2021 年 41 巻 p. 857-865
目的:本研究の目的は,主任看護師が昇進を通してどのように役割を移行していくのかを明らかにすることである.
方法:8名の主任看護師を対象に半構造的面接を行い,データは修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.
結果:プロセスは,昇進前の経験に影響を受けて2つに分かれ,一つは主体的,もう一つは消極的であった.前者は,【いずれ管理者になることを決心する】【“主任看護師としての私”を自分とスタッフの両方が認識する】【師長とスタッフの考えをつなぐ方法を探る】,俯瞰して考えることで【立場を活かして組織と個人をつなぐ】であった.後者は,【なんとなく道が決まる】【師長の仕事を助ける】であった.プロセスの特徴は,循環する,引き戻ることであった.
考察:主任看護師の役割移行に必要なことは,移行に特化した支援,役割を通して学び続けられる支援である.また,役割経験を通して新たな知見を広げる姿勢をスタッフの時期から育んでいく必要性も示唆された.
Purpose: The purpose of this study is to explore how mid-level nurses shift their roles through promotion from those of team leader nurses to those of chief nurses.
Method: Semi-structural interviews were conducted with eight chief nurses and obtained data was analyzed by a modified grounded theory approach.
Results: The process was two-fold, influenced by the experience before promotion: one is an active process and the other is a passive process. The former consisted of four stages: 1) Decision to become a nurse manager eventually, 2) Recognition of “I as the chief nurse” by both a nurse him/herself and his/her staff nurses, 3) Searching for ways to connect the thoughts of nurse managers and those of staff nurses, and 4) Thinking from a bird’s point of view and learning to connect organizations and individuals by taking advantage of their position as chief. The latter consisted of two stages: 1) Being passively promoted, and 2) Helping the nurse manager’s work, following instructions. The characteristics of those processes were circulation and pullback: nurses in the active process went back and forth between the four stages according to environmental changes, while those in the passive process were pulled back even if they wanted and tried to go into the active process.
Discussion: The following things are needed to shift the role: a support focused on the transition of roles and a system which enables nurses to continue learning through roles.The study also suggested that nurses should learn to expand new knowledge through role experience before promotion.
日本の医療施設では,在院日数の短縮化,地域包括ケアシステムの構築が促進されている.それに伴って,看護管理者は,重度の患者ケアの質の担保とともに,看護職の人材確保が要請されるため,師長の管理者としての負担が増大している.そのため,病棟では,看護師長とそれを補佐し現場の中心的立場にある主任看護師との協働が必要不可欠である.
主任看護師は役割について,「師長とスタッフをつなぐ」,「現場を仕切る」,「働きやすい環境調整」,「看護師としての専門職業人をつくる」と多岐に捉えている(寺岡,2011;岡村ら,2017).主任看護師によっては,昇進をチャンス,認められたというポジティブな思いを抱いている(岡村ら,2017).他方では,役割を担うことへの自信のなさや不安,必要とされる力の思案,自分の力量への不安,選任されたことへの疑問を感じている(岡村ら,2017).また,主任看護師は,多様な役割を求められることへのストレス(中山・香月,2015),師長の裁量と考えによって決まる不明確な役割に負担を感じている(林,2009;本間ら,2003).さらに,意思決定の場面では,スタッフ看護師と看護管理者のどちらの立場も理解できるため,異なる意見に挟まれることによる葛藤などのネガティブな思いを抱いている(林,2009;本間ら,2003).
日本看護協会の業務基準では,看護管理者に対して最適な看護の判断ができ,看護実践に精通し,看護管理の知識,技能を求めている(日本看護協会,2016).しかし,職位に特化した役割は示されていない.主任看護師は,管理者代行の役割も求められる立場であり,それまでの看護師経験とは大きく異なる状況に置かれる.主任看護師への準備教育は,認定管理者教育課程ファーストレベルが適応するが,昇進後に受講する者が多い(平田,2013).主任看護師によっては,十分な準備なく,役割を担う状況にあることが考えられる.
主任看護師昇進の時期は,キャリア中期と重なることが考えられる.キャリア中期は,これまでの自分の人生を再評価して,その後の人生に向けて自己イメージを再認識する時期にある(Schein, 1978/1991).人生の移行期の対処には,人生の変化にともなう終わりに目を向け,新たな始まりまでの間に内面の再方向付けを行い,自分自身の再定義をして気持ちを統合させていく時期が必要である(Bridges, 2004/2014).主任看護師への昇進は,職位と同時に新たな役割を付与され,看護師として働き続ける中でスタッフ看護師から看護管理者に移行するキャリアの転換期と捉えることができる.看護管理者の教育は,日本看護協会による認定看護管理者制度に基づき実施され,師長への移行に関する研究は多く報告されている(山本,2011;東堤ら,2012;水野,2013;吉川ら,2008).先行研究では,管理者に主任看護師を含めるもの含めないものがあり,主任看護師の立ち位置の曖昧さがある.しかし,主任看護師が,難しい状況の中でどのように役割を獲得していくのかを探求している文献は少ない.
そこで,本研究では,主任看護師が昇進を引き受けてどのように変化しながら役割を移行していくのかを明らかにすることを目的とする.結果は,役割移行を経験する主任看護師への理解,主任看護師への教育に関する資料となる.
主任看護師:副師長,主任,係長など呼び名はさまざまであるが,看護単位において師長の次の職位にある看護職のこと
キャリア中期:おおよそ35歳~45歳で,ライフサイクルにおいても,キャリアサイクルにおいても人生半分の自分の歩みを再評価する時期のこと
役割移行:役割の変化にともなって生じる課題を受け入れ,役割への期待に応えながら行動を変化させ,新しい役割に順応していく過程のこと
公益財団法人日本医療機能評価機構の認定病院(2019年3月1時点)のうち,東京23区に所在する一般病院かつ500床以上の25施設に依頼した.承諾が得られた6施設に勤務し,昇進時の年齢が35~45歳,昇進して3年以上の主任看護師20名に依頼した.研究協力の意思表示があり,文書にて説明の上,同意を得られた者とした.昇進して3年以上とした理由は,看護師長の役割取得に関する研究において,昇進後約2年の時点で役割獲得できていなかったこと(東堤ら,2012),主任看護師は,昇進の準備が少なく個人差が予測されるためである.また,師長昇進前まで広く調査するため上限は設けなかった.
2. データ収集期間2019年6月~2019年10月
3. データ収集方法データ収集は,研究者が作成したインタビューガイドに基づく半構造的面接によって行った.面接内容は,ICレコーダーに録音と面接中の研究協力者のキーコメントおよび様子をメモに残した.面接には,事前に主任看護師昇進時の年齢,任務期間,所属する部署の特性やメンバー構成,主任看護師になるための学習機会について質問票の記入を依頼した.インタビューガイドには,以下の10の質問を準備した.
1)主任看護師はどのような役割であると思っていますか
2)主任看護師への昇進を任命されたときはどのように思いましたか
3)主任看護師になる前となった後では,何か変化はありましたか
4)主任看護師になって印象に残っているエピソードをお聞かせ頂けますか
5)印象に残っているエピソードによって何か変わったことはありましたか
6)スタッフや師長との間でうまくいかなかったエピソードをお聞かせ頂けますか
7)うまくいかなかったことをどのように対処しましたか
8)主任看護師を辞めたいと思ったことはありますか
9)主任看護師だからこそできると思うことはありますか
10)主任看護師としてこれからどのようなことを目指していこうと思いますか
4. データ分析方法データ分析は,半構造的面接によって得られた研究協力者の語りを,木下(2003,2007)の修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチは,社会的相互作用に関係し人間行動の説明と予測することに優れていることから,ヒューマン領域や研究対象とする現象がプロセス性をもっている研究に適している(木下,2003,2007).本研究の焦点は,主任看護師の役割移行であり,個人の体験における多くの要素が複雑に関連することが予測されるため,適していると判断した.研究協力者の語りは,録音した内容から逐語録を作成した.分析は,分析テーマと分析焦点者の視点に関連した箇所に注目して,概念の抽出,再考を繰り返した.概念間の論理的な関連性をたどりながらカテゴリーを生成した.構成する概念とカテゴリー相互の関連性を比較検討しながら関係図で表し,論理的体系化した.継続的比較分析によって新たな重要な概念が出ないこと,新たなデータが取集されないことから理論的飽和化したと判断した.分析結果は,概念とカテゴリー相互の関連性を結果図で示し,ストーリーラインを作成した.データおよび分析は,研究協力者の語りを歪めない,恣意的な解釈とならないように,東京女子医科大学大学院看護学研究科のメンバーと議論を重ね,質的研究を熟知する研究者よりスーパーバイズを受けることで真実性を確保した.
5. 倫理的配慮研究協力者の募集は,対象施設を介して行ったため,同意に影響を及ぼさないよう研究者が研究協力者の意思表示を直接受けた.研究概要は,研究同意説明文と口頭で十分に説明し,研究協力または撤回は本人の自由意思であること,参加しないことによる不利益は生じないことの説明を行い,同意書に署名を得た.面接では,プライバシーへの配慮,録音することの説明と同意を得た.面接で得た情報は,研究協力者と無関係の番号と対応表で管理の上,研究協力者の秘密保護に十分配慮した.研究結果は,匿名化を確認して記載した.本研究は,東京女子医科大学倫理委員会にて承認を得た.(承認番号:5162)
研究協力者は,男性1名,女性7名の8名であった.任務年数は,3年から9年,対象者全員が昇進前に何らかの役割を担い,昇進と同時に部署異動した者が2名,昇進前教育を受けた者が2名であった.
| 協力者 | 職位名 | 昇進前の役割 | 部署異動 | 昇進前教育 | 昇進後教育 | 任務年数 | 昇進年齢 | 性別 | インタビュー時間 | その他 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 副師長 | 主任 | あり | なし | なし | 3年 | 41歳 | 女 | 85分 | |
| B | 副師長 | 主任 | あり | ファーストレベル 院内研修 |
なし | 4年 | 38歳 | 女 | 86分 | |
| C | 主任看護師 | 教育担当(部署) | なし | なし | ファーストレベル セカンドレベル |
8年 | 36歳 | 男 | 67分 | |
| D | 主任看護師 | 教育担当(部署) | なし | なし | 院内研修 | 6年 | 39歳 | 女 | 82分 | CN |
| E | 主任看護師 | 教育担当(部署) | なし | なし | 院内研修 | 3年 | 38歳 | 女 | 101分 | |
| F | 主任看護師 | 教育担当(部署) | なし | なし | なし | 9年 | 38歳 | 女 | 65分 | |
| G | 主任看護師 | 副主任/教育担当(部署) | なし | 院内研修 | ファーストレベル | 5年 | 38歳 | 女 | 58分 | |
| H | 主任看護師 | 教育担当(部署) | なし | なし | 院内研修 | 3年 | 42歳 | 女 | 58分 | CN |
| 平均 | 5.1年 | 38.7歳 | ||||||||
※主任(副主任)は,副師長(主任)を補佐し,チーム,係のリーダーを担っている.教育担当(部署)は,新人看護師教育および学生指導,チーム,係りのリーダーを担っている.
※「CN」は,認定看護師の役割も担っている.
※ファーストレベル,セカンドレベルとは,認定看護管理者教育課程ファーストレベル,認定看護管理者教育課程セカンドレベルのこと.
主任看護師が役割を移行するプロセスは,23個の概念と6個のカテゴリーから構成されていた.分析のはじまりは,管理者になることを考えはじめたとき,分析の終わりは,主任看護師が役割の変化に伴う課題に対応して役割を担うことであった.概念とカテゴリーの関係性は,結果図(図1)及びストーリーラインで示す.カテゴリーは【 】,概念は〈 〉で表す.

主任看護師が役割を移行するプロセス
プロセスは,昇進前の経験に影響を受けてはじまりから2つに分かれ,一つは主体的,もう一つは消極的であった.一つのプロセスは,昇進前に【いずれ管理者になることを決心する】であった.昇進直後は,〈今までと同じではいけない〉〈主任看護師として認められる〉ことを意識し,スタッフの相談から〈自分の立場でできることに目を向ける〉ことで【“主任看護師としての私”を自分とスタッフの両方が認識する】であった.その後は,〈現場の声から課題の根を掘り起こす〉〈発信の意図をつなぐ〉〈役割に手応えを感じる〉ことで【師長とスタッフの考えをつなぐ方法を探る】であった.〈俯瞰から発見する〉〈自分の殻を破る〉ことは,視点を変え【立場を活かして組織と個人をつなぐ】となった.つなぎ方は,〈師長との相互理解から戦略的な行動を生む〉〈一人ひとりに気を配る〉〈立場や職種の違う人々の考えを浸透させていく〉〈管理者のイメージを変えていく〉であった.ただし,師長あるいは部署を変わる場合は,新たな役割が求められ【師長とスタッフの考えをつなぐ方法を探る】へ循環された.
もう一つのプロセスは,昇進の打診を機に【なんとなく道が決まる】であった.昇進直後は,役割を師長の代行と捉え,師長はこうあるべきという見方に引き寄せられて〈師長の考えが行動の起点となる〉であった.その後は,師長とのコミュニケーションが十分に図れずに,悩みながら〈決められたことを過不足なく行う〉となった.師長あるいは部署を変わることで〈違和感に気づくが変えられない〉場合は,その場に留まった.しかし,違和感をどうにかしなければと変化が起きればもう一方のプロセスへ進み,自分の役割と捉えない場合は,【師長の仕事を助ける】へ引き戻っていた.
3. 二つのプロセスを構成するカテゴリーおよび概念の説明カテゴリーを【 】,概念を〈 〉,語りは斜字で記述している.語りの末尾には,協力者を《 》内に記号で示し,文脈を補足する言葉を( )で加筆している.
1) 【いずれ管理者になることを決心する】研究協力者は,役割の魅力を感じていないが,チームリーダーとして管理に参加することが〈管理をするイメージが湧く〉経験となり,昇進前教育は〈大切にしたいことが定まる〉機会となった.管理者から役割期待を受け,戸惑いを家族や管理者に話し,〈チャンスと捉えて昇進を引き受ける〉と語っていた.
(1) 〈管理をするイメージが湧く〉昇進前の役割を通して,役割に伴う責任,物事を動かすイメージが湧くことを意味する.(係で提案したことが)みんなに浸透できたことが嬉しかったんですね,(師長は)みんなが働きやすいように修正していくとか,…中略…管理者の仕事みたいなのはこういう事なのかなって思ったんですよね.《E7》
(2) 〈大切にしたいことが定まる〉自分の看護の原点に戻って,立場を得る上で自分なりに大切にしたいことが定まることを意味する.(研修を受講して)看護師ってすごくないって思ったんですよね.そういう気持ちをスタッフも持てたら,…中略…楽しく働けるんじゃないかなっていうベースができた.《B11-12》
(3) 〈チャンスと捉えて昇進を引き受ける〉ライフステージの変化に伴う課題と管理者という立場のメリット,デメリットと向き合い,昇進をチャンスと捉えて引き受けることを意味する.(子育て経験のある副部長が)私の経験はねって話してくださって.自分の中で一番引っかかっていたことはその辺だったので,じゃあ,いっか,そういってもらってるし.ここでならなかったら次のチャンスはないのかなと.《B1-2》
2) 【“主任看護師としての私”を自分とスタッフの両方が認識する】研究協力者は,異動の有無に関係なく,〈今までと同じではいけない〉ことを感じていた.〈主任看護師として認められる〉基盤として,部署特有の看護を身につけ,〈自分の立場でできることに目を向ける〉ことを語っていた.
(1) 〈今までと同じではいけない〉古い立場での言動のまま新しい立場を得ることの影響を想像して今までと同じではいけないと意識することを意味する.今までは(自分が)言いたい時だけ言って,嫌な時には言わないみたいなことで済んでいたことも,今は良いことも嫌なことも状況に応じて言っていかなければいけない.《G1》
(2) 〈主任看護師として認められる〉意見を伝えてもよい相手,主任看護師としてスタッフに認められる行動をとることを意味する.ある程度の実践力がないとスタッフも認めてくれない部分ってあると思いますし,そういう部分で意見交換ができるようにならないと,副師長でございますって言えない.《B10》
(3) 〈自分の立場でできることに目を向ける〉師長を動かすことよりも主任として自分ができることに目を向けることを意味する.(最初は)師長に働きかける部分が大きかったんですけど,なかなかうまくいかなくて.《B8》
3) 【師長とスタッフの考えをつなぐ方法を探る】研究協力者は,〈現場の声から課題の根を掘り起こす〉〈発信の意図をつなぐ〉ことを繰り返し,〈役割に手応えを感じる〉ことで役割の必要性を認識していた.〈俯瞰から発見する〉ことは,実践の中で師長の問いに導かれていた.
(1) 〈現場の声から課題の根を掘り起こす〉働きやすい環境を整えていくために,スタッフのあらゆる声を聴くことで,課題の根を掘り起こすことを意味する.言いたいことの根本,大元は何なのかという所を自分なりに掘り下げて,…中略…師長に返すようにします.《H2》
(2) 〈発信の意図をつなぐ〉組織,師長の発信の意図,意味をスタッフが納得できるように情報を取捨選択しながらつなぐことを意味する.師長がやろうとしていることをかみ砕いて伝える,スタッフが納得できるように伝える.《B9》
(3) 〈役割に手応えを感じる〉師長やスタッフとの間で考え行動した結果,うまくいったときに役割に手応えを感じることを意味する.スタッフの中に副師長というのがいるのも大事な構図なのかなと最近,肌で感じています.《B12》
(4) 〈俯瞰から発見する〉組織全体と個人の実践,さらに自分自身を俯瞰して,主任看護師に求められている思考,行動が理解できるようになることを意味する.(副部長に)病院全体で,うちの病院を選んでくれた人,治療したいと思ってくれた人を受け入れるために,できないではなくてできるようにするには主任として何をすべきなのって言われた時に,そういう見方に変えなきゃいけないんだなって,そういう見方だって思いました.《G4-5》
4) 【立場を活かして組織と個人をつなぐ】研究協力者は,役割を「橋渡し」「つなぐ」「クッション」と表現していた.〈自分の皮を破る〉ことで,役割が明確化した.個人と組織の両方に視点を向けて,〈師長との相互理解から戦略的な行動を生む〉〈立場や職種の違う人々の考えを浸透させていく〉〈一人ひとりに気を配る〉〈師長は最終権限,考えの主体はみんな〉〈社会の変化を捉えて柔軟に役割を担う〉〈管理者のイメージを変えていく〉行動をしていた.
(1) 〈自分の皮を破る〉組織は1人では動かせない,自分の考え,やり方がすべてではないことを認めることを意味する.私は今までこういう風にしかやってきていないし,私のやり方はこれで終わっちゃうとそれまでの病棟で終わっちゃうかな.《G10》
(2) 〈師長との相互理解から戦略的な行動を生む〉師長とは考え,見方が違うからこそ組織と個人が切れないようにコミュニケーションを図って,状況に合わせて周囲を巻き込み,師長と協動することを意味する.本当に必要な情報を自分の中でどう判断するのか,(師長へ)どのように伝えていくのか,…中略…(師長に)言ったら言ったで,どうしていきますか…中略…それが良くも悪くも雰囲気に繋がっていくのかな.《G11》
(3) 〈立場や職種の違う人々の考えを浸透させていく〉自分の立ち位置を理解して,組織のビジョンを実働するために,立場や職種の違う人々の考えを浸透させていくことを意味する.(他職種へ)看護師サイドの意図を伝えたり,何かを変える時に説明したり,師長だと現場の動きが解らないだけに言えないことも副師長が言えることがあるんだと思います.《B9》
(4) 〈一人ひとりに気を配る〉個人の様子,考え,特性の把握,実践力の育成など多岐にわたる視点で一人ひとりに気を配ることを意味する.ぼーんって大きな丸(全体)じゃなくて,その中の小さな丸一つ一つ(個人)を見ていくようになったんですよね《H3》
(5) 〈師長は最終権限,考えの主体はみんな〉師長は最終権限であるが,みんなが主体的に考え行動できるように議論の場をつくることを意味する.正解不正解ではなく…中略…論理立てていく,裏付けて言っていくことでスタッフのスキルにも繋がっていくのかな.《G10》
(6) 〈社会の変化を捉えて柔軟に役割を担う〉社会の変化,現場の状況を捉えて役割をその場に適したかたちで模索しながら担うことを意味する.(退院支援は)先生たちが全然進まなくて,そこへアプローチしようかなと思って,今やっとやり始めたところなんです.《H6-7》
(7) 〈管理者のイメージを変えていく〉看護師のキャリアモデルとして主任看護師がフットワーク軽く働く姿は,自身にとっても次に続く人にとっても管理者のイメージを変えていくことにつながることを意味している.(スタッフが)大変ですよねとか言ってくれるんですけど,楽しいところも伝えないと,次に続いてくる人いないなって自分がなる時も思いましたから.楽しいところを探しているのかもしれません.《B13》
5) 【なんとなく道が決まる】研究協力者は,役割期待を記憶していないが勧められたこと,やりたいこともないことから〈なんとなく昇進する〉と語っていた.昇進前教育はなく,面接中に〈前の役割を引きずる〉ことを振り返っていた.
(1) 〈なんとなく昇進する〉曖昧な気持ちのままに消去法的な決め方でなんとなく昇進することを意味する.何かしたいわけではないしな…,いるかな…でもいるんだったらやった方がいいのかなって思って.《F2-3》
(2) 〈前の役割を引きずる〉新しい立場の影響力や責任の理解が曖昧なことから,前の役割の意識や行動を引きずることを意味する.実践の方が忙しかったからそんなこと(主任の役割)も思わないまま実践のことばかりやっていた気がします.《C6》
6) 【師長の仕事を助ける】研究協力者は,役割を「橋渡し」と表現するが,〈どこか自信がない自分〉を潜ませていた.師長との関係が主に語られ,自分の考えより師長の考えを察して〈師長の考えが行動の起点となる〉〈決められたことを過不足なく行う〉という行動をしていた.師長あるいは部署が変わることで〈違和感に気づくが変えられない〉ことを語っていたが,プロセスを変える者もいた.
(1) 〈どこか自信がない自分〉管理の知識不足,自分の行動が正しいのか不安な気持ちから主任看護師特有の立場の認識,役割行動に自信が持てないことを意味する.(昇進時)看護基準の中の主任看護師の責務だけ,あと自分で探しなさいって感じで.看護管理者として自信がない自分がどこかにいた.《C3》
(2) 〈師長の考えが行動の起点となる〉師長はこうあるべきという考えのもと,無意識に自分の行動の起点が師長の考えにあることを意味する.(師長が)こうしたいの,私はこれをやりたいのって言ってくれれば,私はこれをやります,だったら言えるんです.《D11》
(3) 〈決められたことを過不足なく行う〉師長の役割を補佐するように,師長の指示,慣習に従い決められたことを過不足なく行うことを意味する.こういう役割だという認識からスタートしているのではなく,決められた事をやっていったという感じだと思います.《F1》
(4) 〈違和感に気づくが変えられない〉病棟機能の変調,自分の役割の違和感に気づくが変えることができないことを意味する.2年目の課題を達成させるサポートができないんですね,…中略…(翌年も)変わらないです.気をつけようと思っても.《F5》
7) カテゴリー間の移行に影響していたこと昇進する前後の移行では,それぞれのプロセスを進んでいた.【師長の仕事を助ける】では,師長が変わる,部署が変わることで,気持ちに変化が起こると【“主任看護師としての私”を自分とスタッフの両方が認識する】へ転換していた.(師長が変わり)いろんなことが私に降りてくる,スタッフも言ってくるので.それをどううまく管理していくのかって.《A3》しかし,自分の立場でできることに目が向かいないと,元へ引き戻された.やっぱり師長なんだよねって思って.《C4》また,【立場を活かして組織と個人をつなぐ】では,師長や部署が変わることで,新しい関係の中で役割を見つけようとして【師長とスタッフの考えをつなぐ方法を探る】へ循環していた.異動した時って,最初から今までと同じよ,じゃあ,やってと任されることがないので,ゆっくり客観的にみられる時間があるので,その期間をうまく使いたい.《G-7》
本研究において,プロセスにより視野および積極性に違いがあった.プロセスに影響を及ぼしていると考えられた3点について考察する.
1. 昇進を決めるMeleis(2010/2019)によると役割移行には,役割を実行するための知識や手がかりを習得することである役割の明確化,共感的に他者の立場に立って状況をみていく役割代行,意味を構築するためのコミュケーションが必要である.本研究において,【いずれ管理者になることを決心する】では,昇進前の経験が役割代行となり,役割の責任や意義,面白さを感じ,看護管理者としてのキャリアをポジティブに捉え直していた.実際に昇進を決めるには,戸惑いもあるが,周囲に気持ちを話すこと,協力体制を知ることで解消していた.これに対して【なんとなく昇進する】では,長く働くと管理者になるものという考えから,昇進するか否かを焦点にしていた.昇進前の経験から得た役割のイメージが,キャリア選択への意志,主体性に影響を及ぼすと考えられた.
移行支援には,知識や心構えに関する準備教育とメンターの存在が必要であることが示唆されている(西井ら,2018;山本,2011).本研究では,さらに,実践の場で,役割の本質,魅力を伝え,自分の意志でポジティブに昇進を決められる支援,管理者候補を育てる視点も重要であると考えられた.
2. 主任看護師の立場を認識する役割移行とは,役割期待,役割関係を変えることであり,新しい知識を取り入れて,行動を変化させて,社会的文脈の中で自己定義を変えることが必要である(Meleis, 2010/2019).【“主任看護師としての私”を自分とスタッフの両方が認識する】では,昇進前の経験から立場の影響力を理解して,新しい立場に求められる意識と行動を探り,自己を再定義していた.これに対して【師長の仕事を助ける】では,病棟機能の変調から,問題が見えやすくなり,立場を意識させられて組織事が自分事になっていた.しかし,研究協力者によっては,「変えられない」「こうあるべき」という見方に縛られているようであった.
主任看護師は,立場と役割期待の変化を意識した行動により必要な役割と感じられる,周囲は,主任看護師として接することが重要であると考えられた.
3. 経験から学習する本研究において,研究協力者の語りには,「師長」「副部長」の言葉が多く,主任看護師の役割移行に重要な存在であった.上田(2018)は,看護師の円滑な役割移行に,上司の支援は不可欠な要素で,促進要因にも阻害要因にもなると報告している.【立場を活かして組織と個人をつなぐ】では,上司の問いから,視点を目の前の課題から組織全体に広げていた.また,研究協力者には,考えや価値観の違いを前提に,積極的に話し合い,病棟の雰囲気を大切に行動する傾向があった.金井・楠見(2012)によると,経験から学習する態度とは,挑戦性,新しい経験や考え方への柔軟性,難しい状況の問題解決において過去の類似経験から転移できる類推と省察である.研究協力者にとり,上司との話し合いは,経験から学習する場となっていたと考えられた.これに対して,【師長の仕事を助ける】では,「こうあるべき」という見方を自身にも相手にも求め,コミュケーションが一方向,視野および行動が限定される傾向にあった.任務年数,教育の有無よりも経験から学んだことがプロセスに影響を及ぼすと考えられた.
変化が激しい社会では,主任看護師の経験から学習して知見を広める姿勢が重要であり,この姿勢は,スタッフ時期から育む必要があると考えられた.
本研究は,主任看護師自身が認識した事柄をもとにプロセスを分析した.そのため,相互作用に関係する師長あるいはスタッフの認識が同じとは限らず,病棟の成果との関係は明らかではない.また,対象施設は,規模と機能を限定しため,全ての主任看護師に当てはめて考えることはできない.今後は,施設規模,機能,領域の違いを調査,検討する必要がある.
プロセスは,23個の概念と6個のカテゴリーで構成されていた.プロセスは,役割の前の経験に影響を受けて,はじまりから2つに分かれ,外的な変化によって循環する,引き戻るという特徴があった.主任看護師への役割移行には,移行に特化した支援,役割を通して学び続けられる支援,さらに,スタッフ時期から役割経験より新たな知見を広めていく姿勢を育む必要性も示唆された.
付記:本論文の内容の一部は,第40回日本看護科学学会学術集会にて発表した.また,本論文は,東京女子医科大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正をしたものである.
謝辞:本研究にご協力いただきました施設の皆様,主任看護師の皆様に感謝いたします.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:NNは,研究の着想から研究方法,データ収集,分析,論文作成までを一貫して行った.KYは,研究の着想,研究方法,分析と論文の批判的検討を行い,論文執筆に貢献した.データの分析・解釈にあたっては,著者間で十分に協議・検討を重ねた.すべての著者は,最終原稿を読み承認した.