2021 年 41 巻 p. 537-545
目的:都市部の支援付き宿泊施設を利用する生活困窮者の入院退所の予測因子を明らかにすること.
方法:2012年4月~2015年3月の3年間に支援付き宿泊施設に新規に入所した315人を対象として,後ろ向きコホート研究を実施した.入所時の健康状態の項目を予測因子とし,1年間の追跡期間中の入院退所をイベントとしたCox回帰分析を行った.
結果:入院退所の予測因子は「がん」と「失禁等の排泄障害」であった.入所時に「がん」があった場合のハザード比は,4.41(95%信頼区間:1.86~10.43),「失禁等の排泄障害」があった場合のハザード比は,2.93(95% 信頼区間:1.31~6.56)であった.
結論:がんや排泄障害のある生活困窮者は,宿泊施設入所後に,地域生活に移行できずに入院退所となりやすいことが示唆された.宿泊施設の支援員と地域の医療職が協働して,入所時の健康面でのアセスメントを行い,地域生活の安定に向けた支援を提供する仕組みが必要である.
Objectives: This study aimed to clarify the predictors of leaving due to hospitalization of poor people staying in supportive accommodation facilities in urban areas.
Method: We conducted a retrospective cohort study of 315 people newly admitted to accommodation facilities from April 2012 to March 2015. The follow-up period was 12 months. Cox regression analysis was performed to assess associations between health status at admission to the facilities and upon departure due to hospitalization.
Results: Predictors of departure from facilities due to hospitalization included “cancer” and “excretory system disorder.” Cox regression analysis revealed that the hazard ratios for departure from facilities due to hospitalization among those with cancer and excretory system disorder were 4.41 (95% confidence interval [CI]: 1.86–10.43) and 2.93 (95% CI: 1.31–6.56), respectively.
Conclusion: Residents with cancer or excretory system disorder at admission to facilities may not be able to attain stable housing in the community due to hospitalization. A care system in cooperation with facility staff and health care professionals is necessary to provide support based on health assessments.
日本では,急速な高齢化とともに当初所得の格差が拡大しており(厚生労働省,2017),高齢者,ひとり親,単身世帯に貧困者が多いと報告されている(内閣府,総務省,厚生労働省,2015).2018年度の生活保護受給世帯数は,約164万世帯であり,過去20年間に約97万世帯増加している(厚生労働省社会・援護局保護課,2020).
経済的困窮は,住まいを喪失する要因の一つであり,家賃滞納等により住まいを失った生活困窮者が,無料低額宿泊所等の宿泊施設に入所している実態がある(厚生労働省社会・援護局保護課,2016).無料低額宿泊所等(以下,宿泊施設)は,経済不況を背景として2000年代に施設数が増加し(山田,2016),全国の入所者数は,2016年時点で3万人以上となっている(厚生労働省社会・援護局,2018).これらの宿泊施設には,設備や運営の基準に法律上の定めがなく,劣悪な環境の施設や良質な支援を提供している施設等,質の担保が十分ではなかったため,2018年に生活保護法等が改正され,2020年度より社会福祉住居施設・日常生活支援住居施設が整備されることとなった(厚生労働省社会・援護局,2018).
宿泊施設の中でも,日常的に生活支援を必要とする生活困窮者を受け入れている施設(以下,支援付き宿泊施設)では,入所者の半数以上が高齢者であり,脳血管障害や糖尿病等の身体疾患,認知症や依存症等の精神疾患を抱えている人の割合が高いとの報告がある(的場・斉藤,2019).法改正前の支援付き宿泊施設は,単に住まいのない生活困窮者を保護するだけではなく,介護保険や障害者総合支援法等の制度が利用できるように支援し,地域の在宅医療や訪問看護,通所サービスや訪問介護等の必要なサービスにつなげることで,利用者の生活が安定することを目指しており(滝脇,2017),在宅看取りの取り組みも報告されている(山下,2014).今後,これらの支援付き宿泊施設は,日常生活支援住居施設として運営されることとなり,医療や介護を必要とする生活困窮者が,医療福祉サービスを利用して地域生活を継続するための居所,あるいは福祉施設に入所できるまでの期間の居所としての利用が促進されると考える.
一方,支援付きの宿泊施設に入所後,健康上の問題から入院し,入院期間が長期化することで退所となり,安定した生活の継続が困難となる場合がある(東京都福祉保健局,2018).生活保護制度では,入院費と住宅費の支払いの重複を避けるため,入院が長期化した場合には,利用している施設を退所する仕組みとなっている.そのため,入院退所のたびに新たな居所を探すことになり,居所が不安定になりやすい(山浦,2010).
安定した居所のない状態が1年以上続いている状態,または繰り返し居所を失っている状態は「慢性的ホームレス」と定義されている(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine, 2018).この定義では,福祉施設の入所期間が90日未満の場合も「安心できる居所のない状態」であるとしており,病院や施設を転々としている状態の人も含まれている.慢性的ホームレスの支援では,「安定した居所」と「医療・福祉サービス」が一体的に提供される支援が有効であり,支援効果を示す指標には,居住期間の長さや,健康状態の変化,救急医療の利用頻度等が用いられている(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine, 2018).加えて,日本では,慢性的ホームレスの状態にある生活保護受給者が,アパート転宅や福祉施設への移行が可能か否かを見極めるために,支援付き宿泊施設が利用される場合があり,施設で一定期間生活できたことが実績となって,アパートへの入居や福祉施設への入所がしやすくなる場合もある(特定非営利活動法人ワンファミリー仙台,2019).宿泊施設で生活できた期間が長いほど,居所の選択肢が広がる場合もあることから,入院退所は,居宅生活の安定の阻害要因となる可能性がある.
入院退所の実態については,生活保護受給者を保護する救護施設で21.4%,介護老人保健施設で37.6%が病院へ退所していること(全国救護施設協議会,2014;全国老人保健施設協会,2019)が報告されている.また,生活保護受給者が短期間での転院を繰り返すことで,福祉事務所が的確に病状を把握できない短期頻回転院の問題(総務省行政評価局,2014)や,高齢者が不適切な退院によって短期間で再入院となる社会的再入院の問題(印南,2009)が報告されている.さらに,在宅ケアが困難となった高齢者や障害者が,短期入所施設,一般病床,療養病床等を頻繁に転所・転院する生活を長期にわたって余儀なくされることで,長期的な視点でケア計画を作成することが困難となる問題も指摘されている(印南,2009;日本経済新聞,2020).住まいを喪失した生活困窮者の居所の変化や健康状態の実態は,居所の流動性ゆえに把握が困難であることが多いが,支援付き宿泊施設の入所者については,高齢者施設や病院へ退所となった事例が報告されている(東京都福祉保健局,2018).今後,支援付き宿泊施設に入所する生活困窮者が,安定した地域生活を継続できるように支援するためには,入院退所の実態,および入院退所までの期間の長さに影響する健康状態を明らかにする必要があると考える.
そこで,本研究の目的を,都市部の支援付き宿泊施設を利用する生活困窮者の入院退所の予測因子を明らかにすることとした.
研究デザインは,後ろ向きコホート研究とした.
2. 研究対象者調査協力施設は,都市部の生活困窮者に居住・生活支援を提供しているNPO法人の無料低額宿泊所・自立援助ホーム(以下,施設)とした.このNPO法人の施設数は12施設,定員数は合計276人である.なお,調査対象とした施設は,24時間体制で生活支援員が常駐し,必要に応じて通院,往診,訪問看護等の医療サービスや,介護保険や障害者総合支援法にもとづく在宅サービスの利用が可能な施設であった.
これらの施設に,2012年4月1日~2015年3月31日の3年間に,新規入所した341人のうち,退所先不明者5人と利用日数が7日未満の超短期利用者21人を除いた315人を分析対象とした(図1).

分析対象者のフローチャート
調査項目は,基本属性として,性別,利用開始時の年齢,生活保護受給の有無,年金受給の有無,連絡のとれる家族の有無,福祉事務所の方針(生活の安定,福祉施設待機,医療や福祉の導入・調整,状態を見た上で判断,一時的な保護,療養・治療に専念,就労・生活訓練,なし/不明)を設定した.予測因子の項目は,入所時の健康状態(精神疾患,身体疾患,入所時の状態)とした.アウトカムの項目は,退所先(病院,福祉施設,自宅,社員寮・住み込み,刑事施設,不明),退所理由(入院,待機していた施設に入所,アパート転宅,家族による引き取り,元の自宅に戻った,就労自立,逮捕・勾留による退所,失踪,自己退所,死亡)とした.また,時間変数は,施設の利用日数とした.
入所時の健康状態は,入所申込書等に記載されていた情報や,宿泊施設の職員が入所時に本人から聞き取った内容にもとづいて記録した情報とした.
4. 分析方法追跡期間は,居所のない状態が1年以上続く慢性的ホームレスは,健康状態の悪化がより深刻化する恐れがあるという報告(Poulin et al., 2010)を参考とし,入所日から最長1年とした.入所日から1年以内に退所した場合は,退所日まで追跡した.
本研究の分析にあたり,以下の基準により居所の転帰を類型化した.入所1年後に利用中であった場合は「居所の変化なし」とした.退所理由が「入院」であった場合は「入院退所」,「待機していた施設に入所」であった場合は「待機施設へ転居」,「アパート転宅」であった場合は「アパート転宅」,「家族による引き取り」または「元の自宅に戻った」であった場合は「帰宅・家族による引き取り」,「就労自立」であった場合は「就労自立」,「逮捕・勾留」であった場合は,「逮捕・勾留による退所」,「失踪」または「自己退所」のいずれかであった場合には,「失踪・自己退所等による退所」,「死亡」であった場合は「死亡による退所」とした.また,居所の転帰が「入院退所」であった場合に「入院退所イベントあり」とした.打ち切りデータとする基準は,入院以外の理由での退所(待機施設へ転居,アパート転宅,帰宅・家族による引き取り,就労自立,逮捕・勾留による退所,失踪・自己退所等による退所,死亡による退所),および「居所の変化なし」とした.また,サンプルサイズは,検出力0.8,有意水準0.05,対象群とコントロール群の生存率をそれぞれ0.7,0.9,サイズ比の範囲を1:6~1:7と設定すると,298~335であった(Kanda, 2013;中村,2001).調査協力施設の1年間の平均新規入所者は125人であったため,3年間の新規入所者を対象とした.
入所時の健康状態の項目を予測因子とし,入院退所をイベントとして,カプラン・マイヤー法による生存時間解析を行った.群間比較には,Log-rank検定を用いた.
次に,ログ・マイナス・ログのプロットを目視することにより比例ハザード性を確認した.比例ハザード性が確認できた各項目について,性別,年齢,経済状況,福祉事務所の方針に関する項目を調整変数としたCox回帰分析を行い,ハザード比を求めた.また,福祉事務所は対象者の状況に応じて保護の種類等を判断する役割があり(丸谷,2015),入所時の処遇方針が,対象者の居所の変化に影響すると考えられることから,福祉事務所の方針を調整変数に加えて分析した.
統計学的分析には,統計解析ソフト(SPSS Statistics ver. 22)を使用し,仮説検定の棄却域は5%未満とした.
5. 倫理的配慮本研究は,平成27年度首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号15092),および研究協力機関(調査協力施設を運営するNPO法人)の倫理審査委員会の承認(承認番号16-1)を得て実施した.研究者は,研究協力機関の責任者に,研究の内容,研究対象者が研究への参加を希望しない場合の意思表示の方法等を説明するとともに,施設内に参加を拒否することが可能であることを説明するポスターを掲示した.さらに,研究対象者が施設の職員を介さずに研究への協力を希望しないことの意思表示ができるように,各施設に意思表示カードと回収箱を設置し,意思表示期間を設けた.意思表示期間終了後に,研究協力機関が研究不参加の意思表示の有無を確認した結果,意思表示カードの記載はなく,その他の意思表示も確認されなかった.全ての施設の意思表示の有無が確認された後,研究者は,研究協力機関から匿名化されたデータを受け取った.
分析対象者数は315人であった.入院退所イベント有無別の対象者の基本属性を表1に示す.入院退所イベントあり群が31人,なし群が284人であった.性別は,入院退所イベントあり群の96.8%,なし群の95.1%が男性であった.利用開始時年齢が65歳以上の割合は,入院退所イベントあり群が61.3%,なし群が51.4%であり,二群間に有意な差はなかった.また,生活保護受給の割合は,入院退所イベントあり群が96.8%,なし群が95.8%であった.入所時の福祉事務所の方針では,両群ともに「生活の安定」が最も多く入院退所イベントあり群が48.4%,なし群が46.5%であった.
| 入院退所イベントあり群n = 31 | 入院退所イベントなし群n = 284 | ||
|---|---|---|---|
| n(%)ないし平均値(SD) | n(%)ないし平均値(SD) | p | |
| 性別 | |||
| 男性 | 30(96.8) | 270(95.1) | |
| 女性 | 1(3.2) | 14(4.9) | 1.000 |
| 利用開始時年齢 | |||
| 平均年齢 | 67.8(9.6) | 63.7(13.5) | .103 |
| 65歳未満 | 12(38.7) | 138(48.6) | |
| 65歳以上 | 19(61.3) | 146(51.4) | .296 |
| 生活保護受給あり | 30(96.8) | 272(95.8) | 1.000 |
| 年金受給あり | 3(9.7) | 38(13.4) | .780 |
| 連絡のとれる家族あり | 2(6.5) | 30(10.6) | .754 |
| 福祉事務所の方針(複数回答) | |||
| 生活の安定 | 15(48.4) | 132(46.5) | .840 |
| 福祉施設待機 | 9(29.0) | 62(21.8) | .362 |
| 医療や福祉の導入・調整 | 4(12.9) | 59(20.8) | .298 |
| 状態を見た上で判断 | 4(12.9) | 27(9.5) | .526 |
| 一時的な保護 | 4(12.9) | 15(5.3) | .104 |
| 療養・治療に専念 | 2(6.5) | 25(8.8) | 1.000 |
| 就労・生活訓練 | 3(9.7) | 23(8.1) | .731 |
| なし/不明 | 2(6.5) | 37(13.0) | .397 |
| 入所時の健康状態(複数回答) | |||
| 精神疾患 | |||
| 認知症 | 5(16.1) | 40(14.1) | .787 |
| 依存症 | 7(22.6) | 38(13.4) | .177 |
| 統合失調症 | 3(9.7) | 35(12.3) | 1.000 |
| 身体疾患 | |||
| 循環器疾患 | 4(12.9) | 78(27.5) | .079 |
| 脳血管障害 | 5(16.1) | 52(18.3) | .765 |
| 糖尿病 | 4(12.9) | 48(16.9) | .569 |
| 筋骨格系の疾患 | 1(3.2) | 39(13.7) | .150 |
| がん | 9(29.0) | 25(8.8) | .003 |
| 入所時の状態 | |||
| 移動の困難 | 9(29.0) | 58(20.4) | .266 |
| 失禁等の排泄障害 | 9(29.0) | 39(13.7) | .034 |
| 意思疎通の困難 | 1(3.2) | 37(13.0) | .149 |
| 認知症の疑い | 5(16.1) | 23(8.1) | .173 |
| 居所の転帰 | |||
| 入院退所 | 31(100.0) | 0(0.0) | |
| 待機施設へ転居 | 0(0.0) | 30(10.1) | |
| アパート転宅 | 0(0.0) | 13(4.6) | |
| 帰宅・家族により引き取り | 0(0.0) | 5(1.8) | |
| 就労自立 | 0(0.0) | 1(0.4) | |
| 逮捕・勾留による退所 | 0(0.0) | 6(2.1) | |
| 失踪・自己退所等による退所 | 0(0.0) | 29(10.2) | |
| 死亡による退所 | 0(0.0) | 22(7.7) | |
| 居所の変化なし(利用中) | 0(0.0) | 178(62.7) |
注.SD=標準偏差
入所時の健康状態では,精神疾患の項目では,入院退所イベントあり群は依存症が最も多く22.6%,なし群では認知症が最も多く14.1%であったが,両群に有意差はなかった.身体疾患では,入院退所イベントあり群は,がんの割合が高く29.0%であり,なし群(8.8%)と比較して,有意(p = .003)に高い結果であった.失禁等の排泄障害の割合については,入院退所イベントあり群(29.0%)が,なし群(13.7%)よりも有意に高かった(p = .034).
入所後1年以内の居所の転帰では,入院退所となった対象者は,31人であった.待機していた施設へ転居した対象者は30人,アパートへ転宅した対象者は13人,元の自宅に帰宅,または家族・親族により引き取られた対象者は5人,就労自立した対象者は1人であった.入所後の1年間に居所の変化がなかった対象者は178人であった.また,死亡による退所は22人であり,そのうち7人(31.8%)は入所時の健康状態が「がん」であった.
2. 入院退所の予測因子カプラン・マイヤー法による生存時間解析の結果を図2,図3に示す.

「がん」の有無別での入所継続率(n = 315)

「失禁等の排泄障害」の有無別での入所継続率(n = 315)
「がん」の有無別では,がんあり(n = 34)の入所継続率(73.5%)の方が,がんなし(n = 281)の入所継続率(92.2%)に比較して,有意に低かった(図2).「がん」以外の身体疾患,および精神疾患に関する項目では,有意差はなかった.
「失禁等の排泄障害」の有無別では,排泄障害あり(n = 48)の入所継続率(81.3%)の方が,排泄障害なし(n = 267)の入所継続率(91.8%)に比較して,有意に低かった(図3).その他の入所時の状態に関する項目(移動の困難,意思疎通の困難,認知症の疑い)では,有意差はなかった.
次に,Cox回帰分析を行った結果を表2に示す.性別,年齢(65歳未満),生活保護や年金受給の有無,福祉事務所の方針(8項目)をそれぞれ調整して解析した結果,入所時に「がん」があった場合のハザード比は,4.41(95% 信頼区間[1.86, 10.43],p = .001),「失禁等の排泄障害」があった場合のハザード比は,2.93(95% 信頼区間[1.31, 6.56],p = .009)であった.調整変数のうち,入院退所に有意に関連していた変数は,福祉事務所の方針の「一時的な保護」のみであった.
| β | SE | Wald χ2 | p | HR | 95% CI | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 認知症 | 0.11 | 0.52 | 0.05 | .826 | 1.12 | 0.41,3.08 |
| 統合失調症 | –0.41 | 0.67 | 0.38 | .539 | 0.66 | 0.18,2.46 |
| がん | 1.48 | 0.44 | 11.41 | .001 | 4.41 | 1.86,10.43 |
| 移動の困難 | 0.35 | 0.41 | 0.69 | .405 | 1.41 | 0.63,3.18 |
| 失禁等の排泄障害 | 1.07 | 0.41 | 6.80 | .009 | 2.93 | 1.31,6.56 |
| 認知症の疑い | 0.93 | 0.52 | 3.21 | .073 | 2.54 | 0.92,7.04 |
注.SE=標準誤差.HR=ハザード比.CI=信頼区間.各項目について,性別,年齢(65歳未満),生活保護受給の有無,年金受給の有無,福祉事務所の方針(生活の安定,福祉施設待機,医療や福祉の導入・調整,状態を見た上で判断,一時的な保護,療養・治療に専念,就労・生活訓練,なし/不明)をそれぞれ調整した.比例ハザード性が確認できなかった項目(依存症,循環器疾患,脳血管障害,糖尿病,筋骨格系の疾患,意思疎通の困難)は,分析から除外した.
本研究の対象者は,連絡のとれる家族がいない高齢男性が多く,ほとんどが生活保護を受給していた.本研究対象者の65歳以上の割合(52.4%)は,全国の無料低額宿泊所の調査(厚生労働省社会・援護局保護課,2019)での65歳以上の割合(44.1%)よりも高かった.高齢者の割合が高かった主な理由は,調査協力施設の人員体制が手厚く,24時間体制で生活支援員が常駐しており,3食の食事が提供されていたためだと考えられる.また,必要に応じて在宅医療や居宅介護サービスを利用できる施設であったことから,日常的な支援を必要としている対象者が多かったと考えられる.
さらに,本研究の対象者は,入所時点で認知症や脳血管障害,糖尿病がある場合や,移動や排泄が困難な状態の場合もあった.機能障害を有する人を対象とした研究では,認知症の進行による独居生活の限界(久保田・堀口,2019)や,自立度の低い脳血管障害者は自宅外退院になりやすいこと(浅川ら,2008)が報告されている.本研究でも,認知症や生活習慣病の悪化に伴い,居宅での一人暮らしが困難となって宿泊施設に入所した対象者が一定数存在していたと推察される.
2. 支援付き宿泊施設入所者の入院退所の予測因子本研究では,支援付き宿泊施設に入所した生活困窮者の入院退所に影響を与える健康上の予測因子について,入退所時の情報をもとに分析した結果,入所時に「がん」があることは4.4倍,「失禁等の排泄障害」があることは2.9倍,入所後1年以内に入院退所に至るリスクが高い可能性が示唆された.
在宅要介護高齢者の研究では,悪性新生物の合併が,6か月以内の入院・入所のリスク要因であったとの報告(松鵜ら,2008)がある.また,老人保健施設入所者の研究では,病院退所群は,家庭退所群と比較して,歩行・排泄が要介助,おむつ使用,認知症であった割合が有意に高かったと述べられている(西浦,1999).支援付き宿泊施設での研究結果と,在宅や老人保健施設での先行研究の結果とを比較することは難しい点もあるが,本研究は,がんや排泄障害を有している人が,入院に至りやすかったという先行研究を支持する結果であった.
加えて,進行性のがんの場合は,看取り支援が必要な場合も想定される.近年は,医療機関で亡くなる人の割合が高い一方,多死社会の到来によって,看取りの場所が確保できない人が増加する問題が指摘されており,高齢者住宅等での看取りの増加が予測されている(三浦,2019).本研究で「死亡による退所」の3割が入所時にがんであったことからも,看取り支援が必要な単身のがん患者のケアや支援方法等について,支援付き宿泊施設の支援のあり方として検討が必要であると考える.
本研究対象者の9割以上は,生活保護受給者であり,対象者の処遇を決定する機関である福祉事務所の方針は,その後の居所の転帰に相当影響すると考えられるが,Cox回帰分析の結果では,福祉事務所の方針の項目を調整してもなお,入所時に「がん」や「排泄障害」のあった対象者は,入院退所となるリスクが高い結果であった.これらの入所時の健康状態が,1年以内の入院退所を予測する因子であったという結果から,宿泊施設での入所時の健康面のアセスメントの重要性が示唆された.
3. 今後の実践への示唆前述の通り,住まいを喪失した生活困窮者が利用する無料低額宿泊所をはじめとした宿泊施設は,これまで設備や運営に関する法律上の規定がなかったが,2020年10月からは,単独での居宅生活が困難な生活困窮者を支援するための「日常生活支援住居施設」が順次整備され,生活支援員による個別支援計画が策定されることとなった(厚生労働省,2020).現状では,宿泊施設に医療職は配置されておらず,入所者に医療者が関わる機会は,通院や往診,訪問看護等の医療サービスを利用している場合に限られている.必要な医療サービスを受けていない場合や,治療拒否がある場合には,宿泊施設の生活支援員と福祉事務所のケースワーカーが中心となって対応しなければならず,健康面の支援に関する負担は大きいと考えられる.法改正後に整備予定の日常生活支援住居施設でも,医療職の配置は定められていないため,今後は,入所者の受療の有無に関わらず,入所時の健康面での支援を生活支援員と保健医療職が協働する仕組みが必要と考える.
また,本研究で入院退所となった対象者は,入所時点ですでに医療ニーズが高い状態であったと推測されるため,入所前の段階から,介護保険の申請や,かかりつけ医の導入等,看取りを含めた支援体制づくりが重要であると考える.入所者は,福祉事務所から紹介される場合が多い(厚生労働省社会・援護局保護課,2019)ため,利用申し込みの時点で,対象者にがんや排泄障害があると相談があった場合には,迅速な医療サービスの導入ができるよう,福祉事務所のケースワーカーと施設内外の医療職が連携できる体制も必要である.
垣田(2019)は,日常生活支援住居施設のような支援付きの住宅には,アパート等での単独居住が困難だが施設入所までには至らない生活困窮者が,居宅生活の自由度と支援員による支援が提供される安心の両方を備えた新たなタイプのハウジング機能があることに注目している.地価の高い都市部では,生活保護受給者が入居可能な介護施設や高齢者住宅の数量が限られているため,一人暮らしが困難となった場合には,住み慣れた地域を離れて,遠方の有料老人ホーム等に入所せざるを得ない実態がある(東京都福祉保健局,2014).そのため,生活困窮の状態であっても,住み慣れた地域で最期まで暮らしたいというニーズに応えるために,一部の地域では,訪問看護ステーションが運営する宿泊施設での在宅看取りや,支援付き宿泊施設と在宅医療機関での地域ケア連携の実践も報告されている(本田,2012;山下,2014).医療や介護のニーズのある生活困窮者が,一人暮らし,または遠方の施設入所といった二者択一ではなく,さまざまな居住形態で住み慣れた地域での生活の継続を選択できることは,健康格差を縮小する上でも重要であると考える.
4. 研究の限界と今後の課題本研究は,都市部の一団体の宿泊施設のみを対象としており,対象者数も限られていることから,他の地域を含めた支援付き宿泊施設の実態として一般化するには限界がある.
また,本研究では,入院退所となった直接的な理由を分析できなかったため,今後は入院退所に至った理由や退院に向けたカンファレンスの有無,その内容等の情報を収集し,詳細に検討していく必要があると考える.
都市部の支援付き宿泊施設を利用する生活困窮者の入院退所に影響を与える健康上の要因は「がん」と「失禁等の排泄障害」であった.支援付きの宿泊施設には,医療職が配置されていないが,健康面のアセスメントは重要であると考えられることから,宿泊施設の生活支援員と地域の保健医療職とが協働して健康面のアセスメントを実施し,地域での療養生活の安定に向けた支援を提供する仕組みが必要と考える.
付記:本研究は,東京都立大学大学院人間健康科学研究科博士前期課程修士学位論文の研究の一部である.また,本研究の一部は,第76回日本公衆衛生学会総会にて発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました宿泊施設の利用者の皆様,施設関係者の皆様に心より感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YMは,研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,解釈,原稿執筆を担当した.ES は,研究プロセス全体への寄与および原稿の推敲を担当した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.