2024 年 73 巻 1 号 p. 161-167
症例は95歳女性。20XX − 2年より,高血圧,慢性腎不全のため当院内科に通院中であった。20XX年8月の定期受診時のバイタルサインチェックにて,経皮的動脈血酸素飽和度(oxygen saturation of peripheral artery; SpO2)86%と低酸素血症を認めた。自覚症状およびチアノーゼはなし。精査目的での動脈血液ガス分析ABL800 FLEX(ラジオメーター(株),東京)において,動脈血酸素分圧(partial pressure of arterial oxygen; PaO2)がデータ未検出となり,本患者の動脈血酸素飽和度(arterial oxygen saturation; SaO2)とPaO2の値が乖離していることが判明した。低酸素血症をきたす呼吸器および循環器系の明らかな異常所見は認められなかったため,異常ヘモグロビン(hemoglobin; Hb)症が疑われた。外部委託した遺伝子検査の結果,低酸素親和性異常HbであるHb Yuda: α2-グロビン遺伝子のcodon 130 GCT(アラニン(alanine; Ala))→GAT(アスパラギン酸(aspartic acid; Asp))であることが明らかとなった。今回のように,無症状で臨床症状と合致しないSpO2低値を認めた際は,動脈血液ガス分析検査においてSaO2を確認するとともに,SaO2に比してPaO2が不釣り合いに高値である場合は,低酸素親和性異常Hb症の可能性もあることを認識しておく必要がある。