2021 年 41 巻 p. 220-229
目的:尺度開発の第一段階として,Siu et al.(2005)が開発したCLEQ(The Conditions for Learning Effectiveness Questionnaire)尺度を参照に,臨地実習における看護学生のエンパワーメントの構成概念を明らかにする.
方法:4年次の看護系大学生6名に半構造化面接を実施し,内容分析によりカテゴリ化した.
結果:CLEQ尺度の構成概念との比較により,下位尺度である【支援】,【機会】,【資源】,【情報】に加え,新たに【安心できる環境】,【患者との関わり】が重要な要素として明らかとなった.
結論:臨地実習で日本の看護学生がエンパワーメントを発揮するためには,【安心できる環境】や【患者との関わり】が特徴であり,今後の尺度開発ではこれらの側面を看護学生のエンパワーメントの構成概念に含むことが必要であると示唆された.
Purpose: To clarify the construct of empowerment of nursing students in clinical practice with reference to the CLEQ (The Conditions for Learning Effectiveness Questionnaire) scale developed by Siu et al. (2005), as the first step of scale development.
Method: Semi-structured interviews were conducted with six 4th-year nursing students then categorized by content analysis.
Results: Through comparison with the CLEQ scale construct, it was confirmed that, in addition to the “support,” “opportunity,” “resources” and “information” subscales, “an environment that gives peace of mind” and “relationship with patients” were newly clarified as an important element.
Conclusion: “An environment that gives peace of mind” and “relationship with patients” are characteristics in order to demonstrate the empowerment of Japanese nursing students in clinical practice, and it was suggested that these aspects should be included in the construct of empowerment of nursing students in future scale development.
看護学生にとって臨地実習は,実際の体験を通して様々な体験知を得ていく極めて重要な場(小笠原ら,2010)であるが,入院患者の重症化,入院期間の短期化から,看護学生が短期間の関わりの中で,患者に必要な看護ケアを計画して実践することの困難さを生じていることが指摘されている(日本看護系大学協議会,2017).また,臨地実習が,不安を抱いて実習に入る看護学生にとって多大なストレスを生じる学習であることも報告されている(毛利・真鍋,2008;小笠原ら,2010;金子・樅野,2015).このようなストレスフルな臨床環境における学習の成立のためには,看護学生のエンパワーメントが不可欠となる.
エンパワーメントの概念は,多様性に対応していくため,20世紀中頃の米国を中心としたフェミニズム運動などと連動して,複数の分野から生成してきた概念である.そして様々な思想,社会背景の影響を受けて発展しており,組織が個人をエンパワーするという一方向的な関係から,個人と組織との相互作用において発揮されるものと理解されるようになった.社会学者であるKanter(1993/1995)の企業研究においては,職場の社会的構造,すなわち,機会,資源,情報,支援に関する構造へのアクセスを高めることにより,従業員のエンパワーメントがもたらされるとしている.
看護学におけるエンパワーメントの概念もまた,上記の経緯から1990年代頃から盛んに検討されてきた.看護学生のエンパワーメントに関する先行研究を概観すると,構造面あるいは心理面に着目するかは異なっていたが,共通して看護学生をエンパワーしていたことが確認できた.英国において,質的研究を主軸とするBradbury-Jones et al.(2007a)は,臨地実習に焦点を当て,看護学生のエンパワーメントを高めるためにはメンターシップや環境が重要であることを論じていたが,その後の研究では,知識や自信などの心理的な要因も必要不可欠であることを明らかにした(Bradbury-Jones et al., 2010).一方,量的研究を主軸とするSiu et al.(2005)は,Kanterの構造的エンパワーメント理論をもとに,構造面と心理面のどちらも包括的に取り入れた概念モデルを作成し,看護学生の構造的エンパワーメントを測定するThe Conditions for Learning Effectiveness Questionnaire(以下,CLEQとする)尺度を開発した.そして北米の看護学生を対象とした研究で,構造的エンパワーメントが看護学生の動機づけ,自信,主体的な学習を促進することを明らかにした.近年,CLEQ尺度は,臨地実習における看護学生のエンパワーメントを把握するため,その活用が複数の国で広がりを見せつつある(Livsey, 2009;Babenko-Mould et al., 2012;Liao & Liu, 2016).
このように先行研究から,海外では臨地実習における看護学生のエンパワーメントに関する研究がなされ,構造面に着目したエンパワーメント尺度は,複数の国での実証的研究で活用され,妥当性や信頼性が確認されていた.一方,日本の場合,臨床看護師を対象とした研究がほとんどであり,看護学生のエンパワーメントに焦点を当てた研究は少なく,臨地実習における看護学生のエンパワーメントについて概念的検討や測定する尺度の開発も行われていなかった.また,看護職を対象とした構造的エンパワーメントに関する多数の研究に取り組んでいるLaschingerが携わっていたCLEQ尺度は,北米で開発されており,国による文化や臨床学習環境の違いから,質問の解釈が異なる可能性が考えられた.それゆえ,CLEQ尺度を日本の看護学生に適用するにあたっては,北米との状況の違いや明晰性の課題をふまえた検討が必要であることがわかった.
そこで,本研究では,臨地実習における看護学生のエンパワーメントを測定する尺度の開発に向けて,まず,看護学生へのインタビュー調査を通じて,看護学生のエンパワーメントの構成概念について探索的に検討することを目的とする.本研究で得られる結果から,看護学生の臨床学習環境を理解することや,エンパワーメントの様相を把握することにつながり,ひいては臨地実習における看護学生のエンパワーメントを測定する尺度を開発するための基礎資料となると考える.
研究参加者は,看護系大学において看護学実習を履修した4年次の看護学生とした.本研究の参加者を4年次の看護学生とした理由は,以下のとおりである.Ahn & Choi(2015)は,看護学生のエンパワーメントの心理的側面に影響を及ぼす要因として,臨床判断や臨地実習領域の総数などを挙げている.看護系大学において上級学年である4年次の看護学生は,臨地実習で看護学生のエンパワーメントが発揮された経験を具体的に語ることができ,広い視野を持つと考えられる.また,以前に看護師の経験がある看護学生は,その就業経験が結果に影響する可能性が考えられる.そのため,本研究の参加者は,編入学生でないことを要件の1つとした.
2. 研究デザインとデータ収集方法本研究は,尺度開発研究デザインとし,2018年3月から6月に,プライバシーが確保される場所で,半構造化面接を用いデータ収集した.インタビューガイドの作成にあたって,Siu et al.(2005)が開発したCLEQの下位尺度のうち,看護学生の持つ公式な力(formal power),非公式な力(informal power)を測定する下位尺度は,北米と日本の看護学生の状況が異なり,そのまま用いることは難しいと考えられた.そのため,本研究では,CLEQの4つの下位尺度である支援(7項目),機会(6項目),資源(5項目),情報(6項目)へのアクセスについて,看護学生の認識を問う24項目のCLEQ尺度を参照した.CLEQのもとの言語は英語であり,日本語への翻訳は研究者が行い,さらに看護学や言語学を専門とするスーパーバイザーと質問項目について検討した.なお,本研究で使用するCLEQ尺度の使用については,尺度の原著作者死去のため,管理組織であるウェスタンオンタリオ大学の許諾を得ている.インタビューでは,①臨地実習で自分自身を活かすことができたと感じた出来事や場面,②臨地実習で良かった・楽しかった・成長できたと思えたこと,③臨地実習で大変さを感じた出来事や場面などを質問した.また,CLEQの構成概念に関する質問は,必ずしも回答しやすい表現ではなかったため,インタビューガイドには提示せず,研究者がインタビューの流れに合わせて質問した.
3. データ分析方法データ分析は,データの文脈と意味を重視した内容分析の手法(グレッグ,2016)を用いて,以下の手順で行った.研究参加者の許可を得てICレコーダーに録音したインタビューデータを逐語録にし,逐語録にしたデータを看護学生のエンパワーメントが発揮される際の場面や態度・行動を表す文章をまとまりとして抜き出した.そして抽出した部分の意味を損なわず,かつ明瞭になるように要約してコード化した.なお,同じ出来事でも経験の意味づけが異なることがあるため,エンパワーメントが発揮されなかった場面として語られた内容も含めた.さらに,コードをCLEQの構成概念を参考に,類似性と相違性に注目しながら分類し,カテゴリ化した.これらのデータ分析の過程では,指導教員のスーパービジョンを受けるとともに,コードのカテゴリ分類に際して同領域に所属する大学院生が同意できるかも重視しながら行い,研究者の解釈の妥当性の確保に努めた.
本研究は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2017-104).研究協力施設の看護系大学の学長もしくは学部長・学科長,および研究参加者要件に該当する看護学生を紹介可能な教員に対し,研究の概要,研究協力への自由,匿名性の確保などについて書面を用いて説明し,研究協力の同意を得た.研究参加者の選定は,看護系大学教員からの紹介によるものであったが,看護学生へは,研究の概要や協力依頼を記載した研究説明書を配布し,研究への参加を募った.応募のあった看護学生に対し,研究者が直接連絡し,調査日時や場所を相談して決定した.そして,研究の概要,自由意思に基づく参加,研究参加による利益と不利益,個人情報の取り扱いやプライバシーの保護,途中辞退が可能であることなどについて書面を用いて説明を行い,同意書への署名をもって研究参加への同意を得た.なお,看護系大学教員には,研究参加同意の有無は知らせないことの承諾を得て,看護学生の研究参加への自由意思を保障できるよう配慮した.
研究参加者は,看護系大学3校に所属している看護学生6名で,5名が女子学生,1名が男子学生であった.研究参加者は,平均年齢21.3 ± SD(標準偏差)0.5歳,これまでに経験してきた平均実習回数は,7.8 ± SD 1.8回であった.なお,研究参加者の実習履修状況は,臨地実習を終了した学生だけでなく,統合実習以外の実習を終了した学生や領域別実習を履修している学生と,様々であった.面接時間は,平均88.3 ± SD 17.8分であった.
2. 分析結果データ分析の結果から,臨地実習における看護学生のエンパワーメントの構成概念として,106コード,35サブカテゴリ,6カテゴリが抽出された(表1).以下に,カテゴリ毎に内容について詳しく記述する.なお,本文中の【 】はカテゴリ,《 》はサブカテゴリ,〈 〉はコードを示す.また,インタビューで研究参加者から語られた内容は,「斜体」で示し,語りの最後に参加者をアルファベットで記した.
| 項目の分類 | カテゴリ | サブカテゴリ | コード数 |
|---|---|---|---|
| CLEQをもとに作成した項目 | 支援 | 自分が得意とする事柄に関する特定の情報 | 4 |
| 自分で改善可能な事柄に対する特定のコメント | 3 | ||
| 役立つヒントや問題解決のアドバイス | 3 | ||
| あなた自身の学習ニーズを遂行するための後押し | 4 | ||
| アイデアに挑戦することへの激励 | 4 | ||
| 学習活動における積極的な関与 | 3 | ||
| あなたの教員と行う学習に関する自由な話し合い | 4 | ||
| 機会 | 自分の持つ技術や知識のすべてを活用すること | 6 | |
| ハードルの高い学習を行うこと | 2 | ||
| 新しい技術を学ぶためのチャンスを得ること | 3 | ||
| 個人的な学習ニーズに応じた学習経験をデザインすること | 3 | ||
| あなた自身の方法で学習目標をやり遂げること | 3 | ||
| あなたが学習していることを他者と共有すること | 1 | ||
| 資源 | 学習目標をやり遂げるのに必要な時間 | 3 | |
| あなたの学習ニーズを手助けする教員の存在 | 9 | ||
| 学習経験についての情報をともに共有する仲間の存在 | 2 | ||
| 学習ニーズについての相談ができるヘルスケア専門職の存在 | 1 | ||
| あなたの学習目標を手助けするその他の人々の存在 | 1 | ||
| 情報 | 教員の教育/学習に対する価値 | 4 | |
| 看護カリキュラムの目標 | 2 | ||
| あなたに関する教員の期待 | 2 | ||
| 学習経験から得られたあなたの仲間の専門的知識 | 2 | ||
| あなたの学習経験に関連する教員の専門的知識 | 2 | ||
| 患者ケアの問題を解決するためにあなたを手助けする教科書に基づく知識 | 2 | ||
| 本研究で新たに追加した項目 | 安心できる環境 | 学びやすい病棟の雰囲気 | 3 |
| 指導者やスタッフ看護師への話しやすさ | 3 | ||
| 医療・看護チームの一員としての認識 | 3 | ||
| 患者ケアに関する率直な発言の受け容れ | 1 | ||
| 仲間との助け合い | 5 | ||
| 学習のためのカンファレンス室の存在 | 1 | ||
| 患者との関わり | 患者との関係を形成すること | 7 | |
| 患者とともに毎日を過ごすこと | 2 | ||
| 患者の望みや好みを考慮すること | 3 | ||
| 患者の持てる力を活かした援助 | 3 | ||
| 患者・家族から労いの言葉を得ること | 2 | ||
| 106 |
このカテゴリは,看護学生自身の学習ニーズや考えを話すための時間を得ること,教員へのアプローチが容易であることであり,25コード,7サブカテゴリから構成された.
CLEQ尺度に対応する《自分が得意とする事柄に関する特定の情報》は,〈患者に合った看護が出来ていると教員が認めてくれる〉,〈自分の行った看護援助が上手く出来ていたと看護師が伝えてくれる〉,〈実習記録が書けていると教員・指導者が褒めてくれる〉など,教員や指導者,看護師からの承認や肯定的なフィードバックが表現された.また,《自分で改善可能な事柄に対する特定のコメント》は,〈自らの失敗に真摯に向き合えるよう教員が一緒に体験を振り返ってくれる〉,〈患者との関わりにおける自分の傾向に指導者が気づかせてくれる〉など,自分の行動を変えるための働きかけが示された.そして,《役立つヒントや問題解決のアドバイス》は,〈教員に患者の観察ポイントやケアの助言をもらう〉,〈患者の症状や状態を判断する手がかりに指導者・看護師が気づかせてくれる〉などが含まれた.
加えて,《あなた自身の学習ニーズを遂行するための後押し》は,〈自分の行動計画を遂行するために教員・指導者が取りはからってくれる〉,〈患者との関係で生じた自分の感情に対処できるよう看護師が援助してくれる〉など,手段的支援が表現された.また,《アイデアに挑戦することへの激励》は,〈自分が提案した看護計画について指導者が励ましの言葉をかけてくれる〉,〈学生の大切にしているケアを教員が尊重してくれる〉など,励ましや尊重のような情緒的支援が語られた.
「学生で出来ることって,タッチしたりコミュニケーションとったり,やっぱり信頼関係(中略)を一番大切にしていく中で,理解して下さらない方もいるんですよ.でもやっぱり必要だなって私は思うから,この時の先生は,そういう部分も(中略)すごい尊重して下さったなっていう印象です.」(B看護学生)
そして,《学習活動における積極的な関与》は,〈患者の意思を尊重した援助について教員・指導者が一緒に考えてくれる〉,〈患者にケアを実施する時,看護師が見守ってくれる〉などが含まれた.さらに,《あなたの教員と行う学習に関する自由な話し合い》は,〈教員・指導者が時間を設けて実習の振り返りをしてくれる〉,〈実践の後,患者に必要な看護について指導者と一緒に話し合う〉というように,教員や指導者と行う経験の振り返りが示されたが,その一方で十分な話し合いの場が持てない状況も見られた.
2) 【機会】このカテゴリは,看護学生が専門職としての知識を開発するための機会,さらに,個人的な学習ニーズが受け入れられる機会であり,18コード,6サブカテゴリから構成された.
CLEQ尺度に対応する《自分の持つ技術や知識のすべてを活用すること》は,〈演習で学んだ生活援助技術を実際の看護に活用すること〉,〈実習で患者の個別性に合わせた援助方法を考えながら実施すること〉,〈シャドウイング・観察をして学んだ看護技術を新たな場面で活用すること〉など,看護学生の実践にあたっては,指導者や看護師の指導のもとにという条件付きの内容も含まれたが,既習の技術や知識を活かすこと,それらを考えながら実施すること,他,新たな場面で活用することが示された.E看護学生は,自分の持つ技術や知識を活かせたこと,すなわち看護実践で手応えを感じた経験について次のように語った.
「実際に,受け持ちの看護師さんと一緒に足浴した時に,(中略)習ったことをちゃんと実践に活かせたかなって,初めて感じて.そこから自分の中でもどんどん積極的に出来るようになった.」(E看護学生)
次に,《ハードルの高い学習を行うこと》は,〈看護技術について,知るレベルから活用できるレベルへと段階をふまえた学習を行うこと〉,〈看護師からの指導をもとに,学年のレベルに応じて自分の考えを発展させること〉が表現された.また,看護学生は,臨地実習に参加する機会を通して,〈演習と異なる物品を用いた生活援助技術を学ぶ経験ができること〉,〈検査や処置に伴う看護等,演習では実施していない技術を学ぶ経験ができること〉など,《新しい技術を学ぶためのチャンスを得ること》を可能としていた.そして,《個人的な学習ニーズに応じた学習経験をデザインすること》として,〈実習で自分の課題を明確にし,具体的な目標を設定すること〉,〈学生個々に関心のあるテーマに応じた実習計画を立てること〉をしていた.さらに,《あなた自身の方法で学習目標をやり遂げること》として,〈患者へ実施する看護技術について事前に教科書や注意点を確認してからケアを行うこと〉,〈看護師からのフィードバックを取り入れながら,実習で必要とされる学習を行うこと〉をしていた.これらに加えて,看護学生は《あなたが学習していることを他者と共有すること》として,〈実習経験から得られた学びをカンファレンス・発表会で教員や他の学生と共有すること〉をしていた.
3) 【資源】このカテゴリは,看護学生の十分な学習時間が,学習目標を達成し,仲間との知識形成を可能にすることを意味し,16コード,5サブカテゴリから構成された.
CLEQ尺度に対応する《学習目標をやり遂げるのに必要な時間》は,〈実習で経験を積み重ねる時間がある〉こと,〈実習時間内に記録をする時間がある〉ことが表現された.しかし一方で,〈実習で患者に関わる十分な時間がない〉ことも示された.また,《あなたの学習ニーズを手助けする教員の存在》は,その多くが学生担当の指導者の存在を指し,実習先に指導者が存在する場合と,指導者が不在,もしくはスタッフ看護師がその都度,学生指導を担っている場合があった.インタビューでは,〈役割モデルとなる看護師がいる〉一方で,〈学生の報告を聞いてくれない看護師がいる〉ことにより,看護学生が反面教師から学んでいたことも語られた.このように多くの看護学生は,指導者の存在ならびに看護師の態度や行動が,臨地実習の学びに大きく影響していることを実感していた.
「指導者さんが,実習先では一番関わる方なので.(中略)看護師さんのなかでも受け持たずに,学生担当っていう指導者さんがいたんですけど.そういう指導者さんだと,相談もしやすいし,接しやすいし,時間も割いて下さるので.自分自身の学びも大きく変わってくるかなと思いました.」(A看護学生)
また,《学習経験についての情報をともに共有する仲間の存在》は,〈実習経験から得られた学びを共有する仲間がいる〉こと,〈実習で患者の情報を共有する仲間がいる〉ことが含まれた.そして,《学習ニーズについての相談ができるヘルスケア専門職の存在》は,〈実習の場で患者に合わせたケアや患者指導について相談できる他職種がいる〉ことが表現された.さらに,《あなたの学習目標を手助けするその他の人々の存在》は,〈実習先で困った時,相談できる看護管理者がいる〉ことが示された.以上のように,看護学生が語った資源として,知識の協働的な探究に関わる仲間,患者ケアについて相談できる他職種スタッフ,いざという時に助けとなる看護管理者といった様々な関係者の存在が内包された.
4) 【情報】このカテゴリは,教員の教育/学習の価値に関する知識,看護学生に関する教員の期待,教員の看護師としての専門的知識と捉えられ,14コード,6サブカテゴリから構成された.
CLEQ尺度に対応する《教員の教育/学習に対する価値》は,〈患者ケアにおいて指導者・看護師が重視していることが分かること〉,〈実習に対する教員のフィードバックが分かりやすいこと〉,一方で〈実習に対する教員のフィードバックが分かりにくいこと〉も表現された.このようにインタビューでは,《教員の教育/学習に対する価値》について,明瞭性に欠けるということも語られた.また,《看護カリキュラムの目標》は,〈実習目標からどのように学ぶかが分かりやすいこと〉,〈日々の振り返りにより,実習目標の達成を目指す行動が分かること〉が示された.
「今日は,昨日出来なかったことを出来るようにしようっていうのを自分の中で持つことで,その日の目標の達成につながって.」(F看護学生)
看護学生は,自分自身のパフォーマンスを評価するという理由から,情報に関する最も重要な資源として教員について言及し,情報の内容のみならず,その情報の分かりやすさという評価的側面についても語っていた.そして,〈実習でのやり取りを通して,教員が自分に対して期待していることが分かること〉というように,《あなたに関する教員の期待》を得ていた.これら実習目標や教員の期待に加え,学生が持つ経験から共有された知識,卓越した看護を展開する看護師の専門的知識,患者ケアの問題解決につなげるための教科書や文献,病棟のパンフレットなど,様々な情報を獲得していた.まず,《学習経験から得られたあなたの仲間の専門的知識》は,〈未経験の看護技術について先に実施した学生の経験から得られた知識〉,〈実習グループメンバーの自己学習から得られた患者の病態やケアに関する知識〉が示された.次に,《あなたの学習経験に関連する教員の専門的知識》は,〈看護アセスメントを行う上で優れた技術を持っている指導者の知識〉,〈看護実践場面で優れた援助を提供している看護師の技術や態度〉が表現された.他,《患者ケアの問題を解決するためにあなたを手助けする教科書に基づく知識》は,〈患者との関わりに役立てるために図書・文献から得られた知識〉などが含まれた.
5) 【安心できる環境】このカテゴリは,CLEQ尺度に対応しないが,臨地実習における日本の看護学生のエンパワーメントを把握するために必要な下位概念であると考えられ,学生を歓迎する病棟全体の雰囲気,実習グループのメンバーや友達との助け合い,学生用のカンファレンス室の存在を指し,16コード,6サブカテゴリから構成された.
大多数の看護学生は,実習の場で不安や緊張を感じながらも,《学びやすい病棟の雰囲気》,《指導者やスタッフ看護師への話しやすさ》,《医療・看護チームの一員としての認識》,《患者ケアに関する率直な発言の受け容れ》,また物理的環境として,《学習のためのカンファレンス室の存在》により,安心して力を発揮することにつながっていた.
「結構,看護師さんと話したいなと思って見るんですよ.今何かしてるな,ちょっと止めとこうかなって.パッて見た時に,それに気づいてくれて,『どうした?』みたいな.しゃべりやすい環境を作ってくれるので,それが一番相談もしやすかったし,一番良かったです,そこが.」(C看護学生)
「(学生への質問を)カンファレンスで振ってくれたりすることで,自分の存在の意味とか,結構,強く感じたんで.(中略)それは,すごい嬉しいなーというか,患者さんに関わる,ケアする一員として認められた気がして.」(E看護学生)
また,臨地実習で小集団を形成することが多い日本の看護学生にとって,対等な立場である《仲間との助け合い》により,精神的な支え合いや,仲間同士での学び合いを促すことが示された.
「友達に話聞いてもらって,共感得られたり.そういうのは,支えになったかなって思います.」(F看護学生)
「同じように頑張っている実習メンバーと,一緒にお昼休みにご飯食べながら,『今日,午前中こういうことやったよ』っていうのを聞きながら,じゃあ私も頑張ろうって,さらに気持ちをのせたりとか.」(A看護学生)
6) 【患者との関わり】このカテゴリは,CLEQ尺度に対応しないが,17コード,《患者との関係を形成すること》,《患者とともに毎日を過ごすこと》,《患者の望みや好みを考慮すること》,《患者の持てる力を活かした援助》,《患者・家族から労いの言葉を得ること》の5サブカテゴリから構成された.
インタビューでは,全ての研究参加者が,臨地実習において患者との関係を築くことや患者のケアに困難を感じる一方で,患者との関わりを通して,自信や有意味感,影響感,自己決定感を生じていたことが語られた.
「(患者は)認知症で,失語障害があって,表情とかでコミュニケーションをとったりして.2週間関わる中で,ちゃんと出来ているのかって実感がなかったんですけど.最後,帰る時に,ずっと手を握って,帰らないで,ありがとうって.そういうのが,すごく伝わってきた時っていうのは,自分自身をすごく活かすことが出来ていた,そういうふうに感じた場面でした.」(D看護学生)
「(患者は)お家には帰りたいって.(中略)でもやっぱり食事量が増えないと退院難しいなかで,ケアプランを立てて,(他の学生と)協力をしながらやるようにしたら,なんと食事量が2倍ぐらいになったんです.(中略)で,1週間ぐらいで退院になって.そういうのを見ると,『あ,良かったな』って.」(B看護学生)
看護学生のエンパワーメント概念は,これまで,海外の看護領域で検討され,本研究で参照したCLEQの構成概念は,【支援】,【機会】,【資源】,【情報】の4つの下位概念から構成されていた.そして,インタビュー調査より得られたデータを分析した結果,今回,看護学生のエンパワーメントを構成する要素として明らかになったものを,CLEQの下位概念と比較し考察すると,【安心できる環境】,【患者との関わり】は,既存の看護学生のエンパワーメント概念に含まれていないことがわかった.この結果に基づき,その詳細について以下に述べる.
1. 安心できる臨床学習環境からの学び本研究の結果から,【安心できる環境】が,臨地実習における日本の看護学生のエンパワーメントの状況を適切に反映するための下位概念となり得ることが示唆された.本研究の参加者である看護学生の多くが,安心できる環境においてエンパワーメントが発揮されたと感じる背景には,以下に示す看護学生の経験の幅が狭まっていることや,大学と実習の場で看護学生の置かれる状況が異なることが影響していると考える.
まず,「看護系大学学士課程における臨地実習の先駆的取り組みと課題」(日本看護系大学協議会,2017)の調査の中で,複数の大学が,急性期医療を行う病院での実習においては,入院患者の重症化や入院期間の短期化から,看護学生が短期間の関わりの中で必要な看護ケアを計画して実践しなければならないこと,医療安全対策の強化により患者に対して侵襲性の高いケアの実践が難しくなっていることを課題として示している.また,石川(2017)は,日本看護協会の「2006年看護教育基礎調査」を基に,看護基礎教育課程での卒業時の看護技術の到達度の実態を明らかにした結果,50%以上の教育機関が卒業時に,「一人で実施できる(レベルⅠ)」に到達していると回答した看護技術は,主に観察やアセスメントに関する技術であり,「指導のもとで実施できる(レベルⅡ)」に到達していると回答した看護技術の約半数が「療養上の世話」に関連した看護技術であったと報告している.本研究でも,看護学生の実践においては,指導者や看護師の指導のもとにという条件付きの内容が多く語られ,さらに,〈実習で患者に関わる十分な時間がない〉ことも見受けられた.したがって,臨地実習において,看護学生は医療安全の観点から侵襲性の高いケアを実践することの難しさのみならず,観察やアセスメントに関する技術,「療養上の世話」に関連した看護技術という限られた経験項目の中で,実践の機会を得ていることが推測される.
次に,本研究の参加者は,《学びやすい病棟の雰囲気》,《指導者やスタッフ看護師への話しやすさ》などを感じる一方で,〈学生の報告を聞いてくれない看護師がいる〉と捉えていることも示された.先行研究の中でも,臨床学習環境において看護師は多忙で,指導にやや消極的であること(小笠原ら,2010)や,看護学生が感じた実習のリアリティの中には,指導的立場の人の言葉や態度に対する負担感や実習場への居辛さが含まれる(龔,2020)ことが明らかにされている.臨床経験のない看護学生の視点から考えると,病院は一般的には馴染みのない場所であり,さらに大学と実習の場とでは看護学生の置かれる状況が異なり,数少ない看護学生の境遇が認知されにくいことから,はっきりものが言えない自分を看護学生が感じることも考えられる.それゆえ,安心できる環境が,看護学生のエンパワーメントを発揮することに大きく関係してくると言える.
最終的に,本研究の結果から,【安心できる環境】において,看護師が看護学生の困りごとを気にかける行動が,看護学生のエンパワーメントに影響を及ぼすことが推察された.これは,看護学教育におけるエンパワーメントの先行要件に,教育的なケアリング環境が挙げられている(Hokanson Hawks, 1992)ことからも,看護学生を含む看護師同士の助け合いの行動が,看護学生の問題解決や主体的な学習につながると示唆される.また,看護学生が医療・看護チームの一員として認められ,それらチームの実践に関与することは,Bradbury-Jones et al.(2007b)が,臨地実習における英国と日本の看護学生のエンパワーメントの状況を比較するための調査を行った結果の中で,チームメンバーとしての帰属感が重要であることを明らかにしている研究と一致する.さらに,仲間との助け合いにより,看護学生が不安に対処しながら,学んでいると語られたことは,臨床学習環境における日米の看護大学生の状況的認知の比較を行った研究で,日本の看護学生が望ましい環境要因の1つとして捉えていたピア・ラーニングの活性化(細田・根岸,2013)と同様と解釈できる.このような臨床学習環境における様々な関係者との相互の関わり合いの中で,日本の看護学生のエンパワーメントが発揮され得ると考える.しかし,看護学生が自ら構造や環境に働きかけることは容易ではない.すなわち,臨地実習において看護学生が安心できる環境をつくることが組織的な取り組みとしてなされていることも重要である.
以上のことより,【安心できる環境】は,既存の尺度にはない概念であるが,日本の看護学生にとって重要な概念であることが明らかになった.また,臨地実習における看護学生のエンパワーメントの構成概念間の関係については,本研究のみで判断することは難しいが,構成概念は独立して存在するのではなく,相互に影響していると考えられる.
2. 患者との関わりからもたらされる看護学生のエンパワーメント本研究では,新たな構成概念として,【患者との関わり】が抽出された.全ての研究参加者は,臨地実習において,患者との関わりに困難を感じる一方で,《患者との関係を形成すること》,《患者とともに毎日を過ごすこと》,《患者の望みや好みを考慮すること》,《患者の持てる力を活かした援助》,《患者・家族から労いの言葉を得ること》というような患者との経験を通して,自信や有意味感などの心理的なエンパワーメントを生じていたことが示された.その背景には,人として関係をもつこと,さらに患者中心の看護を実践したいと思考し,行動していた.
Benner et al.(2010/2011)は,「共有される意義ある社会的実践」を意味するフォーカル・プラクティスに着目し,コミュニティも人間もケアが必要であり,その必要に対して行動することが看護のフォーカル・プラクティスであるとしている.その上,看護のフォーカル・プラクティスには,自分たちの看護の理解と看護師としての自分のアイデンティティにとって重要だと看護師自身が考える,一連のケアリング実践が含まれ,患者とともにいること,患者の擁護や責任など,看護のフォーカル・プラクティスを学習することは,看護師の形成の核となると述べている.また,看護学生の臨地実習におけるケアリング体験の意味を構築する過程には,看護に関する認識や行為を変化させるだけでなく,自己への気づきをもたらすことが明らかにされている(山田ら,2013).つまり,臨地実習において看護学生は,人間関係や文化に関連する看護のフォーカル・プラクティスを学習する中で,困難を克服し,自己のアイデンティティについての認識を変化させていくと言える.それゆえ,患者と関わるケアリングの実践を通して,心理的なエンパワーメントを生じ,自己の変化や成長の実感につながる可能性がある.このことから,関係性の達成をも視野に入れた学習の機会を持ち,看護と看護師である自分を学ぶことが重要であると考える.
以上のことから,臨地実習において看護学生がどのようにエンパワーメントを発揮しているのかを測定するための尺度開発では,【安心できる環境】,【患者との関わり】の側面を看護学生のエンパワーメントの構成要素に含むことが必要であると示唆された.
本研究での分析結果は,限られた研究参加者からのデータであるという限界を持つ.また,看護系大学における4年次の看護学生を研究参加の要件としたため,青年期にある看護学生が必要な学習経験を真に認識できていない場合も考え得る.今後は,対象者の条件を拡大し,異なる学年や環境にいる看護学生へのインタビューを重ねていく.そして,臨床指導者や教員の視点から研究に取り組むことにより,双方の研究結果を統合していく必要がある.さらに,本研究の結果をふまえ,臨地実習における看護学生のエンパワーメントの促進に向けて活用可能な信頼性・妥当性を備えた尺度を開発することが今後の課題である.
本研究では,臨地実習における看護学生のエンパワーメントの構成概念について探索的に検討した.その結果,既存のCLEQ尺度の下位概念である【支援】,【機会】,【資源】,【情報】に加え,新たに【安心できる環境】,【患者との関わり】という6つの下位概念が,看護学生のエンパワーメントを構成する概念として明らかとなった.また,看護学生のエンパワーメントが発揮された経験から,日本の看護学生は,馴染みのない場所で不安を抱きつつも,安心できる環境のもと,教員や指導者,あるいは仲間といった様々な人からの支援や臨地で経験できる機会を活かして実践していた.そして患者との関わりを通じて,相互の変化や成長を感じられることによる達成感が看護学生の力になっているという特徴が見られた.
付記:本論文は,日本赤十字看護大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.また,本論文の内容の一部は,第39回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご参加いただきました看護学生の皆様,ならびにご協力いただきました看護系大学関係者の皆様に心より御礼申し上げます.また,研究過程においてご指導くださいました,高田早苗名誉教授,川原由佳里教授に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.