日本看護科学会誌
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原著
病院看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長および同僚からのソーシャルサポートとの関係
髙谷 新安保 寛明
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2022 年 42 巻 p. 168-175

詳細
Abstract

目的:看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長および同僚からのソーシャルサポートとの関連を明らかにする.

方法:16医療機関の看護師長37名,看護職員529名を対象にワーク・エンゲイジメント,ソーシャルサポートについて調査し,マルチレベル相関分析を行った.

結果:個人レベルで,看護職員のワーク・エンゲイジメントとソーシャルサポートの認識のすべての下位尺度に有意な正の相関を認めた.また集団レベルでは,ソーシャルサポートの認識の下位尺度である看護師長からの動機づけと裁量権に関するサポート,同僚の職務の3因子への肯定的認識とワーク・エンゲイジメントに有意な正の相関を認めた.ワーク・エンゲイジメントと看護師長のソーシャルサポートの自己評価に有意な相関は認めなかった.

結論:看護師長,同僚からのソーシャルサポートに肯定的な認識がある職員は,ワーク・エンゲイジメントが高い傾向があった.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to clarify the relationship between the nursing staff’s work engagement and social support from hospital head nurses and colleagues.

Method: A questionnaire survey was conducted among 37 head nurses and 529 nursing staff working in 16 medical institutions. The survey explored work engagement and social support from the head nurse and colleagues. Multilevel correlation coefficients were calculated and statistically analyzed.

Results: At the individual level, significant positive correlations were found between nurses’ perceptions of social support from the head nurse and colleagues and their work engagement across all scales and subscales of social support. There were significant positive correlations between work engagement and the three subscales of head nurse motivation, discretionary support, and positive attitudes toward colleagues’ work at the departmental level.

Conclusion: Nursing staff with positive perceptions of social support from the head nurse and colleagues have higher work engagement.

Ⅰ. 緒 言

わが国の看護職員の正規雇用看護職員離職率は11.5%,新卒看護職員離職率は8.6%となっており(日本看護協会,2021),過去5年ほぼ横ばいで推移している.また,長期病気休暇を取得した常勤看護職員総数に占めるメンタルヘルス不調者の割合は36.8%という報告があり(日本看護協会,2016),産業精神保健の観点から離休職予防のためのメンタルヘルス対策の充実がより必要である.

これまで労働者のメンタルヘルス対策としては,ストレスや不安,抑うつという健康を阻害する要因や状態等に着目し,それらを予防,回避することに重点が置かれていた.しかし,近年,人間の強みやパフォーマンスなどのポジティブな側面や,健康を促進する要因への着目の意義が論じられており,個人や組織の活性化を視野にいれた対策が重要視されている.

産業保健において注目されている概念の一つにワーク・エンゲイジメント(Work engagement)がある.ワーク・エンゲイジメントは,仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり,活力,熱意,没頭によって特徴づけられる.そして,特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知であると定義されている(Schaufeli et al., 2002).

看護職員のワーク・エンゲイジメントに関する研究では,睡眠の質との関連の報告(Kubota et al., 2012井奈波・日置,2016)やワーク・エンゲイジメントが高い看護職員は,心理的苦痛や身体愁訴が少ないこと(Shimazu et al., 2012),離転職の意思が少なく,職務行動が高いこと(川内・大橋,2011Kubota et al., 2012中村・吉岡,2016),ワーク・エンゲイジメントと患者満足度に正の相関があること(Bacon & Mark, 2009),また,給与への満足感や職場環境との関連についての報告(伊藤ら,2018)がある.また,組織においてはワーク・エンゲイジメントが従業員間で伝播すること(Bakker et al., 2005, 2006, 2011)が明らかにされている.これらからワーク・エンゲイジメントに着目することは,看護職員個人の精神保健の維持,専門性や看護の質向上の観点のみならず,組織を対象に職務への前向きさの向上を目的とした方略を考える上で有意義な指標であると考えられる.

ワーク・エンゲイジメントを規定する要因としては,上司や同僚からのサポートや裁量権,仕事のパフォーマンスに関するフィードバック,コーチングなどの「仕事の資源」と自己効力感,組織内自尊感情,楽観性などの「個人の資源」がある.「仕事の資源」は「仕事の要求度‐資源モデル(Job demands-Resources Model)」を構成する「動機づけプロセス(Motivational process)」において,「個人の資源」と相互に影響を及ぼし合い,ワーク・エンゲイジメントを高めること(Xanthopoulou et al., 2007, 2009)が明らかにされており,組織における仕事の資源や個人の資源をより充実させるための管理監督者研修,職場環境の改善等を行うことの重要性への指摘(島津,2010)がある.

看護職員の職場環境,仕事の資源との関連については,ソーシャルサポートと心の健康(well-being)との関連についての報告(酒井,2006)があるほか,近年の研究では,看護職員のワーク・エンゲイジメントと病院の病床規模,所属部署の規模(所属する看護職員数)に負の相関があるという報告(安保・髙谷,2019)や,ワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントの関連についての調査があり,看護職員として新たな業務に挑戦する機会,知識や技術を習得,発揮する機会,心理的報酬や裁量権の付与が有意に看護職員のワーク・エンゲイジメントを高めるという結果が示されている(新宮・安保,2019).

看護師長の役割やその機能に関する研究としては,看護師長への質的調査によって看護師長の役割に看護職員の自己主導型学習を促進する特徴がある(坂元ら,2014)ことや,看護職員を対象にした調査によって,看護師長のメンタリング機能の発揮と看護職員の内発的モチベーションに有意な正の相関がある(今堀ら,2008)ことが明らかになっている.一方で,看護師長のリーダーシップに焦点を当てた手塚らの研究では,スタッフの尊重や責任遂行,病棟管理に関する看護師長の自己評価が看護師による評価より有意に高く,看護師長とそれ以外の職員のあいだで認識にずれがあることが示されており(手塚・佐藤,2007),看護師長,看護職員双方を対象にした調査を行う必要があると考えられる.

以上のことから,看護師長や同僚からのソーシャルサポートはワーク・エンゲイジメントの向上に関係がある職場の資源であると考えられるものの,看護師長とサポートの受け手である看護職員のその認識には隔たりがある可能性がある.看護師長,看護職員の双方を対象にワーク・エンゲイジメントとソーシャルサポートの関連について調査を行った研究は見当たらないため,この点に焦点を当てた研究を行うことには意義があると考えられる.

Ⅱ. 研究目的

看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長および同僚からのソーシャルサポートとの関連を明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究対象者と調査方法,調査期間

調査対象機関は,研究者の所属機関と協力協定を締結している機関のうち16機関である.調査対象者は,調査対象機関のうち,本研究への承諾が得られた機関に所属する看護職員,看護師長である.ただし,医療機関の規模による重みが生じることを避けるため,医療機関ごとの調査対象部署数は最大4単位とした.また調査対象機関における対象部署の抽出に偏りが生じないように調査実施年度に新人看護職員の配置数が多い順に4部署を調査対象とする旨を依頼した.質問紙は,対象部署の所属看護職員全員に配布し,対象者が回答後,研究者へ直接郵送するよう書面にて依頼し回収した.質問紙は乱数表によるIDを所属部署に対して割り付けており,部署ごとに看護師長の回答と看護職員の回答をマッチングさせ分析を行うものとした.IDは部署ごとに割り当てているため個人は特定しない.なお,本研究の調査期間は,2018年2月から3月である.

2. 調査項目

1) 個人属性

看護職員は,性別,年齢,主に従事している職種(助産師,保健師,看護師,准看護師),卒業した看護基礎教育機関,従事経験年数,職位(副看護師長,主任看護師,副主任看護師,一般看護師),所属部署(病棟勤務,病棟以外勤務(外来や手術室など)),所属部署の在籍年数,看護体制の計9項目について質問した.また,看護師長には,上記に加え看護師長としての経験年数を尋ねた.

2) ワーク・エンゲイジメント

看護職員,看護師長に共通して,日本語版Utrecht Work Engagement尺度短縮版(以下,UWES-J)を使用した.この尺度は3つの下位概念,①熱意,②没頭,③活力の全9項目で構成される.各質問に「いつも感じる(6点)」から「全くない(0点)」までの7段階評定で回答を求め,得点が高いほど,仕事に積極的に向かい活力を得ている心理状態であることを意味する.この尺度は原版および日本語版で,信頼性と妥当性が確認されている(Schaufeli et al., 2002Shimazu et al., 2008).UWES-Jは,研究目的の場合には自由に使用が可能であった.

3) 看護師長および同僚からのソーシャルサポ―ト

井田・福田(2004)が,小牧(1994)のソーシャルサポート尺度を参考に作成した看護師用の職場サポート尺度を基盤にするとともに,職場のソーシャルサポートに関する先行研究(贄川・松田,2005井川,2010堀江,2011高橋・米山,2012厨子・井川,2012小寺・足立,2016)を参考に筆者ら2名で調査項目を構成した.ワーク・エンゲイジメントは,職場における裁量権や動機づけが規定要因であること,組織内で伝播するという特徴が明らかにされている.そのためソーシャルサポートに関する項目には裁量権の付与,動機づけ,承認・感謝,看護師長や同僚の職務へのポジティブな態度に関する調査項目を追加した(項目例:看護師長は何が自分の動機づけをするのか理解していると感じる,看護師長は仕事の量を調整できるような機会を与えてくれる,看護師長が仕事に対してポジティブな態度で臨んでいると感じる).質問紙作成過程において,プレテストを実施し,質問項目の内容の重複や質問の表現の理解,回答のしやすさについての検討を重ね,項目の削除,質問の文章表現の修正を行った.

作成したソーシャルサポートの認識に関する尺度は全31項目からなり,看護師長からのソーシャルサポートの認識に関する項目23項目,同僚からのソーシャルサポートの認識に関する項目8項目を設定した.看護師長からのソーシャルサポートの認識は下位尺度として情緒的サポート6項目,情報的サポート5項目,裁量権に関するサポート5項目,動機づけ2項目,承認・感謝3項目,看護師長の職務へのポジティブな態度1項目,定期的な面談の実施1項目からなる.また,同僚からのソーシャルサポートの認識は下位尺度として情緒的サポート3項目,情報的サポート2項目,承認・感謝2項目,同僚の職務へのポジティブな態度1項目からなる.各質問項目に対し,「いつも(毎日)感じる:(6点)」から「全くない(0点)」の7段階評定で回答を求め,得点が高いほど,看護職員(回答者自身)がソーシャルサポートを受けていると認識していることを示す.

看護師長に対しては,作成した看護師長のソーシャルサポートの認識の23項目を基に,所属する複数の部下に対するソーシャルサポートを想定し,自己評価を行う場合に回答が困難であると思われる下位尺度の動機づけの2項目(看護職員に対して何が動機づけするのか理解していると感じる,能力以上の役割を期待している)を除外し,質問項目の表現の修正を重ね,最終的にソーシャルサポートの自己評価に関する尺度21項目を作成した.この尺度は下位尺度情緒的サポート6項目,情報的サポート6項目,裁量権に関するサポート5項目,承認・感謝3項目,定期的な面談の実施1項目からなる.各項目を,「とてもあてはまる:(6点)」から「まったくあてはまらない:(0点)」の7段階で回答を求めるものとした.得点が高いほど,看護師長が所属部署の看護職員に対してサポートを行っていると評価していることを示す.

3. 分析方法

分析対象は,UWES-Jに欠損のない回答とし,記述統計を行った.調査を行った各尺度については,尺度全項目,下位尺度ごとのCronbachのα係数を算出し,内的整合性の確認を行った.また正規性の検定(Kolmogorov-Smirnov検定)を行い,正規分布しているか否かの確認を行った.また,看護師長および同僚からのソーシャルサポートの認識に関する尺度については,確認的因子分析を行い.構成概念妥当性および適合度の確認を行った.

本調査のデータは,個人レベル(看護職員)と集団レベル(所属部署)の階層的データであり,回答の内容に集団内類似性が生じる可能性がある.そのため級内相関係数(ICC)を算出し,集団内類似性の評価を行ったうえで,看護職員のUWES-Jの得点と看護師長および同僚からのソーシャルサポートの認識についてマルチレベル相関分析を行った.マルチレベル分析の対象部署は対象者が5名以上回答した部署とした(村澤,2005).また,ワーク・エンゲイジメントは病院規模,部署の規模と負の相関があることから集団レベルの変数として所属機関の病床数,部署の看護職員数を制御変数とし,分析を行った.また看護師長の回答とマッチングできた回答について,看護師長のソーシャルサポートの自己評価を集団レベル変数として扱い,同様にマルチレベル相関分析を行った.データの集計および分析にはIBM SPSS Statistics Version 24.0 for WindowsおよびHAD17を使用した.なお,統計学的検討における検定の有意水準は,すべて両側検定で5%とした.

4. 倫理的配慮

質問紙には特定個人情報の記載欄を設けず,本研究への協力は任意であること,研究への参加の有無に関わらず不利益が生じないこと,研究結果は学術的に公表する予定であることなどを質問紙表紙に明記した.また,回答の有無や内容による対象者の業務等への不利益が生じないように郵送法を用いて個別に返送してもらい,研究への参加状況が判明しないようにした.所属部署ごとの集計は無作為に割り付けたIDによって管理した.また本研究は筆者らの所属機関における倫理委員会の承認を受けて実施した.(山形県立保健医療大学倫理審査委員会承認番号1709-12)

Ⅳ. 結果

16医療機関の看護師長と看護職員からなる対象者1,223人に対して質問紙を配布し,回答数は574であった(返送率46.7%).内訳は看護職員537人,看護師長37人である.UWES-Jの回答に欠損がある質問紙を除外し,看護職員の回答529部,看護師長の回答37部を分析対象とした.分析対象者の属性を表1に示す.

表1  分析対象者の概要
看護職員(n = 529) 看護師長(n = 37) p-value
n(%)/mean(SD) n(%)/mean(SD)
性別 女性 479 (90.5%) 34 (91.9%)
男性 47 (8.9%) 3 (8.1%)
無回答 3 (0.6%) 0 (0.0%)
年齢 39.7(11.6) 52.6(6.6)
20歳代 141 (26.7%) 0 (0.0%)
30歳代 133 (25.1%) 2 (5.4%)
40歳代 150 (28.4%) 7 (18.9%)
50歳代 85 (16.1%) 25 (67.6%)
60歳以上 20 (3.8%) 3 (8.1%)
看護師従事経験年数 15.9(11.4) 29.0(8.9)
0~10年未満 185 (35.0%) 0 (0.0%)
10~20年未満 144 (27.2%) 6 (16.2%)
20~30年未満 122 (23.1%) 7 (18.9%)
30年以上 78 (14.7%) 23 (62.2%)
無回答 0 (0.0%) 1 (2.7%)
職位 看護師長 37 (100.0%)
副師長級 27 (5.1%)
主任級 100 (18.9%)
一般看護師 402 (76.0%)
所属部署 病棟 476 (90.0%) 32 (86.5%)
病棟以外 53 (10.0%) 5 (13.5%)
UWES-J 2.4(1.1) 2.9(1.2)
 ※下段はmedian(min~max) 2.4(0.0~6.0) 3.0(0.0~5.0) ***

(Mann-WhitneyのU検定 *** p < .001)

看護師長および同僚からのソーシャルサポートの認識に関する設問の平均値+標準偏差は3.49~5.14,平均値-標準偏差は1.10~2.73の範囲に収まり天井効果(6以上),フロア効果(0以下)を示した項目は認めなかった.看護師長が回答したソーシャルサポートの自己評価に関する設問においても,平均値+標準偏差は4.41~5.57,平均値-標準偏差は2.61~3.84の範囲に収まり,天井効果,フロア効果は認めなかった.また,各尺度には正規性は認められなかった.

各尺度のCronbachのα係数は,UWES-Jが.951.また,看護師長および同僚からのソーシャルサポートの認識に関する尺度全項目では.974,下位尺度の看護師長の情緒的サポートは.955,看護師長の情報的サポートは.969,看護師長の裁量権に関するサポートは.948,看護師長の動機づけは.824,看護師長の承認・感謝.914は,同僚の情緒的サポートは.835,同僚の情報的サポートは.764,同僚の承認・感謝は.930であった.また,看護師長に尋ねたソーシャルサポートの自己評価尺度全項目では.943,下位尺度の情緒的サポートは.897,情報的サポートは.937,裁量権に関するサポートは.762,承認・感謝は.869であった.

看護師長および同僚からのソーシャルサポートの認識(31項目)についての確認的因子分析を行った結果,各適合度指標はχ2/dx = 5.354,CFI = 0.917,RMSEA = 0.091,GFI = 0.788,AGFI = 0.723であった.各因子から質問項目への標準化係数は.74~.96であった.

看護職員のUWES-Jの中央値(最小値~最大値)は2.4(0.0~6.0),看護師長は3.0(0.0~5.0)であり,看護師長が看護職員に対して有意にUWES-Jの得点が高かった(Mann-WhitneyのU検定,p < .001).

看護職員のUWES-J,看護師長および同僚のソーシャルサポートの認識の級内相関係数,マルチレベル相関分析の結果を表2に示す.マルチレベル分析の対象者は437名で40部署に所属し,部署あたりの回答数は最小で5人,最大で27人であった.看護職員のUWES-J,看護師長および同僚からのソーシャルサポートの認識の下位尺度項目の級内相関係数(ICC)は,ほとんどの項目で有意であった(ICC = .068~.238, p < .05).

表2  看護職員のUWES-Jと看護師長および同僚からのソーシャルサポートの認識についてのマルチレベル相関分析(n = 437,集団数40)
UWES-J 看護師長からのソーシャルサポートの認識 同僚からのソーシャルサポートの認識
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
1 UWES-J (9) .051 .486** .456** .416** .465** .435** .441** .289** .347** .337** .310** .316** .252** .383**
2 看護師長 看護師長のソーシャルサポート尺度 全項目 (23) .671* .216** .940** .925** .917** .789** .903** .653** .729** .489** .479** .457** .428** .391**
3 情緒的サポート (6) .610 1.000** .180** .860** .793** .656** .818** .555** .622** .457** .442** .434** .397** .355**
4 情報的サポート (5) .611 .985** .972** .218** .812** .659** .773** .569** .647** .431** .407** .405** .380** .363**
5 裁量権に関するサポート (5) .717* 1.004** 1.006** 1.011** .194** .716** .785** .575** .664** .441** .434** .407** .383** .355**
6 動機付け (2) .921* .964** .987** .897** .942** .135** .744** .511** .572** .361** .378** .329** .290** .287**
7 承認・感謝 (3) .618 .977** .999** .929** .967** .971** .182** .601** .670** .480** .472** .441** .435** .349**
8 看護師長の職務へのポジティブな態度 (1) .567 .976** .995** .977** .990** .904** .899** .238** .439** .425** .416** .381** .365** .367**
9 定期的な面談の実施 (1) .686 .716* .656* .697* .712* .813** .677* .636* .136** .338** .322** .305** .295** .293**
10 同僚 同僚のソーシャルサポート尺度 全項目 (8) .576 .462 .359 .457 .557 .519 .455 .427 .327 .062 .946** .944** .929** .694**
11 情緒的サポート (3) .545 .443 .334 .473 .542 .456 .414 .409 .318 .994 .054 .881** .840** .540**
12 評価的サポート (2) .431 .396 .297 .376 .486 .438 .416 .378 .276 .999* .968 .068* .845** .612**
13 情報的サポート (2) .405 .366 .272 .352 .467 .436 .388 .358 .128 1.063 1.044 1.139 .028 .593**
14 同僚の職務へのポジティブな態度 (1) .899* .803** .742* .769* .898** .848* .768* .730* .600 .989* .993* .964* 1.048 .081*

** p < .01,* p < .05

※1 ( )は項目数

※2 対角行列(太字)は級内相関係数,上三角行列は個人レベル相関,下三角行列は集団レベル相関を示す

※3 病院規模(病床数),部署の規模(所属看護職員数)を制御変数とした

個人レベルの分析において看護職員のUWES-J得点と看護師長のソーシャルサポートの認識との相関では全ての下位尺度項目で有意な正の相関を示し,下位尺度の裁量権に関するサポート,情緒的サポート,情報的サポート,動機づけ,承認・感謝では相関係数が.4以上であった.同僚からのソーシャルサポートの認識についても,すべての下位尺度項目で有意な正の相関を示し,同僚の職務へのポジティブな態度に関する項目が最も相関係数が大きかった.

集団レベルの分析では,看護職員のUWES-Jとソーシャルサポートの認識の下位尺度項目である看護師長からの動機づけと裁量権に関するサポート,同僚からの職務へのポジティブな態度において有意な正の相関を示した.

また,看護職員のUWES-Jと看護師長のソーシャルサポートの自己評価の回答がマッチングできた350名を対象にマルチレベル相関分析を行った.対象者は27部署に所属し部署あたりの回答数は最小で5人,最大で27人であった.UWES-Jと看護師長のソーシャルサポートの自己評価については,尺度全項目,およびすべての下位尺度項目において有意な相関は認めなかった.

Ⅴ. 考察

1. 対象者のワーク・エンゲイジメントの状況および尺度の信頼性と妥当性

本研究で得られたUWES-Jの得点(中央値)は看護職員が2.4,看護師長が3.0であった.先行研究(中村・吉岡,2016須藤・石井,2017)と比較すると同等の得点であり,管理職者が一般職者よりUWES-Jの得点が高いという点でも一致しているため,本研究の対象者に大きな偏りは存在しないと思われる.また,本研究で使用したUWES-J,ソーシャルサポートの認識,看護師長の自己評価に関する尺度の信頼性係数は,全項目,下位尺度各々.70以上を示しており,内的整合性があるものと判断した.

看護師長および同僚からのソーシャルサポートの認識に関する尺度(31項目)の適合度については,GFI,AGFIがやや低いスコアであったものの,CFIが0.9以上,RMSEAが0.1未満であり,構成概念と質問項目が概ね適切に対応していると判断した.

看護職員が回答したUWES-Jおよびソーシャルサポートの認識について級内相関係数を算出した結果,ほとんどの項目で有意であった.データの階層性の判断基準(清水,2014)に基づき,集団内類似性を認め本調査データが階層的であると判断した.

2. 個人レベルにおける看護職員のワーク・エンゲイジメントとソーシャルサポートとの関係

個人レベルの分析において,看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長および同僚のソーシャルサポートの認識について,ソーシャルサポートの尺度全項目とすべての下位尺度でUWES-Jと有意な正の相関が認められた(r = .252~.486, p < .01).このうち,中程度の相関がみられた看護師長からのソーシャルサポートの認識の下位尺度項目は,裁量権に関するサポート,情緒的サポート,承認・感謝,動機づけ,情報的サポートであった.情緒的サポート,情報的サポートに関する結果は,上司からの支援とワーク・エンゲイジメントに正の相関があることを報告している研究(佐藤・三木,2014)と一致する結果である.また,裁量権に関するサポートや承認・感謝,動機づけに関する項目は,上司からのパフォーマンスフィードバックや裁量権の付与などの仕事の資源がワーク・エンゲイジメントを高めるという先行研究の知見(Xanthopoulou et al., 2009, 2007新宮・安保,2019)と一致する結果である.

同様に,看護職員のUWES-Jと同僚からのソーシャルサポートの認識に関する項目においてもすべての下位尺度項目で有意な正の相関を認めた.看護職員のUWES-Jと同僚からのソーシャルサポートの認識の下位尺度項目である同僚の職務へのポジティブな態度に関する認識(質問項目:同僚には職務に対してポジティブな態度で臨んでいる人がいる)の相関が最も高い結果であった.このことは,他者,従業員間でワーク・エンゲイジメントが伝播する(Bakker et al., 2005, 2006, 2011)という特徴が本邦の看護職にも見られた結果といえる.同僚からの職務に関する知識の提供や励ましの言葉がけ,相談に応じるという行為による支援よりも,自部署に活き活きと職務に取り組む職員の存在がワーク・エンゲイジメントの向上に影響を与えることを示唆していると考えられる.また,看護師長からのソーシャルサポートの認識の下位尺度項目である看護師長の職務へのポジティブな態度の認識についても弱い正の相関が認められたことから,看護職員のワーク・エンゲイジメントの向上を視野にいれた看護管理を行うためには,上司部下間や同僚間でのワーク・エンゲイジメントの伝播性に着目した方略が有効である可能性がある.

3. 集団レベルにおける看護職員のワーク・エンゲイジメントとソーシャルサポートとの関係

集団(部署)レベルの分析では,ソーシャルサポートの認識の尺度の下位尺度項目である看護師長の動機づけと裁量権に関するサポート,同僚の職務へのポジティブな態度において有意な正の相関を示した.この分野での先行研究で主に扱われてきた情緒的サポート,情報的サポート,そして承認・感謝などは集団レベルでの分析では有意な相関を認めず,個人レベルでの有意関係であった.すなわち上司である看護師長による情緒や情報に焦点をあてた支援は受け手である看護職員個人の認識による影響を受け,職員によって効果が異なる支援方略である可能性を示すものと考えられる.一方で,看護師長からの動機づけ,裁量権に関するソーシャルサポートの認識はマルチレベル解析により集団レベルで看護職員のワーク・エンゲイジメントに有意な相関があったことから,看護師長による内発的動機づけ,裁量権に関するサポートは受け手となる看護職員個人レベルの要因に依らずに集団において所属する看護職員に共通して効果的である可能性がある.さらに,看護職員のUWES-Jと同僚の職務へのポジティブな態度の認識の相関係数は.899と大きいことから,ワーク・エンゲイジメントは職位の近い職員同士で影響を受けあうことを示す結果であると考えられ,個人レベルの分析結果と並んでワーク・エンゲイジメントの伝播性を裏付ける結果である.以上のことから,ワーク・エンゲイジメントの伝播性に着目すること,すなわち組織の人間関係の維持や集団(部署)の凝集性を高めるような集団を対象にしたアプローチがワーク・エンゲイジメントの向上に効果的である可能性があると考えらえる.

看護職員のUWES-Jと看護師長のソーシャルサポートの自己評価には本研究において,個人レベルでも集団レベルでも有意な相関は認められなかった.本研究が焦点としていた看護師長自身による自己評価と看護職員によるその認識には隔たりがあり,看護師長によるソーシャルサポートの有効性を評価する際には一般看護職員による認識などの多面的な評価を行う必要性を強く示唆するものであると考えられる.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本調査は横断的調査をもとに看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長および同僚からのソーシャルサポートの認識との関連を示すものであり,因果関係を示すものではない.今後は,ワーク・エンゲイジメントと規定要因に関する縦断的調査を実施し,看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長および同僚のソーシャルサポートの認識に関する経時的な変化を明らかにすることが有益である.

付記:本論文の内容の一部は,日本看護学会-看護管理-学術集会(2018年度),第39回日本看護科学学会学術集会(2019年度)において発表した.

謝辞:本研究に快く承諾しご協力をいただきました看護師長,看護職員の皆様に心より御礼を申し上げます.また,本研究は山形県立保健医療大学の平成29年度共同研究事業として採択され,実施したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:STは調査に使用した尺度の選定,調査の実施と分析,主要な執筆を行った.HAは研究枠組みの構成と倫理面を含む研究過程全般に有力な案を与えるなどの助言,一部の分担執筆を行った.両者ともに最終原稿を読み,承認した.

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