日本看護科学会誌
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原著
男性看護師におけるHopeを媒介としたワーク・エンゲイジメントのプロセスモデルの検討:混合研究法
笠原 邑斗菅野 雄介松尾 まき白濵 伴子瀧澤 美奈廣島 麻揚
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2023 年 43 巻 p. 488-498

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Abstract

目的:男性看護師におけるHopeを媒介としたワーク・エンゲイジメント(WE)プロセスモデルを明らかにする.

方法:混合研究法の説明的デザインを用いた.男性看護師839名にWeb調査を行い,WEプロセスモデルを構造方程式モデリングで検証した.同意を得た13名に半構造化面接を行い,内容を量的結果と統合した.

結果:228名を解析対象とした(有効回答率27.2%).WEプロセスモデルとして,上司の配慮,看護関連資格,進学の支援がHopeを仲介しWEに影響していた(GFI = .951,AGFI = .906,RMSEA = .084).対象者は男性役割を意識しており,上司の配慮とHopeの関連は「支援の充実した組織でキャリアアップを目指す」等で説明された.

結論:男性看護師のHopeを媒介したWEプロセスモデルを混合研究法で明らかにした.男性看護師は性別意識を持つ一方,仕事と家庭の両立も意識していた.

Translated Abstract

Aim: We identified a hope-mediated work engagement (“WE”) process model in male nurses.

Methods: An explanatory design using mixed methods research was used. A web-based survey was administered to 839 male nurses, and a process model of WE was tested using structural equation modeling. Thereafter, semi-structured interviews were conducted with 13 consenting participants, and the content was integrated with quantitative results.

Results: Responses of 228 participants were included in the analysis (valid response rate 27.2%). As a process model of WE, supervisor consideration, nursing-related qualifications, and support for higher education mediated hope and influenced WE (GFI = .951, AGFI = .906, RMSEA = .084). Participants were aware of their male role, and the association between supervisor consideration and hope was explained by “career advancement in a more supportive organization,” etc.

Conclusion: In the process of clarifying hope-mediated WE process model among male nurses using a mixed method research, male nurses were found to be gender-aware; however, they were also aware of balancing work and family life.

Ⅰ. 緒言

少子超高齢社会を迎えた本邦において,看護人材の確保は重要な課題である.厚生労働省は,看護師等の人材確保の促進に関する法律(厚生労働省,1992)に基づき,ライフスタイルに合わせた多様なキャリアパスを支援するための施策を進めてきた(厚生労働省,2017).日本看護協会は,看護の将来ビジョン(日本看護協会,2015)で男性の看護領域への参入促進を掲げているが,看護人材の確保に向けた方策としては再就業支援研修の拡充やナースセンターの活用,看護師の定着に向けた勤務環境の改善などが示されている一方,男性看護師の雇用定着や促進に向けた具体的な対策は講じられていない.

男性看護師の登録者数は2010年から2020年の10年間で2倍まで増加したが,看護師の総数に占める男性の割合は2018年時点で約7.6%であり依然として少ない(日本看護協会,2020).看護人材の多様化に伴い,性差による不利益・不平等・制約を感じさせない職場環境が求められているが,一部の男性看護師では患者,看護師双方が羞恥心を伴う保清・排泄介助のケアなど女性患者との関わりや,女性の多い職場で職員同士の関係性の構築に困難を感じることなどが報告されている(高橋ら,2014).性差については,Sugiuraらが女性看護師は男性看護師と比較し看護をアイデンティティとして捉え,男性看護師はキャリア意識が高く看護を職業として捉えていることを報告している(Sugiura et al., 2016).しかし,男性看護師はモデルとなる人物像が見つからず将来の展望を抱きにくいこと(辻本ら,2014),家族の理解や協力が得られずキャリア形成に消極的になること(翁長ら,2012)などが報告され,さらに将来の不透明さが労働意欲の減退に繋がると報告されている(山本ら,2018).これらの先行研究から,男性看護師の雇用の定着や促進を図る上で,キャリアを意識した職場環境の整備が必要である.

看護師の雇用定着に関しては,2009年頃からワーク・エンゲイジメントの概念に基づく調査研究が報告されてきた.ワーク・エンゲイジメントは「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」と定義され(Schaufeli et al., 2002),ワーク・エンゲイジメントが高いことで職務満足度の向上や離職率の低下などが明らかにされている(島津,2010).看護師を対象とした調査研究では,年齢,職務継続の意思,感情のコントロール,ワーク・ライフ・バランスに関する上司の支援との関連や,キャリアにおいて目指す方向性が具体的であるほど,ワーク・エンゲイジメントが高いことなどが報告されている(森嶋ら,2019加賀田ら,2015佐藤ら,2014Eguchi et al., 2019).キャリア形成に関連する海外の報告では,Othman & Nasurdinが看護師を対象にワーク・エンゲイジメントとHopeとの関連を報告している(Othman & Nasurdin, 2011).Hopeは,個人が望む目標に到達可能な道筋を見出す能力である「目標指向的計画(pathways)」と,目標達成のために活動し維持する能力である「目標指向的意志(agency)」から成る目標指向的思考のプロセスと定義される(Snyder et al., 1991).これらの関連が明らかになったことで,明確な目標を持ち,達成に向け到達可能な道筋を立て,意志を持って追求する能力を備えることによって,仕事に対するポジティブな感情が高まり雇用の定着や促進に繋がると推察される.しかし,Othman & Nasurdinの調査では性差で関連を調べておらず,また雇用の定着や促進に向けた具体的な方策に関しては示唆が得られていない.男性看護師を対象とした調査では,Panらは看護実践環境を先行因子とするワーク・エンゲイジメントとの関連において,ホープ(Hope),効力感/自信(Efficacy),レジリエンス(Resilience),楽観性(Optimism)により構成される「心理的資本」が媒介因子であることを報告している(Pan et al., 2017).しかし,Panらの研究ではHopeは「心理的資本」の一部としての位置付けであり,Hopeの特性に着目した調査は行われていない.また,国内外の先行研究で男性看護師を対象にHopeとワーク・エンゲイジメントとの関連を明らかにしたものはPanらの研究を除いて見当たらず,男性看護師の雇用の定着や促進に向けた具体的な方策の示唆を得るためには,Hopeが媒介因子の役割を持つ可能性を考慮し,ワーク・エンゲイジメントを向上させるモデルの検討が必要である.さらに男性看護師の職業上での経験を概念化すると,職業選択への迷いと価値づけ,職業活動と私的活動の均衡維持などと複雑な経験を有しており(松田ら,2004),定量的に捉えきれない事象の背景情報や前後の文脈も含み定性的に捉える必要がある.

そこで本研究の目的は,男性看護師のワーク・エンゲイジメントとキャリア形成に影響を与えると推定される要因を先行因子,Hopeを媒介因子,ワーク・エンゲイジメントをアウトカムとしたプロセスモデル(図1)を定量的に明らかにし,定量的結果を補足するために,男性看護師がキャリアを形成する過程での経験を定性的に明らかにすることである.このプロセスモデルを検証することで,男性看護師の雇用の定着や促進に向けた職場環境を整備するために,キャリアを形成し,ワーク・エンゲイジメントを高めていくための具体的な方策を検討するための基礎資料となる.

図1 

仮説プロセスモデル

Ⅱ. 方法

1. 用語の定義

本研究におけるプロセスモデルとは,「男性看護師のワーク・エンゲイジメントに影響を与えると想定される要因を先行因子,Hopeを媒介因子,ワーク・エンゲイジメントをアウトカムとしたプロセスの構造方程式モデル」とする.

2. 研究デザイン

本研究は混合研究法の説明的デザインで行った(Creswell & Plano Clark, 2007/2010).本研究では,仮説として作成した構造方程式モデルからなるプロセスモデルを量的研究で検証し,質的研究で明らかにした男性看護師のキャリア形成に関する経験をもとに量的研究の結果を補足説明し,より具体的な解釈を得ることを目指した.

3. 量的研究

1) 調査手順

対象者は,看護部門の責任者と臨床経験1年未満の者を除く男性看護師とした.抽出方法は,以下の段階を経て行った.第一に,先行研究(辻本ら,2014)を参考に,1施設あたりの男性看護師の平均人数を10人と仮定し,応諾率も鑑みて研究協力を依頼する施設数を110施設とした.対象施設は,厚生労働省関東甲信越厚生局の「届出受理医療機関名簿(厚生労働省関東信越労働局,2020)」から,病床数150床以上を有する医療機関を抽出し,乱数表を用いて選出した.対象地域の選定は,日本看護協会の報告(日本看護協会,2022)で,都市部の離職率が高い傾向にあること,また,解析に必要な目標症例数を確保するため,関東地方に加え甲信越地方を含めた.病床数の基準は,男性看護師を対象として大規模な実態調査を行った先行研究(辻本ら,2014)の対象者属性と対比することを考慮し同様の基準とした.第二に,選出した施設の看護部門の責任者へ文書で研究概要を説明し協力を依頼した.第三に,承諾を得た施設の看護部門の責任者に,基準を満たす対象者への研究説明文書と調査票ウェブページのQRコードの配布を依頼した.対象者は研究参加に同意した場合に,調査画面の1ページ目に設けた同意チェック欄にチェックをつけ,回答画面に進むように設定した.調査期間は2021年3月13日から2021年4月30日とした.

2) 調査内容

(1) ワーク・エンゲイジメントに関する項目

日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES-J: Japanese version of Utrecht Work Engagement Scale)17項目版(Shimazu et al., 2008)を使用した.UWES-Jは,活力,熱意,没頭の3ドメイン17項目で構成され,リッカート尺度は「0:全くない」~「6:いつも感じる(毎日)」の7件法で尋ねた.項目得点が高いほど,仕事に対するポジティブな心理状態の評価が高いことを示す.UWES-Jは,信頼性と妥当性が検証されており(Shimazu et al., 2008),本研究の対象集団ではクロンバックα係数は0.92であった.本尺度は,開発者が指定した方法で使用した.

(2) Hopeに関する項目

日本語版ホープ尺度(Hope)(加藤・Snyder,2005)を使用した.Hopeは,計画(Pathways),意志(Agency)の2ドメイン8項目に,ダミー項目4項目を含めた合計12項目で構成され,リッカート尺度は「1:まったくあてはまらない」~「4:よくあてはまる」の4件法で尋ねた.項目得点が高いほどHope特性を有することを示す.なお,ダミー項目に関しては尺度の開発論文(Snyder et al., 1991加藤・Snyder,2005)に従い合計得点に含めなかった.日本語版ホープ尺度は信頼性と妥当性が検証されており(加藤・Snyder,2005),本研究の対象集団ではクロンバックα係数は0.76であった.本尺度の利用にあたり著作者から許可を得た.

(3) ワーク・ライフ・バランスを維持するための上司の支援に関する項目

日本語版ワーク・ファミリー・バランスに関する上司行動尺度(FSSB-J: Japanese version of the Family Supportive Supervisor Behaviors)(Eguchi et al., 2019)を使用した.本項目は,先行研究(翁長ら,2012)において男性看護師がキャリア形成を検討する上で家族の理解・協力が不可欠であると示されている点から,男性看護師の家庭と仕事の両立に向けた上司の具体的な支援を示唆する項目として設けた.FSSB-Jは,情緒的要因,手段的サポート,お手本,仕事と家庭の上手な両立の4ドメイン14項目で構成され,リッカート尺度は「1:全くあてはまらない」~「5:あてはまる」の5件法で尋ねた.FSSB-Jは,「従業員の家族役割を支援するために上司の示す行動」と定義されるFSSB(Hammer et al., 2008)の日本語版として開発され,項目得点が高いほど部下が仕事と家庭を両立するために上司がとる行動の評価が高く,部下にとって適切な行動をとっていることを示す.FSSB-Jは信頼性と妥当性が検証されており(Eguchi et al., 2019),本研究の対象集団では,クロンバックα係数は0.96であった.本尺度の利用にあたり著作者から許可を得た.

(4) 身近な男性看護師の存在に関する項目

本項目は,先行研究(山本ら,2018辻本ら,2014)において男性看護師がキャリア形成をする上で同性のロールモデルやメンターの必要性が示唆されている点から,それらの有無を問う項目として設けた.また,項目は本研究の対象者条件に一致する者で,20〜40歳代の役職のある者とない者を含む男性看護師7名にキャリア形成において身近な男性看護師の存在として影響する要因についてヒアリングした結果をもとに研究者間で協議の上選定した.選定した項目は4項目で,同性のロールモデルの有無を問う項目として直属の上司の性別,目標とする人物の有無を,同性のメンターの有無を問う項目として相談できる人物の有無,男性看護師会への入会有無を尋ねた.

(5) 基本属性及びキャリア形成に影響すると考えられる環境因子に関する項目

本項目は対象者の傾向を示すとともに,キャリア形成に向けた組織の具体的な支援を示す項目として設けた.設問は先行研究(佐々木・金澤,2016Sugiura et al., 2016坂本・高橋,2017翁長ら,2012中井ら,2013森ら,2017豊嶋ら,2014辻本ら,2014)を参考に,年齢,経験年数(看護師,部署),職位,病院規模(病床数),病棟種別,専門看護師等の看護系付加資格の有無,婚姻の有無,扶養義務のある子供の有無,年収,看護研究実績,職務継続意思,組織の研修・学会等の参加支援,組織の進学支援,組織の副業認可状況と副業実施状況について尋ねた.

3) 分析方法

まず,各調査項目の記述統計量を算出した.続いて,構造方程式モデルに投入する変数を選定するため,相関分析を行い|r| > .5の変数を除外した上でHopeおよびUWES-Jを従属変数,FSSB-J,身近な男性看護師の存在,基本属性及びキャリア形成に影響すると考えられる環境因子を独立変数とし,多重共線性(1.06~1.66, 1.03~1.13)を検討した上で,それぞれの従属変数に対してステップワイズ法にて重回帰分析を行った.年収においては欠損値66名(28.9%)であり,変数選択には含めなかった.重回帰分析において統計的に有意な関連が示された変数とUWES-J,Hopeの因果関係を想定した仮説モデルを構築し,構造方程式モデリングを用いて分析を行った.最後に,有意水準及び適合度指標を確認し,修正を加えた最終モデルを確定した.

上記の全解析において,両側検定とし有意水準を5%とした.パス図の評価は適合度指標χ2/df,CFI(comparative fit index),GFI(Goodness of Fit Index),RMSEA(root mean square error of approximation),p値により検証した.統計解析はJMP® Pro16を用いた.

4. 質的研究

1) 調査手順

調査対象者の選定は,量的調査票の末尾に質的研究の概要と依頼文,調査の協力を希望した場合の連絡先を追加し,回答のあった者に連絡し同意した者を調査対象とした.調査は対象者の意向に従い対面または電話かリモート(Zoomを使用)とし,インタビューガイドを用いた半構造化インタビューを行った.インタビュー時間は平均46.1±標準偏差8.4分であった.インタビューは,対象者の了承を得てICレコーダーに録音した.調査期間は2021年7月8日から2021年8月9日とした.

2) 調査内容

対象者自身のキャリアについて考えた時を想起してもらい,いつ,どのように考えたのか,相談した相手,キャリアを形成していくためにとった行動などを尋ねた.調査内容は,男性看護師がキャリアを形成する過程で生じる複雑な経験(松田ら,2004)を考慮し,プロセスモデルに沿った質問に限定しなかった.

3) 分析方法

録音したデータから逐語録を作成した.次にプロセスモデルにおいて変数間の関連を補足する語りを抽出した.なお,混合研究法の説明的デザインの定義および適用範囲に基づき,カテゴリ化は行わず統合の時点で解釈を補足した(Creswell & Plano Clark, 2007/2010).分析は質的研究に精通した研究者1名のスーパーバイズを受け,男性看護師1名,男性看護師を部下にもつ看護師長2名,量的研究を専門とする研究者2名を含む研究者計6名による討議を繰り返し,データの抽出に偏見や歪みがないことを確認し,確証性を確保した.

5. 結果の統合

混合研究法の説明的デザインに基づき,量的研究と質的研究で得られた結果の統合を行った(Creswell & Plano Clark, 2007/2010).具体的には,量的研究結果におけるプロセスモデルの各変数間の関係を,質的研究結果の言葉を用いて補足説明し,結果にもとづいた解釈を行った.この過程における手順(Fetters et al., 2007)は,第一にプロセスモデルの変数間の関係ごとにその関係を説明する対象者の具体的な語りを抽出した.第二に,抽出した対象者の語りが前後の文脈も含め,他の変数間の関係を説明する文脈でないことを確認した.第三に,変数間の関係ごとに,抽出されたすべての語りから類似する語りをグループ化した.第四に,グループ化したそれぞれの語りが各変数間の関係をどう説明するのか解釈し,カテゴリー名を付加しこれを「説明」とした.第五に,プロセスモデル,各変数間の関係,具体的な語りの例,説明を併記しジョイントディスプレイを作成した.上記の全過程の判断について,質的研究と同様に研究者間での協議の上,合意とした.

6. 倫理的配慮

対象者説明書へ研究の目的や方法,協力の任意性,無記名かつ個人や病院が特定されないよう処理すること等を記載した.なお本研究は,東京医療保健大学ヒトに関する研究倫理審査委員会の承認(承認番号:院32-80)を得て実施した.

Ⅲ. 結果

1. 量的研究の結果

1) 調査票の回答数および回答率,対象者の属性,尺度の得点

承諾を得た55病院に勤務する男性看護師839名に調査票を配布し,回答数は228名(回答率27.2%)であった.回収したデータのうち,50%以上の欠損が無いことを確認した上で全てのデータを分析対象とした(有効回答率27.2%).

対象者の属性と各尺度の得点を表1に示す.年齢は34.8 ± 8.2歳,看護師験年数は10.4 ± 7.0年,役職のある者は52名(22.8%)であった.UWES-Jの平均得点は2.57 ± 1.01,Hopeの合計得点は21.39 ± 3.22,FSSB-Jの合計得点は46.61 ± 13.17であった.

表1 

対象者の属性

量的研究(n = 228) 質的研究(n = 13)
n % Mean SD n % Mean SD
年齢(歳) 34.8 8.2 40.8 6.0
看護師経験年数(年) 10.4 7.0 14.2 6.7
年収 400万円未満 43 26.6 1 11.1
400~499万円 45 27.8 2 22.2
500万円以上 74 45.6 6 66.7
職位 役職あり 52 22.8 5 38.5
病院規模 150~299床 78 34.2 4 30.7
300~499床 100 43.9 5 38.5
500床以上 50 21.9 4 30.8
看護系付加資格 資格あり 39 17.1 7 53.8
婚姻状況 既婚 133 58.3 12 92.3
扶養義務のある子 子あり 109 47.8 10 76.9
組織の進学支援 支援あり 171 75.0 11 84.6
UWES-J(0~6点) 2.57 1.01 3.34 0.87
Hope(8~32点) 21.39 3.22 23.46 2.63
FSSB-J(14~70点) 46.61 13.17 49.31 12.56

UWES-J:日本語版Utrecht Work Engagement Scale,Hope:日本語版ホープ尺度,FSSB-J:日本語版Family Supportive Supervisor Behaviors

年収の有効回答数は量的研究n = 162,質的研究n = 9

先行研究に準じ,UWES-Jは平均得点(Shimazu et al., 2008),HopeおよびFSSB-Jは合計得点(加藤・Snyder,2005Eguchi et al., 2019)の平均値を算出した

2) ワーク・エンゲイジメントのプロセスモデルの検証

構造方程式モデルに投入する変数を選定するために行った重回帰分析の結果,UWES-Jと統計学的に有意な関連が示されたのは,FSSB-J得点(β = .227, p < .001),Hope得点(β = .227, p < .001),看護系付加資格の有無(β = .190, p = .002),進学の支援の有無(β = .131, p = .033)であった(Adj-R2 = .238).Hopeと統計学的に有意な関連が示されたのは,進学の支援の有無(β = .206, p = .002),看護系付加資格の有無(β = .187, p = .004),研究経験の有無(β = .157, p = .033),看護師経験年数(β = –.160, p = .046),FSSB-J得点(β = .136, p = .048)であった(Adj-R2 = .131).UWES-JおよびHope双方と有意な関連を示した変数を投入し,すべてのパスを想定した仮説モデルに対し構造方程式モデリングを用いて検証を行った(図2).モデルの適合度はχ2/df = 2.67,CFI = .953,GFI = .954,AGFI = .902,RMSEA = .086,p < .0001であったが,一部有意なパスが描けなかったため,有意な関連を示さなかった変数間の関係を削除し再度解析を行った.その結果,図3に示すとおり,FSSB-J得点,看護系付加資格の有無からUWES-J,Hope双方へのパス,進学の支援の有無からHopeへのパス,HopeからUWES-Jへのパスが立証され,最終モデルとした(χ2/df = 2.61, CFI = .949, GFI = .951, AGFI = .906, RMSEA = .084, p < .0001).

図2 

仮説モデルの検証結果

図3 

ワーク・エンゲイジメントプロセスモデルの最終モデル

いずれの解析においても,身近な男性看護師の存在に関する項目とHope,UWES-Jとの有意な関連は示さなかった.

2. 質的研究の結果

1) 対象者の属性(表1

研究参加者は13名で,年齢は40.8 ± 6.0歳,看護師経験年数は14.2 ± 6.7年,UWES-J得点は3.34 ± 0.87点であった.調査方法は電話1名,リモート12名であった.

2) 男性看護師がキャリアを形成していく過程での思考・経験

男性看護師のキャリア形成過程における思考や経験として,“支援体制が良かったので他の病院とかは考えたことがなかった.ここでキャリアアップを目指そうと思う”,“常に目標がないと頑張れないタイプで,なので何か資格をと思いました”,“スキルを身につけてやる方がビジョンも見えるし頑張ろうかなってきっかけにはなっている”など81の語りを得た.

3. 統合の結果

量的研究と質的研究を統合した結果を表2に示す.

表2 

プロセスモデルのパスを説明する対象者の語り


説明 具体的な語り
上司の支援をモデルとして捉える “(上司は)家と職場としっかり考えている.自分もそんな感じになりたいなと(管理職を目指した)”
支援により家族の協力を得やすくなる “(職場は)ワークライフバランスを整えてくれやすい面はある.家族もありがたく思っているし,実際それで(この組織でならと)進学も(家族に)認めてもらった”
支援の充実した組織でキャリアアップを目指す “(今の病院の家庭両立に対する)支援体制が良かったので他の病院とかは考えたことがなかった.ここでキャリアアップを目指そうと思う”
資格取得や進学が選択肢を広げる “大学院を卒業するまでにそういうの(キャリア形成の方向性)を決めようと思って進学を決めました”
資格を求めることが目標になる “常に(何かしらの)目標がないと頑張れないタイプで,なので何か資格をと思いました”
組織の支援があることでキャリアアップできる “経済的なものと,出張扱いにしてもらった.(そうした支援が)なければ認定看護師をとるのは難しかった”
支援がないとキャリアアップが困難だと思う “仕事で自分の時間が全て埋まっている状態なので自分のキャリアアップに時間を使う気持ちにはなっていない”
資格取得による新たな役割にやりがいを感じる “(資格取得によって)看護師が結構処置につけたりもするので,やりがいはあるかな”
目標を求めるモチベーションが活力になる “具体的な目標がないっていうのは自分のモチベーションにも関わること.そういう(目標に向かう)時ってのは仕事も身が入ります”
明確になった将来像が頑張る動機になる “(認定看護師などの)スキルを身につけてやる方がビジョンも見えるし頑張ろうかなってきっかけにはなっている”

UWES-J:日本語版Utrecht Work Engagement Scale,Hope:日本語版ホープ尺度,FSSB-J:日本語版Family Supportive Supervisor Behaviors

FSSB-JからUWES-Jへのパスを除く全ての変数間の関係について,各1〜3側面の語りで説明された.FSSB-JからHopeへのパスは,上司の支援をモデルとして捉える側面と,支援により家族の協力を得やすくなるという側面,ワーク・ライフ・バランスを重視し支援が充実した職場での勤務継続とキャリアアップを目指す側面の,3つの側面で説明された.そしてそれによりHopeを高め,すなわち目標を追求することや選択肢を広げるための学びがやりがいに繋がっており,HopeからUWES-Jへのパスを説明した.また,各変数間の因果関係を説明する語りとは別に,“男性である以上は出世じゃないですけど管理職を目指した方が,家族も養えるし金銭的な部分(が重要)ですよね”などの語りから,男性として収入や肩書を求めること,“自分の生活のこととか考えると多少の(収入の)ダウンはあっても子供のこと(一緒の時間)とかちゃんと考えられる働き方がいいですね”などの語りから,キャリア形成において家庭を優先することを考慮していた.各変数間の関係の根底にある思考として,男性看護師は男性という,職場や家庭内での役割意識を持ち,収入や肩書きを求める側面や家庭との両立を重視する側面を持つことが明らかになった.

Ⅳ. 考察

本研究の重要な知見は,1)男性看護師において,上司からの支援,進学の支援,看護系付加資格の所持があることでHopeを媒介しワーク・エンゲイジメントを高めるプロセスモデルが確認されたこと,2)男性看護師は,男性として仕事でのキャリアアップを望む考え方を持ちながら,キャリア形成に向けてワーク・ライフ・バランスも意識していたことである.これらの知見から,男性看護師の雇用の定着を図る上で,ワーク・ライフ・バランスを考慮しキャリアを形成するための支援を行う必要がある.以下に本研究で得られた知見を説明する.

1. 男性看護師のHopeを媒介変数としたワーク・エンゲイジメントモデル

本研究では,男性看護師は,上司の支援,進学の支援,看護系付加資格の所持がHopeを向上させ,さらにワーク・エンゲイジメントを高めていた.このプロセスモデルにおいて,HopeがFSSB-JとUWES-Jの関係における重要な媒介変数であった.LopezはHopeに不可欠な要素として,わくわくする将来の目標,目標を達成するための力(行為主体性)とリソース(経路)を持っているという信念,少なくとも1人の自分を応援してくれる思いやりのある人の存在の3つを挙げている(Lopez, 2013).本研究では,このHopeの要素に着目し,Hopeとワーク・エンゲイジメントの関連が明らかにされたことから,家族のサポートを得るための支援の一つとしてワーク・ライフ・バランスを維持するための上司の支援が重要であると推察する.さらに,Woodらのレビューによると,ワーク・ライフ・バランスに関するいくつかの指標とワーク・エンゲイジメントの関連や,その先行因子や媒介因子の探索が進められている(Wood et al., 2020).本研究によってHopeの媒介因子としての役割が示唆され,新たな知見としてこれらの関係を同定する一助になると考える.また本研究では,男性看護師のHopeと進学の支援,看護系付加資格の有無との関連が示された.LuthansはHopeと関連する要因として,目標達成のために必要とされる資源(組織の物的・心理的サポートやコミットメントなど)を挙げており(Luthans et al., 2015)これらの知見と一致した.一方,Hopeを従属変数とする重回帰分析の結果,自由度調整済みR2が0.131であったことから,潜在的に関連する要因を探索していく必要がある.また,本研究において身近な男性看護師の存在との関連は示されなかった.先行研究において男性看護師は同性の相談相手やロールモデルを必要としている(上杉ら,2015)が,本研究の質的研究で得た語りでは男女問わず上司を目標とし,家族を相談相手としていた.近年はSDGs(外務省,2015)における男女平等や,それに伴う多様性の推進(外務省,2023)により先行研究当時とは社会的風潮が異なり,新興感染症の影響で家族以外との接触が減少した点などの背景も含め,同性にこだわらない人間関係の形成が進められつつあると推考する.

2. ワーク・エンゲイジメントモデルを説明する結果の統合

統合の結果から,ワーク・エンゲイジメントモデルの各変数間の関係を補足する男性看護師の経験や思考が明らかになった.まず,本研究の対象者においては,男性としての職場や家庭内での役割意識が思考の背景にあり,収入や肩書きを向上させることへの意識を持つ一方で,「男性として」というジェンダーバイアスを持ちつつもワーク・ライフ・バランスを意識し,目標達成に向けて,家庭を考慮することや家族の理解が不可欠であると考えていることが示された.これらの結果の一部は量的研究では明らかになっていない点であるが,男性看護師のキャリア形成において質的研究で明らかになった重要な要素であり,今後はこれらの変数を含めたモデル開発を行う必要がある.本研究においてUWES-Jと FSSB-Jの関連を補足する語りは得られなかったが,ワーク・ライフ・バランスとワーク・エンゲイジメントの関係の解明が不十分な点(Wood et al., 2020)を考慮すると,これらの関係を説明するためには単一の調査では不十分であると推考される.本研究ではHopeを介した結果から,上司が1)家庭と仕事を両立してキャリアを積む姿を見せること,2)ワーク・ライフ・バランスを考慮した職場を構築すること,これら2つによって,男性看護師はその職場で家族の理解を得ながらキャリアを積むことを計画し,さらに組織の支援が加わることで,より目標への道筋を追求することができ,目標を持つことや目標の達成を通して仕事に対するポジティブな感情を抱いていたと考えられる.近年は共働き世帯が2002年から2022年の20年間で約300万世帯増加(総務省統計局,2022)しており,政府は男女共同参画社会基本法(内閣府,1999)に基づき作成された令和5年度男女共同参画白書(内閣府,2023)の柱の一つとして「男女共同参画の推進と仕事と生活の調和」を掲げ,夫婦が協働し家庭と仕事の両立を図るための施策を進めている.先行研究では管理者が男性看護師に求める役割の一つにライフイベントにより仕事を離れないこと(山口ら,2018)や男性看護師のワーク・ライフ・バランスの不充足(小島,2016)が挙げられており,男性看護師は「男性として」働き続けるという意識を自身も抱き組織からも抱かれつつ,家庭を考慮したキャリア形成を模索していることが示唆される.ジェンダーバイアスの是正や夫婦の共同がより求められる社会において,組織には男性看護師の意識を理解しつつも,「男性だから」と区別のないワーク・ライフ・バランスに配慮したキャリア支援が求められている.

3. 看護への示唆と今後の課題

本研究の結果から,男性看護師が働きながらキャリアアップを望める支援と,ワーク・ライフ・バランスに関する支援が同時に必要であると示唆された.具体的には,育児休業の普及に加えて休業中の進学などの許可および経済的支援,休業や勤務調整を求めやすい職場風土の構築,上司自身のワーク・ライフ・バランスに対する意識等が考えられ,今後さらなる検討が求められる.

4. 本研究の限界

本研究の限界として,WEB調査を試みたことで対象者の調査環境が整備されていなかった点や新興感染症により協力を得ることが難しかった点で応諾率が低いこと,対象者は関東甲信越地方に限定したこと,質的研究に参加した者は協力的でキャリア意識の高い集団である可能性が高いことなどから本研究の対象集団は偏りが生じたことが推察され,一般化は難しい.また,質的研究では男性看護師のキャリアを形成する過程の複雑性を鑑みて,プロセスモデルに基づく質問項目に焦点を当てずキャリアに着目して調査を行ったため,対象者の回答を誘導しない点,量的結果で確認されなかった因子を把握する点においてプラスであったが,変数間の関係を直接問う設問ではない点においてはマイナスであった.個人単位の場合,キャリアを形成する過程で個々のプロセスモデルが構築される可能性から,今後は現象学的なアプローチにて事象を捉える必要がある.

Ⅴ. 結論

本研究において,男性看護師は,ワーク・ライフ・バランスを維持するための上司の支援があること,進学の支援があること,看護系付加資格を持つことでHopeを向上させ,さらにワーク・エンゲイジメントを高めるプロセスモデルが確認された.このプロセスにおいて,男性看護師は仕事や家庭内での役割意識を持ち,家庭と仕事を両立しながらキャリア形成を目指す上で,ワーク・ライフ・バランスの支援と資格取得等に向けた職場の支援を必要としていた.

付記:本論文の内容の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.本研究は,東京医療保健大学大学院医療保健学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本調査にご協力くださった病院の看護管理者様および男性看護師の皆様に心より感謝申し上げます.また,本研究の一連の過程で細部にわたりご助言いただき,多大なる貢献をいただいた先生方に対して深謝の意を表します.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:笠原邑斗は,研究デザイン,データ収集,データ分析,結果の解釈,原稿執筆を担当した.菅野雄介は,研究プロセス全体への助言,データ分析を行い,原稿に加筆・修正を加えた.松尾まき,廣島麻揚は,研究プロセス全体への助言,データ分析および原稿への示唆を行った.白濵伴子,瀧澤美奈は,研究プロセス全体への助言,データ分析を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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