2022 年 42 巻 p. 281-290
目的:患者が納得してがん治療を受けることは,治療完遂に向けて重要な視点である.本研究ではがん治療に対する納得の尺度を開発し,信頼性と妥当性を検討した.
方法:がん治療を受けているがん患者294名を対象に質問紙調査を実施し,内容的,本質的,構造的,一般化可能性,外的側面からの証拠を検討した.
結果:235名から回答が得られ(回収率79.9%),有効回答の210名を分析対象とした.開発した尺度の信頼性と妥当性の検証において,項目分析を行い最終的に28項目で因子分析を行った.その結果,【治療する価値】【治療への前向きな気持ち】の2因子18項目が抽出された.モデルの適合度はGFI = .901,AGFI = .853,CFI = .919,RMSE = .049であり,Decisional Conflict Scaleとの相関はr = –.589~–.667であり,各因子のクロンバックα係数は.915~.945であった.
結論:がん治療に対する納得の尺度18項目2因子構造を開発し,信頼性と妥当性が確保できた.
Objective: This study aims to develop a scale for measuring cancer treatment acceptance and to examine its reliability and validity, which will help patient accept and complete cancer treatment.
Methods: A questionnaire survey was conducted, involving 294 cancer patients receiving treatment. The reliability and validity of the developed cancer treatment acceptance scale were confirmed by examining evidence in content, from substantive, structural, generalizability, and external aspects.
Results: Responses were obtained from 235 patients (response rate: 79.9%), and 210, who returned valid responses, were analyzed. To verify the reliability and validity of the scale, item analysis was performed. Through factor analysis for 28 items finally adopted, 2 factors, [the value of treatment] and [a positive feeling about treatment], and 18 items were identified. The goodness of fit of this model was represented by GFI = 0.901, AGFI = 0.853, CFI = 0.919, and RMSE = 0.049. The correlation coefficient with Decisional Conflict Scale was r = –0.589 to –0.667. Cronbach’s alpha for each factor ranged from 0.915 to 0.945.
Conclusions: We developed a scale consisting of 2 factors with 18 items to measure cancer treatment acceptance and confirmed its reliability and validity.
がん治療では,患者に与える身体的侵襲が大きい上に,がんの進行に伴い様々な治療方法や療養があるため,患者や家族は葛藤し思い悩む(McAlpine et al., 2019;Beers et al., 2017;Rutherford et al., 2017).また,一度選択した治療であっても病状の変化,治療の副作用,奏効率による治療変更などによって,迷いが生じることがある(Carhuapoma et al., 2021;Jones et al., 2018;Finucane et al., 2000).このような治療の意思決定場面や治療過程において,“納得した治療”や“納得した意思決定”と表現されるように,がん患者の主体的な治療参加を支援する視点として納得が重要な鍵になるといえる(秋元,1993;Tabak, 1995;Barry & Henderson, 1996).
納得は可視的に判断できるものではなく,同意が内包された理解する主体のより能動的な姿勢であったり(中西,1998),ある事象に対する理由の質を表すもの(難波・三原市立木原小学校,2006;鈴木,2011)であったり,一方向から捉えるものでなく複合的に捉えなければならない概念である.納得の概念分析では,属性は複数で構成され,帰結に〔実行力の推進〕〔精神的安定〕〔満足感〕が示されている(今井ら,2016).このことから,治療過程にあるがん患者の納得を支援することは,治療完遂に向けてのセルフケアや精神的安定,QOL向上の支援の強化に貢献できるといえ,主観的で多次元的な納得を可視化し,看護アプローチの視点を明確化できる納得の尺度開発は意義があると考える.また,納得の概念には〔流動的〕という属性が含まれており,納得していたとしても,一定ではなく,納得できない状況へ変化しうることが示されている(今井ら,2016).特に,治療上の侵襲や病態,患者のコンディションや治療状況の変化によって,患者自身の内部でがん治療に対する納得に向けた作業が繰り返し行われていることが推測でき,がん患者の治療や療養に対する継続した意思決定支援の視点として注目すべき観点であると考える.
納得に関する海外研究では,Arnould et al.(2017)が長期薬物療法を受けている患者のアドヒアランスを基盤に服薬に特化したacceptanceを測定する尺度を開発している.納得はacceptanceだけでなく,assent,consentなど複数の該当する英単語が考えられ,satisfactionやconvince,assureも納得として使われるという報告もある(﨑長,2006).これは,多次元的な納得を意味しており,このような観点から納得を捉えた尺度の報告は海外では見当たらなかった.
日本では,秋元(1993)が子宮全摘術の決意時に患者が複数のlossとgainのバランスから納得する仕方を複数報告している.田畑ら(2006)は,納得の要件として「利益・不利益」「価値観・経験」「自分の存在・意義」と考察し小実験を報告してる.大坪・大野(2004)は,医療サービスにおける患者の納得には,「医療技術印象」と「医師の判断への論理性」から影響を受ける「医師への信頼性」を高めることが重要であると指摘している.阿部ら(1998)は手術療法を受ける乳がん患者の治療への納得を構成する要素として,「自分で決める」「脅威に向き合う」「自分のがんを理解できる」「医師を信頼できる」「過不足なく説明を受ける」を報告している.いずれも,多次元的な納得の構成概念を患者の体験・思考等から捉えようと試みる報告がされている.納得の構成概念から測定化する視点では,唯一,小村(2013)がインフォームド・コンセント場面での患者における「納得度」の評価尺度開発という研究で,尺度化に向けて考察しているが実際の尺度開発まで至った報告はない.
つまり,多次元的な概念をもつ納得ゆえに,納得の一面的な部分の測定により納得を推し量るしかなく,納得の有無について4・5・10件法で測定(小林・石鍋,2012;大野,2003;﨑長,2006;渡邉・岡本,2005)することで納得の程度を測定しており,納得の概念を追及して測定している研究は見当たらない.そこで本研究では,がん治療に対する納得の尺度開発のための信頼性・妥当性の検証を目的とした.患者の治療に対する納得の状況を客観的な指標として把握できることは,治療過程における経時的な変化を捉えることも可能になり,長い治療・療養過程を歩むがん患者への継続的な支援の手がかりになりうると考える.
納得:納得の概念分析(今井ら,2016)で8つの属性を踏まえて定義された「ある事象に対して,自分の持つ価値や自分への利益を明確にすることで理解を深め,認知的にも感情的にも受容した状態であり,主体的かつ他者との信頼関係の中で生み出される流動的な状態」を納得とした.
看護教育学における測定用具の開発の方法論(舟島,2009)および,教育測定学(Messick, 1989),心理学研究法の新しい形(平井,2006),妥当性(村山,2012)を参考に研究枠組みを構築した(図1).本研究は,納得の概念分析の8つの属性(今井ら,2016)を基盤に質問項目を作成・尺度化した.その調査において,内容的側面からの証拠,本質的側面からの証拠,構造的側面からの証拠,一般化可能性の側面からの証拠,外的側面からの証拠を検討し,がん治療に対する納得の尺度を完成させる.本研究の尺度の目的はがん治療を受けている患者に看護師が質問紙を用いて,患者のがん治療に対する納得を測定できる尺度を開発することである.

“がん治療に対する納得”の尺度開発のための研究枠組み
納得の概念分析では国内の74文献を収集し,Rodgers(2000)の手法を用いて納得の概念構造を明確化し,概念の属性として〔理解の深化〕〔感情的受容〕〔自己関与〕〔価値観〕〔相対的利益〕〔明証性〕〔信頼関係〕〔流動的〕が含まれることが示されている(今井ら,2016).この論文を基に研究者間で話し合いを重ね,がん治療に対する納得の質問項目内容(72項目)を作成した.尺度の項目は,概念分析の属性ごとに9項目を作成した.5段階のリッカート評価とし,「全く思わない;1点」から「大変そう思う;5点」とし,総得点,下位尺度得点ともに単純加算して高得点ほど,がん治療に対する納得が高いことを示した.内容的側面の証拠として,がん看護分野を専門とする4名の教育・研究者および,治療場面に精通するがん看護専門看護師3名,尺度開発の経験者や共同研究者3名,計10名で構成した専門家に対して,質問項目が治療への納得を反映している項目か(項目の内容と概念が一致するか),治療への納得を考える際に必要となる状況の見落としや他に追記する必要がある内容が取りこぼされていないか,項目表現でわかりにくい語句や不明瞭な項目,判断しにくい内容・表現の修正が存在しないかなどの回答を依頼し内容妥当性を検討した.この結果から,がん治療に対する納得の尺度原案(32項目)を作成した.
2) 予備調査の実施内容的および本質的側面からの証拠として,A地方都市のがん拠点病院にて治療をしている肺がんおよび乳がん患者20名を対象に予備調査を2019年1~2月に行い,質問紙の回答後に記載漏れを確認しつつ,項目表現でわかりにくい語句や不明瞭な項目,判断しにくい内容・表現を回答者から直接聞き取り調査を行い,語尾の変更や副詞の変更を行った.この調査により,欠損率の高い項目や特定の選択肢に回答が偏った項目はなく,選択肢が適切に設定され識別力をもつことを確認した.平均回答時間は5.4分であった.探索的因子分析後,一般化可能性の側面として,クロンバックα係数を算出した結果,尺度全体のクロンバックα係数は.92,範囲は.92~.94あり,尺度原案の内的整合性が確認できた.
2. 本調査 1) 対象施設と対象者納得が生じる先行要件である【不安定】【不一致】【再考の余地】【新たな事態】は患者の内部で納得に向けた作業が行われている状態であると考えられる(今井ら,2016)ことから,これを避けた状況を考慮し,以下の基準で対象を選定した:①がん治療を受けている外来および入院がん患者であり,精神的に不安定ではない者.②年齢,疾患及び病期は問わない.また,1施設に限らず,がん治療を行っている4施設で研究実施をすることで対象数や対象の幅を広げるようにした.サンプルサイズはGPower_3.1.9.2で134~195例であった.
2) 調査方法2019年6月~2021年7月に,研究協力施設長および看護師長に研究の協力を得てから,該当病棟及び外来にて,看護師長より対象者の基準に該当する患者の紹介を受けた.紹介された対象者に口頭および文書で研究主旨を説明して了承を得た後に質問紙を配布し,質問紙は病棟あるいは外来に設置した回収箱で回収した.研究期間内で294部配布した.
3) 測定用具 (1) 個人属性対象者の属性として,年齢,性別,病名,病期,症状,ADL状況,治療内容を尋ねた.
(2) がん治療に対する納得の尺度予備調査で使用した5段階評価の32項目で構成された質問紙を用いた.
(3) Decisional Conflict Scaleがん治療に対する納得の尺度の外的側面からの証拠として,Decisional Conflict Scale:DCS(O’Connor, 1995)を使用した.DCSは,Ottawa Hospital Research Institute(OHRI)が開発した,患者の意思決定の葛藤を測定する尺度であり,意思決定状態を簡便に測定できるため本研究の外的側面からの証拠として適切であると判断した.内容は16項目からなる5段階のリッカート尺度で,とてもそう思う=0,そう思う=1,どちらでもない=2,そう思わない=3,全くそう思わない=4,として得点範囲は0~100点であり,得点が低いほど決定に関する葛藤が低く,決定の質が高いことを意味する.本尺度は治療に対する納得の尺度であり,納得できている者ほど,意思決定に対する葛藤が低いと考えられ,本尺度とは負の相関を示すと考えた.
4) 分析方法統計ソフトIBM SPSS statistics28とAmos28を使用した.本質的および構造的側面からの証拠として,項目ごとの反応の分布,平均・標準偏差,項目間相関(I-I相関;r > .80),欠損値の頻度,天井効果(M + SD > 4.0)とフロア効果(M-SD < 1.0),Item-Total相関分析(I-T相関;r < .40)を削除基準に項目を確認した.次に,探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行い,累積寄与率,スクリープロット,共通性,因子負荷量が.40以上で,因子の収束性と因子間相関を確認した.確認的因子分析では,因子構造モデルの全体評価にGFI(Goodness Fit of Index),AGFI(Adjusted Goodness of Fit Index),CFI(Comparative Fit of Index),RESEA(Root Mean Square Error of Approximation)の適合度指標を使用した.また,モデルの部分的評価は,各パス係数の検定統計量を求めた.一般化可能性の側面証拠および信頼性の検証としてクロンバックα信頼性係数を確認,外的側面からの証拠としてDCSと本尺度のSpearmanの相関係数を算出して検討した.
徳島大学病院生命科学・医学系研究倫理審査委員会の承諾(承認番号3315-1)を得た後,各調査協力施設の倫理審査を受けて承認後に調査を開始した.本研究への参加について本人の自由意思による研究参加であること,同意しない場合であっても何ら不利益を受けることはないこと,研究の実施に同意した場合でも随時これを撤回できること,個人情報の保護として研究協力者を識別コードで特定してプライバシーを保護すること,本研究の結果を公表する場合も同様に研究協力者のプライバシーを保護すること,研究者および共同研究者以外の者が研究に関するデータを見ることがないこと,得られたデータは3年間鍵のかかる場所に保管後シュレッダーし破棄すること,データは本研究以外には使用しないことを口頭および文書で提示し,同意を得た研究協力候補者を研究協力者とした.また,治療を受けているがん患者であることから,調査前には必ず体調の変化や気分不良等生じた時は申し出るように声掛けを行い,急変時は看護師長に報告し,対応が取れる状況下で実施した.
調査票の回収数は235票(回収率79.9%),欠損値が5%以上の回答があるものを除外した結果,有効回答数は210票(71.4%)となり,これらを分析に用いた.回答者の属性は表1のとおりで,平均年齢は60.7 ± 12.0歳であった,性別の割合は男性64名(30.5%),女性146名(69.5%)であり,主な疾患としては,乳がん88名(41.9%),次いで肺がん34名(16.2%)の順であった.ステージはIVが49名(23.3%)と多く,Performance Status 1が109名(51.9%)で,化学療法が137名と多かった.症状がある者が157名(74.8%)おり,特に脱毛58名,末梢神経障害52名が多かった.
| 項目 | Mean | SD | |
|---|---|---|---|
| 年齢 | 60.71 | 12 | |
| n | % | ||
| 性別 | |||
| 男性 | 64 | 30.5 | |
| 女性 | 146 | 69.5 | |
| 疾患 | |||
| 乳がん | 88 | 41.9 | |
| 肺がん | 34 | 16.2 | |
| 大腸がん | 19 | 9.0 | |
| 悪性リンパ腫 | 18 | 8.6 | |
| 子宮がん | 17 | 8.1 | |
| 膵臓がん | 6 | 2.9 | |
| 卵巣がん | 5 | 2.4 | |
| 胃がん | 5 | 2.4 | |
| 腎がん | 4 | 1.9 | |
| その他 | 8 | 3.9 | |
| 不明 | 6 | 2.9 | |
| ステージ | |||
| I | 34 | 16.2 | |
| II | 26 | 12.4 | |
| III | 20 | 9.5 | |
| IV | 49 | 23.3 | |
| 不明 | 81 | 38.6 | |
| Performance Status | |||
| 0 | 67 | 31.9 | |
| 1 | 109 | 51.9 | |
| 2 | 26 | 12.4 | |
| 3 | 7 | 3.3 | |
| 不明 | 1 | 0.5 | |
| 治療 | |||
| 手術療法* | 53 | ― | |
| 化学療法* | 137 | ― | |
| 放射線療法* | 9 | ― | |
| ホルモン療法* | 23 | ― | |
| 症状 | |||
| 無 | 48 | 22.9 | |
| 有 | 157 | 74.8 | |
| 不明 | 5 | 2.4 | |
| 脱毛* | 58 | ― | |
| 抹消神経障害* | 52 | ― | |
| 疼痛* | 51 | ― | |
| 倦怠感* | 42 | ― | |
| 食欲不振* | 24 | ― | |
| 呼吸苦* | 28 | ― | |
| 皮膚炎* | 21 | ― | |
| 咳嗽* | 19 | ― | |
| 口内炎* | 18 | ― | |
| 嘔気* | 11 | ― | |
| その他* | 6 | ― | |
* 重複回答
本質的および構造的側面からの証拠として各項目の平均点と標準偏差を検討した結果,32項目のうち天井効果および床効果を示す項目はなく,全項目において回答に偏りがないことを確認した.項目間相関分析では,相関係数が.80以上を示す項目はなく,I-T相関は.13~.78範囲であり,.40未満の相関係数を示す項目は,内容を吟味した結果,該当するQ12,Q18,Q28,Q30は削除した.残った28項目について探索的因子分析を実施し,スクリープロットにて2因子と決定し,最尤法・プロマックス回転による探索的因子分析を行った.分析過程において因子負荷量.40以上で複数の因子に高い因子負荷量を示す項目がないかを確認し,因子パターンが最も単純になる分析結果を採用した.その過程でQ1,Q8,Q9,Q11,Q16,Q24,Q25,Q27,Q31,Q32の10項目が削除され,表2に示すように,2因子18項目(累積寄与率:59.45%)からなる尺度を作成した.第I因子は9項目から構成されており,概念分析の属性では〔感情的受容〕1項目,〔価値観〕4項目,〔相対的利益〕1項目,〔明証性〕3項目であった.このことから第I因子は,治療の意味や必要性について根拠に基づいた理解のうえに,治療が自分に不可欠であり自分らしい選択であるという内容より,治療することに価値を見出すことを表していると解釈し,【治療する価値】とした.
| 第I因子 | 第II因子 | 因子分析の属性 | ||
|---|---|---|---|---|
| 尺度全体 α = .945 | ||||
| 第I因子 【治療する価値】α = .926 | ||||
| 21 | 自分にとってこの治療を受けることは意味があると思う | .921 | –.039 | 価値観 |
| 22 | 治療をする理由が明らかにある | .906 | –.047 | 明証性 |
| 14 | 明らかに治療が必要な状況である | .832 | –.124 | 明証性 |
| 26 | 治療を受けたい | .769 | .059 | 感情的受容 |
| 20 | 負担があっても治療する方が自分の期待する結果に近づく | .747 | .136 | 相対的利益 |
| 5 | 自分にとって,治療は重要・不可欠であると思う | .694 | .020 | 価値観 |
| 29 | 今の自分には,病気を治療することが大事だと考えている | .669 | –.116 | 価値観 |
| 6 | 治療の必要性を示す根拠がある | .618 | .188 | 明証性 |
| 13 | 治療することは,自分らしい選択だと思う | .558 | .279 | 価値観 |
| 第II因子 【治療への前向きな気持ち】α = .915 | ||||
| 2 | 安心して治療に臨める | –.167 | .932 | 感情的受容 |
| 7 | 医師が自分に一番効果的な治療を考えてくれている | .048 | .793 | 信頼関係 |
| 10 | 治療への気がかりはない | –.186 | .776 | 感情的受容 |
| 3 | 自分のこととして治療に取り組める | .008 | .770 | 自己関与 |
| 4 | 治療へは期待が持てる | –.002 | .743 | 相対的利益 |
| 15 | 医師を信じて治療を任せられる | .090 | .707 | 信頼関係 |
| 23 | 治療にあたる医療者から専門性を感じる | .270 | .571 | 信頼関係 |
| 17 | いまは治療への疑問が減った | .196 | .538 | 理解の深化 |
| 19 | 前向きに治療に臨める | .334 | .532 | 自己関与 |
| 固有値 | 9.651 | 1.851 | ||
| 寄与率(%) | 51.41 | 8.043 | ||
| 累積寄与率(%) | 51.41 | 59.45 | ||
| 因子間相関 第I因子 | .698 | |||
| 第II因子 | ||||
注)最尤法 プロマックス回転
第II因子は9項目から構成されており,概念分析の属性では〔理解の深化〕1項目,〔感情的受容〕2項目,〔自己関与〕2項目,〔相対的利益〕1項目,〔信頼関係〕3項目であった.治療への安心や治療への専心,信頼や気がかりがないという内容より,心が落ち着いて治療に肯定的に向き合う情動的な姿勢を表していると解釈し,【治療への前向きな気持ち】とした.
探索的因子分析で抽出された2因子18項目からなるがん治療に対する納得の尺度開発の因子構造を確認的因子分析で検討した.その結果,図2に示すようにGFI = .901,AGFI = .853,CFI = .919,RMSE = .049であった.潜在変数-観測変数間には全質問項目において.50以上の範囲にあり,いずれも統計的に有意な水準(p < 0.05)にあった.また,一般的側面からの証拠および信頼性の検証としては,クロンバックα信頼性係数は.95であった.外的側面からの証拠としては,本尺度とDCSとのSpearmanの相関係数は18項目全体で–.667,【治療する価値】とは–.589,【治療への前向きな気持ち】とは–.627であり,有意な負の相関を認めた(P < .001).

がん治療に対する納得の尺度の確認的因子分析
注釈)〇は潜在変数,□は観測変数,Qは質問項目番号を示す
本結果より本尺度は,概念分析による8つの属性を基盤に質問項目を作成したが,最終的には,がん治療に対する納得の尺度は2因子構造【治療する価値】【治療への前向きな気持ち】であることが確認された.
第I因子【治療する価値】は,主に〔価値観〕〔明証性〕の概念で構成されていた.〔価値観〕は自分にとって有意味であると判断する個人的な基準を示し,〔明証性〕は根拠ある疑いようのない明らかなことから疑義が生じない状況を示している(今井ら,2016).がん患者にとって,治療が自分の生命や生活にどのような影響をもたらすのか,その意味や必要性について根拠に基づいた理解のうえに,治療が自分に不可欠であり自分らしい選択であるということを示していると捉えられる.納得は,自分なりの理を基にした判断基準(古宇田・新藤,2002)で,自分にとっての意義(中垣,1987;佐伯,1985)を示すものである.これより,第I因子は,がん患者にとって,治療が自分の生命や生活にどのような影響をもたらすのか,その意味や必要性について根拠を基にした理解のうえに,治療が自分に不可欠であり自分らしい選択であるという認識を示しており,治療を受けることに関する自分にとっての価値を見極める論理的な思考による認識であるといえる.
第II因子である【治療への前向きな気持ち】は,主に〔信頼関係〕〔感情的受容〕〔自己関与〕の概念で構成されていた.〔信頼関係〕は相互作用のなかで構築される信じて頼れる関係性を示し,〔感情的受容〕は心の奥底から腑に落ちる満足感や達成感といった肯定的感情を示し,〔自己関与〕は自分の事としてとらえ能動的に関わることを示している(今井ら,2016).納得の概念の特性として,不安定な状況から自分にとってより利益ある安定した状況に収めていく特性が報告されている(今井ら,2016).これより,第II因子は,不確かな要素や副作用症状など苦痛が伴うがん治療において,頼れる医療者の支援の基で治療することに対して,不安や気がかりがない心の奥底から腑に落ちる安定した感情と,自分自身の事として治療に意欲的に取り組む動機づいた心理状態を示しており,治療を受けることへの肯定的な心理状態を示しているといえる.
中西(1998)は,納得は理解の一様態または帰結とし,ロゴスとパトスが含まれていると述べている.ロゴスとは理論や認識であり,パトスとは情熱や感情とされる(廣松,1998)ことから,本研究の第I因子である【治療する価値】はロゴスの要素を示し,第II因子の【治療への前向きな気持ち】はパトスの要素を示しているといえることから,中西の説明と一致する.このことから,本研究で抽出された【治療する価値】と【治療への前向きな気持ち】はがん治療に対する納得を構成する2因子として考えることができるものであり,加えて,各因子を構成する下位概念を明らかにでき,看護アプローチの視点につながる新知見といえる.
また,本尺度は,8つの属性を基盤に質問項目を作成したが,〔流動的〕を示す質問項目のみ除外された.納得における〔流動的〕は,意思決定や合意に至るなどのある事象の道筋であり,時間とともに変化し,移り変わるものであることを示している.今回,〔流動的〕が削除された背景としては,現時点での納得の状況を測定する尺度であったため,変化が捉えにくい状況があったのではないかと考えられた.
2. 開発した尺度の信頼性・妥当性の検証本尺度の2因子18項目から構成される尺度の信頼性・妥当性については,内容的側面からの証拠,本質的側面からの証拠,構造的側面からの証拠,一般化可能性の側面からの証拠,外的側面からの証拠を検討した.
モデル適合度指標はGFI,AGFI,CFIの値が1に近いほどあてはまりが良いとされ,0.9以上が望ましく,GFIよりAGFIの方が小さい値を示す(小塩,2015;豊田,2007).RMSEAは.05以下で当てはまりがよく,0.1以上であれば当てはまりが良くないと判断される(豊田,2007).本研究のモデルの適合度はGFI = .901,AGFI = .853,CFI = .919,RMSE = .049であり,妥当な適合度を示す結果であると判断でき,構造的側面からの証拠に関して妥当性を支持する結果と考える.
外的側面からの証拠について,既存尺度DCSを用いた.葛藤の尺度であるDCSは,葛藤がある場合は選択肢の不確かさや動揺,決定の遅れをもたらすと指摘されている(O’Connor, 2010).治療への納得ができている場合は,葛藤は少なく,本尺度とDCSとは逆相関すると考えられる.実際に,本研究の2因子とDCSの相関はr = –.589~–.667であり,納得が高いほど,葛藤がない状況であることが示されており,これより外的側面からの証拠を支持する結果であったと考える.
一般的側面からの証拠および真正性の検証として,探索的分析で抽出された2因子18項目について,内的整合性の観点からクロンバックα係数を用いて検討した.その結果,各因子のクロンバックα係数は.915~.945であった.
クロンバックα係数は,測定している概念や項目数にもより,明確な基準はないが.80以上の値が望ましいとされ,.50を切る場合は再検討が必要とされており(村上,2006),これより一般的側面からの証拠は確保されたと考えられる.
以上のことから,本研究において開発されたがん治療に対する納得の尺度は,信頼性と妥当性を概ね備えた尺度と判断できる.
3. 本研究の限界と今後の課題本研究の対象は,がん治療を受け,精神的に不安定ではない患者とし,1施設に限らず,複数の施設で実施したが,研究期間中にCOVID-19の影響を受け,対象病棟が絞られたことや偏りのある対象者になった背景は否めず,一般化するには対象者の背景や数を増やして検証していく必要がある.今後は,この尺度を用いて,がんの種類や病期,症状や治療,副作用症状により,どのようながん治療に対する納得の状況にあるのかを明らかにしていく.
本研究では,がん治療を受けているがん患者210名を対象に,がん治療に対する納得の尺度開発を行った.その結果,【治療する価値】と【治療への前向きな気持ち】の2因子18項目が抽出され,モデル適合度はGFI = .901,AGFI = .853,CFI = .919,RMSE = .049を示した.本尺度とDCSとの相関はr = –.589~–.667であり,各因子のクロンバックα係数は.915~.945であった.これより本尺度の信頼性・妥当性が確認された.
付記:本尺度の使用許諾は必要ありません.ただし,本尺度を用いた研究を発表する際には出典をご明記ください.
謝辞:本研究に参加してくださった患者の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は2015~2019年度科学研究費助成事業(学術研究助成金)基盤研究(C)(15K11624)の助成を受けたものである.また,第35回日本がん看護学会学術集会において発表した.
利益相反:本研究において,利益相反は存在しない.
著者資格:YIは研究の全てを実施し,IUおよびCOは研究の着想および統計解析,原稿作成のプロセス全体に貢献,YK,MM,AT,AE,HAは調査票作成への貢献およびデータ収集,TB,YI,AT,TSは原稿への示唆,すべての著者は原稿を読み,承認した.