日本看護科学会誌
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原著
看護師長を対象としたワーク・ライフ・バランス実現度尺度の開発
水口 誠子吾妻 知美
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2022 年 42 巻 p. 337-345

詳細
Abstract

目的:看護師長を対象としたワーク・ライフ・バランス実現度尺度を開発し,尺度の妥当性と信頼性を検討する.

方法:国内の100床以上の病院に勤務する看護師長786名を対象に,尺度原案43項目の質問紙調査を実施し,尺度の妥当性と信頼性を検討した.

結果:回収数571名(回収率72.6%)のうち有効回答479名(有効回答率83.9%)を分析の対象とした.探索的因子分析の結果,6因子27項目が抽出された.確認的因子分析の結果,仮説モデルの適合度が確認された.基準関連妥当性は,看護職の仕事と生活の調和実現度尺度との相関により確認された.尺度全体のCronbachのα係数は.911,各因子で.710~.902であった.再テスト法による尺度全体の信頼性係数.862であった.

結論:看護師長を対象としたワーク・ライフ・バランス実現度尺度の妥当性と信頼性が確認された.

Translated Abstract

Objective: To develop a work-life balance achievement scale for head nurses and to examine the validity and reliability of the scale.

Methods: A questionnaire survey consisting of 43 items was administered to 786 head nurses working in hospitals with 100 or more beds in Japan. We examined the validity and reliability of the scale.

Results: We received 571 responses (72.6% response rate), of which 479 valid responses (83.9% valid response rate) were included in the analysis. Six factors and 27 items were extracted from an exploratory factor analysis. Confirmatory factor analysis confirmed the goodness of fit of the hypothesized model. Criterion-related validity was confirmed by correlation with the Work-Life Balance Scale for Nurses. Cronbach’s alpha coefficient for the overall scale was .911 (range of each factor, .710 to .902). The overall reliability coefficient of the scale using the retest method was .862.

Conclusion: The validity and reliability of the Work-Life Balance Achievement Scale for Head Nurse were confirmed.

Ⅰ. 緒言

わが国では,少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少,職場ニーズの多様化などの問題に直面し,状況解決のための労働政策として働き方改革が進められている(厚生労働省,2019).看護職の働き方改革としてのワーク・ライフ・バランス(以下WLB)推進は,高齢社会における医療需要の増大に対応した看護師等の確保の問題に向け,離職防止,復職支援を主な目的とした取り組みが進められている.しかし,看護の職場は女性が多く交代制勤務もあり,Covid-19感染症流行の影響も含め厳しい状況である.病院看護職の離職率は,2017年度10.9%,2018年度10.7%,2019年度11.5%であり(公益社団法人日本看護協会,2021),改善されているとはいえない.看護師長は職場のリーダーとしてスタッフ看護師のWLBを進めるための重要な役割を担っており(公益社団法人日本看護協会,2016),スタッフのWLBにつながるロールモデル性を持つ管理職でもある(高村,2018).また,部署の管理責任者としての責務を担い,看護実践の質の保証,人材育成と管理,備品,設備,情報の管理,経営への参画など厳しい業務負担にさらされ,蓄積疲労につながる時間外労働が常態化している看護師長も存在する(富永・小田,2017).さらに,近年では,結婚,妊娠,出産に関わる年齢が上昇し,少子高齢社会の中で親の介護を担う機会も増加しており,看護師長自身もWLBの実現を必要としながら働いているという現状がある.

これまでのわが国におけるWLB研究は,労働政策に関係し内閣府を中心に行われる実態調査(内閣府,2019)等,WLB実現への課題として経済学社会学的提言に向けた研究(武石,2011細見,2019),経営戦略としてWLBに関係した生産性評価や示唆を得る研究(西岡,2009山本・松浦,2011)など数多くみられるが,その対象の多くは管理職を除いた企業等の職場で大多数を占めるスタッフ従業員である.管理職へのWLB研究(坂爪,2009松原,2010)では,部下のWLB実現のための管理職の支援行動であり,看護師を対象としたWLB研究においても同様であった.水口・吾妻(2020)の看護師長自身のWLBに対する認識の特徴を明らかにした研究では,【看護師長には管理者役割があり,看護師長自身のWLBとスタッフのWLBは同じではないという認識がある】,【看護師長には,スタッフのWLB実現のために,ロールモデルとしていきいきとしている自分を見せる必要があるという認識がある】,【看護師長には,自身のWLB以前にすべてのスタッフが平等にWLBを実現できる職場づくりが重要であるという認識がある】,【看護師長は,WLB推進と自身のWLBについての限界とジレンマを認識している】の4つのテーマが示された.この結果からは,看護師長のWLBには管理職であることが深く関与していることがわかる.したがって,看護師長のWLB実現についての知見を得るためは,スタッフ看護師の尺度とは別の看護師長を対象とした尺度が必要である.WLBに関係する看護師長を対象とした尺度として,看護師のWLB実現に向けた看護師長のコンピテンシー評価尺度(鈴木・村中,2018)があり,また,看護職全般を対象としたWLBの尺度(村上,2014川村・鈴木,2016)は存在しているが,職位の区別はなく中間管理職である看護師長を対象とした尺度ではなかった.

以上のことから,本研究は,看護師長のWLBを推進するとともに部署のWLB推進に寄与するために,看護師長を対象としたWLB実現度尺度を開発し,尺度の妥当性と信頼性を検討することを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の定義

本研究において,ワーク・ライフ・バランス(WLB)とは,「個人それぞれのバランスで,仕事と生活の両立を無理なく実現できる状態のことであり,仕事と生活を調和させることで,両者間に好ましい相乗効果を高めようという考え方とその取り組み」とする(公益社団法人日本看護協会,2016).また,看護師長とは,「病棟等の看護単位である部署のトップであり,看護単位における管理責任者」とする.

2. 尺度原案の作成

尺度の原案を作成するにあたり,まず,看護師長のWLBについての概念を明らかにするため概念分析を実施した.データベースとして医学中央雑誌web版,J-STAGE,CiNii Articlesを使用し,「看護師長or看護管理者」and「ワーク・ライフ・バランスor WLB」で日本国内の文献を検索し,看護師長のWLBに関連する記述のある27文献を得た.それらにより概念分析を実施した結果,【ロールモデルとして実現を目指す看護師長の働き方】,【自分の意思で決定する仕事と生活のバランス】,【必要な休養・休暇を取れている状態】,【看護師長として責務を果たせている状態】,【仕事と私生活の調和に基づくキャリアの形成】の5つの属性カテゴリーを抽出した.次に,このカテゴリーすべてを網羅するようにコードを選択,活用するとともに関連する先行研究(村上,2014水口・吾妻,2020)を参考に112の尺度項目を抽出し,内容の検討を加え意味の重複する項目の削除や修正を行い88項目に絞った.

また,尺度項目の内容妥当性は,看護師長または看護師長等の役職経験者である6名のエキスパートへ88の尺度項目の内容について質問紙調査を行い,専門的立場からの判断,助言とともにContent Validity Index(CVI)を求めた(Lynn, 1986).調査結果より項目内容を検討し43項目,CVI = .91となった.

さらに表面妥当性は,看護における実践,研究,教育に携わる看護師資格を有する6名へ尺度の質問項目への回答とともに項目の内容,表現,配列,回答のしやすさ等についての意見を求めた.回答および意見の内容を基に再度項目を検討,修正し,尺度原案43項目を作成した.

3. 研究対象

研究対象は,一定以上の医療,看護の機能を保持した上で職員のWLBを推進している,単一診療科等特殊な状況の病院を除き,100床以上の日本医療機能評価機構病院機能評価認定病院で研究協力の承諾を得られた68施設に勤務する看護師長786名とした.

4. 調査方法

全国を8地方(北海道,東北,関東,中部,関西,中国,四国,九州)にブロック分けし,病床数の多い都府県と病床数の少ない県をブロックが偏らないように同程度の割合としてCovid-19感染状況を考慮しながら9都府県(山形,東京,山梨,愛知,滋賀,大阪,鳥取,香川,福岡)を選び,病院機能評価一般病院認定を受けた100床以上の241病院へ看護部長宛文書を郵送することにより研究協力を依頼,承諾の得られた病院68施設において調査を実施した.調査は無記名自記式とし,対象数の質問紙を病院へ郵送し対象者への配布を依頼,記入後に返信用封筒を使用した個別返送による回収を行った.また,再テストとして1回目の調査用紙郵送の1か月後に2回目の質問紙を病院へ郵送し,個別返送による回収で再調査を実施した.再調査では,1回目の質問紙と同封の説明用紙に付した個別のマッチングコードを2回目の質問紙へ回答者に記入してもらいデータのマッチングを行った.すべての調査期間は,2021年5月~10月である.

5. 調査内容

1) 対象者の属性

対象者の属性に関する調査内容は,WLB実現度に影響し得る背景として,性別,年齢,経験年数,所属施設の設置主体および病床数,部署,育児・介護の有無,Covid-19対応の有無等とした.

2) 看護師長を対象としたWLB実現度尺度原案

看護師長を対象としたWLB実現度尺度の原案43項目について,「1.あてはまらない」~「5.よくあてはまる」の5件法での回答を求めた.

3) 看護職の仕事と生活の実現度尺度

基準関連妥当性を検討するため,看護職の仕事と生活の調和実現度尺度(村上,2014)を用いた.この尺度は,育休明け看護職のWLBと上司の支援との研究(岩谷・津本,2020)において看護職のWLB実現度を測定する尺度として使用されている職位を限定せずに管理職を含んだ看護職全般の仕事と生活の調和状態を測定する尺度であり,「時間の調整」「仕事のやりがい・職場の支援」「仕事以外の過ごし方」「家庭での過ごし方・家庭の支援」「仕事とプライベートの切り替え」の5因子28項目で構成されている.尺度は,内的整合性,構成概念妥当性,基準関連妥当性が確認されており,使用にあたっては開発者の許可を得た.

4) 組織コミットメント尺度(情動的コミットメント)日本語版

高橋・渡辺(1999)により日本語版の開発が行われた尺度であり,情動的,継続的,規範的の3次元組織コミットメント尺度として各次元での信頼性,妥当性が検証されている.尺度は次元ごとに8項目,「あてはまる」「少しあてはまる」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の4件法である.この尺度は,看護職における両立支援的組織文化の組織コミットメント,職業継続意思への影響の研究(下條・朝倉,2016)で組織コミットメントを測定する尺度として使用されており,WLBに関係する両立支援や職業継続と組織コミットメントとの関連が明らかになっている.すなわち,WLBと組織コミットメントには関連性が十分に予測される.そのため最も一般的な組織コミットメントを示す「情動的コミットメント」8項目について調査内容へ加えた.日本語版翻訳・開発者の渡辺直登先生の許可を得て使用した.

5) 看護師のWLB実現に向けた看護師長のコンピテンシー評価尺度

鈴木・村中(2018)により開発された看護師のWLB実現を支援する上での看護師長のコンピテンシーを評価する尺度であり,「組織目標の明確化とキャリア支援」「ビジョンの共有」「個の能力を活かした運営管理」「看護実践における問題解決行動」「WLB支援制度の理解の促進」「休暇取得の透明性・公平性の確保」「中間管理職としての責任ある行動」「対人関係構築の基盤となる柔軟性」「スタッフの動機づけを高める承認」の9因子41項目で構成されている.この尺度は,看護師長のWLBの概念分析から抽出された属性の【ロールモデルとして実現を目指す看護師長の働き方】と【看護師長として責務を果たせている状態】と関連性があり,看護師長を対象とした本尺度の特性を検討するために調査内容に加えた.回答は「1.全く行っていない」~「5.常に行っている」の5件法である.尺度の内的整合性,構成概念妥当性が確認されており,開発者の許可を得て使用した.

6. 分析方法

統計解析には,IBM SPSS Statistics ver. 28.0およびAmos ver. 28.0を使用した.

1) 項目分析

各項目において天井効果と床効果,項目間相関分析,Item-Total(I-T)相関分析,Good-Poor analysis(G-P)分析を行った.

2) 妥当性の検討

構成概念妥当性を検討するために項目分析で整理した項目について最尤法,プロマックス回転による探索的因子分析を行い,因子を解釈,検討し因子名をつけた.次に共分散構造分析を用いた確認的因子分析を行い,モデル適合度を確認した.基準関連妥当性として,看護職の仕事と生活の調和実現度尺度との相関係数を算出し検討を行った.また,尺度の因子構造の特徴を明らかにするために関連性が予測される既存尺度である組織(情動的)コミットメント尺度および看護師のWLB実現に向けた看護師長のコンピテンシー評価尺度との相関分析を行った.

3) 信頼性の検討

内的整合性の確認のため,尺度全体と各因子のCronbachのα係数を算出した.また,安定性を確認するために1カ月の間隔をあけて再テストを実施し,1回目の得点との相関係数を求めた.

7. 倫理的配慮

対象者へ研究の目的,方法,調査票は無記名で参加は自由意思であること,データの管理を厳重に行い個人情報の保護を厳守することなどについて文書で説明し,質問紙への回答,返送により同意の意思を確認した.また,本研究は京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得て実施した(受付番号:ERB-E-472).

Ⅲ. 結果

1. 対象者の属性(表1

調査の回収数は571(回収率72.6%),欠損値のある回答を除外した有効回答数は479(有効回答率83.9%)であった.対象者は女性459名(95.8%),男性20名(4.2%)であり,50歳代が278名(58%)と最も多く,看護師長経験年数は5.7 ± 4.6年であった.

表1  対象者の属性 N = 479
項 目 人数 %
性別 女性 459 95.8
男性 20 4.2
年齢 30歳代 10 2.1
40歳代 183 38.2
50歳代 278 58.0
60歳代 8 1.7
所属施設-設置主体 国立等 53 11.1
公的医療機関 258 53.9
社会保険関連団体 13 2.7
医療法人 98 20.4
その他の法人 57 11.9
-病床数 100~199 67 14.0
200~299 55 11.5
300~399 68 14.2
400~499 58 12.1
500以上 231 48.2
所属部署 急性期一般病棟 186 38.8
慢性期一般病棟 3 0.6
回復期リハ病棟 9 1.9
地域包括ケア病棟 22 4.6
療養病棟 9 1.9
精神科病棟 2 0.4
産科・婦人科病棟 20 4.2
小児病棟 17 3.6
ICU/CCU/SCU 26 5.4
手術室 31 6.5
外来 50 10.4
その他 104 21.7
育児 育児無し 421 87.9
育児有り-補助者有り 52 10.9
育児有り-補助者無し 6 1.2
介護 介護無し 392 81.8
介護有り-補助者有り 76 15.9
介護有り-補助者無し 11 2.3
COVID-19対応 病院対応無し 44 9.2
病院対応有り-部署対応無し 299 62.4
病院対応有り-部署対応有り 136 28.4
平均値 標準偏差 範囲
看護師経験年数 28.1 5.6 11.3~42.3
看護師長経験年数 5.7 4.6 0.1~26.2
現部署師長年数 1.9 2.1 0.1~13.3

2. 項目分析

天井効果は認められなかったが,1項目で床効果がみられ削除の対象となった.項目間では,2項目ずつ計4項目が相関係数.7以上であったが,1項目のみを削除し,エキスパートの助言を受けて追加修正している項目は削除しないこととした.I-T相関では相関係数.3未満であった1項目を削除した.G-P分析では,削除の対象となる項目は認められなかった.尺度原案43項目について項目分析を実施した結果,3項目が削除となった.

3. 探索的因子分析(表2

項目分析後に最尤法,プロマックス回転での探索的因子分析を行った.固有値が1以上であることとスクリープロットの確認から因子数を4~6因子,因子負荷量.4以上,2つ以上の因子で高い因子負荷量を示さないことを抽出の基準として項目の削除,選定を行いながら因子分析を繰り返した.最終的に看護師長のWLB実現度尺度として27項目6因子構造を得た.

表2  看護師長のWLB実現度尺度の探索的因子分析
項 目(項目末*は反転項目) 第Ⅰ因子 第Ⅱ因子 第Ⅲ因子 第Ⅳ因子 第Ⅴ因子 第Ⅵ因子 共通性
第Ⅰ因子:持続可能性(11項目)α = .902
25. 仕事も私生活もどちらも犠牲にしていない .827 .050 –.042 –.021 –.023 –.079 .606
26. 仕事と私生活との切り替えがうまくできている .797 –.088 .029 .048 .004 .017 .607
28. 部下へWLBの模範を示し,ロールモデルとなることができている .737 –.063 –.031 –.088 .018 .253 .576
40. 仕事と私生活のバランスが自分の希望する状態で保たれている .717 –.036 –.042 .006 .222 .038 .673
20. 趣味のための時間を持つことができている .709 .099 .008 .041 –.067 –.113 .505
4. 職場の仕事を家に持ち帰ることが多く,負担だ* .673 –.109 –.041 –.006 .072 –.066 .401
34. 自分の私生活を大切にしている .654 .020 .119 .026 –.162 .051 .471
24. 家族(または重要な他者)と余暇を楽しむために,勤務の調整をすることができている .652 .129 .062 .070 –.147 –.090 .474
27. 仕事と私生活のスケジュールを自分の意志で決定している .631 .157 .060 –.081 –.103 .068 .494
23. 睡眠時間が不足している* .548 –.155 –.013 –.096 .142 –.050 .306
30. 仕事を続けられるかどうか不安がある* .472 .006 –.050 .128 .227 –.161 .387
第Ⅱ因子:職場環境(6項目)α = .836
9. 上司(看護部長・副部長)は,あなたの仕事上の問題や希望を把握している –.091 .794 –.030 –.088 .193 –.013 .608
10. 仕事と私生活の両立について上司(看護部長・副部長)の支援がある .099 .760 –.071 –.129 .026 .083 .577
19. 自分の仕事の成果は公平に評価されている –.048 .742 –.030 –.002 .013 –.023 .467
12. 必要な時に上司(看護部長・副部長)や同僚看護師長または部下の看護師に業務上の協力を求めることができる .075 .634 .087 .114 –.068 –.014 .526
11. 現在の働き方について,同僚看護師長と相談することができ,理解が得られている –.088 .619 .001 .094 –.084 –.021 .378
1. 職場(所属する病院組織全体)には協力し合う雰囲気がある .017 .430 .055 .021 .110 .025 .329
第Ⅲ因子:私生活における関係性(3項目)α = .757
22. 仕事と私生活の両立にあたり,家族(または重要な他者)などの協力がある –.002 –.036 .950 –.149 .069 .023 .520
15. 仕事と私生活の両立について,家族(または重要な他者)の理解がある –.005 .012 .606 .133 –.026 .000 .429
21. 家族(または重要な他者)とともに過ごす時間は,楽しい .033 .004 .604 .077 .056 –.016 .445
第Ⅳ因子:職責の遂行(3項目)α = .725
41. 看護師長として仕事上の責務を果たすことを意識している –.148 –.010 .087 .804 .035 –.025 .422
39. 業務遂行にあたって,優先順位を意識している .095 .026 –.045 .626 –.041 .129 .432
42. 自部署の様子を俯瞰することができている .150 –.024 –.081 .462 .128 .134 .382
第Ⅴ因子:仕事に対する満足(2項目)α = .854
8. 自分に割り当てられている仕事の量に満足している .126 .027 .053 –.042 .802 .054 .669
7. 自分に割り当てられている仕事の内容(配置部署・職位・職務)に満足している –.030 .138 .036 .097 .755 –.037 .620
第Ⅵ因子:WLBの推進(2項目)α = .710
35. 部署では部下へWLB推進の働きかけをしている –.049 .017 –.024 .024 .022 .830 .436
17. 部下のWLBを意識している –.087 –.004 .050 .150 –.022 .607 .399
因子相関行列 第Ⅰ因子 1
第Ⅱ因子 .506 1
第Ⅲ因子 .336 .308 1
第Ⅳ因子 .293 .336 .302 1
第Ⅴ因子 .495 .499 .019 .275 1
第Ⅵ因子 .307 .214 .212 .521 .283 1

※因子抽出法:最尤法 プロマックス法

尺度全体のCronbachのα = .911

第I因子は,私生活が充実していることや希望が叶っており無理がないことなどから続けていける状態であることを示した内容であり,【持続可能性】と命名した.第II因子は,職場の雰囲気や上司,同僚,部下の状況等職場についての内容であり,【職場環境】と命名した.第III因子は,家族等の私生活で関わる人々との状況や理解についての内容であり,【私生活における関係性】と命名した.第IV因子は,看護師長としての責務や業務遂行に関する内容であり,【職責の遂行】と命名した.第V因子は,仕事の量や内容に対する満足についての内容であり,【仕事に対する満足】と命名した.第VI因子は,部下のWLBへの関与についての内容であり,【WLBの推進】と命名した.

4. 確認的因子分析(図1

探索的因子分析で得た27項目6因子の本尺度について確認的因子分析を実施した.モデル適合度は,GFI = .874,AGFI = .846,CFI = .900,RMSEA = .062であった.

図1 

看護師長のWLB実現度尺度の確認的因子分析

5. 基準関連妥当性の検討

基準関連妥当性の検討として,本尺度と既存尺度である看護職の仕事と生活の調和実現度尺度との相関分析の結果,合計得点においてr = .879の高い相関を認めた.因子別では,本尺度第VI因子の【WLBの推進】を除く5つの因子と既存尺度全因子との間で.435~.836の中程度以上の相関を認めた.

6. 既存尺度との関連性の検討

本尺度との関連性が予測される2つの既存尺度と合計得点および因子間の相関分析を行った結果,組織(情動的)コミットメント尺度の合計得点とでは,合計得点間.507,第II因子の【職場環境】.508,第V因子の【仕事に対する満足】.487で中程度の相関を認め,看護師のWLB実現に向けた看護師長のコンピテンシー評価尺度とでは,合計得点間.416,本尺度第IV因子の【職責の遂行】と既存尺度因子5〈WLB支援体制の理解の推進〉以外の8つの因子.410~.600,第VI因子の【WLBの推進】と因子1〈組織目標の明確化とキャリア支援〉.450,因子5〈WLB支援体制の理解の推進〉.422,因子6〈休暇取得の透明性・公平性確保〉.449とで中程度の相関を認めた.

7. 信頼性の検討

尺度全体のCronbachのα係数は.911,各因子では.710~.902であった(表2).再テスト法では,2回目の調査票回収数397のうち1回目とのマッチングができ属性に変化のなかった314を分析の対象とした.尺度全体の信頼性係数は.862,各因子では.664~.869であった.

Ⅳ. 考察

1. 尺度の因子構造

看護師長のWLB実現度尺度の因子構造として【持続可能性】【職場環境】【私生活における関係性】【職責の遂行】【仕事に対する満足】【WLBの推進】の6因子が抽出された.

加藤・山田(2014)は,看護師のWLBの構成概念として〈仕事の充実感の獲得〉,〈仕事と家庭の間でのバランシング〉,〈私生活の優先〉,〈私生活でのリラクセーション〉,〈仕事の優先〉,〈仕事と家庭の責任を同時に全う〉の6つを抽出しており,これらの構成概念は本尺度の抽出因子【持続可能性】【職場環境】【私生活における関係性】【職責の遂行】【仕事に対する満足】と意味の上での一致が認められた.看護師のWLBと看護師長のWLBとの相違点として,看護師のWLBには【WLBの推進】という概念が存在しないこと,また,仕事に関係する【職責の遂行】,〈仕事の充実感の獲得〉や【仕事に対する満足】については概念,因子としてはどちらにも存在するが,具体的な質問項目である因子内のコード,項目内容に違いがあることが考えられる.これらは,看護師長が管理者という職位にあり,仕事内容に違いがあることが要因であると考えられる.WLB管理職に関する調査の概要と提言(内閣府,2014)では,部下のWLBを支援できることが管理職の基本的な要件であり,多くの職場において自分の生活を大切にし,配慮,支援をするWLB管理職が望ましい管理職像となったとある.管理職である看護師長のWLB実現において,【WLBの推進】は因子として適したものであると考えられる.本尺度との関連性が予測される2つの既存尺度との相関分析の結果からは,組織(情動的)コミットメントと【職場環境】【仕事に対する満足】の2因子が関連しており,看護師のWLB実現に向けた看護師長のコンピテンシーとは,【職責の遂行】【WLBの推進】の2因子において関連性が認められた.以上のことから,抽出した因子の構造は妥当であることが示唆された.

2. 尺度の妥当性と信頼性

共分散構造分析のモデル適合度では,GFIは.900以上であれば説明力があり,AGFI,CFIは1に近いほど,RMSEAは.050以下であれば当てはまりが良く.100以上であれば当てはまりが良くないと判断する(豊田,2007).本尺度におけるモデル適合度は,GFI = .874,AGFI = .846,CFI = .900,RMSEA = .062と良好判断の基準値を上回るものではないが,概ね基準値に近い値であり妥当であると判断した.基準関連妥当性の検討として,本尺度の得点が高い場合同様に得点が高くなることが予測される看護職の仕事と生活の調和実現度尺度との相関分析を行った結果,高い相関を示し妥当性が確認された.

信頼性としては,本尺度全体のCronbachのα係数は.911であり,信頼性係数は高く内的整合性が確認された.また,再テストにおいても良好な安定性を確認した.

3. 対象者属性の特徴

対象者の属性は,性別では女性,年代では50歳代,所属施設は,公的医療機関で500床以上,部署は急性期一般病棟,育児・介護無し,Covid-19は病院対応有り部署対応無しという中心的属性の比率が高く,比較的代表性の高い属性であったことからばらつきの少ない結果となったことが考えられる.また,現部署師長年数平均が1.9年であり,同一部署勤務年数が短い対象者が多いことも結果に影響していることが考えられる.

4. 尺度の意義

労働基準法(第41条)には管理(監督)者の労働時間等に関する規定の適用除外が定められている.その現状において,武石(2011)は,日本で管理職の短時間勤務者はごく少数にとどまっており,管理職層の働き方を変えていくことのWLBへの影響は極めて大きなものがある,と述べている.本尺度により看護師のWLB実現へ影響する看護師長のWLB実現度を把握し評価する資料を収集し,その状況を検討することが可能となる.さらに,WLB推進研修の材料として利用することも可能であり,看護職の離職防止や人員確保を志向したマネジメントの向上に寄与できると考える.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

本尺度の開発過程において,項目分析および探索的因子分析の段階で床効果のあった項目と因子負荷量の低い項目が削除となった.探索的因子分析では,因子数4~6,因子負荷量.35~.40の間で設定基準を変更して因子分析を繰り返したが,因子内および全項目数ともにほぼ同様の結果となったため最も当てはまりのよい分析結果を採用した.削除された項目の中にはWLB実現度を評価するための重要な項目が含まれていた可能性があり,項目数の少ない因子も存在することから,看護師長のWLB実現度について幅広く網羅された十分な項目であるとは言い難い.また,社会および医療の状況は変化を続けており,今回の対象は中心的属性の比率が高かったことから,属性の傾向,状況変化により変動が生じる可能性がある.今後は網羅的な項目の充実と社会状況の変化に見合った尺度項目の再検討を続けていく必要がある.

Ⅵ. 結論

本研究で開発した看護師長のWLB実現度尺度は,【持続可能性】【職場環境】【私生活における関係性】【職責の遂行】【仕事に対する満足】【WLBの推進】の6因子27項目で構成された.また,本尺度の妥当性と信頼性が確認された.

謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただきました看護師長の皆様および関係者の皆様へ深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SMは研究の着想から原稿作成までの全プロセスに貢献,TAは研究デザイン,データ収集および原稿作成に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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