日本看護科学会誌
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資料
COVID-19影響下での成人(慢性)看護学実習における病棟実習とオンライン実習の学びの比較
―テキストマイニングによる課題レポートの分析から―
野口 佳美谷村 千華片岡 英幸
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2023 年 43 巻 p. 183-193

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Abstract

目的:本研究の目的は,病棟実習とオンライン実習での学生の学びを明らかにし,今後の効果的な看護学実習の在り方を検討することである.

方法:A大学看護学専攻3年次生の成人(慢性)看護学実習の課題レポートの記述内容を対象に,テキストマイニングを用いて語句の共起ネットワークと対応分析を行った.

結果:病棟実習では,【患者のことを考えた介入】【患者を知ろうとする姿勢】【患者の目標を見据えた看護】【患者の身体的変化を捉える】【医療者としての責任】など10の学びが抽出された.オンライン実習では,【患者に必要な介入を考える】【自己効力感の向上が行動変容につながる】【退院後の生活について一緒に考える】【知識・情報の提供の必要性】など9つの学びが抽出された.

結論:病棟実習とオンライン実習の各実習形態の特性を活かし,学生が効果的に学べるための看護学実習教育の教育環境を整える試みが必要であることが示唆された.

Translated Abstract

Objectives: This study aimed to clarify students’ learning in ward and online practical training and to examine the ideal form for future effective nursing practice.

Methods: A co-occurrence network of words and phrases and correspondence analysis were conducted using text mining on the contents of assignment reports of third-year nursing students receiving adult (chronic) nursing practice during at University A.

Results: Ten learning items, including [Patient-centered interventions], [Attempting to know the patient], [Nursing care that focuses on patient goals], [Catching physical changes in patients], and [Responsibilities as a medical practitioner], were extracted from the reports of on-site practical training. Nine learning items, including [Considering the intervention necessary for the patient], [Improvement of self-efficacy leads to behavioral change], [Thinking together about life after discharge], and [The need to provide knowledge and information], were extracted from the reports of online practical training.

Conclusion: Creating an educational environment for nursing practice education that takes advantage of the learning characteristics of on-site and online practice may be a beneficial teaching strategy for effective learning.

Ⅰ. 緒言

臨地実習は,学生が学士課程で学修した教養科目,専門基礎科目の知識を基盤とし,専門科目としての看護の知識・技術・態度の統合を図りつつ,実践へ適用する能力を育成することを目的とし,学生が知識・技術・態度の統合を図ると共に,対象者との関係形成やチーム医療において必要な対人関係形成能力を養い,看護専門職としての批判的・創造的思考力と問題解決能力の醸成,高い倫理観と自己の在り方を省察する能力を身に付けることを目指すものである(文部科学省,2019).

しかし,2020年から新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19と略す)に伴い,臨地での実習中止や実習形態の変更を余儀なくされた.文部科学省(2020)は厚生労働省とともに,臨地における学修の担保ができない場合は,実状を踏まえ実習に代えて演習または学内実習を実施することにより,必要な知識及び技能を修得することとして差し支えない,との方針を示した.とはいえ,COVID-19感染拡大による影響下にあっても学士課程において養われるべき看護実践能力の質的水準を保証することが各大学の裁量に委ねられている.

日本看護系大学協議会によるCOVID-19に伴う看護系実習への影響調査の結果によると,看護系大学の約8割が「学内実習・学内演習」や「オンライン(遠隔かつ双方向)」,「紙面による課題」などにより臨地実習の代替を実施し,臨地での実習と学内実習を組み合わせるなどの様々な工夫を行うことで,一定の教育効果を上げることができたと報告している(文部科学省,2021a, 2021b).また,遠隔実習などの代替実習を行った結果,実習到達状況において知識面では代替方法が効果的であったが,技術面では代替方法の方がやや下回っており,態度面では代替方法と臨地実習が同程度であったとの報告がされている(日本看護系大学協議会,2020).さらに,河野ら(2021)は,オンライン実習と臨地での実習での学生の到達度や満足感については大きな変化はみられなかった一方,臨床現場における緊張感や感情面での情緒的な学びが得られにくいことが課題であると述べている.

先行研究において,COVID-19影響下での遠隔実習やオンライン実習の在り方や,オンライン実習による実習目標の到達度(入江ら,2021磯村ら,2022黒河内・間瀬,2021)など,代替実習の成果についての報告がされている.しかし,異なる教育機関の実習目的・目標や実習環境での成果であることから,実習形態の違いによる成果の比較は困難であると考える.そこで,本研究において,同一カリキュラムでの教育を受け,COVID-19の影響も同様と考えられる同学年学生の同一実習科目内で,臨地に身を置いて行う「病棟実習」と,インターネットを通した「オンライン実習」の実習形態の違いによる学びを明らかにすることは,今後の看護学実習のより効果的な教育への示唆を得ることにつながるものと考えた.

A大学看護学専攻においては,2020年度の後期の成人(慢性)看護学実習では,COVID-19感染拡大の影響により,通常の病棟実習から完全オンラインでの実習(以下,オンライン実習とする)へと実習形態の変更を余儀なくされた.今後も新興感染症の発生の可能性,実習施設の確保が困難になることが考えられることからも,病棟実習を行った学生とオンライン実習を行った学生における学生の学びを明らかにし,実習形態の違いによる有効性と課題を検討することは,看護学実習の教育的示唆を得ることにつながり,看護実践能力を養う教育の質を維持することができると考える.

本研究の目的は,病棟実習とオンライン実習での学生の学びを明らかにし,今後の効果的な看護学実習の在り方を検討することである.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

本研究は,学生の課題レポートを用いた後ろ向き観察研究である.

2. 分析対象

2020年度 9月から1月にA大学看護学専攻3年次後期に成人(慢性)看護学実習を履修した81名(病棟実習:学生49名,オンライン実習:学生32名)の学生の課題として記述した課題レポート(A4用紙1,600字/枚×2枚程度)の全文を分析対象とした.この課題レポートは,成人(慢性)看護学実習終了後に学生が実習全体を振り返り,実習中での印象に残った場面を示し,関わりの中で起こった現象・事象は患者・家族にとってどのような意味があるのかを思考し記述する.さらに,文献や理論とそれらを照らし合わせて統合して考え,看護のあり方や適切な看護とは何かについて洞察し記述するよう説明している.そのため,課題レポート上には,実習での学生の学びが表現されていると考える.

3. 成人(慢性)看護学実習概要および実習形態

成人(慢性)看護学実習は,3年次後期の3単位135時間(3週間)で構成されているが,COVID-19感染拡大に伴い,実習1週目は学内での課題学習・演習,2・3週目を内科系病棟の患者の受け持ち実習とした.実習指導体制は,1グループに対して教員1名と各実習病棟の臨地実習指導者が中心となり実習指導を行っている.実習概要を表1に示す.

表1  成人(慢性)看護学実習実習概要
1日目 2日目 3日目 4日目
1週目 病棟実習 【学内演習】
オリエンテーション
課題事例を用いた健康課題解決過程学習
【学内演習】
課題事例を用いた健康課題解決過程学習
【学内演習】
課題事例を用いた健康課題解決過程学習
・ロールプレイ(患者役;学生or教員)
【学内演習】
・ロールプレイ(患者役;学生or教員)
・技術演習
・受け持ち患者情報提示(患者1人/学生1人)
・個人ワーク
・個々の学習した内容の共有
オンライン実習 オリエンテーション
課題事例を用いた健康課題解決過程学習
課題事例を用いた健康課題解決過程学習 課題事例を用いた健康課題解決過程学習
・ロールプレイ(患者役;教員)
・ロールプレイ(患者役;教員)
・受け持ち患者情報提示(患者1人/1グループ)
・個人ワーク
・個々の学習した内容の共有
2週目 病棟実習 受け持ち患者実習 受け持ち患者実習 受け持ち患者実習 受け持ち患者実習
・病棟カンファレンス:関連図・計画立案(病棟師長・臨地実習指導者参加)
オンライン実習 ・実習目標・行動計画の確認
・協同学習
・個別指導
・ロールプレイ(患者役;教員)
・臨地実習指導者:1時間前後のオンラインでの指導(情報提供・学生指導)
・実習目標・行動計画の確認
・協同学習
・個別指導
・ロールプレイ(患者役;教員)
・実習目標・行動計画の確認
・協同学習
・ロールプレイ(患者役;教員)
・個別指導臨地実習指導者:1時間前後のオンラインでの指導(情報提供・学生指導)
・実習目標・行動計画の確認
・協同学習
・個別指導
・病棟カンファレンス:関連図・計画立案(オンラインでの病棟師長・臨地実習指導者参加)
3週目 病棟実習 受け持ち患者実習 受け持ち患者実習 受け持ち患者実習
・病棟カンファレンス:実施評価(病棟師長・臨地実習指導者参加)
共有カンファレンス(同時期実習グループ学生と担当教員参加)
オンライン実習 ・実習目標・行動計画の確認
・グループディスカッション
・ロールプレイ(患者役;教員)
・個別指導臨地実習指導者:1時間前後のオンラインでの指導(情報提供・学生指導)
・実習目標・行動計画の確認
・グループディスカッション
・ロールプレイ(患者役;教員)
・個別指導臨地実習指導者:1時間前後オンラインでの指導(情報提供・学生指導)
・実習目標・行動計画の確認
・個別指導
・病棟カンファレンス:実施評価(オンラインでの病棟師長・臨地実習指導者参加)
共有カンファレンス(同時期実習グループ学生と担当教員参加)

この実習の目的は,「慢性的な経過をたどる健康障害をもちながら,病と共に生きる対象者を受け持ち,その対象者を総合的に理解し,医療施設での治療を必要とする対象者の看護,家庭生活・社会生活へ復帰する過程にある対象者の看護を計画的・意図的に実践し,対象者に価値ある変化をもたらす能力を養うこと」である.特に,①対象者が病とどのようにつきあってきたかに焦点をあてて,慢性的な健康障害と共に生きる対象者を理解する.②対象者の病気や障害の主観的意味を理解し,心理的側面に沿った援助を実施する.③対象者の病気や治療によって起こり得る症状や随伴する障害(機能低下)に対応し,セルフマネジメントできるようにするための援助を考え,実践する.④対象者を生活者として捉え,その人が自分らしく生きていくための生活の維持・改善,生活の再構築,生活範囲の拡大,自立のための援助を実施する.ことを下位目標として実習目標が達成できるよう,学生が1人の患者をできるだけ長期間受け持ち,患者との関わりの中で患者理解を深めつつ,その人にとっての看護を考え実践する能力を養えるよう各実習病棟の臨地実習指導者と連携を図り指導体制を整えている.また,患者への看護を提供する際は,看護師と共に行動し,指導を受けている.さらに,学生が行った行為の振り返りを看護師や教員と行い,自身の行った行為の意味づけが促進されるようリフレクションを大切にしている.

1) 病棟実習

1人の学生が1名の患者を受け持ち,実習を行っている.学生は日々の実習開始時に教員と看護師に実習計画を発表し,その日の患者のスケジュールに合わせ調整を行っている.学生が患者への看護を実施する際には,臨地実習指導者または教員とともに実施している.日々の実習終了後には,1時間程度の学内でのカンファレンスを行い,学生が実習で体験したこと(患者との関わりなど)についてリフレクションする機会を設けている.その際,教員は,学生が印象深い場面,気がかりな出来事について詳細に語り,学生の思考や感情を表現することで看護の現象や自己の傾向に気づくことができるよう支援し,それをグループ内での共有を図ることで行った看護の意味づけへとつなげ知と実践の統合をはかっている.また,週に1回,意図的な看護実践につながるための患者の全体像の捉えや看護計画立に対するカンファレンス,実践結果に基づく評価についての病棟カンファレンスを行っている.実習の最終日には,クール全体での共有カンファレンスを行い,学生の体験や学びの共有を図り,実習目標に到達できるよう実習を構成している.

2) オンライン実習

オンライン実習では,3週間の実習を自宅にいる学生とGoogle Meet(遠隔会議用webアプリ)や大学支援システムmanabaのプロジェクト機能を活用した病棟実習と同様の内容で行った.学生が,グループワークやディスカッション,ロールプレイ,臨地実習指導者や教員から指導を受ける際にはGoogle Meetを使用し,学生への連絡通知や課題提出・指導は,大学支援システムmanabaを使用し,双方向での学習が可能な環境を整えた.実習1週目の実習では,課題事例による看護過程の展開に個人で取り組んだ後にGoogle Meetを使用しグループワークを行った.患者の捉え,アセスメントの視点や健康課題,健康課題解決のための看護計画についてディスカッションを行い,その人にとっての看護について思考を深める時間とした.実習2~3週目は,グループ1名または2名の患者を受け持ち,患者情報を提供してもらい看護過程の展開を行った.Google Meetを使用し,臨地実習指導者から提示された患者情報をもとに学生は必要と考える情報や気がかりなことをまとめ整理した.その後,教員が受け持ち患者の情報を電子カルテから収集し,学生の気がかりへの情報提供を行うと同時に,学生の気づきを促す発問を行った.また,Google Meetを使用して,1日1回1時間程度,臨地実習指導者への質問や情報収集の時間を設け,患者の状態や状況の理解を促した.さらに,教員が模擬患者を演じ,学生が受け持ち患者との関わりや必要と考える看護支援のロールプレイを行い,グループでの振り返りを行った.教員が演じる際は,学生が臨場感を持てるようにできる限り可能な範囲で場の環境と雰囲気づくりを行った.学生の看護過程の展開については,1週間に1回,看護師参加のカンファレンスの時間を設け,臨床からの助言,指導を頂く機会を設定した.実習の最終日には,Google Meetを活用して共有カンファレンスを行い,同時期に実習を行った学生全員での体験や学びの共有を図り,実習目標に到達できるよう実習を構成した.

4. 分析方法

本研究では,成人(慢性)看護学実習を行ない,研究への参加の同意の得られた81名の学生の課題レポートの記述内容をテキストデータとし,フリーソフトウェアKH Coder(Ver. 3)を用いてテキストマイニングを行った.

KH Coderにおける計量テキスト分析は,計量的分析手法を用いてテキスト型データを整理または分析し,内容分析を行う方法である(樋口,2021).フリーソフトウェアKH Coderを用いたテキストマイニングは,質的研究のように研究者自身の主観が分析や解釈の曖昧さにより信頼性を危うくすることが考えられるため,分析対象となる質的データを定性的かつ定量的にも把握することで,信頼性ないしは客観性を向上させ,学生の実習形態ごとの学びを明らかにするための有効な方法であると考えた.KH Coderは,意味をもつ最小の言葉単位(単語)である語(形態素)で抽出されるため,語句の抽出リスト,複合語の検出と茶筌を利用し,強制抽出が望ましい語の調整を行い,その後複数の形態素から構成される語句を強制抽出する語句とした.また,出現頻度は多いがそれだけでは意味をなさない記述を分析から除外した.さらに,2つ以上の語として認識され抽出されないことが予測される専門用語などについては,語の取捨選択処理として強制抽出語句として前処理を行った.

共起ネットワーク分析では,実習形態ごとの共起の強い語の結びつきを探るため,語と語の関連性の強さを表すJaccard係数をもとに,抽出語共起ネットワークを作成した.サブグラフ検出(random works)により検出されたグループに含まれるテキストは,KWICコンコーダンスのコマンドで確認をし,抽出語の用いられていた文脈での意味内容を確認しながらネーミングを行った.分析過程においては,開発者のセミナーを受講した研究者間で合意が得られるまで検討し,解釈の妥当性の確保に努めた.

Jaccard係数は,語句間の関連性の強さを0~1の値で示し,共起性が強いほど1に近い値となる.共起ネットワークは,語句の位置に意味はなく,線でつながっているかどうかに意味を成し,強い共起関係ほど濃い線で描画される.また,語句と語句のネットワークが切断されず,強い共起関係を残す最小スパニング・ツリーにより整理して描画した.

対応分析では,実習形態を外部変数に設定し,抽出語の対応分析を行った.差異が顕著な語に注目し,KWICコンコーダンスを用いて実習形態の違いによる学生の学びの特性について検討した.

5. 倫理的配慮

本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した.学生への研究協力への依頼は,実習成績評価後,オプトアウトとして,A大学のホームページ上および大学内学生掲示板にて研究の目的,意義,方法,倫理的配慮,研究への参加は自由意思であり,協力しないことによる不利益はないこと,および学会等での発表について公開・通知した.研究対象者が不利益を生じることがないよう研究参加に拒否できる機会を保証した.なお,本研究は研究者の所属する鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認(承認番号21A191)を受け実施した.

Ⅲ. 結果

成人(慢性)看護学実習に参加した,学生81名(病棟実習の学生49名,オンライン実習の学生32名)全員から同意が得られた.

1. 成人(慢性)看護学実習での学び

1) 抽出語句

課題レポートの記述内容の分析対象ファイルについてKH Coder(Ver.3)を用いて形態素解析を行った結果,病棟実習では,総文字数138,613から総抽出語数77,156語,異なり語数3,783語(2,020文),オンライン実習では,総文字数96,024から総抽出語数52,057語,異なり語数2,667語(1,304文)が抽出された.総抽出語のうち出現回数の多い上位30語を表2に示す.

表2  頻出語句上位30語
病棟実習 オンライン実習
抽出語 出現回数 抽出語 出現回数
患者 952 患者 762
考える 603 考える 515
看護 522 看護 298
必要 234 必要 236
自分 206 生活 208
実習 196 介入 192
生活 191 理解 127
知る 191 説明 125
介入 183 伝える 124
感じる 162 自分 123
理解 156 行動 114
状態 154 状態 113
対象者 149 治療 110
治療 146 行動変容 109
思い 128 重要 100
ケア 127 知識 99
退院 125 見る 90
聞く 117 感じる 89
伝える 116 退院 89
変化 115 知る 85
意識 103 変化 82
不安 102 実習 81
見る 100 情報 77
目標 97 観察 69
関わり 90 不安 69
症状 87 認識 66
説明 87 関わり 65
行動 86 大切 65
大切 85 方法 65
捉える 84 確認 63

2) 共起ネットワーク分析

頻出語同士の結びつきの関係性を知るために,描画設定は,最小出現数を50,病棟実習では上位80,オンライン実習では上位100とし,共起ネットワークを作成した(図1-12).なお「 」には抽出された単語,【 】にはネットワークの名称を示す.また,レポートの記述内容は〈 〉で表記した.

図1-1 

病棟実習

図1-2 

オンライン実習

図1 

共起ネットワーク


(1) 病棟実習での学生の学び

分析の結果,10のネットワークに分類された.

①の「患者」「考える」「介入」などを中心とするネットワークは〈患者さんのその人らしい生活や希望に寄り添って考えることが大切〉といった記述内容から生成されていた.よって,【患者のことを考えた介入】と命名した.②の「知る」「姿勢」「思い」を中心とするネットワークは,〈患者が病気とうまく付き合っていくための支援を行うためには,患者のことを知り続けようとし,患者の立場に立って考え,患者と共にあろうとする姿勢が大切〉といった記述内容から生成されていた.よって,【患者を知ろうとする姿勢】と命名した.③の「看護」「必要」「対象者」「目標」を中心とするネットワークは,〈看護者は対象者の全体像を理解して共感的に接するとともに,専門知識を用いた提案をすることで信頼関係が築け,患者の目標に向けて一緒に進んでいくことが必要〉といった記述内容から生成されていた.よって,【患者の目標を見据えた看護】とした.④の「説明」「パンフレット」「内容」を中心とするネットワークは,〈教育的介入や説明を行う際には患者の理解度や必要性に応じて要点を分かりやすく伝え,患者―医療者間の認識の差を埋める必要がある〉といった記述内容から生成されていた.よって,【患者が理解できる内容と説明】と命名した.⑤の「行動変容」「知識」を中心とするネットワークは,〈対象者にとっての効果的な看護介入のためには,対象者の行動変容に対する思いや知識,自己効力感の状況,そして対象者の生活を知ることが重要〉といった記述内容から生成されていた.よって,【行動変容を促すための知識】と命名した.⑥の「課題」「自己」を中心とするネットワークは,〈この体験や患者さんの発言からこれまでの関わり方を振り返り,私はただ数値や身体状況を見ただけで,患者さんのことを理解したつもりになっており,「自分が伝えたいこと,したいこと」が中心となった行動をしていたのだと分かった〉といった記述内容から生成されていた.よって,【実習から得られた自己の課題】と命名した.⑦の「生活」「退院」「支援」を中心とするネットワークは,〈これまでの生活や退院後の生活にも目を向け“生活者”として捉え,生活の中に取り入れられるような方法で,患者さんが実行できると思えるものを提供することが必要〉といった記述内容から生成されていた.よって,【生活を見据えた退院支援】と命名した.⑧の「変化」「身体」「捉える」を中心とするネットワークは,〈経時的に患者の今ある状況を確認し,病気や治療に対する思いの変化を捉え,随時それに対応することが必要〉といった記述内容から生成されていた.よって,【患者の身体的変化を捉える】と命名した.⑨の「関わる」「意識」を中心とするネットワークは,〈疾患の受容過程や慢性疾患の自然経過の中のどこに患者さんがおられるのかを意識して関わる必要性〉,〈慢性疾患と共に生きる患者への看護において,特に生活背景を意識し患者の生活に取り入れやすいように調整する看護の視点が重要〉といった記述内容から生成されていた.よって,【意図した関わり】と命名した.⑩の「医療者」「重要」を中心とするネットワークは,〈患者さんのニーズだけでなく,医療者の視点から患者さんの回復や適応を促進するために必要なことも把握し,専門職者として責任を持った関わりが大切〉といった記述内容から生成されていた.よって,【医療者としての責任】と命名した.

(2) オンライン実習での学生の学び

分析の結果,9のネットワークに分類された.

①の「患者」「考える」「必要」「介入」を中心とするネットワークには,〈患者の表出を一つひとつ注目しながら思いを推測することで,自然に患者の立場に立って考えることができ,患者にとってよりよい介入につながる〉,〈患者さんの視点に立ち患者さんが必要とする状況に合わせ,生活者であることを意識した情報や技術提供を行う必要がある〉といった記述内容から生成されていた.よって,【患者に必要な介入を考える】と命名した.②の「行動変容」「自己効力感」を中心とするネットワークは,〈行動変容を促すためには,知識や技術だけでなく,自己効力感が向上し,行動することで,出来ると患者さんに実感してもらうことが大事〉〈知識とスキルの提供を行うことが患者さんの自己効力感を向上させ,行動変容につながる〉といった記述内容から生成されていた.よって,【自己効力感の向上が行動変容につながる】とした.③の「自分」「知る」を中心とするネットワークは,〈介入することだけにとらわれてしまい,自分主体になっていたことに気づいた〉といった記述内容から生成されていた.よって,【自己の傾向を知る】と命名した.④の「生活」「退院」「方法」「一緒」を中心とするネットワークは,〈生活者としての患者さんの価値観を知り,今までの生活を大きく変えずに適応していく方法を一緒に考えていくことで,その人らしく生活できるようにすることを入院中から考えていく〉といった記述内容から生成されていた.よって,【退院後の生活について一緒に考える】とした.⑤の「理解」「説明」を中心とするネットワークは,〈患者さんの様子を観察し,頷いているのか何か困っている様子はないか確認し,説明に対して,一つひとつ患者さんが理解されているか確認することが必要〉といった記述内容から生成されていた.よって,【説明に対する患者の理解の確認】と命名した.⑥の「知識」「提供」「伝える」「情報」を中心とするネットワークは,〈患者さんの介入には先のことを見据えた仕事などの社会的な役割を持つ中でもセルフモニタリングなど,現実的に出来るのか考え,専門的知識をかみ砕いて説明し日常生活の中でも取り入れていけるようなイメージが具体的にできるような知識や情報の提供が必要〉といった記述内容から生成されていた.よって,【知識・情報の提供の必要性】と命名した.⑦の「観察」「行動」「見る」を中心とするネットワークは,〈患者さんの行動や発言をよく観察し,行動や発言の意味を考えながら,関わること〉といった記述内容から生成されていた.よって,【患者の行動を意図的に観察することの大切さ】と命名した.⑧の「不安」「表出」「思い」を中心とするネットワークは,〈不安や涙の表出があることは自然な反応であり,看護者は焦ったり戸惑ったりするのではなくじっくり傾聴し,思いを受け止めることが重要〉といった記述内容から生成されていた.よって,【患者の思いを受け止めることの重要性】と命名した.⑨の「看護」「関わり」「大切」を中心とするネットワークは,〈患者さんの立場に立って気がかりなことは何か,不安なことは何かを,関心をもって知ろうとする姿勢,患者さんの気持ちの変化に寄り添う姿勢で患者さんと関わっていくことが重要〉といった記述内容から生成されていた.よって,【看護における患者との関わりの大切さ】と命名した.

3) 対応分析

実習形態を外部変数として対応分析を行い,2次元のプロットに表示した(図2).縦軸と横軸の0を結んだ場所が原点となり,原点付近に示されている語は共通して出現していた語であることを示している.原点から離れるほど実習形態の違いによる出現の差異が大きく,特徴的な語であることを意味している.描写の設定は,語の最小出現数80,文の最小出現数1,実習形態の違いによる差異が顕著な語上位30とした.

図2 

対応分析

「病棟実習」と「オンライン実習」を外部変数として対応分析を行った.縦軸と横軸の0を結んだ場所が原点となり,四角が外部変数となる.原点付近に示されているものは,病棟実習とオンライン実習で共通して出現していた語句であり,原点から離れるほど特徴的な語であることを示す.

特徴語として,病棟実習では,「知る」「姿勢」「思い」「目標」「聞く」「ケア」などが抽出され,オンライン実習では,「行動変容」「方法」「観察」「確認」「説明」「情報」「知識」などが抽出された.

Ⅳ. 考察

本研究は,成人(慢性)看護学実習における実習形態の違いによる学びを明らかにすることを目的とし,課題レポートの記述内容をKH Coderを用いてテキストマイニングを行った.以下,病棟実習とオンライン実習における学生の学びについて考察する.

1. 実習形態の違いによる学び

病棟実習とオンライン実習ともに総抽出語のうち出現回数の多い上位には,「患者」「考える」「看護」「必要」「生活」が抽出された.これは,実習形態に関わらず,学生が事例課題や受け持ち患者を持って実習を行うことを通して,患者と向き合い,その人にとっての必要な看護について学修したことが捉えられた.また,共起ネットワークの結果,病棟実習では「患者」「看護」を中心としたネットワークに対して,オンライン実習では「患者」を中心とするネットワークを構成していた.

病棟実習では,学生は,臨床の場に身を置き,実際に患者と関わる体験から,患者への興味・関心が生じ,【患者を知ろうとする姿勢】【患者のことを考えた介入】といったその人にとっての看護の重要性についての学びにつながったことが捉えられた.また,学生は,慢性的な経過をたどる中においても日々変化する患者の身体的変化を捉え,患者が自分らしく生きていくために必要な看護を提供するために,【意図した関わり】の大切さに気づいていることが捉えられた.さらに,患者への効果的な教育的介入を行うためには,患者を生活者として捉え,患者の個別性に合わせた知識を提供することで,行動変容を促すことができることを体験から学んでいることが推察された.これらの学びは,実習目標である“対象者を理解する”“対象者の病気や障害の主観的意味を理解する”“対象者がセルフマネジメントできるようにするための援助を考え,実践する”と類似しており,学生が実習目標を意識した学びを得ていることが推察された.

オンライン実習では,病棟から1~2名の患者情報を提供してもらい,日々の情報や学生が気がかりな情報を臨地実習指導者から得て,個人・グループで検討することを通して患者理解を深めることで,【患者に必要な介入を考える】ことの重要性に気づいていることが捉えられた.また,オンラインでのパソコン画面を通してのロールプレイから,患者の状況,状態に合わせて介入を行うためには,患者の行動や発する反応を意図的に観察することが大切であることに気づいていることが推察された.さらに,患者が生活に戻るための退院支援において,患者が社会生活を送るなかでセルフマネジメントできるための知識や情報を提供することや,退院後の生活について患者と一緒に考え,患者の自己効力感を高める関わりから行動変容につながることを学んでいることが捉えられた.学生は,計画した看護の実践を学生同士や教員を相手とし,ロールプレイを行い,その関わりについてリフレクションを行うことや,教員・臨地実習指導者からのフィードバックを通して,自分が介入することだけに囚われ,自分主体になっているといった【自身の傾向を知る】ことへの気づきとなっていたことも捉えられた.これらの学びは,実習目標である“対象者を理解する”“セルフマネジメントできるようにするための援助を考え,実践する”“対象者を生活者として捉え,その人が自分らしく生きていくための援助を考え,実践する”と類似しており,学生が実習目標を意識した学びを得ていることが推察された.このように,実習形態の異なるオンライン実習であっても実習目標に沿った一定の学修効果が得られたことが推察された.

看護は,「患者-看護師関係」という相互作用を基盤とした実践学であり,どのような状況にいる患者であるか,という場を捉えることにより成立する営みである(佐藤,2009).看護師は,臨床で出会った患者との間での出来事を,自分の感情を通して捉え,患者とともにいる場面で,その人の状況をその場にいることで理解し,同時にその状況について深く考え行為する(佐藤,2009).病棟実習において,学生は患者との日々の関わりや何気ない会話を通して患者を知ろうと意識して関わる中で,信頼関係の構築を図り,患者を理解し,その人への看護援助につなげる経験を通して学んでいることが考えられる.しかし,オンライン実習では,カルテからや看護師からの情報提供により患者理解をすることが求められる.学生は,教員が模擬患者を演じることに抵抗感を抱き,患者として想像することが困難であり(桑村ら,2021),動画や教員が模擬患者を演じた実習を行った場合であっても,患者-看護師の関係性の構築が困難(早瀬ら,2021)であることは否めない.また,看護技術においても,実践が困難なものが多くあることから学習に限界がある(桑村ら,2021).オンライン実習では,臨床という環境設定の難しさやその場の空気感の再現が困難であり,多種多様な疾患やその治療,患者看護の特殊性のリアリティを提供することなどが難しい学習環境の中,学生は患者と対面して直接関わることができず,実際に看護技術を提供する経験ができない.そのため,患者の理解やイメージ化からの患者の全体像を捉えることや,看護実践能力の向上に影響していることが推察された.学内演習における対面でのロールプレイであっても,教員が患者の置かれている状況・状態や患者の揺れ動く思いをリアルに表現するには限界があり,設定された場面での患者との関わりであることから,学生は,その時に自分が提供できる援助,目の前に在る模擬患者へ何かをすることに関心が高まっていたことが,「方法」「観察」「説明」「確認」などの抽出された特徴語から推察される.

一方,遠隔授業を導入した実習は,じっくり考えることができ,自分のペースで学修できる,記録作成のためでなくその人に向き合うことができる,などの肯定的な結果が報告されている(入江ら,2021岡田ら,2021).本研究においても同様に,オンライン実習では,病棟実習に比べ,気がかりや経験についてじっくりと考える,一旦立ち止まり自分の思考を整理することができ,他者と患者の捉えや考え,看護の方向性について共有することで,〈患者さんの立場に立って気がかりなことは何か,不安なことは何かを,関心をもって知ろうとする姿勢,患者さんの気持ちの変化に寄り添う姿勢〉を持ち,【患者を意図的に観察することの大切さ】などの学びにつながったことが推察された.

2. 看護実践教育への示唆

看護の臨地実習の学習過程は,学生が,対象者に向けて看護行為を行い,その過程で,学内で学んだものを自ら実施で『使う』『実践できる』段階に到達させるために不可欠な過程である(厚生労働省,2003).また,知識は量より質が重要であり,場における必要な判断,看護技術ないし看護行為などのなかに組み入れて初めて生きた知識となる(田島,2011).オンライン実習では,多種多様な場面設定は難しく,学生が『実践できる』体験を提示するには限界がある.また,異世代間でのコミュニケーション機会や,生活経験の少ない現代の学生にとって,生活背景を踏まえて患者をイメージし理解することは容易ではなく,学んだ知識・技術・態度を活用して患者の状況,状態に合わせて『使う』『実践できる』段階への到達は時間を要することが考えられる.そのため,効果的なオンライン実習とするためには,実習施設との連携を強化し,オンラインでの病床環境や患者の状態の可視化,医療者や患者との関わりや,臨地実習指導者から患者情報の提供により患者の理解を促進する支援が有用であると考える.また,実習形態の違いに関わらずカンファレンスでは,自身の体験を詳細に振り返り表現することで患者理解や自己の傾向に気づき,自己の課題が明確となる機会となり,看護者としての責任や課題の共有につながり効果的であったといえる.

したがって,看護学実習では,学生の気づきを促し,考え,思考する時間を確保するとともに,臨床での患者との相互関係の中で患者を理解し,看護の実践と評価を繰り返しながらより理解を深めていく円環的プロセスを展開できるよう,看護の質を高めるための教育環境を整えていくことが必要であるといえよう.

3. 本研究の限界と課題

分析に使用したKH Coderは,日本語の特徴を捉えた語の形態素解析,複合語の読み込みなどの機能を備えており信頼性の高い方法であり,分析結果の妥当性も確認されている.しかし,分析対象が一大学に限定していることや,レポートの記述内容が学生の言語能力や文章能力に委ねられていることから,実習での学びが十分に表現しきれていないことも考えられるため,実習形態の違いによる学びと判断するには限界がある.今後の実習形態や内容の工夫による効果を検証していくことが課題である.

Ⅴ. 結論

実習形態別の学生の学びとその特性について,KH Coderを用いてテキストマイニングを行い,実習形態別の学生の学びを明らかにし,今後の効果的な看護学実習の在り方を検討することである.

病棟実習では,【患者のことを考えた介入】【患者の目標を見据えた看護】【患者を知ろうとする姿勢】【患者の身体的変化を捉える】といった患者の全体像を捉えた看護の重要性について学んでいた.オンライン実習では,【患者に必要な介入を考える】【自己効力感の向上が行動変容につながる】【知識・情報の提供の重要性】【退院後の生活について一緒に考える】など,患者がその人らしく生活を送るうえで必要となる知識や方法への支援についての学びが捉えられ,実習形態の異なるオンライン実習であっても一定の学修効果が得られていた.

臨地実習において,患者との相互作用の中でしか学べないことと,オンラインや学内での実習で強化できる学修方略を駆使して代替することも検討しながら,学生がより効果的に学べる教育環境を整えことが重要である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YNは研究の着想およびデザインに貢献,データ収集と分析,論文の作成;CTはデータ収集と分析,論文作成;HKは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は原稿の最終版を確認し,承認した.

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