2023 年 43 巻 p. 285-294
目的:熟練看護師が回復期の脊髄損傷患者の変化する思いへ,支援するプロセスを明らかにすること.
方法:「脊損患者の変化した思いに対して支援を行った経験」について熟練看護師14名に半構成的面接法を実施し,M-GTAを用いて分析した.
結果:熟練看護師は,リハ病棟転入後の不安や恐怖に対して【安心して療養生活を送られる支援】をし,〈埋蔵資源の意識化と増幅の支援〉[他者に向ける怒りと自分の内に向ける落胆の緩和]や多職種と連携し[新たな排泄テクニック獲得意欲の支援]を組み合わせて実践する中で,〈揺れ動く意欲の安定化〉を図りながら【その人らしさの再認識支援】を行い,家族に迷惑をかけるために自分が存在して良いのかと揺らぐ思いに対して【存在意味の否定的認知からの解放支援】をしていた.
結論:変化する思いを支えるには,支援を組み合わせて,微調整しながら多職種と連携し,患者との対話を含め支援し続けていく必要がある.
Purpose: To clarify the process through which skilled nurses continue providing support for the changed feelings in patients with spinal cord injuries in the recovery period.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with 14 skilled nurses to investigate their “experience with providing support for the changed feelings of patients with spinal cord injuries.” Thereafter, these interviews were analyzed using M-GTA.
Results: To address the anxiety and fear of patients transferred to the rehabilitation ward, skilled nurses collaborated with multiple professionals to provide “support for receiving secure medical care,” “support for increasing awareness and amplification of buried self-resources,” “support for alleviating expressed anger and internal discouragement,” “support for motivation to acquire new excretion techniques” and “support for stabilization of fluctuating will.” These services are intended to “help patients reconceptualize their individuality.” In addition, for patients who questioned their existence because of becoming a nuisance to their families, the nurses provided “support to free them from negative perceptions regarding the meaning of their existence.”
Conclusion: To support the changing feelings of patients, it is necessary for nurses to combine and fine-tune their support from time to time, and to continue providing support in cooperation with multiple professionals.
脊髄損傷(以下,脊損)患者の53%は,実用歩行が困難となるFrankel gradeのA(完全麻痺)~C(運動不全)を占めている(Miyakoshi et al., 2021).障害の重さや不安から損傷2週間後は17%,6ヶ月後には25%の患者が精神的不調をもち,うち36%は抗うつ薬等の向精神薬が処方されている(Craig et al., 2015).また,脊損患者の抑うつと自殺企図は関連する(Khazaeipour et al., 2015)ことから,生活再構築を目指す回復期での思いに寄り添った看護は重要である.
脊損患者は回復期において,訓練により生活機能が回復することを期待しながらも,改善がみられず落胆や諦めの思いを持っている(加藤,2012).その中で看護師は患者が自殺念慮を抱き,ふさぎ込むといったネガティブな反応に動揺し,看護への無力感を抱いている(Smyth et al., 2016).一方では,脊損患者は自己の存在や自身の生命の否定,絶望感,他者への怒りといった感情を抱きながらも,適切な支援によって身の回りの環境が整い,周囲から自己の存在が大切にされていると認識できることで再び前向きな気持ちを取り戻す(坂本・前田,2002).このことから,脊損患者の複雑に変化する思いに寄り添った看護実践の言語化が必要である.
看護師の支援として患者の思いを理解するために患者との精神的距離の調整(加藤ら,2011)や,親密な関係を築き,傾聴すること(Smyth et al., 2016)が挙げられる.一方で,看護師は他の看護師から脊損患者の支援について助言を求めても,看護師によって助言の内容が異なることに混乱し,また傾聴以外の具体的な支援策が得られないことに苦悩している(加藤,2012).その時々に変化する思いに対応した具体的な支援策が言語化されていないために支援への手掛かりが得られず,看護師は苦悩や不全感を持ちながら支援を行っている状況にあると推察される.
脊損患者の看護に卓越した熟練看護師の視点で変化した思いを的確に捉え,支援する実践プロセスを言語化し,支援策を示すことが必要であるが,国内外ともにみられなかった.変化する思いを抱える脊損患者との関わりに苦悩する看護師が熟練看護師の知見を理解できれば,的確に患者の思いを捉え,支援策を行う実践に寄与すると考える.その結果,脊損患者の苦痛は軽減し,自己存在や価値を認め,前向きに生活を行っていくことに寄与すると考える.
そこで本研究の目的は,熟練看護師が回復期の脊損患者の変化する思いに対して支援するプロセスを明らかにすることとした.
変化した思い:時間,空間,関係という状況の中で「喜びと怒りと悲しみと楽しみ.さまざまな人間感情の気持ちの動き」(広辞苑,2018)とする.
回復期:回復期リハビリテーション病棟(以下,リハ病棟)に入院してから退院するまでの期間とした.
熟練看護師:Ericsson(1996)は,全体的状況把握,および直感的な意思決定を行うことができ,卓越した実践を行える熟達者になるには10年以上の準備期間を要すると述べている.また佐藤(2007)は,Dreyfus Modelにおいて「幅広い視野で予測的判断を持ち,経験に基づいた全体像を把握する能力があり,類似の科の患者を3~5年ほどケアした看護師」を熟達者と述べている.これらを参考に,本研究では熟練看護師を「10年以上の看護師経験があり,かつリハ病棟にて3年以上の臨床経験を有し,看護管理者から熟練者であると判断された看護師」とした.
半構成的面接法による質的帰納的研究デザインである.
2. 参加者参加者は,中部地方のリハ病棟協会の会員病棟を有する6施設に勤務し,研究協力への同意が得られた熟練看護師とした.
3. データの収集方法収集期間は2020年9月~2021年8月であった.プライバシーが守られる施設の個室で,参加者1名に対し原則1回,30~60分程度の面接を行った.面接では思いの変化に気づき,支援を行った経験について尋ね,参加者の了解のもとで会話を録音した.
4. 分析方法分析方法は修正版Grounded Theory Approach(M-GTA)法を採用した.考案した木下(2020)は,M-GTAは限定された範囲内での理論生成を目的とした分析方法であり,ヒューマンサービス領域やプロセス性を持った領域が研究対象として適していると述べている.本研究は,熟練看護師が脊損患者の変化した思いを捉え,相互作用が働く状況において支援を行うプロセスを辿るため,分析方法としてM-GTAを採用した.
手順は次のとおりである.分析の初期にデータを参照しながら,分析焦点者を「熟練看護師」,分析テーマを「熟練看護師が回復期の脊損患者の変化する思いに対して支援するプロセス」と設定した.概念生成時には分析ワークシートを用いた.1つの概念を生成する毎に,データから他の具体例における類似例や対極例の潜在的可能性を検討した.それらが出尽くしたところで,生成した概念と概念の関係を比較,検討し,カテゴリを生成し,関連する概念同士の関係を吟味し収束化を行った.カテゴリ,サブカテゴリ,概念を関連付けたものを結果図に表し,結果図を説明するストーリーラインを作成した.全ての分析プロセスは,リハビリテーション看護学と質的研究の専門家3名で進め,分析の真実性の確保に努めた.
5. 倫理的配慮本研究は金沢大学医学倫理審査委員会から承認(審査番号976-1)を得た.協力病院の看護部長に研究の趣旨等を書面と口頭で説明し,同意を得た.参加者に研究の趣旨,研究の任意性と中断の自由,個人情報保護,匿名性の担保,面接内容,所要時間等について書面と口頭で説明し,同意を得た.
参加者は14名であり,うち女性12名,男性2名であった.臨床経験年数は10~35年,リハ病棟経験年数は3~14年であった.面接時間は40.9 ± 7.5(24~53)分であり,データ収集の回数は,1回が13名,1名のみ2回実施した.
| ID | 年齢(歳代) | 性別 | 職位 | 臨床経験年数(年) | 回復期リハビリテーション病棟経験年数(年) | 専門・認定資格等 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 30 | 女 | スタッフ | 15 | 7 | なし |
| 2 | 30 | 男 | 主任・副看護師長 | 15 | 10 | 摂食嚥下障害看護認定看護師 |
| 3 | 40 | 女 | スタッフ | 10 | 7 | なし |
| 4 | 40 | 女 | スタッフ | 16 | 6 | なし |
| 5 | 40 | 女 | スタッフ | 18 | 8 | なし |
| 6 | 40 | 女 | スタッフ | 20 | 14 | なし |
| 7 | 40 | 女 | スタッフ | 23 | 10 | なし |
| 8 | 50 | 女 | 主任・副看護師長 | 17 | 13 | 回復期リハビリテーション認定看護師 |
| 9 | 50 | 男 | スタッフ | 19 | 5 | なし |
| 10 | 50 | 女 | 主任・副看護師長 | 25 | 8 | なし |
| 11 | 50 | 女 | スタッフ | 33 | 9 | 回復期リハビリテーション認定看護師,排泄ケア専門員,排便指導員 |
| 12 | 50 | 女 | スタッフ | 35 | 11 | 救急救命士,ACLS1),排便指導員 |
| 13 | 60 | 女 | スタッフ | 29 | 9 | なし |
| 14 | 60 | 女 | スタッフ | 35 | 3 | なし |
1)ACLS:Advanced Cardiac Life Support
3つのカテゴリ,2つのサブカテゴリ,11の概念が生成された.以後,カテゴリを【 】,サブカテゴリを[ ],概念を〈 〉で示す.紙面の都合上,特徴的な語りを抜粋,もしくは要約したうえで例を「 」で示す.( )は参加者のIDである.
1) 結果図・ストーリーライン結果図は図1であり,結果図を説明するストーリーラインは次に示す.

熟練看護師の脊損患者の変化する思いに対して支援するプロセス
熟練看護師は,突然脊損により重い障害をもち,自分の意思で身動きができなくなったことで強い不安を抱いているリハ病棟に転入してきた患者の療養生活への戸惑いを軽減するために,〈不安に対する病棟生活のイメージ形成支援〉を行うと共に,患者が身体の全てを看護師に委ねることへの恐怖感に対して〈安心を強化したケアの提供〉を行うことで,【安心して療養生活を送られる支援】を基盤にした患者へのケアを行っていた.訓練が進む過程で機能回復を実感できないことによる落胆に対し,患者との対話の中で僅かな機能の回復や機能に限らず患者にとってのかけがえのない家族や,患者自身が培ってきた資源を伝えることで,その貴重さを患者が実感できるように〈埋蔵資源の意識化と増幅の支援〉を行っていた.脊損になったことへの不条理さから看護師へ向けられる怒りには〈患者自身に関心を向けるきっかけ作り〉を行い,疼痛や機能喪失を経験することにより生じている〈希死念慮をもつほどの苦悩の緩和〉によって[他者に向ける怒りと自分の内に向ける落胆の緩和]を図っていた.並行して排泄機能の障害により生じた生きる意欲を低下させる苦悩には〈自然排便をあきらめない支援〉や,患者の機能に合わせてトイレ排尿や導尿といった新たな排尿方法を模索する〈残存機能と排尿方法の希望のすり合わせ〉を行い,[新たな排泄テクニック獲得意欲の支援]を進めていた.熟練看護師は,これらの支援を微調整しながら繋がりを持って行う中で,時には患者の意欲を推進し,時にはネガティブに揺らぐ思いを制御する〈揺れ動く意欲の安定化〉を念頭に置きながら,【その人らしさの再認識支援】を行っていた.退院時には,患者は機能が回復し前向きな思いになりながらも,家族に迷惑をかけるために自分が存在しても良いのかという思いに縛られ心が揺らぐ.それに対し,〈家族の一員という認識確立への支援〉を行い,退院先が自宅に決定した場合には〈自宅退院への覚悟に寄り添う〉ケアを進め,施設に決まった場合には〈施設退院による落胆に寄り添う〉ケアを行うことで,患者がどこにいても家族の一員であるという認識を確立できるように【存在意味の否定的認知からの解放支援】を実践していた.
2) プロセスを構成するカテゴリ,サブカテゴリ,概念(表2) (1) 【安心して療養生活を送られる支援】このカテゴリは,脊損患者がリハ病棟という新しい環境で療養することへの不安をもつことや,新しい看護師にケア時に自分の全身を委ねるという恐怖感をもつことに対しての支援を表しており,2つの概念から構成された.
| カテゴリ | サブカテゴリ | 概念 |
|---|---|---|
| 安心して療養生活を送られる支援 | 不安に対する病棟生活のイメージ形成支援 | |
| 安心を強化したケアの提供 | ||
| その人らしさの再認識支援 | 埋蔵資源の意識化と増幅の支援 | |
| 他者に向ける怒りと自分の内に向ける落胆の緩和 | 患者自身に関心を向けるきっかけ作り | |
| 希死念慮をもつほどの苦悩の緩和 | ||
| 新たな排泄テクニック獲得意欲の支援 | 自然排便をあきらめない支援 | |
| 残存機能と排尿方法の希望のすり合わせ | ||
| 揺れ動く意欲の安定化 | ||
| 存在意味の否定的認知からの解放支援 | 家族の一員という認識確立への支援 | |
| 自宅退院への覚悟に寄り添う | ||
| 施設退院による落胆に寄り添う |
〈不安に対する病棟生活のイメージ形成支援〉:自分で寝返りができないことから視界が限られ,自分でリハ病棟に関する情報収集が困難であることで抱く戸惑いや不安に対して,看護師は患者が見通しを立てられることで安心して療養生活を送れるように,リハ病棟の生活を具体的に説明する支援を行っていた.「転院してくる(脊損)患者さんってとても不安感強くて,やっぱりここの病棟がどんな所か分からないんですよ.(中略)『どんな病棟かも分からないから不安になる』って言っていました.(中略)ご飯が何時で,リハビリが何時で,それでお風呂は何時でって説明して,そうすると何となく患者さん1日のスケジュールみたいのが分かって,『今からリハビリやー』って段々慣れてきます.(12)」
〈安心を強化したケアの提供〉:看護師は,日常的に安全で患者が安心感を得られるケアを行っていた.しかし,脊損患者は自分で体位変換や身動きがとれないため,リハ病棟で新たに出会う看護師からケアを受けることにより不安や恐怖心を抱くと判断し,入院の初期から日常的に行っているケア以上に強化して患者から安心感を持って身を委ねてもらえる支援を提供していた.「本当に恐怖を感じるというか.一つ一つケアをするにしても『何をするんだろう,されるんだろう』っていう恐怖があるので,今からこれをするから,(中略)それを事前に説明してから順序に準じて,ケアをさせていただく形でした.(中略)寝ている状態でぱっと持っていかれると,かなり怖かったようです.(9)」
(2) 【その人らしさの再認識支援】このカテゴリは,看護師に向ける怒りや,機能の回復を実感できないことによる焦りや落胆,希死念慮への思いを増幅させず,一方では僅かでも残っている貴重な機能や家族といった資源を持っていることに気付き,排泄方法について希望がもて,生活再構築に向かう意欲が安定化される支援を表しており,6つの概念と2つのサブカテゴリで構成された.
〈埋蔵資源の意識化と増幅の支援〉:貴重な機能の回復であっても,その小ささから回復を自覚できないでいる患者の思いに対して,看護師はその回復を貴重な変化であること,また機能に限らず患者にとってかけがえのない家族や,患者が培ってきた強み等の資源を持っていることを伝え,患者が前向きになれるよう支援をしていた.「入院中に少しずつ手がちょっと反応,動くようになって.その少しの反応もフィードバックして,患者さんにちょっと灯りをさすというか.(8)」「自分だけの思い(怒りや落胆)に囚われてしまう所を,患者さんが好きな落語の話をしたり,奥さんが持ってきたネックウォーマーや可愛い物を持っていて,お孫さんの写真飾られているので,お孫さんの話に変えてみたり.(中略)そうやってお孫さんの話だったり,落語の話をすると,好きなことを話すので表情はぐっと変わります.(1)」
[他者に向ける怒りと自分の内に向ける落胆の緩和]
このサブカテゴリは,もどかしさ等から看護師に怒りをぶつける外側に向けられた脊損患者の思いや機能喪失といった症状等への苦悩から死にたいという内側に向けられた患者の思いへの支援を表す.
〈患者自身に関心を向けるきっかけ作り〉:歩行や車いすでの移動が困難なことや自分で自分のことを行えないことによるもどかしさ,なぜ自分だけが重い障害を負ってしまったという脊損患者の思いから派生する怒りに対して,看護師は患者が自分自身と向き合えるように支援していた.「攻撃的に『そのやり方はなんや!』みたいに言ってくる患者さんも脊損の方って多い印象で.(中略)そうやって周りに攻撃するところに目を向けるんじゃなくて,自分が受けたリハビリとか,そういうのを自分のためだと知っていってほしいというか.『今の症状はどうですか?』っていう感じで自分の身体に目を向けさせるというか.(中略)今まで元気にされていて,事故で受傷して,急に動けなくなって,色々ケア受けるようになって,自分を守るじゃないですけど,それでそういう風には言ってくるんだと思うんですけど.(5)」
〈希死念慮をもつほどの苦悩の緩和〉:機能喪失や痺れといった症状等への苦痛から死にたいという患者に対して,看護師は思いを受け止め,苦痛を和らげていた.「『痺れも強くて死にたい』って話を夜とかにした時とかは,やっぱり暗くなったりすると人間って考えちゃうじゃないですか.(中略)初めはやっぱり受け入れ.どんな風に思っとる?とか話を聞きながら,本人の思いを引き出して,突発的に(死にたいと)言ったことなのか.(中略)『もう痛いし,痺れも強いし,動かんし,動かないならもう家にだって帰れんし,皆にも迷惑かけるから,もう死んだほうがましや』って.(中略)痺れ強くて寝れんかったら,先生にも聞くし,お家の人とかも応援しとるんやから,死にたいとか言ったらお家の人も悲しむよっていう感じで,話を聞いた上でちょっと言うんですけど.(6)」
[新たな排泄テクニック獲得意欲の支援]
〈自然排便をあきらめない支援〉:患者が摘便されることへの嫌悪感と自然排便を諦めかける思いに対し,看護師は可能な限り摘便に頼らない方法を模索し,自然排便を目指していた.「摘便はやっぱり本人にとって『嫌だ』言われて.(中略)ここは回復期なんで,ナース,ケアワーカー,PT,OTあとST皆で何とかならんかねって.こういう訴えがあるんやけどって.便も出やすいように調節はしたけど,気張る力は無いし,何とかトイレ連れて行かれんかねって言っていたんです.(中略)もう諦めとったんですよ.(中略)トイレで排便できんのやな,みたいなことをぽろっと呟くみたいに言っていて.(12)」「『もうこんなんで死にたい』とか言われた方もいますし,(中略)一番は排泄ですね.排泄が今まで普通に出ていたものが出なかったり,自分が意図しないのに出てしまうということでかなり混乱されている方もいました.(中略)排出障害も強かったので,排便コントロールどうしようかって,まず排便パターンを調べて,お薬の調整も一緒にやって,(中略)自分の排便パターンが分かってくるので,そうしたら自分でお薬の調整ができるようになってきたのでお薬のコントロールでダメなら次は座薬で,座薬がダメならその後のことまでっていう感じですかね.もちろん,話し合って指導しました.(11)」
〈残存機能と排尿方法の希望のすり合わせ〉:排尿機能の回復への希望を持つ一方で,思うように回復が進まないことで諦めの思いを持つことに対して,看護師は患者の残存機能を見極めながら希望に合わせた排尿方法を目指していた.「本人が何回か(排尿訓練を)行なっとる間にぽろっと『便所行けたら良いな.わしはもう諦めたけど』という言葉が出てきたので,(中略)『今度皆(多職種)で話してみるって.1日1回はリハビリで車椅子乗っているし,その時にトイレ行かれんか相談してみるわ』ってその患者さんに言って.(12)」
〈揺れ動く意欲の安定化〉:患者の機能回復や社会復帰に向けて進んでいこうとする思いや行動に対して,看護師は思いを推進させる支援と,患者が回復への焦りや落胆に繋がるネガティブな思いを増幅させない支援を患者の状態を見極めながら,意欲が落ち着くように支援していた.「麻痺でもう完全に動かない状態が続くって思っていなくて,リハビリをすれば回復すると思われていました.(中略)まずは食事が自分でできるようにしたいということで,自助具の工夫や,選定で療法士と共に,道具を使ったり,環境の工夫はしていました.(中略)『元に戻りたい』のがもう前提に,目標にあって,それに向けてどうやって行くかなので.(9)」
一方,ネガティブな意欲を増幅させない支援では,機能訓練を一生懸命に行おうとする前向きな思いが焦りとなった時,疲労を重ねることや,焦ることでの失敗でさらに落胆することを回避するために,看護師は焦る思いを増幅させない支援をしていた.「今は焦らないで欲しいと言って.失禁が無いような工夫をしました.(中略)『(看護師が)じゃあこうやっていきましょう.でも焦らないで.』って言うのを必ず言って,やっていきました.(中略)失敗すると『もうやっぱり,もうだめや』って感じになられるという風なのが予期できたというか.(中略)『(看護師が)できたでしょ?だんだん感覚戻ってくるはずだから,もうちょっと失敗するかもしれないけどリハビリ頑張って』っていう感じですね.(11)」
(3) 【存在意味の否定的認知からの解放支援】このカテゴリは,患者がリハ病棟からの退院を意識した際にみられる.患者は機能が回復し前向きな思いになりながらも,繰り返しみられる家族としての役割を果たせないことや,自宅退院が決定し家族に迷惑をかけることへ苦悩する思い,施設退院の決定による落胆の思いに対する支援を表しており,3つの概念で構成された.
〈家族の一員という認識確立への支援〉:患者の家族としての役割を果たせず,家族の負担になっているという後ろめたい思いの繰り返しに対して,看護師は患者自身が家族の中に自分が存在していること自体が家族にとって価値があることと自覚できるように伝えていた.「自分が追い求めるレベルが高い人だったので,できて良かったねって言っても『こんなことぐらい』と仰る方だったので.目標が高い方だったので,受け入れに時間のかかった方のように思います.(中略)『(家族に)迷惑をかけるからもう死んだ方がいいんじゃないか』と言うのはもう最初からそんな感じでした.(中略)反して家族はそんなこと思ってないよっていうのは,ありありと家族から,家族を見ていたらお父さん何とかっていうのが凄く見えたので,『(家族にとって患者が)大事な人なんやね』って言う.(11)」「(患者には)家に帰ったら娘も結婚できないという思いもありました.でも娘さんにしたらお父さんのことを負担には思ってない.命が助かって身体は不自由だけどお父さんと話もできるから,娘さんは何とも思っていないと思いますよって.(中略)(患者は)そうかなって考えていました.(8)」
〈自宅退院への覚悟に寄り添う〉:自宅での生活により家族に迷惑をかけるという思いを持ちながらも,自宅退院に対し腹を括った患者の思いに対し,看護師は患者に寄り添い退院の準備を進めていた.「もう自宅想定した訓練に入るので,家で使う歩行器,テーブルから,もう全部病棟で練習する.(中略)それはもう家帰るんやからって腹括りますね.(中略)おうち帰るって分かっているから,皆に迷惑かけたくないから頑張らなならんやろうってそういう言動がいっぱい出てきますよ.(12)」
〈施設退院による落胆に寄り添う〉:施設退院が決定した落胆の思いに対して,看護師は患者の気持ちを受け止め,生活への希望が施設で叶えられるように対応することで,患者の気持ちが落ち着くように支援していた.「こういう風に対応していますというのを看護サマリーと一緒に渡して,なるべく本人が混乱しない様にパンフレットとかで作って渡したり,事前に必要だったら(転院先に)電話で説明したりして,そういう風にちゃんと向こうの看護師さんに伝達とかするから.今と同じようにリハビリとか生活ができるように取り組んでもらうってことを説明して,少し不安の軽減が図れればなって思うんですけど.(6)」
【安心して療養生活を送られる支援】【その人らしさの再認識支援】【存在意味の否定的認知からの解放支援】の3つのカテゴリについて考察する.
1. 安心して療養生活を送られる支援【安心して療養生活を送られる支援】について熟練看護師は,脊損患者のリハ病棟という新しい環境で療養することへの不安に対して,療養環境やおおよその療養生活の進め方をイメージしてもらえるよう具体的な説明をすることで安心してもらう支援をしていた.脊損患者は臥床したままで周りの様子が分からないことへの辛さを体験する(松本・泉,2007)と報告されている.また,急性期病棟からリハ病棟へ転院する患者は,看護師や療法士,病棟での同室者との人間関係に不安を抱く(小野ら,2013)とも述べられている.本研究における熟練看護師が行った【安心して療養生活を送られる支援】も,頚髄損傷による四肢麻痺で,リハ病棟について電子端末を操作して自分で調べることができないまま入院の日を迎えていると推察される患者の「療養への不安」に対する支援であり,松本・泉(2007)が述べる周りの様子が分からないことへの辛さへの支援とも言える.一方,ケアにおいて,患者が初対面あるいは新人の看護師に自分の全身を委ねることへの恐怖感は,小野ら(2013)が述べる人間関係への不安にも通じ,熟練看護師は具体的な手順の説明や動作時の声かけというケアの基本を丁寧に行うことで,より安心感をもたらす支援をしていたと考えられる.特に ケア時の些細な動作や刺激に対する説明は,周囲の様子が見えない患者に具体的に分かってもらうための支援にもつながると思われ,それによって患者は看護師に安心して身を委ねられるようになると考察される.
2. その人らしさの再認識支援黒田ら(2017)は看護分野における‘その人らしさ’を構成するものの一つに【人間としての尊厳が守られている状態】と示している.脊損患者は排便後に倦怠感,めまい,脱力感を訴えており(吉村ら,2001),排便形態が摘便の場合,便失禁によって自尊感情が低下する(志戸岡・内藤,2019)と報告されている.排泄とは生理的欲求の1つを果たすことのみならず,人が自身の意思で時間や場所を制御し,プライバシーが守られた状態で行うものであるのに対し,摘便は用手的に排泄を行うため,患者は肛門や肛門周囲の粘膜・皮膚の痛みに加え,陰部・臀部の露出,さらには排泄物を他者に見られることから多大な羞恥心を経験すると考えられる.また失禁を経験した場合も患者の心身の苦痛は非常に大きいと考えられる.本研究において,摘便をされることや失禁により死を望む思いを捉えた語りからも,熟練看護師は排泄の問題が脊損患者の尊厳およびその人らしさを脅かすものであると捉え,排泄機能低下による思いの変化であった場合には,患者の身体や症状に関心を持ってもらう支援により,排泄面での患者の要望を引き出し,僅かでも回復した排泄機能を認識してもらい,その人らしい排泄を目指せる環境を提供することで死にたい思いを軽減することを通すという繋がりを以て,尊厳を守ることによりその人らしさを再認識してもらう支援を行っていたと推察された.
また黒田ら(2017)は‘その人らしさ’を【内在化された個人の根幹となる性質】とも述べている.患者の‘その人らしさ’は,脊損による障害によって,これまでと同様の生活を送ることが困難になるというかつてない経験が覆い被さることで,一時的に患者は認識できなくなるが,患者の中に必ず内在しているものと考える.池田ら(2021)は逆境やストレスに対して環境と相互作用し,柔軟に対応する力はレジリエンスであり,看護師は患者の回復に影響を与える環境の一部であり,回復期において「患者の物語を聴き,患者のその人らしさ(個性)を尊重しながら,回復を促進し,成長を見守り,時に成長を促すケアが求められる」と述べている.本研究結果から,熟練看護師は対話を通して患者の好きなもの,家族への想い等を引き出す関わりを通して脊損患者の思いが変化した中で回復力となりうるものを捉えて具現化し,患者がその人らしさを再び認識できるように支援していたと考える.
3. 存在意味の否定的認知からの解放支援脊損患者は自宅退院が決定し,再び家族と共に過ごせる生活に戻れる喜びをもつ一方で,ADLの依存度が高いため,家族に介護負担や迷惑をかけると苦悩し,自己の存在意味を見出せないという想いを経験していると考える.しかし脊損患者は障害と向き合う中で,脊損になっても変わらない自分を見つめ直すことで自信を持ち,新たな生活を構築し,自分なりの新しい世界を築いていく(堀田・市村,2011)と報告されている.本研究結果から,熟練看護師が患者の覚悟や不安に寄り添い,患者の家族内における存在価値を伝えることにより,患者は自分も家族の一員であり,障害があっても役割を持ち,家族の支えになれるという認識に変化させていくと考える.患者を存在意味の否定的認知から解放することは自分の確固たる存在価値をもって新たな生活へ向かうための支援であったと考察された.
4. 看護への示唆看護師は同僚から脊損患者の支援について助言を求めても,傾聴以外の具体的な支援策が得られないことに苦悩している(加藤,2012)ことが報告されている.脊損患者を看護する看護師は,ケア時に患者から怒りや死にたいという言動に直面した際に,その言動を鵜呑みにすることによってどの様に対処すればよいのかが分からず,閉塞感に陥っていると考えられる.本研究結果から,熟練看護師は,患者の変化した思いとは排泄をはじめ受傷前の生活ができなくなるという苦悩や,ケアの最中に自分の身体がどの様に扱われているのか分からないという恐怖,家族の迷惑になるかもしれないと迷う気持ちがきっかけとなって表出されるものと認識している可能性が示された.そして,そのきっかけになりうる背景を捉えたうえで,脊損患者が求めていることを確認しながら,繋がりを以て支援を行っていることが本研究結果から推察された.脊損患者がネガティブな思いや希死念慮をもったとしても,熟練看護師は思いの本音を捉え,患者が認知できない残存している小さな機能や患者が見失った資源を回復因子として,多職種とともに,シームレスに様々な支援を続けている.逆境からの回復期は,看護師が「安心できる存在」となり,「患者の回復因子を見出し,患者がそれを最大限に発揮できるよう環境調整を行いながら,患者に関わる」(池田ら,2021)支援が重要と述べられている.患者が見失った資源に気付いてもらう支援については,患者と家族が交流をもつことは生活していく意欲に関わる(飯田ら,2021)ことからも熟練看護師は患者が家族の思いを知る機会を持てるように関わっていた.
本研究結果から得られた熟練看護師の支援を経験年数を問わず看護師に周知することで,脊損患者が抱える変化した思いを受け止め,支援する方法を見出すことが可能となり,脊損患者は自身をケアする看護師に対し安心感や,信頼を寄せられるようになることで回復へ向けて共に進んでいくことができると考える.
5. 研究の限界と今後の課題特定した地域の看護師を対象としており,また脊損患者の障害の程度や家族背景は検討されていないため,研究成果の適応に限界がある.本研究は,脊損患者の思いの変化に寄り添った支援プロセスを新規に明らかにしたが,個別性に応じた支援プロセスの探求が今後の課題である.
熟練看護師は,リハ病棟転入後の不安に対し【安心して療養生活を送られる支援】をし,〈埋蔵資源の意識化と増幅の支援〉[他者に向ける怒りと自分の内に向ける落胆の緩和]や多職種と連携し[新たな排泄テクニック獲得意欲の支援]を組み合わせて実践する中で,〈揺れ動く意欲の安定化〉を図りながら【その人らしさの再認識支援】を行い,家族の中で自分の存在の意味が揺らぐ思いに【存在意味の否定的認知からの解放支援】を行っていた.脊損患者の揺れ動く複雑な思いには,支援を組み合わせて,微調整しながら多職種と連携し,支援し続けていく必要がある.
付記:本論文は金沢大学医薬保健学総合研究科博士論文の一部に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究にご協力いただき,貴重な体験を語っていただきました参加者の皆様に心より感謝いたします.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MIは,研究の着想,デザイン,データ収集,分析,論文執筆の全研究プロセスに貢献した.MKは,研究プロセス全体への助言および原稿への示唆に貢献した.KT,YTは,データ分析,結果,考察の助言に貢献した.すべての著者は,最終原稿を読み承諾した.