2023 年 43 巻 p. 399-407
目的:多職種でのディスカッションから特養ユニットケアにおけるIPW(Interprofessional Work)の実際を明らかにし,特徴を考察することである.
方法:中規模特養を対象とし,施設ごとにIPWの実践事例について多職種でフォーカス・グループ・ディスカッションを実施し,質的帰納的に分析した.
結果:3施設から収集したデータを分析し,【自職種の役割自覚と機能発揮】【多職種の専門性を集結した支援】などの4コアカテゴリからは{職種特性を活用したケア過程},【対等な関係の表明】【職種間の軋轢への対策】などの5コアカテゴリからは{IPWの価値観の表明を伴う実践}のテーマを得た.
結論:特養ユニットケアにおけるIPWは,単一職種の負荷を軽減しながらリスクを回避する,看護職がチーム内のコンフリクトを解決するなどの特徴を示した.また,これらの実践により,各職種がIPWをさらに価値づけ,チームの成長を促す可能性があることが示唆された.
Purpose: This study clarifies the status of interprofessional work (IPW) and investigates its characteristics of unit care at special nursing homes based on discussions involving participants from multiple professions.
Methods: Focus group discussions were conducted regarding examples of IPW practices at mid-sized special nursing home facilities and qualitative inductive analysis was performed.
Results: We analyzed data collected from three facilities, and identified the theme “care processes suited to professional characteristics” based on four core-categories, including “professional role awareness and fulfillment of functions” and “care for residents with multi-profession’s expertise.” We further identified the theme “practices with a statement about the value of IPW” based on five core-categories, including “statement about equal relationships with each other” and “strategies for conflict between different professions.”
Conclusion: The characteristics of IPW in unit care at special nursing homes include avoiding risk while releasing the burden of a single profession and the resolution of inter-team conflicts by nurses. The results also suggest that such practices may encourage professions to place greater value on IPW and grow teams.
特別養護老人ホーム(以下,特養)は,2015年度介護保険制度改定(厚生労働省,2015)による入居要件で介護度が引き上げられ,医療処置が必要な入居者割合が上昇しており(日本総合研究所,2020),多職種や地域・医療機関との連携・協働をはじめとする多くの課題がある(日本看護協会,2016).
Interprofessional Work(以下,IPW)における先行研究(多職種連携コンピテンシー開発チーム,2016)では,日本の保健医療福祉分野の多職種連携コンピテンシーモデルを明らかにしている.コアとなるドメイン(領域)は,「患者・利用者・家族・コミュニティー中心」,「職種間コミュニケーション」の2種類であり,それらを支えるドメインは,「職種としての役割を全うする」,「関係性に働きかける」,「自職種の思考・行為・価値観などを理解して活かすために自職種を顧みる」などの4種類である.これは,複数の学会・職能団体,つまり多職種により開発されたモデルであり,基礎教育から生涯教育までを含む多職種連携教育の道標となることが期待されている.
一方,特養のIPWに関する研究は,1職種の視点により行われたものが多い.それらは,協働する力に課題を持つ介護福祉職の行動やコミュニケーションの特徴を明らかにした研究(松永,2021)や,看護職とのチームワークを介護職が評価した研究(佐々木ら,2018)などである.そのため近年は多職種の視点によるIPWの知見の集積が急がれている(小原,2019;木戸田ら,2018;田中ら,2019;田中ら,2022).殊に,一人ひとりの望む暮らしを支えるケア方法の一種である小規模生活単位型特養(厚生労働省,2021)におけるケア(以下,ユニットケア)では,個人の尊厳を重視した援助がケア提供者に求められる.そのため,特養ユニットケアにおけるIPWの実際を明らかにすることは,高齢者一人ひとりの生活を支えるケア実践への活用に寄与できる.加えて,多職種連携教育の具体的内容の資料として活用できると考える.
多職種でのディスカッションから特養ユニットケアにおけるIPWの実際を明らかにし,特徴を考察することである.
吉池・栄(2009)を参考に,「特養において,各専門職種が入居者および家族なりの生活の維持・向上・満足を目的として,協働しながら健康管理や予防的ケア等の課題達成に向け,ともに取り組む活動」とする.
2. 専門職者介護保険法における特養の人員に関する基準(厚生労働省,2021)にある,看護職,介護職,介護支援専門員,生活相談員,栄養士,機能訓練指導員のうちの常勤者とする.
因子探索レベル(Diers, 1979/1984)の質的記述的研究デザインとする.
1) 研究参加者介護保険法における特養の人員に関する基準(厚生労働省,2021)で配置されている専門職者,各施設4名以上であり,対象特養に勤続3年以上の常勤者とした.本研究では,IPWの実践事例を語ってもらうため,実状を整理して大局的,長期的な視点でみることができる3年目以上(Benner, 2001/2005)とした.また,主任等の管理者役割を担う者は,多職種との調整をすることが多いため各施設最低1名は参加するように構成した.なお,本研究はIPWに関するものであり,非専門職のボランティアや清掃員,事務職員等は除外した.
2) 研究参加施設東海3県内のユニットケアを実施している開設後10年以上の特養で,本邦において最も施設数が多い(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2017),長期入居者定数50~100名の中規模施設とした.
2. データ収集 1) データ収集期間2018年10月~2019年3月であった.
2) 研究参加者へのアクセス (1) 参加施設の選択研究者が望む情報を豊かに持つケースを選択することができ,質的研究の質を高める(Borkan et al., 1995)合目的的サンプリングを行った.
(2) 参加者へのアクセス条件に合う専門職者の紹介を参加予定施設の施設長に依頼した.研究者は紹介された専門職者に文書と口頭で研究内容等について説明し同意があった場合に参加者とした.
3) データ収集方法1施設ごとに多職種でフォーカス・グループ・ディスカッション(Focus Group Discussion,以下FGD)を実施し,ICレコーダーで録音した.FGDは,参加者同士の発言が刺激となり他参加者の発言を促し,幅広い考え方,態度,価値観等の情報を得ることができる.また,1人が表明した考えや経験がどの程度他参加者に共有されているかを知ることができ(Dawson et al., 1993;Morgan, 1997),IPWの実践プロセスの可視化が容易になると考えられた.研究者はモデレーターおよび記録者の役割をとった.FGDのテーマは,印象に残っているIPWの事例経過を基に,多職種間の関わり,自身が努力したことや他職種に求めていたこと等であった.
3. 分析方法質的帰納的に分析した.データから逐語録を作成し,各職種のIPWの実践を表現している部分を意味のあるまとまりで抜き出し,コード化した.コードを比較しながら類似性に基づき抽象化をすすめ,サブカテゴリ,カテゴリ,コアカテゴリを抽出した.カテゴリ化の過程ではデータやコードに戻って解釈の妥当性,歪みや偏りについて共同研究者間で合意が得られるまで議論し,質的研究に精通した専門家のスーパーバイズを受けた.また,データの真実性についてメンバーチェッキングを受けた.
4. 倫理的配慮愛知医科大学看護学部倫理委員会による承認を得て実施した(承認番号:164).研究の目的と概要,参加の自由意思,撤回と中断の権利の保障,匿名性の保持,プライバシーの保護,結果の公表等について口頭と文書で説明し同意を得た.
3か所の施設より協力を得,各ユニットに1回のFGDを実施した.全FGDには,看護師,介護福祉士,ケアマネジャーおよび生活相談員を含んだ.
研究参加施設と参加者およびFGDの概要
| 施設 | A | B | C | |
| FGD時間 | 87分 | 75分 | 68分 | |
| FGD参加者 | 8名 | 6名 | 4名 | |
| 性別 | 男性 | 2名 | 1名 | 2名 |
| 女性 | 6名 | 5名 | 2名 | |
| 参加者の職種および施設内の役割 | ケアマネジャー | ケアマネジャー | ケアマネジャー | |
| 生活相談員(社会福祉士) | 生活相談員(社会福祉士) | 生活相談員(社会福祉士) | ||
| 介護主任(介護福祉士)2名 | 介護主任(介護福祉士) | 介護主任(介護福祉士) | ||
| 看護主任(看護師) | 看護主任(看護師) | 看護師 | ||
| 機能訓練指導員(理学療法士) | 機能訓練指導員(理学療法士) | |||
| 歯科衛生士 | 栄養士 | |||
| 栄養士 | ||||
| 参加者の平均年齢(範囲) | 33.7歳(31~48歳) | 38.3歳(30~51歳) | 38.8歳(35~46歳) | |
| 勤続年数 | 3年以上5年未満 | 3名 | 1名 | 1名 |
| 5年以上10年未満 | 2名 | 2名 | 1名 | |
| 10年以上15年未満 | 2名 | 2名 | 2名 | |
| 15年以上20年未満 | 1名 | 1名 | ||
| FGD事例内容 | 糖尿病を持つ入居者の血糖値上昇の理由を多職種で理解し,本人の楽しみも考慮した食事や間食内容について検討・支援できた事例 | 夜間の訴えや他入居者からの苦情も多い入居者について,日中の支援内容の工夫や環境調整,家族への支援により状況が改善した事例 | 医療依存度が高く,入居後のリスクが高いと予測される新規入居者を多職種の配慮のもと受け入れ,大きなトラブルなく施設の生活に適応できた事例 | |
FGDの概要は表1のとおりであった.各施設とも沈黙の時間はほぼみられず活発なディスカッションが行われた.
分析の結果,988コード,110サブカテゴリ,32カテゴリを抽出し,さらに9コアカテゴリを抽出した.9コアカテゴリはその特徴により{職種特性を活用したケア過程}{IPWの価値観の表明を伴う実践}の2テーマを示した(表2).【コアカテゴリ】の内容を「コード」〈サブカテゴリ〉〔カテゴリ〕で説明する.
特養のユニットケアにおけるIPWの実際
| テーマ | コアカテゴリ | カテゴリ | サブカテゴリ |
|---|---|---|---|
| 職種特性を活用したケア過程 | 職種の特性を併せたケア過程の展開 | 職種特性別の情報収集 | 各職種が職種の特性に基づいて入居者の反応や表情・動作を観察する |
| 各職種が自身の知らない入居者の持つ力や考えを他職種から情報収集する | |||
| 各職種が生活史に関する情報を収集する | |||
| 各職種がケア場面や本人の言葉から日常生活に関する情報を収集する | |||
| 各職種が記録や観察から健康管理に資する情報を収集する | |||
| 各職種が家族に関する情報を収集する | |||
| 各職種が新規入居者の受け入れ準備に影響する疾患やリスクに関する情報を収集する | |||
| 入居者理解に基づく職種特性別のアセスメント | 各職種が日常生活に関する人的・物的環境をアセスメントをする | ||
| 各職種が健康管理に関するアセスメントをする | |||
| 各職種が認知症を持つ入居者への心身の安寧に向けた支援に関するアセスメントをする | |||
| 各職種がこれまでの関わりから支援に対する入居者の反応を予測する | |||
| 各職種が家族に関するアセスメントをする | |||
| 各職種が新規入居者の受け入れに関して緊急度やユニットでの対応可能性をアセスメントをする | |||
| 職種の特性と入居者理解に基づく健康的な暮らしの支援 | 各職種が転居に伴う入居者の身体的・精神的負担を軽減する | ||
| 各職種が健康管理に関するアセスメントに基づき支援する | |||
| 各職種が家族を支援し家族と協働する | |||
| 各職種が個々の入居者の心地よい暮らしに向けて支援する | |||
| 各職種が入居者の問題に優先順位をつけて順次対処する | |||
| 各職種が回診が効果的に行われるように多職種で情報共有し対応する | |||
| 看護職が病態管理と日常生活の楽しみのバランスのとれた看護を実践する | |||
| 栄養士が栄養管理と日常生活の楽しみとのバランスのとれた実践をする | |||
| 職種の特性や入居者理解に基づく支援の評価と修正 | 多職種が入居者の変化や支援内容を多職種と振り返る | ||
| 介護職が多職種の意見を参考に生活支援を評価・修正する | |||
| 理学療法士が多職種からの情報を活用して運動プログラムを変更する | |||
| 効果的な情報共有 | 多職種が理解できる表現による情報伝達 | 多職種が他職種も理解できるように具体的な名称や数値を用いる | |
| 多職種が入居者を共通に理解するための基準をつくり活用する | |||
| 歯科衛生士が多職種に具体的な食事支援内容を示す | |||
| 看護職が他職種も理解できるように看護の観点に基づく思考を言語化する | |||
| 情報共有に向けた内容・手段の吟味 | 看護職が内容の違いにより医師への報告者を調整する | ||
| 多職種が範囲・内容・緊急性に応じて情報共有の手段を変える | |||
| 各職種がリーダー会議を活用して施設全体の情報共有を行う | |||
| 情報共有に向けた仕組みの整備と活用 | 多職種がユニット会議を活用して多職種で支援を検討する | ||
| 多職種が電子記録システムを日々の支援に活用する | |||
| 多職種が書面により必要な職員への情報周知を行う | |||
| 情報共有による入居者全体像理解の促進 | 各職種が入居者の背景や経緯について多職種に説明する | ||
| 各職種が推察した入居者の心情を多職種に伝える | |||
| 各職種が入居者の身体的な変化を他職種に伝える | |||
| 各職種が運動に関するアセスメント内容を他職種に伝える | |||
| 各職種が健康管理に関するアセスメント内容を他職種に伝える | |||
| 各職種が入居者の態度や精神状態に対するアセスメントを他職種に伝える | |||
| 各職種が入居者・家族の発言・行動・態度について多職種間で共有する | |||
| 各職種が入居者理解のために多職種間で話し合う | |||
| 生活相談員が新規入居者に対するアセスメント内容を他職種に伝える | |||
| 入居者支援による目標達成に向けた情報共有 | 多職種が入居者に関わる情報を日常的に伝え合い支援に活かす | ||
| 各職種が介護上の目標を多職種で統一する | |||
| 各職種が自身の持つ入居者の支援につながる情報を多職種間で共有する | |||
| 各職種が入居者・家族への介入内容を他職種に伝える | |||
| 各職種が健康管理と日常生活の楽しみとのバランスを考慮したアセスメント内容を他職種に伝える | |||
| 看護職が安全な与薬のため多職種に知識や情報を提供する | |||
| 自職種の役割自覚と機能発揮 | 自職種と多職種の特徴理解と役割自覚 | 各職種が職種による役割の特徴を理解する | |
| 各職種が施設内の全職種との関係の中で自身の役割を自覚する | |||
| 自職種の適任性を自覚した入居者支援 | 各職種が状況に応じた役割を理解して入居者を支援する | ||
| 各職種が自職種の役割を自覚し対処する | |||
| 自職種内での問題解決の試み | 介護職が入居者の問題についてまずはユニット内で解決を試みる | ||
| 看護職による教育的機能の発揮 | 看護職が介護職の自尊心を高める方法で教育的支援を行う | ||
| 看護職が職場内の関係性に配慮して介護上の問題点を指摘する | |||
| 看護職がケアの質向上に向け新人介護職への教育的役割を果たす | |||
| 多職種の専門性を集結した支援 | 他職種の専門性の活用 | 各職種が入居者に必要な支援内容を適切な職種に示して依頼する | |
| 各職種が他職種から得た情報を自職種の支援に活用する | |||
| 各職種が入居者の支援に関わる専門性の高い内容については他職種に相談する | |||
| 介護職が看護職から薬に関する情報を得る | |||
| 介護職が入居者にかかわる気がかりを多職種に相談する | |||
| 介護職が専門性の高い内容について各専門職に質問し判断をゆだねる | |||
| 介護職が他職種の知識・技術の活用により,より良い支援を提供する | |||
| 問題の解決に向けた多職種への相談 | 各職種が入居者の支援に関する打開策を求めて多職種に相談する | ||
| 介護職がユニット内で解決困難な問題について適切な職種に相談する | |||
| 介護職が問題の性質に応じて多職種への相談方法を変える | |||
| 多職種で行うリスクの分散 | 多職種が多職種での分析や実施によりリスクを低減し良い支援を行う | ||
| IPWの価値観の表明を伴う実践 | 組織の一員としての役割遂行 | IPWに必要な体制構築と設備の完備 | 多職種が安全で質の高い介護を提供するための体制を整備する |
| 各職種が議論の内容を組織内の系統に沿って管理者に報告・相談する | |||
| 介護職が居室担当制を敷き個別性ある支援と多職種との円滑な協働につなげる | |||
| 看護職がユニット担当制を敷き個別性ある支援と多職種との円滑な協働につなげる | |||
| 各職員による自施設経営の現状理解 | 多職種が健全な経営に向けた空床管理の方針を理解する | ||
| 多職種が施設運営に関わる数値化された入居者の現状を理解する | |||
| 職位に伴う役割の自覚と管理的役割の遂行 | 管理者である介護職が介護場面を活用して教育的役割を果たす | ||
| 管理者である介護職が役割を自覚して職員の個別性や介護に対する姿勢を理解する | |||
| 管理者である介護職が自施設の介護の現状を把握する | |||
| 介護主任がユニットリーダーの実施する体制整備を肯定的に評価する | |||
| 介護主任が職位による役割を自覚してケアの質向上に向けた管理的役割を果たす | |||
| 介護主任が職位による役割を自覚して介護職の職務満足向上に向けた管理的役割を果たす | |||
| ユニットリーダーが入居者のより良い生活のために人・情報をマネジメントする管理役割を果たす | |||
| 職種による役割の自覚と管理的役割の遂行 | 各職種が職種による役割を自覚して介護の質向上に向けた管理的役割を果たす | ||
| IPWの価値観の保持 | IPWの基準の保持 | 各職種が自職種なりにIPWの基準を持つ | |
| 入居者へのよりよい支援に向けた信念・施設理念の保持 | 多職種が入居者へのより良い支援にむけての信念をもつ | ||
| 多職種が施設理念を共有する | |||
| ユニットリーダーが職員の目標や支援内容の如何が入居者の人生に影響することを自覚する | |||
| IPWによる実践への価値づけ | 各職種が多職種と意見交換しながらの実践に価値を持つ | ||
| 職員間の関係性への配慮と入居者への利益保障の両立 | 介護職が入居者の日常生活の楽しみと多職種との関係維持両立の支援を選択をする | ||
| 介護職が夜間は看護職に悪いと思いながら情報提供や相談の電話をする | |||
| 介護職が職場の人間関係に配慮しつつ入居者の日常生活の楽しみを守る支援を提案する | |||
| 目的・目標の達成に向けた合意形成 | 入居者の支援に関する多職種への提案 | 各職種が専門性に基づくアセスメントによる支援内容を他職種に提案する | |
| 各職種が意思決定の過程に入居者が参加することを重要視しその方法を示す | |||
| 介護職が入居者に必要な支援の実施を他職種に明確に示す | |||
| 介護上の目的・目標達成に向けた多職種による支援の検討 | 多職種が入居者の支援方法を多職種で検討する | ||
| 看護職が介護職の意見を反映することで入居者への良い支援を目指す | |||
| 多職種間の合意形成 | 多職種が疑問や入居者への負の感情を表現し共有する | ||
| 各職種が他職種の提案する具体的な支援内容に賛同する | |||
| ケアマネジャーが支援計画への多職種間の合意を形成する役割を果たす | |||
| 介護上の目的・目標達成に向けた多職種での問題解決 | 多職種が多職種での試行錯誤を繰り返す | ||
| 多職種が認知症周辺症状をのある入居者を多職種で支援する | |||
| 各職種が他職種の負担を推察し自職種での分担を検討する | |||
| 対等な関係の表明 | 他職種への関心に基づく職種間の対等な評価 | 各職種が効果的な支援に向け他職種内で意見を統一させることを評価する | |
| 各職種が円滑な実践のための他職種からの配慮に気づく | |||
| 各職種が他職種の実践を肯定的に評価する | |||
| 各職種による他職種尊重の表現 | 各職種が他職種の発言や行動に対し共感的態度を示す | ||
| 各職種が他職種の考えを尊重したうえで自身が提案した支援への理解を求める | |||
| 医師が介護職・看護職を尊重した態度を示す | |||
| 職種間の軋轢への対策 | 看護職による職種間上下関係誘発の自覚 | 看護職が介護職との上下関係が形成されやすいことを自覚する | |
| 看護職が個々の介護職への尊重を欠く指揮・命令をした経験を忘れない | |||
| 看護職による多職種での話し合いの機会の設置 | 看護職が職種間で異なる意見を理解し合うために多職種で話し合う機会を設ける |
4コアカテゴリが含まれ,多職種が自職種の役割を自覚して情報共有を行い,多職種の専門性を集結する中でケア過程を展開するという,特養ユニットケアにおけるIPWを示した.
(1) 【職種の特性を併せたケア過程の展開】〈各職種が職種の特性に基づいて入居者の反応や表情・動作を観察する〉〈各職種が個々の入居者の心地よい暮らしに向けて支援する〉等の24サブカテゴリ,〔職種特性別の情報収集〕〔職種の特性と入居者理解に基づく健康的な暮らしの支援〕等の4カテゴリで構成された.「管理栄養士が初めて補助食品を提供する時に入居者の飲み方や反応を確認する」「看護職が日常の食事管理と希望の食事を楽しむバランスを取れるように医師・家族と調整する」など,多職種は情報収集の場面や内容,アセスメントの内容,支援内容や評価方法等に職種による特徴を活かしながらケア過程を展開していた.
(2) 【効果的な情報共有】〈多職種が他職種も理解できるように具体的な名称や数値を用いる〉〈多職種が範囲・内容・緊急性に応じて情報共有の手段を変える〉等の25サブカテゴリ,〔多職種が理解できる表現による情報伝達〕〔情報共有に向けた内容・手段の吟味〕等の5カテゴリで構成された.「相談員が入居前の家族間のトラブルや介護困難の経過を多職種に説明する」「多職種が入居者に関わる情報を日常的に伝え合い支援に活かす」など,多職種は入居者の目標達成に向け,他職種が理解し納得でき,かつ効果的に各々が持つ情報やアセスメント等を共有できるように表現を工夫し,様々な場面を利用した情報共有を試みていた.また,あらかじめ仕組みを整備し情報共有の促進を図っていた.
(3) 【自職種の役割自覚と機能発揮】〈各職種が施設内の全職種との関係の中で自身の役割を自覚する〉〈看護職が介護職の自尊心を高める方法で教育的支援を行う〉等の8サブカテゴリ,〔自職種と多職種の特徴理解と役割自覚〕〔自職種の適任性を自覚した入居者支援〕等の4カテゴリで構成された.「入居者の予定外受診を家族へ連絡する職種はユニットの勤務者や内容により変えている」など,多職種は自職種や他職種の役割や関係性,状況に応じた適任性を自覚して対処していた.また,「看護職が新人介護職の動きや自信のなさを見ながら必要時アドバイスする」など,教育的機能の発揮も自職種の役割としていた.
(4) 【多職種の専門性を集結した支援】〈介護職が看護職から薬に関する情報を得る〉〈多職種が多職種での分析や実施によりリスクを低減し良い支援を行う〉等の11サブカテゴリ,〔他職種の専門性の活用〕〔多職種で行うリスクの分散〕等の3カテゴリで構成された.「介護職が入居者の摂取量増加を意図しユニット内で検討が難しい食事中の体位を看護職に相談する」など,多職種は内容や問題の性質に応じた方法や職種を考えて相談し問題解決に繋げていた.また,「看護師が同職種や多職種に相談し多様な意見をもとに考えることで個人的な責任やリスクを軽減する」など,個人や一職種の負担および,疾患の悪化や転倒などに対するリスクの軽減も図りながら実践していた.
2) {IPWの価値観の表明を伴う実践}5コアカテゴリが含まれ,多職種が組織の一員としてIPWを価値づけ,対等な関係を表明して職種間の軋轢への対策を講じながら実践するという,特養ユニットケアにおけるIPWを示した.
(1) 【組織の一員としての役割遂行】〈看護職がユニット担当制を敷き個別性ある支援と多職種との円滑な協働につなげる〉〈介護主任が職位による役割を自覚してケアの質向上に向けた管理的役割を果たす〉等の14サブカテゴリ,〔IPWに必要な体制構築と設備の完備〕〔各職員による自施設経営の現状理解〕等の4カテゴリで構成された.「多職種が健全な経営に向けた空床管理の方針を理解する」など,施設の状況や方針を理解して役割を果たしていた.また,「回診では看護職と介護職が必ず付く体制としている」などにより,質の高いケア実施のための体制整備を行い,「介護主任が多職種の意見が相違し結論が出ないことに対して入居者中心の視点で再考を促す」など,組織の一員として自身の職位や職種に伴う教育的・管理的役割を遂行していた.
(2) 【IPWの価値観の保持】〈各職種が自職種なりにIPWの基準を持つ〉〈介護職が職場の人間関係に配慮しつつ入居者の日常生活の楽しみを守る支援を提案する〉等の8サブカテゴリ,〔入居者へのよりよい支援に向けた信念・施設理念の保持〕〔IPWによる実践への価値づけ〕等の4カテゴリで構成された.「看護職が生活の場である施設において全職種で入居者の生活を支えることを大切にする」「介護主任が多職種との意見交換は思考の拡大や深化に必須だと考えている」など,多職種は施設職員や専門職として信念やIPWの基準を持ち,「介護職が食事内容や味への入居者からの要望が多く申し訳なく思いながらも栄養士に提案する」など,他職種に配慮しながら入居者の健康や生活を守る実践を行っていた.
(3) 【目的・目標の達成に向けた合意形成】〈各職種が他職種の提案する具体的な支援内容に賛同する〉〈各職種が他職種の負担を推察し自職種での分担を検討する〉等の11サブカテゴリ,〔入居者の支援に関する多職種への提案〕〔介護上の目的・目標達成に向けた多職種での問題解決〕等の4カテゴリで構成された.「多職種が特殊な配慮が必要な家族に対して現在の体制になるまでに様々な対応方法を試した」「ケアマネジャーが看護職の提案による抗不安薬減量等の医師への相談について多職種の話をまとめる」など,各職種は多職種に提案するとともに,多職種と検討し合意形成しながら実践していた.
(4) 【対等な関係の表明】〈各職種が円滑な実践のための他職種からの配慮に気づく〉〈各職種が他職種の考えを尊重したうえで自身が提案した支援への理解を求める〉等の6サブカテゴリ,〔他職種への関心に基づく職種間の対等な評価〕〔各職種による他職種尊重の表現〕の2カテゴリで構成された.「歯科衛生士が次々と訴えが変化する入居者への対応に関する介護職の苦悩を理解していることを伝える」「医師が看護職の話だけではなく介護職の話もよく聞く」など,各職種は他職種に関心を持ち,多職種の働きを対等に評価していることを表明しつつ尊重した態度を示していた.
(5) 【職種間の軋轢への対策】〈看護職が介護職との上下関係が形成されやすいことを自覚する〉〈看護職が職種間で異なる意見を理解し合うために多職種で話し合う機会を設ける〉等の3サブカテゴリ,〔看護職による職種間上下関係誘発の自覚〕〔看護職による多職種での話し合いの機会の設置〕の2カテゴリで構成された.「看護職が医療中心となり上から介護職をみる考え方や言い方が自分にもある可能性を認識する」,職種間での意見の相違を自覚し「看護職が多職種の意見の食い違いを埋めるために話し合う機会を持つ」など,職種間の軋轢に対策を講じていた.
考察を通し,特養ユニットケアにおけるIPWが,保健・医療・福祉におけるIPWの二重構造(埼玉県立大学,2012)に近似することを確認した.この二重構造は,内側が「問題解決のサイクル」,外側が「チームのサイクル」であり,両者が絡まりあうという特徴がある.これに基づき,以下に詳述する.
1. {職種特性を活用したケア過程}の特徴本研究の結果,特養ユニットケアにおいて多職種は,入居者のニーズや問題を解決するため,職種特性を活用したケア過程を展開していることが明らかになった.この実践は,上述の保健・医療・福祉におけるIPWの二重構造(埼玉県立大学,2012)のうち,「問題解決のサイクル」に該当する.
多職種は,ケア過程の展開の中で,何気ない日常の会話,回診,会議での情報共有,そのための体制整備といった,〔多職種が理解できる表現による情報伝達〕や〔情報共有に向けた内容・手段の吟味〕など様々な工夫により情報を共有していた.これらは無資格の介護職員を含め多くの職員が関わる中での円滑なコミュニケーションや正確な情報伝達のための工夫であり,その必要性に基づくIPWであると考えられた.
ほかにも,〔自職種と多職種の特徴理解と役割自覚〕や〔自職種の適任性を自覚した入居者支援〕等により,入居者の気がかりについて,まずは〔自職種内での問題解決の試み〕をするが,多職種の介入が妥当と判断した時は【多職種の専門性を集結した支援】として,適切な専門職に介入を求めることで単一職種の過負荷を避けながら疾患の悪化や転倒などに対するリスクを回避するという〔多職種で行うリスクの分散〕が明らかになった.多くのIPWコンピテンシーには「役割認識(Brewer & Jones, 2013)」「役割と責任(Schmitt et al., 2011)」「職種としての役割を全うする,他職種を理解する(多職種連携コンピテンシー開発チーム,2016)」等が示されているが,本研究が抽出した〔多職種で行うリスクの分散〕はこれまで明確に示されておらず,これは本研究を通し明らかになった知見である.
2. {IPWの価値観の表明を伴う実践}の特徴本研究の結果,特養ユニットケアにおいて多職種は,組織の一員としてIPWを価値づけ,対等な関係を表明して職種間の軋轢への対策を講じながら実践していることが明らかになった.この実践は,上述の保健・医療・福祉におけるIPWの二重構造(埼玉県立大学,2012)のうち,「チームのサイクル」に該当する.ただし,「チームのサイクル」が含む「チーム形成」は,本研究結果には存在しなかった.これは,今回の研究対象は,既にチームが形成されていたためである可能性がある.
特養ユニットケアでのIPWには,組織の一員としての役割や多職種で協働することの価値を理解して表現する,多職種間で対等な関係を表明する,職種間の軋轢を自覚して対策を講じ合意形成を行っていくなどがあった.これらは,Tuckman & Jensen(1977)が示す,チーム成長過程モデルの4段階目である,チームの実行期の内容と捉えることができる.実行期は,前段階までの意見の対立や疑問,問題等が解消され,各人のエネルギーがチームの目的達成行動に向けられている時期である(榎田・松尾谷,2005).本研究のFGDでは3グループともIPWが順調に成立した事例がディスカッションされたため,チームが最も機能する実践内容が示されていた可能性がある.前述したIPWコンピテンシーには,「コミュニケーション,コンフリクト解決,チーム機能(Brewer & Jones, 2013)」「コミュニケーションの実践,チームワークとチームベースの診療(Schmitt et al., 2011)」等がある.これらはチームの実行期のチームワークと,そこに至るまでに必要なコミュニケーションやコンフリクトの解決と考えられる.本研究で抽出されたIPWはこれらをより具体的に示した内容と考える.特にコンフリクトの解消につながる〔看護職による職種間上下関係誘発の自覚〕〔看護職による多職種での話し合いの機会の設置〕による【職種間の軋轢への対策】はこれまでのIPWでは明確にされておらず,本研究を通し明らかになった知見である.また,【職種間の軋轢への対策】はすべて看護職からの発言により抽出された.特養において看護職の人数は少ないが(厚生労働省,2021),その職務上,医師の指示や看護の視点から必要なケア方法を介護職に伝達する必要があり,看護職と介護職には指示関係が無意識に生じやすい.看護職は,こうした職務上の軋轢が生じやすいことを自覚して,言動に注意を払う必要があるため,自己や自職種のあり方を省察し,自ら対策を講じていたと推測でき,これらは効果的なIPWの機能に貢献していると考えられる.
ところで,【IPWの価値観の保持】を構成する〔入居者へのよりよい支援に向けた信念・施設理念の保持〕〔職員間の関係性への配慮と入居者への利益保障の両立〕は,本研究の対象者が入居者へのよい支援を目指していたことを表すとともに,職員間の関係を良好に保つために入居者に不利益が生じることのないよう,両者を並行して実践していたことを表す.また,【対等な関係の表明】【職種間の軋轢への対策】は,各職種,各職員が互いに対等な関係にあることを具体的に表出するとともに,IPWを阻害する軋轢に具体的な対策を講じていたことを表す.このように,入居者のためによりよい実践を目指し,IPWを通じてそれらを実現すること,それを積み重ねることができれば,各職種がIPWをさらに価値づけられるとともに,チームも成長できるサイクルとなる可能性がある.
3. 本研究の限界と今後の課題本研究は3施設のデータによる成果である.また,特養ユニットケアのデータによる成果であり,ユニットケアではない特養やその他長期高齢者ケア施設でのIPWとの相違などを明らかにしていくことは今後の課題である.さらに,量的研究を通して特養のIPWに関する学習会や自己評価などに使用できる評価票等を開発することもまた,今後の課題である.
特養ユニットケアにおけるIPWとして9コアカテゴリを抽出した.これらは,2テーマ{職種特性を活用したケア過程}{IPWの価値観の表明を伴う実践}を示し,IPWの二重構造が確認された.また,単一職種の負荷を軽減しながらリスクを回避したり,看護職が職種間の軋轢への対策を講じ,チーム内のコンフリクトを解決したりするという特養ユニットケアにおけるIPWの特徴を示した.これらの実践により,各職種がIPWをさらに価値づけ,チームの成長を促す可能性があることが示唆された.
付記:本論文の内容の一部は,日本老年看護学会第26回学術集会において発表した.
謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただいた各施設の施設長の皆様ならびに各専門職の皆様に深く感謝申し上げます.本研究は愛知医科大学看護学部研究助成費による助成を受けて実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:ASは研究の着想,デザイン,原稿執筆,AS,AN,KTはデータ収集および分析ならびに研究プロセス全体に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.