日本看護科学会誌
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総説
変形性股関節症患者の保存療法中のセルフマネジメントの概念分析
西村 結花古瀬 みどり
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2023 年 43 巻 p. 379-391

詳細
Abstract

目的:変形性股関節症(Hip osteoarthritis:以下,HOA)患者の保存療法中のセルフマネジメントの定義を明確にする.

方法:43文献を対象にWalker & Avantの概念分析方法を用いた.

結果:属性は【意思決定と病気の受容】【治療・養生の知識と技術の獲得】【問題への対処法の洗練】【否定的感情への対処】【社会的役割の調整】【資源・情報の活用】【医療者との協働】が抽出された.

結論:本概念を「医療者とのパートナーシップに基づく協働により,患者が治療に積極的に参加し,自らの能力を活用しながら個人のニーズに合わせた目標に向けて意図的に継続する日常的な取り組みである.患者が養生に対する責任を持ち,HOAと治療に関する知識と,疾患や感情・社会的役割を管理するためのスキルを習得しながら主体的に対処法を洗練するプロセスである」と定義した.

Translated Abstract

Aims: We aimed to clarify the definition of self-management during conservative treatment in patients with HOA.

Methods: The Walker and Avant’s method of concept analysis was performed on 43 articles.

Results: The following were extracted as attributes of self-management during conservative treatment in patients with HOA: self-determination and acceptance of disease, acquisition of knowledge and skills for treating and coping with problems, refining how to deal with a problem, negative emotional management, adjusting social roles, using resources and information, and cooperation with medical professionals. The antecedents to self-management were personal health issues and perceptions , and influences exerted by the social environment. The consequences of self-management were change to a healthy lifestyle, improving locomotor function, acceptance of HOA and changes to positive emotions, improved self-efficacy, and maintenance and improvement of QOL.

Conclusion: We defined this concept as “it is a process in which patients, in collaboration with medical professionals, actively participate in their own treatment and make regular, intentional, and continuous efforts toward goals aligned with their individual needs by utilizing their own abilities. Patients acquire knowledge about HOA and its treatment, take responsibility for healthy behaviors, and independently refine coping methods while learning skills to manage the disease, their emotions, and their social roles.”

Ⅰ. 緒言

変形性股関節症(Hip osteoarthritis:以下,HOA)は関節破壊により股関節の疼痛や,関節可動域制限,跛行,関節変形による機能・歩行障害を呈する(志賀,2008).病期の進行により歩行に大きな影響を与え,日常生活動作(Activities of daily living:以下,ADL)や,生活の質(Quality of life:以下,QOL)が著しく低下する(米沢ら,2008).世界有数の超高齢社会であるわが国においても,今後さらなる長寿化の一途をたどり,加齢とともに進行するHOAは健康寿命の延伸を阻む大きな社会問題となることが予測される.

HOAの治療目標は,疼痛緩和と病期の進行抑制で(神野,2014),致死性の疾患でないことから侵襲の少ない保存療法が最優先される(Roos & Juhl, 2012).病期や,患者の希望,年齢,職業,生活環境を十分に考慮し,治療効果が最大限に得られる方法が選択され(山本ら,2019),必要に応じ手術療法が適応となる(神野,2014).その中で,保存療法は手術に至るまでの期間を延長するという点で初期治療として十分に有用であり(神野,2014),できるだけ病期の早い段階に提供される必要がある(Thorstensson et al., 2015).HOA診療ガイドライン(2016)では,保存療法として体重管理や日常生活の注意点に関する患者教育,運動療法,関節可動域訓練,筋力強化訓練,物理療法,歩行補助具の使用,薬物療法が推奨されている.

米国では,個人が自身の健康に対して責任を持つ考え方が重要視され,セルフマネジメントが,慢性疾患とともに生きる人の治療に必須の構成要素とされる(Udlis, 2011).慢性疾患は治癒が望めず,生涯に渡り疾患と付き合わなければならない性質から,患者はいかに疾患と共に生きていくかが目標となる.また,慢性疾患を抱える患者にとって,慢性的な症状を自ら積極的に管理することは,患者本人の自立とQOLを長期間保つことができる(Grady & Gough, 2014)とされる.HOAは長い時間をかけて病期が悪化する疾患であり,長期にわたる養生を求められることから,治療目標を達成する上で,セルフマネジメントは重要な役割を果たすと考える.HOA患者が可能な限り健康な状態とQOLを維持増進するには,症状への対処や,関節負荷軽減の動作の獲得,その時の健康状態に合わせ生活を調整する,などのセルフマネジメントをHOAの疾患過程の初期段階である保存療法中に行うことが不可欠である(Juhl et al., 2011).

スウェーデンでは,医療費の増大や,保存療法の治療継続の難しさなどの問題を背景に,2008年に国家規模のセルフマネジメントプログラムが開発され,機能,痛み,QOLの改善や,自己管理に自信を持ち運動意欲を高める効果が報告されている(Thorstensson et al., 2015).一方,国内の研究では術前から患者教育を行うことで入院前の情報に対する満足度を高め,入院準備や入院に伴う仕事や家事の役割不在への準備,および不安感や精神的な落ち込みによる役割機能低下への歯止めといった効果が明らかにされている(当目,2004).しかし,これらの管理行動を患者が継続していくことは容易ではなく,個々の自己管理に対する認識や日常生活上の問題から継続的に評価することが求められている(木下ら,2015).HOA患者がADLの維持・改善効果をもたらす管理行動を継続するには,セルフマネジメントを高める支援が必要である.しかし,自己管理に関する情報は,患者会で共有されているにすぎず(城川・井原,2008),教育的な介入に関する報告はなく,わが国のHOA患者のセルフマネジメント支援は海外に遅れをとっている.保存療法中のセルフマネジメントをHOA患者に示し,効果的な支援を行うために,特性をとらえた概念を明らかにする必要があると考えた.そこで,本研究は,HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントの概念の属性,先行要件,帰結を明らかにし,定義を示すことを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 概念構築の方法

Walker & Avant(2005/2008)の概念分析は,「概念の基礎となる要素を調べる過程」を目的とし,「概念を定義している属性と適切でない属性を区別すること」(上村ら,2005)に焦点が当てられる.曖昧さが洗練され,概念の内部構造が明らかになることで,厳密な操作的定義や概念間の関係の仮設や測定用具などを作成する際に有用とされることから,本研究では,Walker & Avant(2005/2008)の概念分析を用いた.HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントについて言及している先行研究論文等の文献を対象とし,概念の属性,モデル例の提示,先行要件と帰結を明らかにし概念の定義を検討した.

2. 文献検索・データの分析方法

HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントを検討するため,文献検索をした.学術論文データベースとして,CiNii Articles,医学中央雑誌web版(以下,医中誌),PubMedを用いた.国内文献のキーワードは,‘セルフマネジメント’ ‘自己管理’ ‘変形性股関節症’とした.海外文献は,‘hip osteoarthritis’ ‘self-management’を用いた.文献数が少ないため検索期間は限定せず,2021年3月31日までに集録された文献を対象とした.

対象論文を精読し,論文ごとに属性,先行要件,帰結についての記述を抽出し,コード化した.抽出されたコードを属性,先行要件,帰結ごとに類似性と相違性を識別しながらサブカテゴリー,カテゴリー化した.コード化,カテゴリー化は,共同研究者間で行い,信頼性を確保した.

Ⅲ. 結果

1. データ収集の結果

国内文献の検索結果は,検索式「変形性股関節症」and「セルフマネジメント」が医中誌のみで21件,「変形性股関節症」and「自己管理」が医中誌26件,CiNii2件の計28件であった.その後,原著論文に絞り,「変形性関節症」and「セルフマネジメント」が14件,「変形性股関節症」and「自己管理」は19件であった.しかし,HOA患者の保存療法中の自己管理に関係しないものや重複しているものを除外したところ該当文献はなかった.

海外文献の検索結果は‘hip osteoarthritis’ and ‘self-management’の検索式が227件であった.文献のタイトル,抄録を確認し,HOA患者の保存療法中の自己管理・保健行動に関係しないものを除外した.最終的に1997年~2021年に集録された43件を対象とし,概念分析を行った.

2. HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントの属性(表1

HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントの属性として,以下の7つが抽出された.以下,【 】はカテゴリー,[ ]はサブカテゴリーを示す.

表1 

「HOA患者の保存療法中のセルフマネジメント」に含まれる構成要素

カテゴリー〈属性〉 サブカテゴリー コード 文献
意思決定と病気の受容 1)治療・養生の意思決定 患者や家族自身がHOAの治療と養生法を意思決定する Ackerman et al.(2013)Brand(2008)Osborne et al.(2006)Patel et al.(2009)Pelle et al.(2019)Wainwright et al.(2015)
自分や家族が治療や養生に対する責任をもつ Patel et al.(2009)Pelle et al.(2019)Wainwright et al.(2015)
将来の治療方針を意思決定するために必要な情報を知っている Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Wainwright et al.(2015)
自分の興味・関心ごと,股関節の健康に対するニーズを把握する Ernstgård et al.(2017)Grainger et al.(2004)
症状や徴候をモニタリングし日々の取り組みと結び付けて意思決定する Brand(2008)Osborne et al.(2006)
2)HOAの受容 HOAに対する自己の考えを把握する,HOAを受け入れる Patel et al.(2009)Thorstensson et al.(2015)
HOAが悪化する要因や,症状,将来の状態について理解している Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Paterson et al.(2016)Wainwright et al.(2015)
治療・養生の知識と技術の獲得 3)運動の利点と具体的方略の理解 運動による健康上の利点について理解している Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
無理のない運動方法について理解している(運動の手順,運動中の痛みの管理について) Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
関節保護をする動作について理解する Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Ernstgård et al.(2017)
4)健康的な食事と体重管理の理解 体重管理の重要性を理解している Dahlberg et al.(2020)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
健康的な食事の一般的な原則について理解している(食事のタイミング,カロリー,バランス) Allen et al.(2008)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Wainwright et al.(2015)
健康的な生活習慣について知っている Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Paterson et al.(2016)
体重管理の具体的な食事内容を理解している(脂肪と塩分の摂取量を制限し,1日に果物や野菜を5種類以上食べる) Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
5)治療の理解 鎮痛・抗炎症薬について基本的な情報を知っている Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
推奨されている最適な医薬品の使用について知っている Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
関節注射と手術療法について知っている Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Wainwright et al.(2015)
関節保護具の日常生活での使用方法について知っている(装具療法) Allen et al.(2008)
補完療法・代替療法についての有効性やリスクについて知っている Sperber et al.(2013)Wainwright et al.(2015)Wainwright et al.(2016)Wang et al.(2020)
自分が処方されている薬の使用法,使用量,副作用について知っている Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
6)身体・精神症状,生活上の問題を自己調整する方略の理解 痛みの緩和のために必要なことを知っている Allen et al.(2008)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
痛みや,症状を改善するための具体的な方略について理解している Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
睡眠を改善するための一般的な方略について理解している Allen et al.(2008)Ernstgård et al.(2017)
夜間の痛みを軽減するための方略について理解している Ackerman et al.(2013)Wainwright et al.(2015)
ストレス管理と軽減・リラクゼーションについての一般的な原則と具体的な方法について理解している Allen et al.(2008)
問題への対処法の洗練 7)目標設定 達成可能な目標を立てる(短期目標と長期目標の設定,測定可能,関連性のある) Gay et al.(2016)Patel et al.(2009)Paterson et al.(2016)Pelle et al.(2019)Safari et al.(2020)Sperber et al.(2013)Wainwright et al.(2015)Walsh et al.(2020)
体重管理の具体的な数値目標と期間を設定する Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Gay et al.(2016)Thorstensson et al.(2015)Wainwright et al.(2015)
8)養生の具体的な取り組みの計画立案 問題を解決するために取り組みの計画を立てる(具体的で,測定可能で,達成可能で,現実的で,タイムリーで,個別的な計画) Patel et al.(2009)Paterson et al.(2016)Safari et al.(2020)Sperber et al.(2013)Wainwright et al.(2015)Wainwright et al.(2016)Walsh et al.(2020)
関節を保護するための自分に適した運動の計画を立てる Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Gay et al.(2016)Thorstensson et al.(2015)Wainwright et al.(2015)
目標や問題に応じて自分に合った方法の行動計画を立てる Unevik et al.(2020)Wainwright et al.(2015)Wang et al.(2020)
疲れて痛い時に運動する計画を立てる Ernstgård et al.(2017)Grainger et al.(2004)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
日常生活に運動を組み込む Ernstgård et al.(2017)Gay et al.(2016)Holden et al.(2018)Jönsson et al.(2018)Patel et al.(2009)Unevik et al.(2020)Wainwright et al.(2015)
養生法を確実に実施するための方略を考える Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Thorstensson et al.(2015)Unevik et al.(2020)
9)積極的態度による意識的な養生の実践 日常生活で体重管理や関節保護のための取り組みを行う Jönsson et al.(2018)Patel et al.(2009)Unevik et al.(2020)Wainwright et al.(2015)
望ましい食習慣を行う(1日3食,間食を避け,過食を避け,夜遅く食べない) Gay et al.(2016)Holden et al.(2018)Jönsson et al.(2018)Patel et al.(2009)
身体活動や運動はゆっくりと開始する Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Pelle et al.(2019)Wainwright et al.(2015)
痛みなどの症状や身体的な疲労を軽減する Ackerman et al.(2012)Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Gay et al.(2016)Holden et al.(2018)Osborne et al.(2006)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
積極的な態度でHOAの治療や養生をおこなう Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Brand(2008)Crotty et al.(2009)Cuperus et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Eyles et al.(2020)Heuts et al.(2005)Mann et al.(2011)Osborne et al.(2006)Patel et al.(2009)Paterson et al.(2016)Pelle et al.(2019)Rice et al.(2019)Wainwright et al.(2015)Wang et al.(2020)
HOAの養生は意識的かつ計画的に行うことが必要であると理解している Osborne et al.(2006)Patel et al.(2009)
10)自己の強みを信じた取り組みの維持・継続 日常生活の小さな健康的な習慣を確立し,維持していく Ernstgård et al.(2017)Patel et al.(2009)Pelle et al.(2019)
実施するべき取り組みを忘れないようにリマインダーの設定をする Allen et al.(2008)
自律的にモチベーションを高めながらHOAの養生行動をとる Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Hurley et al.(2016)Patel et al.(2009)Paterson et al.(2016)
生涯にわたって運動と身体活動を継続するために自律的な動機付けをする Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Skou et al.(2019)
自身で調節しながら運動を継続する Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Paterson et al.(2016)
自分自身が健康に関連する問題を予防または軽減することができると信じる Allen et al.(2008)Crotty et al.(2009)Patel et al.(2009)Pelle et al.(2019)Wainwright et al.(2015)
自分の行動次第で健康になることを理解している Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Plinsinga et al.(2019)Wainwright et al.(2015)
自分の持っている力や強みを生かす Coudeyre et al.(2010)Ernstgård et al.(2017)Wang et al.(2020)
11)体調変化や自分の状態に応じた目標と計画の調整 健康状態を観察する(チャートの活用など),変化を監視する Ackerman et al.(2013)Crotty et al.(2009)Heuts et al.(2005)Patel et al.(2009)Wetzels et al.(2008)
日常生活の状況を観察する(関節の動き方の変化,睡眠の状態,気分の変化,痛み,こわばり,腫れ,体重,身体活動の量,運動量,薬物及びその他の治療法) Crotty et al.(2009)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Hurley et al.(2016)Jönsson et al.(2018)Patel et al.(2009)Paterson et al.(2016)Pelle et al.(2019)Safari et al.(2020)Skou et al.(2019)Thorstensson et al.(2015)Wainwright et al.(2015)
自己の養生法や日々の取り組みを振り返り問題を認識する Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Paterson et al.(2016)Wainwright et al.(2015)
症状の増強を予測する Gay et al.(2016)Holden et al.(2018)Wainwright et al.(2015)
症状や理解度に合わせて計画を自分で調節する Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Pelle et al.(2019)Wainwright et al.(2015)
目標と日々の取り組みを修正・強化する Crotty et al.(2009)Ernstgård et al.(2017)Pelle et al.(2019)Wainwright et al.(2015)
否定的感情への対処 12)不安と否定的感情の知覚 疾患への不安,将来への不安を把握する Crotty et al.(2009)Gay et al.(2016)Patel et al.(2009)
ストレスのサインに気づく Allen et al.(2008)Crotty et al.(2009)Eyles et al.(2020)Patel et al.(2009)Rice et al.(2019)Safari et al.(2020)
13)否定的感情のコントロール リラクゼーションの方法を知り実行する Allen et al.(2008)Patel et al.(2009)Safari et al.(2020)Wylde et al.(2014)
精神的な苦痛や怒りと,恐怖や欲求不満などの感情をコントロールする Crotty et al.(2009)Osborne et al.(2006)Patel et al.(2009)Wang et al.(2020)
社会的役割の調整 14)社会的役割の調整 家族の約束を調整する Gay et al.(2016)
職場の役割を調整する Ackerman et al.(2012)
資源・情報の活用 15)社会福祉サービス,情報などの資源の活用 養生のために利用できる周囲の資源の役割について知っている Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Paterson et al.(2016)
資源や治療や養生に関する情報を見つけて活用する Pelle et al.(2019)
ヘルスサービスナビゲーションを活用する Dahlberg et al.(2020)Wang et al.(2020)
16)他者からの支援の受け入れ ピアサポートボランティアを活用する Crotty et al.(2009)
家族の理解,支援を得る Ackerman et al.(2013)Coudeyre et al.(2010)
友人と一緒に運動する Ackerman et al.(2013)Grainger et al.(2004)
医療者との協働 17)医療者からの支援・助言の受け入れ 支援,助言,個々の調整などの援助を受ける Ackerman et al.(2013)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Thorstensson et al.(2015)Wainwright et al.(2015)
医療者からの助言を日々の取り組みに取り入れる Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Patel et al.(2009)Paterson et al.(2016)Wainwright et al.(2015)
日々の取り組みが生活にどのような影響を与えているかを医療者とともに振り返り調整する Brembo et al.(2016)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Hurley et al.(2020)Patel et al.(2009)Plinsinga et al.(2019)
医療者から支持的なかかわりと最小限の介入を受ける Holden et al.(2018)Hurley et al.(2020)Patel et al.(2009)Thorstensson et al.(2015)Wainwright et al.(2015)
18)医療者との情報共有 医療者に伝えるべき症状の変化や取り組みについて把握する Ackerman et al.(2013)Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Wainwright et al.(2015)
不安に思うことを医療者に伝える Allen et al.(2008)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
痛みを感じる状況や症状を医療者に報告する Ackerman et al.(2013)Eyles et al.(2020)
医療者に自分の治療へのニーズを理解してもらう Allen et al.(2008)
19)医療者とのコミュニケーションによる信頼形成と協働の重要性についての理解 医療者とコミュニケーションをとり,信頼を築く Ackerman et al.(2013)Brembo et al.(2016)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)
股関節を保護するためには医療者と協働することが重要であることを知っている Ackerman et al.(2012)Ackerman et al.(2013)Dahlberg et al.(2020)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Patel et al.(2009)Wainwright et al.(2015)
20)医療者から肯定・称賛され,励ましを受ける 取り組みを実行・継続できるよう医療者から励ましを受ける Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Hurley et al.(2016)Jönsson et al.(2018)Patel et al.(2009)Safari et al.(2020)Skou et al.(2019)Thorstensson et al.(2015)
目標の達成や継続できたときに医療者に肯定・称賛される Hurley et al.(2016)Jönsson et al.(2018)Pelle et al.(2019)Wainwright et al.(2015)
日々の取り組みにやりがいを感じ楽しみながら長期的に行動を変化させることができるように励ましを受ける Ackerman et al.(2013)Ernstgård et al.(2017)Holden et al.(2018)Hurley et al.(2016)Patel et al.(2009)

1) 【意思決定と病気の受容】

【意思決定と病気の受容】は,症状・身体所見・取り組んでいる養生のモニタリングによる自己の状態把握と,自分の関心ごとや健康に対するニーズの把握により,自分が必要とする治療や養生を意思決定することを示す[治療・養生の意思決定]と,患者や家族がHOAを受容することを示す[HOAの受容]から構成される.

2) 【治療・養生の知識と技術の獲得】

【治療・養生の知識と技術の獲得】は,運動・身体的活動に対するモチベーションを高めるため,運動の背景・メカニズム・利点や具体的な方略を理解することを示す[運動の利点と具体的方略の理解],健康的な食生活習慣や股関節負荷の軽減のための具体的な方法としての体重管理に関する理解を示す[健康的な食事と体重管理の理解],推奨される正確な治療に関する情報や,自分が行う治療についての正しい理解を示す[治療の理解],疼痛の緩和や,症状を改善するための具体的な方略の理解,夜間の疼痛による不眠に対する睡眠改善の方略や,ストレッチやリラクゼーションなどの疼痛軽減などの対処に関する理解を示す[身体・精神症状,生活上の問題を自己調整する方略の理解]の4つから構成される.

3) 【問題への対処法の洗練】

【問題への対処法の洗練】は,以下の5つから構成される.[目標設定]は,症状・病期進行を問題と捉え,問題解決のために,達成可能で具体的な数値や期間を定めた目標設定を示す.[養生の具体的な取り組みの計画立案]は,目標達成のため,自己の状態や日常生活に合わせ,時間や内容などが工夫された具体的な方略が反映された計画を立案することを示す.[積極的態度による意識的な養生の実践]は,日常生活で体重管理や関節保護のための運動や栄養管理などの生活習慣の変更,身体活動や運動はゆっくりと開始するなどの具体的な養生法や,養生を取り組む上での積極的な姿勢を示す.[自分の強みを信じた取り組みの維持・継続]は,HOAに関連した健康問題を予防・軽減することができると信じることや,自分の持つ強みを活かすことでHOAの治療や養生を継続することを示す.[体調変化や自分の状態に応じた目標と計画の調整]は,歩行状態や関節可動域の変化,睡眠の状態,気分の変化,痛み,こわばり,腫脹,体重,身体活動の量,運動量,薬物および,その他の治療法,日常生活の状況を観察し,自己の養生を振り返り改めて問題を認識し目標や計画を調整することが示されていた.

これらの5つは,一連のプロセスとして取り組みの中で繰り返され,知識や技能が磨かれる.HOA患者は,問題に対する対処法を洗練し熟練した能力を発揮していく.

4) 【否定的感情への対処】

【否定的感情への対処】は,進行するHOAへの不安や,否定的な感情,ストレスサインの知覚を示す[不安と否定的感情の知覚],リラクゼーション方法や,感情のコントロールなどの対処行動を示す[否定的感情のコントロール]の2つから構成される.

5) 【社会的役割の調整】

【社会的役割の調整】は,HOAに関連して制限される家族の約束や,職場の役割などの社会的役割を調整することを意味する.

6) 【資源・情報の活用】

【資源・情報の活用】は,養生のために利用できる周囲の社会・福祉サービスに関する情報を収集し,その資源がどのように役立つかを知り活用することや,医療者やインターネット,アプリケーション,教育冊子などのヘルスサービスナビゲーションを活用することを示す[社会福祉サービス,情報などの資源の活用],同じようにHOAとともに生きる人々によるサポートボランティアの活用や,家族の理解や支援,周囲の人々の援助・支援を受け入れることを示す[他者からの支援の受け入れ]の2つから構成される.

7) 【医療者との協働】

【医療者との協働】は,以下の4つから構成される.[医療者からの支援・助言の受け入れ]は,医療者からの助言や,養生が与える影響を医療者と振り返るなどの最小限の介入や支援を受け,生活に取り入れることを示す.[医療者との情報共有]は,自覚症状の変化や,養生や不安を医療者に伝え治療へのニーズを理解してもらうことを示す.[医療者とのコミュニケーションによる信頼形成と協働の重要性についての理解]は,パートナーシップに基づく協働の重要性を知り,医療者とのコミュニケーションをとり,信頼を築くことを示す.[医療者から肯定・称賛され,励ましを受ける]は,行動変化を長期的に継続させるために,目標達成や養生行動が継続できたときに医療者に肯定・称賛や励ましを受け,養生のやりがいや楽しみを見出すことを示す.

3. 先行要件(表2

HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントの先行要件は,【健康課題の認識】と【社会的環境の影響】が抽出された.

表2 

「HOA患者の保存療法中のセルフマネジメント」の先行要件

カテゴリー サブカテゴリー コード 文献
健康課題の認識 知覚された健康状態による身体上の問題 健康状態(痛み,関節の安定性,体調不良,肥満) Pelle et al.(2019)Wetzels et al.(2008)Ernstgård et al.(2017)Wang et al.(2020)Ackerman et al.(2013)Brembo et al.(2016)
ADLのレベル,歩行困難感 Ackerman et al.(2012)Ackerman et al.(2013)Wetzels et al.(2008)
健康に対する思考や認識 HOAに対する認識 Ackerman et al.(2013)Wetzels et al.(2008)
患者の興味,患者の求めている情報 Ackerman et al.(2013)Cuperus et al.(2013)Skou et al.(2019)
動機づけ,やる気を十分にする Ackerman et al.(2013)Pelle et al.(2019)Skou et al.(2019)
自己効力感 Allen et al.(2008)
個人の資源 健康の知識に基づいて,健康や医療に関する正しい情報を見極め,理解し,活用できる能力 Crotty et al.(2009)Sperber et al.(2013)
時間・設備・収入・教育・職業 Ackerman et al.(2012)Ackerman et al.(2013)Gustafsson et al.(2020)Wang et al.(2020)
医療機関への交通・移動手段 Ackerman et al.(2012)Ackerman et al.(2013)
社会的環境の影響 社会資源 社会制度,自助グループ Ackerman et al.(2013)Crotty et al.(2009)
医療者の意見 非外科的治療に対する医療者の見解 Cuperus et al.(2013)
社会的役割 本人の家族役割の変化 Ackerman et al.(2012)

1) 【健康課題の認識】

【健康課題の認識】は,ADLのレベルや,歩行困難感,症状などの[知覚された健康状態による身体上の問題],疾患の認識とニーズ,養生への動機ややる気,自己効力感などの[健康に対する思考や認識],健康知識に基づき健康や医療に関する正しい情報を見極め,理解し,活用できる個人の能力である健康リテラシー,時間,設備,収入・教育・職業,医療機関への交通・移動手段を示す[個人の資源]の3つのサブカテゴリーから構成される.

2) 【社会的環境の影響】

【社会的環境の影響】は,社会福祉サービスなどの制度,自助グループを示す[社会資源],保存療法の有用性に疑問視するなどの非外科的治療に対する医療提供者の見解を示す[医療者の意見],本人の家族内の役割を示す[社会的役割],の3つのサブカテゴリーから構成される.

社会福祉制度や,自助グループ,保存療法に対する医療者の見解が,HOAに対する認識やセルフマネジメントの動機付け,健康リテラシー,自己効力感に影響を与え,通院時の移動など[個人の資源]に家族内の役割が影響を与えることが示された.これらより【社会的環境の影響】が,【健康課題の認識】に影響を与える関係性が導き出された.

4. 帰結(表3

直接的な成果を一次的帰結として,【健康的な生活への変化】【運動器の機能向上】【肯定的な感情への変化】の3つが導かれた.その結果,間接的に派生する効果を二次的帰結として,【自己効力感の向上】【QOLの維持・向上】の2つが導き出された.

表3 

「HOA患者の保存療法中のセルフマネジメント」の帰結

カテゴリー サブカテゴリー コード 文献
一次的帰結 健康的な生活への変化 養生の継続 運動や栄養などの生活習慣が改善する Allen et al.(2008)Jönsson et al.(2018)Osborne et al.(2006)Plinsinga et al.(2019)Safari et al.(2020)Wylde et al.(2014)
積極的な治療方針の決定への参加と,治療の継続(アドヒアランスの維持) Gay et al.(2016)Grainger et al.(2004)Skou et al.(2019)Thorstensson et al.(2015)
運動の強度・時間の増加 Ernstgård et al.(2017)
社会との繋がり 社会参加の改善 Allen et al.(2008)Coudeyre et al.(2010)Crotty et al.(2009)Gay et al.(2016)Gustafsson et al.(2020)Hurley et al.(2016)Jönsson et al.(2018)Osborne et al.(2006)Rice et al.(2019)Safari et al.(2020)Sperber et al.(2013)Thorstensson et al.(2015)Wang et al.(2020)Wylde et al.(2014)
社会的機能の向上(家族・仕事の役割の変化) Hurley et al.(2020)Wainwright et al.(2015)
運動器の機能向上 身体所見の改善 体重減少 Dahlberg et al.(2020)Wainwright et al.(2015)
疼痛の軽減 Allen et al.(2008)Allen et al.(2010)Crotty et al.(2009)Heuts et al.(2005)Hurley et al.(2016)Hurley et al.(2020)Jönsson et al.(2018)Pelle et al.(2019)Rice et al.(2019)Safari et al.(2020)Skou et al.(2019)Sperber et al.(2013)Unevik et al.(2020)Wainwright et al.(2015)Walsh et al.(2020)Wylde et al.(2014)
身体機能の向上 筋力・歩行速度の向上,関節可動域の拡大 Buszewicz et al.(2006)Dahlberg et al.(2020)Hurley et al.(2020)
肯定的な感情への変化 運動意欲の向上 Hurley et al.(2020)Wainwright et al.(2016)Wainwright et al.(2020)
個人的な経験(HOAの受容,HOAを前向きにとらえる) Buszewicz et al.(2006)Hurley et al.(2016)Hurley et al.(2020)
否定的感情のコントロール,うつの減少 Buszewicz et al.(2006)Heuts et al.(2005)Hurley et al.(2016)Hurley et al.(2020)Walsh et al.(2020)
二次的帰結 自己効力感の向上 Wylde et al.(2014)Unevik et al.(2020)Thorstensson et al.(2015)Sturesdotter et al.(2021)Skou et al.(2019)Safari et al.(2020)Jönsson et al.(2018)Holm et al.(2020)Claassen et al.(2018)Buszewicz et al.(2006)Brand(2008)Allen et al.(2008)
QOLの維持・向上 Ackerman et al.(2012)Crotty et al.(2009)Hurley et al.(2020)Osborne et al.(2006)Safari et al.(2020)Skou et al.(2019)Sperber et al.(2013)Sturesdotter et al.(2021)Unevik et al.(2020)

1) 【健康的な生活への変化】

運動や栄養などの生活習慣の改善や治療へ積極的な参加と意思決定,運動強度や時間の増加を示す[養生の継続]と,社会参加の改善や家族・仕事役割の変化などの社会的機能の向上を示す[社会との繋がり]から構成される.従って,【健康的な生活への変化】は,セルフマネジメントの結果,HOAの養生を継続し,社会との繋がりという成果が達成されることで個人が望む健康的な生活へ変化することを意味する.

2) 【運動器の機能向上】

体重減少や疼痛の軽減を示す[身体所見の改善]と,筋力や歩行速度の向上,関節可動域の拡大を示す[身体機能の向上]から構成される.従って,【運動器の機能向上】は,セルフマネジメントの結果,身体所見の改善や身体機能の向上といった成果が達成されることで運動器としての機能が向上することを意味する.

3) 【肯定的な感情への変化】

[運動意欲の向上]と,疾患の受容やHOAを前向きにとらえるといった[個人的な経験],HOAに関連して生じた[否定的感情のコントロール,うつの減少]から構成される.従って,【肯定的な感情への変化】は,セルフマネジメントの結果,運動意欲が向上し,HOAを受容し前向きにとらえるといった個人的な経験や,否定的な感情やうつ状態の改善により,疾患を受容し肯定的な感情に変化することを意味する.

4) 【自己効力感の向上】

【自己効力感の向上】は,人間の行動に影響を及ぼす要因であり,ある行動を起こす前にその個人が感じる「遂行可能感」(Bandura, 1977)を意味する.【健康的な生活への変化】【運動器の機能向上】【肯定的な感情への変化】の成果により自己効力感が向上した状態を意味する.

5) 【QOLの維持・向上】

健康上の問題にかかわらず,個人の望む生活を送ることができている状態を示す【QOLの維持・向上】は,【健康的な生活への変化】【運動器の機能向上】,【肯定的な感情への変化】の成果によりQOLが向上した状態を意味する.

5. HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントのモデルケース

以下は,HOA患者のセルフマネジメントを示す架空のモデルケースである.

A氏は看護師をしているHOAの女性(45歳)である.

A氏「学生時代にスポーツの経験や,仕事柄,身体の管理には自信があった.しかし,産後は忙しさによるストレスが原因で過食し,5年前はBMI38まで増えた.その頃は股関節が痛くて仕事中も立っていられず,2か月ほど休職した.それから,減量や股関節に負担をかけない動作をリハビリの先生に聞き,毎日寝る前に自宅でできるストレッチや筋トレをするのが日課である.また,休日には家族とウォーキングをする.食事は,これまでかなり多く摂取しており,仕事柄ゆっくり食事をとることができず早く食べる習慣があった.栄養士に教えてもらい脂質と塩分を減らし,果物や野菜を摂っている.

痛みが強いときは,理学療法士に教えてもらったストレッチをして休む.また,鎮痛剤を屯用で1日に1~2回内服している.内服のタイミングは,夜間の痛みが強いときや,長時間の移動や活動が予定される日は痛みが出やすいため,事前に内服する.鎮痛剤の内服タイミングを調整することで痛みが和らぎ,仕事中もスムーズに動くことができるようになった.

毎日体重を記録し,増加の際は食事内容を振り返り,カロリーを抑え,栄養バランスを意識して献立を考えている.加えて,運動を少し多くし自己調整する.

痛みが強いときは,なぜ私ばかりがと怒りや不安がこみ上げる.そんな時はお風呂で温かいお湯に浸かりリラックスする.また,最初は体重の管理ができるか不安で,体調のことや疾患のことで悲観的だった.医療スタッフに症状や不安を打ち明けたことで病気と向き合えるようになった.医療スタッフたちとは5年の付き合いで,気になることはなんでも相談できる.そして,リハビリで知り合った同じ病気の方と話すうちに自分だけが辛いという気持ちもだんだん減ってきた.

家族も病気を理解し,家事を積極的に分担してくれており,病院受診の時間が確保できるよう役割を調整している.職場でも業務調整してもらっている.

取り組みのおかげで今はBMIが32まで減った.運動を始め10 kgも減り体が軽くなった.3年後BMI25を目標にし,まずは3か月で5 kgの減量中である.体重も減り動作を工夫できるようになってきた.減量が成功できるよう何とか継続していきたい.家族のために自分ができることがあるなら頑張りたい.将来は人工股関節の手術をすると思うが,減量をして関節に負担をかけないよう工夫して生活したい.

セルフマネジメントの観点から本事例を解説すると以下のようになる.

1)痛みや肥満,歩行困難などの身体上の問題により休職を余儀なくし,減量や関節を温存したいというニーズや養生の動機が十分であることから,先行要件が十分であることを示している.

2)保存療法を希望し,将来は手術療法を行うことを予測し,症状のモニタリングや養生の振り返りにより今後の問題に対する目標や計画を自己決定している.これは【意思決定と病気の受容】を示している.また,運動や栄養について専門職から指導を受け,インターネットで情報収集するといった【治療・養生の知識と技術の獲得】が示されている.

3)体重とBMIの目標設定,体重を毎日記録し評価することで,運動・食習慣が改善された.また,体調や,疼痛に応じ運動や休息を自己調節している.さらに,学生時代の経験や職業で培ってきた知識を自らの強みととらえ,養生を継続している.さらに,疼痛の増強を予測し,予防的に鎮痛剤を内服するといった,疼痛コントロールを図っている.これらは,【治療・養生の知識と技術の獲得】【資源・情報の活用】などで得た正確な医療知識・情報をもとに【問題への対処法の洗練】をすることができていることを示している.

4)HOAに関連した否定的な感情を抱えていたが,同じHOA患者や医療者との関わりといった【資源・情報の活用】により,【否定的感情への対処】をしている.また,家事や役割を家族内で分担することや,業務内容の変更といった【社会的役割の調整】をしている.

5)5年間の通院中に医療者からの支援や助言を受け,体調の変化や気になる事柄を情報共有し,その中で医療者と信頼関係を築いてきたことを表しており,【医療者との協働】が示されている.

6)体重管理のための運動や食生活の改善,感情や社会的役割の管理などの観点からセルフマネジメントに成功し,熟練した能力が発揮できるようになっている.その結果,保存療法の継続や職業生活を継続することができており,A氏にQOLの維持や自己効力感の向上が齎されたと解釈できる.

6. HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントの概念図(図1)と定義

概念分析の結果,図1の概念モデルが導かれた.また,概念分析の結果からHOA患者の保存療法中のセルフマネジメントは,「医療者とのパートナーシップに基づく協働により,患者が治療に積極的に参加し,自らの能力を活用しながら個人のニーズに合わせた目標に向けて意図的に継続する日常的な取り組みである.患者が養生に対する責任を持ち,HOAと治療に関する知識と,疾患や感情・社会的役割を管理するためのスキルを習得しながら主体的に対処法を洗練するプロセスである」と定義した.

図1 

HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントの概念図

Ⅳ. 考察

1. HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントの概念とその活用

本研究の結果,HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントは,関節の負荷軽減や疼痛などの症状管理や病期の悪化予防に関連した行動を実行する過程であった.また,その過程において意思決定や問題解決,感情と社会的役割管理,資源や情報の活用,医療者との協働に関する行動や技能が含まれる特徴があった.

Coates & Boore(1995)によると,セルフマネジメントは患者が健康を維持するために積極的な意味を持ち,患者が主体的に疾患を管理するために適切な概念であると述べている.疾患の受容,疾患の管理という経験を通し熟練した患者へと成長するセルフマネジメントは,長期的な行動の変化や治療の順守などに適した管理方法であり(Sol et al., 2005),慢性の経過をたどるHOA患者に適しているといえる.HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントは,HOA特有の知識や技術をもとに,個々の患者が自分に合った方法を見出す必要がある.また,HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントは,患者が症状のコントロールや関節負荷防止のために何を実行しているか実行する方略に着目するのではなく,どのように捉え,コントロールする方略をどのように探索し,選択し,実行に移しているのかというプロセスの視点が重要である.さらに,HOA患者は養生に加え,HOAに関連した不安や否定的な感情,社会的役割の変化といった心理・社会的な問題を抱えている.疾患についての理解のみならず,心理・社会生活面の状況を把握しニーズに合わせた支援が求められている.このように複雑なHOA患者のセルフマネジメント状況を把握するためには,保存療法中のHOA患者に必要とされる実践状況や過程を具体的かつ包括的に測定することができる用具が必要であると考える.対象理解として,セルフマネジメントを査定することにより,養生や日常の取り組みや能力,そのプロセスが明らかになると考える.また,支援が必要な項目が明確になり,より効果的なヘルスケアが提供できると考える.

さらに,HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントで【医療者との協働】は特に重要であると考える.慢性疾患のセルフマネジメントに関する先行研究では,国内外問わず“専門家との協働”を一部に含むものが認められる(小笠,2018).HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントにおける問題点として,養生行動が適正な内容や量であるか,獲得した情報の正確性の判断を患者自身で行うことには限界があることが挙げられる.このように,保存療法中のセルフマネジメントは,専門的な知識・技能を獲得する必要があるにもかかわらず,わが国ではこれらが提供される環境が未整備である.過度の運動は症状の悪化や病期の進行に悪影響を及ぼす可能性があり,患者のセルフマネジメント状況を把握するための測定用具を用いて,運動量や内容について医療者からの教育的介入を受けることが有用ではないかと考える.また,多くの文献において動機付けの重要性が示されている.Deci(1975/1980)は,外的報酬に基づく動機を外発的動機づけとし,明白な外的報酬が無い場面の動機を内発的動機づけとしている.そして,鹿毛(1994)によると,内発的動機づけは,「自己目的的な学習の生起・維持過程」であり,「熟達指向性」と「自律性」の2つの性質を持つとしている.熟達指向性は,知識を深めたり技能を高めたりする方向への学習を指向する側面で,自律性は,自ら進んで学習に取り組む側面である(Deci & Ryan, 1985).本概念の【意思決定と病気の受容】【治療・養生の知識と技術の獲得】【問題への対処法の洗練】は内発的動機付けに,【医療者との協働】の養生に対する称賛や励ましが外発的動機付けに該当するといえる.医療者は,養生や,得られた成果に対する称賛や肯定といった外的報酬を与えることで外的動機付けを促すことができる.さらに,Deci(1975/1980)は,有能さの感情よりも,自己決定の側面の方が基本的に重要な要因であると強調していることから【意思決定と病気の受容】の治療方針や養生などの自己決定の重要性を示している.

以上のような医療者の介入は,HOA患者の正確な医学知識の獲得につながり,治療方針や,養生における意思決定を促すことができると考える.さらに,症状や養生のフィードバックにより患者は,自己の取り組みを客観視することができるようになり,内的動機づけの促進にもつながると考えられる.そのため,患者・家族の疾患や養生に対する認識といった健康リテラシーをアセスメントし,情報の理解と判断ができるような教育的介入が必要である.

2. 研究の限界と今後の課題

本研究の限界として,海外文献のみで分析を行ったため医療提供体制や医療保険制度,生活様式,文化的特性などの観点からわが国とは異なる.そのため,今後はわが国における保存療法中のHOA患者と医療者と双方のセルフマネジメントに対する理解や,医療提供体制,意思決定・問題解決プロセスなどの現状を調査する必要がある.また,効果的なセルフマネジメント支援のために,HOA患者のセルフマネジメントを測定することができる指標の開発が必要である.指標の開発においては,属性のカテゴリーを活用が可能であると考える.

Ⅴ. 結論

HOA患者の保存療法中のセルフマネジメントの概念分析より,【意思決定と病気の受容】【治療・養生の知識と技術の獲得】【問題への対処法の洗練】【否定的感情への対処】【社会的役割の調整】【資源・情報の活用】【医療者との協働】の属性と,【健康課題の認識】【社会的環境の影響】の先行要件,【健康的な生活への変化】【運動器の機能向上】【肯定的な感情への変化】【自己効力感の向上】【QOLの維持・向上】の帰結が抽出された.その定義を,「医療者とのパートナーシップに基づく協働により,患者が治療に積極的に参加し,自らの能力を活用しながら個人のニーズに合わせた目標に向けて意図的に継続する日常的な取り組みである.患者は養生に対する責任を持ち,HOAと治療に関する知識と,疾患や感情・社会的役割を管理するためのスキルを習得しながら主体的に対処法を洗練するプロセスである」とした.

付記:本稿の一部は26th EAFONS(East Asian forum of nursing scholars)で発表した.

謝辞:本研究に関してご指導いただきました皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YNは,研究の着想・デザイン,データ収集・分析・解釈,原稿の作成に貢献,MFは,研究の着想・デザインへの助言,分析・解釈,原稿への示唆および研究全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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