2021 年 41 巻 p. 286-295
目的:ICUの勤務帯リーダー看護師の臨床判断に基づく実践を明らかにすること.
方法:観察法と半構造化面接法を用い,ICUでの勤務帯リーダー経験が1年以上の者を対象とした.
結果:研究参加者は15名で,リーダー経験は平均4.5年であった.分析の結果,8つのカテゴリが抽出され,【患者情報獲得の必要性に応じた情報収集手段の見極めと駆使】,【治療・看護における不測の事態を想定した目配り】,【患者の危機状態の迅速な判断に基づいた危機管理体制の立ち上げ】,【患者の重症度と看護師の能力のバランスを評価して繰り返す看護チームの再編】,【患者に生じる問題の変化に応じた医療チーム全体への対策の主導】,【医療職間での共通認識の形成状況に応じたチームの協働の促進】,【治療・看護の提供状況の適切性の判断に基づく資源の差配】,【看護師の力量判断に基づく重症患者看護についての教育の提供】が明らかになった.
結論:ICUの勤務帯リーダー看護師の実践は,患者の生命維持から看護師の教育に関わるものまで多岐に渡っていた.
Objectives: This study identified clinical judgment-based practices of ICU shift-leader nurses.
Methods: Data collected through using observation methods and semi-structured interviews. Study participants were those with at least one year of shift-leader experience in the ICU.
Results: There were 15 research participants, with a mean number of years of leadership experience of 4.5 years. The analysis resulted in the extraction and discovery of 8 categories: (1) identifying and applying information-gathering methods to determine patient information, as needed; (2) paying attention and anticipating unforeseen circumstances in the treatments; (3) launching a crisis management system based on rapid assessment of patient crises; (4) rebalancing the nursing team by continually evaluating patient status to leverage the abilities of the nurses; (5) leading medical teams in response to changes in patient problems; (6) promoting team collaboration to form a shared awareness among healthcare professionals; (7) distributing resources based on treatment appropriateness and nursing-provision status; and (8) providing nursing education on critically ill patients based on an assessment of the nurses’ capabilities.
Conclusion: The practices of ICU shift-leader nurses range from patient life maintenance to nurse education.
勤務帯リーダー看護師(以下,勤務帯リーダー)とは,一勤務帯での看護チームのリーダーを務める看護師であり,「同じ勤務帯に看護を提供する看護師と多様な相互行為を展開しその活動に影響を与えることを通して入院しているクライエントの看護の目標達成に影響を与える看護師」である(山品・舟島,2006).勤務帯リーダーは,患者のアセスメントとチームメンバーの能力を考慮に入れた業務分担を通して(Marrelli, 1997/1998),治療や看護を円滑化している.勤務帯リーダーは,患者の安全を確保し,その先の勤務帯までも見越した行動が求められ(Goldblatt et al., 2008),優先順位をつける能力やコミュニケーション能力が求められる(Ambrose, 1995).集中治療室(Intensive Care Unit:以下ICU)は,重症患者のモニタリング強化や生命維持のための治療や看護を提供する場であり(Marshall et al., 2017),予測不可能な緊急事態に陥りやすく,厳重な安全管理や多職種との綿密な連携が肝要である.ICUの勤務帯リーダーは,時にめまぐるしく変化する状況の中でも患者の治療や看護提供に尽力している.
看護師が実践場面で行う判断は臨床判断と呼ばれ,その定義は複数存在する.Corcoran(1990)は臨床的知識や患者情報を考慮のうえ患者ケアの決定を下すことであるとし,Benner et al.(2009/2015)は患者の問題を捉えつつ対応していくプロセス全体を指すとしている.ICUの勤務帯リーダーは,緊急入院や患者の状態変化による流動的な状況下で,多職種,医療機器を視野に入れて緊迫した状況を取り仕切る.臨床判断は,患者への判断に焦点化されてきたが,迅速な対応やチーム医療を要するICUでは,周囲の状況把握と判断は患者への臨床判断と不可分である.とりわけ,チーム運営を担う勤務帯リーダーは迅速な臨床判断を求められる.ICUの勤務帯リーダーの臨床判断に基づく実践を臨床場面に即して明らかにするには,周囲の状況認識も臨床判断に含める必要がある.これまで,一般病棟における勤務帯リーダーの役割や(山品・舟島,2006),クリティカルケア看護領域における勤務帯リーダー経験者の緊急時に特化した場面での判断や行動が明らかにされてきた(木下・藤野,2015).しかし,平常時や緊急事態を行き来する状況でのICUの勤務帯リーダーの臨床判断に基づく実践は明らかになっていない.そこで,本研究ではICUにおいて勤務帯リーダーを担う看護師の臨床判断に基づく実践について明らかにすることを目的とする.
重症患者のモニタリングの強化や生命維持のために医療機器を用いた集中的な治療と看護を提供し(Marshall et al., 2017),特定集中治療室管理料が算定されている病棟単位である.なお,特定集中治療室管理料の種別は問わない.
2. 勤務帯リーダー看護師日勤帯のリーダーを担い,原則として患者を担当せず,患者,看護師,他の医療職者と多様な相互行為を展開することを通して直接的・間接的に患者に看護を提供する看護師とする.
3. 勤務帯リーダー看護師の臨床判断臨床判断とは一般的に看護師の実践に即した思考であり,Corcoran(1990)によれば臨床的知識や患者情報に基づいた患者ケアについての決定である.一方でBenner et al.(2009/2015)は患者に関わりつつ対応するプロセス全体と定義している.このように臨床判断の定義は複数ある.医療機関のような複雑な組織での看護提供には,管理的視点を融合する必要性がある(Ray, 1989).チームを取り仕切る勤務帯リーダーにとって管理的視点は特に重要である.近年では,勤務帯リーダーの臨床判断を,患者に対する臨床判断を含む,適切な看護ケア提供に必要なチーム運営上の判断と定義している(土岐,2017).本研究においては,勤務帯リーダーの臨床判断を,患者,看護師や他の医療者の状況把握に基づいて決定される,チーム運営のための具体的な意思決定の内容とする.
個人的な経験は,研究参加者の見方から捉えることでその有り様に迫ることが出来る(Streubert & Carpener, 2011).臨床判断に基づき実践に至る経験は,研究対象となる勤務帯リーダー看護師の個人的な経験であり,その多様性を記述や解釈を通して理解する質的記述的研究デザインを用いた.
2. 研究参加者首都圏の医療機関でICUの勤務帯リーダーの経験を1年以上有する看護師で同意が得られた者.勤務帯リーダーは看護チームの役割の1つであり,その役割に慣れていることが必要と考え,1年以上の経験を要件とした.
3. データ収集期間2019年4月~8月
4. 調査方法調査は研究参加者それぞれに1回ずつ行い,2種類の調査方法を用いた.1つ目は観察法と半構造化面接法を併用した方法である.非言語的コミュニケーションや咄嗟に行われる無意識な行動,失念された行動といった半構造化面接法では得られない情報を得るために観察法を併用した.観察法は2箇所の医療機関において日勤帯に行った.半構造化面接法は観察法実施数日以内に行い,観察法で得た情報を活用し,状況をどのように捉えたか,判断や行動の具体的な内容について質問した.2つ目は,半構造化面接法のみを用いた方法である.臨床判断に基づく実践は,ICUの管理方式や文化といった医療機関が持つ特徴の影響を受けると考え,多様なデータを得るために機縁法を用いて上記2医療機関以外の看護師をリクルートした.面接では,研究参加者が1日の間にリーダーとして考えたことや行動したことについて質問した.すなわち,観察法では研究対象者の行動をつぶさに捉えられること,面接法では様々な医療機関に所属する研究対象者に調査可能であることの調査方法の長所を組み合わせられるよう2種類の方法で調査を行った.
5. 分析方法面接法で得られたデータを質的記述的に分析した.質的記述的な分析は,現象を率直に記述することに適している(Sandelowski, 2000).手順はMiles & Huberman(1994)を参考に次のように行った.逐語録を精読後,臨床判断に基づく実践に着目して意味のまとまりを抽出した.次に,語りの意味内容が十分に反映されるよう一文とした.この時,文脈を残した記述とし,状況を確認できるようにした.次いで,意味のまとまりを記述した一文を意味内容の類似性に着目して集め抽象化のうえ個別コードとした.さらに,全研究参加者の個別コードを類似性と相違性に基づき分類し全体コードとした.抽象化を繰り返しサブカテゴリ,カテゴリを生成した.分析の全過程において先入観の混入の可能性を念頭におき真実性の確保に努め,研究者間で検討を重ねたうえで適切性の確保に努めた.
6. 倫理的配慮研究対象者には,研究内容と参加への同意が自由意思であることを文書と口頭で説明した.観察法は看護提供に影響を及ぼさぬよう非参与観察とし,研究参加者の精神的負担に配慮した.面接法はプライバシーを確保して実施した.本研究の実施に際し,国立研究開発法人国立国際医療研究センター倫理委員会(承認番号:NCGM-G-003143-00),大森赤十字病院倫理委員会(ORC18-53)の承認を得た.
研究参加者は15名(女性13名,男性2名)で,うち11名に観察法を併用した半構造化面接を実施した.11名の所属は2か所の医療機関であった.面接法のみを実施した4名は全員異なる医療機関に所属していた.看護師経験は平均11.3年(SD:4.0年),ICU経験は平均6.5年(SD:2.5年),勤務帯リーダー経験は平均4.5年(SD:2.5年)であった.調査所要時間の平均は,面接法は59.8分,観察法は5時間30分であった.研究参加者が所属するICUの受け入れ診療科は主に心臓血管外科,循環器内科,脳神経外科,脳神経内科で,予定手術,緊急入院ともに受け入れていた.管理方式は,クローズドICUが1名,セミクローズドICUとオープンICUが各7名であった.
2. 分析結果分析により56の全体コード,18のサブカテゴリ,8のカテゴリが導き出された(表1).以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,全体コードを〈 〉,研究参加者の語りを「斜字」で示した.
| カテゴリ | サブカテゴリ | 全体コード |
|---|---|---|
| 患者情報獲得の必要性に応じた情報収集手段の見極めと駆使 | 患者情報をタイムリーに把握するために適切な情報源を見極めて情報収集する | 患者情報を更新するためにタイミングを見計らって情報収集する |
| 患者情報を効率よく把握するための情報源を見極めて情報収集する | ||
| 患者状態の変化をその都度判断して患者を直接観察する | ||
| 患者について重要な情報を選択して情報収集する | 患者情報のうち生命にかかわる事柄を選択して情報収集する | |
| 患者情報の中で主疾患と既往歴を優先して情報収集する | ||
| 緊急入院患者について不足している情報を見極めて情報収集に努める | ||
| 複数の患者のなかから不安定な患者を判断して情報収集する | 複数の患者のなかからより不安定な患者に優先順位をつけて情報収集する | |
| 治療・看護における不測の事態を想定した目配り | 患者への安全な治療・看護の提供に注意を払う | 確実な治療の遂行のために,現行の治療内容とその目的に注意を払う |
| 看護師の判断のあやまりにより患者に危険が生じないよう目を配る | ||
| 患者の安全が守られているか常時注意を保ち,危険には迅速に対処する | ||
| 患者の危機状態の迅速な判断に基づいた危機管理体制の立ち上げ | 患者や家族の危機状況には直接ケアを行う | 緊急事態には,迅速にベッドサイドでの支援に駆けつける |
| 患者が生命の危機に陥った時には家族の心情に配慮した対応に努める | ||
| 救命に必要な治療環境を見定めて早急に確保する | 救命のために必要な治療環境を迅速に整える | |
| 緊急時の対応に必要なマンパワーを確保する | ||
| 緊急時には明確に看護チームの役割分担を決める | 患者状態の安定化を最優先に行動する | |
| 緊急時でも冷静さを保ちリーダー役に徹する | ||
| 余裕がない時は,信頼のおける看護師にリーダー役を委ねる | ||
| 緊急時には迅速かつ具体的に看護師に役割分担する | ||
| 患者の重症度と看護師の能力のバランスを評価して繰り返す看護チームの再編 | 勤務のはじめに看護チームのバランスを整えて見通しをつける | 勤務のはじめに看護師の仕事配分を把握する |
| 勤務のはじめに患者の重症度と看護師の力量のバランスを整える | ||
| 勤務のはじめに患者の入退室の予定から病床数の推移を把握しておく | ||
| 患者の重症度と看護師のおかれた状況の均衡を見定めて保つ | 病態変化の対処内容を判断し,看護師の力量を見極める | |
| 患者に必要な処置やケアが円滑に提供できる状況か評価し,安全に提供できる環境が整っているか見極める | ||
| 看護師のもつ重症患者看護の能力を判断し,患者を任せる | ||
| 看護師が患者の重症度に応じた治療や看護を提供できるか判断し,看護チームを再編する | ||
| 患者の治療・看護のウェイトに応じて看護師への支援を提供する | 看護師の様子を気遣い,処置やケアの実施を手助けする | |
| 患者の不安定さから看護師の負担を推し量り,支援を分担する | ||
| 処置やケアの予定を共有することで看護師からチーム全体への協力が得られるように計らう | ||
| 状態が不安定な患者に注力しつつも全患者の動向と看護師の支援の必要性を捉えようとする | ||
| 患者に生じる問題の変化に応じた医療チーム全体への対策の主導 | 患者の状態改善に向けた対策を医療チームに提案する | 状態の不安定化の原因を模索し,看護チームとしての対応を提案する |
| 患者の状態悪化のリスク低減のための対策は,他部署や次の勤務帯に引き継ぐ | ||
| 患者の長期的な回復を見通し,治療や看護の変更を提案する | ||
| 状態の悪化予防と改善のために看護師や医師を巻き込み治療や看護の変更を提案する | ||
| 患者の状態悪化を見越して早期の対応を医療チームに促す | 既知の患者情報と現状の整合性を見極め状態変化の原因を追究する | |
| 患者の状態変化は常に意識し,観察の強化と早期の安定化を看護師に促す | ||
| さらなる状態悪化の徴候を確実に捉えるよう看護師に注意を促す | ||
| 患者の状態悪化には速やかに対処できるよう医師や看護師と情報共有する | ||
| 状態悪化の予兆を捉え,迅速に治療が行えるよう備えておく | ||
| 病態以外の観点から患者の問題を捉えて医療チームの活動を転換する | 重症疾患から生じる苦痛に関心を寄せ打開策を模索する | |
| 家族ケアの提供状況にも留意し,機会を捉えて看護師に実践を促す | ||
| 医療職間での共通認識の形成状況に応じたチームの協働の促進 | 看護師や多職種間での情報共有の程度を判断し治療や看護を協力して行えるようまとめる | 病状の複雑性を踏まえて看護師や医師と綿密に共通認識を形成する |
| 看護師と多職種間の連携具合を判断することで治療やリハビリテーションでの協働につなげる | ||
| 病床の運用見込みに関する情報共有の程度を判断してチーム全体に知らせることで患者をスムーズに受け入れる | ||
| 治療・看護の提供状況の適切性の判断に基づく資源の差配 | 患者の重症度に応じた治療環境を提供する | 重症患者には,観察の強化のために十分に目が届くベッドを割り振る |
| 患者の不安定さに応じて必要な注意の度合いを推し量り,目を配れる環境におく | ||
| 感染拡大による重症患者の致命性を認識し,確実に隔離を行う | ||
| 治療や看護の円滑な進行に必要な人的・時間的資源を見越して予定調整を行う | 処置やケアの予定を把握して十分なマンパワーを備えておく | |
| 看護師が効率よく働けるよう患者の状況を踏まえた時間管理を行う | ||
| 看護師が治療や看護に専念できるよう時間を確保する | ||
| 治療や看護が滞りなく行われるように,看護師や医師の状況を把握して時間管理を行う | ||
| 看護師の力量判断に基づく重症患者看護についての教育の提供 | 患者の現状に適うよう看護師の実践を導く | 看護師の実践能力は普段から把握しておき,患者の看護が十分に行えるよう導く |
| 経験の浅い看護師には,確かな治療と看護のために患者の病態を十分に理解させる | ||
| 看護師の実践内容が患者の現状に適切なものとなるように導く | ||
| 重症患者看護を経験させることを重視し教育の機会をつくる | 看護師が仕事を通して学ぶ姿勢を育み,尊重する | |
| 状態変化への危機感をもって看護を提供することの重要性を後輩に伝える | ||
| ICU経験の浅い看護師には重症患者の看護を経験させるために看護チームでのサポート体制をつくる |
全患者の変化の可能性を意識し,情報を獲得する必要性や適切な情報収集の手段を判断し,見極めて駆使することを示す.《患者情報をタイムリーに把握するために適切な情報源を見極めて情報収集する》では,その時点で重要な情報を得るために,看護師や患者といった情報源を見極めて情報収集していた.勤務帯リーダーは〈患者情報を更新するためにタイミングを見計らって情報収集〉し,時には手術直後の経過を把握するために受け持ち看護師と会話を交わすことを選択する,〈患者情報を効率よく把握するための情報源を見極めて情報収集〉を行っていた.患者状態の変動では〈患者状態の変化をその都度判断して患者を直接観察する〉手段を活用していた.《患者について重要な情報を選択して情報収集する》では,一人の患者が持つ多くの情報から取捨選択を判断して,重要な情報を得ていた.〈患者情報のうち生命にかかわる事柄を選択して情報収集する〉こと,〈患者情報の中で主疾患と既往歴を優先して情報収集する〉といった優先度の判断に基づき情報収集していた.さらに,〈緊急入院患者について不足している情報を見極めて情報収集に努める〉では,緊急入院患者に着目して先回りして必要な情報を判断し,得ていた.《複数の患者のなかから不安定な患者を判断して情報収集する》では,より優先性・緊急性の高い患者を選択して情報収集していた.〈複数の患者のなかからより不安定な患者に優先順位をつけて情報収集する〉ことを行っていた.
「補助循環使いつつカテコラミンを使い,ピトレシン ®も使って昇圧しているような人だったので,ちょっと.あの日の中では一番重症度が高めの人だったかなっていうところで一応気にはなって,(中略)見に行った感じです」(H氏)
2) 【治療・看護における不測の事態を想定した目配り】勤務帯リーダーが患者に治療や看護が提供されるなかで危険が生じる可能性を判断し,患者の回復に向けて早期介入するために注意を向けることを示す.《患者への安全な治療・看護の提供に注意を払う》では,提供される治療や看護により危険が生じないように注意を向け,患者の安全を保障していた.患者それぞれの〈確実な治療の遂行のために,現行の治療内容とその目的に注意を払〉い,〈看護師の判断のあやまりにより患者に危険が生じないよう目を配る〉ことを通じて,〈患者の安全が守られているか常時注意を保ち,危険には迅速に対処〉していた.
「特に(医療機器の)アラームとかナースコールとか,あと患者さんが変な動きしてないかな,とか(全部のベッドを)歩いたりとかしています」(I氏)
3) 【患者の危機状態の迅速な判断に基づいた危機管理体制の立ち上げ】患者が危機状態に陥ったことを迅速に判断し,患者の危機に対応するための体制をつくることを示す.《患者や家族の危機状況には直接ケアを行う》では,勤務帯リーダーがベッドサイドに駆けつけてケアを提供していた.〈緊急事態には,迅速にベッドサイドでの支援に駆けつける〉といった支援だけでなく,〈患者が生命の危機に陥った時には家族の心情に配慮した対応に努める〉という直接的な患者家族への対応も行っていた.《救命に必要な治療環境を見定めて早急に確保する》では,患者の救命治療に必要な人的資源や物的資源を判断して迅速に確保していた.〈救命のために必要な治療環境を迅速に整える〉ことと〈緊急時の対応に必要なマンパワーを確保する〉ことは素早く並行して行われていた.《緊急時には明確に看護チームの役割分担を決める》では,危機時にリーダー自身を含め看護師の役割を明確に判断して,役割を分担していた.緊急時には,〈患者状態の安定化を最優先に行動する〉ことを基盤に,〈緊急時でも冷静さを保ちリーダー役に徹〉し,〈余裕がない時は,信頼のおける看護師にリーダー役を委ねる〉,〈緊急時には迅速かつ具体的に看護師に役割分担する〉ことで看護チームの采配を決定していた.
「(緊急入院を早急に受け入れる時,在室患者の)退室の準備させて速攻脳出血(の患者)をとらなきゃいけなかったのでベッドの準備をし,〇〇さんに(入院を)とってもらうように指示して〇〇ちゃんに外回ってもらうように言って」(M氏)
4) 【患者の重症度と看護師の能力のバランスを評価して繰り返す看護チームの再編】リーダーを務める勤務帯のあいだ,重症度に着目した患者の変化と受け持ち看護師の能力を照らし合わせ,釣り合いがとれるように看護チームの編成を繰り返すことを示す.《勤務のはじめに看護チームのバランスを整えて見通しをつける》では,勤務開始時に全患者とその日に勤務している看護師の構成を把握し,看護師や病床運用の見通しを判断して見通しをつけていた.〈勤務のはじめに看護師の仕事配分を把握する〉,〈勤務のはじめに患者の重症度と看護師の力量のバランスを整える〉ことで看護師の業務負担を調整し,〈勤務のはじめに患者の入退室の予定から病床数の推移を把握しておく〉ことで病床運用の見通しを立てていた.《患者の重症度と看護師のおかれた状況の均衡を見定めて保つ》では,患者の重症度と看護師の力量の均衡を判断し,チームの編成状況の適切性を見定めて必要に応じて編成していた.〈病態変化の対処内容を判断し,看護師の力量を見極める〉,〈患者に必要な処置やケアが円滑に提供できる状況か評価し,安全に提供できる環境が整っているか見極める〉といった患者と看護師双方の状況を照らし合わせてチーム編成が適切か見極めていた.さらに,〈看護師のもつ重症患者看護の能力を判断し,患者を任せる〉,〈看護師が患者の重症度に応じた治療や看護を提供できるか判断し,看護チームを再編する〉ことで看護師の力量から患者の割り振りを判断し,チームを編成していた.《患者の治療・看護のウェイトに応じて看護師への支援を提供する》では,各患者が要する治療と看護を提供するために看護師が担う業務量を判断してサポートを提供していた.〈看護師の様子を気遣い,処置やケアの実施を手助けする〉こと,〈患者の不安定さから看護師の負担を推し量り,支援を分担する〉ことから看護師の支援を提供していた.〈処置やケアの予定を共有することで看護師からチーム全体への協力が得られるように計らう〉ではチーム全体で看護師の支援を担い,〈状態が不安定な患者に注力しつつも全患者の動向と看護師の支援の必要性を捉えようとする〉ことで支援提供の対象が偏らないようにしていた.
「緊入(緊急入院)で(患者が)来たばっかりだと,やっぱりまずそこにいって手伝うようにはしています.夜勤(帯の入院)で朝8時とかに(患者が)入ってきたばっかりで何も終わってないとか.そういう時とかはやっぱり(ベッドサイドに)行くようにしてますね」(I氏)
5) 【患者に生じる問題の変化へ応じた医療チーム全体への対策の主導】勤務帯リーダーが疾患によって生じている患者の問題を判断し,その解決に向けた方策の実現に向けて,看護チーム,場合によっては医療チーム全体を主導することを示す.《患者の状態改善に向けた対策を医療チームに提案する》では,患者の潜在的な問題を判断し,対策の強化を働きかけていた.〈状態の不安定化の原因を模索し,看護チームとしての対応を提案する〉だけでなく〈患者の状態悪化のリスク低減のための対策は,他部署や次の勤務帯に引き継〉ぎ,リーダーを担うチームに留まらず対策を主導していた.加えて,短期的な対策だけでなく〈患者の長期的な回復を見通し,治療や看護の変更を提案〉していた.〈状態の悪化予防と改善のために看護師や医師を巻き込み治療や看護の変更を提案する〉ことから,他職種も巻き込み対策を主導していた.《患者の状態悪化を見越して早期の対応を医療チームに促す》では,状態悪化の顕在化に対して素早く対応できるよう多職種に促していた.〈既知の患者情報と現状の整合性を見極め状態変化の原因を追究する〉ことを踏まえ,看護師には〈患者の状態変化は常に意識し,観察の強化と早期の安定化を看護師に促〉し,〈さらなる状態悪化の徴候を確実に捉えるよう看護師に注意を促〉していた.〈患者の状態悪化には速やかに対処できるよう医師や看護師と情報共有〉し,〈状態悪化の予兆を捉え,迅速に治療が行えるよう備えて〉いた.《病態以外の観点から患者の問題を捉えて医療チームの活動を転換する》では,疾患により派生する問題を判断し,実践内容の変化に働きかけていた.〈重症疾患から生じる苦痛に関心を寄せ打開策を模索〉し,〈家族ケアの提供状況にも留意し,機会を捉えて看護師に実践を促〉していた.
「夜,家族がベッドサイドで泣いてて,とか(受け持ち看護師に)言われると,(中略),(患者の病状の)理解あるか聞いておいてとか,家族の反応とか疑問に対して記録残しておいてとか言います.」(C氏)
6) 【医療職間での共通認識の形成状況に応じたチームの協働の促進】勤務帯リーダーが医療職間での認識がどの程度共通しているか判断したうえで,多職種間の協力を促すことを示す.《看護師や多職種間での情報共有の程度を判断し治療や看護を協力して行えるようまとめる》では,看護師間や多職種間での情報共有の程度を判断し,医療提供での協働を図っていた.〈病状の複雑性を踏まえて看護師や医師と綿密に共通認識を形成する〉こと,〈看護師と多職種間の連携具合を判断することで治療やリハビリテーションでの協働につなげ〉,医療職間の調整に必要な事柄を見極めて協働を促していた.〈病床の運用見込みに関する情報共有の程度を判断してチーム全体に知らせることで患者をスムーズに受け入れる〉では新規患者の受け入れでの協働も図っていた.
「先生(医師)とのコミュニケーションが苦手なナースもいるので,(確認が必要なことを自分が)聞いとくね,みたいな感じ(で調整する)」(C氏)
7) 【治療・看護の提供状況の適切性の判断に基づく資源の差配】治療や看護の提供状況が適切性や円滑さを把握のうえ人的資源,物的資源,時間的資源から必要なものを特定し,分配することを示す.《患者の重症度に応じた治療環境を提供する》では,重症度を判断し,適切なベッドの位置を振り分けていた.〈重症患者には,観察の強化のために十分に目が届くベッドを割り振る〉,〈患者の不安定さに応じて必要な注意の度合いを推し量り,目を配れる環境におく〉ことで,変動する患者の重症度に応じて患者配置を臨機応変に変えていた.また,〈感染拡大による重症患者の致命性を認識し,確実に隔離を行う〉ことで,感染症による重症患者と,感染が生じることでさらなる重症化が懸念される非感染性疾患の患者を物理的に離していた.《治療や看護の円滑な進行に必要な人的・時間的資源を見越して予定調整を行う》では,治療や看護の円滑な提供に必要なマンパワーや時間を推測し,1日の予定を調整していた.〈処置やケアの予定を把握して十分なマンパワーを備えてお〉き,〈看護師が効率よく働けるよう患者の状況を踏まえた時間管理を行う〉ことと〈看護師が治療や看護に専念できるよう時間を確保する〉ことで看護師の状況に合わせた時間管理をしていた.〈治療や看護が滞りなく行われるように,看護師や医師の状況を把握して時間管理を行う〉ことで治療や看護の進行状況に応じて医療チーム全体のマネジメントを図っていた.
「処置とか検査とか,他部署との予約のタイミングがあると思うんですけど,そういうのを優先させなければならないじゃないですか.で,それの合間のなかで(清潔)ケアとかをしていかなければいけないと思うんですけど,そういう流れをあんまり時間とか遅くならず進めていけるように(しています)」(J氏)
8) 【看護師の力量判断に基づく重症患者看護についての教育の提供】看護師それぞれが持つ能力を判断し,重症患者看護を実践するために必要な教育を看護師に提供することを示す.《患者の現状に適うよう看護師の実践を導く》では,患者のニーズに適した看護を行えるよう看護師の考えやケア提供状況を判断して実践を導いていた.〈看護師の実践能力は普段から把握しておき,患者の看護が十分に行えるよう導く〉,〈経験の浅い看護師には,確かな治療と看護のために患者の病態を十分に理解させる〉といった看護師への判断に基づき,〈看護師の実践内容が患者の現状に適切なものとなるように導〉いていた.《重症患者看護を経験させることを重視し教育の機会をつくる》では,看護師の力量が不足していても,経験を積むことを重視して教育の機会をつくりだしていた.〈看護師が仕事を通して学ぶ姿勢を育み,尊重する〉ことをもとに〈状態変化への危機感をもって看護を提供することの重要性を後輩に伝え〉ていた.さらに〈ICU経験の浅い看護師には重症患者の看護を経験させるために看護チームでのサポート体制をつく〉り,チームでの教育提供体制を作り出していた.
「(心臓血管外科術後の患者について)カテコラミン動かすとか,人工呼吸器の設定をガタガタ動かすような人じゃない人は,(中略)心外(心臓血管外科の疾患)の勉強をし始めている子たちには受け持っても良いかなとは,思って持たせたりとかしますかね,フォローのもと.なんでも分からなかったら聞いてください,あとは心外の先生たちが寄ってきていると,後ろでこう,私もいるみたいな感じで持たせたりとかしますね」(B氏)
本研究では勤務帯リーダーの臨床判断に基づく実践に着目した.特に,臨床判断の起始を状況把握とし,チーム運営に及ぶ具体的な実践を明らかにした点が特徴である.その結果,勤務帯リーダーの臨床判断に基づく実践は,医療チームまで拡張するICU全体の管理,看護師教育の提供,患者・家族への直接ケア提供と多岐に渡っていた.これらの結果は,臨床状況の把握と判断が分岐点となり,多様な実践へと繋がることを意味する.つまり,勤務帯リーダーの臨床状況の意味付けによって選び取られる実践が変化することを示唆する.
1. 集中治療室における勤務帯リーダー看護師の臨床判断に基づく実践の特徴 1) 治療や看護の根本となる情報獲得研究参加者は【患者情報の必要性に応じた情報収集手段の見極めと駆使】することを努めていた.勤務帯リーダーは立場上,全患者の担当と感じるほど情報を常に収集している(Eggenberger, 2011).ICUの患者は急性・重症で変化が大きい.タイムリーに情報を得るには重要性や優先性に基づく情報の選択と,適切な情報収集手段を見極める能力が必須である.また,患者情報は治療や看護の根本である.特に,ICUのリーダーに重要な情報は感染隔離,挿管,重症度,治療方法,患者の特異な変化といった生命に関わる事柄である(Lundgrén-Laine et al., 2013).したがって,勤務帯リーダーの情報収集能力は,患者転帰に影響を及ぼす実践に繋がる.
2) 危機の程度を読み取る能力と機動性発揮に向けた実践勤務帯リーダーは患者の危機が生じる前と,既に危機状態である時に特徴的な実践を行っていた.【治療・看護における不測の事態を想定した目配り】は潜在的危機への警戒で,【患者の危機状態の迅速な判断に基づいた危機管理体制の立ち上げ】は顕在化した危機のコントロールである.これらには,危機の有無の判断に加えて迫る危機の程度を判断する能力が必要で,危機対応の機動性を発揮する実践といえる.危機の予測と対処は,患者状態だけでなくチーム管理の熟練が求められる(Benner et al., 2011/2012).また,臨床能力や,混乱を減じる能力は勤務帯リーダーの能力の質である(Sherman et al., 2011).勤務帯リーダーは,危機管理に根差してチーム構築の実践を行っていた.
3) チームのキーパーソンとしての実践勤務帯リーダーは一勤務帯という限られた看護チームを担うが,医療チーム全体を動かしていた.【患者の重症度と看護師の能力のバランス評価に応じて繰り返す看護チームの再編】では,患者と看護師の情報を併せて検討しチームを組み替えていた.救急領域のリーダーは,変化する看護師の支援ニーズに応じてマンパワーを配分している(Husebø & Olsen, 2019).重症患者を収容する点でICUは救急領域と類似しており,本研究でも患者状況に応じた柔軟なチーム編成を行っていた.【医療職間での共通認識形成状況に応じたチームの協働の促進】では,チームが同じ目標へ動けるよう支える一方で,【患者に生じる問題の変化に応じた看護チームを越えた対策の主導】では医療チームを先導していた.重症患者の十分な治療や看護には,多職種から成る医療チーム全体での関わりが効果的である(Donovan et al., 2018).医療者の編成や実践の変化といった影響を与え得る立場にある勤務帯リーダーとして,より質の高い治療や看護に向けて,医療チームのキーパーソンとしての実践が行われていた.
4) ICUが有する資源の活用勤務帯リーダー看護師は,【治療・看護の提供状況の適切性の判断に基づく資源の差配】を行っている.すなわち,治療や看護の提供者である看護師や医療チームのニーズを判断し,ICUが有するヒト・モノ・時間といった資源の分配を行っていた.勤務帯リーダーにとって入院患者の情報,患者に提供される特殊治療,業務の組織化と管理,各看護師の業務分担,物的資源の配置といった事柄は重要である(Lundgrén-Laine et al., 2013).患者情報と看護師の業務分担や物資がともに重視されていることは,勤務帯リーダーにとってICU内の資源の分配が重要な実践であることを示唆する.勤務帯リーダーは,患者のニーズの充足に向けて資源の有効活用を行っていた.
5) 勤務帯リーダーが担う看護師教育の実践【看護師の力量判断に基づく重症患者看護についての教育の提供】では,看護師それぞれの能力に応じて看護実践を通した教育を行っていた.一般病棟においても勤務帯リーダーの看護師教育の提供が行われている(山品ら,2011).調査領域をICUとした本研究においても同様の結果が得られ,臨床において勤務帯リーダーが看護師教育を広く担っていることが推察される.多様な診療科の重症患者を受け入れるICUでは,看護師の未熟さに起因する判断の遅れは患者の致命的な変化を招くおそれがある.勤務帯リーダーには看護師の能力を適切に見極めて危険を取り除くとともに,並行して看護師教育を実践していた.
2. ICUの勤務帯リーダー看護師の能力開発に向けた方策本研究の結果から勤務帯リーダーは,情報収集,危機の回避と管理,医療チームの管理,看護師教育,資源分配など多様な能力を求められていたが,危機の予測やチームの首尾よい管理,他者の指導には実践を通した熟練を要する(Benner et al., 2011/2012).勤務帯リーダーは上司からの承認のもと役割を担い始めるが,その実態は明らかでなく能力のばらつきも指摘されている(寺岡・山田,2011).近年,米国では看護実践の質担保を専門とするClinical Nurse Leaderが設けられ,教育課程の統一化と能力基準の明確化が進んでいる(AACN, 2013).日本では一般看護師を対象とした管理的,教育的能力の認定等の仕組みは存在しない.しかし,勤務帯リーダーの能力向上には,求められる能力の明確化や評価基準の開発が必要である.第一線でチームを担う勤務帯リーダーの能力の開発を推し進めることは,集中治療の質担保における大きな課題である.
ICUにおける勤務帯リーダーの臨床判断に基づく実践は8つのカテゴリから構成され,チーム編成や看護師教育といった多岐に渡る実践であった.これらの実践が充分に行われるためには,勤務帯リーダーに特化した能力開発の充実が必要であり,集中治療の質の維持・向上における重要な課題といえる.
本研究の限界として,首都圏に限った調査のため他の地域で十分に適用できない可能性が挙げられる.医療機関の偏在によりICUの看護師に求められる役割が地域によって異なることが考えられ,全国での調査が今後の課題である.
付記:本論文は,国立看護大学校研究課程部博士前期課程に提出した特別研究論文(修士論文相当)の一部を第40回日本看護科学学会学術集会に発表し,加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究を行うにあたり,お忙しい中ご協力いただきました集中治療室の看護師の皆様,医療機関の看護部長・副看護部長・集中治療室看護師長の皆様に謹んで御礼申し上げます.また,研究の全過程を通してご指導くださいました看護情報・管理学ゼミの皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SSは研究の着想およびデザインと実施,分析,執筆;YYは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.