日本看護科学会誌
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資料
初めてプリセプターの役割を担う看護職の認識
―任期3ヶ月目と6ヶ月目に焦点をあてて―
伊藤 歩美金井 好子大谷 忠広高田 幸子
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2021 年 41 巻 p. 184-191

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Abstract

目的:初めてプリセプターを担う看護職は任期3ヶ月目と6ヶ月目にどのような認識をもっているのか明らかにする.

方法:63名のプリセプターが受講した任期3ヶ月目と6ヶ月目のフォローアップ研修において,「困りごと・悩み・問題に感じていること」「プリセプターの経験において良かったこと」について記載した内容を質的記述的に分析した.

結果:3ヶ月目には【指導者としての技量不足】【自身の感情制御の難しさ】を感じながらも【指導の楽しさ】【自分の変化】に気がついていた.また,【新人に対する憂慮】の一方で【新人の成長】を感じていた.6ヶ月目には【自分自身と向き合う経験】を肯定的に捉えており,【指導方法の模索】を重ね,やりがいが生まれていた.さらに,【先輩との協働】の難しさとともに【部署の新人教育へのサポート体制】を実感し【先輩への感謝】の念をもっていた.

結論:プリセプターは自身,新人,部署の先輩に関して相反する認識をもちながら課題を解決し肯定的感情を高め役割を担っていた.

Translated Abstract

Purpose: To clarify perceptions among new preceptors in the third and sixth months of preceptorship.

Methods: Using a qualitative descriptive approach, we analyzed descriptions written by 63 new preceptors about “their experiences in terms of matters, worries, and problems” and “good experiences as a preceptor”. The preceptors wrote their descriptions in the third and sixth months of their follow-up training programs.

Results: The results of the analysis revealed that in the third month, preceptors felt that they “lacked technique as a mentor” and “had difficulty in controlling their emotions”; however, they also experienced “enjoyment from teaching” and noticed “changes in themselves”, felt “anxiety for the new nurses”, and perceived “growth among the new nurses”. In the sixth month, they regarded the “experience of confronting themselves” affirmatively and found it worthwhile to be a preceptor because it allowed them to “explore new teaching methods”. Moreover, although they experienced difficulty regarding “cooperation with their seniors”, they felt the “supportive system in their sections” and “thankful for their seniors”.

Conclusion: These findings suggest that the preceptors resolved their problems and experienced increasingly positive emotions while having contradictory perceptions for themselves, new nurses, and their seniors.

Ⅰ. はじめに

2010年度より努力義務化された新人看護職員研修により,新人看護職員(以下,新人)の離職率は低下し,研修制度は一定の成果を挙げている.新人の就業継続には,看護職としてのやりがいや先輩看護師への尊敬の気持ち(片桐・坂江,2016),今後について先輩と話ができたこと(今井・高瀬,2016)などが起因している.また,新人は就業継続のための効果的な支援者をプリセプターと捉えている(赤塚,2012).新人看護職員研修の成功裏には,臨床現場において直接的に新人と関わり良好な人間関係を築き,新人のやりがいを引き出す支援を行っていたプリセプターの存在が肝要であったと考えられる.

新人看護職員研修ガイドライン(以下,ガイドライン)においては,新人看護職員研修を行う組織体制の中で新人に対して臨床実践に関する実地指導,評価等を行う者として実地指導者が位置づけられている.組織体制の一例としてプリセプターシップが紹介されており,プリセプターシップの中で実地指導者にあたる役割をもつ者がプリセプターである(厚生労働省,2013).

プリセプターは,自己の知識・指導経験不足により指導への自信がなく,難しさを感じるなど負担が大きい役割であることが知られている(伊藤・宗像,2016馬場ら,2016).一方で,プリセプターの経験は看護専門職としての成長や認識の変化をもたらすことが知られており(寺澤,2003嶋津・麻原,2014),プリセプターは指導者でありながら看護職としての成長過程にある者といえる.ガイドラインには,実地指導者を支援するため定期的な研修開催の必要性が示されている(厚生労働省,2013).プリセプターへの研修を企画運営する教育担当看護職員は,定期的なプリセプター研修を効果的に開催するため,プリセプターの困りごとや悩み,問題に感じていること,プリセプターを経験していて良かったと感じていることに関する認識を時期別に把握する必要がある.プリセプターの知覚が経時的に変化していたことは示されているが(吉富・舟島,2007),新人看護職員研修が義務化されてからのプリセプターの認識を複数の時点から捉えた報告はない.新人看護職員研修義務化後のプリセプターの認識として,指導上の困難感に焦点を当てたもの(平野・小出,2018)や,自己効力感をどのように維持させていたのかという視点から捉えたもの(三品・織田,2018)があるが,プリセプターの認識を否定的側面・肯定的側面の両者から包括的に捉えた報告は見当たらない.本研究では,プリセプターが記載した「困っていること・悩んでいること・問題に感じていること」,「プリセプターを経験していて良かったと感じていること」の内容を時期別に分析することにより,プリセプターは任期3ヶ月目と6ヶ月目にどのような認識をもちながら初めての指導的役割を担っているのか明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 対象者

2017年度にA大学病院において初めてプリセプターの役割を担った63名.

対象施設看護部では,プリセプターはクリニカルラダーレベルI以上,経験年数2年以上の助産師または看護師が選定の基準となっている.対象施設のクリニカルラダーIは,日本看護協会版看護師のクリニカルラダーIと対応している(日本看護協会,2016).

2. データ収集方法

対象施設では,実地指導者研修の一貫として,初めてプリセプターを担う看護職を対象に定期的なフォローアップ研修を開催している.2017年6月の「3ヶ月フォローアップ研修」と2017年10月の「6ヶ月フォローアップ研修」の中で行われた「困っていること・悩んでいること・問題に感じていること」,「プリセプターを経験していて良かったと感じていること」のワークにおいてプリセプターがワーク用紙に記載した内容を本研究におけるデータとした.

3. データ分析方法

それぞれのワーク用紙の記載内容を質的記述的に分析した.記載内容を熟読し,意味内容ごとの記録単位を抽出した.記録単位の内容を比較し,類似性のあるものをまとめコード化した.その作業を繰り返し,抽象度を上げカテゴリー化した.分析の過程において,質的研究と看護教育の経験のある共同研究者で意見が一致するまで検討を行うことにより,データ分析の妥当性の確保に努めた.「困っていること・悩んでいること・問題に感じていること」と「プリセプターを経験していて良かったと感じていること」についてそれぞれ時期別に分析を行った.

4. 倫理的配慮

対象者が参加した2018年1月の「プリセプターまとめ研修」において本研究の概要と,研究への参加は自由意志であり研究への参加に不同意の場合には個人のデータを削除することが可能であること,研究不同意の申し出をしたことによる不利益が生じないこと,個人情報保護,研究成果の公表について口頭・文書による説明を行った.ワーク用紙に記載した内容と対象者の個人情報は完全に切り離してデータとすること,過去の研修内のワークで記載された内容をデータとして扱うため研究参加によって新たな時間的負担等の不利益は生じないことを説明した.研究の説明は,対象者とは異なる部署に所属し,対象者と同じ職位の看護師である研究者が行うことで対象者へ研究参加への強制力がかからないよう配慮した.研究への参加について検討する時間を充分に与えるため,不同意受付期間を6ヶ月間確保した.また,不同意を申し出るための連絡先は研究の説明を行った研究者とした.本研究は,群馬大学人を対象とする医学系研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号2017-238).

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要

対象者は,助産師2名と看護師61名であった.経験年数は2年37名,3年20名,4年4名,5年と6年はともに1名ずつであった.所属部署は病棟50名,治療室(集中治療室・新生児集中治療室・手術室)13名であった.

2. 初めてプリセプターの役割を担う看護職の認識

初めてプリセプターの役割を担う看護職が困っていること・悩んでいること・問題に感じていること,プリセプターを経験していて良かったと感じていることについて時期別に示す.コードを「 」,サブカテゴリを〈 〉,カテゴリを【 】で表す.

1) 初めてプリセプターの役割を担う看護職が任期3ヶ月目にもつ認識

分析結果を表1に示す.

表1  初めてプリセプターの役割を担う看護職が任期3ヶ月目にもつ認識
困っていること・悩んでいること・問題に感じていること
カテゴリ サブカテゴリ コード
指導者としての技量不足 指導方法の不確実さ 指導が上手くいかずとまどっている 
新人の業務をどこまで手伝って良いのかわからない 
経験者の新人への指導に悩む 
指導方法が分からない 
伝えたいことの伝え方に悩む 
他の人がどのように指導しているのか気になる 
自分の仕事をしながら教えることが難しい
自信をもって指導することの難しさ 自分の指導に自信がもてない 
自分自身の方が知識不足で申し訳ない気持ちがある
指導時間の不足 指導する時間が十分に確保できない
新人のメンタルフォローの難しさ 新人のメンタルフォローができていない 
インシデントを経験した新人への声掛けが分からない
自身の感情制御 自身の思考・感情制御の難しさ 新人に厳しくしてしまい手加減が困難 
新人に多くを求めてしまう
新人への理解不足 新人の現状把握の難しさ 新人の到達度や理解度を把握することが難しい
新人の思考行動の理解への難しさ 新人が何を考えているかわからず困る 
新人の行動が自分の予想と違う 
新人の考えや気持ちが理解できない
新人との関係性構築 新人と一緒にいることへの疲労感 指導のため平日5日勤が大変だ 
新人と一緒にいることで疲れてしまう 
ずっと一緒にいることがストレスになる
新人と関係性を築くことの難しさ 新人が異性であり距離感がつかみにくい 
信頼関係をうまく築けない 
新人との距離の取り方がわからない
新人に対する憂慮 新人の不十分な業務遂行能力 新人の業務遂行能力が不十分である 
新人が「大丈夫」と言うが大丈夫ではない
新人の成長度合いへの懸念 新人の進捗状況が心配である 
新人同士の成長の差に焦る
新人の特性に対する心配 新人が自己表現が苦手なタイプである 
チームワークの面で心配がある
新人の精神面への心配 他の新人との差を感じている新人を心配している 
新人が落ち込んでおり精神的なフォローが必要となっている
新人の社会人としての未熟さ 先輩や患者さんに対する新人の態度が気になる
先輩との協働 新人教育に関する先輩の否定的な態度 先輩からのプレッシャーにより板ばさみ状態 
新人さんに対する先輩の否定的な態度
先輩との情報交換不足 アソシエーターと情報共有が不足している
プリセプターを経験していて良かったと感じていること
カテゴリ サブカテゴリ コード
自分自身の成長 学習の機会の増加による知識・技術の向上 自分の知識・技術・アセスメントの再確認になった 
新人指導を通して学習の機会が増えた 
自分の知識・技術が向上した 
経験者である新人から学ぶことができる 
学習意欲が高まった
自分自身の看護を振り返ることによる成長の実感 自分自身の成長につながった 
業務が円滑化した 
自分の看護を振り返る機会になった 
新人と一緒にやりがいを感じ成長している
指導の楽しさ 教えることの楽しさ 教えることが楽しい
教えることによる考える機会の増加 教えることで考える機会ができた
自分の変化 自分の感情の変化 初心にかえれた 
仕事に対する責任感をもてた 
自分の変化に気が付いた
新人との良好な関係性 新人から頼られることの嬉しさ 新人から頼られていることが嬉しい
新人との良好な関係性の構築 新人と良い関係性を築けている 
後輩ができて嬉しい 
新人の人柄がよい
新人の成長 新人の成長を感じられる嬉しさ 新人の成長を見守ることができて嬉しい 
新人が笑顔で患者さんと接している姿を見ると嬉しい
新人の姿により励まされること 新人の頑張っている姿に励まされる
部署の新人教育へのサポート体制 先輩からの良い評価 先輩に担当の新人を褒めてもらえた 
上司や先輩に指導について認められると嬉しい
部署全体での新人教育 職場の上司・先輩との会話が増え関係が良好になった 
新人を部署全体で見守ってくれている 
病棟全体で新人を指導していこうと意気込んでいる
先輩への感謝 先輩の気持ちへの気づきと感謝 先輩たちの気持ちが分かり感謝している

(1) プリセプターが困っていること・悩んでいること・問題に感じていること

6カテゴリが導かれた.【指導者としての技量不足】では,「指導が上手くいかずとまどっている」ことや「指導方法が分からない」といった自身の〈指導方法の不確実さ〉,〈自信をもって指導することの難しさ〉を感じていた.また,自身の業務と並行して新人指導を行わなければならないことによる〈指導時間の不足〉,〈新人のメンタルフォローの難しさ〉を感じていた.【自身の感情制御】では,初めて指導者となり「新人に厳しくしてしまい手加減が困難」「新人に多くを求めてしまう」といった〈自身の思考・感情制御の難しさ〉を感じていた.【新人への理解不足】では,新人の業務遂行の到達度や理解度に関する〈新人の現状把握の難しさ〉と,〈新人の思考行動の理解への難しさ〉の2側面から新人を理解することの難しさと理解不足を感じていた.【新人との関係性構築】では,指導のために継続して新人と同じ勤務帯での勤務を行っていることから〈新人と一緒にいることへの疲労感〉があること,「新人との距離の取り方がわからない」といった〈新人と関係性を築くことの難しさ〉を感じていた.【新人に対する憂慮】では,〈新人の不十分な業務遂行能力〉を問題であると認識し,〈新人の成長度合いへの懸念〉を持っていた.そして,「新人が自己表現が苦手なタイプである」など〈新人の特性に対する心配〉や〈新人の精神面への心配〉,〈新人の社会人としての未熟さ〉など新人に対する憂慮の念を抱いていた.【先輩との協働】では「先輩からのプレッシャーにより板ばさみ状態」にあることを感じるような〈新人教育に関する先輩の否定的な態度〉に悩み,新人指導をする上で必要な〈先輩との情報交換不足〉を問題であると感じていた.

(2) プリセプターを経験していて良かったと感じていること

7カテゴリが導かれた.【自分自身の成長】では,新人へ指導をするために〈学習の機会の増加による知識・技術の向上〉を感じ,さらに「自分自身の看護を振り返ることによる成長の実感〉を得ていた.【指導の楽しさ】では,〈教えることの楽しさ〉に加え,〈教えることによる考える機会の増加〉を実感していた.【自分の変化】では,「初心にかえれた」と感じるなど〈自分の感情の変化〉に気がついていた.【新人との良好な関係性】では,〈新人から頼られることの嬉しさ〉と,〈新人との良好な関係性の構築〉があった.【新人の成長】では,プリセプターを経験することで〈新人の成長を感じられる嬉しさ〉を感じ,さらに〈新人の姿により励まされること〉もあった.【部署の新人教育へのサポート体制】では,新人や自分の指導について〈先輩からの良い評価〉が得られ,「新人を部署全体で見守ってくれている」ことを感じ〈部署全体での新人教育〉体制があることを実感していた.【先輩への感謝】では,〈先輩の気持ちへの気づきと感謝〉の念が生まれていた.

2) 初めてプリセプターの役割を担う看護職が任期6ヶ月目にもつ認識

分析結果を表2に示す.

表2  初めてプリセプターの役割を担う看護職が任期6ヶ月目にもつ認識
困っていること・悩んでいること・問題に感じていること
カテゴリ サブカテゴリ コード
指導方法の模索 指導方法の悩み 経験者の新人への指導に悩む 
伝えたいことの伝え方に悩む 
教育方針に悩む 
新人の性格に合わせた指導の仕方に悩む 
業務に追われている新人への指導は負担になると思い気を遣う 
インシデントを経験した新人への指導方法に悩む
勤務のすれ違いによる指導不足 勤務が合わないなかでの指導方法の悩み 勤務が合わず新人の状況把握ができない 
勤務が合わず指導の機会が減ってしまった 
勤務が合わないなかでの指導方法に悩む
新人への理解不足 新人の現状把握の難しさ 新人の成長度合いを把握できていない
新人の思考を理解することの難しさ 新人の表現が少なく考えが理解できない
新人との関係性構築 新人と関係性を築くことの難しさ 新人との距離感が分からない 
スタッフが多いので深く関われていない 
貴重な休日に食事に誘うのは気が引ける
新人に対する憂慮 新人の不十分な業務遂行能力 新人の業務におけるコミュニケーションに問題があると感じる 
新人が一人で判断してしまう 
新人は独り立ちをしているのに自主性がない
新人の成長度合いへの懸念 新人の業務の進捗状況が心配である 
新人の成長の遅れを感じる 
1年生同士で差ができていることに慣れきっているようにみえる 
新人の進捗状況が遅れていて焦りや疲れを感じる 
自分の担当の新人を基準にして新人同士を比較してしまう
新人の精神面や体調への心配 新人同士の進捗状況に差が出てきて新人のモチベーションが心配だ 
新人がどのような悩みを抱えているのか分からず心配だ 
新人の帰宅時間が遅いので体調が心配だ
新人の社会人としての未熟さ 新人の社会的なマナーが不足している 
仕事への慣れにより新人の言葉遣いや患者対応が変わった
先輩との協働 新人教育に関する先輩の否定的な態度 自分が見ていない場面について指導をするよう先輩から言われる 
先輩が新人のことや自分と新人の関係性をどう思っているか不安 
新人に対する先輩たちの否定的な態度に困惑している
先輩との連携不足 プリセプターと他の先輩が考える新人の目標にズレがある 
アソシエーターや他の先輩と情報共有ができていない 
プリセプターとアソシエータ―の役割分担ができていない
プリセプターを経験していて良かったと感じていること
カテゴリ サブカテゴリ コード
自分自身の成長 指導を通した学習機会の増加 自分の知識・技術・アセスメントの再確認になった 
新人指導を通して学習の機会が増えた 
経験者である新人から学ぶことができる 
学習意欲が高まった 
研修で他部署のプリセプターと情報共有ができる
自分自身の看護を振り返ることによる成長の実感 新人と一緒に学びを深め成長できた 
自分自身の看護の振り返りができ業務が円滑化した 
自分自身の看護の振り返りができた
指導の楽しさ 指導者の立場の楽しさ 教えることは難しいが楽しく,指導者の立場が嬉しい
良い刺激になっている指導者の責任 人を指導することやその方法について考えた 
指導者としての責任が意欲を高める良い刺激になっている
自分自身と向き合う経験 自分自身に向き合うことによる視野の拡大 初心にかえることができた 
自分自身に向き合い,自分を知った 
仕事に取り組む際に視野が広がった
新人との良好な関係性 新人から頼られていることの実感 新人に頼られていることを実感した 
新人が自分を頼ってくれると嬉しく,やりがいを感じる
新人との良好な関係性の構築 新人が心を開いてくれ気軽に話ができるようになった 
後輩と関わる機会が増えたこと
新人の成長 新人の成長を見ることのできる嬉しさ 新人のできることが増え成長している姿を見ることができる 
仕事を辞めずに一生懸命頑張ってくれていることが嬉しい 
新人が仕事に慣れ楽しそうに働いていると安心する
新人の成長により感じるやりがい 新人の成長により励まされ,やる気・やりがいにつながる
部署の新人教育へのサポート体制 先輩からの良い評価 先輩から自分の指導を褒めてもらえる 
先輩から新人の良い評価をきくと嬉しく感じる
部署全体での新人教育 病棟全体で新人教育をしていると実感できた 
自分から先輩に話しかけたり相談することが多くなった
先輩への感謝 先輩の苦労への気づきと感謝 先輩たちの苦労が分かり感謝している

(1) プリセプターが困っていること・悩んでいること・問題に感じていること

6カテゴリが導かれた.【指導方法の模索】では,「新人の性格に合わせた指導の仕方に悩む」ことや,「インシデントを経験した新人への指導方法に悩む」といった具体的場面での〈指導方法の悩み〉があった.【勤務のすれ違いによる指導不足】では,6ヶ月が経過し新人との「勤務が合わず指導の機会が減ってしまった」ことに困るなど〈勤務が合わないなかでの指導方法の悩み〉があった.【新人への理解不足】では,「新人の成長度合いを把握できていない」と感じるなど〈新人の現状把握の難しさ〉と,〈新人の思考を理解することの難しさ〉を感じていた.【新人との関係性構築】では,6ヶ月が経過しても依然〈新人と関係性を築くことの難しさ〉があった.【新人に対する憂慮】では,〈新人の不十分な業務遂行能力〉と,入職して6ヶ月が経過し「新人の成長の遅れを感じる」ようになり〈新人の成長度合いへの懸念〉を持っていた.また,〈新人の精神面や体調への心配〉があった.さらに,「仕事への慣れにより新人の言葉遣いや患者対応が変わった」ことなど〈新人の社会人としての未熟さ〉を認識していた.【先輩との協働】では,「自分が見ていない場面について指導をするよう先輩から言われる」などが含まれる〈新人教育に関する先輩の否定的な態度〉に困っていた.また,「プリセプターと他の先輩が考える新人の目標にズレがある」など〈先輩との連携不足〉を感じていた.

(2) プリセプターを経験していて良かったと感じていること

7カテゴリが導かれた.【自分自身の成長】では,新人への〈指導を通した学習機会の増加〉と,〈自分自身の看護を振り返ることによる成長の実感〉が得られていた.【指導の楽しさ】では,教えることの難しさの一方で〈指導者の立場の楽しさ〉を感じ〈良い刺激になっている指導者の責任〉を実感していた.【自分自身と向き合う経験】では,プリセプターとして新人指導を行う中で〈自分自身に向き合うことによる視野の拡大〉を認識していた.【新人との良好な関係性】では,〈新人から頼られていることの実感〉が得られており,6ヶ月が経過し「新人が心を開いてくれ気軽に話ができるようになった」など〈新人との良好な関係性の構築〉を実感していた.【新人の成長】では,「新人が仕事に慣れ楽しそうに働いていると安心する」など〈新人の成長を見ることのできる嬉しさ〉を感じ,さらに〈新人の成長により感じるやりがい〉につながっていた.【部署の新人教育へのサポート体制】では,自分の指導や新人について〈先輩からの良い評価〉が得られ,〈部署全体での新人教育〉の実感があった.【先輩への感謝】では,〈先輩の苦労への気づきと感謝〉を覚えていた.

Ⅳ. 考察

1. 初めてプリセプターを担う看護職の任期3ヶ月目と6ヶ月目における認識

3ヶ月目には,初めての指導を行うなかで【指導者としての技量不足】や【自身の感情制御】を困難と感じる一方で【自分自身の成長】【指導の楽しさ】【自分の変化】を感じていた.また,【新人との関係性構築】と【新人に対する憂慮】の一方で【新人との良好な関係性】を構築させ【新人の成長】を感じていた.さらに,【先輩との協働】の難しさを感じる一方で【部署の新人教育へのサポート体制】を実感し【先輩への感謝】の気持ちをもっていた.

6ヶ月目には,【指導方法の模索】を続けているものの【自分自身の成長】や【指導の楽しさ】を実感し自分の変化を【自分自身と向き合う経験】と意味付けていた.3ヶ月目と同様に【新人との関係性構築】と【新人に対する憂慮】はあるものの【新人の成長】を指導者としてのやりがいにつなげていた.【先輩との協働】における課題はより焦点化される一方で【部署の新人教育へのサポート体制】を実感し【先輩への感謝】の気持ちは3ヶ月目と同様であった.

プリセプターは自分自身の課題や感情変化への気づきを経験しながら,指導の対象となる新人に関する課題や成長を実感し,さらには自分と新人を取り囲む先輩や部署全体の教育体制について認識を広げていた.寺澤(2003)平野・小出(2018)は,プリセプターの視野は,自分自身,新人,周囲の3側面があることを報告している.本研究においても,困りごとや悩み・問題に感じていること,プリセプターを経験していて良かったと感じていることともに,さらにプリセプター任期3ヶ月目,6ヶ月目ともにこの3側面は共通していたといえる.

プリセプターは新人指導の経験により否定的感情を肯定的感情に変化させ自己効力感を維持させるが(三品・織田,2018),本研究においてもプリセプターは任期3ヶ月目と6ヶ月目において相反する認識をもちながらも,課題に向き合い,解決させて肯定的感情を強め,プリセプターとしての自己効力感を高めていたことがわかる.また,対となる感情を往復する経験は概念化能力を高めることにつながる(好川,2017).概念化能力は技術的能力と対人能力とともに管理職に必要とされる能力のうちの一つであり,上位の立場になるほど必要とされる(Katz, 2009).プリセプターは,それまで臨床現場において最前線で技術的能力を発揮して患者に対する看護を提供していた.しかし,プリセプターを初めて担うことにより自分自身だけでなく,新人という相手について,さらには自分自身と新人を取り囲む部署のスタッフについて認識を広げながら対人能力を伸ばし,対となる否定的な認識と肯定的な認識を往復し物事の相互関係や本質を見極めるための概念化能力を育てはじめていたと考えることができる.

初めてプリセプターの役割を担う看護職が任期3ヶ月目と6ヶ月目にもつ認識から,彼らは看護職キャリア前期における重要な関門に差し掛かっており,そこを突破することで自己効力感の維持,対人能力の強化,概念化能力の開発が促される重要な経験をしているといえる.

2. プリセプターへの時期別の支援方法

任期3ヶ月目にプリセプターが自己の未熟さを自覚し,6ヶ月目に指導上の葛藤を抱えながらも指導者としてやりがいを持ち自立している段階にあることは新人看護職員研修義務化前の先行研究と同様の結果であった(寺澤,2003益田・松本,1998).つまり,ガイドラインによりプリセプターの育成が制度化されている中でも,ガイドライン以前のプリセプターと悩みが同じであることがわかった.プリセプターは看護職としての成長発達がさらに望まれる者である.本調査で明らかになった困りごとはプリセプターが成長するための普遍的な発達課題とも言えるのかもしれない.

任期3ヶ月目は,「指導が上手くいかずとまどっている」ことや,「自分の仕事をしながら教えることが難しい」と感じていることから,一般的な指導方法を知ることへのニーズがあると考えられる.任期の初期にはプリセプターへの研修において,新人指導方法の考え方を伝授すること,臨床現場で先輩から実際の指導の場面を見せるなどの支援が必要である.また,「他の人がどのように指導しているのか気になる」というコードもあるため,プリセプター同士で現状や指導方法を共有する機会を作ることが必要と考えられる.

任期6ヶ月目には,「新人の性格に合わせた指導の仕方に悩む」「教育方針に悩む」という具体的な課題を抱えるようになるため,課題解決の考え方や,指導計画の立案・評価方法について伝え,新人との対話により新人理解を深め,新人に合わせた指導方法を獲得するための支援を行う必要がある.さらに,この課題を解決するためには,同じ部署に勤務する他のスタッフとの情報共有や協働が不可欠である.任期6ヶ月目に〈先輩との連携不足〉を感じるようになっていることから,プリセプター自身も新人指導において先輩と協働する必要性に気がついていると言える.しかしながら,プリセプターを担う経験2~3年の看護職は,先輩への発信や働きかけが難しいとも考えられる(平野・小出,2018).先輩との協働は,新人指導を行う上で必要な対人能力であるが,プリセプター任期6ヶ月目において,この能力は発達段階であることを認識し,この能力をさらに伸ばすための支援が必要である.

教育担当看護職員は,プリセプターの困りごとをなくし感じさせないようにするための支援を行うのではなく,プリセプターが成長するための発達課題に直面している状態にあることを理解し,プリセプターの抱えている困難をプリセプター自身が解決できるようその過程をサポートすることが必要である.この支援によりプリセプターは課題解決思考を持った看護職としての成長が可能となる.プリセプターが否定的感情や課題を感じることは,プリセプター自身が成長するための過程であり,有意味な経験であることを課題を抱えているプリセプターへ伝えることも必要である.また,教育担当看護職員はプリセプターがプリセプターをしていて良かったという感覚がつかめているか,否定的感情を肯定的感情に転化させられているか確認し,対人能力や概念化能力を伸ばすことを意識して支援を継続することが必要であると考える.

本調査は一施設におけるプリセプターを対象としたため,一般化において限界があると考えられる.しかし,プリセプターの認識の一部は先行研究と同様の結果が得られたことから,プリセプターの認識に普遍性があると考えることもできる.今後は,今回考察したプリセプターへの支援を実践し,その効果を測定することが必要である.

Ⅴ. 結論

初めてプリセプターの役割を担う看護職は,任期3ヶ月目と6ヶ月目において,自分自身,新人,自分と新人を取り囲む部署のスタッフに対する認識をもっていた.さらに相反する否定的な認識と肯定的な認識を往復し,課題に向き合い,解決させて肯定的感情を高めながらプリセプターの役割を担っていた.

謝辞:本研究に快くご協力くださいましたプリセプターのみなさまに心より感謝申し上げます.また,データ分析や論文執筆にあたりご助言をいただきました群馬大学医学部附属病院塚越聖子様,西森秀果様に感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AIは,研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,草稿の作成;YK,TOは研究の構想およびデザイン,データ分析;STは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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