目的:特別支援学校で学ぶ医療的ケア児への,口鼻腔内吸引や気管内吸引の実施に至るまでに,学校看護師が吸引の必要性をどのように判断しているのかを明らかにする.
方法:学校看護師18名に個別に半構造化インタビューを実施し,質的帰納的に分析した.
結果:学校看護師は,その場で医療的ケア児を観察して得た情報だけでなく,その子にとっての効果的な排痰パターン,その子の呼吸維持力の程度,吸引によるその子の変化といった経験を通して得た情報もあわせて,その子が吸引を待てる状況にあるかどうかを判断していた.吸引を待てると判断すると,教育活動を妨げないよう,その子の吸引の希望のサイン,保護者の判断や思い,教員や同僚看護師の判断をすり合わせ,吸引を実施する最適なタイミングを見つけていた.
結論:吸引実施の必要性を適切に判断するには,その子のことをよく知り,判断を他者と共有し,互いに学びあうことが重要である.
Aim: This study explored the nurses’ clinical judgement of endotracheal and oral-nasal suctioning for technology-dependent children attending special needs schools.
Methods: A descriptive qualitative research design was used. Semi-structured interviews with 18 nurses working for technology-dependent children in Japanese special needs schools were conducted, and data were qualitatively and inductively analyzed.
Results: Nurses judged whether the endotracheal and oral-nasal suctioning was necessary based on not only the child’s physical condition but also the empirical knowledge of the child’s bronchial drainage patterns, the strength of keeping smooth respiration, and the effects of suctioning. Nurses found the best timing of suctioning not for interrupting educational activities with focusing parents’ desires and drawing teachers’ and other nurses’ judgements.
Conclusions: Knowing the child and the parents’ desires are important for nurses’ clinical judgement of endotracheal and oral-nasal suctioning for technology-dependent children attending special needs schools. In addition to that, sharing judgements with others is essential to choose the best timing of suctioning.
特別支援学校に在籍する医療的ケア児は年々増加し,常時かつ長期的に濃厚医療や濃厚介護を必要とする超重症児も含まれ(野崎・川住,2011),医療的ケア児の障害の重度化,重複化がみられる.特別支援学校には呼吸器機能障害を有する多くの医療的ケア児が学んでおり,口鼻腔内吸引や気管内吸引(以下,吸引)は,学校で実施される医療的ケアの内容の多くを占めている(文部科学省,2020).学校生活において吸引の必要性を適切に判断し実施することが,医療的ケア実施者には求められる.特別支援学校で学ぶ医療的ケア児の保護者が望む医療的ケア実施者として,一番に看護師があがり(大島ら,2006),実際の医療的ケア実施者としても,医療的ケアのために特別支援学校に勤務する看護師(以下,学校看護師)が大多数をしめている(大崎ら,2017).学校看護師は,教員が認定特定行為業務従事者として吸引を医療的ケア児に適切に実施できるよう指導することも求められており,医療的ケア実施者として重要な役割を担っている.
学校看護師は,医療的ケア児の個別性を理解することを難しく感じており,そのことが学校看護師のストレスの要因となっていると報告されている(松澤・吽野,2014).また,肺音から子どもの状態を判断し吸引のタイミングや吸引の効果を確認することを,一人で判断し自信をもってできると認識している学校看護師の割合は,他の看護実践と比較すると低いことも報告されている(道重ら,2012;中村ら,2017).これらの報告から,学校看護師が医療的ケア児への吸引実施に関する判断において困難を抱いていることが推測される.
これまで,病院に勤務する看護師を対象とした研究で,気管内吸引技術を獲得していく過程,気管内吸引実施評価の判断より必要性の判断の方が獲得に経験年数がかかること(安森ら,2009),病棟の種類によって気管内吸引の必要性の判断材料となる情報に違いがあること(前田ら,2011)や判断材料となる情報の入手方法(佐久間ら,2017)が明らかにされている.しかし,これらは病棟に入院する成人への気管内吸引に関するものである.入院する子どもへの気管内吸引の必要性の判断に関して,どのようなことを手掛かりに看護師が判断をしているのかは報告されているが(Thomas & Fothergill-Bourbonnais, 2005),子どもへの吸引の判断に関する報告は少なく,学校生活を送る子どもに吸引を実施するにあたり,どのように学校看護師がその必要性を判断しているのかは明らかにされていない.
特別支援学校で学ぶ医療的ケア児に対して,吸引実施に至るまでに,吸引実施の必要性の判断をどのように学校看護師が行っているのかを明らかにする.
帰納的アプローチによる質的記述的研究
2. 研究対象者近畿圏内の特別支援学校に3年以上勤務しており,かつ,医療的ケア児への吸引を実施した経験のある学校看護師を対象とした.看護実践の中で自律的に判断し目標達成に向けて患者を支援することに関し,経験年数3年を境に差がみられることや(多久島ら,2018),ベナー(2001/2005)が,一人前のレベルの看護師は似た状況下で2~3年経験を積んでいるとしていることから,特別支援学校での勤務経験を3年以上とした.
3. データ収集方法研究協力の承諾を得られた学校看護師に対し,インタビューガイドに基づき,一対一の半構造化インタビューをプライバシーが確保できる部屋で実施した.インタビュー実施期間は2018年7月~2018年12月,インタビューの所要時間は平均36分間であった.インタビュー内容を,研究対象者の許可を得た上でICレコーダーに録音し,匿名性を保持した形で逐語録とした.インタビューの内容は,医療的ケア児への吸引の必要性をどのように判断しているのか,吸引の必要性の判断に迷ったことがあればその時の状況,吸引の必要性を判断する際に心がけていること,経験を積む中での吸引の必要性の判断の仕方の変化の有無や変化内容についてであった.学校看護師が考えたことを自由に話してもらうようにした.
4. データ分析方法質的帰納的に分析した.学校看護師が医療的ケア児への吸引実施に至るまでにどのような情報をもとに,どう判断しているのかを意識しながら,逐語録を何度も読み込み,学校看護師の吸引に至るまでの行動や考えを表すデータ部分を抽出した.抽出したデータごとにその意味内容を考え,意味内容の類似性や相違性を比較し,類似する意味内容のデータを集めサブカテゴリー化した.サブカテゴリー間の関係を,逐語録に戻って確認しながら,吸引実施に至るまでの時間の流れにそって図式化した.関連するサブカテゴリーのまとまりが意味する内容を命名し,カテゴリーを生成した.分析の過程で図の修正を繰り返し,サブカテゴリーやカテゴリー間の関係を示す結果図を作成した.分析過程においては,質的研究の経験を有する小児看護学領域の研究者から意見をもらい分析結果の検討を重ね,郵送によるメンバーチェッキングにより,研究協力者の意図とデータ解釈にずれがないかを確認し,真実性を確保した.
5. 倫理的配慮日本看護科学学会の研究倫理審査を受け承認を得て,研究に着手した(承認番号:JANS018-002-1).研究の趣旨,目的,研究協力が自由であること,匿名性を保持すること,研究目的以外に得た情報は使用しないこと,データの保存方法および破棄の時期,研究結果を学会等で発表することを,研究対象者に,口頭および書面で説明し,同意書への署名で研究協力の同意を確認した.
研究協力者は,特別支援学校8校に勤務する学校看護師18名であった.18名全員,教員も医療的ケアを実施する体制の特別支援学校に勤務していた.週5日勤務が13名,週4日勤務が4名,週2日勤務が1名で,全員が非正規雇用であった.特別支援学校での経験は3.4~15.3年(中央値7.1年)で,うち3名は,地域の小中学校で学校看護師として2~5年の経験も有していた.特別支援学校や地域の小中学校での学校看護師としての勤務を除いた看護師としての経験は4~25年(中央値15.0年)であった.学校看護師としての経験を除いた小児看護の経験者は11名で,彼らの小児看護経験年数は1~17.5年(中央値7.0年)であった.
2. 特別支援学校で学ぶ医療的ケア児への吸引実施に至るまでの看護師の判断分析の結果,20サブカテゴリー,5カテゴリーが見いだされた.【 】はカテゴリー,〈 〉はサブカテゴリー,斜体は学校看護師の語り,補足説明は( )で示し,末尾のアルファベットは研究協力者のIDである.以下,カテゴリーについて説明する.各サブカテゴリーの定義と具体例は表1に,結果図は図1に示す.
| カテゴリー | サブカテゴリー | 定義と具体例 |
|---|---|---|
| いつもとの違いを感じ取る | その子をよく観察する | 自分の感覚を頼りに,その子の呼吸状態や表情や全身状態を観察すること |
| それは,呼吸状態,呼吸の,努力呼吸はしてないかとか,呼吸音,まず,みるのと.あと,SpO2を測って,で,目力があるかとか,総合判断で,この子,もう今日吸引せんでいいわとかね.(B) | ||
| その子の家や学校での様子の情報をふまえる | 家庭や学校生活でのその子の状態や実施したケアがどうであったかという保護者や教員や同僚看護師からの情報を参考にすること | |
| もちろん,毎朝必ずみんなの連絡帳見て回るので,見て回って,そこは,今日は体調悪いんだねとか,痰が固いんだねとかいうのは参考にします.(J) | ||
| その子のいつもの表情や呼吸状態と比較する | その子のいつもの表情や呼吸状態を把握しておき,その子のいつもの様子と今の様子を比較すること | |
| もちろん,サチュレーションに頼らないって言いながら,頼っている部分もあるけど,やっぱり,顔色が普通のじゃないっていうのが,とか.ずっと泣いている.やっぱし,普段と違うっていうのが一番おっきいかなと思います.(C) | ||
| その子のことをつかむ | その子の呼吸維持力の程度をつかむ | その子の普通の呼吸状態や,咳込む力など,その子が自分の呼吸を維持する力をどの程度持っているのかをつかむこと |
| 学年が上がっていけば,こんだけなら頑張れるねとか,もうだめだから,これはやったげなきゃとかっていうのが,なんとなく,わかってくるというか,数値的なものではなく.(A) | ||
| その子の効果的な排痰パターンをつかむ | その子にとって効果的な排痰方法やタイミングといった排痰パターンをケア経験や周囲の人からの情報を通してつかむこと | |
| 私も,最初は,すごく,どうしてあげたらこの子にいいのかなっていうところで,模索はしていた時期はあって.その中で,だんだん,それが,やっぱり,この子のパターンっていうのが出てきて.この子はここでひいとけば,すっきりするとか.この辺までひくとか,このへんでいいとかいう加減がだんだん,長く付き合えば,長くなればなるだけ,だんだん,その子がわかってくると.…吸引のしていいタイミングっていうのがつかめるようにはなってきました.(E) | ||
| 吸引によるその子の変化をつかむ | 吸引することによって,その子の体調にどんな変化が生じるのかを,周囲の人からの情報や自分で観察してつかむこと | |
| バスに乗って帰るっていうのがわかったら,吸引するならいつまでにしようとか思っている.午前中に吸引して,午後は,多少ゴロゴロ言っていても,腹臥位にしたりとかして,なんとか吸引せずにいけるようにしたり.吸引することで,余計に長引くこともあるから.吸引することでかえって,痰が上がって長引くことがわかっているから.(O) | ||
| 吸引を待てるかどうか判断する | 痰の位置を見極める | 聴診や触診の観察をして,痰の貯留場所を確認し,痰が吸引で回収できるか位置にあるのかどうかを見極めること |
| このゴロゴロ(痰の貯留音)は,やっぱり上に上がってなかったゴロゴロなんやなとか,もうちょっと様子を見て上がってくるんかなとか.(S) | ||
| 喘鳴の原因を見極める | 喘鳴の原因が,痰の貯留によるものなのか,それ以外によるのか,その原因を見極めること | |
| 他にも原因が,ゼロゼロになる原因が,姿勢とかに,暑さとかにもよって,その子もゼロゼロになってきたりもするので,ただ単に何が原因でこうなってるのがあるのかなっていうのも,ちょっと考えもって,一応やるようにはしてます.それね,暑いのをちょっと涼しくしたら,ちょっと楽になる場合もある.(I) | ||
| その子に吸引を待てる余力があるかを見極める | その子が,吸引をしなくても今以上の呼吸状態の悪化に至らないかどうか,体力的に吸引を待っても大丈夫という余力があるかどうかを見極めること | |
| (人工)呼吸器(を装着する)一歩手前の子で,ほんまはつけたほうががいいけど,来てる子とか,家で呼吸器つけて来てて,学校で外してる子っていうのは,やっぱりそこってもう予備力がなかったりとか,ぎりぎりで来てる子なんかなと,何となく私は思ってるから,そこはちょっと(吸引を)早めにしてるかな.(Q) | ||
| その子の排痰パターンをふまえる | その子をケアした経験や保護者や教員や同僚看護師から見聞きした経験からつかんだ,自己排痰の可否,その子にとっての最適な吸引のタイミングや排痰方法といった,その子の排痰パターンをふまえて考えること | |
| 普段から,結構,しっかりせき込める子もいてますよねえ.せき込んで出せるよねっていう人は,毎回,引く必要はないかなあと.自分でせき込んで出してねって.(H) | ||
| 吸引することでのリスクを予測する | 吸引でかえって痰があがり呼吸状態が悪化するリスクや,バス乗車中や給食中や給食直後の吸引で,嘔吐,気管内の損傷,呼吸状態の悪化のリスクがあると予測すること | |
| 子どもさんでいえば,何ていうの,身体的なことでいえば,吸引によっていろいろデメリットもあるので.そこら辺のところが,メリットだけではないので.危険も伴うし.そこですよね.まあ,病院と違ってドクターがいないので.自分の責任にはなるので.そこは気を付けて,ま,顔色とかお子さんの状態を見ながらっていうところはありますけど.(G) | ||
| 吸引をしないことでのリスクを予測する | 吸引をしないことで,その後,その子にどんな危険が起こりうるかを予測すること | |
| 分泌物がどうしても増えてくるので.それを何も吸引せず,吸入かけちゃうと分泌物増えてしんどくなっちゃうことがあるので.吸入かける前に必ず吸引をして.(D) | ||
| 今すぐ吸引する必要はなく待てると判断する | その子の呼吸状態や表情を観察し,その子の排痰パターンや吸引によるリスクの予測をふまえ,今すぐに吸引をする必要はなく待てる状態であると判断すること | |
| 待つっていうことですね.それは,より,効果的にいいものがこっちのほうがひけるっていうのが,経験値で出てきたから.で,その間でに急激な低下があったりとか,その容体の急変であったりとかいうことが,ないっていう予測はある程度たってきて,こんなときには,駄目なんだっていうところも分かってきてるので.待てる,待って,よりよいものをっていう意識が,最初と比べると出て,最初はやっぱり自分も怖いですし,急に下がったらあれやし.(L) | ||
| 吸引実施を待てないと判断する | 今のその子の呼吸状態や表情といった様子から,その子の余力がないほどの呼吸状態の悪化をきたしている,その子の排痰パターンに合致していると考え,吸引実施を待てないと判断すること | |
| 顔色も悪くなってきたねっていう時は,もう,給食と一緒に吸引するっていう感じで,引いたりはしています.(F) | ||
| 吸引以外の排痰援助を教員と協力して実施する | 吸引以外の排痰援助を教員と協力して実施する | 自己排痰や吸引を効果的に実施できるように,体位ドレナージや吸入といった吸引以外の排痰援助を教員と協力して実施すること |
| 朝来はった時に,乾燥してたりとか,あと胸の音がすごいいつもと違うような音がしてたりしたら,吸入を先にして,痰が粘りがきつかったりとかしたら吸入して,痰が出やすい状態に,授業が始まる前段階で,先生と一緒にしてますね.(N) | ||
| 吸引のタイミングの判断をすり合わせる | その子の吸引希望のサインに合わせる | その子からの吸引を希望する訴えや,その子の吸引を希望するサインとしてとらえた咳きこみのタイミングに合わせ,吸引しようとすること |
| かなり吸引に対して抵抗が強い子だったんで,なかなか今でもそうなんですけど,ぎりぎりまでちょっと本人が言うまで,「ゴロゴロ言ってるけど,まあ,どうする?」ぐらいに聞いて,本人の同意があった時にするようにしてます.(M) | ||
| 教育活動を妨げないよう吸引のタイミングをはかる | その子の体調から吸引を待てると判断したうえで,教育活動の流れを妨げないように,吸引のタイミングをはかること | |
| 授業中,緊急というか,本当に顔色が変わったとか,サチュレーションがどんと落ちたっていう以外は,ちょっとゼコゼコ言ってても,授業が終わるまで待ってみたりとかしますけど,校外は音がしたらすぐ引くっていう.(P) | ||
| 吸引のタイミングに関する教員や同僚看護師の判断を参考にする | その子をみている教員や同僚看護師が吸引のタイミングについて判断したことを参考にすること | |
| それまでの流れがありますよね.来た時からちょっとゴロゴロいっていたんだけど,それがいったん引っ込んでしまっただとか,で,今,ちょっといい感じでここに上がってますとか.すごい本当に聴診器で聞いているわけじゃないけど,先生ならではで,すごいからだがゆるゆるになって,取りやすい感じなったので,どうぞ~!,みたいな感じですね.吸入もして,すごいゆるゆるになったので,すごい痰も取りやすいですとかあったり.なんか,前の経験とかも覚えておられて,こないだこれでよかったので,いいと思いますって言われて,じゃあやってみようとか.(A) | ||
| 保護者の吸引のタイミングの判断や思いを尊重する | その子の体調が吸引を待てる場合に,看護師の判断ですぐに吸引するのではなく,保護者の吸引に対する思いや吸引のタイミングの判断を尊重して吸引のタイミングを考えること | |
| あ,あと判断にね,保護者の思いっていうのも結構あります.私たちはもう少し吸引とか頻回にしてあげたらいいんじゃないかなと思うんだけど,保護者の方が「このぐらいまで待ってください」とかっていうのがあるので,そこはもう,保護者の意向に合わせるようにしてるから,判断に保護者の意向っていうのが入ってくるときはあります.「看護師さんに任せます」っていう方もいらっしゃるけど.お母さんがやるタイミング,お母さんの引いてほしい回数.(K) | ||
| 判断をすり合わせ吸引のタイミングを見つける | 学校看護師自身が教育活動を妨げないようにと判断したタイミング,その子の吸引希望のタイミング,教員や同僚看護師や保護者の判断したタイミングをすり合わせて,その子にとってベストな吸引のタイミングをみつけること | |
| もちろん保護者さんの思いとか先生の思いもあるので,自分の思いだけでは(痰を吸引して)引けないし.(G) |
斜体は具体例 ( )は著者による補足

特別支援学校で学ぶ医療的ケア児への口鼻腔内・気管内吸引実施に至る学校看護師の判断
学校看護師が,観察や他者から得た情報をもとに,医療的ケア児の普段の様子と現在の様子との違いを感じ取ることである.〈その子をよく観察する〉〈その子の家や学校での様子の情報をふまえる〉〈その子のいつもの表情や呼吸状態と比較する〉の3つのサブカテゴリーから構成される.
学校看護師は,SpO2,顔色,呼吸様式,努力呼吸の有無,肺音,喘鳴,胸壁の振動の有無,表情など,視覚,聴覚,触覚により〈その子をよく観察する〉ように日々努めていた.学校看護師は,自身でその子を観察して得た情報だけではなく,その子の家での様子,特に呼吸状態についての情報や,学校生活でのその子の様子についての情報を,保護者や教員や同僚看護師から得て,〈その子の家や学校での様子の情報をふまえる〉ようにしていた.今のその子の状態と,〈その子のいつもの表情や呼吸状態と比較する〉ことで,【いつもとの違いを感じ取る】ことをしていた.【いつもとの違いを感じ取る】過程で,学校看護師は,【その子のことをつかむ】ようになっていた.
(呼吸音が)ゴロゴロいってるのもその子っていうか.病院だったらそれが,病的なところでゴロゴロいってたりするんですけど.普段からそういうふうな感じっていうお子さんもいるので.「それが普通や」って言われるとそうかなっていう.(G)
2) その子のことをつかむその子がどの程度自分の呼吸状態を維持する力を有しているのか,その子にとって効果的な排痰パターンや,吸引を実施した場合に体調がどう変化するのかといった,その子の特徴を,その子をケアした経験や見聞きしたことを通してつかみとることである.〈その子の呼吸維持力の程度をつかむ〉〈その子の効果的な排痰パターンをつかむ〉〈吸引によるその子の変化をつかむ〉の3つのサブカテゴリーから構成される.
〈その子の呼吸維持力の程度をつかむ〉〈その子の効果的な排痰パターンをつかむ〉ことは,学校看護師が,その子にとってのいつもの呼吸状態を把握することを意味している.医療的ケア児は個別性に富むことから,その子なりの基準をつかんでおくことが吸引の必要性を判断する上で大切になっていた.〈吸引によるその子の変化をつかむ〉では,学校看護師は,その子が吸引の刺激で嘔吐しやすいのかどうか,吸引することで咳きこみが誘発され,痰が増加し呼吸状態が不安定になりやすいのかどうかということを,日々,周囲の人からの情報や,その子に実際に吸引する経験を積み重ねる中でつかんでいた.
【その子のことをつかむ】ことで,学校看護師は,【いつもとの違いを感じ取る】中で得た,観察による身体面の情報だけではなく,その子の個別性をふまえて,【吸引を待てるかどうか判断する】ようになっていた.
だいたい日頃の,子どもたちを見ている中での,呼吸,呼吸状態ですね.ゼロゼロしているとか.もちろんサチュレーションの値とかも,一つの目安にはなってますけど.サチュレーションの値だけに頼らない,なんていうんだろう,その子独自の,特に支援学校にいてはる子って,値と比例していないところってあるじゃないですか.値は悪いけど,でも,吸引とか(はする必要がない)いうのがあるので,その辺の判断基準かなって思ってるのと.(C)
3) 吸引を待てるかどうか判断するその子の呼吸を維持する力や排痰パターン,その子にとって吸引を実施する場合としない場合とでどんなリスクが予測されるのかをふまえ,その子の身体状態から,吸引を今すぐしなくてはならないのか,それとも,吸引実施を待てる状態なのかを判断することである.〈痰の位置を見極める〉〈喘鳴の原因を見極める〉〈その子に吸引を待てる余力があるかを見極める〉〈その子の排痰パターンをふまえる〉〈吸引することでのリスクを予測する〉〈吸引をしないことでのリスクを予測する〉〈今すぐ吸引をする必要はなく待てると判断する〉〈吸引実施を待てないと判断する〉の8つのサブカテゴリーから構成される.
学校看護師は,【いつもとの違いを感じ取る】と,〈喘鳴の原因を見極める〉,〈痰の位置を見極める〉,〈その子に吸引を待てる余力があるかを見極める〉ことをしていた.学校看護師は,まず,〈喘鳴の原因を見極める〉のように,その子がいつもと違う様子である原因を探るようにしていた.痰の貯留が原因であると判断した場合は,〈痰の位置を見極める〉,〈その子に吸引を待てる余力があるかを見極める〉ことをしていた.また,学校看護師は,【その子のことをつかむ】ことで,吸引を第一選択として考えるのではなく,自己排痰できるのかどうかといった〈その子の排痰パターンをふまえる〉ことをし,〈吸引することでのリスクを予測する〉,〈吸引をしないことでのリスクを予測する〉ことをしていた.そして,〈今すぐ吸引をする必要はなく待てると判断する〉,〈吸引実施を待てないと判断する〉のように,【吸引を待てるかどうか判断する】ことをしていた.学校看護師は,〈今すぐ吸引をする必要はなく待てると判断する〉と,その子の呼吸を安定化させるための効果的な方法を考え,【吸引以外の排痰援助を教員と協力して実施する】ようにしていた.一方,〈吸引実施を待てないと判断する〉と,吸引を実施していた.
学校看護師は,病院で看護師として勤務していた時と比較し,特別支援学校では,痰が貯留しているからすぐに吸引するのではなく,吸引実施を待てる場合には待つようになったと,病院と特別支援学校での吸引実施に至るまでの判断の違いや自身の判断の仕方の変化を感じていた.
病院感覚だったので,つい,こんなにゼロゼロ言ってるんやから吸引しないとっていうふうについ思って,手を出しがちだったんですけども.今はそのアップアップ状態でも,この子はこれが普通なんやって思ったら,もうちょっと待てるようになってきたとか.(I)
4) 吸引以外の排痰援助を教員と協力して実施する痰の位置,その子のこれまでの排痰パターンや吸引によるリスク等をふまえ,今すぐ吸引を実施する必要はなく待てると判断した場合に,体位ドレナージ,吸入,呼吸介助など,吸引以外の排痰援助を,教員と協力して実施することである.学校看護師は,〈その子の効果的な排痰パターンをつかむ〉ことで得た知識をもとに,その子にあった排痰援助方法を教員と相談しながら選択し,教員と協力して実施していた.【吸引以外の排痰援助を教員と協力して実施する】中でも,【いつもとの違いを感じ取る】,【吸引を待てるかどうか判断する】ことをし,吸引を実施する時機を逃さないようにしていた.
待てる.とか,体位変えたりしたら,このゼロゼロ感やったら,もしかしたら,トイレ行ったりとか,こう動いてきたら,喀出できるんじゃないかとか.うん,ちょっと体位変えるだけで,ちょっと変わるんやったら,それを,またその子ができるまで待って,それでも,それをしても,(痰が)上がらへんかったら(吸引を)やろうとか.(Q)
5) 吸引のタイミングの判断をすり合わせる学校看護師が,今すぐ吸引を実施する必要はないと判断したうえで,学校生活を送るその子にとって一番良い吸引実施のタイミングを見つけ出すために,自身の判断だけではなく,その子の希望,保護者の判断や思い,教員や同僚看護師らの判断を総合して考えることである.〈その子の吸引希望のサインに合わせる〉〈教育活動を妨げないよう吸引のタイミングをはかる〉〈吸引のタイミングに関する教員や同僚看護師の判断を参考にする〉〈保護者の吸引のタイミングの判断や思いを尊重する〉〈判断をすり合わせ吸引のタイミングを見つける〉の5つのサブカテゴリーから構成される.
学校看護師は,その子の身体状況から〈今すぐ吸引する必要はなく待てると判断する〉と,吸引実施により教育活動を妨げないということを念頭におき,安全と教育の両面から考え,〈教育活動を妨げないよう吸引のタイミングをはかる〉ように努めていた.また,〈その子の吸引希望のサインに合わせる〉,〈吸引のタイミングに関する教員や同僚看護師の判断を参考にする〉,〈保護者の吸引のタイミングの判断や思いを尊重する〉ことで,〈判断をすり合わせ吸引のタイミングを見つける〉ことをしていた.教員の判断については,教員がどれだけその子の効果的な排痰パターンをつかんでいるのか,その子のいつもの状態を理解しているのかを考慮したうえで参考にしていた.教員の判断と学校看護師の判断にずれが生じた場合は,学校看護師の判断内容を教員に伝え,教員の判断を尊重しながら教員と相談し,吸引のタイミングをみつけていた.学校看護師は,〈判断をすり合わせ吸引のタイミングを見つける〉と,吸引を実施していた.
ベテランさんで,割と判断が,私たちと同じ感じで判断できる先生とか,まあ私らよりもずっと長い間子どもといるから,私たちより全然判断できる先生もいるんで,そういう先生とかとは,その先生が言われたときに(吸引)することもあるし,あんまり心配性の先生とかだと,ちょっとゼロゼロしたら,すぐ吸引って言わはる人には,いやまだ要らないよとかっていうのは,私たちからも,まだいいんじゃないかなというのは伝えます.(J)
今回,学校看護師は,吸引実施の必要性を判断するにあたり,観察によりその場で得た医療的ケア児の身体面の情報だけではなく,その子をケアしてきた経験をふまえ,吸引実施を待てるかどうかを判断していることが明らかとなった.また,吸引実施を待てると判断した場合は,その子の吸引の希望,保護者の吸引のタイミングの判断や思い,教員や同僚看護師の判断といった,他者の判断や希望と自身の判断をすり合わせ,教育活動を妨げないよう,吸引のタイミングを見つけ,吸引実施に至っていることが明らかとなった.
1. 吸引を待てるかどうか判断するその子のことをつかむこと,その子のいつもとの違いを感じ取ることが,吸引を待てるかどうか判断する前提として存在しており,それらは,学校看護師が吸引を待てるかどうか判断する上で重要なキーとなっていた.
【その子のことをつかむ】の〈吸引によるその子の変化をつかむ〉とは,学校看護師が実際にその子に吸引を実施した経験を振り返るという,吸引の経験をふまえたものであった.〈その子の効果的な排痰パターンをつかむ〉,〈その子の呼吸維持力の程度をつかむ〉についても,その子へのケアの経験を積み重ねる中で,学校看護師が体得したものであった.Thomas & Fothergill-Bourbonnais(2005)の入院する子どもへの気管内吸引の必要性の判断に関する研究においても,子どもへの直接的なケアを通して,子どもの個別性を知ることが吸引実施の判断に影響しており,今回の結果と共通していた.学校看護師が【その子のことをつかむ】ことで得たものは,経験を通して得た知識,臨床知識(Benner, 2001/2005)に該当すると考える.Tanner(2006)は,看護における臨床判断に関する研究のレビューを行い,実践をリフレクションすることで,臨床知識が発展し,臨床での理由付けが向上すると報告している.教員や同僚看護師や保護者やその子と判断を共有し,自身の判断とすり合わせ吸引のタイミングを見つける【吸引のタイミングの判断をすり合わせる】経験を通して,これまでの自身の吸引の必要性の判断をリフレクションすることとなり,学校看護師の臨床知識の発展につながると考えられる.
学校看護師は,観察や他者から得た呼吸状態に関する情報を,その子のいつもの状態と比較し,いつもとの違いを感じ取っていた.そのことは,小児病棟において医療依存度の高い複数の子どもをみる看護師の対応において,数値よりもその子のいつもと違うかどうかの自分の感覚を大切にすること(川名,2009;松尾,2010),子どものいつもの状態と現在の状態を比較することが看護師の臨床判断のきっかけであったこと(佐藤ら,2004)と共通していた.子どもは体調の悪さを言葉で適切に訴えることが難しく,周囲の大人が子どものいつもの様子との違いに気づくことが大切になるためと考えられる.
小児集中治療部でケアする看護師が使用するための気管内吸引の実施をアセスメントするツール(Davies et al., 2017)や,成人の気管吸引のガイドライン(日本呼吸療法医学会,2013)が開発されている.無効な気道クリアランスを正確にみる臨床指標も報告されている(Sousa et al., 2014).それらには,吸引を実施する適応の判断基準となる観察項目が挙げられている.その子のことをつかむこと,いつもとの違いを感じ取ることが,吸引を待てるかどうか判断する上でキーとなっていたという今回の結果は,公的なガイドライン等を吸引の必要性の判断を行う上で参考にすることはよいが,それだけに頼らず,その子の場合はどうであるか,その子のいつもの呼吸状態がどのようなものなのか,自分の感覚を通してつかんでおくことが重要であることを示唆している.
学校看護師は,いつもとの違いを感じる手段として,自身が観察したことだけではなく,保護者や同僚看護師や教員から得た,その子の家や学校での様子の情報をふまえることもしていた.必要な情報を得られるように,普段から教員や保護者らとコミュニケーションをよくとっておく必要がある.吸引のタイミングの判断をすり合わせる際に,教員の判断を参考にしていたことからも,教員と学校看護師がお互いに判断力を高めておくことが必要である.そのためには,学校看護師はどのような情報をもとにどう判断しているのかを教員に伝え,教員の考えを聴き,学校看護師と教員が互いに学びあうことが重要である.
2. 吸引のタイミングの判断をすり合わせる医療的ケア児に吸引を実施する必要性を判断するプロセスにおいて,保護者や教員や医療的ケア児の吸引のタイミングの判断をすり合わせていたことは,これまでの研究では報告されておらず,新規な結果であった.今回の研究で,このカテゴリーが見いだされたのは,特別支援学校という場の特性によるところが大きいと考える.特別支援学校は,病院とは異なり,治療の場ではなく教育の場である.学校看護師が,教育活動を妨げないように吸引のタイミングをはかっていたのは,吸引を受けるその子だけではなく,周囲の子どもたちの教育活動を妨げないという,教育の場全体への配慮も含まれていた可能性がある.学校看護師が,その子の吸引希望のサインに合わせていたのは,自分の意思を他者に伝えるという児の学習課題への配慮も存在しているのではないかと考えられた.いずれも,教育の場であるからこそ生まれた配慮と考えられた.
学校看護師が,吸引のタイミングに関する教員の判断を参考にしていたのは,教員がその子と長期的に関わることで,その子のことを自分よりもよくわかっていると感じていたためと推測される.また,学校看護師は,吸引のタイミングに関する保護者の判断や思いを尊重していた.医療的ケアを要する在宅療養児を育てる母親は,我が子独自の呼吸管理方法の難しさに対し,微妙な変化を察知し,我が子にあった排痰方法を習得し呼吸管理を徹底することで対応している(草野・高野,2016;大久保ら,2016).特別支援学校で学ぶ医療的ケア児には超重症児が含まれ(野崎・川住,2011),生命に直結する呼吸障害を伴うことも多く,細やかな対応が求められる.医師不在の学校では,緊急時に学校看護師が実施できる対応に限界もあり,学校看護師は,呼吸状態の悪化に至らぬよう慎重に判断するため,保護者の判断や思いを尊重していたと考えられる.学校看護師は,判断をすり合わせる際,その子や教員や保護者の判断や思いを鵜呑みにするのではなく,その子が吸引を待てる状況にあるという自身の判断を根底に持っていた.学校看護師には,教員や保護者の判断や思いを受け止め,それらをどう自分の判断とすり合わせて,最終的な判断を下していくのかという高度な判断力と交渉力が求められている.
3. 研究の限界と今後の課題参加観察は行わず,インタビューにより得たデータからのみで,結果を導き出していることから,学校看護師自身が認識していない部分が結果に含まれていない可能性がある.今後は,実践の場において,参加観察によるデータ収集や本研究で明らかになった結果の活用により,検討を重ねる必要がある.また,保護者や医療的ケア児自身,特定行為従事者として吸引を実施する教員や介護職らが,どのように吸引の必要性を判断しているのかも明らかにする必要がある.
特別支援学校で学ぶ医療的ケア児に対して,吸引実施に至るまでに,吸引実施の必要性の判断をどのように学校看護師が行っているのかを明らかにする目的で,近畿圏内の特別支援学校に勤務する学校看護師18名に個別に半構造化インタビューを実施し,質的帰納的に分析した.
その結果,学校看護師は,医療的ケア児を観察して得た身体面のデータだけで,吸引の必要性を判断しているのではなく,経験を通して,その子にとっての効果的な排痰パターン,その子の呼吸維持力の程度,吸引によるその子への変化といった,その子のことをつかみ,そのこともあわせて,その子が吸引を待てる状況にあるかどうかを判断していた.そして,吸引実施を待てると判断した場合は,教員や同僚看護師の吸引のタイミングの判断,保護者の吸引のタイミングの判断や思い,その子の吸引の希望のサインといった複数の判断や希望をすり合わせ,教育活動を妨げないよう,吸引を実施する最適なタイミングを見つけていた.吸引実施の必要性の判断を適切に行えるよう,その子のことをよく知り,判断を他者と共有し,学びあうことが重要であると示唆された.
付記:研究の一部を2019年ICN大会で発表しました.
謝辞:研究にご協力いただいた教育委員会,学校長,学校看護師の皆様,分析にあたり,ご助言いただいた兵庫県立大学勝田仁美先生に,深く感謝いたします.本研究は,公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団2017年度(後期)研究助成を受けて実施しました.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.