日本看護科学会誌
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原著
レスパイトケアを利用する母親の在宅重症心身障害児(者)のきょうだいに対する思いの変化
井上 昌子守本 とも子中馬 成子
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2021 年 41 巻 p. 614-622

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Abstract

目的:レスパイトケアを利用する前と利用してからの,母親のきょうだいに対する思いの変化を明らかにする.

方法:近畿3府県において,レスパイトケアを利用している在宅重症心身障害児(者)の母親15名を対象に,きょうだいへの思いに関する半構造化面接を行い,逐語録を作成し質的記述的に分析した.

結果:レスパイトケアを利用する前は【きょうだいに対する自責の念】【子どもに平等に接したい思い】の2カテゴリー,レスパイトケアを利用してからは【きょうだいを喜ばすことができる嬉しさ】【きょうだいのポジティブな気持ちの変化に対する喜び】の2カテゴリーが抽出された.

結論:レスパイトケア利用により,母親はきょうだいを喜ばせられる嬉しさで愛情が満たされ,きょうだいの障害児への愛情を育むという喜びにもつながっていた.レスパイトケアは,母親ときょうだいの関係性の再構築を促進し,情緒的な結びつきを強める上で重要であった.

Translated Abstract

Objective: The purpose of this study was to clarify the change in mother’s thoughts of siblings of children (individuals) with severe motor and intellectual disabilities living at home before, and after beginning the use of respite care.

Methods: The data were obtained from fifteen mothers of children with severe motor and intellectual disabilities in three prefectures of the Kinki area using semi-structured interviews. The interview data was recorded and analyzed qualitatively and inductively.

Results: The qualitative inductive analysis of the information pertaining to emotions before beginning the use of respite care produced two categories. They are [Remorse for the treatment of siblings of disabled children] and [I want to treat my children equally]. The emotions analyzed after beginning the use of respite care produced an additional two categories being, [The happiness felt by bringing siblings joy], and [The joy of seeing the siblings’ feelings change positively].

Conclusions: By using respite care, the mothers were able to experience the happiness of making the siblings feel joy. Through this the mothers were able to satisfy their own love, which also had the joy of helping the siblings to grow their love for the disabled children. Respite care was important in facilitating the restructuring of mother-sibling relationships and strengthening emotional ties.

Ⅰ. 緒言

近年,医療機器の普及や医療機関と地域の連携により,在宅での医療的ケアが可能となり,在宅医療を受けながら過ごす重症心身障害児(者)は増えてきている(根津・富和,2012).在宅での主介護者の97%は母親(小沢ら,2007)という報告もあり,母親は重症心身障害児(者)から離れられない時間拘束,睡眠不足や気分転換不足,ソーシャルサポート不足と関連した心身症状の悪化(生田,2007)の中,生活全般の世話を担うことが多く,身体的・精神的な負担が大きい(西垣ら,2014)ことが指摘されている.

わが国の障害のある同胞のきょうだいに関する研究は,2002年以降増加しており,きょうだいに対する支援を目標とした研究が取り組まれるようになった(川上,2009).小宮山ら(2008)は,きょうだいに関する困りごととして,障害児がいることによるきょうだいの我慢,障害児のきょうだいであることによる精神的重圧,きょうだいの行動面・心理面への影響,障害児に関するきょうだいの言動,母親の罪責感・葛藤,きょうだいの将来について,社会からの差別,社会資源の不足を報告している.重症心身障害児(者)とその次子を持つ母親の思いの研究では,母親は次子に我慢をさせ,十分に愛情を注ぐことができなかったことに対する不憫の念を抱いていた(藤原・相原,2019)と,述べている.また,複数の先行調査より,障害をもつ子どもの母親は,そのきょうだいの「子育て」に対して後ろめたさがあり,不平等感を感じていることが多い(山本,2014鈴木ら,2016)ことが報告されている.レスパイトケアのニーズに関する研究では,きょうだいとの時間を確保したいと考える母親が報告されている.このように,重症心身障害児(者)の母親はきょうだいに対して複雑な感情や思いを抱えていると言える.

レスパイトケアは,介護者を支援する策の一つとして,重症心身障害児(者)を一時的に預かり,介護者が一息つける時間をもつことを目的とする社会福祉サービスのひとつである.厚生労働省によると,短期入所の利用者数は年々増加傾向であり,月平均利用者数は平成26年が4万1千人であったのに対し,平成30年度は5万5千人と増加しており(厚生労働省,2020),家族にとって必要不可欠なサービスとなってきている.レスパイトケアを利用する母親に関する先行研究では,利用目的の一つとしてきょうだいと積極的に過ごす時間の確保(田中ら,2003別所ら,2013山本,2014西垣ら,2014)が報告されている.母親ときょうだいが一緒に時間を過ごすことにより,母ときょうだい,それぞれの思いは変化し,家族の関係性に影響を及ぼすことが考えられる.しかし母親のきょうだいに対する思いに焦点をあてて,レスパイトケアを利用する前はきょうだいにどのような思いを抱えており,レスパイトケアを利用してからは,どのような思いへと変化したかについての質的研究はない.そこでレスパイトケアを利用することで母親の心理にどのような変化が得られるかを明らかにすることで,在宅重症心身障害児(者)の母親ときょうだいの心理的支援に向けた示唆が得られると考えた.

Ⅱ. 研究目的

レスパイトケアを利用する前と利用してからの,母親のきょうだいに対する思いの変化を明らかにすることにより,レスパイトケアの効果を考察し心理的支援を検討する.

Ⅲ. 用語の定義

「レスパイトケア」とは,障害児(者)を持つ親・家族を一時的に,一定の期間,障害児(者)の介護から解放することによって日頃の疲れを回復し,一息つけるサービスで,本研究では短期入所,短期入院を指す.

「きょうだい」とは,重症心身障害児(者)の兄弟姉妹とした.

「同胞」とは,重度の知的障害及び重度の肢体不自由が重複している大島分類の1~4(運動機能は寝たきりから座位保持までであり,同時に知能はIQ35以下の状態)に該当する重症心身障害児(者)とした.

Ⅳ. 研究方法

1. 対象者

近畿3府県のレスパイトケアの受け入れをしている2病院,3施設において,レスパイトケアを利用する在宅重症心身障害児(者)の母親に協力を依頼した.

リクルートの方法は,まず2病院,3施設の代表者へ研究の趣旨,内容を口頭と書面で説明し協力を得た.それぞれの施設の地域包括支援の担当者より,下記選定基準に該当する母親の紹介を依頼した.

①過去に1泊2日以上のレスパイトケアを利用している.

②精神的,身体的に面接の負担に耐えうる状態である.

①の条件については,重症心身障害児(者)を持つ母親には睡眠障害があることと(生田,2013),きょうだいの子育てに対する後ろめたさを感じていること(鈴木ら,2016)が報告されていることから,同胞の介護から解放され,日頃の疲れを回復し,家族・きょうだいと十分な時間,関わることができる1泊2日以上とした.きょうだいの人数,年齢,同居しているか,障害や疾患の有無は問わなかった.

2. データ収集期間

調査期間は2019年5月から2019年7月であった.

3. データ収集方法

内諾が得られた母親に対し,研究者が研究の目的,方法,自由参加であること,個人情報の保護,成果報告,利益と不利益について書面を用いて説明し承諾を得た.面接は協力施設内のプライバシーを確保できる静かな個室を準備し,そこで半構造化面接を行った.面接はインタビューガイドに沿って行い,レスパイトケアを利用する前を思い起こし,当時のきょうだいとの関わりや抱いていた思い,レスパイトケアを利用してからのきょうだいとの関わりやきょうだいに対する思いについて,自由に語ってもらった.面接時間は25分から80分間で,平均時間は40.2分だった.

4. 分析方法

人間の経験など注意深い定義や記述が要求されるときに適している(グレッグら,2007,p. 56)質的記述的研究方法用いて分析を行った.まず面接の録音内容の逐語録を作成した.何度も読み返しながら全体の文脈に注意し,母親から発せられた生のデータから「レスパイトケアを利用する前と後のきょうだいへの思い」に関する箇所を意味の成立を損なわないように,文脈単位で抽出し,コード化した.次に意味内容の類似する各コードを集めてサブカテゴリーへ類型化した.さらに抽象度をあげて類似するサブカテゴリーを集めてカテゴリーとした.その後,本研究のテーマである「レスパイトケア利用する以前と,継続的に利用している現在の母親のきょうだいに対する思い」をもとに,カテゴリー間の関連性を検討し,きょうだいに対する思いの変化の全体像として図式化した.データの分析過程において,質的研究の経験のある2名の研究者からスーパーバイズを受け,スーパーバイザーを交え共同研究者間で合意が得られるまでコードやサブカテゴリー,カテゴリーを確認しながら進め,分析内容の妥当性,信頼性の確保に努めた.

Ⅴ. 倫理的配慮

本研究は,奈良学園大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号 院30-003).対象者に,研究の説明と同意を得る際に,研究協力は自由意思であること,途中で撤回することもできること,承諾の有無による治療や看護への影響はないこと,個人が特定できないようプライバシーの保護に努めることを書面で説明した.同時に同意撤回書と切手付き返信用封筒を手渡した.郵送,電話,Eメールでいつでも研究協力を撤回できること,その際はアンケート用紙やUSBに保存したデータをすみやかに破棄することを説明した.面接は,プライバシー保護と落ち着いて話せるように施設内の静かな個室内で行った.面接内容の録音は,対象者の了承を得て行った.

Ⅵ. 結果

1. 対象者の特性

対象者属性を表に示した(表1).研究協力を依頼したA県の病院から6名,施設から2名,B県の施設から4名,C県の施設から4名の計16名の母親から協力を得られた.うち1名の母親はレスパイトケアを同胞が30代になってから利用開始しており,きょうだいは既に独立し別居していた.きょうだいに対する思いの発言が十分に得られなかったため除外し,分析対象は15名の母親とした.

表1  対象者の属性
ID 母親の年代 きょうだいの数(人) 重症心身障害児(者)
医療的ケア 児(者)の年齢(歳) 在宅療養開始年齢(歳) レスパイト利用年数(年)
A 30代 5 経管栄養,吸引,気管切開,在宅酸素 10 5 5
B 30代 2 経管栄養,吸引,在宅酸素,ネブライザー,浣腸 5 0 4
C 40代 1 導尿 14 11 2
D 40代 2 なし 15 0 9
E 40代 2 経管栄養,吸引,在宅酸素 17 0 10
F 40代 1 経管栄養,吸引,気管切開 19 9 6
G 40代 2 吸引,浣腸 21 0 8
H 50代 1 経管栄養,吸引,気管切開, ネブライザー,浣腸 17 3 11
I 50代 1 なし 17 0 9
J 50代 1 なし 23 0 13
K 50代 1 経管栄養,吸引,気管切開,ネブライザー 26 0 8
L 50代 1 経管栄養,吸引,浣腸 26 0 7
M 60代 1 吸引 43 0 10
N 60代 1 なし 24 0 12
O 60代 1 経管栄養,吸引,浣腸,気管切開,人工呼吸器,在宅酸素 29 0 16

母親の年齢は30代が2名,40代が5名,50代が5名,60代が3名だった.きょうだいも重症心身障害児(者)の母親は1名だった.きょうだいと同居している母親は13名だった.同居しているきょうだいの年齢は2歳から40歳で,平均15.9歳だった.きょうだいからの重症心身障害児(者)の世話の協力が得られるのは6人だった.レスパイトケア利用年数は,2年から16年で,平均は8.7年だった.障害の程度を示す身体障害者手帳は,全ての同胞が障害の重い1級を持っていた.知的障害者に交付される療育手帳は,未記入の1名を除く,最重度であるA1を全ての同胞が持っていた.

2. レスパイトケアを利用する母親の在宅重症心身障害児(者)のきょうだいに対する思い

分析の結果,レスパイトケア利用前は【きょうだいに対する自責の念】,【子どもに平等に接したい思い】の2カテゴリー(表2),レスパイトケアを利用してからは【きょうだいを喜ばすことができる嬉しさ】,【きょうだいのポジティブな気持ちの変化に対する喜び】の2カテゴリー(表3)の計4カテゴリー,8のサブカテゴリー,33コードが抽出された.きょうだいへの思いの変化の全体像として.サブカテゴリーとカテゴリーの間の関係性について,図1に示した.なお,本論文ではカテゴリーを【 】,サブカテゴリーは《 》,コードを〈 〉で示す.母親の語りの具体例を「 」に斜体で示し,( )は文脈を補うため研究者が補った.

表2  レスパイトケアを利用する前の重症心身障害児(者)の母親のきょうだいへの思い
カテゴリー サブカテゴリー コード
きょうだいに対する自責の念 同胞の世話を優先した罪悪感 きょうだいに時間を割いて構ってあげなかった
きょうだいの甘えに応じなかった
きょうだいを外に連れて行ってあげられなかった
きょうだいを保育園に入れず同胞中心の生活に付き合わせた
きょうだいの学校行事に行けなかった
同胞の入院中は母親不在だった
きょうだいをほとんど祖母に育ててもらった
きょうだいの口にださない我慢への心苦しさ 寂しいと言ってこなかった
同胞のことで辛い思いをしたのだと思う
母親への不安,不満があると思う
きょうだいが友達から嫌なことを言われていたかもしれない
親が将来の世話役割を託したきょうだいの心理的負担への申し訳なさがあった
きょうだいの一人で頑張ろうとする姿に対する申し訳なさがあった
親が褒めるから,きょうだいは同胞の面倒をみたのではないか
きょうだいを可愛がっていないつもりはなかった
きょうだいが自分の将来への不安をもっていた
子どもに平等に接したい きょうだいも同じように愛したい きょうだいと関われず寂しい
きょうだいも大切にしたい
きょうだいも平等に接したい
きょうだいと一緒に遊びに行きたい
きょうだいの試合や習い事の発表など見に行きたい
きょうだいと関わる時間を持ち関係を取り戻したい きょうだいの心理的負担を取り除こうとした
同胞中心の生活からの気持ちの切り替えた
夫と協力しきょうだいと関わる時間を持ちたい
表3  レスパイトケアを利用してからの重症心身障害児(者)の母親のきょうだいへの思い
カテゴリー サブカテゴリー コード
きょうだいを喜ばすことができる嬉しさ きょうだいを喜ばせたい思いが叶う喜び きょうだいと一緒に外出することができた
きょうだいの学校行事に参加することができた
きょうだいを旅行に連れて行くことができた
きょうだいの喜ぶ様子がうれしい きょうだいが母親を独占できて喜んでいる様子がうれしい
きょうだいが友人との関係が良くなり喜んでいることがうれしい
きょうだいのポジティブな気持ちの変化に対する喜び きょうだいの気持ちが穏やかになる喜び 母親と出かけることできょうだいがストレスを発散できている
母親と過ごしてきょうだいの気持ちに余裕ができる
きょうだいが同胞への慈しみの心を持つようになった喜び きょうだいが同胞の面倒をみてくれる
きょうだいが同胞を守ろうとする発言に頼もしさを感じる
図1 

レスパイトケアを利用する前と後のきょうだいへの思いの変化

レスパイトケアを利用する前は,母親は《同胞の世話を優先した罪悪感》があり,《きょうだいの口にださない我慢への心苦しさ》があった.〈可愛がっていないつもりはなかった〉が知らなかったきょうだいの気持ちを知って動揺し【きょうだいに対する自責の念】を抱いていた.【子どもに平等に接したい思い】があり〈きょうだいの心理的負担を取り除こう〉ときょうだいとの時間を確保できるレスパイトケアを利用することで,【きょうだいを喜ばすことができる嬉しさ】を感じていた.きょうだいの心が穏やかになり【きょうだいのポジティブな気持ちの変化に対する喜び】を感じることで,母親として自分の子育てを肯定的に捉えられるようになっていた.以下,各カテゴリーについて述べていく.

1) 【きょうだいに対する自責の念】

このカテゴリーは,母親が子どもらの幼いころの子育てを振り返り,同胞の世話を優先したことで,きょうだいとの時間を持てなかったことに対する後悔や心苦しさを感じることであった.《同胞の世話を優先した罪悪感》,《きょうだいの口にださない我慢への心苦しさ》で構成された.

《同胞の世話を優先した罪悪感》は,母親は同胞の世話を優先し,きょうだいを「待たせてから,ほったらかしはあったと思う.」のように,きょうだいを後回しにしたままの状況が続いていた.幼いきょうだいが「甘えたい時に甘えさせられなかった」のように忙しくて〈甘えに応じなかった〉ことや,「自分がしんどいから,外に連れて行ってあげられなかった.」のように母親が疲労困憊して,きょうだいと十分に関われることが出来なかった.「(きょうだいとの)関わりをね,確保したくってずっと手元に置いときたいと思って保育園も入れなかったんですけど,なんか余計かわいそうやったなって.今,そこは後悔してるんですよ.もっと発散させてあげれば(よかった)と.」のように,〈保育園に入れず同胞中心の生活に付き合わせた〉ため,「どこにも連れて行ってあげられなくって.」のように,身体的・精神的に抑圧されていたきょうだいのストレスを発散させてあげることができなかったことへの後悔があった.

同胞の健康状態が悪化すると,母親が入院に付き添う場合は,きょうだいを家に残し,きょうだいも同胞の入院につき合わせた場合は,きょうだいの生活の場は病院内に制限されていた.「そこは小児病棟で(きょうだいは)中に入れないんです.今ほどきょうだいのことをどうするかっていうのは無くて,いつも病院の入り口の廊下で半日以上,一人で待たす感じで.病棟の中に15歳からしか入れなくて.それで結局,お兄ちゃんに対して悪いなってあったんで.でもやっぱり弟(同胞)をほっとくわけにもいかないので.」のように,きょうだいを一人で待たせることが,日常化されていた.「他のお母さんがしてあげている関わり…学校へ見に行ったり,授業参観とかそれができなかったし.」のように,健康な子を持つ母親と同じように〈学校行事に行けなかった〉ことで,きょうだいに寂しい思いをさせていたことに罪悪感があった.「真ん中の子は,保育所とおうちで,おばあちゃんだけが見ていた感じで.」のように,〈同胞の入院中は母親不在だった〉ため,きょうだいを〈ほとんど祖母に育ててもらった〉と捉えていた.

《きょうだいの口にださない我慢への心苦しさ》は,「寂しいとあんまり言わなかったですね」,「私らには言えないけど,我慢したことがたくさんあったやろうなって思った」のように,〈寂しいと言ってこなかった〉きょうだいの口に出さない我慢があったのではないかと推し量り〈母親への不安,不満があると思う〉と考えていた.母親は,きょうだいを可愛がっていないつもりはなかったが,「一番ショックだったのは,私も可愛がって欲しいって泣いたことがあって」「僕結婚できやんなって言われたこともあります.」ときょうだいから本心を打ち明けられ,きょうだいの抱えている思いや,我慢を知って動揺していた.「どうしても,障害者っていうのを見下す人がありますからね.そういう風な事を言われたことがあるかも知れないですね.」「ほんまに大変やと思ったのは,うち上に姉が二人いて,そのお姉ちゃん達が不登校になって.」のように,社会からの視線や発言を受けて〈同胞のことで辛い思いをした〉のだと思い,我慢していた状況に申し訳なさを抱えていた.「(夫が)お姉ちゃんに『お前一生,この子の面倒みたらなあかんねや.』って言って.…『この子の面倒を見るために,お前はおるんや.』ってお姉ちゃんに言うし」のように,〈親が将来の世話役割を託した心理的負担への申し訳なさ〉があった.「(兄が)中学の時は,(兄の)頑張らなあかんっていうのが見えてて…なんか,ごめんって思って.(母親に)心配かけたらあかんとか.だから,しんどい思いをしたのかなって思うし.」のように〈きょうだいの一人で頑張ろうとする姿に対する申し訳なさ〉があった.きょうだいが同胞の世話をすると「親が褒めてくれるし,周りもほめるでしょ.面倒みて,親に褒めてもらうってことを考えてやってたんちゃうかなぁって思うんです.」のように,〈親が褒めるから,きょうだいは同胞の面倒をみたのではないか〉と捉えていた.

2) 【子どもに平等に接したい思い】

このカテゴリーは,きょうだいに心理的負担をかけていることに母親が気付き,同胞ときょうだいに平等に接したい思いであった.《きょうだいも同じように愛したい》,《きょうだいと関わる時間を持ち,関係を取り戻したい》で構成された.

《きょうだいも同じように愛したい》は,「関わりってすごく少なくて寂しかった.」のように,母親がきょうだいと関われないことを寂しく思っていた.「きょうだい二人がいるんで,他の下の子達も見てあげなあかんから.」「平等に接しられるように.」のように,母親としてきょうだいも同じように愛したい思いや習い事の応援や学校行事に参加し,きょうだいの成長を見たい思いがあった.

《きょうだいと関わる時間を持ち,関係を取り戻したい》は,母親は家族と協力して「(きょうだいと)関わるように頑張っていました.主人が(子育てと介護の両方を)手伝ってくれるので.私が出来ない時はお願いして.」のように,夫と協力しながらきょうだいと過ごす時間を意識的に取り,きょうだいの寂しいという心理的負担を取り除きたい思いがあった.「普段はなかなか学校行事の参観とかでも娘の方の訪問の授業とかあったらいけないし,結局は重点が妹の方にいってしまう.それで,『どうせ,来てくれへんねんやろ.』って(兄に)言われたのがきっかけで.」のように,きょうだいの発言や,「(医師が)『お兄ちゃん中心に生活した方がいい.』って言ってくれたんです.」のように,医療従事者からの支援によって,同胞中心の生活から気持ちを切り替え,きょうだいへと意識を向けるようにしていた母親もいた.

3) 【きょうだいを喜ばすことができる嬉しさ】

このカテゴリーは,レスパイトケアを利用し,同胞を施設に預け,きょうだいと一緒に間を過ごすことで,きょうだいと母親の両者の愛情が満たされる喜びであった.《きょうだいを喜ばせたい思いが叶う喜び》,《きょうだいの喜ぶ様子がうれしい》で構成された.

《きょうだいを喜ばせたい思いが叶う喜び》は,「外食ができないのでね,なかなか.車椅子で行けない場所に,きょうだいをご飯食べたいっていう場所に連れて行ったり.」のように,日頃きょうだいと行けない映画館や旅行,外食,学校行事や試合などに行くことできょうだいを喜ばそうとしていた.母親と一緒に過ごすと「やっぱり,(きょうだいは)嬉しいんやろな,生き生きしている.…今は友達もいっぱい作れるようになった.妹にとってはすごく良かったと思うレスパイトは.」のように,《きょうだいの喜ぶ様子がうれしい》と思っていた.「その時間を使って他の兄弟と出かけたりとかっていう,気持ちの充実っていうのはありますね.」のように,母親の愛情は満たされ充実感があった.

4) 【きょうだいのポジティブな気持ちの変化に対する喜び】

このカテゴリーは,レスパイトケアを利用し,母親ときょうだいが時間を過ごす事できょうだいが生き生きと過ごしたり,笑顔を見せたりする《きょうだいの気持ちが穏やかになる喜び》と《きょうだいが同胞への慈しみの心を持つようになった喜び》で構成された.

《きょうだいの気持ちが穏やかになる喜び》は,「家族でお出かけしたりするとお兄ちゃんも気持ち的に余裕が出来て,逆に弟にすごく愛情を注いでくれるというか.」のように,母親の愛情を実感できたきょうだいの,気持ちが穏やかになることを喜んでいた.さらに「自分が守ったらなあかんみたいなことを(兄弟が)言ってきた時に,この子凄いなって.」のように,きょうだいの同胞に対する発言や態度から,《きょうだいが同胞への慈しみの心を持つようになった喜び》を感じていた.

Ⅶ. 考察

レスパイトケア利用する前と利用してからの,母親のきょうだいに対する思いと心理的支援について考察する.

1. レスパイトケアを利用前と利用してからの母親のきょうだいに対する思いの変化

レスパイトケアを利用する前は,母親は同胞の世話に忙しく,母親役割を十分に果たせなかった自責の念と,子どもに平等に関わりたい思いがあった.本研究の【きょうだいに対する自責の念】は,先行研究(小宮山ら,2008下野・市原,2017)の母親がきょうだいの思いや気持ちを推し測ること,罪責感・葛藤を抱えていることと同様の結果を得た.しかし本研究では,きょうだいは母親や家族,社会など周囲からの発言や態度による心理的な負担を感じていたのだろうと母親は考えていたが,ずっと我慢していたきょうだいの気持ちに寄り添えなかった自責の念が根底にあったことが明らかとなった.【きょうだいに平等に接したい】思いは,きょうだいと同胞を分け隔てなく接したいという母親として一般的な思いであるが,思うようにきょうだいと関われないことが,【きょうだいに対する自責の念】を抱くことに大きく影響を与えたと推察される.

レスパイトケアを利用してからは,きょうだいに対する心苦しさや罪悪感を抱く思いは,【きょうだいを喜ばすことができる嬉しさ】へと変化していた.レスパイトケア中は,きょうだいが喜ぶような関わりをしており,「きょうだいが喜ぶこと」が母親にとっての喜びとなっていたと考える.また本研究で新たに抽出されたのは【きょうだいのポジティブな気持ちの変化に対する喜び】である.レスパイトケア中にきょうだいと関わることで,きょうだいの心が穏やかになったこと,愛情を感じながら育ったきょうだいが同胞を慈しむ心を持つようになり,きょうだいのポジティブな気持ちの変化があったことを母親は喜び,自分の子育てを肯定的に捉えられるようになったと考える.先行研究では「時間の確保は,重症心身障害児の同胞とのふれあう時間に当てることができ,母親は同胞に癒され,結果的に心のゆとりにもつながる」(山本,2014)ことが明らかとなっている.本研究では,子育てを肯定的に捉えられるようになることで心のゆとりができると考えられるため,先行研究果と同様の結果である.レスパイトケアの利用を継続していく中で,【きょうだいに対する自責の念】が徐々に薄れ,利用を前向きに捉えられるようになり,次回の利用へと繋げることができると推察される.これらのことから,定期的にレスパイトケアを利用することは,母親ときょうだいの関係性の再構築を促進し,情緒的な結びつきを強め,同胞の在宅での療養生活を継続していく上で意義が大きいといえる.母親が子育てを楽しみ,きょうだいの心に寄り添うことができるレスパイトケアの重要性が示されたことにより,その拡大が求められる.

2. 母親ときょうだいに対する心理的な支援

母親は,同胞の健康状態が悪化した時は,相当な精神的・身体的な疲労感があったと考えられる.山本ら(2000)は,緊急入院などで母親の不在は急に起こり,それが長期間となると,予定されていた出来事でもきょうだいの寂しさは強くなると指摘し,「『同胞』の状態が悪い場合は,親が精神不安定になり『きょうだい』も不安定となる場合が多かった」と述べている.母親不在や親の精神状態が不安定な状態が長期間続くと,きょうだいは親からの愛情を感じにくくなる可能性が考えられる.本研究できょうだいは「母親と過ごす時間」や遊びや運動など「生活の場」は同胞の健康状態に左右され,身体的・精神的に抑圧されていたストレスを発散できず,寂しい思いを閉じ込め我慢をしていた状態だったと推測できる.また母親は,きょうだいの《口にださない我慢を推し測る》ことで,きょうだいの抱えている辛さを認識して心苦しく思い“母親に対する不安や不満”を持っているのではないかと考えながら接していた.肯定的な母子関係が構築できないと,その後の良好な関係を築けない(高野ら,2015)可能性がある.母親は同胞の世話を優先し,きょうだいとの関わり方に心苦しさを感じながらも,文句を言わずに従順に待つ役割をきょうだいに期待していた.きょうだいは“母親にとって良い子”でいなければならないという考えに陥り,我慢すること,寂しいと言わないことできょうだいの本当の思いが隠され,孤立や疎外感を持ち続けてしまう恐れがある.そのため,支援者はきょうだいの頑張りを労い,母親だけでなく他人との接触の機会も奪われることのないよう,支援することが重要である.

母親は不登校などきょうだいの直面する社会との問題にも向き合う必要があった.重症心身障害児(者)の家族であることで,学校の友達から悪口を言われたり,からかわれたりしていないかと心配していたが,きょうだいに時間を割くことができなかったため,きょうだいの思いや悩みに対応できていなかった可能性がある.重症心身障害児(者)が世帯員にいることに起因する社会からの差別があり,きょうだいは社会から差別を受ける不安を抱くのは小学校高学年の頃から始まる場合が多い(山本ら,2000).本研究では,きょうだいは母親へ学校でのいじめなどについて何も言わなかったことから,学校や社会からの心理的負担や重圧があっても,我慢していることを口に出さなかったと考えられる.父親が「お前もう一生,この子の面倒みたらなあかんねや.」と,きょうだいに同胞の将来の世話を託す発言があったように,きょうだいが親へ本心を打ち明けにくい状況もあった.「僕結婚できやんなって言われたこともあります.」のように,きょうだい自身が「障害者の家族」として両親の死後,同胞の面倒を見る責任感から,自分の結婚や生き方より同胞の生活を支えることを優先し,介護者役割を引き受けなければならないと考え苦悩していた.きょうだいが家族や社会からの心理的負担や自身の将来についての不安などを一人で抱えること無く,きょうだいの通学している学校や地域できょうだいの思いを傾聴する支援が必要である.家族ときょうだいが一緒に過ごす時間を持てるショートステイやレスパイトケア,同胞の将来の生活の場や活用できる社会資源について家族全体に伝えていく取り組みが必要である.

Ⅷ. 結論

本研究により母親は,重症心身障害児(者)のきょうだいに対して,レスパイトケア利用する前は,【きょうだいに対する自責の念】,【子どもに平等に接したい思い】,利用してからは【きょうだいを喜ばすことができる嬉しさ】,【きょうだいのポジティブな気持ちの変化に対する喜び】へと変化していることが明らかとなった.レスパイトケアは,母親ときょうだいの関係性の再構築を促進し,情緒的な結びつきを強める上で重要であった.

Ⅸ. 研究の課題と限界

本研究の対象者は,重症心身障害児(者)の年齢を制限しなかったことから,発達段階の幅や障害の有無が,母親のきょうだいに対する思いに影響を及ぼした可能性がある.また30代から60代の母親15名であり,幅広い年代の母親であった.そのためレスパイトケア,福祉制度や在宅支援サービスの利用歴に差が生じていることが考えられ,母親の思いに幅が生じた可能性がある.今後,重症心身障害児の年齢を制限し,母親の世代を考慮した分析が必要になると考える.

付記:本研究は2019年度奈良学園大学大学院看護研究科に提出した修士論文の一部に加筆修正したものであり,内容の一部は第40回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究の趣旨にご理解いただき,ご協力いただいたお母さま方,病院・施設の方々に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究には,開示すべきCOI関係にある企業・組織および団体等はない.

著者資格:すべての著者は,研究の構想およびデザイン,データ収集・分析および解釈に寄与し,論文の作成に関与し,最終原稿を確認した.

文献
 
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