日本看護科学会誌
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原著
縦断調査による妊娠初期,中期,後期の睡眠障害と自律神経活動との関連
渡邊 美奈子篠原 ひとみ
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2023 年 43 巻 p. 509-519

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Abstract

目的:妊婦の主観的・客観的睡眠指標を経時的に測定し妊娠経過に伴う睡眠障害と自律神経活動の関係を明らかにする.

方法:初期,中期,後期に主観的睡眠指標(PSQI-J, JESS),Silmee Bar type Liteを用い客観的睡眠指標と自律神経活動を測定した.

結果:37名を分析対象とした.PSQI-J得点(高いほど自覚的睡眠の質が悪い)は初期より中期で有意に低かった.自律神経活動では,初期にHF平均(高いほど副交感神経活動優位)は有意に高く,LF平均/HF平均(高いほど交感神経活動優位)は有意に低かった.相関分析の結果,後期にPSQI-J得点とHF平均との間に負の相関,LF平均/HF平均との間に正の相関,JESS得点(高いほど日中の過度な眠気が強い)とHF平均との間に負の相関,LF平均/HF平均との間に正の相関を認めた.

結論:妊婦の睡眠障害の一因に自律神経活動が関係している可能性がある.

Translated Abstract

Objective: To conduct serial measurement of subjective and objective sleep indices in pregnant women to determine the relationship between autonomic nervous system activity and sleep disturbances over the course of pregnancy.

Method: Subjective sleep indices (Pittsburgh Sleep Quality Index [PSQI-J], Epworth Sleepiness Scale [JESS]), objective sleep indices, and autonomic nervous activity were measured in pregnant women using a Silmee Bar type Lite biosensor in each of early, middle, and late pregnancy. Overnight mean values of high-frequency (HF) as a measure of parasympathetic activity and overnight mean values of low-frequency (LF)/HF ratio as a measure of sympathetic activity were used in the analysis.

Results: Thirty-seven patients were included in the analysis. PSQI-J scores were significantly lower in the middle period than in the early periods. Regarding autonomic activity, mean HF was significantly higher in the early period and mean LF/mean HF was significantly lower in the early period. In the late period, positive correlations were found between PSQI-J score and mean LF/mean HF, as well as between JESS score and mean LF/mean HF, and negative correlations were found between PSQI-J score and mean HF, as well as between JESS score and mean HF.

Conclusion: The present findings suggest that autonomic nervous system activity may be a contributing factor to sleep disturbances in pregnant women.

Ⅰ. 緒言

妊娠は女性にとって大きなライフイベントのひとつであり,身体的側面,精神的側面の双方に大きな変化を与える.妊娠週数が進むにつれて,子宮の増大や体重増加,ホルモン環境などの生理的変化,分娩や出産後への不安といった精神的変化により,さまざまな心身の不調が生じる.なかでも睡眠に関しては「過眠」「入眠困難感」「熟眠困難感」など妊婦の睡眠障害の訴えは高率である(渋井,2005新川ら,2009Sedov et al., 2018).妊婦の睡眠障害は,心身へのストレスにとどまらず母児双方の健康に影響を与える.睡眠障害を抱える妊婦では,糖尿病や高血圧(Reutrakul et al., 2011Herring et al., 2014Shimada et al., 2016),産後うつ病の発症(Wu et al., 2014Tsai et al., 2016),分娩異常や帝王切開率の上昇(Zafarghandi et al., 2012Hung et al., 2014Lee & Gay, 2004),早産率の上昇を認めたという報告(Okun et al., 2011)がある.また,胎児の発育不全や聴覚認知機能への悪影響(Abeysena et al., 2010Liu et al., 2019Lavonius et al., 2020),乳児の睡眠覚醒リズムの遅延も示唆されている(早瀬ら,2008).妊婦の良好な睡眠はQOLの向上だけでなく,合併症予防と児の正常な発育発達において極めて重要である.妊娠週数が進むことで生じる身体的・精神的変化に伴い,妊婦が抱える睡眠障害は妊娠の各時期で異なった様相を示すと言われている(江藤,2012).しかし,妊娠期を通した睡眠の変化は,これまで妊娠時期毎に異なる妊婦を対象とした横断調査や質問紙調査による主観的評価しか行われておらず,同一妊婦を対象にした妊娠各期の変化は明らかにされていない.

睡眠には,急速眼球運動が出現する“REM睡眠”と深睡眠と呼ばれる徐波睡眠を含む“Non-REM睡眠(以下,NREM睡眠と表す)”の2種類があり,通常約90分周期で繰り返される.REM睡眠では主に身体の休息を,NREM睡眠では脳の休息を司ると言われており,良質な睡眠のためには睡眠時間の確保だけでなく,適切な睡眠深度と周期を繰り返すことも重要である(福田ら,2005).睡眠深度に深く関わっている生理機能として自律神経活動がある.通常,REM睡眠中に交感神経活動が一旦増加し,NREM睡眠が深まるにつれて副交感神経活動が優位となる.睡眠深度に伴い自律神経活動は変化するが,逆に自律神経活動の変化が睡眠に影響を与えている可能性も示唆されている(清水,2021).一般成人を対象とした調査において,入眠困難や不眠症などの睡眠障害がある者では入眠前後や睡眠中の副交感神経活動が低下していたことが報告されている(Nano et al., 2019Takahara et al., 2008).妊婦の自律神経活動は,全妊娠期において非妊女性よりも低いこと,副交感神経活動は妊娠経過とともに徐々に低下することが報告されており(Speranza et al., 1998Voss et al., 2000Kuo et al., 2000),妊娠により生じる自律神経活動の変化は,妊婦の睡眠障害の一因になっている可能性がある.しかし,妊婦の自律神経活動に関する報告は覚醒時の調査のみであり,睡眠中の自律神経活動は調査されておらず睡眠障害との関連は明らかでない.

妊婦の睡眠障害は,母児双方への悪影響が認められているにもかかわらず,妊娠による生理的変化の中で通常起こりうるものとして位置づけられている.特に正常妊婦の睡眠障害は単なるマイナートラブルと捉えられることが多く,妊婦が睡眠障害を訴えても,休息時間の確保やリラクセーション法など(我部山ら,2021)の一般成人を対象とした改善策の提案をするにとどまっている現状がある.また,妊娠経過に伴い,日中の眠気や不眠など症状が変化する実態は十分には明らかでなく,妊娠経過にあわせた睡眠障害への具体策は講じられていない.本研究では,妊婦の睡眠中の自律神経活動を含む睡眠指標データを妊娠初期・中期・後期の3時点で測定し,妊娠経過に伴う睡眠障害の変化,および睡眠障害と自律神経活動との関係を明らかにすることを目的とした.妊娠時期毎の睡眠障害とその時期の自律神経活動との関係が明らかになれば,自律神経活動の調整方法を提案することで睡眠障害改善の一助になる可能性がある.

Ⅱ. 用語の定義

睡眠障害とは,睡眠の量・質あるいはタイミング(時間的調節の障害)の異常と睡眠に関連する行動の異常の総称である(高橋,2019).本研究における用語の定義を以下の通りとする.

【睡眠障害】入眠困難,睡眠時間の短縮,中途覚醒の増加,熟眠感のなさ,日中の過度な眠気を含む,睡眠に不具合が生じている状態.

Ⅲ. 研究方法

1. 調査対象および調査期間

A県内の産婦人科医院に定期的に妊婦健康診査に受診している妊娠初期(16週未満)の正常妊婦を対象とした.妊娠初期の段階で,高血圧や糖尿病等の内科的合併症および精神疾患を有する妊婦,今後の妊娠経過において合併症発症リスクの高い非妊時BMI 30以上の妊婦は除外した.協力施設スタッフに依頼し,基準を満たす妊婦の受診日をリストアップしていただき,その日時に合わせて研究者が施設に伺い研究協力依頼を行った.また,使用機器のSilmee Bar type Liteは専用ゲルパッドを使って胸部に貼付するため,協力依頼の際に,アトピー性皮膚炎や金属アレルギーなどの皮膚疾患の有無,皮膚トラブルを生じやすい体質の有無を確認し,そのような体質を有する妊婦は除外した.調査は2017年7月から2019年3月に行った.

2. 調査の時期と内容

1人の妊婦につき,妊娠初期(16週未満),中期(24~27週),後期(34~37週)の3時点において以下のデータ収集を行った.

1) 基本情報質問紙

調査時の妊娠週数,体重および血圧,妊娠分娩歴,内服薬の有無,喫煙の有無,飲酒の有無,就労および夜勤の有無,運動習慣の有無,昼寝習慣の有無について問う自作の質問紙を用いた.体重と血圧は,調査時直近の妊婦健康診査の値を,母子健康手帳を見て記入するよう依頼した.

2) 主観的睡眠指標

(1) ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(The Japanese version of the Pittsburgh Sleep Quality Index,以下PSQI-Jと表す)

Buysse et al.(1989)により作成され,Doi et al.(2000)により日本語版が作成された.睡眠に関する標準化された18項目からなる自記式質問紙であり,下位項目は【睡眠の質】【入眠時間】【睡眠時間】【睡眠効率】【睡眠困難】【眠剤の使用】【日中覚醒困難】で構成されている.5.5点をカットオフ値とし,得点が高いほど睡眠の質が悪いと判断される.本質問紙の使用にあたり,作成者である土井氏より承諾を受けた(2017年11月以降,承諾不要となっている.).

(2) 日本語版エプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale,以下JESSと表す)

Johns(1991)により作成され,Takegami et al.(2009)により日本語版が作成された.日中の眠気に関する8項目からなる自記式尺度である.11点をカットオフ値とし,得点が高いほど日中の眠気が強いと判断される.JESSの登録受理・配布に関する業務を独占的に行う機関として,版権者から認められているQualitest株式会社ホームページからダウンロードしたものを使用した.

3) 自律神経活動

TDK株式会社から販売されている製品「Silmee Bar type Lite」を測定に用いた.幅6 mm,奥行2 mm,厚さ9 mm,重さ14.0 gの小型機器を,専用ゲルパッドにより胸部に貼付することで生体情報を測定する(図1).心電位,脈波を測定することで,心拍変動,脈波間隔を自動抽出する.心拍変動解析をもとに自律神経活動指標として高周波成分(High-Frequency: HF)と低周波成分(Low-Frequency: LF)を自動算出する.Silmee Bar type Liteを用いて心拍変動解析(以下,HRVと表す)を行い,ホルター心電図を用いたHRVに対する非劣性試験を行った報告(住友・長谷部,2017)によると,両者の心拍検知率は全データでは94%台,ノイズによるSilmee Bar type Liteの外れ値を除外すると心拍検知率は99%であり,Silmee Bar type Liteはホルター心電図と同じ脈を検出していた.Silmee Bar type Liteで求められたLFはホルター心電図の約1.5倍,HFは約2倍の値を示したが,これは解析ソフトが異なることで生じたものである.1時間毎のホルター心電図とSilmee Bar type LiteのHFの相関係数は0.8,LF/HF比の相関係数は0.7であり,良い相関を示した.

図1 

Silmee Bar type Lite(TDK株式会社)

4) 客観的睡眠指標

上述したSilmee Bar type Liteにより測定した.この機器は加速度データを用いCole et al.(1992)の手法に準拠し睡眠,覚醒を判定しており,アクチグラフとの相関係数は0.9と良い相関を示している.睡眠と判定された時間内で,HRVをもとにしたアルゴリズムを用い,睡眠深度を覚醒・S睡眠(REM睡眠に相当)・PS浅睡眠(第1~2段階のNREM睡眠に相当)・PS深睡眠(第3~4段階のNREM睡眠に相当)の4段階で判定する.TDK社によると,睡眠段階の評価について,Silmee Bar type Liteに搭載されているソフトウェアと同じアルゴリズムで解析を行っているデバイスとポリソムノグラフィーとの一致率を検証した調査では,ポリソムノグラフィーの睡眠段階の移動平均の相関係数は0.7であり,良い相関を示したことが報告されている(Suzuki et al., 2009).

本研究では以下の測定項目を分析に用いた.①入眠潜時:入床から入眠までの時間(分),②中途覚醒時間:入眠してから起床するまでの間に覚醒した時間の総合(分),③総睡眠時間:入眠から覚醒までの時間から中途覚醒時間を除いた時間(分),④睡眠効率:総睡眠時間/入眠から覚醒までの時間(%),⑤PS深睡眠時間:NREM睡眠のうち深睡眠と判断された時間(分),⑥S睡眠時間:REM睡眠と判断された時間(分),⑦HF一晩分の平均(以下,HF平均と表す):副交感神経活動の指標として用いる,⑧LFの一晩分の平均/HFの一晩分の平均(以下,LF平均/HF平均と表す):高値であれば交感神経活動亢進として捉える(丹羽・栗山,2021),⑨LF/HFのリズム性:90分前後の睡眠周期に対するLF/HF成分の増減との一致の度合い.自律神経活動の値は個人差が大きいため,対数変換した値を分析に用いた.

3. データ収集方法

対象施設の院長の許可を得た後,待合室で,妊娠16週未満の妊娠初期(以下,初期と表す)の妊婦に対し診察の待ち時間に研究内容の説明と協力依頼を行った.同意の得られた妊婦に対し調査を依頼し使用機器の詳細な説明を行った.機器を数日間貸し出し,体調の良い日を選んで連続2晩,就寝前から翌日起床まで装着してもらった.妊婦が夜勤のある職業に従事している場合は自宅で連続2晩夜間睡眠を取れる日に装着するよう説明した.Silmee Bar type Liteおよび各質問紙は,測定および回答後,事前に渡しておいた返信用封筒に入れ返送してもらった.妊娠24週~27週(以下,中期と表す),妊娠34週~37週(以下,後期と表す)は,測定時期に研究者が対象者宅へSilmee Bar type Liteおよび各質問紙を郵送し,妊娠初期と同様に測定および回答後,返送するよう説明した.

4. 分析方法

収集できたSilmee Bar type Liteの2晩のデータのうち,研究者間でデータを確認し,総睡眠時間が長い方のデータが睡眠指標として適正と判断し分析に用いた.すべての項目についてShapiro-Wilk検定による正規性の検定を行った.妊娠時期毎の比較について,正規分布に従う項目は反復測定一元配置分散分析,その後の下位検定はTukey法を用いた.正規分布に従わない項目はFriedman検定,その後の下位検定はBonferroni法を用いた.妊娠時期毎の相関分析は,正規分布に従う項目はPearsonの積率相関係数,正規分布に従わない項目はSpearmanの順位相関係数を求めた.統計解析は統計パッケージSPSS Statistics 21を用いて行った.危険率5%未満をもって有意と判定した.

5. 倫理的配慮

日本赤十字秋田看護大学・日本赤十字秋田短期大学研究倫理審査委員会にて承認を得て実施した(承認番号29-007).対象施設の院長の許可を得た後,初期の妊婦を対象に,研究の趣旨と目的,方法について説明を行った.研究への参加は自由意思であること,参加拒否や途中辞退による不利益を受けないこと,プライバシー保護,研究結果の公表について文書と口頭で説明した.本研究で使用するSilmee Bar type Liteは専用ゲルパッドを胸部に貼付する必要があることから,異常を感じた場合はすぐに装着を中止し,研究者に連絡をしてもらうことを説明した.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の概要(表1

56名から研究協力の同意を得た.そのうち,妊娠期間中に切迫早産にて入院した者5名と引っ越し等の環境変化を理由に途中辞退した者2名が除外された.49名から3時点すべての調査の協力が得られたが,3時点のうちいずれかにおいて機器の外れによるデータの欠損があった者12名を分析から除外した.最終的に妊娠各期3時点すべてのデータがそろった37名を分析対象とした.

表1 

対象者の概要 N = 37

項目
年齢(歳):mean ± SD(範囲) 30 ± 0.7(23~40)
分娩歴(名):n(%)
初産婦 15名(48.5%)
経産婦 22名(59.5%)
就業の有無(名):n(%)
20名(54.1%)
17名(45.9%)
非妊時BMI(kg/m2):n(%)
18.5未満 4名(10.8%)
18.5以上25.0未満 28名(75.6%)
25.0以上30.0未満 5名(13.5%)
妊娠初期 妊娠中期 妊娠後期
調査時の妊娠週数:mean ± SD 12 ± 1.7 25 ± 1.2 35 ± 0.9
体重増加量(kg):mean ± SD –0.1 ± 0.2 3.7 ± 0.4 6.6 ± 0.5
入床時刻:mean 22時48分 22時42分 22時42分
起床時刻:mean 6時24分 6時30分 6時24分
PSQI-J得点:5.5点以上 n(%) 20名(54.0%) 12名(32.4%) 23名(62.1%)
JESS得点:11点以上 n(%) 21名(56.7%) 18名(48.6%) 17名(45.9%)

対象者の概要を表1に示す.平均年齢は30 ± 0.7歳,初産婦が15名(48.5%),就業している妊婦は20名(54.1%)であった.夜勤の交代制勤務に従事している妊婦は初期に4名,中期に3名いた.喫煙やアルコール摂取がある妊婦はいなかった.非妊時のBMIは,やせ(18.5未満)4名(10.8%),ふつう(18.5以上25.0未満)28名(75.6%),肥満1度(25.0以上30.0未満)5名(13.5%)であった.調査時の妊娠週数の平均値±標準偏差は,初期12 ± 1.7週,中期25 ± 1.2週,後期35 ± 0.9週であった.自覚的な睡眠の質が悪いと判断されるPSQI-J得点5.5点以上の妊婦は,初期20名(54.0%),中期12名(32.4%),後期23名(62.1%)であった.日中の過度な眠気有りと判断されるJESS得点11点以上の妊婦は,初期21名(56.7%),中期18名(48.6%),後期17名(45.9%)であった.

2. 妊娠各期の主観的睡眠指標,客観的睡眠指標と自律神経活動の変化(表23

妊娠各期のPSQI-J得点とその下位項目得点についてFriedman検定,JESS得点およびSilmee Bar type Liteによる客観的睡眠指標と自律神経活動の変化について反復測定一元配置分散分析を行い,有意差のあった項目について多重比較を行った.その結果,PSQI-J得点は有意差を認めた(χ2 = 8.588, p = .014).多重比較の結果,中央値が初期6点,中期5点であり,初期と比べ中期に有意に得点が低かった(p < .05).PSQI-J下位項目は,【眠剤の使用】のある妊婦がいなかったため分析項目から除外した.分析の結果,【睡眠時間】(χ2 = 16.381, p < .01),【日中覚醒困難】(χ2 = 19.465, p < .01)に有意差を認めた.多重比較の結果,【睡眠時間】は,中央値が中期0点,後期1点であり,中期と比べ後期に有意に得点が高く(p < .01),【日中覚醒困難】は,中央値は各期1点であったが,初期が中期(p < .05),後期(p < .01)と比べて有意に得点が高かった.JESS得点は有意差がなかった(表2).

表2 

妊娠各期の主観的睡眠指標の変化 N = 37

初期 中期 後期 χ2値/F値 P 多重比較
PSQI-J 6[1–12] 5[1–11] 6[2–15] 8.588 .014 初期>中期
【睡眠の質】 1[0–2] 1[0–2] 1[0–3] 2.147 .342
【入眠時間】 1[0–3] 1[0–3] 2[0–3] 4.651 .098
【睡眠時間】 1[0–2] 0[0–2] 1[0–2] 16.381 <.01 後期>中期††
【睡眠効率】 0[0–2] 0[0–3] 0[0–3] 4.993 .066
【睡眠困難】 1[0–2] 1[0–2] 1[0–2] 1.600 .449
【日中覚醒困難】 1[0–3] 1[0–3] 1[0–2] 19.465 <.01 初期>中期,初期>後期††
JESS 11.5 ± 0.6 10.2 ± 0.8 10.5 ± 0.7 2.735 .072

PSQI-J:中央値[最小値-最大値],JESS:平均値±標準偏差

PSQI-J:Friedman検定による有意確率,多重比較はBonferroni法 p < .05,††p < .01

JESS:反復測定一元配置分散分析による有意確率

表3 

妊娠各期の客観的睡眠指標と自律神経活動の変化 N = 37

初期 中期 後期 F値 P 多重比較
入眠潜時(分) 11.0 ± 6.8 16.7 ± 15.6 14.5 ± 15.9 2.509 .102
総睡眠時間(分) 420.0 ± 63.5 420.9 ± 74.5 422.0 ± 67.0 .016 .984
中途覚醒時間(分) 25.5 ± 24.0 25.2 ± 29.3 27.2 ± 21.8 .275 .760
睡眠効率(%) 0.94 ± 0.05 0.94 ± 0.05 0.93 ± 0.04 .272 .763
PS深睡眠時間(分) 74.7 ± 28.1 73.2 ± 32.6 75.2 ± 22.9 .085 .919
S睡眠時間(分) 72.5 ± 35.2 70.2 ± 27.6 76.4 ± 32.7 .437 .647
HF平均 3.03 ± 0.39 2.71 ± 0.33 2.59 ± 0.39 39.794 <.001 初期>中期** ,初期>後期**
LF平均/HF平均 1.05 ± 0.12 1.11 ± 0.10 1.18 ± 0.15 26.841 <.001 初期<中期** ,初期<後期** ,中期<後期**
LF/HFのリズム性 33.5 ± 9.2 34.9 ± 10.2 34.8 ± 9.1 .262 .770

平均値±SD

反復測定一元配置分散分析による有意確率,多重比較はTukey法 *:p < .05,**:p < .01

Silmee Bar type Liteによる客観的睡眠指標は妊娠各期で有意差はなかった.自律神経活動では副交感神経活動の指標であるHF平均(F = 39.794, p < .001),交感神経活動の指標であるLF平均/HF平均(F = 26.841, p < .001)に有意差を認めた.多重比較の結果,HF平均は,平均値±標準偏差が初期3.03 ± 0.39,中期2.71 ± 0.33,後期2.59 ± 0.39であり,初期に比べ中期(p < .001),後期(p < .001)の値が有意に低かった.LF平均/HF平均は,平均値±標準偏差が初期1.05 ± 0.12,中期1.11 ± 0.10,後期1.18 ± 0.15であり,初期と比べ中期(p = .003),後期(p < .001)の値が有意に高かった.また,中期と後期との間にも有意差を認め(p < .001),後期が最も高く,次いで中期,初期であった(表3).

3. 妊娠各期の主観的睡眠指標,客観的睡眠指標と自律神経活動との関連(表4

妊娠各期で,主観的睡眠指標と客観的睡眠指標および自律神経活動との相関分析を行った.客観的睡眠指標と自律神経活動間は,同一機器による評価が含まれることから分析から除外した.ただし,“総睡眠時間”は活動量計による評価であること,“LF/HFのリズム性”は交感神経活動の動きと睡眠周期との一致率をみていることから分析に加えた.

表4 

妊娠各期の主観的睡眠指標,客観的睡眠指標と自律神経活動との関連 N = 37

主観的睡眠指標 客観的睡眠指標 自律神経活動
PSQI-J合計点 【睡眠の質】 【入眠時間】 【睡眠時間】 【睡眠効率】 【睡眠困難】 【日中覚醒困難】 JESS 総睡眠時間 LF/HFのリズム性
客観的睡眠指標 入眠潜時 初期 rs = .287 rs = .419* rs = .002 rs = .091 rs = .477** rs = –.346* rs = .419* rs = .352* rs = .049 rs = –.077
中期 rs = .217 rs = .006 rs = .241 rs = .067 rs = .129 rs = .140 rs = –.182 rs = .402* rs = –.228 rs = –.157
後期 rs = .253 rs = .139 rs = –.011 rs = .254 rs = .233 rs = .144 rs = .093 rs = –.022 rs = –.044 rs = .140
総睡眠時間 初期 r = .179 rs = –.027 rs = .215 rs = .098 rs = .469** rs = .002 rs = –.128 rs = –.218 rs = .038
中期 rs = .053 rs = –.040 rs = .363* rs = –.320 rs = .079 rs = .035 rs = –.070 r = –.153 rs = .232
後期 rs = .274 rs = .490** rs = .237 rs = –.269 rs = .289 rs = .222 rs = .169 r = –.088 rs = –.073
中途覚醒時間 初期 rs = .063 rs = .087 rs = .129 rs = –.379* rs = –.181 rs = .282 rs = .216 rs = –.084 rs = –.024 rs = .294
中期 rs = .112 rs = .306 rs = .342* rs = –.293 rs = –.156 rs = .179 rs = –.203 rs = .181 rs = –.078 rs = .070
後期 rs = .325 rs = .101 rs = .232 rs = .211 rs = .323 rs = .269 rs = .152 rs = .010 rs = .052 rs = .041
睡眠効率 初期 rs = –.060 rs = –.073 rs = –.117 rs = .357* rs = .233 rs = .–.272 rs = –.239 rs = .062 rs = .171 rs = –.266
中期 rs = –.093 rs = –.300 rs = –.245 rs = .213 rs = .170 rs = –.170 rs = .176 rs = –.211 rs = .270 rs = –.005
後期 rs = –.289 rs = –.033 rs = –.192 rs = –.245 rs = –.257 rs = –.260 rs = –.154 rs = –.054 rs = .104 rs = –.040
PS深睡眠時間 初期 r = –.027 rs = .081 rs = .162 rs = .060 rs = .206 rs = –.020 rs = –.254 rs = –.169 rs = .322 rs = –.080
中期 rs = .231 rs = .033 rs = .245 rs = –.045 rs = .336* rs = –.075 rs = .060 r = –.340* rs = .280 rs = .118
後期 rs = –.201 rs = –.091 rs = –.178 rs = –.121 rs = .185 rs = –.183 rs = –.331* r = –.214 rs = .254 rs = .265
S睡眠時間 初期 r = .073 rs = –.202 rs = .170 rs = –.005 rs = .138 rs = –.205 rs = .016 rs = –.072 r = .511** rs = .133
中期 rs = .027 rs = .090 rs = .209 rs = –.096 rs = .243 rs = .072 rs = –.220 r = –.219 r = .588** rs = .234
後期 rs = –.098 rs = .287 rs = –.028 rs = –.377* rs = –.174 rs = .288 rs = .052 r = .172 r = .377* rs = –.149
自律神経活動 HF平均 初期 rs = .279 rs = .290 rs = .255 rs = .164 rs = .064 rs = .258 rs = –.024 rs = –.252 rs = .318 rs = .361*
中期 rs = .114 rs = –.033 rs = .185 rs = .261 rs = .408* rs = –.085 rs = –.237 rs = –.179 rs = –.047 rs = –.185
後期 rs = –.325* rs = –.120 rs = –.212 rs = –.446** rs = .014 rs = –.178 rs = –.259 rs = –.333* rs = .100 rs = –.033
LF平均/HF平均 初期 rs = –.053 rs = –.086 rs = .067 rs = –.310 rs = .153 rs = –.152 rs = .150 rs = .208 rs = –.137 rs = –.252
中期 rs = .079 rs = .155 rs = .071 rs = –.322 rs = –.285 rs = .293 rs = .305 rs = .226 rs = .052 rs = .111
後期 rs = .435** rs = .220 rs = .390* rs = .378* rs = .032 rs = .192 rs = .382* rs = .347* rs = –.011 rs = –.079
LF/HFのリズム性 初期 rs = .025 rs = –.068 rs = .020 rs = .028 rs = –.234 rs = .330 rs = –.058 rs = –.203 rs = .038
中期 rs = –.278 rs = –.031 rs = –.166 rs = –.139 rs = –.302 rs = .025 rs = –.043 r = –.421** rs = .232
後期 rs = –.004 rs = –.125 rs = .023 rs = .125 rs = –.011 rs = –.077 rs = –.039 r = –.291 rs = –.073

r:Pearsonの積率相関係数,rs:Spearmanの順位相関係数 *:p < .05,**:p < .01

主観的睡眠指標と客観的睡眠指標の相関分析の結果,初期において,PSQI-J下位項目の4項目と入眠潜時との間に有意な相関関係を認め,【睡眠の質】との間に正の相関(rs = .419, p = .010),【睡眠効率】との間に正の相関(rs = .477, p = .003),【睡眠困難】との間に負の相関(rs = –.346, p = .036),【日中覚醒困難】との間に正の相関(rs = .419, p = .010)を認めた.また,JESSと入眠潜時との間に正の相関(rs = .352, p = .033)を認めた.PSQI-J下位項目【睡眠効率】と総睡眠時間との間に正の相関(rs = .469, p = .003)を認めた.PSQI-J下位項目【睡眠時間】と中途覚醒時間との間に負の相関(rs = –.379, p = .021),睡眠効率との間に正の相関(rs = .357, p = .030)を認めた.中期において,PSQI-J下位項目【入眠時間】と総睡眠時間との間に正の相関(rs = .363, p = .027),中途覚醒時間との間に正の相関(rs = .342, p = .038)を認めた.PSQI-J下位項目【睡眠効率】とPS深睡眠時間との間に正の相関を認めた(rs = .336, p = .042).JESSと入眠潜時との間に正の相関(rs = .402, p = .014),PS深睡眠時間との間に負の相関(r = –.340, p = .039)を認めた.後期において,PSQI-J下位項目【睡眠の質】と総睡眠時間との間に正の相関(rs = .490, p = .002)を認めた.PSQI-J下位項目【睡眠時間】とS睡眠時間との間に負の相関を認めた(rs = –.377, p = .021).PSQI-J下位項目【日中覚醒困難】とPS深睡眠時間との間に負の相関(rs = –.331, p = .046)を認めた.

客観的睡眠指標間では,総睡眠時間とS睡眠時間との間に,初期(r = .511, p = .001),中期(r = .588, p < .001),後期(r = .377, p = .021)すべての時期において正の相関を認めた.自律神経活動間では,初期に,LF/HFのリズム性とHF平均との間に正の相関を認めた(r = .361, p = .028).

主観的睡眠指標と自律神経活動間では,中期において,PSQI-J下位項目【睡眠効率】と副交感神経活動の指標であるHF平均との間に正の相関を認めた(rs = .408, p = .012).また,JESSとLF/HFのリズム性との間に負の相関を認めた(r = –.421, p = .009).後期において,PSQI-J得点と副交感神経活動の指標であるHF平均との間に負の相関(rs = –.325, p = .049),交感神経活動の指標であるLF平均/HF平均との間に正の相関(rs = .435, p = .007)を認めた.PSQI-J下位項目【睡眠時間】とHF平均との間に負の相関を認めた(rs = –.446, p = .006).PSQI-J下位項目3項目とLF平均/HF平均との間に有意な相関関係を認め,【入眠時間】との間に正の相関(rs = .390, p = .017),【睡眠時間】との間に正の相関(rs = .378, p = .021),【日中覚醒困難】との間に正の相関(rs = .382, p = .020)を認めた.また,JESS得点は,HF平均との間に負の相関(rs = –.333, p = .044),LF平均/HF平均との間に正の相関(rs = .347, p = .035)を認めた.

Ⅴ. 考察

1. 妊娠各期での自覚的睡眠障害の割合と変化

自覚的な睡眠の質が悪いとされるPSQI-J 5.5点以上の妊婦は初期5割,中期3割,後期6割存在し,日中の過度な眠気を有するJESS 11点以上の妊婦はすべての時期に約5割存在した.日本人の妊婦を対象とした調査によると,PSQI-J得点5.5点以上は34~62%,JESS得点11点以上は5~49%と報告されている(Nakagome et al., 2014渡辺ら,2015植松ら,2016Umeno et al., 2020Watanabe et al., 2020).妊婦の睡眠を縦断調査した報告は少なく,カットオフ値5.5点を超える妊婦の割合や妊娠経過に伴う睡眠の変化は先行文献によって違いが大きい.その原因として,一般成人において睡眠に影響を与えるといわれる加齢や肥満(三島,2021篠邉ら,2021)による差が考えられたが,先行文献の対象者は平均年齢が30歳代前半で,年齢による違いはなかった.また,肥満は閉塞性睡眠時無呼吸のリスク因子の一つであり,夜間睡眠中に無呼吸を繰り返すことで結果として睡眠の質の低下を招く(篠邉ら,2021).しかしながら,正常妊婦が睡眠時無呼吸を有するのは稀である(Watanabe et al., 2020)ことや先行文献が正常妊婦を対象とした調査であり肥満妊婦の割合は多くないことから,肥満度の差により生じた違いではないと考えられる.調査内容を比較すると質問紙だけの横断調査(Nakagome et al., 2014渡辺ら,2015植松ら,2016)よりも,客観的指標を活用した調査(Umeno et al., 2020Watanabe et al., 2020)の方がPSQI-J 5.5点以上や,JESS 11点以上の割合が高い傾向にあった.調査内容に客観的指標を含むことで,睡眠に問題を感じる対象者の協力が多くなり,自覚的睡眠障害を有する割合に差が生じた可能性が考えられた.

同一妊婦を対象とした本研究では,PSQI-J得点は初期から中期に一旦低下したが,JESS得点は時期による差はなかった.また,PSQI-J下位項目では【日中覚醒困難】は初期に得点が高く,【睡眠時間】は後期に得点が高かった.妊娠初期の睡眠は過眠傾向であり,その原因はプロゲステロンの催眠作用,深部体温上昇作用が関連していると考えられている(渋井,2005).中期は内分泌環境の変化に慣れ,子宮増大による身体への負担は軽く,安定期に入ることで流産の不安も軽減する時期である.また,本研究では中期の測定時期を24~27週と比較的早い段階に設定したため,子宮の増大や胎動による影響がまだそれほど強くなかったことも中期に一旦睡眠が改善した一因であると考えられる.後期は子宮の増大,収縮や胎動による違和感,頻尿,腰背部痛などによる中途覚醒,分娩への不安などにより不眠傾向となる(渋井,2005江藤,2012Silvestri & Arico, 2019).本研究においても先行研究と同様の結果であり,妊婦の睡眠障害は妊娠経過に伴い障害の内容が変化することが示された.一方で,半数の者は妊娠期を通して日中に過度な眠気があることが示された.眠気対策としてカフェイン摂取や光刺激,眠気評価結果のフィードバックの有効性が報告されている(阿部,2021).妊婦の場合,カフェイン摂取は勧められないが,光刺激の促しや眠気評価結果のフィードバックは実現可能であると考える.しかし,妊婦健診毎に妊婦全例にJESSを導入することは難しいと思われる.問診の中で眠気の有無を確認する時間を持ち,妊婦自らが睡眠や日常生活行動を振り返り,日中の光刺激を含めた睡眠の改善策を看護者とともに考えることで睡眠改善につながると考える.

2. 妊娠各期の客観的睡眠指標と自律神経活動の変化

筆者らは主観的睡眠指標の結果から,客観的睡眠指標も同様に妊娠各時期で異なった様相を示すと予想していたが,妊娠各時期間で有意差は認めなかった.妊婦の睡眠は性ホルモンやメラトニン,コルチゾールなどの分泌や妊娠経過に伴う身体的・精神的変化に影響されるため,妊娠期の時期により異なる様相を示すといわれている.実際,妊婦に終夜睡眠ポリグラフを実施した調査では,初期・中期よりも後期では中途覚醒が多く睡眠効率が低いこと,REM睡眠および深睡眠の割合が低かったとの報告(堀内ら,1990)があるが,対象者が各時期3~4例であり横断調査であったこと,また測定機器の違いから本研究結果と単純に比較することはできないと考える.本研究では,主観的睡眠指標と客観的睡眠指標を用いて妊娠各期を縦断的に調査した結果,主観的睡眠指標は変化するが,睡眠時間の実測値や入眠潜時など客観的な睡眠指標は大きく変化しないと考えられた.

一方,自律神経活動の変化では,妊娠時期が進むにつれて,HF平均は徐々に低下し,LF平均/HF平均は徐々に増加した.覚醒時の妊婦のHFは妊娠初期が最も高く妊娠経過とともに低下し,LF/HFは徐々に増加することが報告されている(Speranza et al., 1998Voss et al., 2000Kuo et al., 2000).妊娠経過に伴うHF低下およびLF/HF増加の要因としては,子宮の増大,エストロゲンやプロゲステロンの増加,循環血液量の増加や末梢血管抵抗の減弱,圧受容体反射の低下等さまざまな要因が考えられる(Speranza et al., 1998Kuo et al., 2000大西ら,2000Garg et al., 2020).妊婦の睡眠中の自律神経活動は,妊娠経過に伴う日中の自律神経活動の変化と同様の変化をすることが示された.

3. 妊娠各期の主観的睡眠指標と客観的睡眠指標,自律神経活動との関連

すべての時期で客観的睡眠指標の総睡眠時間とS睡眠時間との間に正の相関を認めた.総睡眠時間が長いほどS睡眠時間(REM睡眠時間)が長いことから,総睡眠時間の長短はREM睡眠時間の長さに左右されることを示している.睡眠時間の長短に関わらずNREM深睡眠の量が同等であったことが報告されており,これはNREM深睡眠の出現が睡眠前半に集中し,REM睡眠は睡眠後半に集中するためと考えられている(古谷,2021).本研究結果より,妊娠後も総睡眠時間の長短に関係なくNREM深睡眠時間は変化しないことが明らかとなった.

主観的睡眠指標と客観的睡眠指標の関係では,妊娠時期により結果に違いがみられた.特に初期では,寝つきの悪さが自覚的な睡眠の質や日中の過度な眠気につながっている可能性が示唆され,入眠困難に対するケアが重要である.中期では,JESS得点と入眠潜時との間に正の相関,PS深睡眠時間との間に負の相関関係を認めた.中期は初期や後期に比べて妊娠による睡眠障害は低い時期であるが,寝つきの悪さと深睡眠時間が短いことが日中の過度な眠気につながっている可能性があり,寝つきや熟眠感と合わせて日中の覚醒困難を問診し,対策を妊婦と一緒に考えていく必要がある.後期では,PSQI-J下位項目【睡眠の質】と総睡眠時間との間に正の相関がみられ,睡眠時間が長いほど自覚的な睡眠の質が悪い,あるいは睡眠の質が悪いと感じていることで睡眠時間を延長させていることも想定される.たとえ睡眠時間が十分だったとしても,後述する睡眠中の自律神経活動が睡眠の質に影響を与えている可能性が考えられた.

自律神経活動間の関係では,初期に,HF平均とLF/HFのリズム性との間に正の相関を認めた.“LF/HFのリズム性”は,LF平均/HF平均値の増減と睡眠周期の理想とされる90分周期との一致率を示していることから,リズム性の低さは交感神経活動の周期が睡眠周期とずれていると判断できる.本研究では妊娠各期ともにリズム性は低く,各期の比較では有意差はなかった.リズム性が高いほど睡眠の質が良いと推測した場合,睡眠中のHF平均も高い状態になると考えられ,初期ではこのような状況が認められた.

中期では,主観的睡眠指標と自律神経活動との間に関連が認められた.PSQI-J下位項目【睡眠効率】とHF平均との間に正の相関,JESSとLF/HFのリズム性との間に負の相関を認めた.中期は睡眠障害が初期や後期に比して低く,ある程度安定した睡眠がとれる時期である.【睡眠効率】とHF平均に正の相関があることは,【睡眠効率】が悪いほどHF平均が高いということであり,予測に反する結果であった.この理由として,【睡眠効率】は,(実際の睡眠時間)/(起床時刻-寝床時刻)×100の値を4段階で評価するものであり,値が高いほど得点は低い.よって,中途覚醒時間を考慮せずに睡眠時間を記載している対象者もいると考えられ,床上時間と睡眠時間との差だけで睡眠効率を判断するには限界があると考えられた.また,日中の過度な眠気とLF/HFのリズム性の低さとの関連について,初期と同様にリズム性が高いほど睡眠の質が良いと推測すると,理想とされる睡眠周期とLF/HFの増減がずれていることで睡眠の質が悪くなり,それが日中の眠気に繋がると考えられた.ただ,睡眠と自律神経活動のリズム性については既存の研究は見当たらず今後の検討課題と考える.

後期でも,主観的睡眠指標と自律神経活動との間に関連が認められた.HF平均とPSQI-J,JESSとの間に負の相関,LF平均/HF平均とPSQI-J,JESSとの間に正の相関を認めた.睡眠中の交感神経活動が高いほど,自覚的睡眠の質が悪く,日中の眠気が強いという結果であった.そして,PSQI-J下位項目【入眠時間】【睡眠時間】【日中覚醒困難】と自律神経活動との間に関連を認めた.このことは,睡眠中の交感神経活動が高いほど,入眠困難があり,睡眠時間が短く,日中の覚醒困難や過度な眠気があり,睡眠障害が強いことを示している.妊婦,特に妊娠後期では体位変換によりLF/HFが上昇することが報告されている(Speranza et al., 1998Kuo et al., 2000).後期は子宮の増大,子宮収縮や胎動による違和感,腰背部痛などにより睡眠中に体位変換する頻度が増加することが予想され,体位変換により交感神経活動の上昇が起こり,結果として自覚的睡眠障害につながった可能性が考えられる.睡眠中の体位変換を制限することは難しいが,交感神経活動上昇による入眠困難に対しては介入が可能であると考える.夜間の交感神経活動の上昇を防ぐ方法として,妊婦の睡眠改善に影響を与える習慣行動を調査した報告では,交感神経活動亢進やメラトニン分泌抑制につながるため「長時間テレビ・パソコンをしない」ことが挙げられている(植松ら,2016).また,妊娠中に睡眠に関する知識提供やリラクセーション等に関する睡眠教育を行うことにより,妊婦のセルフケア能力が向上し,睡眠の質が改善したという報告(渡辺・田中,2018牛越,2020)もある.妊婦に対し睡眠教育を行う際,睡眠の知識や動機付けに加え,ウェアラブルデバイスを活用したバイオフィードバック等による自律神経活動の調整方法を取り入れることで,睡眠改善が望める可能性がある.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

本研究で用いたSilmee Bar type Liteは胸部に貼付するタイプの機器であったため,妊婦が睡眠中に無意識に排除した事例があった.そのため,機器の装着が気になり睡眠が障害された可能性がある.また,今回は,対象者の心身への負担を考慮し連続2日間の装着依頼とし,そのうち1日間のデータを分析に用いたため,平時の睡眠を十分に捉えられていない可能性がある.今後はより侵襲性の少ないウェアラブルデバイスを活用し,睡眠前の行動を含む長期間のデータによる検討が必要である.本研究は縦断研究であり調査期間が1年8カ月となり,データ収集の季節を統一することができなかった.分析でも睡眠の季節変動を考慮していないため,同一季節の研究とは違う結果となった可能性は否定できない.

Ⅶ. 結語

自覚的睡眠の質が悪い妊婦は初期5割,中期3割,後期6割存在し,日中の過度な眠気がある妊婦はすべての時期において約5割存在した.PSQI-J下位項目の【日中覚醒困難】は初期に得点が高く,【睡眠時間】は後期に得点が高かった.自覚的睡眠の質は中期に一旦改善したが,客観的睡眠指標は妊娠期を通して有意な変化はなかった.妊娠時期が進むにつれて,HF平均は徐々に低下し,LF平均/HF平均は徐々に増加した.自覚的睡眠指標は自律神経活動と関連がみられ,後期ではPSQI-J得点とJESS得点ともに,HF平均との間に負の相関,LF平均/HF平均との間に正の相関を認めた.

謝辞:本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様,参加施設の皆様に心より感謝申し上げます.なお,本研究は2016年度JSPS科学研究費若手研究(B)16K20800の助成を受けて実施した研究の一部である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MWは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,考察,論文執筆を行った.HSは研究の着想およびデザイン,分析,結果,考察に助言し,論文に加筆・修正を加えた.両著者で最終原稿を確認し承認した.

文献
 
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