医学検査
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症例報告
自動血液培養装置のボトルグラフを確認したことで起因菌同定につながったCardiobacterium hominisによる感染性心内膜炎の1例
関谷 香三輪 優生石渡 遥古川 奈々坂元 肇
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2024 年 73 巻 1 号 p. 147-153

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Abstract

Cardiobacterium hominisは口腔咽頭内の常在菌で,まれに感染性心内膜炎の原因となる。今回,自動血液培養装置で陽性とならなかったC. hominis感染性心内膜炎の症例を経験した。患者は57歳男性。発熱と労作時呼吸困難のため救急外来を受診し,その際に血液培養を2セット採取した。その後,経食道心エコーにて弁尖2ヶ所に可動性のある疣贅様エコーを認め,感染性心内膜炎と診断された。Ceftriaxone(CTRX)を投与し帰宅され,2日後入院しCTRXとSulbactam/Ampicillin(SBT/ABPC)の投与を開始した。入院6日目に僧帽弁置換術を実施し,僧帽弁組織のグラム染色で多数のグラム陰性桿菌が検出された。しかし,組織の培養検査は陰性だったため,外来受診時採取の血液培養を確認したところ,血液培養装置の自動判定は陰性であったが血液培養ボトル4本中1本のボトルグラフの増殖曲線にわずかな上昇を認めた。その1本でグラム染色を施行した結果,グラム陰性桿菌を認めた。培養の結果コロニーの発育を認め,既往や菌の形態からHACEK群を疑いC. hominisと同定された。僧帽弁組織培養では,抗菌薬投与後であったため,菌の発育を確認することができなかったと考えられた。自動血液培養装置で陽性とならない場合も,血液培養ボトルの検索を行うことによりC. hominisの同定につなげることができた。

Translated Abstract

Cardiobacterium hominis is a resident of the oropharynx and rarely causes infectious endocarditis. We experienced treating a case of C. hominis-infected endocarditis in which Bact/ALERT 3D did not show positive results. The patient was a 57-year-old male. He consulted the emergency department presenting with fever and dyspnea on exertion, and a blood culture test was conducted. Later, transesophageal echocardiography revealed bacterial vegetations at two mitral valve cusps. He was diagnosed with infectious endocarditis and received ceftriaxone at home. He was hospitalized two days later and received ceftriaxone and sulbactam/ampicillin. A mitral valve replacement was performed on the 6th day of hospitalization. A large number of Gram-negative bacilli were detected by Gram staining of mitral valve tissue samples. However, a tissue culture test showed negative results. We confirmed these negative test results using the blood samples collected for culture at the time of his outpatient visit using Bact/ALERT 3D, whose automatic judgment was also negative. However, a slight increase was observed in one of the four bottle graphs. Gram staining was performed on this bottle graph, and Gram-negative bacilli were found. After culturing, colonies grew and were identified as C. hominis. Mitral valve tissue culture could not confirm the growth of bacteria, probably because the test was conducted after the administration of antibiotics. Although the automatic blood culture device did not give a positive result, we could identify C. hominis by searching blood culture bottles.

I  はじめに

Cardiobacterium hominis(以下,C. hominis)はHACEK群に属する通性嫌気性のグラム陰性桿菌である。HACEK群は,口腔咽頭内に常在し,栄養要求の厳しいグラム陰性桿菌のなかで感染性心内膜炎の原因菌であり,C. hominisの他,Haemophilus spp.,Actinobacillus actinomycetemcomitansEikenella corrodensKingella spp.が含まれる1)

HACEK群によって引き起こされる感染性心内膜炎はまれで,感染性心内膜炎の起因菌の約0.8~6%を占め,そのうち13%がC. hominisによる症例である2)C. hominisは血液培養中で増殖が遅い,または増殖しないとされており,これが血液培養陰性患者における微生物学的診断の遅れにつながっている3)。今回,口腔由来と考えられるC. hominisを起因菌とする感染性心内膜炎において,僧帽弁組織の培養検査が陰性,かつ自動血液培養装置で陽性とならなかったが,同定に至った1例を経験したので報告する。

II  症例

年齢,性別:57歳,男性。

主訴:発熱,呼吸困難。

既往歴:1ヶ月前に歯槽膿漏。

現病歴:3週間前から発熱が持続し,徐々に労作時呼吸困難が生じ当院救急外来を受診した。来院時の意識は清明で,臥位での呼吸苦はなかった。体温38.2℃,血圧152/95 mmHg,脈拍115回/分,酸素飽和度98%(RA)であった。心電図にて優位なST変化はなかった。外来受診時の生化学検査と血液学検査の結果をTable 1に示す。CRP 9.51 mg/dL,BNP 1,106.1 pg/mLが有意に高値であった。経食道心エコーにて,弁尖2ヶ所に重度の僧帽弁閉鎖不全症を伴う可動性のある疣贅様エコーが確認され(Figure 1)感染性心内膜炎と診断された。脳MRIで陳旧性脳梗塞と思われる所見があったが,明らかな神経学的異常所見は認めなかった。即日入院が望まれる状況であったが入院を拒否され,外来にて血液培養を2セット採取した後Ceftriaxone(CTRX)100 mL × 1/dayを投与し帰宅した。外来受診の2日後に手術目的で入院しCTRX 100 mL × 1/dayとSulbactam/Ampicillin(SBT/ABPC)50 mL × 3/dayの投与が開始され,その翌日に再度血液培養を2セット採取した。外来受診の7日後に僧帽弁置換術・三尖弁輪縫縮術・左心耳閉鎖術が施行され,僧帽弁と三尖弁に疣贅の付着が確認された。治療開始約1ヶ月後に炎症反応が軽快しLevofloxacin(LVFX)500 mg × 1/day内服に切り換え,その後退院された。臨床経過についてはFigure 2に示す。退院後1年間の経過観察で異常は認められなかった。

Table 1 Laboratory findings

Hematology Hemostasis Biochemistry
WBC 18,200/μL PT (sec) 11.4 sec AST 28 IU/L TP 7.0 g/dL
 Ne 95.5% PT (%) 115.0% ALT 24 IU/L ALB 2.4 g/dL
 Ly 1.0% PT (INR) 0.93 γ-GT 81 IU/L A/G 0.5
 Mo 3.0% APTT 29.2 sec LDH 185 IU/L BUN 15.9 mg/dL
 Eo 0.0% Fbg 340.7 mg/dL T-Bil 1.1 mg/dL CRE 1.19 mg/dL
 Ba 0.0% D-dimer 19.30 μg/mL GLU 110 mg/dL eGFR 50.3
 Myelo 0.5%     CPK 18 IU/L Na 133 mmol/L
RBC 401 × 104/μL     UA 9.8 mg/dL K 4.6 mmol/L
Hb 10.9 g/dL     T-cho 125 mg/dL Cl 103 mmol/L
MCV 83.3 fL     HDL-C 26 mg/dL CRP 9.51 mg/dL
MCH 27.2 pg     LDL-C 84 mg/dL BNP 1,106.1 pg/mL
MCHC 32.6 g/dL            
PLT 19.9 × 104/μL            
Figure 1  Transesophageal echocardiography: TEE

LA: Left atrium, LV: Left ventricle

↑: vegetation

Figure 2  Clinical course

BT: Body Temperature, CRP: C-Reactive Protein, WBC: White Blood Cells

CTRX: Ceftriaxone, SBT/ABPC: Sulbactam/Ampicillin, LVFX: Levofloxacin

III  細菌学的検査

外来受診時に静脈血から血液培養を2セット採取した。血液培養は,好気ボトルはFA Plus培養ボトル(好気用),嫌気ボトルはFN Plus培養ボトル(嫌気用)(ビオメリュー・ジャパン)を使用し,自動血液培養装置Bact/ALERT 3D(ビオメリュー・ジャパン)にて実施した。感染性心内膜炎が疑われたことから培養日数を7日間から28日間に変更した。培養3日目では,この血液培養が陽性とならなかったため,入院翌日に再度静脈血から血液培養を2セット採取した。術後提出された僧帽弁組織のグラム染色を実施したところ,グラム陰性桿菌が多数検出された。しかし,バイタルメディア羊血液寒天培地(極東製薬)を35℃・5% CO2培養,アキュレートドリガルスキー改良寒天培地(島津ダイアグノスティクス),アキュレート変法卵黄加マンニット食塩寒天培地EX(島津ダイアグノスティクス)を35℃・好気培養したが,すべて陰性だった。さらにバイタルメディアチョコレート寒天培地No. 2(極東製薬)を35℃・5% CO2培養,バイタルメディアPEA加ブルセラHK寒天培地(ウサギ)(極東製薬)を35℃・嫌気培養を追加し,1週間培養したが,すべて陰性だった。そこで,外来受診時採取(培養8日目)の血液培養を確認したところ,4本中1本(好気ボトル)のボトルグラフにて培養開始2日目に増殖曲線の上昇が認められた(Figure 3A)。このボトルからグラム染色を実施したところ,極わずかなグラム陰性桿菌を認めため,バイタルメディア羊血液寒天培地,バイタルメディアチョコレート寒天培地No. 2に接種し35℃・5% CO2培養した。培養3日目に白いコロニーの発育を認め(Figure 4),コロニーからのグラム染色でロゼット形成したグラム陰性桿菌が確認された(Figure 5)。既往の歯槽膿漏や菌のロゼット形成からHACEK群を疑いIDテストHN-20ラピッド「ニッスイ」(島津ダイアグノスティクス)を実施したところ,C. hominis(プロファイルNo. 3447310)と同定された。また,外注の質量分析(MALDI Biotyper ライブラリーVer. 9.0.0.0(8468MSTs),ブルカー・ダルトニクス)でも同様の結果が得られた。ストレプト・ヘモサプリメント‘栄研’(栄研化学)を添加したミュラーヒントンブイヨン‘栄研’(栄研化学)の培地を使用し,ドライプレート‘栄研’DP34(栄研化学)を用いて,微量液体希釈法にて薬剤感受性試験を実施した。Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M45 3rd Editionに基づき判定したところ,ペニシリン系,セフェム系薬剤に感受性を示し,今回使用された薬剤すべてに感性であった(Table 2)。入院翌日採取の血液培養は28日間培養陰性であった。

Figure 3  Bottle graph of blood culture bottles

X-axis: Test Time (days), Y-axis: Reflectance Units

A: Cardiobacterium hominis bottle graph of this case

Recognize the slight rise in the bottle graph

B: Positive bottle graph for H. influenzae created for comparison

Recognize the clear rise in the bottle graph

C: Negative bottle graph created for comparison

Shows a gentle curve and does not rise in the bottle graph

Figure 4  The colony appearance of Cardiobacterium hominis

Colonies of isolated bacterium on sheep blood agar after 72 h culture at 35°C

Figure 5  Gram stain of Cardiobacterium hominis(×1,000)

Gram stain of colonies on sheep blood agar after 72 h culture at 35°C

Table 2 Antimicrobial susceptibilities of Cardiobacterium hominis

Antimicrobial agents MIC(μg/mL) susceptibility
Benzylpenicillin (PCG) ≤ 0.06 S
Ampicillin (ABPC) ≤ 0.12 S
Cefazolin (CEZ) ≤ 0.5  
Cefeclor (CCL) ≤ 0.5  
Cefotaxime (CTM) 0.5  
Cefepime (CFPM) 0.5  
Ceftriaxone (CTRX) ≤ 0.06 S
Cefcapene Pivoxil (CFPN-PI) ≤ 0.25  
Imipenem/Cilastatin (IPM/CS) ≤ 0.06 S
Meropenem (MEPM) ≤ 0.06 S
Sulbactam/Ampicillin (SBT/ABPC) 1/0.25 S
Clarithromycin (CAM) 16 I
Azithromycin (AZM) 2 S
Clindamycin (CLDM) > 0.5  
Minocycline (MINO) 0.25  
Levofloxacin (LVFX) 2 S
Gatifloxacin (GFLX) 1  
Moxifloxacin (MFLX) > 2  
Sulfamethoxazole-Trimethoprim (ST) 19/1 I
Vancomycin (VCM) 1  

S: susceptible, I: intermediate

According to CLSI document: M45 3rd ed.

IV  考察

C. hominisは,鼻や喉などの上気道や口腔内に常在するグラム陰性桿菌で,まれに感染性心内膜炎の原因となるHACEK群の一種である1)C. hominisは弱毒性ではあるが,菌血症が確認された場合,その95%が感染性心内膜炎を発症しているとされている4),5)。また,約半数の症例で歯科治療歴や口腔内感染症があったと報告されており4),本症例でも入院時の問診にて歯槽膿漏の既往が確認され,これが感染性心内膜炎の起因菌の侵入門戸として考えられた。

今回使用した自動血液培養装置BacT/ALERT 3Dの検出系は,CO2絶対値,CO2生成率,CO2加速度的変化の3つのアルゴリズムより判定を行っている6)。比較のため,当院の別症例で検出された,C. hominisと同じHACEK群に属するH. influenzaeの菌株をFA Plus培養ボトル(好気用)に接種し,自動血液培養装置にて培養して,ボトルグラフを確認した。陽性判定となったH. influenzaeボトルグラフ(Figure 3B)は,菌の増殖に伴うCO2の変化を反映し,増殖曲線に明確な立ち上がりを認めた。一方,本症例のボトルグラフ(Figure 3A)の増殖曲線は,陰性判定のボトルグラフ(Figure 3C)のようななだらかな曲線を示しているが,培養2日目にわずかな上昇が確認された。感染性心内膜炎が疑われるにもかかわらず血液培養が陽性とならない主な理由として次の3つが考えられるとされている。①原因菌の発育が緩徐な菌種である場合,②原因菌が培養困難な菌種である場合,③血液培養採取前に抗菌薬がすでに投与されていたためその影響で培養されなかった場合である1)C. hominisを含むHACEK群は,栄養要求性が高く発育が緩徐な菌種である7)。本症例は,ボトルグラフにCO2の変化による増殖曲線の上昇が認められたものの,上昇がわずかであり,陽性の判定基準は満たされなかったと考えられ,理由①に相当する。

近年の培養システムではHACEK群であっても5日以内の短期間で検出可能としているため培養延長は必要ないという報告もある8)。しかし,C. hominisによる心内膜炎で菌の増殖が確認されるまでの血液培養陽転時間の平均は6.3日(範囲2~21日)かかる8)という報告もあり,C. hominisでの感染性心内膜炎を疑う場合は,血液培養を長期間継続する必要があると考える。当院では,血液培養期間を7日間に設定しているが,感染性心内膜炎の診断を確認した時点で28日間に培養延長を行っている。

今回の症例では原因菌の同定に9日間と,結果報告までに時間を要したため,Vancomycin(VCM)などの抗菌薬への変更も検討されたが,若年者であり病院受診歴もないことから抗菌薬は変更されなかった。C. hominisは,稀にβラクタマーゼ産生の報告9)もあるが,多くのHACEK群分離株でアンピシリンに感性で第3世代,第4世代セフェム系薬に良好な感受性を示す2)。本邦のガイドラインでは,抗菌薬投与歴がないにもかかわらず血液培養陰性で,MRSAが否定的かつHACEK群が考慮される場合には,CTRXやSBT/ABPCを投与することが推奨されている1)。本症例でもCTRX,SBT/ABPC投与後に炎症反応が低下しており,また同定後の薬剤感受性試験でも,CTRX,SBT/ABPCに感受性が良好であったことから,初期の抗菌薬治療が効果的であったことが推測される。本症例では,手術時に採取された僧帽弁組織のグラム染色においてグラム陰性桿菌が検出されたが,培養からの菌種同定には至らなかった。原因として手術前に抗菌薬が投与されており,その抗菌薬治療が効果的であったため,菌の発育を確認することができなかったと考えられた。

C. hominisによる感染性心内膜炎は,抗菌薬治療と必要に応じて外科的治療が効果的であるため,感染性心内膜炎のなかでも死亡率が低く治癒率が93%とされている8)。他のHACEK群によって引き起こされる感染性心内膜炎と比較して,C. hominisでは,症状の持続時間が長いと報告され10),それは,症状が軽度で潜行性であること,菌の増殖が著しく遅く,分離することが難しいことが診断の遅れの原因である11)。本症例は,自動血液培養装置で陽性とならなかった抗菌薬投与前採取の血液培養のボトルのボトルグラフを確認し,直接グラム染色をしたことで菌の検出につなげることができた。また,僧帽弁組織や血液培養ボトルからのグラム染色では,菌量が多くなかったためロゼット形成は認めなかったと考えられるが,そののちのコロニーのグラム染色にて,特徴的なロゼット形成2),9)を認め菌種同定前にC. hominisを推定できたことで,迅速な菌種同定へとつながった。

V  結語

感染性心内膜炎において,抗菌薬治療が開始されている場合は,血液培養陰性でも,ボトルグラフを確認することで,菌の検出につなげる努力が必要である。

なお,本文の要旨は第34回日本臨床微生物学会(2023年)において発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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