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資料
呼吸器疾患患者から分離されたAspergillus属菌の種類と抗真菌薬感受性―アスペルギルス属における抗真菌薬耐性の検討―
佐子 肇羽月 香子吉川 裕之斎藤 晴子
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2025 年 74 巻 1 号 p. 124-132

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Abstract

近年,肺非結核性抗酸菌(NTM)症を背景として発症する慢性肺アスペルギルス症(CPA)の合併例が増加傾向にある。今回我々は,2012年から2016年の5年間に当院で分離したAspergillus属菌について,簡易同定法で同定した菌種の種類,およびこれらの抗真菌薬感受性を検討した。分離菌はA. fumigatusが102株(44.9%)と最も多く,次いでA. niger 66株(29.0%),A. flavus 21株(9.3%),Aspergillus属(同定不能)21株(9.3%),A. terreus 13株(5.8%)およびA. nidulans 4株(1.8%)であった。A. fumigatusを分離した患者は70歳代高齢の男性に多く,同時に分離したNTMは,Mycobacterium aviumが多かった。一方,A. nigerを分離した患者は70歳代高齢の男女共に多く,M. aviumおよびM. intracellulareが多かった。これらを疾患別に見ると肺NTM症を背景にAspergillus属菌を分離している患者に多く認めた。抗真菌薬感受性は,ほとんどが良好な感受性を示したが,肺NTM症治療後にCPAを発症した患者で,ITCZおよびVRCZに耐性化したA. fumigatusの1例を経験した。その主な耐性機序はcyp51A遺伝子のM220の変異であった。アゾール系抗真菌薬の長期使用例では耐性株の出現を考慮し,定期的な感受性試験が必要と考えられた。

Translated Abstract

In recent years, the number of complicated cases of chronic pulmonary aspergillosis (CPA), which develops on a background of pulmonary non-tuberculous mycobacteriosis (NTM), has increased. In this study, we examined Aspergillus spp. isolated at our hospital during the 5-year period from 2012 to 2016, the species identified by a simple identification method, and their antifungal susceptibility. A. fumigatus was the most common isolate with 102 (44.9%), followed by A. niger 66 (29.0%), A. flavus 21 (9.3%), Aspergillus (unidentified) 21 (9.3%), A. terreus 13 (5.8%) and A. nidulans 4 (1.8%). Most of the patients from whom A. fumigatus was isolated were elderly men in their 70s, and the NTM isolated at the same time was Mycobacterium avium. On the other hand, patients with A. niger isolates tended to be both males and females in their 70s and older, and M. avium and M. intracellulare were more common. Looking at these by disease, many patients were found to have isolated Aspergillus spp. against the background of pulmonary NTM disease. Most of the isolates showed good antifungal susceptibility, but we experienced one case of A. fumigatus that became resistant to ITCZ and VRCZ from a patient who developed CPA after treatment for pulmonary NTM disease. Its main resistance mechanism was a mutation of genotype M220 in the cyp51A gene. In cases of long-term use of azole antifungal drug, periodic susceptibility testing was considered necessary in consideration of the emergence of resistant strains.

I  序文

Aspergillus属は環境中に幅広く生息し,また病院施設内の空調設備などからも多く検出される。易感染者が入院している病室では感染予防が重要となる。主に肺に感染する重要な菌種はA. fumigatusが最も多く,次いでA. nigerであるが,他にA. flavusA. terreusおよびA. nidulansなどの菌種が原因菌となることがある。感染は空気中に浮遊する胞子を吸入することによって経気道的に体内に侵入し,気管支,肺胞および空洞などの既存の気腔内に定着し感染するとされているが,Aspergillus属菌がどのように定着・増殖および真菌球を形成するかについては不明な点が多い1)~3)。慢性肺アスペルギルス症(chronic pulmonary aspergillosis; CPA)は気道や肺胞の損傷部位から生じるが,健常人ではCPAを発症することはないといわれている。CPAの背景には陳旧性肺結核が過半数を占めているが,徐々にその比率は低下し,肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria; NTM)症の頻度が増加してきている4)。CPAは肺に基礎疾患を有する患者に多く,肺NTM症においてCPAの発症頻度が高くなることが知られている。CPAの治療に用いるアゾール系抗真菌薬はAspergillus属に活性を有する薬剤であるが近年,イトラコナゾール(ITCZ)およびボリコナゾール(VRCZ)に耐性化したA. fumigatusが報告されている5)。肺NTM症を背景として発症するCPAは増加傾向にありITCZ長期投与が必要な患者では,二次耐性(誘導耐性)の増加が懸念されている。今回我々は,Aspergillus属の簡易同定法および自施設にて考案している抗真菌薬感受性検査法について検討し報告する。

II  材料と方法

2012年4月から2016年12月の5年間に喀痰および気管支洗浄液から分離したAspergillus属227株(227患者)を対象とした。

本検討は,独立行政法人国立病院機構大阪刀根山医療センター倫理委員会の承認(承認番号:TNH-P-2022001)を得て実施した。

1. 分離培養法

分離培養はサブロー・デキストロースCG寒天培地(日本BD:以下,SDA-CG)を用いた。検体の培地への接種は500 μLと小豆大程度の量を培地の中央部に塗り重ね,サージカルテープでシャーレの周囲を固定し,35℃,5%炭酸ガス培養で5日間培養した。

2. 属レベルおよび菌種レベル同定法

Aspergillus属菌の発育を確認後,ポテト・デキストロース寒天培地(日水製薬:以下,PDA)にL字形(鉤型)の白金線で極少量の菌糸を培地中央部に接種し,サージカルテープでシャーレの周囲を固定し,35℃,5%炭酸ガス培養で3~5日間培養した。但し,Aspergillus属菌の発育を確認した後,室温にて培養を継続した。

1) 肉眼的観察による同定法

PDAに発育したgiant colony(巨大集落)の色調,表面の性状および発育速度を観察した。

2) スライド培養法(slide culture method)による形態学的同定法

簡易スライド培養標本の作製

滅菌シャーレ(栄研化学)に5~7 mm角(正方型)に切り取ったPDAを置く。PDAの4か所(4辺)にL字形(鉤型)の白金線でPDAに発育したgiant colonyの極微量を接種した。滅菌したカバーガラスを被せ,ピンセットで軽く圧し培地に密着させた。シャーレの端に少量の滅菌水を滴下し,蓋をして,35℃,5%炭酸ガス培養で3~5日間培養した(Figure 1)。十分発育したらカバーガラスを静かに剥がしラクトフェノール・コットン青液(武藤化学)を滴下したスライドガラスに被せて直接顕微鏡下で観察した6)

Figure 1  簡易スライド培養法

形態学的にA. fumigatusと同定した株は50℃の生育温度試験(growth temperature test)を追加した。PDA培地に菌糸を摂取し,50℃のふ卵器で5日間培養後,発育の有無を確認した(Table 1)。

Table 1 Aspergillus属の生育温度試験

菌種 35℃ 50℃
A. fumigatus + +
A. niger* +
A. flavus +
A. terreus +
A. nidulans +
Aspergillus spp.** +

* A. nigerは42℃の発育可能

** 同定不能株

3. Aspergillus属菌の主要な5菌種の同定(Figure 2
Figure 2  Aspergillus属の鑑別性状

以下に示した形態学的性状から菌種同定を実施した。

1) A. fumigatus

Giant colonyの色調は,初め白色~青緑色,やがて灰緑色となる。形態学的性状は,フィアライド(phialide)は一段で,分生子柄の長さが300 μmであり,比較的短く,軽くうねっている。また50~55℃まで生育可能である。

2) A. niger

Giant colonyの色調は,茶黒く着色した分生子によってコロニー表面全体が黒い色調を呈する。形態学的性状は,分生子柄の長さが3,000 μmでありAspergillus属菌の中で最も長い。

3) A. flavus

Giant colonyの色調は,初め白色~緑色,やがて黄緑色となる。形態学的性状は,分生子柄の長さが1,500 μmで,A. nigerの半分の長さであるが,通常は長さ不定である。分生子柄の壁が厚く,表面粗造で小顆粒が見られ粗く棘状を呈する。

4) A. terreus

Giant colonyの色調は,シナモン色~黄褐色となる。形態学的性状は,分生子柄の長さが250 μmと短く,波うっている。

5) A. nidulans

Giant colonyの色調は,暗緑色となる。色調はA. fumigatusによく似ているが,発育速度が遅いことから鑑別は可能である。形態学的性状は,分生子柄が約100 μmとAspergillus属の中で最も短い。球形の厚膜細胞(Hülle cell;ヒューレ細胞)およびL字形の足細胞が見られる。

4. 抗真菌薬感受性試験

抗真菌薬感受性はAntifungal Susceptibility Testing of Yeast(酵母真菌薬剤感受性キットASTY:極東製薬)を応用し,微量液体希釈法で最小発育阻止濃度(MIC)値を測定した。本来,Aspergillus属の薬剤感受性試験はClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)液体微量希釈法(M38-A2, 2008)が利用されており,AMPH-Bおよびアゾール系薬は100%発育阻止を認める最小濃度をMICと判定し,キャンディン系薬では菌糸伸長が部分的に阻止されて生じた顆粒状の小菌塊を認める最小有効濃度(minimum effective concentration; MEC)を用いて薬剤感受性を測定している7)。今回我々はCLSI法と異なる以下の方法でアムホテリシンB(AMPH-B),フルシトシン(5-FC),フルコナゾール(FLCZ),ITCZ,VRCZおよびミカファンギン(MCFG)のMIC値の測定を実施した。

 Aspergillus属の菌液作成及び接種法

1)菌液調整はキット添付の調整液(A液)2 mLを2本用意し,1本に浸した綿棒でPDAに発育したコロニー集落表面の胞子部分を採取し,McFaland 1~2に調整する(菌濃度108 cfu/mL)。

2)中間層の菌液(胞子が均一な状態)200 μLを取り,残りの1本に加えて混和する(菌濃度107 cfu/mL)。

3)RPMI1640培地2 mL調整液(B液)に2)の調整菌液20 μLを加え,十分混和する(菌濃度105 cfu/mL)。

4)以後の操作は添付書に従って実施した。

 抗真菌薬判定時の注意点

MCFGは接種菌量が105 cfu/mL以上になると,顆粒状の菌塊を形成し,MIC値が高値を示すため,接種菌量を104 cfu/mLに調整した。接種菌量を調整することで,MECではなく,MIC値として測定することができる。

A. fumigatusA. nigerおよびA. flavusの(MCFG)MIC値判定は24時間培養とした。その他の薬剤は48時間培養でMIC値の最終判定とした。上記の3菌種よりも発育の遅い菌種であるA. terreusおよびA. nidulansの(MCFG)MIC値は48時間,その他の薬剤は72時間培養後,MIC値の最終判定とした。MICカテゴリーは判定した当時のEUCAST(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing)の判定基準(Version 8.0)を参照した8)

III  結果

1. Aspergillus属菌の分離状況

Aspergillus属分離菌は,A. fumigatusが102株(44.9%)と最も多く,次いでA. niger 66株(29.0%),A. flavus 21株(9.3%),Aspergillus属(同定不能株)21株(9.3%),A. terreus 13株(5.8%)およびA. nidulans 4株(1.8%)であった。Aspergillus属菌の主要な5菌種は,形態学的性状から90.7%と比較的容易に同定可能であったが,9.3%のAspergillus属菌が同定することができなかった。Aspergillus属菌は,42℃で5日間培養(ヒートショック)後室温に戻すと分生子が着生することがあるとされている。今回の検討では同定不能株のうち10株が分生子の着生を認めなかった。

2. Aspergillus属菌と同時に分離した非結核性抗酸菌(NTM)の内訳

Aspergillus属菌と同時にNTMを分離したのは69株/227患者(30.4%)であった。分離菌の内訳はM. avium 27株(39.1%),M. intracellulare 19株(27.5%),M. fotuitum 8株(11.5%),M. kansasii 7株(10.1%),M. abscessus 4株(5.8%)およびM. gordonae 4株(5.8%)であった(Figure 3)。

Figure 3  Aspergillus属菌と同時に分離した非定型抗酸菌(NTM)の内訳

3. 抗真菌薬感受性結果

MCFGは,いずれの菌種に対しても0.125 μg/mL以下の良好な成績であった。ITCZおよびVRCZのMICは比較的良好な成績であったが,A. fumigatusにおいてMICが8 μg/mL以上となる耐性株を1株(0.3%)認めた。また,A. fumigatusのITCZのMIC分布は0.25 μg/mLにピークを示したが,一方A. nigerのMICは1 μg/mLにピークがあり上昇傾向であった。AMPH-BのMICが2 μg/mL以上を示した株は,A. terreus 10/13株(76.9%),A. flavus 6/21株(28.6%)および同定不能Aspergillus属菌11/21株(52.1%)であったが,A. fumigatusおよびA. nigerでは認めなかった(Table 2)。

Table 2 Aspergillus属の抗真菌薬感受性

A. fumigatus(MIC μg/mL)

N = 102 ≤ 0.03 0.06 0.125 0.25 0.5 1.0 2.0 4.0 8.0 16 32 ≥ 64
AMPH-B 5 25 72
5FC 10 92
FLCZ 1 101
ITCZ 8 64 24 5 1
VRCZ 45 45 8 3 1
MCFG 99 3
A. niger(MIC μg/mL)

N = 66 ≤ 0.03 0.06 0.125 0.25 0.5 1.0 2.0 4.0 8.0 16 32 ≥ 64
AMPH-B 2 30 32 2
5FC 6 21 26 10 3
FLCZ 1 1 64
ITCZ 2 6 15 40 3
VRCZ 2 30 21 13
MCFG 55 8 3
Aspergillus属(同定不能株)(MIC μg/mL)

N = 21 ≤ 0.03 0.06 0.125 0.25 0.5 1.0 2.0 4.0 8.0 16 32 ≥ 64
AMPH-B 1 4 5 11
5FC 8 13
FLCZ 21
ITCZ 7 11 1 2
VRCZ 3 9 7 2
MCFG 16 5
A. flavus(MIC μg/mL)

N = 21 ≤ 0.03 0.06 0.125 0.25 0.5 1.0 2.0 4.0 8.0 16 32 ≥ 64
AMPH-B 1 3 11 6
5FC 1 7 13
FLCZ 1 20
ITCZ 1 3 14 3
VRCZ 1 11 8 1
MCFG 18 2 1
A. terreus(MIC μg/mL)

N = 13 ≤ 0.03 0.06 0.125 0.25 0.5 1.0 2.0 4.0 8.0 16 32 ≥ 64
AMPH-B 3 7 1 2
5FC 3 12
FLCZ 2 13
ITCZ 1 6 6 1 1
VRCZ 2 5 6 2
MCFG 13 2
A. nidulans(MIC μg/mL)

N = 4 ≤ 0.03 0.06 0.125 0.25 0.5 1.0 2.0 4.0 8.0 16 32 ≥ 64
AMPH-B 1 3
5FC 4
FLCZ 4
ITCZ 1 1 2
VRCZ 1 1 2
MCFG 4

4. アゾール系抗真菌薬に耐性化したA. fumigatusの1例

患者は74歳の男性,肺NTM症の診断で化学療法後,2007年にCPAと診断された。喀痰から分離したA. fumigatusは感性株(1,2回目)であった。治療は外来でITCZ経口投与にてフォローしていたが,2013年2月頃,呼吸苦および倦怠感,胸部X線で肺右下葉の浸潤影増悪傾向,アスペルギルス抗原(+),CRP 2.76 mg/dLおよびβ-D-グルカン300 pg/mLの上昇から加療目的で入院となった。入院後の喀痰(3回目)からITCZおよびVRCZに耐性化したA. fumigatusを分離した。患者の病状がやや安定していることからITCZを中止したが,後日喀痰からA. nigerを分離した。A. nigerの菌交代による活性化を疑いITCZの投与を開始した。その後A. nigerは消失したが,再びアゾール耐性A. fumigatusを(4回目)分離したためITCZを中止し,以降外来で経過観察となった(Table 3, Figure 4)。しかし,患者自身の都合により治療が中断となった。千葉大学真菌医学研究センターに分離株の解析を依頼した。菌種同定はβ-tubulin遺伝子の塩基配列解析および感受性はCLSI M38A-2に準拠した方法で実施したところ,同定・感受性は当院の結果と一致した。耐性遺伝子は,14α-ステロールデメチラーゼ(14α-sterol demethylases; Cyp51A)をコードする遺伝子(cyp51A)のシーケンス解析により,ゲノム株Af293と比較した結果,cyp51Aの変異があり,M220Kのメチオニンの置換により耐性化したことが明らかとなった。

Table 3 臨床経過中に4回測定したA. fumigatusの抗真菌薬感受性

2012.7
①回目
2012.12
②回目
2013.4
③回目
2013.9
④回目
AMPH 1 1 1 1
MCZ 2 4 > 16 > 16
ITCZ 0.25 0.25 > 8 > 8
VRCZ 0.25 0.25 8 4
MCFG ≤ 0.03 ≤ 0.03 ≤ 0.03 ≤ 0.03
5-FC 32 32 64 64
FLCZ > 64 > 64 > 64 > 64

MIC(μg/mL)

Figure 4  臨床経過

IV  考察

当院において5年間に呼吸器検体から分離したAspergillus属菌は,A. fumigatusおよびA. nigerの割合が全体の87%を占めていた。A. fumigatusが分離された患者は70歳代高齢の男性が多く,同時に分離したNTMはM. aviumが多かった。一方,A. nigerが分離された患者は70歳代高齢の男女共に多く,M. aviumおよびM. intracellulareが多い傾向にあった。M. kansasiiおよび迅速発育性抗酸菌(rapid growing mycobacteria; RGM)は男性のみに認められた(Figure 3)。疾患別ではどちらも肺NTM症が多く,男性患者では,喫煙歴,糖尿病などあり,結核既往歴,COPDを含む呼吸器の器質的疾患を有していた。肺NTM症を菌種別にみるとMAC(M. avium complex)が66.7%を占めていた。

今回,Aspergillus属菌の培養・同定に関して,喀痰を培養する際,通常の一白金耳量を培地に塗布すると培養陰性になることが多いので,500 μLをSDA-CGに塗布することにより検出感度を上げる工夫をしている。SDA-CGは喀痰に混在している雑菌などの発育をある程度阻止する利点がある。また,最初の分離培養は,25~27℃,好気培養が一般的な培養法であるが,35℃,5%炭酸ガス培養の方が集落の生育が良好である。炭酸ガス培養は好気培養よりも,ふ卵器中に保たれている湿度が,5日間と長く培養するため培地の乾燥を防いでくれる利点がある。逆にgiant colonyの培養にSDA-CGを用いると,Aspergillus属菌の特有の色調が出にくいためPDAを用いている。培養はシャーレの蓋の隙間をビニールテープなどで巻いて固定し,針で数か所に穴を開けて培養するのが一般的であるが,著者はサージカルテープを用いている。サージカルテープは通気性があり,ビニールテープと同様に内側の粘着成分によって,胞子などがシャーレの外へ出ることはないという理由からである。

Aspergillus属菌の形態学的同定に用いるスライド培養にはPDAを用いている。これはSDA-CGよりも分生子および胞子の着生が良いとされているからである9)。今回,主要な5菌種について,主に分生子柄の形態学的性状から同定を実施した。通常,Aspergillus属菌の同定は,頂嚢の形,フィアライドの着生範囲(頂嚢の全周,1/2~2/3など),分生子の形,大きさ,足細胞およびコロニーの色調などから精査するが,頂嚢から上の部分であるフィアライドや分生子などはスライド培養で,綺麗な標本が作製されないと同定が困難である。PDAに発育したコロニーのかき取り標本(tease mounting)を作製した場合,分生子柄がほぼ完成されているので,精査することが容易である。著者は主に分生子柄を同定のキーポイントとして「長さ,幅,壁の厚さ,壁面の粗,滑および歪み」などの形態学的性状から菌種同定を実施している。但し,標本を保存する場合はスライド培養の方が綺麗な標本を作製できる。これまでAspergillus属菌は形態学的性状から同定が行われてきたが,近年,遺伝子解析によって同一視されていた菌種の中に,別の菌種が含まれていたことが明らかになってきた。このような菌種は隠蔽種(cryptic species)または関連種(related species)と呼ばれている10)。今回の検討ではAspergillus属菌の同定不能が21株(9.3%)あった。そのうちAMPH-BのMICが2 μg/mL以上を示した株は11/21株(52.1%)であり,隠蔽種の可能性が疑われたが,1回のみの検出で起因性は不明であった。A. fumigatusの隠蔽種にはA. lentulusA. udagawaeA. viridinutans,およびA. thermomutatusなどが存在しているが,これらの菌種は本質的にポリエン系抗真菌薬やアゾール系抗真菌薬に対して低感受性を示すことがある。各菌種は集落の色調が白っぽく,42~45℃の範囲で生育可能である。A. fumigausは胞子形成能が高く,50~55℃まで生育可能であることから,50℃以上の生育温度試験は隠蔽種か否かの鑑別のポイントになる。A. fumigatusとの鑑別は特定遺伝子の塩基配列検索が必要であるため,専門機関に依頼する必要がある。

CLSIはAspergillus属に対して抗真菌薬の臨床的ブレイクポイントを公表していない。EUCASTは限定的ながらも,一部のAspergillus属に対するいくつかの抗真菌薬の臨床的ブレイクポイントを提案していることから,MIC値はEUCAST判定基準(Version 8.0)を参照した。EUCASTが提案するAspergillus属菌の感受性の解釈については,A. fumigatusに対するITCZおよびVRCZの耐性基準は > 2 μg/mLで,感性基準は ≤ 1 μg/mLとなっている。MICが2 μg/mLの株は中間(I)カテゴリーである。現在,薬剤耐性Aspergillus属菌はEUCASTが提案しているブレイクポイントに基づくことが多い11)

ASTYを応用した抗真菌薬感受性試験は,酸化還元反応呈色色素resazurinを利用したcoloriometric methodで,真菌の発育したウエルの色調が青からピンク色に変化することにより終末点を判定するため,目視判定が容易であった。また,接種濃度を調整することで,キャンディン系薬も他の薬剤と同様にMIC値として容易に判定することができた。CLSI法に準拠した方法は,手技が煩雑で,吸光度計が必要であることや保険収載されていないことから感受性検査を実施できる施設は限られている。今回の検討は,標準法と異なり経験に基づく方法であるが,ASTYによるAspergillus属菌の感受性検査手技は簡便である。また,結果は参考値ではあるが,感染症診療に貢献できると思われる。

抗真菌薬感受性の検討において,Aspergillus属菌分離株に対するMCFGの経年的なMIC値の上昇は認められず,優れた活性を有していた。アゾール系抗真菌薬のITCZおよびVRCZはAspergillus属に抗真菌活性を有する薬剤である。これら2薬剤のMIC値は良好な成績であったが,ITCZおよびVRCZのMIC値が8 μg/mL以上となる耐性株を,1株(0.3%)認めた。2010年以降の報告によると,地域差はあるがA. fumigatusのアゾール系薬耐性率は欧州・アジア各国を中心に約0.6~27%であった11)。また長崎大学病院ではITCZ(7.1%),VRCZ(4.1%)であったと報告されており,これまでの報告と比較して少数であった12)A. fumigatusのアゾール標的タンパク質lanosterol 14α-demethylaseはcyp51A遺伝子によってコードされており,cyp51Aの変異はアゾール系抗真菌薬耐性の主要なメカニズムである。cyp51Aの54,98,220番目のアミノ酸変異は高頻度に認められる変異である。G54,M220,TR/L98Hなどのいくつかの変異ホットスポット(領域)は,アゾール系抗真菌薬耐性の原因として特定されている13)。今回の症例は,cyp51Aの変異があり,残基220のメチオニンの置換により耐性化したことから,ITCZの長期投与がA. fumigatusにアゾール耐性を誘導することを確認した。文献によると,バリン,リジン,またはスレオニンに置換することが知られている14)

A. fumigatusに次いで多いA. nigerはCPAの病巣内でA. nigerの産生した蓚酸と組織中のカルシウムが結合して蓚酸カルシウム結晶を高率に作るユニークな特徴を有する。CPAでは喀血を繰り返し,緩徐な進行ながら難治性となることが報告されており,これは蓚酸カルシウム結晶の沈着が,喀血の原因の可能性がある。Wehmerは,1981年に蓚酸をA. nigerの発酵産物として最初に報告しており,この蓚酸は毒性があり,局所的な組織や血管に損傷を与えると考えられる15)。なお,喀血の患者48人から分離したA. nigerは16株(33.3%)で,そのうち蓚酸カルシウム結晶を認めたのが3/16株(18.8%)であった。蓚酸カルシウム結晶はアスペルギルス感染症の患者に常に検出されるわけではないが,その存在はA. niger感染の特徴と考えられ,日常の喀痰検査で簡単に識別できるため顕鏡時,注意深くグラム染色標本をスキャンすることが重要である(Figure 2)。A. nigerはITCZに感受性が低いとされているが,今回の検討ではアゾール系抗真菌薬に耐性を示すA. nigerを認めなかった。しかし,A. nigerはITCZのMIC値が1 μg/mL以上を示す株が43株(65.2%)認めたことから,今後の薬剤耐性の動向に注意が必要である。

A. terreusはAMPH-Bに自然耐性であることが知られているが,A. flavusもAMPH-Bに低感受性であることが示唆された。A. terreusおよびA. flavusはAMPH-Bに抵抗性であることから,その検出動向を注視していく必要がある。アスペルギルス感染症は,現在でも予後の悪い疾患であり,適切な抗真菌薬を用いた治療が必要となるが,抗真菌薬を選択する上で,薬剤感受性試験の結果は重要な指標となりうる。

V  結語

今回の検討において,アゾール系抗真菌薬耐性のA. fumigatusを検出した。その耐性機序はアゾール標的分子の変異が原因であった。患者はITCZの長期投与によりcyp51AのM220番目のアミノ酸変異が誘導され,ITCZおよびVRCZ耐性株が産生されたことが明らかになった。アゾール系抗真菌薬耐性A. fumigatusは世界的な拡がりが問題であり,環境株にも注意が必要である。アスペルギルス感染症は,現在でも予後の悪い疾患であり,適切な抗真菌薬を用いた治療が必要となるが,抗真菌薬を選択する上で,薬剤感受性試験の結果は重要な指標となることから,分離株の定期的な抗真菌薬感受性試験が必要であると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 謝辞

本論文の作成にあたり,A. fumigatusのアゾール耐性遺伝子解析をして頂きました千葉大学真菌医学研究センター バイオリソース管理室長 矢口貴志先生に深謝致します。

文献
 
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