日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
就労介護者のインタビュー結果からみた就労を阻害する要因と継続する要因
清水 美代子野口 眞弓鎌倉 やよい
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 43 巻 p. 252-260

詳細
Abstract

目的:就労介護者の就労阻害要因と継続要因を明らかにする.

方法:高齢近親者の介護を担う就労介護者に半構造化インタビューを行い,就労阻害要因と就労継続要因を抽出した.

結果:主介護者9名を対象とし,質的帰納的に分析した結果,就労阻害要因は,【介護に時間がとられる】【介護量が増加しても仕事量の調整が難しい】【同僚への気兼ね】【介護者の生活と健康への脅かし】【介護に必要な情報の不足】などの15カテゴリーが抽出された.また,就労継続要因は,【仕事継続を後押しする家族・仲間の理解と支え】【仕事と介護が両立できる職場の体制とゆとり】などの8カテゴリーが抽出された.

結論:就労を継続するには,介護者が【気負わない介護】を実施し,健康状態も良好であることが重要である.そのためには,介護者が一人で介護を抱え込まないように,家族や職場,制度・サービスなどのサポートが必要である.

Translated Abstract

Purpose: To identify obstructive and continuation factors at work in working caregivers.

Methods: Semi-structured interview was conducted to working caregivers who were taking care of their elderly closest family members. We assessed obstructive and continuation factors at work from the interview.

Results: We performed a qualitative and inductive analysis from 9 principal caregivers, and 15 categories were identified as obstructive factors at work, which include [time-consuming caregiving]; [difficult time allocation for work against increased demand of caregiving]; [feeling guilty about caregiving to colleagues at workplace]; [anxiety about life and health of caregivers themselves]; and [shortage of required information on caregiving]. For continuation factors, 8 categories were identified including [understanding of caregiving and support from family and colleagues]; and [working place environment supportive to both work and caregiving].

Conclusion: Results suggest that working caregivers should not wish perfect caregiving but maintain healthy condition for continuation of caregiving. Supports from family members and colleagues at workplace, and use of public services for caregiving are important to avoid isolation of working caregivers.

Ⅰ. 緒言

わが国では,要介護認定者の子ども世代の仕事と介護の両立の問題が浮上しており,今後は団塊の世代の高齢化による要介護認定者のさらなる増加が予測され,仕事と介護の両立の問題を解決する方略を模索することは喫緊の課題である.介護は,ゴールが見える育児とは異なり,先が見えにくく,就労を断念するケースも少なくない.親等の介護で前職を離職した人(以下,介護離職者)は,2017年が9万9千人とされ(総務省統計局,2018),2007年の約2倍となっている(内閣府,2019).介護離職者の約8割は,女性であるが,近年は男性も増加傾向にある(厚生労働省,2019).

介護離職者を対象とした調査では,介護離職者の5割以上の男女が仕事の継続を希望していたにもかかわらず(内閣府,2016),仕事と介護の両立が難しい職場である(内閣府,2016),自分以外に親を介護する人がいない(力石,2015)などの理由から介護離職をしていた.また,就労しながら介護する人(以下,就労介護者)の就労継続を困難にする要因には,介護休暇を取得しづらい雰囲気がある(内田・松岡,2016)など介護離職者と同様の問題に加え,被介護者の要介護度が高く,医療的ケアの頻度が多いこと(滝ら,2017),就労介護者自身の疲労や健康状態の悪化(植田ら,2001)があげられる.さらに,就労介護者の疲労や健康状態の悪化は,仕事中の居眠りやイライラ,不注意によるミス,スケジュールの遅れなど,仕事に多大な影響を及ぼす(独立行政法人労働政策研究・研修機構,2015).すなわち,就労介護者は,就労継続を望んでも,健康状態の悪化や仕事への影響などの理由によって離職せざるを得ない状況に置かれる.

このように就労阻害要因は,明らかになってきているが,就労継続要因については,就労介護者がどのように仕事と介護のバランスをとっているのか,介護離職者が仕事と介護のバランスをとれず離職せざるを得なかった状況を明らかにした研究は少ない.また,今後介護離職の増加が予測される男性を対象にした研究も限定的である.

したがって,介護離職者や男性介護者も含めた就労介護者において,就労を継続するにはどんな要因があるのか,就労を阻害する要因は何かを明らかにして支援につなげる必要がある.そこで,本研究では就労を阻害する要因(以下,就労阻害要因)と就労を継続する要因(以下,就労継続要因)を明らかにする.

Ⅱ. 研究目的

就労介護者の就労阻害要因と継続要因を明らかにすることを目的とする.

Ⅲ. 用語の定義

就労阻害要因:介護者が就労継続を望んでいても,就労継続を断念せざるを得なかった要因

就労継続要因:介護者が介護を継続していても,就労継続できた要因

Ⅳ. 研究方法

1. 研究対象者

研究対象者は,研究協力を承諾したA県内2市の訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所の管理者に,以下の選定条件に合致する就労介護者の推薦を依頼した.その後,すべての選定条件を満たす者として紹介された就労介護者に研究者が研究目的などの趣旨を説明し,研究参加の同意が得られた者を研究対象者とした.なお,対象者の選定は,男女および就労介護者と介護離職者について,すべての組合せをインタビュー対象に含めるよう,理論的サンプリングを用いた.

選定条件:①高齢近親者の介護を担う者の年齢が40~60歳代であること,②介護のために仕事を離転職した者または就労を継続している者,③同居・別居にかかわらず,要介護1以上の被介護者の介護を6か月以上の経験を有する者.

2. 研究デザイン

質的記述的研究デザイン

3. データ収集方法

研究対象者にインタビューガイドに基づいて半構造化面接を行い,就労と介護における思いや体験を自由に語ることを求めた.インタビューガイドは,介護離職者には,①介護の状況と介護に対する思い,②仕事の状況と仕事を辞めた理由,③仕事と介護を両立している時のサポート(職場,家族,制度)の状況,④健康や気持ちをどう保っていたか,とした.就労介護者には,①介護の状況と介護に対する思い,②仕事の状況と職場の理解や協力,③仕事と介護のバランスをどうとっているか(工夫や家族の協力),④仕事と介護の両立に対する思い,とした.

インタビューは,研究対象者1名につき1回実施し,研究対象者の希望日時に応じ,研究協力施設の一室等プライバシーが確保できる面接の場所を設定した.インタビューの時間は平均43分39秒であり,研究対象者の同意を得てICレコーダーに録音した.インタビューの期間は,2018年5月~7月であった.

4. 分析方法

研究対象者は12名であったが,インタビューを通して副介護者であることが判明した3名を除き,主介護者9名を分析対象とした.研究対象者に対するインタビューの録音データから対象者ごとに逐語録を作成した.逐語録は,インタビュー内容が正確に記載されているか,音声データと逐語録を複数回確認した.さらに,すべての研究対象者にインタビュー内容と逐語録に齟齬がないか確認を受けた.

分析では,研究対象者ごとに逐語録の文脈に沿って介護と仕事の状況,介護と仕事を両立させるための対処と支援に関する記述を最小単位の文章のかたまりとして区切り,コード化した.次に,全対象者のコードを対象に,コード化した意味内容の類似性と相違性を比較しながら類型化し,サブカテゴリーを抽出後,さらに抽象度をあげ,カテゴリーを抽出した.すべての分析過程は,質的研究の専門家のスーパーバイズを受けながら進め,データの厳密性に努めた.最終的な分析結果を協力が得られた研究対象者5名が確認し,カテゴリーとサブカテゴリーについて妥当であるとの回答を得た.

5. 倫理的配慮

本研究は,日本赤十字広島看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号D-1704).研究協力施設には,研究の概要を説明し,文書にて承諾を得た.研究対象者には,研究の概要に加え,参加は自由意思であり,匿名性や途中辞退の自由の保障などについて文書と口頭で説明し,同意を得た.

Ⅴ. 結果

1. 研究対象者の概要

研究対象者と被介護者の状況を表1に示す.被介護者との続柄は,娘5名,嫁2名,息子1名,配偶者1名であった.年齢は,40歳代が1名,50歳代が5名,60歳代が3名であり,そのうち,介護を機に離転職した者は5名,仕事を継続していた者は4名であった.介護形態は,同居5名,別居2名,施設2名であり,介護期間の平均は6年2か月で,最短2年,最長11年であった.

表1  研究対象者(介護者)と被介護者の状況
研究対象者(介護者)      就労状況 介護期間(年) 介護休暇利用の有無 被介護者
年代 続柄 同居している人 職種 離転職 介護開始前 現在 性別 年代 要介護度 介護形態 認知症の有無
A 60 配偶者,子ども 看護師 正規 非正規 2 90 1 別居
B 50 配偶者 看護師 非正規 非正規 5 80 4 施設
C 60 配偶者 配偶者,子ども 製造技術職 自営業 7 60 4 同居
D 50 息子 実母 製造技術職 正規 正規 8 80 2 同居
E 40 両親,妹 農業 正規 自営業 9 80 5 同居
F 50 配偶者 実父 看護師 正規 4 80 5 同居
G 50 配偶者 両親 事務職 正規 正規 11 80 4 同居
H 50 配偶者,子ども 看護師 正規 正規 3 70 5 別居
I 60 無し 運動指導士 自営業 自営業 7 90 5 施設

注)続柄は,被介護者からみた介護者との続柄を示す

2. 就労介護者の就労阻害要因と就労継続要因

就労阻害要因は,78のコードから31のサブカテゴリー,15のカテゴリーが抽出された(表2).就労継続要因は,94のコードから25のサブカテゴリー,8のカテゴリーが抽出された(表3).さらに,それぞれのカテゴリーを被介護者要因,介護者要因,環境要因の3つの領域に分類した.カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを[ ],コードを《 》,代表的な語りを斜体および「 」(紙面の関係上一部内容の省略あり),意味上の補足を( )で示す.

表2  就労阻害要因
区分 カテゴリー(15) サブカテゴリー(31) コード例 コード数
被介護者要因 被介護者の自立度の低下 被介護者の生活行動が徐々に低下 徐々にできなくなることが多くなった 1
被介護者の病状の不安定さ 被介護者の認知症の発症 仕事を始めたが,母の認知症の発症で仕事を辞めた 1
被介護者の急変 仕事に行きかけたら倒れた 1
介護量の増大 被介護者が2人に増加 母だけでなく,父の状態も悪くなった 3
介護者への医療的ケアの負荷 人工呼吸器等の状況では仕事はできない 1
被介護者の介護量の増加 入院のたびに辞めようと思っていた 2
介護者要因 異変の気づきの遅れ 被介護者の異変に気づくのが遅い 看護師なのに認知症に気づけなかった 2
介護がいつまで継続するか予測できない 介護がいつまで続くのか先がみえない 辞めてから,亡くなった 3
介護がキャリア継続を阻止 前の職場を退職したことを後悔 4
自分の人生で悔やまれる
仕事より介護を優先する人生観 資格があるため再就職は可能 仕事はまたできる 4
働くことの意味を問い直す
家族のために介護を選択 家族をとった 3
予測できない介護により仕事が制約される 仕事中,被介護者からの頻回な電話による要請 義母からしょっちゅう電話がある 5
仕事中はゆっくり話せない
介護で休まざるを得ない 手術や受診で休む 2
介護に時間がとられる 介護によって仕事の時間が減る 繁忙期に介護で時間がとられる 3
補填を考えるとイラっとする
介護量が増加しても仕事量の調整が難しい 被介護者の徘徊開始による仕事への影響 徘徊が続いたら仕事を減らそうか考えた 4
徘徊開始と転職が重なった
介護への配慮を上司に相談できない 勤続1年満たない時に介護が始まった 2
同僚への気兼ね 介護で休むと同僚に負担がかかる 休むことを伝えると無言になる 6
仕事に負担がくるのは同僚
同僚との関係悪化 陰で言われている 3
介護者の生活と健康への脅かし 介護者の夜間の睡眠が不足 杖の音で目が覚める 2
介護による疲労の蓄積 疲労がたまりうんざりした 1
介護者の健康状態の悪化 介護による持病悪化 2
介護者の生活を脅かす介護 仕事と介護と家庭生活を頑張りすぎることによるストレス 2
環境要因 主介護者にならざるを得ない状況 主介護者にならざるを得ない状況 息子を正社員にして自分は離職 1
介護に必要な情報の不足 介護用品や施設の情報不足 オムツや施設の情報が知りたかった 3
誰にも教えてもらえない
相談者がいない 若い介護者の介護の乗り越え方を聞きたかった 4
自分で模索
介護者が治療やケアのすべての決断を負う負担 父に代わっての決断で気が滅入る 3
決断が自分だった
制度とサービスが介護者のニーズとミスマッチ 被介護者が施設入所を拒否 施設入所を嫌がる 1
介護休業が介護者のニーズを満たさない 介護をするための休業ではない 2
デイサービス利用の時間制約 日曜出勤に対応できるサービスがない 3
デイの迎え入れの後,仕事に行く
生活費の充足 生活費を賄ってくれる人がいる 生活費を息子が出す 1
被介護者自身の年金で生活できる 持ち出しが少ない 3
表3  就労継続要因
区分 カテゴリー(8) サブカテゴリー(25) コード例 コード数
被介護者要因 被介護者の病状の安定 被介護者の病状が安定 病状が穏やか 3
自分は幸せと言っている
介護者要因 就労を継続する意志 仕事を辞めたくない強い意志 辞めると言いながらも辞めたくなかった 3
介護のために職場を変えても専門職として就労継続 希望を叶えるなら,仕事を変える 3
気負わない介護 気負わずに介護する やりたいことをやり,介護を負担に思わない 1
会社も介護の気分転換になる 会社も気分転換になる 1
被介護者を自宅に連れてきて日帰りの介護 ご飯だけでなく,入浴も済ませる 2
同居していないことで息抜きできる 同居していないからワンクッションおける 2
介護者の努力による良好な健康状態 介護者が健康維持の努力をしている 持病の受診を欠かさない 6
健康診断を受けている
環境要因 被介護者の異変に気づける距離の近さ 同居により被介護者の異変に気づく 日常行動の異変が気になる 2
自宅と被介護者の家が近い 近所のため自分たちが行ってお風呂に入れる 7
夕飯は届けて片づけて持って帰ったりした
職場と被介護者の家が近い 自宅と職場が近いことを活かして安全確認 3
仕事継続を後押しする家族・仲間の理解と支え 家族で介護を分担 割り振り制で担当を決める 20
夫の年休の取りやすさを活用して半日で介護を交代
親戚に介護の協力を依頼 電話対応は姉 6
介護者が介護できない時は弟に助けてもらった
家族が家事を協力 夫は夕食が遅くなっても文句を言わない 5
家事を協力してくれる
副介護者の存在 副介護者の存在 1
家族からのねぎらいの言葉 子どもがご苦労様と言ってくれる 1
被介護者の仕事への理解 被介護者の仕事への理解 1
職場の介護している仲間の存在 介護している人がいたので仕事継続 2
近隣のサポートやサービスの効果的活用 近所の支え 近所の人が助けてくれる 1
介護サービスの活用 日替わりでサービス活用 8
昼はヘルパーが作った食事
仕事と介護が両立できる職場の体制とゆとり 会社による介護者への公的配慮 介護者の健康に配慮して勤務場所変更 5
介護者の持病の関係で会社が仕事量をセーブ
介護者の希望で勤務時間を調整できる 夜勤を多めに配慮してもらい,朝食や朝の支度をする 4
半日休暇が取りやすい
介護休業の取得が可能 介護休暇の取り方を上司に相談 3
介護休業をしっかり取得
介護に対する職場の理解 介護者を理解しようとする上司の存在 3
お互い様と言ってくれる職場
介護による急な休みでも対応できる代替者の存在 職場のメンバーが多く,休ませてくれた 1

1) 就労阻害要因

(1) 被介護者要因

これは3カテゴリーで構成され,被介護者の自立度の低下や病状が不安定なこと,介護量が増えていることが示された.

【被介護者の自立度の低下】は,被介護者の自立度が徐々に低下することを表している.[被介護者の生活行動が徐々に低下]は,《徐々にできなくなることが多くなった》から生成された.

【被介護者の病状の不安定さ】は,被介護者の病状が不安定なため,仕事が落ち着かないことを表している.[被介護者の認知症の発症]は《仕事を始めたが,母の認知症の発症で仕事を辞めた》から,[被介護者の急変]は《仕事に行きかけたら倒れた》から生成された.

【介護量の増大】は,被介護者の介護量が増加することを表している.[被介護者が2人に増加]は《母だけでなく,父の状態も悪くなった》などから,[介護者への医療的ケアの負荷]は《人工呼吸器等の状況では仕事はできない》から,[被介護者の介護量の増加]は《入院のたびに辞めようと思っていた》などから生成された.

(2) 介護者要因

これは8カテゴリーで構成され,先の見通しがつかないこと,仕事をしていくうえで調整が難しいこと,同僚への気兼ねや介護者の生活と健康が脅かされることが示された.

【異変の気づきの遅れ】は,被介護者の異変に気づくのが遅いことを表している.[被介護者の異変に気づくのが遅い]は《看護師なのに認知症に気づけなかった》などから生成された.

【介護がいつまで継続するか予測できない】は,介護がいつまで続くのか,予測することができないことを表している.[介護がいつまで続くのか先がみえない]は《辞めてから,亡くなった》などから,[介護がキャリア継続を阻止]は《前の職場を退職したことを後悔》などから生成された.

【仕事より介護を優先する人生観】は,家族のために仕事より介護を優先するという価値観を表している.[資格があるため再就職は可能]は《仕事はまたできる》などから,[家族のために介護を選択]は《家族をとった》などから生成された.

【予測できない介護により仕事が制約される】は,介護のために,仕事中でも被介護者に対応したり,仕事を休んだりすることにより,仕事が制約されることを表している.[仕事中,被介護者からの頻回な電話による要請]は《義母からしょっちゅう電話がある》などから,[介護で休まざるを得ない]は《手術や受診で休む》などから生成された.

【介護に時間がとられる】は,介護に時間がとられ,仕事をする時間が制約されることを表している.[介護によって仕事の時間が減る]は《繁忙期に介護で時間がとられる》などから生成された.

【介護量が増加しても仕事量の調整が難しい】は,介護量が増加したため,仕事量の調整をしたいがその調整が難しいことを表している.[被介護者の徘徊開始による仕事への影響]は《徘徊が続いたら仕事を減らそうか考えた》などから,[介護への配慮を上司に相談できない]は《勤続1年満たない時に介護が始まった》などから生成された.

【同僚への気兼ね】は,介護で休むことに対する同僚への気兼ねと同僚が休むことを快く思っておらず,同僚との関係が悪化することを表している.[介護で休むと同僚に負担がかかる]は《休むことを伝えると無言になる》などから,[同僚との関係悪化]は《陰で言われている》などから生成された.

「陰では言われていると思う.こんなに休んでいるなら辞めればいいのにって.生活に困っているわけでもないのにってみんな思っていると思う.」(G氏)

【介護者の生活と健康への脅かし】は,介護者の生活や健康が脅かされている状況を表している.[介護者の夜間の睡眠が不足]は《杖の音で目が覚める》などから,[介護による疲労の蓄積]は《疲労がたまりうんざりした》から,[介護者の健康状態の悪化]は《介護による持病悪化》などから,[介護者の生活を脅かす介護]は《仕事と介護と家庭生活を頑張りすぎることによるストレス》などから生成された.

「そこ(仕事と介護の両方を行っていること)を頑張りすぎたら,自分も家族があるし,まだ学校に通っているような子どもがいるので,ちょっとストレスになってきちゃって.」(H氏)

(3) 環境要因

これは4カテゴリーで構成され,介護者が自分しかいない状況や生活費が充足していること,制度とサービスが不足していることが示された.

【主介護者にならざるを得ない状況】は,介護者が自分しかいない状況を表している.[主介護者にならざるを得ない状況]は《息子を正社員にして自分は離職》から生成された.

【介護に必要な情報の不足】は,介護を継続していくうえで必要な情報が不足していることを表している.[介護用品や施設の情報不足]は《オムツや施設の情報が知りたかった》などから,[相談者がいない]は《若い介護者の介護の乗り越え方を聞きたかった》などから,[介護者が治療やケアのすべての決断を負う負担]は《父に代わっての決断で気が滅入る》などから生成された.

【制度とサービスが介護者のニーズとミスマッチ】は,制度と介護サービスが介護者のニーズと合っていないことを表している.[被介護者が施設入所を拒否]は《施設入所を嫌がる》から,[介護休業が介護者のニーズを満たさない]は《介護をするための休業ではない》などから,[デイサービス利用の時間制約]は《日曜出勤に対応できるサービスがない》などから生成された.

【生活費の充足】は,生活を賄える費用があることを表している.[生活費を賄ってくれる人がいる]は《生活費を息子が出す》から,[被介護者自身の年金で生活できる]は《持ち出しが少ない》などから生成された.

2) 就労継続要因

(1) 被介護者要因

これは1カテゴリーで構成され,被介護者の病状の安定が示された.

【被介護者の病状の安定】は,被介護者の病状が安定していることを表している.[被介護者の病状が安定]は《病状が穏やか》などから生成された.

(2) 介護者要因

これは3カテゴリーで構成され,就労を継続する意志や介護をしながら介護者の健康を維持するための工夫や対処が示された.

【就労を継続する意志】は,介護があっても就労を継続していこうとする意志を表している.[仕事を辞めたくない強い意志]は《辞めると言いながらも辞めたくなかった》などから,[介護のために職場を変えても専門職として就労継続]は《希望を叶えるなら,仕事を変える》などから生成された.

【気負わない介護】は,頑張りすぎない介護を表している.[気負わずに介護する]は《やりたいことをやり,介護を負担に思わない》から,[会社も介護の気分転換になる]は《会社も気分転換になる》から,[被介護者を自宅に連れてきて日帰りの介護]は《ご飯だけでなく,入浴も済ませる》などから,[同居していないことで息抜きできる]は《同居していないからワンクッションおける》などから生成された.

【介護者の努力による良好な健康状態】は,介護者の健康を維持するための工夫や対処を表している.[介護者が健康維持の努力をしている]は《持病の受診を欠かさない》などから生成された.

「自分が病気になるといけない.自身の健康管理やウォーキングをしていることは,母からのプレゼントかなと思うの.」(I氏)

(3) 環境要因

これは4カテゴリーで構成され,家族や近隣のサポート,制度・サービスの活用,職場の理解と介護者が受ける支援が示された.

【被介護者の異変に気づける距離の近さ】は,被介護者の異変に気づくことができる被介護者の自宅と介護者の自宅や職場の距離が近いことを表している.

[同居により被介護者の異変に気づく]は《日常行動の異変が気になる》などから,[自宅と被介護者の家が近い]は《近所のため自分たちが行ってお風呂に入れる》などから,[職場と被介護者の家が近い]は《自宅と職場が近いことを活かして安全確認》などから生成された.

【仕事継続を後押しする家族・仲間の理解と支え】は,仕事の継続に対する家族の理解と支援,職場の介護仲間の存在を表している.[家族で介護を分担]は《割り振り制で担当を決める》などから,[親戚に介護の協力を依頼]は《電話対応は姉》などから,[家族が家事を協力]は《夫は夕食が遅くなっても文句を言わない》などから,[副介護者の存在]は《副介護者の存在》から,[家族からのねぎらいの言葉]は《子どもがご苦労様と言ってくれる》から,[被介護者の仕事への理解]は《被介護者の仕事への理解》から,[職場の介護している仲間の存在]は《介護している人がいたので仕事継続》などから生成された.

【近隣のサポートやサービスの効果的活用】は,近隣の人々のサポートや介護サービスの活用状況を表している.[近所の支え]は《近所の人が助けてくれる》から,[介護サービスの活用]は《日替わりでサービス活用》などから生成された.

【仕事と介護が両立できる職場の体制とゆとり】は,介護に対する職場の理解と介護者が受ける支援を表している.[会社による介護者への公的配慮]は《介護者の健康に配慮して勤務場所変更》などから,[介護者の希望で勤務時間を調整できる]は《夜勤を多めに配慮してもらい,朝食や朝の支度をする》などから生成された.また,[介護休業の取得が可能]は《介護休暇の取り方を上司に相談》などから,[介護に対する職場の理解]は《介護者を理解しようとする上司の存在》などから,[介護による急な休みでも対応できる代替者の存在]は《職場のメンバーが多く,休ませてくれた》から生成された.

Ⅵ. 考察

本研究は,就労介護者の就労阻害要因と継続要因を明らかにすることを目的とした.就労阻害要因と就労継続要因の特徴を被介護者要因,介護者要因,環境要因のそれぞれの視点から述べ,さらに両立支援のあり方について考察する.

1. 被介護者要因

就労阻害要因として【被介護者の自立度の低下】【被介護者の病状の不安定さ】【介護量の増大】があった.一方,就労継続要因として【被介護者の病状の安定】があり,被介護者の健康状態や自立度が就労継続に影響していることが明らかとなった.先行研究においても被介護者の自立度の低下が家族介護者の介護負担感を増強し(中越ら,2014),介護負担感は就労継続に影響することが示されており(濱島・宮川,2008),このことは,就労継続するためには被介護者の病状が安定しているという本研究の結果を裏付けている.

2. 介護者要因

就労阻害要因の中で,8カテゴリーと最も多くの要因で構成された.特に,【予測できない介護により仕事が制約される】【介護に時間がとられる】【介護量が増加しても仕事量の調整が難しい】【介護者の生活と健康への脅かし】といった介護が仕事や健康に重大な影響を及ぼすことが示された.これらは,仕事と介護による生活時間の切迫があり(田邉,2021),仕事と介護の調整の難しさがあると考えられた.一方,就労継続要因として【気負わない介護】【介護者の努力による良好な健康状態】があった.介護と仕事の多重役割についてネガティブな部分に目を向けるのではなく,《やりたいことをやり,介護を負担に思わない》《会社も気分転換になる》といったように,楽観的態度を持てることや上手なストレス対処などポジティブに捉えられることが就労継続に繋がると考えられる.春名・福原(2018)は,仕事の効用の一つに気分転換をあげ,さらに気分転換によって主観的健康状態が良好になることから(菅原ら,2022),就労介護者の健康維持に影響すると考えられた.加えて,対象者のうち就労介護者には,就労時間に融通の利く自営業だけでなく,正規職員もいたことから,属性により両立の制限が存在するだけでなく,個人の捉え方が就労継続要因として重要であることを示唆するものである.

3. 環境要因

就労阻害要因として【介護に必要な情報の不足】【制度とサービスが介護者のニーズとミスマッチ】があった.仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査によると,介護休業制度の内容を認知している正規労働者は38.2%,介護離職者は45.6%であり,支援制度の内容や申出方法の説明を受けた正規労働者は29.3%,介護離職者は47.7%と報告されている(厚生労働省,2022).仕事と介護の両立に関する支援制度を介護の課題に直面した労働者も十分認知しているとはいえず,情報の不足があり,このことは本研究の結果と一致している.さらに,制度・サービスの情報の不足だけでなく,被介護者が望む治療やケアに関する情報の不足もある.《父に代わっての決断で気が滅入る》といった,介護者が被介護者に代わって治療やケアの決断をしなければならない負担があった.これは,日頃から被介護者とのコミュニケーションを図っておくことの重要性を示唆するものであり,本研究で得られた新たな知見である.一方,就労継続要因には,家族や親戚といった介護協力者がおり,【被介護者の異変に気づける距離の近さ】によって,いつでも対応できる介護体制があった.さらに【近隣のサポートやサービスの効果的活用】といった家族以外のサポートもあり,職場においても《介護休業をしっかり取得》できる体制があった.

これらから,就労介護者は家族やサービス,職場のサポートを受けながら就労を継続しており,自分一人で介護をすることはしていない.介護や被介護者に関する情報の不足,家族やサービスのサポートの不足によって,介護者が一人で介護を抱え込んでしまうと就労が阻害される可能性がある.

4. 仕事と介護を両立するための支援のあり方

仕事と介護を両立するための支援としては,本研究で明らかとなった就労阻害要因を減らし,継続要因を増やすことがあげられる.就労阻害要因に【介護に必要な情報の不足】があったことから,就労介護者に対して,介護が開始された早い時期に両立支援に関する情報をどの程度把握しているかを確認し,不足している場合にはその情報の提供を行うことが必要である.

また,就労を継続するには,介護者が【気負わない介護】を実施し,健康状態も良好であることが重要である.そのためには,介護者が一人で介護を抱え込まないように,家族や職場,制度・サービスのサポートが必要である.就労継続要因に【仕事継続を後押しする家族・仲間の理解と支え】【近隣のサポートやサービスの効果的活用】があったことから,制度・サービスの活用もしつつ,就労介護者の負担感が高くなる前に家族や職場に対して就労継続を支援するように働きかけていくことが重要であると考える.

さらに,就労継続要因の【仕事と介護が両立できる職場の体制とゆとり】には,介護者への公的配慮,勤務時間の調整,介護に対する職場の理解,急な休みでも対応できる代替者の存在があった.したがって,職場において就労介護者を支援するための体制を構築し,就労介護者への理解を深めることが重要である.加えて,介護保険制度等の仕組みや利用方法,地域にある相談窓口の情報提供(厚生労働省,2022)といった行政施策を紹介することも重要である.近年,国が推進している認知症サポーターの養成と活動の支援があり(厚生労働省,2015),規定の研修を修了した講師が企業に出向いて認知症サポーター養成講座を開催している(全国キャラバン・メイト連絡協議会).そういった地域資源を活用し,仕事と介護の両立に向けた支援の充実を図ることも必要であると考える.

5. 研究の限界と強み

本研究のインタビュー対象者は,4名が看護師であったため,職種の偏りがある.このことは,すなわち,看護師としての知識や経験が語りに影響を及ぼしている可能性があり,一般化するには限界がある.しかし,インタビュー対象者を男女の就労介護者および介護離職者と網羅的に選定したことで就労介護者全般の就労阻害要因と就労継続要因を捉えることができたのではないかと考える.今後は,本研究の結果をもとに個別支援に活かせるアセスメント指標を作成するための尺度化へ向けた手順が必要である.

謝辞:本研究にご協力いただきました,訪問看護ステーション,居宅介護支援事業所の皆様,産業看護職の皆様,研究協力者の皆様に感謝申し上げます.また,質的分析にご指導いただいた元日本赤十字豊田看護大学村瀬智子教授に感謝いたします.本研究は科学研究費補助金基盤研究(C)18K10592の一部である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MSは,研究の着想から原稿作成のプロセス全体に貢献;MNは,研究デザイン,データの解釈,原稿への示唆に貢献;YKは,研究デザイン,データの分析・解釈,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2023 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top