日本看護科学会誌
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原著
看護職者と看護補助者が共に看護補助者役割の認識を共有する介入プログラムの開発と評価
佐伯 昌俊武村 雪絵國江 慶子
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2021 年 41 巻 p. 638-646

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Abstract

目的:看護職者と看護補助者を対象とした看護補助者役割の認識を共有する介入プログラムを開発し,双方の看護補助者役割認識および看護チームに関する認識への介入効果を検証する.

方法:部署の看護職者と看護補助者が合同で参加する1回1時間の介入プログラムを開発し,2020年8月~12月に3施設各1病棟で介入を実施した.看護職者と看護補助者の看護補助者役割認識および看護チームに関する認識を介入前,直後,1ヶ月後に測定した.

結果:看護職者32名と看護補助者14名を分析対象とした.看護職者は介入前と介入1ヶ月後で看護補助者役割認識の得点に差はなかったが,チームに関する認識の得点が高まった.看護補助者はいずれも変化を認めなかった.

結論:介入プログラムにより,看護職者と看護補助者の看護補助者役割認識に変化は見られなかったが,看護職者のチームに関する認識が高まる可能性が示唆された.今後は対象者数を増やして検証が必要である.

Translated Abstract

Aim: To develop an intervention program for nurses and nursing assistants to recognize nursing assistant roles and examine the effects of the program on their perceptions of these roles and the nursing team approach.

Methods: An intervention program was developed in which nurses and nursing assistants participated together for one hour per session. It was conducted in one ward in each of three facilities from August to December 2020. Nurses and nursing assistants received questionnaires to assess their perceptions of the roles of nursing assistants and their team approach before, immediately after, and one month after the intervention.

Results: The analysis included 32 nurses and 14 nursing assistants who responded to the survey. The nurses’ scores for their perceptions of the nursing assistant roles did not differ between before and one month after the intervention, but their scores for their team approach increased. There was no significant change for the nursing assistants.

Conclusion: The intervention program developed in this study was implemented, and it was suggested that while the program does not change the nurses’ perception of the roles of nursing assistant, it can enhance their perception of their team approach. Further research with a larger number of nurses and nursing assistants is needed to verify the results of this study.

Ⅰ. 緒言

日本では2040年までの高齢者人口の増加を見据え,医療現場のタスクシフトが推進されている.看護業務においても効率化が求められており,看護職者と看護補助者(以下,補助者)の協働の必要性が高まっている.現在,補助者は看護業務の効率化や患者ケアの充実を目的として雇用されており(坂本,2019),看護チームの一員として看護職者の指示のもとに看護補助業務を行っている.また,看護業務のあり方に関するガイドラインの整備も進められており(日本看護協会,2021),看護チームのメンバーがそれぞれの役割と責任を果たしながら協働することが求められている.

看護職者と補助者の協働は患者のニーズに応じた安全なケア提供(Lancaster et al., 2015Wagner et al., 2014)や転倒発生率の改善(Gion & Abitz, 2019)と関連することが報告されている.一方で看護職者と補助者の業務範囲の曖昧さ(中岡ら,2016)や,相手職種への役割認識不足(Bellury et al., 2016Kusi-Appiah et al., 2018)による協働への課題も指摘されている.Kalisch(2006)は看護職者と補助者を対象とした質的研究において,業務の一部を他者や他職種の責任として切り離すことを「it’s not my job syndrome」と表現し,ケアの脱落や患者の安全との関連を指摘している.それゆえ,単にそれぞれの業務範囲を明確にして分担するだけでは看護チームが効果的に機能することにはつながらない可能性がある.看護職者の補助者役割の認識については,看護職者が補助者を看護チームの一員と捉えていないことや(Kalisch, 2009),補助者の役割を十分に理解していないことが指摘されている(Kusi-Appiah et al., 2018).さらに,補助者の担い得る機能的役割を理解し,高い補助者役割認識を持つ看護職者ほど,補助者に対するコミュニケーション行動が多いことから(Saiki et al., 2020),看護職者が補助者役割の認識を高めることは,協働推進の鍵を握る可能性がある.

一方,補助者は自身の役割を看護職者から指示された業務のみを行うことと認識していたという報告があり(Lancaster et al., 2015),補助者は自身に期待されている役割を限定的に捉えている可能性がある.小川(2010)は,質の高いケアのために,補助者を患者のケアを担う看護チームの一員としてみなすことの重要性を指摘している.そして,看護職者からチームの一員として幅広い役割を担うことを期待されていると強く認識している補助者ほど,看護チームへの参画の程度が高いことが明らかとなっていることから(Saiki et al., 2021),補助者自身が患者のケアに関わる一員として幅広い役割を担い得ることを強く認識することも看護職者との協働に必要だと考えられる.

このように,看護職者が看護チームにおける補助者の役割を理解し高い役割期待をもつこと,また補助者が自身をケアに携わる一員として幅広い役割を担い得ることを強く認識することが,看護チームとして機能するために重要であるといえる.しかし,看護職者が補助者の役割について学ぶ機会は基礎教育・継続教育を通して非常に少なく,とりわけ補助者とともに役割を考える機会はほとんどない.このことは,補助者が看護職者からの役割期待を知る機会が乏しいことにもつながっている可能性がある.そこで,看護職者と補助者が互いに補助者役割に対する認識を共有し,補助者役割を再認識する介入プログラムが必要であると考えた.

Godlock et al.(2016)は看護職者と補助者を対象として,Team STEPPSによる転倒予防のシミュレーションを行い,コミュニケーションの改善を報告している.またWest et al.(2012)は,Crew Resource Managementを用いて補助者の業務を妨害しないルールを策定することで業務の効率化やコミュニケーションの改善を報告している.これら看護職者と補助者を対象とした過去の介入研究はチームワークの向上,コミュニケーションや業務委譲の改善をねらいとした介入であり(Campbell et al., 2020),看護職者と補助者の役割認識にアプローチした介入研究はほとんどない.中でも異なる職種間で片方の職種である補助者の役割に関する認識を互いに共有する介入プログラムは見当たらない.そこで,本研究は看護職者と補助者双方の補助者役割認識に着目し,対人関係における気づきの図式モデルであるジョハリの窓を看護職者と補助者の職種間に応用した介入プログラムを開発する.

ジョハリの窓は4つの象限(Quadrant)を持つ図式モデルであり,「私―わかっている(known to self),わかっていない(unknown)」の縦軸と「他人―わかっている,わかっていない」の横軸からなる.この4象限(=窓)の存在とその窓に生じる変化を捉えて対人関係のプロセスを説明するモデルである(津村,2005Luft, 1970).Luft(1970)は,ジョハリの窓を個人対個人の相互作用だけでなく,グループ対グループ,グループ対個人にも適応可能であると指摘している.また,ジョハリの窓はこれまで多職種との関係性を向上するための枠組みとしても使用されており(South, 2007),看護職者と補助者の職種間にも応用可能であると考えた.

補助者の業務内容や患者へのケア提供体制などの組織特性は,施設や病棟の機能によって異なる可能性がある.本研究の介入プログラムは,補助者の役割における機能的側面に着目し,補助者役割に関する看護職と補助者双方の認識を共有し気づきを促すものである.それゆえ,組織特性によらず双方の補助者役割認識を高めることは可能であり,介入プログラムに参加することで病棟の看護チームがより効果的に機能することが期待される.

Ⅱ. 研究目的

看護職者と補助者の双方が補助者役割の認識を高めるため,病棟単位で双方が参加し,補助者役割に関する認識を振り返り,互いに共有する介入プログラムを開発する.さらに介入プログラムを実施し,双方の補助者役割認識および看護チームの機能に対する認識への影響を検証する.

Ⅲ. 概念枠組み

本研究の概念枠組みを図1に示した.本研究の介入プログラムは看護職者と補助者双方の補助者役割認識にアプローチする.介入プログラムに参加することで,看護職者と補助者はそれぞれ補助者役割をより幅広く,高く認識し,看護チームの機能に関する認識に影響を及ぼすと仮定した.

図1 

本研究の概念枠組み(筆者作成)

Ⅳ. 用語の操作的定義

看護職者:看護師又は准看護師の資格を有する職員

補助者:看護師長及び看護職員の指導の下に,原則として療養生活上の世話等の業務を行う(厚生労働省,2018),看護師等の資格を有さない職員.

看護チーム:本研究では,業務の指示系統によらず,病棟において患者への直接ケアに関わる看護職者と補助者からなる集団.看護師は看護の専門的な判断において,准看護師は看護師の指示において療養上の世話を実施し,補助者は看護師の指示のもと看護の専門的な判断を要しない療養生活上の業務を実施する.これらは患者ケアを実施するという点では共通するが,患者ケアにおける指示系統,及び業務範囲が異なる.

補助者役割:日常的に実施している排泄ケアや清潔介助などの職務記述書や業務基準とは区別し,補助者の役割を機能的側面から捉えた先行研究(佐伯ら,2019Saiki et al., 2020)をもとに,「補助者が患者の回復や療養生活に向けて果たす機能やチームにおける役割」と操作的に定義した.

Ⅴ. 研究方法

1. 研究デザイン

病棟の看護職者と補助者を対象とした介入プログラム開発,および対照群のない前後比較研究デザイン

2. 対象病棟および対象者

患者の退院を見据えて,看護職者と補助者がともに日常的に患者ケアを提供している病棟では職種間の協働が特に必要であると考えた.そこで,病棟の選定基準を看護職員配置10対1もしくは13対1の地域一般入院基本料1~3,地域包括ケア病棟入院料1~4,急性期一般入院基本料4~7を算定している病棟,かつ当該病棟に勤務する補助者が患者への排泄ケアや清潔介助などの直接ケアを実施している病棟とし,除外基準は補助者の配置数が2名未満の病棟とした.

対象者は患者への直接ケアを日常的に実施している看護職者と補助者とした.調査開始時点で対象病棟に勤務している看護職者と補助者は看護チームの一員として含まれると考えて年齢や保有資格,経験年数を問わず対象とした.病棟看護管理者,及び患者に触れない間接業務のみを担う補助者は除外した.

サンプルサイズの算出にはG*Powerを使用し,一元配置分散分析(繰り返しあり),効果量0.20,有意水準5%,検出力0.8と設定したところ42名と算出された.

3. 介入プログラムの作成とプログラム内容

介入プログラムの枠組みには,対人関係における気づきの図解モデルであるジョハリの窓(Luft & Ingham, 1961)を応用した.本研究では縦軸の「私」を「看護補助者」,横軸の「他人」を「看護職者」と置き換えて,それぞれの認識する補助者役割について4つの窓を設け,介入プログラムによって「看護職者と補助者が共有している補助者役割」の窓⦅図2(A)⦆の拡張を目指した.

図2 

ジョハリの窓を応用した補助者役割認識拡張の枠組み(筆者作成)

介入プログラムは,1病棟あたり複数回の実施が可能であり,1回当たりの参加者は7~10名(看護職者5名程度,補助者2名程度)を見込み,約60分の構成とした.限られた時間で参加者が補助者に関する多様な補助者役割の認識を言語化し共有するために,介入プログラムは以下①~⑧のセッションによって構成した.

本研究では,研究者がファシリテーターを務め,①ではオープニングとしてファシリテーターがプログラム全体の流れを説明した.②では,参加者同士が話しやすい雰囲気を作るため,アイスブレイクを行った.ここでは最近の楽しかったことや個人的なニュースをテーマに,参加者が一人一回発言する機会を作った.③では,ファシリテーターがプログラムの目的を説明し,全員がポジティブな態度で参加できるよう他者の意見を批判しない等の注意点を伝えた.④では,介入プログラムの枠組みであるジョハリの窓やプログラムにおける補助者役割の定義について説明した.これによって日常的に補助者が行っている業務の振り返りとともに,その業務によって補助者が担い得る機能的な役割への気付きを促した.また,自己開示と共に他者の考えを知ることで参加者間の補助者役割認識の拡大を促した.⑤では,ワークとして参加者に日常の補助者役割を想起しながら,その内容を各自付箋に列挙してもらった.より多様な補助者役割の認識を引き出すために,各参加者一人でワークを進めた後,他の参加者と討議しながらさらにワークを進めてもらった.このときファシリテーターは各参加者のワークの進捗状況を確認し,ワークを進めるための問いを投げかけた.次に,各参加者が補助者役割の認識を拡張することをねらいとして.⑥では付箋の内容を全体で共有した.さらに⑦で他の参加者の発言を聞き,補助者役割に関する新たな気付きや再確認できた内容について全体で共有した.最後に⑧で,プログラム全体を通しての感想を一人ずつ発言し,全体で共有することでプログラムのクロージングとした.

なお本研究の介入プログラムは,1施設3病棟の看護職者6名と補助者12名を対象にパイロットテストを実施し修正したものである.具体的には,介入プログラムを効果的に実施する方法を明らかにするために介入直後にアンケートとインタビュー,介入プログラム後の日常業務への影響を明らかにするため介入2週間後にもインタビューを実施した.

介入直後のアンケートでは,開催時間について看護職者4名と補助者9名が「ちょうどよい」と回答し,看護職者と補助者各2名が「長い」,補助者1名が「短い」と回答しており,インタビューでも60分程度での実施が概ね妥当であることを確認した.また,限られた時間で効果的にプログラムを開催するため,プログラムの案内チラシを事前に提示することとした.セッション⑥全体での共有では,補助者が看護職者に考えを発表することに対する心理的負担の可能性を考慮し,看護職者から先に発表してもらうなどファシリテーターの留意点を確認した.

介入2週間後のインタビューでは,プログラム参加への心理的負担やその後の仕事への支障など否定的な影響がないことを確認した.また,看護職者と補助者双方とも補助者役割を再認識したり,新たな気付きを得られる可能性が語られた.本研究では,介入1か月後までの変化を数量的に検証した.

4. 調査手順

関東地方で対象病棟を有する医療施設を無作為抽出し,研究説明文書を送付した.研究参加への意向があった看護部門責任者に対し,対象病棟の補助者が患者ケアに参画していることを確認した.最終的に3施設より各1病棟,計3病棟を対象に介入プログラムを実施し,無記名自記式質問紙を用いて介入前・介入直後・介入1ヶ月後に調査を行った.

調査開始前,看護部門責任者には対象者全員の個人ID・病棟ID付与を依頼した.研究者は各調査時点で人数分のIDを割り当てた質問紙を看護部門責任者に郵送し,病棟看護管理者にID対応表を用いて質問紙を配布してもらった.回答後の質問紙は個別封筒に入れ,各病棟の回収袋で約2週間回収後,研究者に返送してもらった.

1) 介入プログラム実施手順

対象者全員に介入前調査の質問紙と同時に介入プログラムの案内チラシを配布した.介入プログラムの開催日程について,可能な限り病棟の全看護職者と全補助者が参加できるように,1週間程度で複数日程を挙げてもらうよう看護部門責任者および病棟看護管理者に説明し,開催予定のアナウンスをしてもらった.予定日時に研究者が施設を訪問し,施設内の会議室や食堂などのスペースで介入プログラムを実施した.参加者には謝礼としてクオカード1,000円分を贈呈した.

5. 評価指標

1) 補助者役割認識

看護職者と補助者の補助者役割認識の測定には,「看護補助者役割認識尺度」(佐伯ら,2019)を用いた.看護職者・補助者ともに同一の16項目4下位尺度「ケアを通じて患者の力を引き出す(項目例:患者の能力を最大限活用できるようなケアを行う)」「広い視野をもち多様な段階に対応する(項目例:患者の自宅での生活の様子を把握する)」「一員としてネットワークを築く(項目例:看護師と他職種のパイプ役である)」「チームの患者情報を豊かにする(項目例:気になった患者の言動を看護師に報告する)」について,各項目を「そう思わない」~「そう思う」の5段階のリッカート尺度で評価した.分析には下位尺度得点とその合計点を使用した.

2) チームアプローチ評価尺度(Team Approach Assessment Scale; TAAS)

チームが効果的に機能しているかを個人の認識によって評価する尺度として,飯岡ら(2016)のTAASを使用した.27項目4下位尺度「チームの機能(項目例:問題状況に応じて役割を調整している)」「チームのコミュニケーション(項目例:チームは,意思決定に向けて自由な発言を認めている)」「メンバーシップ(項目例:チームメンバーそれぞれが課題に対して貢献している)」「チームへの貢献(項目例:私はチームメンバーとして貢献できている)」からなり,各項目を「まったくそう思わない」~「とてもそう思う」の4段階のリッカート尺度で評価した.分析には下位尺度得点と項目合計得点を使用した.

6. 分析方法

分析対象者は,介入プログラムの参加者のうち介入前・介入直後・介入1ヶ月後の調査すべてに回答し,使用変数に欠損のない者とした.なお,本研究ではサンプル数が目標数に満たなかったため,介入前・介入直後・介入1ヶ月後の3時点における補助者役割認識尺度得点,およびTAAS得点についてノンパラメトリック検定のFriedman検定を行い,各時点での得点比較はHolm法を用いた多重比較を行った.分析には統計解析ソフトウェアR Studio version 3.5.1を使用し,統計的有意水準は5%とした.

7. 倫理的配慮

本研究は東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号2019179NI).対象者には研究概要と自由意思による参加であることを書面にて説明した.質問紙には冒頭に研究協力の同意を尋ねる項目を設け,「同意します」を選択したケースのみを分析した.また,対象者の心理的負担を考慮し,研究協力は任意であることと質問紙は白紙回答も可能であることを説明し,記入後の質問紙は個別のシール付き封筒を用いて回収した.病棟看護管理者は回収袋内の個別封筒が封をされた状態のまま研究者に提出することとし,看護部門責任者には回答者が分からないようにした.

介入プログラムは事前にパイロットテストを行い,参加者に心理的負担や仕事への否定的影響の有無,安心して参加するために必要な配慮を尋ね,プログラムに反映した.介入プログラム実施時は,相手を非難したり,発言を否定したりしないことをルールとして,参加者の心理的安全を確保するよう努めた.

Ⅵ. 結果

1. 対象病棟,対象者の特性

対象病棟の職員配置人数の平均(標準偏差)は,看護職者23.3(2.1)名,補助者8.7(1.5)名であった.より多くのスタッフが参加できるよう,介入プログラムは各病棟複数回開催し,開催回数は2~4回であった.職員配置人数に対するプログラム参加者数の割合は,看護職者40.9%~87.5%,補助者87.5%~100%であった.プログラム1回当たりの参加者数の平均【範囲】は,看護職者5.1【2~16】名,補助者2.6【1~5】名,合計では7.6【4~18】名であった.介入プログラムはいずれも60~75分で実施され,介入プログラム参加者の合計は看護職者42名,補助者23名であり,プログラム中に途中退席した者はいなかった.

分析対象者は看護職者32名,補助者14名であった.平均年齢は看護職者40.3(9.3)歳,補助者42.9(10.1)歳,正規雇用と回答した者は看護職者28名,補助者13名であった.看護職者の平均職務経験年数は13.4(10.5)年,師長補佐など職位がある者は5名であった.補助者の平均職務経験年数は7.5(4.2)年,介護福祉士の資格保有者は5名であった.

2. 補助者役割認識の得点推移

看護職者の補助者役割認識の得点を介入前・介入直後・介入1ヶ月後の3時点で比較したところ,「ケアを通じて患者の力を引き出す」(p < .01),「一員としてネットワークを築く」(p < .001),「チームの患者情報を豊かにする」(p < .05),「下位尺度合計」(p < .05)で有意な差があり,介入前より介入直後の得点が高かった(表1).いずれも介入前の得点と1ヶ月後の得点には有意差は見られなかった.なお,「チームの患者情報を豊かにする」(p < .05),「下位尺度合計」(p < .05)では,介入直後の得点より介入1ヶ月後の得点が有意に低かった.

表1  看護職者の評価尺度得点の平均値の推移 (看護職者n = 32)
a 介入前 b 介入直後 c 1か月後 χ21) 多重比較
平均(標準偏差) 平均(標準偏差) 平均(標準偏差)
補助者役割認識
広い視野をもち多様な段階に対応する 3.16(0.79) 3.38(0.82) 3.32(0.72) 5.25
ケアを通じて患者の力を引き出す 3.95(0.47) 4.22(0.40) 4.05(0.41) 10.67** a < b*
一員としてネットワークを築く 3.51(0.68) 4.04(0.66) 3.80(0.59) 17.86*** a < b**
チームの患者情報を豊かにする 4.36(0.70) 4.67(0.47) 4.34(0.51) 8.17* a < b*,b > c*
各下位尺度合計 14.99(1.75) 16.30(1.83) 15.53(1.61) 13.72* a < b**,a < c,b > c*
TAAS2)
チームの機能 28.81(3.99) 32.75(4.11) 31.56(4.73) 14.99*** a < b**,a < c*
チームのコミュニケーション 14.81(1.79) 15.90(2.04) 15.25(2.22) 8.87*
メンバーシップ 17.06(2.27) 18.78(2.46) 18.18(2.58) 5.42 a < b*
チームへの貢献 10.25(1.65) 11.53(1.81) 10.84(1.76) 9.65** a < b*
項目合計 70.94(7.70) 78.97(9.25) 75.84(10.24) 52.00*** a < b***,a < c***,b > c***

注:1)Friedman検定により算出.2)TAAS;Team Approach Assessment Scale.

*** p < .001,** p < .01,* p < .05, p < .1

補助者の補助者役割認識では統計的な有意差は認めなかった(表2).

表2  補助者の評価尺度得点の平均値の推移 (補助者n = 14)
介入前 介入直後 1か月後 χ21)
平均(標準偏差) 平均(標準偏差) 平均(標準偏差)
補助者役割認識
広い視野をもち多様な段階に対応する 3.43(1.10) 3.32(0.92) 3.46(1.08) 0.67
ケアを通じて患者の力を引き出す 3.96(0.66) 4.16(0.55) 4.24(0.62) 4.20
一員としてネットワークを築く 3.50(0.76) 3.53(0.88) 3.77(0.78) 0.78
チームの患者情報を豊かにする 4.39(0.71) 4.61(0.45) 4.36(0.53) 2.58
各下位尺度合計 15.29(2.62) 15.64(2.07) 15.84(2.54) 1.59
TAAS2)
チームの機能 29.86(4.72) 30.21(4.15) 29.50(5.47) 2.35
チームのコミュニケーション 13.79(2.12) 14.29(1.98) 14.36(2.21) 1.17
メンバーシップ 16.29(3.10) 16.93(2.46) 16.71(2.70) 0.60
チームへの貢献 11.71(2.49) 11.86(1.51) 10.36(2.71) 6.89*
項目合計 71.64(10.82) 73.29(8.87) 70.93(11.77) 2.81

注:1)Friedman検定により算出.2)TAAS;Team Approach Assessment Scale.

* p < .05

3. TAASの得点推移

看護職者のTAASの得点を介入前・介入直後・介入1ヶ月後の3時点で比較したところ,「チームの機能」(p < .001),「チームのコミュニケーション」(p < .05),「チームへの貢献」(p < .01),「下位尺度合計点」(p < .001)で有意な差がみられた.このうち「チームの機能」「チームへの貢献」「下位尺度合計点」は介入前より介入直後の得点が有意に高かった(表1).また「チームの機能」「下位尺度合計点」では1ヶ月度時点の得点が介入前よりも高かった.なお「メンバーシップ」では,3時点の得点比較では有意差を認めなかったものの,多重比較では介入前より介入直後の得点が有意に高かった.

補助者のTAASの得点を3時点で比較したところ「チームへの貢献」(p < .05)で有意差がみられたが,多重比較ではいずれも有意差は見られなかった(表2).

Ⅶ. 考察

1. 介入プログラムへの参加状況

多職種を対象とした介入研究では,医師の継続的な参加が困難だったことが報告されている(Ginsburg & Bain, 2017).本研究も同様に異なる職種を対象としたことから,病棟の勤務シフト作成前に日程調整や周知を行い,1回当たり約60分で開催することで多くのスタッフが参加できる環境を整えた.しかしながら,職員配置数に対するプログラム参加者の割合では,看護職者の参加が少ない病棟があった.この要因として介入プログラムに興味を抱かなかった者が参加しなかった可能性がある.また今回は研究の手続きとして看護職者と補助者には研究説明文書と介入プログラムの案内チラシによる周知のみであり,プログラム参加への動機付けが十分でなかった可能性がある.今後は病棟スタッフ全員に対して事前に介入プログラムの意図や内容の説明が必要であると考えられる.

2. 看護職者の補助者役割認識およびTAASの変化

看護職者の補助者役割認識のうち「ケアを通じて患者の力を引き出す」「一員としてネットワークを築く」「チームの患者情報を豊かにする」では,介入前より介入直後の得点が有意に高くなっていた.このことから,介入アプローチポイントの一つとして看護職者の補助者役割認識に作用する可能性が考えられる.一方で,介入前と介入一か月後の得点に有意な差は見られておらず,補助者役割認識については一時的な効果に留まる可能性も否定できない.

介入プログラムでは,看護職者は「看護職者と補助者が共有している補助者役割」の窓⦅図2(A)⦆が拡張し,「補助者のみが認識している補助者役割」の窓⦅図2(C)⦆が縮小することを目指した.このことは介入プログラムに参加することで看護職者がこれまで認識していなかった補助者自身の役割認識を新たに認識するようになること意味する.多職種を対象とした介入研究では,職種間の協働やコミュニケーションの優先順位が他の仕事と比べて低いことが介入の妨げとなっていたことが報告されている(Rice et al., 2010).本研究において,介入直後に高まった看護職者の補助者役割認識を維持するには,補助者がどのようなことに配慮しながら患者と関わり,どのような想いや意図をもってケアを提供しているか日常業務を基に看護職者が知る努力を継続すること,すなわち看護チームの一員として補助者の役割認識や意見を聞くためのコミュニケーションを継続する必要があると考えられる.

また日本ではガイドライン上,補助者は有資格者の看護師に従属する立場という位置づけにより,受け身の姿勢にならざるを得ないという背景がある(早川,2014).それゆえ,看護職者の仕事において,患者ケアを提供する看護チームのメンバーとして補助者と協働するという意識よりも,業務を指示・委譲する相手という意識が優勢となる可能性が考えられる.さらに,看護の専門性という視点においては,看護職者が能力発揮する必要性から補助者との協働の必要性に気付く機会が乏しいのかもしれない.今後は,介入プログラムに看護職者と補助者の協働の必要性への気付きを促すセッションの追加も必要であると考えられる.

看護職者のTAASのうち所属チームで役割や機能が効果的に運用されているかを示す「チームの機能」で介入1ヶ月後の得点が介入前よりも有意に高くなっていた.職種間協働において相手職種の役割を理解することが不可欠であることは先行研究で指摘されている(Lancaster et al., 2015McKenna et al., 2004).それゆえ,介入プログラムに参加することで,患者をケアする看護チームが機能していると改めて認識できるようになった可能性がある.

3. 補助者への介入プログラムの効果の可能性

本研究では補助者の補助者役割認識の得点およびTAAS得点に介入前後での有意差が見られなかった.この要因として補助者の分析対象者が少ないために統計的な有意差が検出されなかった可能性があるため,今後はサンプル数を増やしてさらなる検証が必要である.国内の先行研究では,補助者は日常的に看護職者と話をすることがほとんどないということが報告されている(結城ら,2013).それゆえ,補助者は介入プログラムに参加することで,看護職者からの役割期待を初めて知る機会となるかもしれない.また,自身の役割を振り返ることで日常業務が患者や病棟にとってどのような意味があるのかを理解する機会になることも期待される.一方で,補助者の役割認識として,看護職者から求められる役割と自身が認識する役割が異なることが明らかとなっている(Saiki et al., 2021).今後はプログラムを通して補助者として役割を担いたいと思えるようになったかなど,補助者自身が認識する役割を評価することも必要である.

本研究では看護チームを想定した補助者のTAAS得点には効果がみられなかった.補助者は看護職者との関係性だけでなく,補助者同士の関係性も重要であると認識している(滝下ら,2019).それゆえ,介入プログラムに参加し補助者間で自身の役割認識を共有することで補助者間の関係性にも肯定的な影響が期待される.介入プログラムの効果を看護職者との看護チームのみならず,補助者からなるチームを含めた多側面から効果評価する必要がある.

4. 本研究の限界

本研究は以下のような限界を含んでいる.第一に,本研究は3施設のみの調査であり研究参加者が少なく,分析対象者が目標サンプル数を満たしていない.第二に,介入プログラムの効果検証として,追跡調査を介入1ヶ月後までしか実施できておらず,短期的な効果しか捉えることができていない.今後はより長期的な効果についても検証する必要がある.第三に,本研究は介入群のみの前後比較デザインである.今後は看護職者と補助者双方のサンプル数を増やし,対照群を設定したランダム化比較デザインによる効果検証が必要である.最後に看護職者のプログラム参加者が少ない病棟があった.シフト勤務を考慮した事前の日程調整と十分な周知を行い,プログラム当日に予定通り参加できるような業務調整も必要であると考えられる.

Ⅷ. 結論

看護職者と補助者が補助者役割の認識を共有し,認識を拡張するための介入プログラムを開発し,3病棟を対象に実施した.介入プログラムに参加した看護職者の補助者役割認識に変化は見られなかったが,看護職者のチームの機能的な運用に対する認識が高まる可能性が示された.補助者については補助者役割認識とチームの機能的な運用に対する認識の変化を捉えることができなかったため,今後サンプル数を増やしてさらなる研究が必要である.

付記:本研究は,東京大学大学院医学系研究科に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものであり,本論文の一部は第24回日本看護管理学会学術集会にて報告した.

謝辞:この研究は,公益財団法人笹川保健財団の助成を受けて実施したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MS,YT,KKは研究の着想およびデザインに貢献;MS,YTは統計解析の実施および草稿の作成;KKは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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