2017 年 37 巻 p. 374-382
目的:植込型補助人工心臓(以下,VAD)装着患者の介護者の研究動向を明確にし,在宅における療養支援について検討する.
方法:国内文献は医学中央雑誌を,国外文献はMEDLINEとCINAHLを使用して検索を行った.文献のキーワードは,「補助人工心臓」,「介護者」,国外文献は,「VAD」,「caregiver」として2016年7月までの全文献を対象とし,25文献について検討した.
結果:研究のテーマは,「VAD介護者の経験(16件)」「VAD患者のセルフケア・教育に関する介護者の役割(5件)」「VAD患者と介護者の意思決定支援とエンド・オブ・ライフの課題(4件)」の3つに分類でき,すべて国外文献であった.3つのテーマに共通して介護者の負担が示されていたが,具体的な支援の報告はなかった.
結論:今後わが国のVAD介護者の経験を明らかにし,VAD介護者の負担軽減に向けた,在宅療養支援に関する研究の発展が望まれる.
重症心不全症状を呈する患者は,日常生活動作に支障をきたし,生活の質(QOL: Quality of Life)を保つことも難しくなる場合が多い.
重症心不全への最終的な治療法として心臓移植があり,移植登録をしてドナーを待つ患者は2017年1月の時点で561人にのぼる(日本臓器移植ネットワーク,2017).しかし,わが国における年間50件程度のドナー数では,移植にたどり着けず命を落とすケースも多く,平均3~4年という長期の移植待機期間を余儀なくされている現状である(日本心臓移植研究会,2016).
近年では,重症心不全に対する補助人工心臓(VAD: Ventricular Assist Device)の開発が進み,心臓移植を前提として移植登録を行う患者に対する,移植への橋渡しの治療として体内植込型のVADが2011年に保険償還されている(中谷,2015).植込型VADの適応は,心臓移植適応基準に準じて,年齢としては“65歳以下が望ましい”とされ,病態として静注用のカテコラミン投与を含む最大限の薬物治療やIABP(大動脈内バルーンパンピング),体外設置型VADに依存状態を適応としている(日本循環器学会/日本心臓血管外科学会,2014).
植込型VADの使用によって,心臓移植までの待機期間は在宅療養が可能となり,患者のQOL向上に大きく貢献している.
一方で,生命維持装置である植込型VADを装着し,在宅療養を行うには介護者の存在が必要不可欠になってくる.重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドラインによると,介護者は基本的に24時間機器のアラームが聞こえる範囲に居ることが望ましく(日本循環器学会/日本心臓血管外科学会,2014),在宅時や外出時も行動を共にする必要があり,その介護負担度は大きいのではと推測される.先行研究においても植込型VAD介護者は通常の介護と異なる意味で心配・不安等があるため,その支援の必要性が報告されてきている(Kaan, 2010).しかし,本邦において先行研究が限られており,具体的な支援体制が確立されないまま,現状に至っている.
そこで本研究は国内外の文献から,植込型VAD装着患者の介護者の研究動向を明確にし,在宅療養支援について検討することを目的とする.
VADには体外設置型と体内植込み型の大きく2種類がある(中谷,2015).体外設置型VADは,心室ポンプを体外に設置しており,入院によるケアが必要で退院ができないデバイスである.体内植込み型は,人工の心室補助ポンプを体内に植込み,駆動ケーブル以降は腹壁を通して体外へ導いたものである.バッテリー駆動により患者は外出も可能となり,現在のVADは体内植込み型が主流となっている.また,体内植込み型VADを装着し在宅療養するには,介護者はVADの知識や管理の手順を含めた教育をVAD実施施設で受ける必要がある(日本循環器学会/日本心臓血管外科学会,2014).
本研究において,在宅治療中の介護者に関する研究を明確にするため,VADとは植込型VADを指す.また,植込型左室補助人工心臓(LVAD: Left Ventricular Assist Device)の表記も同様のデバイスを示しており,含めて検討する.
2. データ収集方法研究対象の文献は,国内文献については医学中央雑誌Ver.5にて,国外文献はMEDLINEとCINAHLを使用して検索を行った.国内文献のキーワードと検索式は,「補助人工心臓AND(介護者OR家族介護者)」とし,国外文献のキーワードと検索式は,「(VAD (OR LVAD OR ventricular assist device OR heart assist devices OR mechanical circulatory support)) AND (caregiver (OR carers OR family caregiver))」とした.検索は2016年7月までに各データベースに収集されている全ての文献を対象とした.
文献の選定において,次の条件で検索を行った.①日本語または英語で書かれた文献であること,②補助人工心臓装着患者と介護者に焦点化された文献であること,③在宅療養にかかわる文献であること,④介護者について含まれていない文献は除外とした.これらの基準で検索し得られた文献と,「VAD」のみで検索した文献の中で,VAD患者の在宅療養において介護者に大きく関連すると考えるVAD装着に関する倫理的課題など,選定基準に合致する文献を2次的に収集した.
最初に抽出された文献は118件で,重複したもの16件,抄録での検討で56件をそれぞれ除外し,46件の文献を検討した.会議録やVADに特化していないものなど25件を除外し,2次的に収集した4件の文献を追加した.最終的に抽出された文献は25文献で,すべて国外の文献であった(図1).
補助人工心臓装着患者の介護者に関する文献選定のフローチャート
国別では,米国が16件,イタリア,スウェーデンが2件,カナダ,デンマーク,オランダ,オーストラリア,トルコがそれぞれ1件の報告であった.報告年度は2015年以降のものが12件と約半数を占めていた.
研究方法別にみると,質的研究が11件,量的研究が5件,総説,レビュー,メタ分析などの研究が4件,混合研究法が3件,ケーススタディや前向き調査研究が2件であった.研究のトピックとして大きく「VAD患者の介護者の経験」「VAD患者のセルフケア・教育に関する介護者の役割」「VAD患者と介護者の意思決定支援とエンド・オブ・ライフ・ケアの課題」の3つに分類できた.
1) VAD患者の介護者の経験VAD患者の介護者の経験に関する文献は16件であった(表1).介護者の思いを中心に記述されており,VAD患者の病期に沿って,心不全の時期から在宅療養に至る3つの時期に応じた介護者の経験を分析しているものが多かった(Magid et al., 2016).
著者/発表年度/国名 | 対象 | 目的 | 方法 | 主な結果 | 今後の課題 |
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Casida/2005/米国 | 3人のLVAD*患者の介護者/38~52歳の女性 | LVAD患者の介護者の経験の意味を明らかにする | 質的研究/現象学的アプローチ | 3つのテーマ ①精神的苦痛 ②決意 ③最善:命を延ばす |
・看護師や医療提供者は,介護者の課題を予期し対応する ・介護者のタイプを配偶者以外で検証する |
Kaan/2010/カナダ | 13人のVAD患者の介護者 | VAD装着し自宅退院した患者の介護者の生活の中での経験を明らかにする | 半構成的インタビュー調査/フォーカスグループインタビュー | 4つの主要なテーマ ①心配と不安 ②喪失 ③負担 ④対処(コーピング) |
・医療チームはVAD患者と介護者のための適切なサポートの提供を計画し,介護者のストレスのレベルを認識する |
Baker et al./2010/米国 | 6人LVAD*患者の介護者/(女性5人,男性1人) | 移植へのブリッジとして治療を受けた患者の介護者の経験を記述すること | 半構造化インタビュー調査 | 2つのテーマ ①犠牲を伴う ②変化する |
・移植を待っていないLVAD患者(DT†)に対する介護者の経験は異なるという可能性がある |
Marcuccilli & Casida/2011/米国 | 5人のLVAD患者の介護者 | 心臓移植へのブリッジまたはDT†として,LVAD装着している成人患者の介護者の,ライフスタイルの調整を探索し明らかにする | 半構成的インタビュー調査/現象学的アプローチ | ①介護とライフスタイルの調整は時間をかけて容易になる ②介護者がコーピングによってケアを生活の一部の役割として受け入れる |
・インタビュー人数が少ないため,インタビュー介護者以外に興味深い結果がある可能性がある |
Akbarin & Aarts/2013/スウェーデン | 6人のLVAD患者の配偶者の介護者 | LVAD介護者の経験を明らかにする | 半構成的インタビュー調査 | 主題コンテンツ ①感情的なジェットコースターに乗っている ②新しい状況に対処する ③新たな段階 |
・非配偶者の介護者とより多様なサンプルを含めることが必要である |
Egerod & Overgaard/2012/デンマーク | 7人のLVAD患者の近親介護者 | 介護者の理論を生成する | 半構成的インタビュー調査/フォーカスグループインタビュー | 2つのコアカテゴリー ①サポート ②自己防衛 |
・社会的サポートを有効にし,家族介護者を支援する |
Ozbaran et al./2012/トルコ | トルコでVAD装着した子供の母親8人 | 母親の不安や抑うつを測定する | STAI-S,BDI尺度/量的調査 | VADの長期間の使用は両親の苦痛を増大させる.精神鑑定と介護者の支援は,小児患者の幸福のために重要 | ・VADおよび移植プロセスについて両親と慎重に議論をする ・精神症状についての親の心理教育が必須である |
Kitko et al./2013/米国 | 10人のLVAD-DT患者の配偶者の介護者/ 女性5人,男性1人 | ステージDのHF~LVAD治療に至る患者の配偶者の介護者における経験を記述する | 半構成的インタビュー調査 | 3つの段階における介護者のケア提供の推移 ①心不全配偶者へのケア ②LVAD装着の意思決定 ③LVAD-DT装着配偶者へのケア |
・LVAD-DTを実施する前からの緩和ケアの導入と患者家族への説明が必要である |
Marcuccilli et al./2014/米国 | 7人のLVAD-DTの成人の家族介護者/50~74歳 | LVAD-DTにおける家族介護者の経験を探索する | 半構成的インタビュー調査/現象学的アプローチ | 5つの主要テーマ ①高度な心不全が人生を変えるイベント ②LVADの介護についての自己への疑いが時間の経過とともに改善 ③ライフスタイルの調整は時間が必要 ④持続的な心配ストレス ⑤介護は負担ではなく生活の一部 |
・多様な人種でさらに介護者の経験を検討する |
Brouwers et al./2015/オランダ | 33人のLVAD患者の家族介護者・414人のICD§患者の家族 | LVAD患者の介護者と,ICD患者の介護者の,健康状態,苦痛レベルを明らかにする | 多施設前向き観察研究 | LVAD患者の介護者は,ICD患者の介護者に比べて高い苦痛レベルを示す | ・患者の疾患の重症度,パートナーの併存疾患や心理的な夫婦のサポート体制,社会的支援,が潜在的に影響を与える可能性がある |
McIlvennan et al./2015/米国 | 10人のLVAD患者の介護者,6人の死亡したLVAD患者の介護者,1人のLVADを拒否した患者の介護者1人 | 介護者の経験を明らかにする | 半構成的インタビュー調査 | ①希望と現実の間の緊張と殺風景な意思決定の文脈 ②緊張と愛する人の命と希望を尊重したいという狭間の困難な決定プロセス ③感謝と負担の間の緊張と最終的な決断の結果 |
・多施設での男性介護者を含めたさらなる検討が必要である |
Kirkpatrick et al./2015/米国 | 42人のLVAD-DT患者の家族 | 1)LVAD-DT患者の介護者のQOLを特徴づける 2)LVAD-DT患者の介護に伴う負担を特定する |
mixed methods design/QOL尺度と質的研究 | ①心理学的QOLスコアが最も低く,社会的,スピリチュアル的,身体的サブスケールの順に低い ②VAD装着前の意思決定におけるストレス,心理的準備の欠如,自由への影響,任されること,毎日のポンプに対する心配という負担 |
・多施設での男性介護者を含めたさらなる検討が必要である |
Cicolini et al./2016/イタリア | 統合レビュー/2015年3月以前/18文献 | LVADの家族介護者の経験を明らかにする | 統合レビュー | 3つの主なテーマ ①精神的苦痛 ②責任 ③コーピングの戦略 |
・医療従事者の継続した支援が必要である |
Magid et al./2016/米国 | 質的研究のメタ分析/2000年~2014年 | 成人LVAD患者の介護者の介護に対する認識 | メタ分析 | 8つの文献にて,3つのドメインに分類 ①早期の段階(心不全悪化の時期):「感情的なジェットコースター」,「選択肢がない」 ②中期の段階(VAD装着後在宅療養への移行):患者の脆弱性と関連する不安,恐れ,過敏性 ③後期の段階(在宅での介護生活):BTT‡では希望,DTの介護者は未来への不確実性 |
・DT†のLVAD患者の介護者について焦点を当てる ・介護者をサポートするための方策を探る |
McIlvennan et al./2016/米国 | 8人のLVAD患者の遺族の介護者 | LVAD装着し終末期を経験した遺族介護者と患者の経験を理解する | 半構成的インタビュー調査 | 3つのテーマ ①LVAD患者の死へのプロセス ②死に近づいたLVAD患者の法的・倫理的に許容されるケア ③苦痛緩和とホスピスケアの断片化された統合 |
・多施設での検討を行う必要がある |
Ferrario et al./2016/イタリア | 16人のLVAD患者の死を経験した介護者 | LVAD介護者の遺族としての経験を明らかにする | アンケート調査/CMQ(喪に関するアンケート) | ①肯定的な側面:患者の全体的な主観的幸福と生存の増加 ②負の側面:感染症を管理する難しさとドライブライン,および患者の不完全な自律 |
・患者のEnd of Lifeに寄り添って早期の緩和ケア導入を行う |
* VAD;Ventricular assist device,LVAD;Left Ventricular assist deviceの表記の違いは本文中の表記に従って記述しているが同じものを指す
† DT;Destination therapyディスティネーションセラピー(長期在宅治療),‡ BTT;Bridge to plant移植への繋ぎ,§ ICD;Implantable Cardioverter Defibrillator体内埋め込み型除細動器
心不全増悪の時期では,介護者は患者の重篤な状態への不安について,「感情的にはジェットコースターに乗っている気分(Akbarin & Aarts, 2013)」と語り,急激な感情の起伏による精神的苦痛(Casida, 2005)を経験していた.
次にVAD患者の介護者は,VAD装着の意思決定から装着に至る時期において,新しい状況に対応する(Akbarin & Aarts, 2013)という,ライフスタイルの調整を行っていた(Marcuccilli et al., 2014).一方で,通常の家族の役割の喪失(Kaan, 2010)として,VAD装着によって今までの家族とは違った,「常に見守るという役割」を担うことが報告されていた.
在宅療養の時期では,命を延ばすために,VAD装着の判断が最善であった(Casida, 2005)という介護者の思いと,新たな段階(Akbarin & Aarts, 2013)として患者と介護者の新しい人生が始まっていることが述べられていた.
介護者の経験は,患者の心不全悪化の時期からVAD装着の時期,そして在宅移行の時期として段階を追って変化していた.これらの介護者の経験から,患者の状態に応じた時期別による医療者の継続した介入の必要性が報告されていた(Cicolini et al., 2016).
2) VAD患者のセルフケア・教育に関する介護者の役割セルフケア・教育に関する介護者の役割に焦点をあてた文献は5件であった(表2).介護者は患者のセルフケアを支援する中で,ストレスや負担を抱えることも報告されており,医療従事者チームにおける長期的な支援の必要性が示されていた(Kato et al., 2014).さらにVAD患者のセルフケアを支援するためには,介護者の自己効力感やアドヒアランスも影響するため,それに関する尺度開発が行われていた(Casida et al., 2015).今後は,介護者の自己効力感やアドヒアランスと実際の介護経過について検討していく必要性が報告されていた.
著者/発表年度/国名 | 対象 | 目的 | 方法 | 主な結果 | 今後の課題 |
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Iacovetto et al./2014/米国 | インターネット,印刷,およびLVADを考慮した患者が利用可能なマルチメディアリソース | 利用可能なLVAD教材の範囲と品質を特徴づけること | マルチメディアリソースのセルフケア支援パンフレットにおける内容分析 | LVADについて,範囲,内容,および教材の質を考慮した不十分な,いくつかのリソースが存在する. | ・患者中心の教育資源の今後の展開は,包括的,公正,かつ理解しやすいように目指す |
Kato et al./2014/スウェーデン | 総説 | LVAD装着後の患者のセルフケアについて | セルフケアと教育に焦点化した論文を用いた解説 | LVAD患者とその介護者による,長期的な3つのセルフケア活動 ①メンテナンス,②モニタリング,③マネージメント |
・構造化され,エビデンスに基づいたセルフケアに関する国際的な学習の最適な方法が必要 ・最適な評価とLVAD関連のセルフケアの改善により多くの研究は必要 ・医療チームからの長期的なサポートが必要 |
Iseler & Hadzic/2015/米国 | ミシガン州の 5人のLVAD患者,10人の介護者,48人のVADケアスタッフ | 包帯交換のためのプロトコルを標準化する目的のためにLVAD包帯交換キットと教育ビデオを開発すること | 質問紙調査とオンライン調査 | 2つのセパレートドレッシングキットとビデオは目標を反映し開発した.駆動系の感染率の若干の上昇があったが,肯定的なフィードバックを得た. | ・ビデオを使用した教育ツールの標準化と患者,介護者からの継続したフィードバック |
Casida et al./2015/米国 | 98人のLVAD患者の介護者 | LVAD患者の介護者のための自己効力感とアドヒアランスの心理測定的特性の評価スケールを作成する | LVAD介護者の自己効力感尺度(LCSS)とLVAD介護者のアドヒアランススケール(LCAS)の信頼性と妥当性の検証 | 2つのツールが自己効力感の十分な有効かつ信頼性の高い尺度であることを示唆している. | ・調査票の記入を対面式にするか,ランダムサンプリングを使用することによって,バイアスを調整 ・外部の測定基準を使用して基準妥当性をさらに実施 ・LVADケアの経過とLCASの結果の相関を検討 |
Barber & Leslie/2015/オーストラリア | 文献検討(過去5年)と,VADコーディネーター2人,栄養士・医療コンサルタント3人,皮膚ケア専門看護師2人,患者・介護者16人 | VADドライブラインのケアに関する教育小冊子を開発すること | 文献レビューと小冊子の開発,質問紙調査 | 文献レビュー後ピア,患者および介護者により評価し,効果的な小冊子を作製した. | ・常に新しいエビデンスを提供し,情報を更新する必要性 |
* VAD;Ventricular assist device,LVAD;Left Ventricular assist deviceの表記の違いは本文中の表記に従って記述しているが同じものを指す
意思決定支援とエンド・オブ・ライフ・ケアに関する文献は4件であった(表3).移植目的ではなく,長期在宅治療としてのVAD使用における課題として,患者のエンド・オブ・ライフ・ケアの質の担保,介護者の精神的な負担軽減を目指す必要性が述べられていた(Rizzieri et al., 2008).具体的には,緩和ケアチームの導入やエンド・オブ・ライフ・ケアのプロトコールの使用について報告がなされていた(Brush et al., 2010).また意思決定について,予後や合併症などより多くの情報に基づいて支援を行い,患者や家族のライフスタイルを見据えた情報提供の重要性が示唆されていた(Blumenthal-Barby et al., 2015).今後の課題として,意思決定支援やチームアプロ―チの重要性が挙げられていた.
著者/発表年度/国名 | 対象 | 目的 | 方法 | 主な結果 | 今後の課題 |
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Rizzieri et al./2008/米国 | 総説 | LVAD*-DT†の倫理的課題を明らかにする | DTの倫理的課題に関する論文を用いた解説 | ・重篤な合併症等で,生活の質に影響を受ける可能性があり終末期の軌道を変える ・精神的な負担が発生する可能性 ・社会的,財政的な影響 |
・LVAD-DTの今後の臨床研究では,患者の終末期ケアの質および介護者の負担の軽減を含むべき |
Brush et al./2010/米国 | 20人のLVAD-DT患者の介護者 | LVAD-DTの緩和ケア,EOL§の課題 | 質的記述的研究 | LVAD-DT患者とEOLの意思決定におけるその家族を含むプロトコールと他職種のチームアプローチは,ケアの継続を可能にし,EOLで快適さを保証する | ・LVAD-DT使用にあたり緩和ケアチームやEOLのプロトコールの使用 |
Blumenthal-Barby et al./2015/米国 | 各15人のLVAD患者,候補者,家族/45人 | 意思決定プロセスおよびLVAD装着に関する,患者とその介護者の情報や判断のニーズを調査する | Mix methods構成的インタビュー調査 | ・より多くの情報に基づいた意思決定支援 ・患者中心の意思決定プロセスは,ライフスタイルや技術的な問題が重要 |
・意思決定プロセスにおいて,特に移植の確率は入念に患者に伝達されるべきであり,定期的に報告する |
Thompson et al./2015/米国 | 24人のLVAD患者,20人の介護者,24人の臨床医 | LVAD-DTのための最初の国際患者の意思決定支援基準を開発する | 半構造化インタビュー | LVAD-DTのための最初の国際患者の意思決定支援基準を開発した | ・国際的意思決定支援基準の使用 |
* LVAD;Left Ventricular assist device,† DT;Destination therapyディスティネーションセラピー(長期在宅治療)§ EOL;End of Life
VAD患者の介護者に関する研究はすべて国外の文献であり,主に「介護者の経験」,「VAD患者のセルフケア・教育に関する介護者の役割」,「VAD患者と介護者の意思決定支援とエンド・オブ・ライフ・ケアの課題」の3つであった.VAD患者の介護者は,患者のVAD装着前から装着後,在宅療養という時間軸の中で,感情の大きな揺さぶりや,意思決定,ならびに生活の再構築を経験していた.また,VAD患者のセルフケアにおいても重要な役割を担いストレスを抱えていた.さらにエンド・オブ・ライフ・ケアの時期に介護者は,倫理的な意思決定による精神的な負担を生じる可能性があり,介護者の支援は大きな課題となっていた.しかし,VAD患者の介護者への支援について,誰が,どのように,どこまで介入するべきであるか,患者や介護者はどのような支援を期待しているかについて言及している報告は無かった.
介護者の経験として述べられていた3つの時期に応じた介護者の負担軽減に対する支援を検討することは,在宅療養を継続するにあたり重要である.特にわが国においてドナー心が世界的にみても少なく,心臓移植まで到達しえる症例は20%前後である(許ら,2010).心臓移植目的でVADを装着した患者も80%程度は移植にたどり着くことができずに人生を終えるといった現状である.よって,在宅療養における患者や介護者への支援は,緩和ケア的視点が不可欠であると考える.アドバンスド・ケア・プランニングやアドバンスド・ディレクティブなどを丁寧に行うことや,意思決定支援,セルフケア支援,生活の再構築の中での患者と介護者への寄り添いなどVAD患者の経過に応じた支援の検討が必要である.
欧米では,長期在宅治療として心臓移植対象とならない患者に対する緩和ケア的VAD装着がなされており,患者の生存率やQOLにおいて良好な成果を示している(Rose et al., 2001).わが国では,心臓移植への繋ぎとしてのみが保健償還されているが,深刻なドナー不足と高齢化によって2016年から長期在宅治療の治験がスタートしている(補助人工心臓治療関連学会協議会,2015).よって,長期在宅治療が導入されれば,移植対象から外れた高齢者やその他合併症を持つ患者もVADを使用し在宅療養が受けられるようになる.長期在宅治療は,患者のQOLを考える上で必要であるが,その反面,介護者の役割も移植への橋渡し以上に長期に及ぶことが予想され,継続した介入は避けて通れない課題になると考える.
今回検討した文献はすべて諸外国の研究報告であり,文化の違いを踏まえ,わが国におけるVAD患者と介護者の経験を明らかにし,在宅治療として訪問看護ステーションとの連携,独自の緩和ケアプログラムの開発を含む介護者の負担軽減に向けた研究の取り組みが必要である.
VAD患者と介護者の研究は2015年度以降の発表が半数を占め,主に「VAD患者の介護者の経験」に関するものが最も多く,すべて国外の文献であった.VAD装着の意志決定から装着後の経過に応じた介護者への支援内容を検討することが必要であり,わが国の背景を踏まえたVAD介護者の経験と,介護負担軽減に向けた在宅療養支援に関する研究の発展が望まれる.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:K.Nは論文の着想から検討,執筆に至る全過程において責任をもつ.M.Kは論文の検討と校正を行った.