日本看護科学会誌
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原著
看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセス
杉山 祥子朝倉 京子
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2017 年 37 巻 p. 141-149

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Abstract

目的:看護師は専門職として,自律性を発揮することが必要である.看護師が自律性を発揮する様相として,看護業務における自律的な臨床判断がある.本研究の目的は,看護師の自律的な臨床判断がどのように磨かれるのか,そのプロセスを明らかにすることである.

方法:臨床経験8年以上の看護師14名に半構成的面接を行った.研究方法論は修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを採用した.

結果:15個の概念から5個のカテゴリーが生成された.看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセスは,【知識を深める土台を築く】ことから始まっていた.看護師の自律的な臨床判断は,【育んだ技能を活用する】【自分以外の知識・技能を消化する】【判断の中身を振り返る】【知識と実践が深化する】の4つのカテゴリーを循環し磨かれていた.

結論:看護師の自律的な臨床判断は,看護師が自ら知識を蓄え,看護実践を省察することによって磨かれていた.

Ⅰ. 緒言

複数の職種が協働する医療現場において,看護師には専門職として自律性を発揮することが求められている.自律性とは,哲学的には自己決定の裁量であり,一般的には自分の意志に従う自由,自分の業務上の制御である(Oxford, 1989).これまでに,多くの研究者が専門職の成立要件として,自律性の重要性を強調してきた(Freidson, 1970/1992志自岐,1995時井,2002朝倉,2007Asakura et al., 2016高田ら,2016).Freidson(1970/1992)は,専門職の自律性を「仕事の内容と条件に対する統御権」と定義し,自律性こそが専門職の根本的特質要素であると述べた.また,Abbott(1988)は,専門職がもつ権限と業務の統制とは関係があると述べている.つまり,専門職がその職業における権限を有し,業務に関して統制をとることは,その職業に自律性があることを示唆する.したがって,看護師は専門職として自律性を発揮し,看護実践していくことが必要である.

一方で,看護師が自律性を発揮するには,困難な状況があることも指摘されている.その理由として,看護師は病院組織の被雇用者であり,労働条件について自主的なコントロールが困難であること(Freidson, 1970/1992天野,1972),日本の法制度的な特徴,つまり医師主導型のシステムにおいて,自律性を発揮しにくい文脈に置かれていることが挙げられる(朝倉,2014Asakura et al., 2016高田ら,2016).加えて,患者のニーズに応じて看護ケアを展開すること,チーム医療の「調整役」として患者の希望や主張と他職種の間を調整するため,看護師の自律性が見えにくいことも指摘されている(朝倉,2014).看護師が,専門職として患者の状況を的確に捉え判断を下し,看護実践していることを可視化するためにも,看護師の自律性を研究的に明らかにしていくことが必要である.

これまでに看護師の自律性は,看護師の役割,実践能力,臨床判断という言葉でそれぞれ表現されてきた.志自岐(1995)は,看護師の自律性を「看護師が専門職として主導権をとり,患者を擁護し,患者の権利を尊重する」と述べ,看護を実践する役割行動として示した.菊池・原田(1997)は,自律性を測定する尺度を開発するにあたり,認知能力,実践能力,具体的判断能力,抽象的判断能力,自立的判断能力の5つの能力を抽出した.Keenan(1999)は,概念分析を行った結果,看護師の自律性の特性を「熟考の上での行使,望ましいアウトカムをもたらす独立した判断」と結論付けた.朝倉・籠(2013)は,看護師の臨床判断を挙げ,看護師が業務について自律的に判断することで自律性を発揮している様相を明らかにした.

さらに,看護師の自律性に影響を与える要因についても探究されてきた.Varjus et al.(2011)は文献検討の結果,自律性に影響を与える要因として,魅力的な職場環境,教育,管理者の支援を報告した.看護師の自律性と関連がある要因として,性別,職務満足度,役割葛藤,役割の曖昧さ(Ilipoulou & While, 2010),看護師の経験年数(辻ら,2007Varjus et al., 2011),看護師が集団で目標を達成する能力(Bularzik et al., 2013)も報告された.しかしながら,これらの研究では,看護師の自律性に影響を与える要因を明らかにしたことにとどまっている.看護師の自律性が臨床における様々な影響を受けながら,どのように磨かれているのかを明らかにするためにも,さらなる研究が必要である.

看護師が自律性を発揮している様相のひとつとして,看護業務に関する自律的な臨床判断が挙げられる.看護師の自律的な臨床判断とは,看護師が自ら立てた規律に基づき,他職種の支配や助力を受けずに下される判断である(朝倉・籠,2013).新たな看護のあり方に関する検討会報告書(厚生労働省,2003)によると,「療養上の世話」は,看護師が自律的に判断してもよいと解釈できる.しかし実際には,清潔援助や食事の援助など療養上の世話について,看護師の側から医師に指示を求めているという状況がある(厚生労働省,2003).その一方で,「診療の補助」業務について,最終実施者として,医師の指示の内容を吟味し判断している様相が明らかになっている(朝倉・籠,2013).このような状況は,看護業務の内容が「療養上の世話」と「診療の補助」を明確に分けられないために生じていると考えられる.「療養上の世話」と「診療の補助」とが混在している状況において,看護師には,医師の指示に盲目的に従うのではなく,患者の状態やその場面を考慮したうえで自律的に臨床判断を下し,看護実践していると推測される.

看護師が自律的な臨床判断を下すためには,実践における高度な知識や技術が求められる.看護師の実践能力は,臨床経験を積み重ねる過程において向上することが認められている(上野ら,2002).しかし,看護実践を左右する看護師の自律的な臨床判断がどのような経験を通してどのように磨かれているのかを明らかにした研究は見当たらない.そこで本研究は,臨床で実践している看護師の自律的な臨床判断に焦点を当て,自律的な臨床判断がどのように磨かれているのか,そのプロセスを明らかにすることを目的とする.なお,本研究で使用する看護師の自律的な臨床判断とは,看護師が自ら立てた規律に基づき,他職種の支配や助力を受けずに下される判断(朝倉・籠,2013)とする.本研究の成果は,看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセスの具体的な様相を捉え,看護師の自律性に関する学術的な知識を蓄積することに貢献できる.また,看護師が専門職として自律的に看護を実践するための示唆を得ることができる.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,研究方法として修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下M-GTA)を用いた(木下,2007).看護師が働いている場には,同僚の看護師や患者,複数の職種との関わりにおいて相互作用がある.また,看護師の思考や行動は一時的な現象ではなく時間的なプロセス性がある.したがって,本研究では,社会的相互作用性とプロセス性のある事象を分析することに適しているM-GTAを方法論として用いた.

2. 対象者の選定

本研究の対象者は,一般病院一施設に勤務する臨床経験8年以上の役職についていない看護師15名程度とした.看護師は臨床経験を積み重ねる過程において,実践能力の上昇を認め,看護の専門職として成長している(グレッグら,2003).例えば,臨床経験が7年目の看護師の臨床判断は,表面的に表れている現象だけでなく,その現象の本質を探るように変化することが示唆されている(豊田ら,1992).加えて,10~12年目の看護師は,患者の全体を瞬時に捉えて判断していることが明らかになっている(小林ら,2015).これらの知見を踏まえ,本研究では臨床経験8年目以上の看護師を対象とした.なお,研究対象者は,臨床経験8年以上であることに加え,病棟師長が自律的かつ状況に対して柔軟に看護を実践していると判断した看護師とし,病棟師長から該当する看護師の紹介を受けた.紹介を受けた後,研究者より研究対象者へ研究の内容を説明し承諾を得た.

3. 調査期間

2014年4月から2014年7月.

4. データ収集方法

半構成的面接法で実施した.面接は一人につき一回,一対一で行い,プライバシーが確保できる個室を使用した.面接では,研究対象者が臨床において,自律的な判断が磨かれたと思う具体的な場面や経験,自律的な臨床判断が磨かれることに影響を与えたと思う要因などについて自由に語ってもらった.面接内容は,研究対象者の許可を得て録音し,内容を逐語録としてデータを収集した.

5. 分析方法

M-GTAの分析に基づき,分析焦点者を「臨床で実践している看護師」とし,分析テーマを「看護師の自律的な臨床判断はどのような出来事や経験から影響を受けて磨かれてきたのか」と設定した.逐語録の中から,研究対象者の自律的な臨床判断が磨かれるプロセスにおいて,影響を受けた場面や出来事,それに伴って生じた変化や行為に注目し解釈を行い,概念を生成した.生成した概念間の関係性を検討しカテゴリーを生成し,分析テーマに照らして全体の動きを説明する構成になっているか検討を重ねた.概念間とカテゴリーの関係性を検討し,データからの解釈に過不足がないことを確認したうえで理論的に飽和したと判断した.その概要をストーリーラインとして文章化し,結果図として示した.分析を遂行するにあたり,M-GTAを用いた研究の経験がある1名の研究者よりスーパーバイズを受けた.また,臨床での看護師経験を有し,質的研究の経験がある研究室の複数のメンバーから継続的に意見をもらい,分析結果の信憑性,明解性および確認可能性(Polit & Beck, 2004/2014)を確保した.

6. 倫理的配慮

本研究は,東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を受けて実施した(2014年2月24日承認).倫理委員会承認後,研究施設の院長ならびに看護部長に書面と口頭で本研究の主旨を説明し,書面にて同意を得た.研究への参加については,直接,研究者から研究対象者に研究の目的,内容を口頭と書面で説明し,書面にて同意を得た.なお,研究施設と対象者には,匿名性の確保,研究への参加の自由と中断の保障,研究参加による利益と不利益,データの管理方法,データは研究以外には使用しないことも説明した.

Ⅲ. 結果

分析の結果,15個の概念から5個のカテゴリーが生成された.以下,本文中,カテゴリーは【 】,概念は〈 〉,ヴァリエーションは“ ”,補足説明を( )で示す.

1. 研究対象者の概要

本研究の対象者は,臨床経験が8年から27年の看護師14名(男性2名,女性12名),年齢は32歳から50歳であった.本研究の対象となった全ての看護師は,複数の診療科での勤務を経験していた.

2. ストーリーライン(図1

本研究の対象となった看護師の自律的な臨床判断は【知識を深める土台を築く】ことから始まり,【育んだ技能を活用する】【自分以外の知識・技術を消化する】【判断の中身を振り返る】【知識と実践が深化する】というプロセスによって磨かれていた.

図1

看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセス

看護師は自律的な臨床判断を磨くために【知識を深める土台を築く】ことを行っていた.本研究の対象となった看護師は,看護を実践するための〈知識が不足していることに気付く〉こと,同僚や医師に怒られた経験を〈悔しい思いが勉強の動機になる〉と捉え,勉強する意欲へと繋げていた.彼らは,臨床経験を重ねていく過程で〈看護師としての役割を意識する〉ようになると同時に,自分よりも臨床経験の浅い〈後輩の出現がプレッシャーになる〉と感じたことを【知識を深める土台を築く】ための動機としていた.

本研究の対象となった看護師は,日々の看護実践を通して【育んだ技能を活用する】ようになっていた.彼らは,治療の経過が似ている患者を看護した経験を踏まえ〈ポイントを掴んで情報収集する〉ようになり,〈患者を観察する範囲が広がる〉というように育んだ技能を活用しながら看護を実践していた.また,スタッフ同士で〈円滑にコミュニケーションを図る〉場面においても育んだ技能を活用していた.看護実践において【育んだ技能を活用する】ことは,本研究の対象となった看護師が臨床判断に迷いや疑問を抱いた場合に,〈適した相談相手を確保する〉,〈多職種の方針をヒントにする〉というような複数の視点を導いていた.彼らは,自身の経験からのみ判断するのではなく〈他の看護師たちを真似る〉,自分あるいは〈同僚の失敗を自分の中に取り入れる〉方法によって,判断する際に注意すべき点を学ぶなど【自分以外の知識・技術を消化する】ことを行っていた.さらに,彼らは実践を振り返り〈類似した場面を想起し比較する〉過程で,患者に生じると思われる状態の変化や今後の経過を予測していた.また,自身の〈判断した内容を点検する〉作業は,その判断が適当な判断であったのかを省察する行為,すなわち【判断の中身を振り返る】行為を導いていた.

本研究の対象となった看護師による【判断の中身を振り返る】行為は,看護実践における【知識と技術が深化する】ことに繋がっていた.彼らが実践について改めて勉強する取り組みは,看護実践の〈根拠に対する理解が深まる〉という認識を促していた.また,〈知識と実践が結び付く〉ことによって,既存の知識や技術が修正・更新され【知識と技術が深化する】ありようを自覚していた.本研究の対象者における自律的な臨床判断は,知識と技術の深化を経て,再び【育んだ技能を活用する】カテゴリーに戻り,【自分以外の知識・技術を消化する】【判断の中身を振り返る】【知識と実践が深化する】という4つのカテゴリーを循環することによって磨かれていた.

3. 看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセスを構成するカテゴリー

以下,プロセスを構成する各カテゴリーについて説明する.各概念の定義と具体例は,表1に示す.

表1 自律的な臨床判断が磨かれるプロセスを構成するカテゴリーおよび概念の定義と具体例
カテゴリー 概念 定義と具体例
【知識を深める土台を築く】 〈知識が不足していたことに気付く〉 状況を理解するための十分な知識を有していなかったことに気付くこと.
D:自分が,あっここ見ておけば良かった(中略)その前に自分が勤務をしていて,気付かなかったなって思ったり.その時の失敗じゃないですけれども,もっとここを観察して見ておけば良かったとか,そういうのが積み重ねると,勉強にはこういう時はここ見ておこうっていうのになったりするっていうのもあるのかな.
〈悔しい思いが勉強の動機になる〉 知識や技術が不足しているために同僚や医師に怒られた経験によって悔しい思いを抱き,その思いが勉強する動機になったこと.
K:(先輩看護師に)怒られてまた怒られて,怒られたくないから勉強するみたいな.(中略)業務にとらわれて,患者さんを見られていなかったんだと思う.日々怒られて,次は絶対怒られないっていう思いで勉強したんだよね.
〈後輩の出現がプレッシャーになる〉 「後輩看護師」の出現により,自分自身が延々と教えてもらう立場ではいられないと自覚したこと.
F:ある時期を境に下の子を見なきゃいけなくなってきた.(中略)上のお姉さんに頼ってばっかりじゃなくて自分で考えなきゃっていうのを,そういう時に感じるんですかね.そういう時に,ちゃんと判断しなきゃいけないっていうのを感じるようになったと思いますね.
〈看護師としての役割を意識する〉 患者に関して“一番知っているのは自分たち”であることを認識しており,“看護師として判断しなきゃいけない”と看護師として役割を強く意識していること.
F:やっぱりなんだかんだで一番患者さんのことを知ってるのは自分たちだし,そこは先生に譲っちゃいけないところなのかなって思ったりするので.
【育んだ技能を活用する】 〈患者を観察する範囲が広がる〉 患者の訴え,既往歴,バイタルサイン,検査データなど“色んなことを加味して,患者に起こっていることを総合的に考える”ようになったこと.
D:しびれ一つにしても整形でしびれているのか,あと内科的にしびれているのか.(中略)訴えが聞けるように,考える項目が増えてきたというか.
〈ポイントを掴んで情報収集する〉 “1,2年目は,その患者さんに対して色んな情報を持ってないと不安だった”ため,患者に“付随する多くの情報”を収集していたが,臨床経験を積むことによって,患者を理解するために必要な情報の要点を掴めるようになったこと.
C:(患者の情報は)新人の頃はいらないものまで拾うようなタイプだったかもしれない.(中略)(今となっては)これだけは押さえておけば,自分の中である程度予測,(中略)経過が何となく分かるから.
〈円滑にコミュニケーションを図る〉 同僚や医師とのコミュニケーションが取れていることにより,報告や相談を気兼ねなく行えること.
B:(患者の援助について)やっぱりみんなそれぞれ考えるじゃないですか.その人にどうしたら,どうしたらその人がやりやすくなるのかとかっていうのは,みんな考えてるから自分と違う意見が出たときは,取りあえずはやってみようって言います.
【自分以外の知識・技術を消化する】 〈適した相談相手を確保する〉 患者の援助について,判断に困った場合,判断に悩んだ場合,最終的に判断の内容を相談する相手を考えていること.
C:聞いたことがない薬とかあったら,必ず薬,調べるようにしてて.副作用とかももちろん見てるし,(中略)どうしても調べても自分の経験でも分からない時には,薬剤師に聞いたり,もちろん先生に聞いたり,夜中構わず聞いた方が良いと思うし.あとは,聞ける人を確保っていうか,どうしても誰に最終的に聞いたらいいのかっていうのは考えるようにしてるかな.
〈多職種の方針をヒントにする〉 患者に関わる多職種の情報から,“今度はここを見なきゃいけないっていうのが分かる”など学びを得て,看護実践のヒントにしていること.
G:今後の判断っていうか,そういう考え方もあるんだっていう先生たちってそういう考えをしてるんだなとか.自分の中での解釈っていうか,自分のものになるじゃないですか,自分の知識のひとつとして増えていくかなっていう,(中略)そういう考えでそういう風にしたんだって思うものであれば,自分にプラスになるから.
〈他の看護師を真似る〉 看護実践において困った場合,援助に関して自分の手技に自身が持てない場合に,“先輩たちの呼吸器の管理をしてるっていうときに覗きに行く”など,他の看護師の実践を真似ること.
M:そういうやり方もあるんだって思うだけですよ.良いなと思う所は真似していきますけど.(中略)自分も人のを見て学んできたと思うので.人の手技とか.先輩から教えてもらったことはたくさんありますけど.
〈同僚の失敗を自分の中に取り入れる〉 同僚の看護師の失敗について“私も同じような失敗をするかもしれない”と受け止め,失敗を“未然に防ぐ技術を得たりする”ように対策を考えるなど“失敗から学ぶ”こと.
J:(同僚が)インシデント起こしたりとか,そういう失敗したことに関しては,(中略)そこの部分(失敗に至った経緯や対応)をみて報告しなきゃいけないんだなって.何かをみるに当たって,こう判断しなきゃいけないんだっていうのをプラスで学んでる気がする.
【判断の中身を振り返る】 〈類似した場面を想起し比較する〉 過去に経験した場面,あるいは自分自身が直接経験したわけではないが“病棟で聞いたり,チームは違うけど後輩がこうだって言ってた”場面を“思い出して比較し”判断に活かすこと.
H:肝硬変の方とか繰り返し入院されたりすると,なんか前にいた人と経過が同じだから,もうそろそろなのかなとか,なんとなくこう,今回帰れないかなとか思ったりするじゃないですか.(中略)なんかやっぱり前に見たのと一緒だなじゃないですけど.経過が似てて.
〈判断した内容を点検する〉 実践回数が少なく自分の判断に確信が持てない場合,あるいは,毎日のように実践している看護についても,その判断の内容を点検するように心がけていること.
H:(インスリンを)ご飯の量を見てから打つ,打たないの判断をするとか.(中略)何かおかしかったかなとか,自分の判断が間違ってたか確認してみる.
【知識と実践が深化する】 〈根拠に対する理解が深まる〉 看護実践において判断に至った理由を十分に理解していないと感じた場合に,再び勉強することで.臨床判断を“アセスメントとか根拠に基づいて出来るように”すること.
I:理由を知らずにやってると,根拠がないままやってるっていうことになるので.そういう事故とか,ミスとか,判断に繋がってしまうのかなって思って.自分でその根拠を勉強するなり,他の人,先生に聞くなり,手段をちゃんと選んで根拠を分かっておくっていうことをするようにしてきたんですけど.
〈知識と実践が結び付く〉 勉強会や学会で得た知識を患者への援助を通して実際に“体感してできるようになった”と感じ,看護実践の判断を下すためには,知識を豊富にすること,実践を積み重ねていくことの両方が重要であると認識すること.
E:アンモニアが高くなると,ちょっとまた脳症状が出たりとか,そういうデータとそういう病態っていうか起きてる症状とか,こう結びついてきてるっていうのを見たときに(中略)データもそうやって理解しながら,やっていくっていう,そこら辺を内科にいたときに学んだかな.

斜体は具体例.“ ”は生データ.( )は著者による補足.

1) 【知識を深める土台を築く】

このカテゴリーは,本研究の対象となった看護師が臨床判断を下すための知識が不足していることに気付き,看護師として必要な知識を蓄える土台を形成することであり,〈知識が不足していたことに気付く〉〈悔しい思いが勉強の動機になる〉〈後輩の出現がプレッシャーになる〉〈看護師としての役割を意識する〉の4つの概念から構成された.このカテゴリーにおける「土台」とは,本研究の対象となった看護師が,自分に備わった知識の不足に気付くこと,看護実践において「悔しい」という思いを抱くこと,あるいは自身の置かれている立場を意識することによって,看護実践に必要な知識を獲得しようとする準備状態にあることを意味する.彼らは,看護を実践するための知識や技術が不十分だったため,同僚や医師に怒られた様子を語った.また,自分よりも臨床経験が浅い「後輩看護師」の出現により,自分が指導する立場になることを自覚し,指導に必要な看護の知識を蓄えるために勉強した様子も語った.

2) 【育んだ技能を活用する】

このカテゴリーは,本研究の対象となった看護師が,患者の状態を的確に捉え判断を下すために,臨床で培った技能を活用することであり,〈患者を観察する範囲が広がる〉〈ポイントを掴んで情報収集する〉〈円滑にコミュニケーションを図る〉の3つの概念から構成された.彼らは,臨床での経験を通して培われた技能を活用しながら,患者に生じる変化を予測し,患者の看護に必要な情報を取捨選択するようになった様子を語った.

3) 【自分以外の知識・技術を消化する】

このカテゴリーは,本研究の対象となった看護師が,同僚や他の医療職の経験から,自分が経験したことのように学びを得ることであり,〈適した相談相手を確保する〉〈多職種の方針をヒントにする〉〈他の看護師を真似る〉〈同僚の失敗を自分の中に取り入れる〉の4つの概念から構成された.彼らは,自分の経験にのみ基づいて判断せず,同僚や他職種のアセスメントも参考にしながら判断する様子を語った.また,同僚が起こした失敗を自分の判断に活かす様子も語った.

4) 【判断の中身を振り返る】

このカテゴリーは,本研究の対象となった看護師が,自身が下すあるいは下した臨床判断について省察することであり,〈類似した場面を想起し比較する〉〈判断した内容を点検する〉の2つの概念から構成された.彼らは,過去に看護した患者の病態と目の前の患者の病態とを比較し,自身の判断に活かす様子を語った.また,自分の看護業務に関する判断を過信することなく,判断した内容を点検する様子も語った.

5) 【知識と実践が深化する】

このカテゴリーは,本研究の対象となった看護師が判断に至った根拠やその目的について改めて勉強することによって,既存の知識と実践との結び付きを認識することであり,〈根拠に対する理解が深まる〉〈知識と実践が結び付く〉の2つの概念から構成された.彼らは,自律的な臨床判断が磨かれるプロセスにおいて,看護の知識を得ること,あるいは実践の回数を重ねることのどちらか一方ではなく,知識を獲得しながら実践していくことの重要性を語った.

Ⅳ. 考察

本研究の結果から明らかになったことは,次の二点である.第一点目として,看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセスには,自律的な臨床判断に必要な知識や技術を獲得する動機が含まれていた.第二点目として,看護師の自律的な臨床判断は,看護実践を省察することにより磨かれることである.以下,これら二点について考察する.

1. 自律的な臨床判断に必要な知識や技術を獲得する動機

本研究の対象となった看護師にとって,同僚や医師に怒られた経験から生じる悔しさが,知識や技術を獲得する動機になっていた.高橋(2011)は,怒られたことが看護師の成長で意味を持つのは,怒られたことをきっかけにして自分で考えることが促され,怒られた理由を省察することが求められると述べている.省察とは,実践家たちが自分たちの過去の行為について批判的な考察を加えること,過去を省みることである(Schön, 1983/2007).本研究の対象となった看護師が抱いた「悔しい」という思いは,“次は絶対に怒られない”と彼らを奮起させ,彼ら自身の看護実践の省察を促し,【知識を深める土台を築く】ことにつながっていたと考えられる.

また,本研究の対象となった看護師は,〈同僚の失敗を自分の中に取り入れる〉ことにより,同じような失敗を繰り返さないための知識や技術を獲得していた.畑村(2000)は,他人の失敗も自分が経験しているかのように行うシミュレーションを「失敗仮想体験」と呼んでいる.「失敗仮想体験」とは,単に失敗事例を読むだけではなく,自らの意志で行動したように仮定し,そのときに起こる失敗を想定しながら現実にダメージを受けることなく頭の中で経験することである.本研究の対象となった看護師は「失敗仮想体験」を通して,自身の知識や技術を再確認し,【自分以外の知識・技術を消化する】ことによって,自律的な臨床判断を下すための知識や技術を獲得していたと考えられる.

さらに,本研究の結果は,怒られた経験や失敗した経験といったネガティブな経験への遭遇こそが,看護師の知識や技術を獲得する動機として重要であることを明らかにした.これまでは,教育学ならびに教育心理学の報告によると,成功した経験は,自信を育てることに有効であり(河合,1985),自己効力感の上昇を導く(中西,2004)と言われてきた.看護学では,成功した経験が臨床判断の開発や育成にとって重要であると言われている(岩田ら,2005中納・青山,2007野崎,2007).しかし,本研究の結果では,研究対象者が成功した経験よりもむしろ失敗した経験を語った.その理由として,医療は失敗しないことが当然であると期待されているため,たまに遭遇する失敗した経験は,より印象深く残る可能性がある.本研究の対象となった看護師にとって,怒られたあるいは失敗したというネガティブな経験は,看護師としての専門的な立場を自覚させ,【知識を深める土台を築く】ことを促していることが示唆された.

2. 看護実践を省察することによって磨かれる自律的な臨床判断

本研究の対象となった看護師は,看護実践において【育んだ技能を活用する】ことをしていた.具体的には,〈患者を観察する範囲が広がる〉ことや患者に関して〈ポイントを掴んで情報収集する〉ことである.また,彼らは〈類似した場面を想起し比較する〉ことで,患者の状況を捉え臨床判断を下していた.実践家は,自分の目の前にある現象に対して,判断する基準となる規範や評価,あるいは行動パターンの中にある方略や理論として,その現象に対して一定の「枠組み」をもつことが明らかになっている(Schön, 1983/2001Jarvis, 1998Tanner, 2006Alison, 2008).本研究の対象となった看護師も,患者の状態を判断する基準として「枠組み」を具備していたと推察され,先行研究を支持した.さらに,彼らはその「枠組み」を【育んだ技能を活用する】【自分以外の知識・技術を消化する】【判断の中身を振り返る】【知識と実践が深化する】というカテゴリーを通して,更新していたと推察される.

さらに,本研究の対象となった看護師の「枠組み」は,【育んだ技能を活用する】【自分以外の知識・技術を消化する】【判断の内容を振り返る】【知識と実践が深化する】というカテゴリーを絶えず循環することによって更新されていた.Jarvis(1998)は,実践家の「枠組み」は,専門的な知識あるいは個人の解釈が取り込まれ,新たな「枠組み」として更新されると述べている.また,看護師は経験した事柄をその場限りにせず,それを省察しながら自律的な臨床判断を開発していることが明らかになっている(朝倉・籠,2013江口・明石,2013).本研究の対象となった看護師は,看護実践で育んだ技能を活用し【自分以外の知識・技術を消化する】こと,【判断の中身を振り返る】ことを通して知識や技術の不足を補い【知識と実践が深化する】ことによって,絶えず「枠組み」を更新していたと考えられる.このように絶えず「枠組み」を更新することは,看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセスのひとつであると考えられる.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

本研究から抽出された理論は,一般病院一施設に勤務する看護師の語りから生成されたという限界はあるが,看護師の自律的な臨床判断を磨くことを支援するキャリア教育等に活用できる可能性はある.今後は,看護師の自律的な臨床判断の程度や状態,自律的な臨床判断に影響すると考えられる学歴やキャリアなどの個人的要因や職場環境の多様性について明らかにしていく必要がある.

Ⅵ. 結論

M-GTAを用いて,臨床経験8年から27年の看護師14名に面接調査を実施し,分析を行った.その結果,看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセスは,5つのカテゴリーから生成された.看護師の自律的な臨床判断は,自分の知識や技術の不足を自覚する【知識を深める土台を築く】ことから始まり,【育んだ技能を活用する】【自分以外の知識・技術を消化する】【判断の中身を振り返る】【知識と実践が深化する】ことを循環し磨かれていた.

謝辞:研究にご協力くださいました看護師の皆様,看護部長および看護師長の皆様に心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SS,KAは研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,原稿の作成までの研究プロセス全体に貢献した.著者らは最終原稿を読み承認した.

文献
 
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