対象は2023年1月31日までにグループに登録している20歳以上の者のうち,研究責任者,アンケートの作成やグループの立ち上げに関与していた者以外とし,Googleフォームより無記名自記式のアンケートに回答するように依頼した。2023年1月31日までのグループ登録者数は108名であり,そのうち33名から回答を得た。グループに参加した感想としては「とてもよかった」と感じている割合が66.7%,「よかった」と感じている割合が33.3%であった。参加してよかったと思うことについては,「研修会の情報を得ることができる」,「認知症関連の情報を得ることができる」と回答した割合が両方とも97.0%,「他者とつながりがもてる」と回答した割合が75.8%であった。登録者数に対して回答者数は少なく,結果に偏りが生じている可能性は懸念されるが,回答者からは運用方法について好意的な評価が得られ,一定の需要があることがわかった。認知症以外の分野でも情報交換ができる場があることは有益であるため,本資料の内容が同様の取り組みを行う際の参考になれば幸いである。

Translated Abstract

A group called “a gathering place of medical technologists interested in dementia” was set up by BAND, a group communication application, as a place to exchange opinions and share information on dementia, which began its operation in March 2021. Since the start of the operation, the number of registrants increased; therefore, we conducted a questionnaire survey to verify whether the registrants found the operation useful. The participants were those aged ≥ 20 years who were registered with the group up to January 31, 2023, excluding the principal investigator or those who were involved in the creation of the questionnaire or setting up of the group. The participants were asked to complete a self-administered anonymous questionnaire via Google Forms. Of the 108 group members registered up to January 31, 2023, 33 responded. Regarding their impressions of participating in the group, 66.7% felt that it was “very good” and 33.3% felt that it was “good.” Regarding what they were glad to participate in, 97.0% of the respondents answered that “I can obtain information about workshops” or “I can obtain dementia-related information,” and 75.8% answered that “I can connect with others.” Possible bias in the results was a concern because of the small number of respondents relative to the number of registrants, although all the respondents gave favorable evaluations of the operation method. This finding indicated that a certain level of demand exists. Since it is beneficial to have a place for exchanging information in fields other than dementia, this article should serve as a reference when conducting similar initiatives.

I  はじめに

厚生労働省が公表した2020年患者調査の結果において,入院・外来ともに他の年齢階層と比較して高齢者の受療率が高かったことが示されている1)。加齢に伴い増加する疾病の一つに認知症が挙げられるが,我が国における認知症高齢者数は2012年に約462万人と推計され2),時代とともにその数は増加していき2025年には700万人前後に上昇すると予測されている3)。また,2021年度の介護保険制度における要介護又は要支援の認定を受けた65歳以上の人の主な原因としては認知症が最も多く4),超高齢社会である我が国において認知症は公衆衛生上の大きな問題の一つになっている。高齢者が多い医療現場において遭遇する可能性が極めて高いため,医療に携わる職種は認知症に関する知識を有しておくことは必要不可欠であるとともに,適切な医療を提供し,認知症の早期発見や進行予防に努めることは認知症患者やその介護者の生活の質を向上させるのみならず,結果として医療費や介護費の削減といった大きな経済効果をもたらすこととなる。

現在,日本臨床衛生検査技師会(Japanese Association of Medical Technologists; JAMT)において,臨床検査に関する専門性を生かして認知症の診断・治療を担当するチーム医療の一員として参加できる臨床検査技師を育成・確保することを目的として認定認知症領域検査技師制度が運営されている5)。2011年に日本認知症予防学会で設立された制度を2014年度からJAMTが発展的に継承し6),7),日本認知症予防学会と共同して人材育成が行われているが,認定者数は年々増加しており2022年4月1日時点で381名が認定認知症領域検査技師として登録されている8)。また,認知症の診断において重要となる神経心理学的検査を臨床検査技師が新たに行うようになった報告9)~11),採血や生理機能検査時における認知症患者対応マニュアルの作成やロールプレイング研修を通じて対応力向上に資する取り組みを行った報告12),13),病院外での取り組みとして地域活動を行った報告11),14),さらには認知症関連の論文発表も行われており15),16),臨床検査技師による認知症領域での取り組みが徐々に増えてきている。

順調に認知症に関わる臨床検査技師が増えていた最中,新型コロナウイルス感染症(Coronavirus disease 2019; COVID-19)の影響によりJAMTが主催する2020年度の認定制度に関する研修会は全て中止となった17)。その後2021年度からは,これまで行ってきた現地参加型の研修会をWeb研修会として再開する運びとなり,さらに2022年度からはWeb開催と現地開催の2種類の開催方式の研修会を併用して運営されている。COVID-19禍において人との交流が減ったことで情報を収集できる機会が減少したが,研修会はWebで開催されることが増加し,どこでも誰でも参加できる機会が増えてきた。そのため,COVID-19禍においても他者とつながりを持つため,そして研修会や勉強になる情報を共有するために,意見交換や情報共有ができる場としてグループコミュニケーションアプリであるBAND18)にて“認知症に興味のある臨床検査技師の集い”というグループを同志で立ち上げ,2021年3月から運用を開始した。本グループは,認知症に興味がある臨床検査技師であれば誰でも参加できる集いの場としており,認知症に関する情報を共有して認知症領域で活躍する臨床検査技師を増やすことを目的としている。本グループの登録者であれば自由に知り合いを招待できるようにしており,登録者数は徐々に増加して2023年1月31日時点で108名となっている。登録に際しては本名でもニックネーム等でも良いので名前を入力する必要があり,グループ内で表示されることになるが,その他の情報は全くわからないようになっている。BANDアプリではグループの登録者全員が確認できる掲示板への投稿,グループの登録者同士で個別にトーク等,様々な便利な機能がある18)。本グループでは主に認知症に関する研修会の開催情報や認知症に関するホットトピックスを掲示することを行っているが,掲示板への投稿は誰でも行うことができる設定にしており,投稿に対するコメントも自由に書き込むことを許可している。以上のように,現在のところ登録者が自由に情報を提供又は入手,さらには意見交換ができる集いの場として運用を行っている。

運用からある程度の年月が経過し,登録者数も増加してきたため,今後の発展のためにも登録者にとって有用なものになっているかどうかを検証する必要性を感じた。そこで,BANDで立ち上げたグループについて登録者がどのように感じているのか,どのようなことを期待するのかを調査し,今後のグループの運用や類似の取り組みを行おうとする方々に対して参考になる情報を得ることを目的にアンケート調査を行った。

II  対象および方法

1. 対象

本研究はBANDアプリで立ち上げたグループである“認知症に興味のある臨床検査技師の集い”の登録者に対して実施した。研究対象者の選択基準は,①アンケート回答時の年齢が20歳以上であること,②2023年1月31日までに本グループに登録していること,③研究対象者本人からアンケートの提出があることとした。除外基準は,研究責任者,アンケートの作成に関与した者,本グループの立ち上げに関与した者とした。

本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認(No. 22A126)を得て実施した。対象者への説明は,研究内容を記載したアンケート調査依頼書をBANDアプリのグループ内に投稿することで行い,研究に同意する意思がある場合のみアンケートに回答してもらうこととした。したがって,アンケートの提出をもって研究内容を理解し,研究へ協力することに同意したことと判断した。

2. 方法

BANDアプリのグループ内にアンケート調査依頼書を投稿して案内を行い,選択基準を満たし除外基準に抵触しない者のみアンケート調査依頼書に記載したGoogleフォームのURLより無記名自記式のアンケートに回答するように依頼した。アンケートの内容は本資料の著者全員で検討し,年齢,性別,居住地,臨床検査技師として担当している部門,認定認知症領域検査技師の資格保有状況,認知症関連の活動状況,グループ登録の経緯,グループに参加した感想,グループに参加してよかったこと,グループの運用に関する要望,の計10項目の質問で構成した(Table 1)。アンケート調査依頼に関する初回投稿は2022年12月21日に行い,再案内のために2023年1月11日と2023年1月25日にも投稿を行った。アンケートの回答期限は2023年1月31日とし,得られたアンケート結果を集計して検討を実施した。選択式の質問については単純集計の結果を示し,自由記述式の質問については回答の意味が変わらないように配慮し,さらに同じような趣旨の回答があった場合は統合して要旨を記述した。

Table 1 Googleフォームを用いて実施したアンケート調査内容

質問の内容 回答欄の内容
Q1 年齢を教えてください(例えば「36歳」のように記載してください) 自由記載:   
Q2 性別を教えてください 男性
女性
Q3 住んでいる地域を教えてください 北日本(北海道,青森,岩手,宮城,秋田,山形,福島,新潟)
関甲信(茨城,栃木,群馬,埼玉,山梨,長野)
首都圏(千葉,東京,神奈川)
中部圏(富山,石川,岐阜,静岡,愛知,三重)
近畿(福井,滋賀,京都,大阪,兵庫,奈良,和歌山)
中四国(鳥取,島根,岡山,広島,山口,徳島,香川,愛媛,高知)
九州(福岡,佐賀,長崎,熊本,大分,宮崎,鹿児島,沖縄)
Q4 現在,臨床検査技師として担当している部門を教えてください(該当する選択肢がない場合は“その他”へ詳細を記載してください) 検体検査
生理検査
検査全般
臨床検査技師として働いていない
その他:   
Q5 認定認知症領域検査技師の資格を保有していますか? はい
いいえ
Q6 現在,認知症関連の活動を実施していますか?(複数選択可ですので,該当する選択肢を全て選んでください)(該当する選択肢がない場合は“その他”へ詳細を記載してください) 診療に関与
研究を実施
地域活動を実施
実施していない
その他:   
Q7 どのようにBANDのグループを知って登録しましたか?(該当する選択肢がない場合は“その他”へ詳細を記載してください) 研修会の講師の案内
知り合いからの紹介
その他:   
Q8 BANDのグループに参加登録してよかったと思いますか? とてもよかった
よかった
どちらともいえない
よくなかった
とてもよくなかった
Q9 BANDのグループに参加登録してよかったことを教えてください(複数選択可ですので,該当する選択肢を全て選んでください)(該当する選択肢がない場合は“その他”へ詳細を記載してください) 研修会の情報を得ることができる
認知症関連の情報を得ることができる
他者とつながりがもてる
よかったと思うことはない
その他:   
Q10 BANDのグループの運用について今後期待することがあれば教えてください(無ければ空欄で構いません) 自由記載:   

III  結果

1. 回答者の概要

2023年1月31日までのBANDグループ登録者数は108名であり,そのうち33名から回答を得た。なお,各個人で設定した登録名以外の情報はわからない形式となっており,登録者のうち選択基準を満たし除外基準に抵触しない人の数を正確に把握することが不可能なため,回答率は算出していない。

回答者の基本情報をTable 2に示す。回答者は50歳代が51.5%と最も多く,女性が69.7%であった。居住地域は全国にわたっていたが,首都圏が24.2%と最も多く,次いで近畿と中四国が同率で18.2%という結果であった。担当中の部門は,検査全般を担当している人の割合が33.3%と最も多く,検体検査のみ又は生理検査のみを担当している人の割合は同率で24.2%であった。認定認知症領域検査技師の資格を保有している割合は78.8%と高かったが,認知症関連の活動を実施していないと回答した割合も69.7%と高かった。

Table 2 回答者の基本情報

対象者(n = 33)
人数(人) 割合(%)
年代
 20–29歳 3 9.1
 30–39歳 3 9.1
 40–49歳 7 21.2
 50–59歳 17 51.5
 60歳以上 3 9.1
性別
 男性 10 30.3
 女性 23 69.7
居住地域1)
 北日本 2 6.1
 関甲信 3 9.1
 首都圏 8 24.2
 中部圏 3 9.1
 近畿 6 18.2
 中四国 6 18.2
 九州 5 15.2
担当中の検査部門1)
 検体検査 8 24.2
 生理検査 8 24.2
 検査全般 11 33.3
 臨床検査技師として働いていない 0 0
 その他 6 18.2
認定認知症領域検査技師の資格
 有り 26 78.8
 無し 7 21.2
認知症関連の活動(複数回答可)
 診療に関与 5 15.2
 研究を実施 0 0
 地域活動を実施 3 9.1
 その他の活動を実施 3 9.1
 実施していない 23 69.7

1)小数点以下第二位を四捨五入して表示しているため合計が100%になっていない。

2. BANDグループに関するアンケート結果

BANDグループ登録の経緯に関する回答は,「研修会の講師の案内」が63.6%と最も多く,次いで「知り合いからの紹介」が36.4%という結果であった(Figure 1)。BANDグループに参加した感想としては「とてもよかった」と感じている割合が66.7%,「よかった」と感じている割合が33.3%であり,参加してよくなかったと回答した人はいなかった(Figure 2)。参加してよかったと思うことについては,「研修会の情報を得ることができる」,「認知症関連の情報を得ることができる」と回答した割合が両方とも97.0%,「他者とつながりがもてる」と回答した割合が75.8%であり(Figure 3),その他として2名から回答があったが,「施設や地域での活動やそのやり方を知ることができる」,「認知症を勉強している他の人がどのような思いを持っているのかを知ることができる」という内容であった。最後に,BANDグループの運用について今後期待することに関して9名から回答を得たが,同じような趣旨の回答は統合して解釈を行うと,要旨としては「現状の運用でも満足しているためこのままで続けてほしい」,「顔合わせの会やZoom等のWeb会議システムによる座談会を企画してほしい」,「認知症関連検査に関する講習会情報や認知症関連のアルバイトのような体験できる場の情報が知りたい」,「アンケート機能等を活用した新しいアイデアに期待する」という内容であった。

Figure 1 BANDグループ登録の経緯(n = 33,単一回答)
Figure 2 BANDグループに参加した感想(n = 33,単一回答)
Figure 3 BANDグループに参加してよかったこと(n = 33,複数回答可)

その他の回答は「施設や地域での活動やそのやり方を知ることができる」,「認知症を勉強している他の人がどのような思いを持っているのかを知ることができる」という内容であった。

IV  考察

BANDアプリで立ち上げた認知症に興味がある臨床検査技師が集うグループの登録者に対してグループに参加した感想を調査したところ,回答者全員から好意的な評価が得られ,本グループが有益なものになっていると考えられた。また,ほとんどの人が研修会の情報や認知症関連の情報を収集できることに対して有意義だと感じていたことは,BANDグループを立ち上げた狙い通りの役割が果たせていると感じる結果であった。本グループでは登録名以外の情報はわからないため不特定の人と文章のやり取りをすることになるが,他者とつながりがもてることがよかったと感じている人は75.8%と多く,COVID-19の影響で人と接する機会が減少した状況下においても,同じ志を持つ人との交流を図ることができるツールとして有用であると考えられた。今後の運用については,現状の運用を継続してほしいという回答に加えて,さらに交流を深めるために顔を見て話すことを望むという回答,他にも多くの情報提供を望むという回答,新たなアイデアに期待するという回答があった。これからも登録者が自由に情報を投稿する,又は情報を収集できる場という運用方式を基本としていき,単発的に新たな試みを行っていくことを検討していく必要があると考えられた。

一方でアンケート調査より今後の課題も浮き彫りとなった。1つ目は,20歳代や30歳代の人からの回答が少なかったことである。JAMTの認知症ワーキンググループが行った神経心理学的検査の講習会に参加した臨床検査技師に対するアンケート調査においても,50歳代の人からの回答が最も多く,20歳代や30歳代の人からの回答は少なかったという同様の傾向がみられている19)。本研究も認知症ワーキンググループによる調査もアンケートに回答しなかった人は一定数いると思われるが,その点を考慮しても回答者数は少ないと感じられる。そもそも20歳代や30歳代で調査の対象になった人が少数であった可能性が推測され,認知症に関心を持っている若年者が少ないのではないかと考えられた。内閣府が公表した令和4年版高齢社会白書において,2021年度の調査で介護が必要となった主な原因としては認知症が最も多かったことや介護者の年齢は40歳代未満より50歳代以上が多かったことが示されている4)。年齢が上がるにつれて私生活において認知症の人の介護に関わる可能性が増えることが,年配層からの関心が高くなる理由の1つであると推測される。また,認知症は年齢が上がるほど発症率が高くなるため20),21),歳を重ねるごとに自分事として意識する機会が増えることも関心を持つきっかけになっているかもしれない。しかし,若い頃から自分事として認知症について考えることは重要である。認知症は高齢者だけがなる疾病ではなく若年で発症することもあり,2018年時点で我が国における65歳未満で発症した若年性認知症の人は3.57万人と推計されている22),23)。さらに,認知症発症には若年期の教育期間の短さや中年期の難聴,高血圧,過度の飲酒,肥満が危険因子になるという報告もある24)。若年層に対しても身近でありふれた病気であるということを啓発していき,認知症への関心度を上げることが重要と考えられた。なお,臨床検査技師になることを目指して臨床検査技師養成施設で勉学に励む学生に対しては,教育内容の見直しが検討され25),結果として2022年度の入学生から認知症や認知症の検査に関する教育を行うことが必須化された。これからは学生の間に認知症について学ぶ機会が必ず提供されることを意味しており,若い頃に認知症に関心を持つきっかけになることが期待される。

2つ目は,認知症関連の活動を実施していないと回答した人の割合が69.7%と高かったことである。本研究の回答者の78.8%が認定認知症領域検査技師の資格を保有していたことを踏まえると,認知症領域の取り組みに関心があり認知症について一通り学修はしたけれど活動はできていない人が多数いる可能性が示唆される。前述の神経心理学的検査の講習会を受講した臨床検査技師を対象として実施されたアンケート調査においても,80.9%の人が神経心理学的検査を実施する予定は無いと回答しており19),関心があっても取り組みを行うことは難しい場合が多いと理解できる。しかしながら,日常業務において認知症について学んだことが活かされている場面は多々あると思われる。例えば,認知機能低下により患者説明が困難な事例があった場合,専門的な知識を有した認定認知症領域臨床検査技師が対応するようにしたという報告がある26)。認知機能が低下した人へ適切な対応をするということは本研究で行ったアンケート調査の選択肢に当てはめることが難しく,報告されていない可能性が考えられるが,重要な活動であり,認知症について学んだ人は当然のごとく行っていると思われる。臨床検査技師からの認知症に関連した活動報告9)~16)が増えてきているが,臨床検査技師の認知症領域へのさらなる参画のためには,より多くの活動実績の共有が必要であると考える。“認知症ちえのわnet(https://chienowa-net.com/)”という認知症に伴う幻覚,妄想,不安,抑うつ,易怒性等の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia; BPSD)に対して行った対応法とその対応法がうまくいったか否かという情報を収集し,奏功確率が高い対応方法を抽出するために開発されたウェブシステムがある27),28)。つまり,成功体験のみならず失敗体験も収集して確率で有効性を表現するというものであり,同じようなBPSDのケアで悩んでいる人が参照できるように情報が公開されている。科学界においても同じ失敗を繰り返すことによる無駄な労力,時間,費用を費やさないためにネガティブデータを公表することは重要であると考えられており29),30),失敗から学ぶことはたくさんある。うまくいかなかった事例も活動の証であり,うまくいった事例のみならず,しっかりと原因を分析したうえでうまくいかなかった事例も積極的に発信していく人が増え,活動のきっかけや参考となる多くの情報を共有できるようになることを期待する。ただし,様々な情報を入手できるようになっても行動するか否かは個人の意識次第であるということは忘れてはいけない。失敗を恐れずに挑戦していくことで活動の場が広がると考えるが,一人で行動することが難しい場合はBANDグループのようなコミュニティを活用して共同で活動していくことがあっても良いと考える。

最後に本研究の限界について述べておく。BANDアプリで立ち上げたグループの登録者は2023年1月31日時点で108人だったのに対して,アンケート回答者は33人であった。108人の中には研究対象者の選定基準を満たさない人も含まれているが,その点を考慮しても回答率は低いと思われる。したがって,本研究の結果はグループ登録者全体の意見を反映できていない可能性がある。また,BANDに参加してよくなかったと感じている人はいなかったことからも偏りが生じている可能性が懸念されるため,結果の解釈には注意を要する。回答率が低かった要因としては,アンケート調査への協力は自由意志であることに加えて,本研究はBANDアプリのグループ内にアンケート調査依頼書を投稿して案内を行ったため,投稿を見ていない登録者がいたことが考えられる。未読の理由としては,他者の投稿時の通知設定をオフにしているため投稿に気付かなかった,あるいはグループの登録はしたけれど関心が薄れてしまった可能性が推測される。しかし,BANDアプリを用いた取り組みに対してアンケートの回答者からは支持が得られたことより,一つの情報共有および交流の方法として一定の需要はあるけれど一部の人は関心が薄れていく可能性があると理解して,過剰に気負いすることなく運用していくことが肝要と考える。

V  結語

COVID-19の流行以降はWeb研修会が数多く開催され,認知症について学べる機会が増加している。また,情報化社会である現代において,多くの情報を手軽に収集できるようになった。このような情勢を鑑みて,認知症に関する意見交換や情報共有をするためにBANDアプリを用いて“認知症に興味のある臨床検査技師の集い”というグループを立ち上げ運用してきたが,運用方法について好意的な評価が得られ,一定の需要があることがわかった。様々な情報を入手できることで学習の機会が増加し,その結果として個々の臨床検査技師のスキルアップにつながることが期待されるため,認知症以外の分野でも情報交換ができる場があることは有益であると考える。本資料の内容が同様の取り組みを行う際の参考になれば幸いである。

今後も認知症の人の数が増加していくと推計されており,大きな社会問題の一つとしてさらにクローズアップされることが予想されるため,臨床検査技師も関心を持って認知症領域の取り組みを行っていくべきであると考える。本資料で紹介したグループは認知症に関心がある臨床検査技師であれば誰でも登録できるようにしている。興味があればhttps://forms.gle/HC78KHSEgyxJzhBR6にアクセスして招待申請をしていただきたい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究のアンケート調査にご協力いただいたBANDグループ登録者の皆様,BANDグループ立ち上げに際してご協力いただいた坂総合病院 阿部武彦氏,耳鼻咽喉科麻生病院 橘内健一氏,新東京病院 河野正臣氏,LSIメディエンス 渋谷俊介氏,日本予防医療推進機構 高村好実氏,ならびに要旨の英文校正にご協力いただいたEditage(www.editage.com)の関係者に深謝申し上げます。

文献
 
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