日本看護科学会誌
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原著
膀胱用超音波画像診断装置を用いた膀胱内尿量連続測定による術後尿道カテーテル留置中患者の尿流出状況の実態
北田 裕香大村 優華山上 優紀藤井 誠森脇 芙美宮前 貴文植田 弥里安吉 成瑠美辻本 朋美井上 智子
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2021 年 41 巻 p. 841-849

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Abstract

目的:術後尿道カテーテルを留置している患者の膀胱内尿量を連続測定し尿流出状況の実態を明らかにする.

方法:泌尿器・消化器・内分泌手術後に尿道カテーテルを留置している患者を対象に,手術後から翌朝まで膀胱用超音波画像診断装置を装着し,膀胱内尿量を1分毎に連続測定した.なお膀胱内尿量100 ml以上を「尿流出停滞」と定義した.

結果:患者23名中16名を分析対象とした.そのうち「尿流出停滞」を認めた患者は7名(43.8%)であった.膀胱内尿量最高値は中央値(四分位範囲)78(51, 143)mlで,範囲は34~193 mlであった.尿流出停滞を認めた患者7名の尿流出停滞時間は中央値(四分位範囲)24(2, 48)分で,範囲は2~61分であった.

結論:術後尿道カテーテル留置中患者の半数近く(43.8%)に一時的な尿流出停滞を認め,停滞時の最高膀胱内尿量は193 mlであった.

Translated Abstract

Aim: This study aimed to clarify the actual condition of urine outflow by the continuous measurement of intravesical urine volume in postoperative patients with indwelling urinary catheter.

Methods: This study included patients with temporary indwelling urinary catheters after a urinary, a digestive, or an endocrine surgery. The patients were equipped with an ultrasound bladder scanner, and their intravesical urine volume was measured at 1-min intervals from after the surgery to the next morning. An intravesical urine volume of ≥100 ml was defined as “stagnation of urine outflow.”

Results: Of the 23 patients, 16 were included in the analysis, and seven patients (43.8%) presented with stagnation of urine outflow. The median (interquartile range) of maximum intravesical urine volume was 78 ml (51, 143), with a range of 34–193 ml. The median (interquartile range) of urinary outflow stagnation time was 24 min (2, 48), with a range of 2–61 min, in seven patients with stagnation of urine outflow.

Conclusion: Nearly half (43.8%) of the postoperative patients with indwelling urinary catheter presented with temporary stagnation of urine outflow, and the maximum value of intravesical urine volume during stagnation of urine outflow was 193 ml.

Ⅰ. 緒言

閉鎖式尿道留置カテーテル(以下,尿道カテーテル)は,周術期患者や重症患者,急性尿閉患者などに対して,尿路の確保や正確な尿量測定等を目的として医療現場で広く使用されている.尿道カテーテル留置中は尿路の確保はもちろんのこと,尿路感染予防や尿量測定の観点からも,膀胱内に尿が停滞することなくスムーズに流出されるよう適切な尿道カテーテル管理が求められる.

尿道カテーテルの留置は尿路を確保できる反面,カテーテル挿入による膀胱内への細菌の侵入とカテーテル自体への細菌の定着によりカテーテル関連尿路感染の危険性を高め,細菌尿のリスクは留置日数あたり3~10%で(Garibaldi et al., 1982),30日後には概ね100%となる(Warren et al., 1982).そのため,Centers for Disease Control and Preventionはカテーテル関連尿路感染予防のためのガイドラインを発行し,尿道カテーテル管理技術として,尿の流れを妨げないことを強く推奨している(Carolyn et al., 2009).

手術直後や重症の患者では,時間尿量を測定することで循環血液量や腎機能を評価し輸液量や薬剤を調整するため(吉田,2006),正確な尿量測定を行うことを主目的として尿道カテーテルが留置される.そのため,これらの患者に対しては患者観察の一環として,尿の流出が滞らないように適切に尿道カテーテル管理を行った上で正確な尿量測定を行うことが重要となる.

尿道カテーテル留置中は,尿道カテーテルの屈曲・ねじれ・圧迫などの外部要因,血尿や凝血塊,尿混濁や結石など病態や治療と関連する内部要因(高山・森田,2015近藤,2017),加齢による膀胱機能の低下(野尻ら,2010)などの患者要因により尿流出が滞る可能性がある(成田,2006逢坂・矢尾,2017).不完全な尿流出は膀胱内に尿を停滞させ(Warren, 2001),完全閉塞は膀胱タンポナーデを引き起こし患者に大きな苦痛を与える.従って,医療者は尿道カテーテル留置中の患者に対し,尿道カテーテルの状態や尿性状とともに尿流出状況を常に確認し,必要に応じ尿道カテーテルの圧迫などの外部要因を排除したり,用手ミルキングなどの尿流出を促す手技を行うことで内部要因を排除したりし,尿道カテーテル管理を行っている.

日本の医療施設では,これらの尿道カテーテル管理は看護師に求められることが多く(坂田,2015山辺ら,2019),看護師は尿流出停滞要因を把握した上で患者の状態を踏まえ尿流出状況をアセスメントして対処している.しかしながら,看護師が実施した尿道カテーテル管理とともに尿道カテーテル留置中患者の膀胱内に貯留する尿の有無や量を経時的に観察し,尿流出状況の実態を明らかにした研究はない.

そこで本研究では,膀胱用超音波画像診断装置を用いて尿道カテーテル留置中の術後患者の膀胱内尿量を連続測定することで尿流出状況を明らかにし,看護師による尿流出停滞のない適切な尿道カテーテル管理のあり方を示す一助にしたいと考えた.

Ⅱ. 研究目的

術後尿道カテーテルを留置している患者の膀胱内尿量を連続測定し尿流出状況の実態を明らかにする.

Ⅲ. 用語の定義

1. 膀胱内尿量

尿道カテーテル留置中患者の膀胱内に貯留している尿量とする.膀胱用超音波画像診断装置(リリアム®α-200,以下残尿測定器とする)で測定した値とする.

2. 尿流出停滞

尿流出停滞について具体的な状態の定義はないため,「過活動膀胱診療ガイドライン 第2版」(日本排尿機能学会,2015)で残尿量の治療安全域の上限とされている100 mlという値を参考に,膀胱内尿量が100 ml以上となっている状態を「尿流出停滞」と定義した.

3. 尿流出状況観察

尿道カテーテル内を通って尿が流出してきているかを看護師が観察することをさす.

4. 尿流出を促す手技

尿道カテーテル留置中の患者に対し看護師が尿流出を促す目的で行う手技全般とする.具体的には用手ミルキングや尿バッグの吊り下げ位置を変更する,体位変換を行うなどとする.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

観察研究.

2. 研究期間

2018年4~7月.

3. 研究対象・セッティング

近畿地方にある病床数約300床の地域医療支援病院1施設を研究対象病院とした.研究対象病院にある泌尿器・消化器・内分泌外科混合病棟の1病棟を研究対象病棟とし,対象病棟で術後尿道カテーテルを留置し,手術翌朝まで尿道カテーテル留置とベッド上安静の指示があった患者を研究対象とした.なお,患者はベッド上での自力体位変換は可能であった.除外基準は,下腹部に創がある患者,持続膀胱洗浄実施中患者とした.

対象患者に使用されていた尿道カテーテルは株式会社メディコン製バード®I.C.フォーリートレイBキット内のフォーリーカテーテル,尿バッグはラウンドウロバッグであり,バルーンには滅菌蒸留水10 mlを注入した.

4. 測定項目とデータ収集方法

1) 膀胱内尿量

(1) 残尿測定器(写真1

日本で医療機器認定されており膀胱内尿量の連続測定が可能な残尿測定器であるという特徴から,株式会社リリアム大塚製のリリアム®α-200を1台使用した.この機器は超音波A(Amplitude)モードで測定されるポータブル膀胱用超音波画像診断装置で,本体にコードでつながれた約4 × 3 × 0.7 cmの小型プローブを下腹部に貼付し膀胱内尿量を連続測定した.なお,このリリアム®α-200の測定精度は±(15% + 20 ml)である(株式会社リリアム大塚,2021).

写真1 

(A)ポータブル膀胱用超音波画像診断装置 リリアム®α-200(株式会社リリアム大塚製)

(B)リリアム®α-200のプローブのテープ固定方法(写真は机に貼付した様子を撮影)

(2) 連続測定方法

手術当日17時以降の術後2時間経過後,共同研究者3名のうちの1名がベッド上仰臥位の患者に対し残尿測定器を装着した.装着時,プローブには専用のジェルパッドを貼付,プローブ貼付位置は男性が恥骨上1 cm,女性は0.5 cmを目安に位置決めモードで調整した.位置決定後,テルモ株式会社製のフィクソムル®ストレッチ(5 × 15 cm程度)3枚でプローブを固定(写真1-B),1分毎の定時測定モードに設定し,膀胱内尿量連続測定を開始した.残尿測定器本体はベッド上に置いた状態で測定したが,尿道カテーテル管理への影響を防ぐため測定値は表示させないよう看護師に説明した.測定終了は手術翌朝9時20分もしくは初回離床時とした.結果は総測定時間が8時間以上であった症例を採用した.

2) 尿道カテーテル管理状況

全身麻酔患者に対しては19・21・0・3・6時,腰椎麻酔患者は19・6時にバイタルサインの観察指示が医師よりあった.また,全身麻酔患者は6または8時間毎に時間尿量測定指示があり,腰椎麻酔患者に時間尿量測定指示はなかった.尿流出を促す手技の実施指示はなかった.

看護師には通常の尿道カテーテル管理を行うよう説明し,膀胱内尿量連続測定中の患者に対し実施した尿流出状況観察及び尿流出を促す手技について,実施時間を記録するよう依頼した.

3) 患者情報

患者情報(性別・年齢・身長・体重・現病名・手術内容・麻酔方法・尿道カテーテルサイズ・尿道カテーテル留置日・尿道カテーテル抜去日・尿性状・術後尿路感染の有無)については電子カルテから情報収集した.なお,尿路感染は主治医が尿路感染と診断した患者とした.

5. データ分析方法

測定した膀胱内尿量と看護師による尿流出状況観察回数,尿流出を促す手技回数について記述統計を行った.血尿は寺井・北(2008)の血尿スケールを基準にして,スケールは1~5,血尿無しは0で表した.

Ⅴ. 倫理的配慮

本研究は,大阪大学医学部附属病院倫理審査委員会及び大阪府済生会千里病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号17253,291105).研究説明は術前に文書と口頭で行い,研究参加は自由意思によること,同意後や研究開始後であっても研究参加の中止はいつでも可能であること,匿名化後データを公表することについて説明し,同意が得られた場合は同意書に署名していただいた.また研究不参加により看護や医療の不利益を被ることは一切ないことを伝えた.取得した個人情報及び測定データは匿名化し個人が特定されないように配慮した.

Ⅵ. 結果

1. 患者属性(表1

研究説明を患者23名に実施し,全患者から同意取得した.術直後の尿道カテーテル抜去1名,残尿測定器の装着忘れ1名,残尿測定器の操作間違いによる未測定2名,残尿測定器の電池切れにより測定時間8時間未満1名,術後持続膀胱洗浄実施1名,術後気分不良にて研究参加中止1名の合計7名を除いた16名を分析対象とした.

表1  対象患者16名の患者属性と膀胱内尿量連続測定,尿道カテーテル管理状況の結果
No. 性別 年齢(歳) BMI(kg/m2 手術内容 麻酔方法 尿道カテーテル 血尿スケール 尿路感染 膀胱内尿量 尿流出状況観察回数(回) 尿流出を促す手技回数(回)
サイズ(Fr) 留置期間(日) 測定時間(分) 100 ml以上時間(分) 最高値(ml)
尿流出停滞を認めなかった患者 1 女性 65 21.6 腹腔鏡下胆嚢摘出術 全身麻酔 14 1 0 922 0 34 8 8
2 男性 52 23.3 腹腔鏡下胆嚢摘出術 全身麻酔 14 1 0 796 0 41 4 2
3 男性 68 24.5 腹腔鏡下胆嚢摘出術 全身麻酔 14 1 1 861 0 49 2 2
4 男性 82 23.5 経尿道的膀胱腫瘍切除術 腰椎麻酔 20 2 2 831 0 50 10 9
5 男性 69 26.1 経尿道的膀胱腫瘍切除術 腰椎麻酔 20 1 1 826 0 53 9 5
6 男性 70 26.2 経尿道的膀胱腫瘍切除術 腰椎麻酔 16 1 2 911 0 57 2 2
7 男性 63 26.1 腹腔鏡下腎摘除術 全身麻酔 14 5 0 981 0 67 10 9
8 女性 71 27.9 腹腔鏡下胆嚢摘出術 全身麻酔 14 1 0 997 0 67 7 7
9 男性 75 25.1 腹腔鏡下胆嚢摘出術 全身麻酔 14 1 0 734 0 88 3 3
尿流出停滞を認めた患者 10 男性 63 21.8 腹腔内腫瘍摘出術 全身麻酔 14 1 0 990 2 107 9 9
11 女性 37 20.3 甲状腺片葉切除術 全身麻酔 14 1 0 830 7 110 6 4
12 男性 62 19.9 腹腔鏡下腎摘除術 全身麻酔 14 1 0 836 2 120 7 6
13 女性 74 23.7 腹腔鏡下胆嚢摘出術 全身麻酔 14 1 0 986 61 151 4 1
14 男性 69 22.1 肝腫瘍切除術 全身麻酔 14 3 0 881 24 164 5 2
15 女性 78 19.0 腹腔鏡下腎尿管全摘術 全身麻酔 18 7 0 761 27 183 4 3
16 男性 70 18.6 肝腫瘍切除術 全身麻酔 14 1 0 861 48 193 8 8

※尿流出停滞とは,膀胱内尿量が100 ml以上となっている状態と定義した. 膀胱内尿量測定時間,膀胱内尿量100 ml以上時間,膀胱内尿量最高値は,すべて膀胱用超音波画像診断装置リリアム®α-200を使用し膀胱内尿量連続測定した結果を示した.

尿流出状況観察回数,尿流出を促す手技回数は,膀胱内尿量測定中の患者に対し,看護師が実施した回数を示した.

患者は男性11名(68.8%),年齢は中央値(四分位範囲)69.0(63.0, 73.3)歳,BMIは中央値(四分位範囲)23.4(20.6, 25.8)kg/m2であった.手術内容は,泌尿器系6名(37.5%)(内訳は経尿道的膀胱腫瘍切除術3名,腹腔鏡下腎摘除術2名,腹腔鏡下腎尿管全摘術1名),消化器系9名(56.3%)(内訳は腹腔鏡下胆嚢摘出術6名,肝腫瘍切除術2名,腹腔内腫瘍摘出術1名),内分泌系1名(6.3%)(内訳は甲状腺片葉切除術),麻酔方法は全身麻酔13名(81.3%),腰椎麻酔3名(18.8%)であった.尿道カテーテルは全患者が手術中に留置され,カテーテルサイズは14Fr 12名(75.0%),16Fr 1名(6.3%),18Fr 1名(6.3%),20Fr 2名(12.5%)であった.血尿を認めた患者は4名(25.0%)でその血尿スケールは1~2の範囲であった.尿混濁を認めた患者は0名(0.0%)であった.術後尿路感染を発症した患者は1名(6.3%)であった.

2. 対象患者の膀胱内尿量連続測定(図1

対象患者16名の膀胱内尿量連続測定結果を図1に示す.測定中,膀胱内尿量が常に0~99 mlであり尿流出停滞を認めなかった患者は9名(56.3%),膀胱内尿量が一時的に100 ml以上となり尿流出停滞を認めた患者は7名(43.8%)であった.膀胱内尿量最高値の中央値(四分位範囲)は78(51, 143)ml,範囲は最小値34 ml,最大値193 mlであった.

図1-a 

膀胱内尿量連続測定中,膀胱内尿量が常に0~99 mlであり尿流出停滞を認めなかった患者8症例の膀胱内尿量の推移(グラフ内の↑は,看護師が尿流出を促す手技を実施した箇所を示す)

図1-b 

膀胱内尿量連続測定中,膀胱内尿量が常に0~99 mlであり尿流出停滞を認めなかった患者1症例(患者9)と,膀胱内尿量が100 ml以上貯留し尿流出停滞を認めた患者7症例(患者10~16)の膀胱内尿量の推移(グラフ内の↑は,看護師が尿流出を促す手技を実施した箇所を示す)


3. 看護師による尿道カテーテル管理(表1)(図1

看護師が対象患者に実施した,尿流出状況観察回数と尿流出を促す手技回数は表1に,尿流出を促す手技を実際に実施したタイミングについては図1のグラフ内に矢印で示した.看護師が行った尿流出状況観察の実施回数の中央値(四分位範囲)は6.5(4.0, 8.8)回であり,患者1名に対し平均2時間21分間隔で観察を実施していた.尿流出を促す手技の実施回数の中央値(四分位範囲)は4.5(2.0, 8.0)回であり,患者1名に対し平均2時間52分間隔で実施していた.尿流出を促す手技は全患者に対し合計80回実施されており,そのうちバイタルサイン測定時での実施は39回(48.8%),時間尿量測定時での実施は20回(25.0%)(うち8回は同時のタイミング)であった.

4. 尿流出停滞を認めた患者7名の属性と測定結果(表1

尿流出停滞を認めた患者7名の属性について着目すると,男性4名(57.1%),年齢の中央値(四分位範囲)は69(62, 74)歳,BMIの中央値(四分位範囲)は20.3(19.0, 22.1)kg/m2であった.手術内容は,泌尿器系2名(28.6%),消化器系4名(57.1%),内分泌系1名(14.3%),麻酔方法は7名全員が全身麻酔であった.7名全員血尿は認められず,術後尿路感染を発症した患者は1名(14.3%)であった.

膀胱内尿量が100 ml以上であった尿流出停滞時間の中央値(四分位範囲)は24(2, 48)分,範囲は最小値2分,最大値61分であった.尿流出を促す手技の実施回数の中央値(四分位範囲)は4.0(2.0, 8.0)回であり,患者1名に対し平均3時間6分間隔で実施していた.

Ⅶ. 考察

1. 尿流出状況の実態

本研究では臨床現場において術後尿道カテーテル留置中患者の尿流出状況の実態を明らかにするために,残尿測定器を用いて膀胱内尿量の推移を経時的に測定した.

尿道カテーテル留置中の術後患者16名の膀胱内尿量連続測定結果では,本研究で定義した膀胱内尿量が一時的に100 ml以上となる尿流出停滞患者は7名であり,術後尿道カテーテル留置中患者の半数近くで一時的な尿流出停滞が起こっている実態が明らかとなった.これは,尿道カテーテル留置中は尿流出が不完全なため膀胱内に尿が残ることがある(Warren, 2001)との記述を,残尿測定器を用いて測定した膀胱内尿量という客観的データにより裏付けることができたと考える.

また,測定された最高膀胱内尿量は193 mlであり,尿道カテーテル留置中でも尿流出が停滞した場合は膀胱内に尿が200 ml近く貯留することが明らかとなった.これは,看護師が測定する尿バッグ内の観察尿量が尿流出停滞時は200 ml近くも真の尿量から乖離してしまう可能性があることを示すデータであると考える.

2. 看護師による尿道カテーテル管理と尿流出停滞の関係

次に,看護師による尿道カテーテル管理と尿流出停滞の関係について考察する.看護師による尿流出を促す手技の実施回数は,患者によって回数の差はみられたが,平均で約3時間弱ごとに実施されていた.尿流出停滞を認めた患者に対しても,看護師による尿流出を促す手技は平均で約3時間強ごとに実施されていたが,16名中7名は尿流出停滞を認めた.その理由として,手技実施のタイミングがバイタルサイン測定時と時間尿量測定時の定時訪室時であることが多く,尿貯留と手技実施のタイミングに差が生じたことにより尿流出停滞を予防できなかったと考えられる.そのため,今後は尿流出停滞を予防可能な尿流出を促す手技の実施間隔について,残尿測定器を使用しさらに検証していく必要がある.

3. 尿流出停滞を認めた患者の特徴

次に,本研究で尿流出停滞を認めた患者の特徴について考察する.尿流出を停滞させる要因の中で最も注意すべきものの一つとして血尿や凝血塊が知られている(成田,2006横山ら,2013).しかし,本研究では血尿を認めた患者4名に尿流出停滞は認めず,逆に尿流出停滞を認めた患者7名は血尿を認めなかったという特徴がみられた.これは,血尿を認める患者でも必ずしも尿流出停滞が起こるわけではないということ,また血尿を認めない患者でも尿流出停滞が起こる可能性があるということを意味するデータであると考える.血尿は比較的容易に観察可能であり,血尿を認める患者は尿流出停滞高リスク患者であると判断しより慎重に尿道カテーテル管理を行える一方,血尿を認めない患者は尿流出停滞低リスク患者と判断してしまうことも多い.尿道カテーテル留置中は全ての患者に尿流出停滞が起こり得ることを念頭に置き看護を行うことが重要である.

4. 尿流出停滞が尿路感染に及ぼす影響

尿流出停滞が尿路感染に及ぼす影響についても考察する.本研究の対象患者のうち術後尿路感染を発症した患者は1名であり,膀胱内尿量は最高で183 mlの貯留を認めた患者であった.これまで,自排尿可能な患者の残尿量が多いと尿路感染の危険性が高まり,残尿量が148 ml以上の患者は有意に尿路感染発症率が高い(吉野ら,2000)ということは明らかになっていたが,尿道カテーテル留置中患者の膀胱内尿貯留量と尿路感染との関連は明らかになっていなかった.本研究は,膀胱内尿貯留量が多い場合も同様に尿路感染の危険性を高める可能性があるという1例のデータを提供した.今後も引き続き膀胱内尿量と尿路感染との関連について調査し,尿道カテーテル留置中患者に対する有効な尿路感染対策を検討していく.

5. 看護師による尿道カテーテル管理についての臨床への示唆

最後に,今回の実態調査により得られた結果から看護師による尿道カテーテル管理について臨床への示唆を考察する.本研究の対象患者は尿流出停滞が低リスクと考えられる正常尿の消化器・内分泌手術後患者も含め,半数近くの患者に一時的な尿流出停滞が生じていた.このことから,看護師は尿道カテーテル留置中の患者に対しては,尿流出停滞リスクの高低に関わらず,常に尿流出停滞が起こる可能性があることを念頭に置いて尿道カテーテル管理を行うことが重要である.

残尿測定器による膀胱内尿量連続測定を実施した状態で尿道カテーテル管理を実施できれば,看護師は膀胱内尿量という客観的データに基づき尿流出状況を可視化でき,尿流出停滞を早期発見することで速やかに患者に対して尿流出を促す手技の実施が可能となる.具体的には,バイタルサイン測定時間などの定時訪室時に加えて,残尿測定器が示す膀胱内尿量の確認と尿道カテーテル観察をより頻回に行うことで,膀胱内尿量が100 ml以上とならないようなタイミングで尿流出を促す手技を実施することが可能となる.このことは,特に尿流出停滞による悪影響が大きいと考えられる,正確な尿量測定が必要な手術直後や重症の患者や尿路感染発症を未然に防ぐ必要のある免疫抑制中の患者や高齢患者などに対し,尿流出停滞を従来以上により少ない状態に保つことで,患者の状態把握や異常の早期発見,尿路感染予防につながり,効果的な尿道カテーテル管理が実現できるようになると考える.

Ⅷ. 研究の限界

本研究結果は,術後尿道カテーテル留置中患者の膀胱内尿量の推移について示す初めてのデータとなると考えるが,以下3つの点で限界もある.

一つ目は研究対象者数についてである.本研究は臨床現場で行った研究であり,実施場所や対象者選定において限界があった.そのため分析可能対象患者は1病棟16名と少数であり,本研究結果を一般化することはできない.

二つ目は膀胱内尿量連続測定値に誤差が生じる可能性がある点である.本研究で使用したリリアム®α-200の測定精度は±(15% + 20 ml)であるが,上記以上の誤差を認めたとの報告(Kamei et al., 2019Yamaguchi et al., 2021)もある.しかし,術直後に下腹部を露出させる必要がある単回測定を頻回に実施することは患者・看護師両者に負担が大きく,貼付型の連続測定が可能な機器を用いることが最善の方法であると考えた.そこで本研究では,この条件に合致し研究開始時に購入可能な唯一の機器であったリリアム®α-200を採用し,貼付者を共同研究者3名に限定することで正確な測定部位に貼付しデータの均質性が保持できるよう努めた.また,リリアム®α-200は医療機器認定を受けており,前述のような測定誤差報告はあるものの一定の信頼性は担保されていると考える.一方で,リリアム®α-200の測定適正姿勢は仰臥位・座位であるが,患者はベッド上での自力体位変換が可能であり側臥位時は測定値に誤差が生じていた可能性は否定できない.そのため,今後は患者の姿勢を把握した上で膀胱内尿量連続測定を実施するなど工夫が必要であると考える.

三つ目は尿道カテーテルの屈曲や圧迫などによる尿流出停滞の可能性があるが,本研究ではそれら外部要因の情報収集を実施しておらず発生の有無は不明であり,その点について検討できていないことである.

Ⅸ. 結論

泌尿器・消化器・内分泌手術後に尿道カテーテルを留置している患者16名に対し,膀胱用超音波画像診断装置を用いて膀胱内尿量を連続測定した結果,

1.対象患者の7名(43.8%)は膀胱内尿量が100 ml以上となり,一時的な尿流出停滞を認めた.

2.対象患者中の最高膀胱内尿量は193 mlであり,尿流出停滞時は膀胱内に200 ml近くの尿貯留を認めた.

付記:本論文の内容の一部は,第22回East Asian Forum of Nursing Scholarsにおいて発表した.本論文は大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご理解いただき,快く研究にご協力いただきました対象患者と対象病院の看護師のみなさまに心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YK,YO,YY,MF,FM,TM,MU,NYは研究の着想およびデザイン,データ収集,結果の分析と解釈,原稿の作成を行った.TT,TIは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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