日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
訪問看護に従事する看護師を対象としたICTスキル自己評価尺度の開発
前田 修子福田 守良蘭 直美森山 学
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 43 巻 p. 89-98

詳細
Abstract

目的:訪問看護に従事する看護師のInformation and Communication Technology(以下ICT)スキルを測定する尺度を作成し,作成した尺度の信頼性と妥当性を検討する.

方法:2022年5月,訪問看護ステーション1,000箇所の管理者宛てに調査依頼を郵送し,訪問看護に従事する看護師156名を分析対象者とした.調査内容は個人特性,訪問看護業務におけるICT機器使用状況,訪問看護業務に関連したICTスキル22項目とした.

結果:3因子14項目が抽出され,因子1【医療情報を適切に保存・送信するスキル】,因子2【組織的セキュリティに関するスキル】,因子3【有効なパスワード設定と保護に関するスキル】と命名した.Cronbachのα係数は全体で0.91,因子1は0.88,因子2は0.79,因子3は0.76であった.GFIは0.91,AGFIは0.83,CFIは0.88,RMSEAは0.09,SRMRは0.06であった.

結論:本尺度の信頼性・妥当性は許容範囲である.

Translated Abstract

Objective: To develop the scale to measure the information and communication technology (ICT) skills of home visiting nurses and to examine the developed scale’s reliability and validity.

Method: We mailed a survey to managers at 1,000 visiting nurse stations in May 2022 and analyzed the responses of 156 nurses. The survey included questions on individual characteristics and the status of the use of ICT devices in and 22 ICT skills related to visiting nurse services.

Results: We extracted three factors, namely, Factor 1 [Skills for appropriately storing and sending medical information], Factor 2 [Skills related to organizational security], and Factor 3 [Skills related to the setting of a valid password and its protection], and 14 items. The Cronbach’s alpha coefficient for the entire scale was 0.91 and for Factors 1, 2, and 3 was 0.88, 0.79, and 0.76, respectively. GFI was 0.91, AGFI was 0.83, CFI was 0.88, RMSEA was 0.09, and SRMR was 0.06.

Conclusion: We confirmed that the scale’s reliability and validity were acceptable.

Ⅰ. 背景

医療・介護におけるInformation and Communication Technology(以下ICT)は,2014年に医療介護総合確保方針のひとつに位置付けられ,地域包括ケアシステムを推進する柱として期待されている.ICTを活用した医療情報連携ネットワークは,地域医療再生基金や地域医療介護総合確保基金により2011年頃を境として急増し,2020年時点で約270ネットワークに拡充したが(日本医師会総合政策研究機構,2021),稼働状況の調査によると,あまり活用されていないネットワークもあることが報告されている(厚生労働省,2019).

診療報酬・介護報酬改正では,対面カンファレンスのオンラインへの置き換えやICTを活用した診療が拡大している.さらに,2022年の診療報酬改定では,サイバーセキュリティ対策の整備が診療録管理加算の要件となるなど,ICT活用における安全管理体制が重要視された.訪問看護では,訪問看護記録電子化への移行率は3年間で15%上昇し,2018年には38.6%となった(日本訪問看護事業協会,2019).訪問看護記録の電子化は,他機関と情報をやりとりすること,施設外からデータアクセスやデータ送信することから,訪問看護に従事する看護師は,より一層のICTを活用する技術的な能力が必要と予測される.

ICT活用は各分野で期待され,活用する技術的能力として「総務省ICTスキル総合習得プログラム」(総務省,2017)や教員のICT活用指導力チェックリスト(文部科学省,2018)が提示されているが,医療分野から示されているものはない.これまでに看護師や看護学生のICTを活用する技術的な能力について取り扱った論文は国外を中心に報告され,コンピュータリテラシー(Gürdaş Topkaya & Kaya, 2015),コンピュータスキル(Mugomeri et al., 2016),デジタルリテラシー(Lokmic-Tomkins et al., 2022)などが報告されている.しかし,これらはいずれも概念が明確ではなく,看護実践に特化したものとはなっていない.Passyらは,情報化社会を生き抜くために必要な力としてDigital AgencyをDigital competence,Digital confidence,Digital accountabilityで構成されると概念整理しているが(Passey et al., 2018),技術的能力だけなく知識・精神面・倫理観が含まれ複雑であることから看護実践に応用するには難しい.以上,国の施策や先行研究の状況から,本研究では,ICTを活用する技術的な能力をICTスキルと定義することにした.

これまでの論文によると,看護師の半数以上はICTスキルに不足があり,不安を抱え(Mugomeri et al., 2016Top & Yilmaz, 2015菖蒲澤・山内,2007Hwang & Park, 2011),年齢・学歴・経験年数・職場からの影響(Manal & Lynn, 2018Mugomeri et al., 2016)を受けていることが報告されている.そして,看護師のICTスキルの低さはコンピュータ不安,コンピュータ活用への後ろ向き態度,自己効力感の低下を招くことが報告されている(Top & Yilmaz, 2015Gürdaş Topkaya & Kaya, 2015).しかし,訪問看護業務に着目しICTスキルを調査したものはない.今後,地域包括ケアシステムの構築に向け,看護師が訪問看護業務においてICTを活用していくには,他の看護実践と同様に,ICTスキルも質保証が必要となってくる.そのためには,訪問看護業務に特化したICTスキルやその実態から,ICTスキルの質保証への組織や教育体制の構築が必要となってくる.

国内で看護師のICTスキルを取り扱った尺度には,中間看護管理者を対象とした「中間看護管理者の看護管理情報活用力尺度」(伊津美・真嶋,2017),看護学生を対象とした「看護情報学カリキュラムマネジメント確立のための看護情報能力尺度」(坂本・永峯,2020),看護師を対象とした「看護情報能力尺度(NICS)」の日本版(藤野・豊福,2020)がある.これらは情報活用や情報の取り扱いから機器操作まで幅広いものであり,構成因子として,情報活用に関する基礎的知識,データの整理・分析・管理などハード・ソフトウェアの知識・操作,情報漏洩・ウイルス感染を防止するための情報の安全な取り扱いなどがあげられている.しかし,他機関とのデータ送受信や施設外からのデータアクセスが想定される訪問看護業務では,セキュリティ対策につながる技術面での不足が予測される.そのため,訪問看護に従事する看護師向けには,セキュリティ面に配慮し,安全に他機関とのデータ送受信,施設外からのデータアクセスも含めたICTスキルを測定する尺度が必要であると考える.

そこで本研究では,訪問看護に従事する看護師のICTスキルを測定・評価できる尺度の開発を目指すことにした.尺度を活用することにより,訪問看護に従事する看護師のICTスキルの実態を把握し,現状の把握・分析に基づいた研修立案やICT機器開発の一助となると期待できる.また,ICTスキルの向上を目指すことで,訪問看護業務へのICT活用推進につながることが期待できると考える.

Ⅱ. 研究目的

「訪問看護に従事する看護師を対象としたICTスキル自己評価尺度」を作成し,尺度の信頼性と妥当性を検討する.

Ⅲ. 方法

1. 対象者・データ収集方法

対象者は,勤務形態(常勤,非常勤)や役職の有無(管理者,スタッフ等)は問わず,訪問看護に従事する看護師とした.2022年5月,訪問看護ステーション1,000箇所の管理者宛てに調査用QRコードを貼り付けた調査依頼を郵送し,各訪問看護ステーション1名以上の協力参加を依頼した.回答はWEBにてデータ収集した.1,000箇所の抽出は,一般社団法人全国訪問看護事業協会のホームページに公開されている正会員リスト7,054箇所(令和3年9月)から,ランダム抽出する層化抽出法を行った.

2. 調査内容

1) 個人特性

年齢,看護師経験年数,訪問看護経験年数,最終学歴,役職の有無,私的に使用しているICT機器の種類について調査した.

2) 訪問看護業務におけるICT機器使用状況

仕事で使用しているICT機器の種類,訪問看護記録作成(訪問時の経過記録)での電子カルテ使用有無,訪問先でのICT機器へのデータ入力有無,訪問先からICT機器を用いたデータ送信有無,地域連携情報共有システム使用経験有無について調査した.

3) 訪問看護業務に関連したICTスキル

訪問看護業務に関連したICTスキルを作成するにあたり,関連する用語の操作的定義を行った.「訪問看護に従事する看護師のICTスキル」とは,「訪問看護業務においてICTを活用する技術的な能力」とした.「訪問看護業務」は,訪問看護業務を主治医の指示に基づいた利用者の療養上の世話,診療の補助,家族支援,多職種連携とした.活用することが想定されるICT機器とは,インターネットによる通信が可能なパーソナルコンピューター(以下,パソコン),タブレットパソコン(以下,タブレット),スマートフォンとした.また,「スキル」とは技術的能力とした.

22項目の作成プロセスは,まず「中間看護管理者の看護管理情報活用力尺度」(伊津美・真嶋,2017)から20項目,「看護情報学カリキュラムマネジメント確立のための看護情報能力尺度」(坂本・永峯,2020)から24項目,「看護情報能力尺度(NICS)日本版」(藤野・豊福,2020)から21項目,「テレナーシングガイドライン」(日本在宅ケア学会,2021)から27項目,訪問看護ステーションのICTスキルにおけるセキュリティ対策が記載されている「訪問看護ステーション開設・運営・評価マニュアル」(日本訪問看護振興財団,2021)から17項目,合計109項目を抽出した.次に,訪問看護に従事する看護師のICTスキルの項目を作成していくため,109項目について重複を取り除いた上で,①ICTスキルは技術的な能力と定義しているため技術に関する項目を採択し,知識に関する項目は削除した.②訪問看護に従事する看護師のICTスキルであるため,訪問看護業務を主治医の指示に基づいた利用者の療養上の世話,診療の補助,家族支援に関すること,医師など他職種との連携とし,それらを実践する上で必要となる項目を採択し,自己学習のための情報検索など訪問看護業務に該当しない項目は削除した.③訪問看護に従事する看護師に必要な項目を採択するため,ステーションの管理・運営に関する項目は管理者に特化し必要な項目であると捉え削除した.④問われているスキルの意味がわかりにくい項目は削除した.⑤項目それぞれを,訪問看護業務に合わせた表現とし,他機関と情報をやりとり,施設外からデータアクセスやデータ送信を想定した表現とした.①~⑤のプロセスにより17項目となった.次に,⑥セキュリティやプライバシー保護に配慮した尺度を目指すため,データの送信だけでなく,送信方法の選択など情報の漏洩防止のために必要な項目を補充した.⑦セキュリティやプライバシー保護に関する内容が網羅できていることを確認するために,情報セキュリティ保護に関する専門家の助言を受け,補充や表現の修正を行なった.この際,情報セキュリティ対策の種類や情報漏洩リスクの原因種類による項目の補足を行なった.⑧役職の有無や年齢にかかわらず理解できる内容になるように3名の訪問看護に従事する看護師に,内容の理解・回答しづらさなどについて確認を行い表現の修正を行なった.これらのプロセスにより22項目のICTスキルを作成した.

作成した22項目は,療養上の世話や診療の補助に関する4項目,家族支援1項目,多職種連携7項目,これら訪問看護業務を実践する上でのセキュリティ対策10項目から構成された.

作成した22項目について5段階リッカート尺度(とてもあてはまる(5),ややあてはまる(4),どちらともいえない(3),あまりあてはまらない(2),全くあてはまらない(1))で回答を求めた.

3. 分析方法

各種単純集計の後,統計分析を行った.解析には,統計ソフトSPSS Statistics Ver. 28.0(IBM),AMOS 28 Graphics(IBM)を用いた.統計的有意水準は5%未満とした.

1) 項目分析

全項目に回答が得られたものを分析対象とした.次に,各項目の平均値・標準偏差による天井効果と床効果の確認,I-T相関分析,項目間相関分析,G-P分析を実施した.天井効果と床効果は,平均値±標準偏差がとり得る値の上限・下限を超えているものを判断基準とした.探索的因子分析への投入除外基準(天井効果,床効果,I-T相関分析の相関係数が0.3以下,項目間相関分析の相関係数が0.7以上,G-P分析で有意差が確認されない)をもとに,除外する項目を検討した.

2) 探索的因子分析

尺度項目を同定するため,プロマックス回転を用いて探索的因子分析を行い,共通性,スクリープロット,適合度,因子負荷量,パターン行列を確認し,因子数はカイザーガットマン基準から固有値が1.0以上になる因子数とし,尺度項目は共通性が0.3以上,因子負荷量が0.4以上を基準に検討した.なお,複数の因子で因子負荷量が0.4以上となるダブルローディングの確認を行った.尺度の信頼性については,Cronbachのα係数を算出し,0.70以上を判断基準とし,内的整合性を検証した.

3) 確証的因子分析

得られた因子構造をもとにモデル適合度を確認するために,共分散構造分析を用いた確証的因子分析を実施し,構成概念妥当性を検討した.モデルの適合度は,適合度指標GFI(Goodness Fit of Index),自由度調整済み適合度指標AGFI(Adjusted Goodness of Fit Index)は,比較適合度指標CFI(Comparative Fit Index),SRMR(Standardized Root Mean square Residual),平均二乗誤差平方根RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)によって評価した.

4) 判別妥当性の検討

看護師の特性や訪問看護業務におけるICT機器使用状況などと尺度全体得点,下位尺度得点のグループ間の差をMann-WhitneyのU検定を用いて分析し,判別妥当性を検証した.

4. 倫理的配慮

本研究は金沢医科大学医学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:I723).研究依頼文には,研究参加の自由,不参加による不利益がないこと,研究目的・方法・研究成果の活用等について明記し,本研究への協力は,調査内容への回答をもって同意を得たものとした.

Ⅳ. 結果

1. 分析対象

訪問看護ステーション1,000箇所に研究協力依頼し,157名から回答の入力が得られた.そのうち,訪問看護経験年数が看護師経験年数を超過していたため誤記入と考えられた1名を対象から除外し,156名を分析対象者とした.

2. 個人特性

年齢,看護師経験年数,訪問看護経験年数,最終学歴,役職の有無は表1に示した(表1).私的に使用しているICT機器の種類は,複数回答でパソコン120名,タブレット73名,スマートフォン148名,スマートフォン以外の携帯電話19名であった.

表1  個人特性 N = 156
項目 中央値 最小~最大
年齢 49.00 24~73
看護師経験年数 23.10 0.1~41.2
訪問看護経験年数 5.95 0.1~34.2
n %
最終学歴(看護師教育課程) 1.専門学校 121 77.6
2.短期大学 10 6.4
3.大学 13 8.3
4.大学院 3 1.9
5.その他 9 5.8
役職の有無 1.管理者 81 51.9
2.スタッフ 69 44.2
3.その他 6 3.8

3. 訪問看護業務におけるICT機器使用状況

仕事で使用しているICT機器の種類は,複数回答で,パソコン141名,タブレット114名,スマートフォン97名,スマートフォン以外の携帯電話40名であった.訪問看護記録作成(訪問時の経過記録)の電子カルテ使用有り132名,訪問先でのICT機器へのデータ入力有り105名,訪問先からICT機器を用いたデータ送信有り99名,ICTを用いた『地域連携情報共有システム』使用経験有り85名であった.

4. 訪問看護業務に関連したICT活用スキル尺度項目の同定

1) 項目分析

天井効果は7項目(No. 1, 2, 4, 5, 6, 9, 19)に確認されたが床効果は確認されなかった.天井効果がみられた7項目の回答分布を確認し,平均値4点以上であり,かつ標準偏差が1.0未満の項目(No. 4と5)は分散が少なく識別力がないと判断し削除することとした.I-T相関分析の結果0.30以下の項目はなかった.G-P分析は,尺度の合計点数を3群に分け,下位群(72点以下)40名と上位群(87点以上)51名の各項目の平均値をt検定で分析した結果,全項目で上位群の平均点が有意に高かった(表2).項目間相関分析の結果,No. 17と18の相関係数は0.80と高く,因子分析の結果に影響を与えるためNo. 17を削除することとした.以上から,3項目(No. 4, 5, 17)を除いた19項目を探索的因子分析の対象とした.

表2  訪問看護に従事する看護師を対象としたICTスキル自己評価尺度原案と項目分析 N = 156
質問項目 全くあてはまらない
n(%)
あまりあてはまらない
n(%)
どちらともいえない
n(%)
ややあてはまる
n(%)
とてもあてはまる
n(%)
平均 標準偏差 中央値 I-T相関 G-P分析
No. 1 ソフトを最新版にアップデート(更新)できる. 14(9.0%) 10(6.4%) 20(12.8%) 51(32.7%) 61(39.1%) 3.87 1.26 4 .63 <.001
No. 2 パソコンやタブレットの動作がおかしくなった時に応援を求めて問題を解決できる. 6(3.8%) 8(5.1%) 21(13.5%) 53(34.0%) 68(43.6%) 4.08 1.06 4 .59 <.001
No. 3 WEB会議システムに必要な機器を設定できる(WEB会議システムのアプリ,WEBカメラ,マイク,ヘッドセットの設定). 16(10.3%) 28(17.9%) 20(12.8%) 41(26.3%) 51(32.7%) 3.53 1.38 4 .62 <.001
No. 4 ソフトを用いて,文書を作成できる. 5(3.2%) 6(3.8%) 9(5.8%) 48(30.8%) 88(56.4%) 4.33 0.98 5 .57 <.001
No. 5 画像(創部の写真など)をパソコンに保存できる. 4(2.6%) 3(1.9%) 9(5.8%) 41(26.3%) 99(63.5%) 4.46 0.89 5 .66 <.001
No. 6 情報の欠落がないように書類をスキャンできる. 16(10.3%) 11(7.1%) 38(24.4%) 31(19.9%) 60(38.5%) 3.69 1.32 4 .60 <.001
No. 7 情報の種類(個人情報の有無や重要性)に応じて,保存方法を選択できる(クラウド,USB,パソコン). 10(6.4%) 14(9.0%) 38(24.4%) 50(32.1%) 44(28.2%) 3.67 1.17 4 .77 <.001
No. 8 外付けハードディスクなどに,データのバッグアップをとることができる. 23(14.7%) 21(13.5%) 43(27.6%) 37(23.7%) 32(20.5%) 3.22 1.32 3 .72 <.001
No. 9 文書や画像を,関係機関に送信できる. 12(7.7%) 8(5.1%) 19(12.2%) 52(33.3%) 65(41.7%) 3.96 1.20 4 .69 <.001
No. 10 データ通信容量制限を確認し,動画を関係機関に送信できる. 29(18.6%) 22(14.1%) 47(30.1%) 33(21.2%) 25(16.0%) 3.02 1.32 3 .66 <.001
No. 11 個人情報を含む文書・画像のメール添付は,電子メールを暗号化した上で,送信できる. 44(28.2%) 33(21.2%) 39(25.0%) 22(14.1%) 18(11.5%) 2.60 1.34 3 .63 <.001
No. 12 個人情報を含む医療情報は,Facebook,グーグル,LINE等(パブリックSNS)以外を用いて送信できる. 32(20.5%) 11(7.1%) 30(19.2%) 39(25.0%) 44(28.2%) 3.33 1.47 4 .55 <.001
No. 13 外でのデータ通信は,無料Wi-Fi(公衆無線LAN)以外を用いることができる. 26(16.7%) 18(11.5%) 31(19.9%) 27(17.3%) 54(34.6%) 3.42 1.48 4 .45 <.001
No. 14 USB,タブレット,パソコンなどの盗難・紛失防止対策をとることができる(訪問看護ステーション内外). 11(7.1%) 12(7.7%) 47(30.1%) 40(25.6%) 46(29.5%) 3.63 1.19 4 .68 <.001
No. 15 USBなどの外部記憶装置は,安全性を確認した上で,パソコンなどに接続することができる. 11(7.1%) 13(8.3%) 41(26.3%) 44(28.2%) 47(30.1%) 3.66 1.19 4 .71 <.001
No. 16 ファイルにパスワードを設定できる. 26(16.7%) 15(9.6%) 38(24.4%) 28(17.9%) 49(31.4%) 3.38 1.44 3 .61 <.001
No. 17 パスワードは,複雑性のあるものを設定できる. 18(11.5%) 20(12.8%) 37(23.7%) 41(26.3%) 40(25.6%) 3.42 1.31 4 .62 <.001
No. 18 パスワードは,同じものや類推しやすいものを繰り返し使わず,異なるものを設定できる. 15(89.6%) 13(8.3%) 47(30.1%) 47(30.1%) 34(21.8%) 3.30 1.23 3 .61 <.001
No. 19 IDやパスワードは,他者に漏洩しないよう保護できる(人に漏らさない,見られない). 5(3.2%) 7(4.5%) 28(17.9%) 55(35.3%) 61(39.1%) 4.03 1.02 4 .55 <.001
No. 20 パソコンやタブレットは,データ消去を確実にした上で処分できる. 19(12.2%) 16(10.3%) 47(30.1%) 35(22.4%) 39(25.0%) 3.38 1.30 3 .65 <.001
No. 21 利用者の個人情報データが入っていないパソコンで,インターネット閲覧やメール送信を行うことができる. 12(7.7%) 15(9.6%) 39(25.0%) 36(23.1%) 54(34.6%) 3.67 1.26 4 .60 <.001
No. 22 ICTを用いた医療情報連携を行う場合,プライバシー・セキュリティ対策事項等を利用者・家族に対して説明できる. 15(9.6%) 13(8.3%) 47(30.1%) 47(30.1%) 34(21.8%) 3.46 1.20 4 .68 <.001

網掛け:天井効果の認められた項目

2) 探索的因子分析

19項目を対象に探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った.結果,共通性は0.27~0.99であり,No. 13は共通性が他に比べ小さく0.27と0.3未満であることから因子との関わりが弱すぎると判断し削除することとした.さらに,分析を繰り返し,No. 15は複数の因子に0.4以上の因子負荷量が認められ,ダブルローディングと判断し,解釈が複雑になるため削除することとした.No. 3,14,20は,いずれの因子においても因子負荷量が0.4未満であり,項目間のまとまりがなくなるため削削することとした.これら5項目を削除し14項目3因子構造を採用した.Cronbachのα係数は,尺度全体が0.91,因子1は7項目から構成され0.88,因子2は4項目から構成され0.79,因子3は3項目から構成され0.76であり,いずれもCronbachのα係数は0.7以上が確認された(表3).

表3  訪問看護に従事する看護師を対象としたICTスキル自己評価尺度の因子分析(最尤法,プロマックス回転) N = 156
質問項目 因子負荷量 共通性の推定値
因子1 因子2 因子3
因子1 【医療情報を適切に保存・送信するスキル】(mean ± SD = 23.49 ± 6.98, α = 0.88)
No. 6 情報の欠落がないように書類をスキャンできる. 0.43 0.25 0.00 0.39
No. 7 情報の種類(個人情報の有無や重要性)に応じて,保存方法を選択できる. 0.53 0.32 0.04 0.65
No. 8 外付けハードディスクなどに,データのバッグアップをとることができる. 0.74 0.10 0.00 0.66
No. 9 文書や画像を,関係機関に送信できる. 0.62 0.34 –0.21 0.63
No. 10 データ通信容量制限を確認し,動画を関係機関に送信できる. 0.94 –0.19 0.03 0.71
No. 11 個人情報を含む文書・画像のメール添付は,電子メールを暗号化した上で,送信できる. 0.61 –0.17 0.34 0.52
No. 12 個人情報を含む医療情報は,Facebook,グーグル,LINE等(パブリックSNS)以外を用いて送信できる. 0.53 0.08 –0.01 0.34
因子2 【組織的セキュリティに関するスキル】(mean ± SD = 15.09 ± 3.74, α = 0.79)
No. 1 ソフトを最新版にアップデート(更新)できる. 0.23 0.52 0.01 0.49
No. 2 パソコンやタブレットの動作がおかしくなった時に応援を求めて問題を解決できる. 0.01 0.71 –0.03 0.49
No. 21 利用者の個人情報データが入っていないパソコンで,インターネット閲覧やメール送信を行うことができる. –0.11 0.65 0.22 0.52
No. 22 ICTを用いた医療情報連携を行う場合,プライバシー・セキュリティ対策事項等を利用者・家族に対して説明できる. 0.21 0.45 0.16 0.51
因子3 【有効なパスワード設定と保護に関するスキル】(mean ± SD = 10.71 ± 3.05, α = 0.76)
No. 16 ファイルにパスワードを設定できる. 0.17 0.01 0.63 0.54
No. 18 パスワードは,同じものや類推しやすいものを繰り返し使わず,異なるものを設定できる. –0.06 0.03 0.92 0.82
No. 19 IDやパスワードは,他者に漏洩しないよう保護できる(人に漏らさない,見られない). –0.09 0.34 0.46 0.41
寄与率(%) 43.81 6.91 4.01
累積寄与率(%) 43.81 50.72 54.70
因子相関行列 1 2 3
1 0.69 0.52
2 0.69 0.54
3 0.52 0.54
尺度全体のCronbach α係数 0.91

因子1は,医療情報を適切に保存し(保存方法,スキャン,バックアップ),文書・画像・動画を適切な方法で送信する項目であることから,【医療情報を適切に保存・送信するスキル】とした.因子2は,ICT機器の調子が悪くなった場合の対応,使用するICT機器の選択,安全にICT機器が作動するための対応など訪問看護ステーションでのICT機器設定や管理,利用者・家族へのセキュリティ対策事項の説明など,組織としてのICTに関する安全管理に関する項目と捉え【組織的セキュリティに関するスキル】とした.因子3は,パスワード設定や漏洩防止に関する項目であったことから,【有効なパスワード設定と保護に関するスキル】と命名した.

3) 構成概念妥当性の検証

因子分析にて得られた3因子モデルの適合度を確認的因子分析で検討した.GFIは0.91,AGFIは0.83,CFIは0.88,RMSEAは0.09,SRMRは0.06であり,潜在変数と観測変数間には,いずれも0.50以上の妥当なパス係数が得られた(図1).

図1 

確証的因子分析結果

4) 判別妥当性の検討

全体・下位尺度得点と属性の関連について比較検定を行なった.年齢と訪問看護経験年数は中央値で2分し分析した.全体得点,下位尺度得点ともに,複数の属性で統計的有意差がみられた(表4).全体得点は,役職の有無,ICTを用いた『地域連携情報共有システム』使用経験の有無で統計的有意差がみられた.因子1と2の得点は,訪問看護経験年数,役職の有無,ICTを用いた『地域連携情報共有システム』使用経験の有無で統計的有意差がみられた.因子3は,訪問看護記録作成の電子カルテ使用と訪問先でのICT機器へのデータ入力有無で統計的有意差がみられた.

表4 

属性別全体得点と下位尺度得点の比較

 N = 156

Ⅴ. 考察

1. 尺度の構成

因子1は,医療情報を適切に保存し(保存方法,スキャン,バックアップ),文書・画像・動画を適切な方法で送信する項目から構成された.これまでの看護師向けICTに関する尺度では,文書作成・保存やメール送信に関する項目が中心であったが(伊津美・真嶋,2017坂本・永峯,2020藤野・豊福,2020),本研究では,文書作成や画像保存に関する項目(No. 4, 5)は平均点が高く回答が偏っていると判断し削除した.そのため,因子1は,情報の種類に応じた保存方法の選択・送信手段,データバックアップ,動画送信など,個人情報を含むデータの保存や他機関へのデータ送信に特化した項目から構成された.ICTに関する近年の動向をみてみると,セキュリティ対策の強化,地域医療情報連携ネットワーク活用時における個人情報保護法の規定に照らした同意取得の徹底などがある.このような時代背景からすると,因子1の項目は訪問看護に特化したICTスキルの項目として妥当であると考える.

因子2は,訪問看護ステーションのICT機器が安全に作動するための対応と,利用者・家族へのセキュリティ対策事項の説明など組織としてのICTに関する安全管理に関する項目であった.項目作成の際には,本尺度の対象は管理者ではなく訪問看護に従事する看護師を対象とするため管理・運営に関係するICTスキルは除いたが,今回,ICTに関する組織的なセキュリティ対策で因子が形成された.このことは,対象者の半数程度が管理者であったことによる影響の可能性も否定できないが,ICTスキルの獲得は個人での対応だけではなく,組織としてのルール作り,スタッフ教育,遵守できる体制が必要であることを示唆していると考える.

因子3は,パスワードの設定ならびに保護に関する項目から構成された.看護職者が起こす個人情報漏洩事故の分析結果によると,パソコンやUSBの院内外での置き忘れや紛失が最も多い(品川ら,2018).パスワード設定は,セキュリティが強く,使いやすい不正アクセス防止対策である.万が一,ノートパソコン・タブレット・USBなどを紛失した場合に,情報漏洩や拡散防止のためにはパスワード設定が大事になる.しかし,全国地域医療情報連携ネットワークの調査ではパスワードなどでモバイル端末へのアクセス制限されていたのは74.2%であった(日本医師会総合政策研究機構,2021).また,個人情報に関する事故が起きた媒体のうちパスワードなどセキュリティが施されていたのは19.0%であった(品川・橋本,2013).このように,パスワード設定は徹底されていない状況がある.そのため,適切なパスワード設定に関する項目は,訪問看護ステーション外にICT機器を持ち出す訪問看護において因子1とは別に独立した重要な項目として妥当であると考える.セキュリティに関する理解や対策は,医療機関の規模が小さいほど進まないことが報告されていることから(日本医師会総合政策研究機構,2022),訪問看護においてこの因子は,セキュリティ対策の第一歩として重要なスキルであると考える.

2. 尺度の信頼性と妥当性

Cronbachのα係数は,信頼性が良好とされる0.70以上(柳井・井部,2012)確保され,高い内的整合性が確認されたと判断できる.確証的因子分析において,GFI,AGFIは0.90より大きいと当てはまりのよいモデルとされている(小塩,2008).GFIは0.91で基準を満たしていたが,AGFIは満たしてはいなかった.CFIは0.88であり,当てはまりのよいとされる0.90には若干足りなかった.SRMRとRMSEAは0.05未満で非常に良好に当てはまりが良く,0.10以上であれば悪い当てはまりとされており(朝野ら,2009),本尺度のSRMRは0.06,RMSEAは0.09であったことから,概ね支持される結果を得たと考える.以上から,モデル全体としての構成概念妥当性は,ほぼ確保できたが,今後さらなる検証が必要である.

全体得点と因子ごとでは,複数の属性によって統計的有意差が出ていたこと,下位因子で異なる属性で統計的有意差が出ていたことから,判別妥当性が確保できたと考える.これまでに,ICTスキルは看護師の年齢・学歴・経験年数・職場による影響を受け,経験年数が長いことや年長者,コンピュータに触れていないことがスキルの低さの要因として報告されている(Manal & Lynn, 2018Mugomeri et al., 2016).しかし,本尺度では訪問看護経験年数6年以上では因子1と2,管理者は全体得点,因子1と2の得点が高かった.このことは,文書作成・保存などの看護基礎教育までに習うICT操作の基礎的内容ではなく,データ保存先の選択や紛失防止対策など個人情報の保護に関連した項目が中心になったことから,組織におけるリスク管理を担うことが期待されている(日本看護協会,2019)管理者や経験年数の長い看護師が高くなったことが理由のひとつとして考えられる.訪問看護記録作成の電子カルテ使用有,訪問先でのICT機器へのデータ入力有で因子3の得点が高かったことから,訪問看護ステーションからICT機器を持ち出して使用する看護師はパスワード設定に関するスキルが高いと解釈できる.また,ICTを用いた『地域連携情報共有システム』使用経験有の場合に,合計得点・因子1と2の得点ともに高いことから,他機関との医療情報のやり取りの経験が,医療情報の保存・送信や組織的なセキュリティスキルを上昇させていくことも予測された.

3. 尺度の活用可能性

医療分野におけるセキュリティ対策強化が促進されている中,本尺度を用い訪問看護に従事する看護師のICTスキルを測定することは,その結果をもとに各訪問看護ステーションや所属する法人などで対策を図り,注意喚起を促す機会になると考える.また,ICTスキルがコンピュータ不安・ICT活用への後ろ向き態度・自己効力感などと関連が指摘される中(Top & Yilmaz, 2015Gürdaş Topkaya & Kaya, 2015),本尺度と合わせて,看護師特性,訪問看護でのICT活用意思との関連への調査に発展させることで,地域の中でICT活用推進因子や阻害因子の解明につながることが期待できる.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

1点目は,サンプル数の限界である.サンプル数は質問項目の5~10倍程度の回答者数が必要であると考えられている(松尾・中村,2016).これに準ずると,本研究は110~220名の回答数を必要とするところ,本研究のサンプル数は156件であり,最低限のサンプル数を満たすに留まった.

2点目は,本尺度を一般化し活用する上での課題である.下位尺度には組織的な安全を確保するためのスキルである因子2が抽出され,属性別の比較では役職の有無で合計点,因子1と2の点数に相違がみられた.このことは,回答者の51.9%は管理者であったことが影響した可能性がある.また,因子2のスキルはスタッフのみでの獲得は難しい点が予測される.この点は,訪問看護従事者向けに本尺度を一般化する上での課題となりうるため,管理者として必要なICTスキルを精選し整理していく必要がある.また,本尺度は,これまでにないセキュリティ対策を意識したものを開発することができたが,一方,ICT機器の発展は急速であるため,求められるスキルの変化,看護師自身のICTスキルの向上により,項目の定期的な見直しが必要となる点は限界と考える.

Ⅶ. 結論

「訪問看護に従事する看護師向けICTスキル自己評価尺度」の開発を試みた結果3因子14項目が抽出され,因子1は【医療情報を適切に保存・送信するスキル】,因子2は【組織的セキュリティに関するスキル】,因子3は【有効なパスワード設定と保護に関するスキル】と命名した.

謝辞:研究実施に際して,調査の回答にご協力いただきました訪問看護ステーション看護師の皆様,データ分析に関する助言提供いただいた金沢医科大学臨床研究支援室に感謝申し上げます.本研究は科学研究費補助金(基盤研究C)21K11039の研究成果の一部である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SMは研究の着想ならびに研究全般を実施,MF・NR・MMは研究デザイン,データ取得と分析・解釈,論文作成における検討・執筆に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2023 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top