日本看護科学会誌
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原著
広域合併自治体における過疎地域での支所保健師活動の構造
川口 江美子水田 真由美宮井 信行
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2023 年 43 巻 p. 458-468

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Abstract

目的:広域合併自治体における過疎地域での支所保健師活動の構造を明らかにし,保健師人材育成の方向性を探る.

方法:過疎地域で支所保健師活動経験がある保健師8名に半構造的面接を行い,質的統合法(KJ法)で分析した.

結果:支所保健師活動の連携には,住民までも含む【広範におよぶ連携構築】とシステム化する【継続できる連携構築】の両面があり,【新たな地域づくりへの進展】を加えて双方向の善き循環を成していた.また【力量形成を要す支所業務遂行】が,保健福祉業務全般を担う【支所勤務での地区担当】と地区診断とPDCAによる【地域特性に基づく事業展開】の基盤となっていた.

結論:過疎地域の支所保健師活動の構造が明らかになった.長期俯瞰的指導と支所勤務経験者による公認の相談体制のもと,【力量形成を要す支所業務遂行】が全ての基盤となることが示された.今後の人材育成の方向性を見極めるのに寄与すると考える.

Translated Abstract

Aim: To clarify the structure of branch public health nurse’s activities in depopulated areas in widely merged municipalities.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with eight public health nurses who had experience in working as branch public health nurses in depopulated areas in a broadly merged municipality, and the results were analyzed using the qualitative synthesis method (KJ method).

Results: The cooperation in the activities of public health nurses at branch offices included both “extensive coalition-building,” which included even residents, and “sustainable coalition-building,” which was systematized, and formed a good cycle in both directions by adding “Progress towards new regional development.” In addition, the “Carrying out branch office work that requires competence building” is the foundation for “District responsibilities in branch office work,” which is responsible for overall health and welfare work, and “Project development based on regional characteristics” according to district diagnosis and PDCA cycle.

Conclusion: The structure of the activities of branch office public health nurses in depopulated areas were clarified. It was suggested that the “Carrying out branch office work that requires competence building” is the foundation of all activities, under the long-term overarching guidance and the authorized consultation system by those who have worked at branch offices. The findings of this study will contribute to identifying the direction of human resource development of public health nurse in the future.

Ⅰ. 緒言

地域保健法(1994年)が制定され,住民に身近で頻度の高いサービスが保健所から市町村に移行されたことで,市町村に所属する保健師は住民の健康の保持増進を目的とする基礎的な役割を担うこととなった(藤原・松原,2021).また,介護保険法(2000年)の施行以降に行われた各種法の整備に伴って,市町村保健師の業務は,それまでの保健衛生分野から高齢福祉分野,障害福祉分野,健康保険分野などに分散し,事業を縦割り化する業務担当制へと偏向した(中板,2015).そのため,保健師の人材育成は,従来よりも多様で幅広い業務への対応を想定して行われることとなった.その後,保健師活動指針が策定されて地区担当制の推進が図られたものの(厚生労働省,2016),専門性が求められる分野は業務担当制を取り入れた組織体制にならざるを得ないのが現状である(中野,2015).

また,平成の市町村合併では,管理部門を本庁に統合しつつ事業実施部局などを各支所に残す総合支所方式が採用された(総務省,2010).しかし,情報共有が困難であるなどの様々な課題から,合併3年後には,業務の効率化を図るために集中配置への転換が進められた自治体もある(野中,2006).一方で,広域合併のために集中配置が困難な過疎地域を含む自治体では保健師の支所勤務が継続され,保健師が一人体制で行政区を担当している.過疎地域は社会資源が乏しいゆえに地区診断と住民ニーズを捉えたPDCAの展開がより重要となるため,従事する保健師の力量が求められる.さらに,過疎地域を含む広域合併自治体の保健師は,並行して人口密度の異なる中心地域の保健師活動にも従事することから,過疎地域での地区担当に加えて,専門性が必要な業務担当にも対応できる能力が要求される.したがって,広域合併の過疎地域で支所保健師活動を遂行する自治体での人材育成は,自治体保健師の標準的なキャリアラダー(厚生労働省,2016)だけでは対応しきれない困難さがあるものと予想される.

このような現状を踏まえ,広域合併自治体における保健師の人材育成を考えるうえでの基礎資料を得る目的で,過疎地域での支所保健師活動を遂行するにあたって課題を明らかにするための予備調査を実施した(川口,2022).支所勤務経験のある保健師のインタビュー内容を質的に分析した結果,「過疎地域の特性からなる課題」「過疎地域における支所業務の課題」「本庁業務と過疎地域の支所業務が異なる2重構造からなる課題」が明らかになった.よって,支所勤務を有する広域合併自治体での保健師人材育成の方向性を探るには,この3側面からなる課題を念頭に入れながら,保健師活動の構造を明確化することから始める必要があるものと考えられる.

そこで,本研究では,地域での支所機能を有する自治体の保健師を対象に調査を行い,広域合併自治体における過疎地域での支所保健師活動の構造を明らかにし,保健師人材育成の方向性を探ることを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

1.広域合併自治体:単なる自治体面積の広域ではなく,市町村合併により移動に不便で時間を要する過疎地域を含む自治体とする.

2.過疎地域:過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法(以下,過疎法)に基づき,人口の著しい減少に伴って地域社会における活力が低下し,生産機能および生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にある地域とする.

3.支所:地方自治法第155条の定めにより,市町村の長がその権限に属する事務を分掌させるため,条例で定めた必要な地に置く事務所とする.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

過疎地域に支所を有するという限られた自治体を対象とし,支所保健師活動の課題が渾沌とする中でその構造を明らかにする必要があるため,山浦(2020, 2021)のデータ収集・分析方法を参考に質的探索的研究とした.

2. 対象自治体・対象者

対象自治体は,X県において,過疎市町村(過疎法の2条1項),一部過疎(同3条1項2項)およびみなし過疎(同42条)に該当する23自治体のうち(e-GOV, 2021総務省,2022a, 2022b),過疎地域に支所を有する3自治体(A・B・C)とした.自治体Aは,5自治体の合併で人口約7万人,面積1,000 km2以上であり,支所数4か所である.自治体Bは,3自治体の合併で人口約3万人,面積100 km2未満であり,支所数1か所である.両自治体ともに,合併時は複数配置であったが,現在は1名体制となっている.自治体Cは,3自治体の合併で人口約1万人,面積約300 km2であり,支所数2か所である.合併に伴って複数から1名体制となって現在に至っている.

支所保健師としての活動経験や管理上の視点からその構造を網羅的に捉えるため,対象者は,永江(2012)による中堅期の年数設定に準じ,中堅期(5~20年未満)と管理期(20年以上)の保健師とし,いずれも過疎地域での勤務経験を有する者とした.対象者の選定は,各自治体の統括保健師に書面と口頭で説明し,同意を得たうえで候補者の紹介を依頼した.

3. データ収集方法

研究協力の同意を得た後に,支所で必要な活動を明らかにするために,経験や役割,理想像を尋ねた.インタビューガイドを用いた半構造的面接を行い,①支所で実践した特徴的内容および勤務する保健師の果たす役割,②過疎地域の支所に勤務する保健師としての理想像および必要な経験について自由に語ってもらった.インタビュー内容は,対象者の承諾を得てICレコーダに録音した.データ収集期間は2022年4月から5月であった.

4. 分析方法

インタビュー内容から作成した逐語録をもとに,質的統合法(KJ法)(以下,質的統合法)による分析を行った.質的統合法は渾沌とした語りの記述から,現象を構造的に把握するのに優れていることから(山浦,2020, 2021),過疎地域での支所保健師活動の構造を明らかにするのに適すると判断した.分析は,まず,個別分析によって元ラベルからグループ集めと表札づくりの作業を繰り返した.次に,個別分析のリアリティーを残しつつ,抽象度を高めすぎないために,最終ラベルの2段階下のラベルを元ラベルとし,同様の手順で総合分析を行った.分析に際しては,逐語録の内容から一つの志(心+指し示す方向)ごとに元ラベルを作成した.作成したすべてのラベルを広げ,そのラベルをよく読み,志の類似性からグループ集めをし,グループごとに全体像を一文で表す表札を作成した.このようなグループ編成を抽象度を上げながら積み重ね,最終ラベルが5~7枚になったところで分析を終了した.さらに,総合分析の最終ラベルをもとに空間配置図を作成して相互の関係性を検討した.

分析の過程では,すべての対象者にメンバーチェッキングを行うとともに,県外類似自治体の管理職経験保健師による検証を得て真実性を担保した.分析は,研究者が質的統合法の初任者研修とフォロー研修を受講して実施した.また,質的統合法の経験豊富な指導資格者よりスーパーバイズを受けて信用性を確保した.

5. 倫理的配慮

本研究は,和歌山県立医科大学倫理審査委員会(承認番号:2612)の承認を得て実施した.個別インタビューは,対象者に研究の趣旨と方法,協力と撤回は自由意思であること,匿名性を確保すること,研究以外の目的でデータを使用しないことを文書と口頭で説明し,同意書に署名を得たうえで実施した.また,対象者は逐語録の内容を確認でき,削除と修正を可能とした.

Ⅳ. 結果

1. 基本情報と個別分析の結果

対象者の基本情報と個別分析の結果の概要を表1に示した.対象者は管理期保健師が5名,中堅期保健師が3名で,支所勤務歴は1~13年(平均4.5年)であった.また,インタビューの所要時間は45~68分(平均53.8分)で,得られた元ラベル数は60~81枚(平均71.1枚),合計569枚であった.

表1 

対象者の基本情報と個別分析結果の概要

対象者の基本情報 個別分析結果の概要(空間配置からのストーリー)
N1:管理期
支所勤務歴:1年
面接時間:68分
元ラベル数:69枚
支所保健師活動の成果には,地区組織員と地域に根ざした活動から得た関係性がもたらす成果と,ケアシステムへの発展から得たケース・地域事情を判断できる成果の両面があり,その基盤には支所保健師の位置づけがある.また,この両面の支所保健師活動の成果の事柄は,保健師として地域内で可能な活動を創出する過疎地域でのやりがいに繋がる.一方,精神障害への対応から得た相談しやすい関係性づくりと,発達遅れには集団生活を促す等の経験に基づく働きかけの双方が合わさって,住民との関係づくりが成り立ち,この2つの事柄も過疎地域でのやりがいに繋がる.
N2:管理期
支所勤務歴:3年
面接時間:53分
元ラベル数:81枚
年齢枠と縦割り行政を撤廃した連携からのPDCAによる事業展開と,少ない人口規模での統計・状況把握による過疎地域の地区診断の双方が合わさって,保健衛生全般に対応する中堅期保健師は,地区担当としての責任を担っている.一方,対話技術・対人スキルを活かした住民に密着した活動と,住民・職員との協力体制から,医療を含む地域包括ケアシステムからなる過疎地域での関係機関の連携が求められた.これら地区担当としての責任と過疎地域での関係機関の連携は,善き循環として支所保健師活動に活かされていく.
N3:管理期
支所勤務歴:12年
面接時間:58分
元ラベル数:80枚
支所保健師には,地区診断により上司に進言する支所保健師配置の必要性と,他職種や本庁との連携により支所業務遂行する中堅保健師の役割があるが,予算を組む経験が乏しく支所に事業企画権限が無いことが阻害要因となっている.一方,この支所保健師配置の必要性は,過疎地域での保健福祉全般への対応に繋がり,中堅保健師の役割は,精神保健活動のケース会議からなる他機関連携の継続性に繋がる.この保健福祉全般への対応と他機関連携の継続性の双方が合わさって,さらに,住民との関係性からサービス開発に発展する保健師のやりがいとなっていく.
N4:管理期
支所勤務歴:3年
面接時間:54分
元ラベル数:73枚
自己の目標設定・評価を支援する新任期からの育成が,支所勤務へのキャリア形成,および処遇困難事例対応によるコーディネートスキルの基盤となる.支所勤務へのキャリア形成が,ワンストップ窓口で役場丸ごと対応し他課と連携する住民対応に繋がる.一方,コーディネートのスキルは,支所ごとの地区診断とPDCAの展開により他機関と連携する事業企画に繋がる.これら他課と連携する住民対応と他機関と連携する事業企画の両面から,住民と顔のみえる信頼関係の構築に基づいた過疎地域でのやりがいとなる.
N5:管理期
支所勤務歴:13年
面接時間:47分
元ラベル数:68枚
プリセプターの支援による新任期保健師のコミュニケーション能力育成が基盤となって,過疎地域での人・資源を繋ぐ関係構築と,個別と事業双方の連携構築の両面に繋がる.一方,支所保健師活動は,支所勤務経験者による支所保健師の支援体制と,保健福祉業務全般の経験による支所勤務への準備の双方から成り立つ.この支所保健師活動により,PDCAを展開する評価と予算化から根拠立て主張できる事業企画に繋がる.この事業企画は,さらに過疎地域での人・資源を繋ぐ関係構築と,個別と事業双方の連携構築に発展し,支所保健師活動が充実する.
N6:中堅期
支所勤務歴:2年
面接時間:48分
元ラベル数:69枚
支所保健師活動は,支所勤務経験者からの情報および事業参加による支所勤務への備えと,一人体制の支所保健師に,地域で一緒に取り組み支援する1.5人体制として,地区診断・PDCAによる全分野で根拠ある判断に繋がる.この全分野で根拠ある判断を基盤に,ヘルパー・ケアマネジャーと情報共有・相談できる関係職種との連携と,自主サロン・地区組織活動等の住民主体的活動の支援ができる.この関係職種の連携と住民主体的活動の支援の双方が合わさって,社会資源・住民との連携及び信頼関係による過疎での地域密着活動に繋がっていく.
N7:中堅期
支所勤務歴:1年
面接時間:57分
元ラベル数:60枚
広域自治体保健師は,健診などの業務応援の経験で支所勤務に備えることと,医師や相談機関との連携を把握して包括ケアシステムを学ぶことを積み重ねることで,客観的データ・地区診断による保健師活動から地域特性を捉えた判断ができる.この地域特性を捉えた判断は,ニーズに丁寧な対応をした住民との信頼関係構築と,共助を推進する過疎地域の災害保健活動に繋がる.さらに,住民との信頼関係構築と共助を推進する災害保健活動が合わさって,住民の主体性を尊重した組織育成などの新たな社会資源の開発につながる.
N8:中堅期
支所勤務歴:1年
面接時間:45分
元ラベル数:69枚
支所保健師が,処遇困難ケースなどを地域事情に詳しい職員に相談することで,病院・保健所が遠い過疎地域での精神対応や,少ない対象児で発達確認時期の調整を要する乳幼児健診の理解・実践に繋がっている.一方,過疎地域の連携では,関係機関や住民との連携と,医師に依頼・相談できる医療機関との連携の両面がある.これら過疎地域での精神対応,乳幼児健診の理解・実践,関係機関や住民との連携,医療機関との連携,各々の事柄が,勤務地を地区担当とした家族・地域丸ごとの支援に繋がっている.

個別分析では,対象者(N1~N8)ごとにグループ編成を繰り返し(最大7段階:A~G),1人あたり6枚の最終ラベルが作成された.各事柄の関係性から全体構造を検討したところ,過疎地域における連携に関することが最も多く,関係職種や関係機関及び地区組織を含む住民との連携を重要と捉えられていた.また,地区診断とPDCAの展開や住民との信頼関係構築などの必要性を認識して支所保健師活動を遂行していた.さらに,関係機関との連携が支所保健師活動に活かされ,住民との信頼関係が地域に密着した過疎地域でのやりがいに繋げられると考えられていた.

2. 総合分析の結果

総合分析は,個別分析における各対象者の最終ラベル2段階下のラベルを集めて101枚のラベルを元ラベルとした.分析は7段階までグループ編成を重ね,最終ラベルが6枚となった.総合分析の結果を表2に示した.シンボルマークを【事柄:エッセンス】で表し,最終ラベルを《 》で示す.また,個人特定を避ける配慮をしたうえ,ラベル例は総合分析の元ラベルを「 」,総合分析に関連する個別分析の元ラベルを「 」で示した.

表2 

総合分析の結果

【事柄・エッセンス】最終ラベル ラベル例(斜体字は総合分析に関連した個別分析の元ラベル)
【広範におよぶ連携構築:住民も含んだ信頼関係に基づく地域丸ごとの活動】
支所保健師は,日常でも災害時でも関係機関だけでなく,家族・親戚・住民までの幅広い連携等で同じ目標を目指すなど,信頼関係を築いたりして地域丸ごとに実行性のある活動をする.
本当に過疎なので家族関係,一人暮らしも多いし,この人とこの人は親戚だとかがある.都会よりも親戚関係とかがあるので,そういう話を聞いたときは繋げて覚えておくとか,親戚関係を知ったうえで,協力のネットをはる
・一人体制の支所保健師は,社会資源がない中,診療所の医師・看護師の他職種や社協等の他機関だけでなく,家族・親戚も含めて連携を図り個別ケースに対応した
自分から地域に入っていって住民から情報を得ることも大事と考えます
住民の声を聞いて,住民と一緒に同じ方向を目指して健康課題に取り組んでいくというイメージでやっていけたらいいと思う
過疎に来てから個人だけでなく,家族まるごと,地域まるごとみる経験を積んだ
【継続できる連携構築:ケース会議・包括ケアシステムの構築と発展】
支所保健師は,社会資源がない過疎地域で,協力を求める関係職種・機関を判断し,ケース会議や包括ケアシステムに発展させるなど,継続できる連携の構築が重要となる.
私が異動で支所を離れる時期と医師の協力支援がなくなるタイミングが同時期だったので,形を作っておかなければという気持ちから,連携の会を1回でもやって形を作っておけば残っていくと思った
・事業所が少ない地域で支所保健師は,精神科医師が撤退しても,社協・ヘルパー・相談員・訪問看護等の他職種が話し合えるケース会議を連携の場として位置づけ,継続できるようにした
介護予防育成の事業を社協にやってもらう中で,住民のメンバーさんから地域の神社に手すりをつけてほしいという要望があったが産業課から断られてあった
・それを介護予防育成の事業のタイアップをしたことで産業課の人を動かして来てもらえて,神社の手すりの予算は産業課でとってもらうことができ,住民の介護予防として手すりをつけたのです
・支所保健師活動は補助金の活用,母子と高齢者,産業課と社協が組んだ事業や社協による送迎など,過疎地域の事情に応じ,タイアップや他機関との連携を図って実施する
【地域特性に基づく事業展開:地区診断とPDCAによる事業企画・評価】
過疎地域の支所保健師には,データに基づく地域特性を捉えた地区診断,縦割りや年齢を超えた柔軟な連携,PDCAの展開により予算積算等も含む事業企画・評価をすることが求められる.
それなりに自分がおかれた状況で,業務に対して,ちゃんと自分なりに,この事業についての理解を深め,よりよくできないかを自分で考えてPDCAを回さなければいけない
・支所保健師は,上司に判断をゆだねるのではなく,支所ごとに地区診断とPDCAの展開から自分で判断し,地域状況に応じた事業を企画する
特に過疎地域は資源がないですから,縦割りではなくて年齢枠を超えた対象の集まりを考えて,効率的に資源を活用することを考えてもいいのではないかな
・人口も資源も少ない過疎地域での事業は,夜間開催等で年齢枠を撤廃した介護予防教室や,保育所と介護施設との縦割り行政を超えたタイアップなど工夫して実施する
予算を組む負担はあるが,自分で予算まで考えてやったら,この事業をしたいと主張できる
【支所勤務での地区担当:本庁等との調整・連携による保健福祉全般の業務】
支所の中堅期保健師は,保健福祉業務全般の地区担当を,本庁・他支所と連携しながら遂行し,新任期保健師にも伝授していく.
今,本庁勤務だったら,連携していこうと言っているが,一旦は細分化されてしまった.それが否応なく支所では赤ちゃんから墓場まで勉強できるので,保健師としては基本に立ち返ることができる
地区を母子から高齢者まで障害も含めて,地区担当としてトータルに見ることですね.
・支所勤務の中堅保健師には,新任保健師に母子・成人・包括含めた高齢・障害をトータルに見る基本を伝えられるほど,地区担当として地域に責任をもつ活動が望まれている
本庁勤務の時から業務応援・業務交流で支所に馴染んで支所を知ることに努めることですね
【力量形成を要す支所業務遂行:長期俯瞰的指導と相談体制下での学び・実務経験】
一人体制の支所保健師は,判断力や対人スキルを養う長期的・俯瞰的な指導体制や,支所勤務経験者による公認の相談体制のもと,支所保健師活動を遂行する.
支所保健師の姿を見ていたら,母子でも精神でも,一つ一つのケースを自分で判断して解決していく能力が必要と感じましたね
本庁に相談にのってくれる人がいたとしても,口頭だけの相談ではなく,きちんと地域に入って行ってもらいたいという希望がある
・支所保健師は,本庁が提示することに支所ごとの特徴も加味して対応し,個別ケースでは,自分で判断する解決能力が求められる
・支所保健師に,支所勤務経験があり業務を理解できる保健師がフォローする公認の相談体制があれば,負担が減ると思う
・本庁の口頭だけの相談ではなく,きちんと支所担当を決めてもらえて,地域に入って課題に一緒に取り組む1.5人体制で支援体制を整えることが大事です
【新たな地域づくりへの進展:地域ごとの事情を踏まえた全住民のQOL向上】
過疎地域の支所保健師は,支援・資源が乏しい中,障害者を含む全住民のQOL向上等を目標に,交通の利便性など地域ごとに異なる現状を踏まえて住民目線で政策提言し,新たな地域づくりに繋げられると良い.
精神保健については,個人への対応だけでなく『家族の会』をつくったり,集まって作業をする場をつくり,作業所に発展させたりと形にしていった.『必要があったからつくったのよ』と先輩保健師が言っていた
・過疎地域の保健師は,療育・作業所等が乏しく,支援や制度が受け入れがたい地域で,先輩保健が行ったサービス開発と住民主体の地域づくりを,自らも自主活動に繋げた経験を通して学んだ
・少子高齢化の過疎地域では,乳幼児の交流の場づくりや通院困難な方への機能訓練など,地域内で可能な活動を新たに作り出して実践するとやりがいがある

1) 【広範におよぶ連携構築:住民も含んだ信頼関係に基づく地域丸ごとの活動】

「本当に過疎なので家族関係,一人暮らしも多いし,この人とこの人は親戚だとかがある.都会よりも親戚関係とかがあるので,そういう話を聞いたときは繋げて覚えておくとか,親戚関係を知ったうえで,協力のネットをはる」のように,「一人体制の支所保健師は,社会資源がない中,診療所の医師・看護師の他職種や社協等の他機関だけでなく,家族・親戚も含めて連携を図り個別ケースに対応した」保健師活動があった.

グループ編成により,最終ラベルは《支所保健師は,日常でも災害時でも関係機関だけでなく,家族・親戚・住民までの幅広い連携等で同じ目標を目指すなど,信頼関係を築いたりして地域丸ごとに実行性のある活動をする》であり,【広範におよぶ連携構築:住民も含んだ信頼関係に基づく地域丸ごとの活動】をシンボルマークとした.

2) 【継続できる連携構築:ケース会議・包括ケアシステムの構築と発展】

「私が異動で支所を離れる時期と医師の協力支援がなくなるタイミングが同時期だったので,形を作っておかなければという気持ちから,連携の会を1回でもやって形を作っておけば残っていくと思った」のように,「事業所が少ない地域で支所保健師は,精神科医師が撤退しても,社協・ヘルパー・相談員・訪問看護等の他職種が話し合えるケース会議を連携の場として位置づけ,継続できるようにした」保健師活動があった.

グループ編成により,最終ラベルは《支所保健師は,社会資源がない過疎地域で,協力を求める関係職種・機関を判断し,ケース会議や包括ケアシステムに発展させるなど,継続できる連携の構築が重要となる》であり,【継続できる連携構築:ケース会議・包括ケアシステムの構築と発展】をシンボルマークとした.

3) 【地域特性に基づく事業展開:地区診断とPDCAによる事業企画・評価】

「それなりに自分がおかれた状況で,業務に対して,ちゃんと自分なりに,この事業についての理解を深め,よりよくできないかを自分で考えてPDCAを回さなければいけない」のように,「支所保健師は,上司に判断をゆだねるのではなく,支所ごとに地区診断とPDCAの展開から自分で判断し,地域状況に応じた事業を企画する」保健師活動であった.また,「特に過疎地域は資源がないですから,縦割りではなくて年齢枠を超えた対象の集まりを考えて,効率的に資源を活用することを考えてもいいのではないかな」のように,「人口も資源も少ない過疎地域での事業は,夜間開催等で年齢枠を撤廃した介護予防教室や,保育所と介護施設との縦割り行政を超えたタイアップなど工夫して実施する」保健師活動であった.

グループ編成により,最終ラベルは《過疎地域の支所保健師には,データに基づく地域特性を捉えた地区診断,縦割りや年齢を超えた柔軟な連携,PDCAの展開により予算積算等も含む事業企画・評価をすることが求められる》であり,【地域特性に基づく事業展開:地区診断とPDCAによる事業企画・評価】をシンボルマークとした.

4) 【支所勤務での地区担当:本庁等との調整・連携による保健福祉全般の業務】

「今,本庁勤務だったら,連携していこうと言っているが,一旦は細分化されてしまった.それが否応なく支所では赤ちゃんから墓場まで勉強できるので,保健師としては基本に立ち返ることができる」「地区を母子から高齢者まで障害も含めて,地区担当としてトータルに見ることですね」のように,「支所勤務の中堅保健師には,新任保健師に母子・成人・包括含めた高齢・障害をトータルに見る基本を伝えられるほど,地区担当として地域に責任をもつ活動が望まれている」保健師活動であった.

グループ編成により,最終ラベルは《支所の中堅期保健師は,保健福祉業務全般の地区担当を,本庁・他支所と連携しながら遂行し,新任期保健師にも伝授していく》であり,【支所勤務での地区担当:本庁等との調整・連携による保健福祉全般の業務】をシンボルマークとした.

5) 【力量形成を要す支所業務遂行:長期俯瞰的指導と相談体制下での学び・実務経験】

「支所保健師の姿を見ていたら,母子でも精神でも,一つ一つのケースを自分で判断して解決していく能力が必要と感じましたね」「本庁に相談にのってくれる人がいたとしても,口頭だけの相談ではなく,きちんと地域に入って行ってもらいたいという希望がある」のように,「支所保健師は,本庁が提示することに支所ごとの特徴も加味して対応し,個別ケースでは,自分で判断する解決能力が求められる」や「支所保健師に,支所勤務経験があり業務を理解できる保健師がフォローする公認の相談体制があれば,負担が減ると思う」状況であった.

グループ編成により,最終ラベルは《一人体制の支所保健師は,判断力や対人スキルを養う長期的・俯瞰的な指導体制や,支所勤務経験者による公認の相談体制のもと,支所保健師活動を遂行する》であり【力量形成を要す支所業務遂行:長期俯瞰的指導と相談体制下での学び・実務経験】をシンボルマークとした.

6) 【新たな地域づくりへの進展:地域ごとの事情を踏まえた全住民のQOL向上】

「精神保健については,個人への対応だけでなく『家族の会』をつくったり,集まって作業をする場をつくり,作業所に発展させたりと形にしていった.『必要があったからつくったのよ』と先輩保健師が言っていた」のように,「過疎地域の保健師は,療育・作業所等が乏しく,支援や制度が受け入れがたい地域で,先輩保健が行ったサービス開発と住民主体の地域づくりを,自らも自主活動に繋げた経験を通して学んだ」保健師活動であった.また,「少子高齢化の過疎地域では,乳幼児の交流の場づくりや通院困難な方への機能訓練など,地域内で可能な活動を新たに作り出して実践するとやりがいがある」保健師活動となっていた.

グループ編成により,最終ラベルは《過疎地域の支所保健師は,支援・資源が乏しい中,障害者を含む全住民のQOL向上等を目標に,交通の利便性など地域ごとに異なる現状を踏まえて住民目線で政策提言し,新たな地域づくりに繋げられると良い》であり,【新たな地域づくりへの進展:地域ごとの事情を踏まえた全住民のQOL向上】をシンボルマークとした.

3. 空間配置図による最終ラベル相互の関係性

最終ラベル6枚の保健師活動にシンボルマークを附し空間配置図によるラベル相互の関係性を検討した(図1).空間配置図により,保健師活動の各要素が多様な関係性をもつ構造が窺えた.まず,判断力や対人スキルを養う長期俯瞰的指導と支所勤務経験者による公認の相談体制下で【力量形成を要す支所業務遂行】がなされる.これが基盤にあり,本庁等との調整・連携により保健福祉全般の業務を担う【支所勤務での地区担当】と,地区診断とPDCAによる事業企画・評価等の【地域特性に基づく事業展開】が成り立つ.これら【支所勤務での地区担当】と【地域特性に基づく事業展開】が相互補強しつつ,全住民のQOL向上等を目標に,交通の利便性等の地域ごとの事情を踏まえた住民目線の政策提言が期待され,【新たな地域づくりへの進展】となる.

図1 

空間配置図による最終ラベル相互の関係性

一方,一人体制で勤務する支所保健師活動には,住民も含んだ信頼関係に基づく地域丸ごとの活動で【広範におよぶ連携構築】という特性があり,ケース会議と包括ケアシステムの構築と発展からなる【継続できる連携構築】が求められる.過疎地域での連携は,この【広範におよぶ連携構築】と【継続できる連携構築】の両面が示された.また,【支所勤務での地区担当】のなかで住民までも含んだ信頼関係に基づく連携が形成されるとともに,その【広範におよぶ連携構築】により地区担当を強化する相互補強の関係にある.そして,【地域特性に基づく事業展開】のPDCAの展開のなかでケアシステムの構築が考えられるとともに,ケアシステムの【継続できる連携構築】がPDCAにも反映する相互補強の関係にある構造が示された.

さらに,【広範におよぶ連携構築】で住民との信頼関係の構築が住民目線の政策提言などの【新たな地域づくりへの進展】につながり,その提言により新たな包括ケアシステムの構築の【継続できる連携構築】も可能となる.この【継続できる連携構築】が,さらに連携する対象を広げて【広範におよぶ連携構築】に反映する.また,この3つの事柄については,【広範におよぶ連携構築】による連携先の拡大が【継続できる連携構築】の包括ケアシステム構築に繋がり,【新たな地域づくりへの進展】での住民との協働が,さらに連携先の対象を広げる【広範におよぶ連携構築】に繋がるような,反対の流れも考えられる.このように【広範におよぶ連携構築】【新たな地域づくりへの進展】【継続できる連携構築】は双方向に善き循環となって支所保健師活動を充実させる構造が示された.

Ⅴ. 考察

支所勤務経験保健師のインタビュー内容を質的統合法で分析した結果,広域合併自治体における過疎地域での支所保健師活動は最終的に6枚のラベルに集約された.空間配置図による相互の関係性の検討から,【広範におよぶ連携構築】と【継続できる連携構築】の両面の連携があり,【広範におよぶ連携構築】【継続できる連携構築】【新たな地域づくりへの進展】の3つの事柄が双方向の善き循環をなしていた.また,これらを含むすべてには,【力量形成を要す支所業務遂行】が基盤になっていた.以下に,これらの支所保健師活動の構造を考察する.

1. 【広範におよぶ連携構築】と【継続できる連携構築】の両面の連携

行動を起こす保健師は,例えば,向精神薬使用の支援において,当事者だけでなく健康に関係する他の人々に協力を求め,家族,医療専門家などと様々な方法で連携し続ける中心的役割を担うと述べられている(Anne et al., 2015).本研究においても,【継続できる連携構築】だけでなく,【広範におよぶ連携構築】の両面の連携が示された.保健師が異動しても成り立つようシステム化する【継続できる連携構築】については,つながりをもつ関係機関や関係者の活動を恒常的なルールとする必要がある場合はシステム化し,人や機関が変わっても普遍的な地域の仕組みとして成立させる必要があるとした先行文献(中村,2021)と同様であった.

一方,【広範におよぶ連携構築】は,「自分から地域に入っていって住民から情報を得ることも大事と考えます」の語りのように,住民との連携を大事にし,保健師活動に繋げるための意図的な住民への働きかけをしていた.支所保健師は,包括ケアシステム等で,関係職種や関係機関との連携を図るのみならず,住民までも含む連携を積極的に図る【広範におよぶ連携構築】を目指していることが明らかになった.人的資源や社会資源が乏しい過疎地域で支所勤務する保健師一人体制ならではの特徴と考えられる.支所保健師活動の連携では,「住民の声を聞いて,住民と一緒に同じ方向を目指して健康課題に取り組んでいくというイメージでやっていけたらいいと思う」の語りのように,連携の目指す方向を共有し(櫃本,2017),ケース対応では親戚までも含み,地区組織や住民団体とも積極的に協働することの広範性が望まれる.

つまり,包括ケアシステム等での関係職種・関係機関の【継続できる連携構築】だけではなく,過疎地域では住民との連携を大切にし,保健師活動につなげるための意図的な住民への働きかけを行う【広範におよぶ連携構築】が重要であることが示唆された.

2. 【広範におよぶ連携構築】【継続できる連携構築】【新たな地域づくりへの進展】3つの事柄の双方向の善き循環

空間配置図による関係性の検討から,【広範におよぶ連携構築】【継続できる連携構築】【新たな地域づくりへの進展】の3つは双方向に善き循環を形成していた.先行文献では,横の連携は,ある時点でのニーズに対応するために関係者を広げ,協働を組織化し,点を線に,そして面にしていくために行われる「ネットワークづくり」や「地域づくり」につながる視点であると述べられており(末永,2021),連携得点が高い保健師は,新規事業の展開に積極的であり,高度な知識や能力が必要とされる業務を遂行していたと報告されている(筒井・東野,2006).本研究でも「介護予防育成の事業を社協にやってもらう中で,住民のメンバーさんから地域の神社に手すりをつけてほしいという要望があったが産業課から断られてあった」「それを介護予防育成の事業のタイアップをしたことで産業課の人を動かして来てもらえて,神社の手すりの予算は産業課でとってもらうことができ,住民の介護予防として手すりをつけたのです」というように,住民ニーズを受け止め,他課・他機関との連携から地域づくりに繋がった事例がある.

「支所保健師活動は,補助金の活用,母子と高齢者,産業課と社協が組んだ事業や社協による送迎など,過疎地域の事情に応じ,タイアップや他機関との連携を図って実施する」ように,住民目線で政策提言し新たな地域づくりに繋げるには,保健師が住民と共に考え,他課・他機関との連携を図っていく保健師活動が肝要となる.過疎地域で支所勤務する保健師一人体制では,広範におよぶ連携構築,継続できる連携構築があることが,新たな地域づくりの展開に不可欠な要素となると考えられた.また,この3つの事柄は,因果関係や相互補強関係よりもダイナミックな双方向に善き循環の関係にあることが示された.よって,一つでも充実すれば,それが起動力となって循環の流れが他の2つに連動するが,逆に,連携が停滞するとその影響が波及していくものと推察される.

3. すべての事柄の基盤にある【力量形成を要す支所業務遂行】

【力量形成を要す支所業務遂行】は,【支所勤務での地区担当】と【地域特性に基づく事業展開】だけでなく,すべての事柄の基盤にあることが示された.その理由は,【支所勤務での地区担当】は【広範におよぶ連携構築】と,【地域特性に基づく事業展開】は【継続できる連携構築】と相互補強関係にあること,【広範におよぶ連携構築】【継続できる連携構築】【新たな地域づくりへの進展】が双方向の善き循環の関係にあることから,すべての事柄に繋がりがあり,【力量形成を要す支所業務遂行】は,すべての事柄の基盤にあることが説明できる.この基盤上にある【地域特性に基づく事業展開】は,地区診断やPDCAにより,根拠に基づいた事業展開をすることが重要となる.先行文献では,周辺に支所がある自治体では,法的根拠に基づく中心市活動システムと住民の生活実態に基づく周辺市活動システムに矛盾が生じる中で,地区特性を捉える地区診断を突破口としていると述べている(野呂,2013).この【地域特性に基づく事業展開】の重要性は,先行文献と同様であった.

多くの新市町で保健事業に関する権限は支所にないが(都筑ら,2010),「予算を組む負担はあるが,自分で予算まで考えてやったら,この事業をしたいと主張できる」の語りのように,予算編成の経験は新規事業に繋げることができると考えられる.予算書を書いた経験がある保健師の連携得点が高かったと述べられているが(筒井・東野,2006),それには新任期からの力量形成が重要となる.新任保健師育成にはプリセプターが担うことになるが,新任保健師育成では,組織としてどうあるべきかプリセプター制度の指導体制を具体化して考え,プリセプターが組織に関わる必要性があると述べられている(嶋津・麻原,2014).一人体制の支所勤務を念頭におき,住民生活と地域特性の実態を捉える地区診断の力量を形成する新任期からの人材育成と,指導するプリセプターの指導体制整備および組織的な関わりが重要となることが示唆された.

また,「本庁勤務の時から業務応援・業務交流で支所に馴染んで支所を知ることに努めることですね」の語りのように,支所勤務で過疎地域を地区担当するには,本庁からの支所業務支援を取り入れた実務経験が望まれる.加えて,「本庁の口頭だけの相談ではなく,きちんと支所担当を決めてもらえて,地域に入って課題に一緒に取り組む1.5人体制で支援体制を整えることが大事です」のように,力量形成を要す支所業務遂行には,一人体制の保健師が必要時に相談できるよう,公認の相談体制を整備する組織的な人員配置が望まれる.

さらに,先行研究で報告した広域合併自治体の過疎地域における支所保健師活動では,過疎地域の特性からなる課題,過疎地域における支所業務の課題,本庁業務と過疎地域の支所業務が異なる2重構造からなる課題が渾沌としていた(川口,2022).支所保健師活動の力量形成を進めることは,中堅期で支所勤務できる人材確保に繋がり,支所勤務経験がある保健師も増え支所保健師の相談に応じることができるようになると,本庁業務と過疎地域の支所業務が異なる2重構造からなる課題の緩和も期待できると考えられる,

以上のことから,一人体制の支所勤務を念頭においた新任期からの長期的・俯瞰的指導体制,支所勤務経験者による公認の相談体制のもと,【力量形成を要す支所業務遂行】を積み重ねていくことが,すべての事柄の基盤であり所保健師活動の根幹となることが示唆された.

4. 支所保健師活動の構造化から人材育成に向けて

支所保健師活動の構造を明らかにしたことで,広域合併自治体における保健師の人材育成を考えるうえでの基礎資料を得ることができた.

また,「過疎に来てから個人だけでなく,家族まるごと,地域まるごとみる経験を積んだ」の語りがあった.一人体制での支所保健師活動は負担も大きいが,保健衛生から高齢福祉,障害福祉のすべてに,家族まるごと,地域まるごとに対応することは,保健師として成長する善き機会であり,支所保健師活動は,人材育成としての現任教育の一翼になると考えられる.そして,本庁からの支所業務支援の経験や本庁・他課・他機関だけでなく住民までも含む連携の経験を重ね,支所勤務を含むジョブローテーションの中で力量形成のうえ,支所保健師の支援体制の整備を図り,支所勤務を念頭においた人材育成を構築することが肝要と考えられた.

さらに,2022年4月1日時点において,全国的にも過疎自治体は885団体で半数以上となり増加の現状にある(総務省,2022a).本研究は一人体制での支所勤務だけでなく,過疎地域での保健師活動を念頭においてデータ収集と分析をしていることから,得られた知見は,過疎地域を含む自治体での保健師人材育成にも部分的に活用しえるものと考える.

Ⅵ. 研究の限界と課題

本研究は,広域合併自治体における過疎地域での支所保健師活動の構造を明らかにすることを目的としたが,対象とした自治体数は十分とは言えない.また,県外類似自治体の管理職経験保健師との意見交換によって適合性を検証しているものの,過疎地域に支所機能をもつすべての自治体に適用することはできない.さらに,今回は,支所保健師活動の構造を明確化することに焦点を当てたが,今後は,支所勤務を念頭においた新任期からの人材育成プログラムとそれを評価するための指標を開発していくことが必要であると考えられる.

Ⅶ. 結論

広域合併自治体おける過疎地域での支所保健師活動の構造を質的統合法によって検討した結果,支所勤務保健師の連携には広範性と継続性の両面があり,特に,過疎地域では住民を含めた【広範におよぶ連携構築】が重要であることが示唆された.また,【支所勤務での地区担当】と【地域特性に基づく事業展開】が相互補強しつつ【新たな地域づくりへの進展】に繋がるとともに,【支所勤務での地区担当】は【広範におよぶ連携構築】と,【地域特性に基づく事業展開】は【継続できる連携構築】とも相互補強関係にあった.さらに,【広範におよぶ連携構築】【継続できる連携構築】【新たな地域づくりへの進展】の3つの事柄が双方向に善き循環の関係性を持つことが明らかになった.そして,これらの基盤として,長期俯瞰的指導と支所勤務経験者による公認の相談体制のもとで【力量形成を要す支所業務遂行】が求められていた.支所保健師活動遂行における課題が渾沌とする中で,その構造を明らかにできたことで,今後の保健師人材育成の方向性を見極めるのに寄与するものと考えられた.

謝辞:対象自治体におかれましては,業務多忙にもかかわらず本研究にご協力くださり,インタビューでは,過疎地域での支所保健師活動の経験から貴重なご意見を拝聴することができました.ご協力頂いた保健師の皆様に心より感謝申し上げます.また,質的統合法の分析では,経験豊富で指導資格がある先生に丁寧にご指導いただきました.さらに,類似自治体の管理職経験保健師様方には分析結果を検証いただき,貴重なご意見も承りました.深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:EKは,研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析および解釈,論文執筆のすべてを実施した.MMは,研究デザイン,データの分析検証に貢献した.NMは,研究プロセス全体および論文作成への助言に貢献した.すべての著者は,最終原稿を確認し,承認した.

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