2023 年 43 巻 p. 547-556
目的:COVID-19パンデミック下における精神看護専門看護師(精神看護CNS)による看護師支援のプロセスを明らかにする.
方法:17名の精神看護CNSへの半構成的インタビューを行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析を行った.
結果:精神看護CNSによる看護師支援は,【危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援】をコアカテゴリーとする9つのカテゴリーから形作られた.看護師のメンタルヘルスに関わる状況を把握し,多職種や看護管理者と協働し,看護師が安心して患者・家族ケアを行える環境を整え,危機状況下でも患者・家族に最善のケアを提供できるよう看護師を支援していた.
結論:精神看護CNSによる多職種や管理者と連携した支援は,看護師のレジリエンスを高める可能性が示唆され,支援の独自性は,患者・家族ケアをともに行うことを通して看護師を支援することであった.
Objectives: This study aimed to clarify the process of support for nurses provided by Certified Nurse Specialists (CNS) in Psychiatric Mental Health Nursing during the COVID-19 pandemic.
Methods: Data from semi-structured interviews with 17 CNSs were analyzed using a grounded theory approach.
Results: The process of support for nurses consisted of nine categories, with the core category of “Supporting nurses to provide the best patient and family care under the crisis.” The CNSs grasped the situation related to the mental health of nurses and collaborated with multi-disciplinary professionals and managers to create a supportive environment where nurses could feel secure and sought out nursing care for patients and families with nurses in the adversity caused by the pandemic.
Conclusion: The support provided by the CNSs in collaboration with other professionals and managers contributed to the resilience of the nurses. The uniqueness of the support was to assist the nurses by working together to provide patient and family care, which was made more difficult by the pandemic.
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国で報告されて以降,アウトブレイクを繰り返してきた.World Health Organization(WHO)は2023年5月5日に,緊急事態宣言を解除したが,世界的な脅威でなくなったことを意味するわけではないと発表した(WHO, 2023).この新規感染症は人類の生命を危機に晒し,社会経済に打撃を与え,そして人々の心理社会的側面に甚大な影響を及ぼしてきた(WHO, 2022).なかでも医療従事者は,不安,うつ,PTSD,バーンアウト,睡眠障害といった症状を呈しており,そのリスク因子に女性,看護師,患者への直接的な関与,実践経験の少なさが報告されている(Chutiyami et al., 2021).パンデミック第1波から第3波に該当する時期に実施された日本国内の調査では,医療従事者の精神的苦痛は非医療従事者に比較して有意に高く,時間経過で増大し(Sasaki et al., 2021),看護師の11.1%が中等度から重度の不安,34.9%がうつ症状(Awano et al., 2020),46.8%がバーンアウトを経験していた(Matsuo et al., 2020).看護師のメンタルヘルスへの影響は深刻であり,個人の健康,QOL,離職防止,そして看護ケアの質を保証するために,看護師への支援は重要かつ不可欠である.
パンデミック発生直後から,COVID-19感染患者に対応する医療従事者への心理社会的支援に関わる提言やガイドライン,心理教育教材がウェブ上で公開されてきた(IASC, 2020;日本赤十字社,2020;日本精神神経学会他,2020;WHO, 2020).これらは有益なツールであるが,心理社会的アプローチは集団のニーズに応じて,また時期に応じて修正し,適応する必要がある(IASC, 2020).日本では,1994年に専門看護師制度が制定されて以降,精神看護分野の専門看護師(Certified Nurse Specialist in Psychiatric Mental Health Nursing,以下,精神看護CNSとする)が,災害や医療事故などの緊急事態においてリエゾン精神看護を実践している(福田,2004).パンデミック下における精神看護CNSの実践報告は散見されるが(宮田,2021;白井,2022),各施設の実践の紹介にとどまるものである.そこで精神看護CNSが直面している現状をどのように意味づけながら看護師支援を展開しているか,その文脈を捉えながら相互作用のプロセスを明らかにし,看護師支援という現象に関わる理論を生成することとした.これにより今後も生じうるパンデミックという危機における具体的で実際的な支援への示唆を得ることができると考えた.
本研究は,COVID-19パンデミック下における精神看護CNSによる看護師支援のプロセスを明らかにすることを目的とする.本研究から得られた知見は,看護師支援への具体的な示唆や体制づくりのための基礎資料を提供するものと考える.
Grounded Theory Approach(以下,GTA)を用いた質的研究デザインとした.
2. 研究参加者日本看護協会による専門看護師認定資格(精神看護分野)を有し,医療施設でリエゾン精神看護を実践しており,勤務形態は問わず所属施設において,COVID-19患者の看護ケアに従事する看護師の支援に携わった経験のある者を研究参加者とした.
3. データ収集方法調査当時,COVID-19感染患者の受け入れ公表を控える病院があったことや,精神看護CNSが活動する一般病院は限られることから,機縁法により研究参加者を抽出した.インタビューガイドに沿った半構成的インタビューを,ウェブ会議システムを活用した遠隔的方法,もしくは研究者ないし研究参加者の所属施設内の面談室にて対面で行った.1人の研究参加者に1回,約1時間,患者の受け入れ決定からインタビューまでの期間に,看護師・看護チームが抱えていた問題とその支援,COVID-19感染患者・家族のケアに関する相談内容とその支援,多職種や看護管理者との連携,パンデミック以前と異なる支援の困難さ,工夫した点について時間経過にそって話してもらった.また研究参加者の年齢,看護師および専門看護師経験年数などの個人属性,所属施設での平時の活動内容を尋ねた.インタビューは2020年10月~2021年3月(感染拡大の第1~3波に該当)に行い,研究参加者の許可を得てICレコーダに録音し,逐語に記述した.
4. データ分析方法GTAの手法(戈木,2016)で分析を行った.データ収集では機縁法を用いたが,理論的サンプリングの考え方にそってデータ収集とデータ分析を並行して行い,分析の過程で浮かび上がってきた概念(ラベルやカテゴリー)を,次のインタビューに反映させた.具体的には,1)逐語録を意味のまとまりによって切片化する,2)研究参加者が出来事や状況をどのように意味づけているかを解釈し,プロパティとディメンションを手がかりに切片の意味するラベル名をつける.なおプロパティは切り口や視点を表し,ディメンションはその視点から見たときに,切片がどのような次元をとっているかを示す.3)類似したラベルをまとめて抽象度をあげ,最も抽象度が高い概念をカテゴリーとする,4)状況,行為/相互行為,帰結のパラダイムの枠組み(戈木,2016)を用いて,いつ,どこで,なぜ,何を,どうやって,その結果どうなったかという視点,および各カテゴリーのプロパティとディメンションから文脈をとらえ,カテゴリー関連図を作成する,5)抽出したカテゴリーのうち,中心となるコアカテゴリーを検討し,研究参加者全体を統合したカテゴリー統合関連図から支援の構造とプロセスを捉え,ストーリーラインを検討する.データ分析では,ラベル,カテゴリー名がデータと合致しているかを研究メンバーで検討し,研究の厳密性を高める努力を行った.
5. 倫理的配慮研究参加者に研究目的と方法,研究協力の自由意思の尊重と拒否しても不利益を被ることはないこと,研究参加の中途辞退,研究協力の利益と予測されるリスク,公表に際しての匿名性と個人情報保護について文書を用いて説明し,同意書に署名を得た.調査に先立ち慶應義塾大学看護医療学部研究倫理委員会の承認を得た(承認番号:294).研究参加者の要件を満たす精神看護CNSは限定されることから,個人と所属施設が特定されないように研究参加者の背景は最小限の記述とした.
研究参加者は,16病院に所属する17名の精神看護CNSで,男性1名,女性16名,38~59歳(平均47.8歳),専門看護師経験年数は3~17年(平均9.3年),所属施設での勤続年数は1~20年(平均11.6年)であった.所属施設内の位置付け,重点を置く役割機能,平時の活動内容は研究参加者により異なっていたが,すべての精神看護CNSが組織横断的な活動を行い,専門看護師制度に規定された役割を実践していた.3名は外来,看護部の教育担当業務を兼任し,1名は週2日の非常勤勤務であった.所属施設は約300~1750病床の一般病院,特定機能病院,地域医療支援病院で,東北,関東,東海,関西圏に位置し,患者の受け入れ時期や重症度は,地域や病院機能により異なっていた.
2. COVID-19パンデミック下における精神看護CNSによる看護師支援精神看護CNSによる看護師支援のプロセスは,【危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援】をコアカテゴリーとする9つのカテゴリーから形作られた(表1,図1).最初にコアカテゴリーを説明し,次に支援プロセスをストーリーラインとともに説明する.以下,研究参加者は精神看護CNS,COVID-19感染患者を患者と表記し,【コアカテゴリー】,《カテゴリー》,〈ラベル〉,「研究参加者の語り」,語りの文中に(補足説明),語りの末尾に(匿名化した研究参加者)を示した.
COVID-19パンデミック下における精神看護CNSによる看護師支援を構成するカテゴリー一覧
カテゴリー名 | カテゴリーの説明 | 精神看護CNSにより語られた内容の抜粋 |
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【コアカテゴリー】危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援 | パンデミックという危機に直面し,精神看護CNSが平時から担ってきた相談,支援活動に困難を抱く中で,患者・家族に最善のケアを提供できるように看護師を支援する働きかけである.パンデミック特有の状況から患者・家族の精神的問題,および彼らをケアする看護師の負担感やケアのしづらさなど〈患者・家族ケアに関わる問題の把握と共有〉を行うこと,感染防御策やケア環境の変化による制約はあっても看護師とともに〈自分たちにできる最善の看護ケアの模索〉,精神看護CNSが〈患者・家族への心理的な危機介入の引き受け〉をし,さらに患者のせん妄などの〈予測される状況に備えた指針や対応の提示〉をし,看護師の不安や混乱を最小にし,患者に適切な治療やケアが導入できるようにしていた. | ・(患者の)精神状態の正しいアセスメントを共有するっていうことと,それに対して必要な介入を現場レベルでできる必要な介入を一緒に考えて,指針を示して試してもらうみたいなことをするって感じですかね(Jさん) ・環境として隔離されているとか連絡がとれないとか自由がきかないとかっていうことがかなり負荷になっているので,そこら辺を少し緩和できるような対策を,感染対策にも沿いながら緩和できる対策を一緒に考えるって感じですかね(Jさん) ・(家族の悲嘆が)複雑化する可能性があるので,(略)心理教育のことが書いてあるリーフレットを作ったので,それを患者さんの家族にお渡ししたりとかしながら皆と一緒にケアができたかなって思って(Fさん) ・普段なら各病棟でケアできるせん妄患者さんでも丁寧に直接みて,ケアも一緒に手伝うとか(看護師の)負担感をちょっと軽減できるように直接ケアもしていた(Pさん) ・病態と対処方法と悪くなる時のサインっていうのを一緒に共有をしておいて(Hさん) |
メンタルヘルスに関わる状況の把握 | COVID-19感染患者の受け入れ準備期間を含め,看護師がどのようなストレッサーを抱え,どの程度のストレス反応を呈しているかについて,平時の様子と比較しながら,看護師のメンタルヘルスに関わる状況を把握する働きかけである.看護師の現状の受け止め,労働環境や患者ケアに関わる状況(防護服やマスクの配給状況,院内の感染対策の整備状況,部署の再編成や業務内容・繁忙度,部署のチームワークやスタッフ間に生じている力動,看護師長のリーダーシップやスタッフへの関わり状況など),看護師自身の家族との関係性や家庭環境(仕事に対する家族の受け止め,配偶者や子どもの職場や学校での状況など)などの情報から状況把握を行なっていた. | ・(ラウンドに)回っただけで泣いている人がいたりとか,すごく葛藤を抱えてて,家族にうつしたらどうしようとか,家族から反対されてるから帰れないとか,そもそも引き受けたものの実際にどういう風な業務になるかわからないので見通しが立たなくて不安だとか色んな声があってパニック状態みたいな感じだった(Aさん) ・元気な人はみんな大丈夫だよね,みたいな空気を醸し出すんです.私がラウンドしても皆な元気です,1年生もこんなに元気,すごいみたいな空気を醸し出す.でも実はそうじゃない人は声をだしにくいっていうのは(ある)(Lさん) ・(患者対応部署に残れなかった看護師を)ちょっと捕まえて,廊下で.何かきっと後悔しているというか「罪悪感感じてんじゃない?」っていうと「そうなんですよね」とか(Rさん) |
支援に入るための態勢の整え | 関連部門や看護管理者と,患者の入院状況,院内の感染対策,部署再編組織の対応方針など看護師支援に関わる情報共有を行うことや,平時と同様の体制では支援が困難と考えて,COVID-19に特化した患者・家族,職員のメンタルヘルス支援を目的とする多職種・多部門メンバーからなる支援チーム(心のケアチーム)を立ち上げ,〈支援のための体制強化〉をすること,そして精神看護CNS自身も支援に必要な知識や情報を集め,自らのストレス対処に取り組み,支援に入るための心身の状態を整え,〈自らの態勢づくり〉を行っていた. | ・管理者との情報共有をしながら,早めに対応,必要があればやっぱり早めに対応できるスタンスが必要かなと思っています(Eさん) ・(これまでの)メンタルヘルス相談窓口の枠組みでは多分対応しきれないんだろうなって思って.それで看護部長に話をして,新たにコロナに対応するメンタルケアチームを立ち上げました(Gさん) ・CNS(同士)のネットワークにはすごく私はほんとうに助けられたなって(Gさん) |
いつでも相談できる窓口の保証 | 看護師たちにとって心理的・物理的に近い距離に存在し,かつ現場に負担をかけない工夫をすることで看護師が相談しやすい状況をつくり,「何かあっても大丈夫」という安心感を保証することを意図した働きかけである.精神看護CNSは,単独ないし多職種とともに対応部署に行って声をかけること,ポスターやリーフレットの配布やイントラネットでの配信など様々な方法で,いつでも相談できる窓口があることを明示していた.そして平時と異なり相談依頼書が提出されなくとも依頼できる方法に変更することや,院内の感染対策を把握した上で現場に入るなど,現場に負担をかけない配慮をしながら相談窓口を保証していた. | ・(心のケアチームのラウンドは)いつも行っていれば何時頃にくるからその時に聞こうってなるように一応,時間を決めて回るようにしています(Bさん) ・土日でも夜でも連絡が取れるような携帯電話を支給してもらって.で,私と心理(職)で今も交代交代で持っているっていう感じ(Hさん) ・最前線にいる方たちって本当に使命感をもってこういうもんだと思ってやってくれてるんですけれど,でも知らず知らずのうちに疲れがたまっていたりとか.なので来るのを待つんではなくてこちらからマメにどうですかっていうのを伺いに,様子を見に行って,顔馴染みになって言いやすいようにしたいなという狙いがあります(Iさん) |
看護師のメンタルヘルスを保つための支援 | ストレスフルな状況下でも,看護師がメンタルヘルスを維持しながら仕事を継続できることを意図した働きかけである.精神看護CNSは,看護師が様々な思いを吐き出し気落ちを整理できるように〈安心して気持ちを表出できる場づくり〉,自分のストレス状態に気付き,対処できるように心理教育を通した〈メンタルヘルスを保つためのセルフケア支援〉,そして精神的不調やスクリーニング調査のカットオフ以上の看護師には精神看護CNSの個別面接,心理カウンセリング,精神科治療など〈個別ケアや治療への橋渡し〉をしていた. | ・仕事の後の荷下ろし,語りの会っていうのに参加して,「どうでしたか?」っていうのもやったり(Rさん) ・あなた自身をケアしてください.業務に参加する前と期間中と業務から離れる時のそれぞれの時期に必要なセルフケアについて知ってくださいですとか,ストレスが強い時は無理せず上長や心のケアチームに相談してくださいって(Iさん) ・スタッフのメンタルヘルス支援のときにコーピングいっぱいやりなさいっていうじゃないですか.好きなこと何だった?とか.でもそういうのが一切(できない),外に出れない人と会えないっていう時に何か色々な手段がなくなってるなみたいな感じ(Lさん) ・(ストレスチェック等のスクリーニングで)少し点数が高い方に声をかけたりメールしたりとか,実際に面談したりした方もいました(Dさん) |
感染症との闘いを一部の人の問題にさせないための管理者との協働 | 精神看護CNSや心のケアチームが拾いあげた看護師たちの支援ニーズやメンタルヘルスに関わる問題状況を,組織上層部や看護管理者と共有し,問題解決や看護師支援にむけて速やかに意思決定できるように〈現場の支援ニーズを組織に橋渡す〉こと,そして〈看護管理者の支援〉をすることで,病院全体で感染症の危機を乗り越えていけるように管理者と協働するための働きかけである. | ・家に帰れない,帰りたくない人には,じゃぁどういう風に宿泊施設を準備するかとか,そんなことはメンタルケアチームの権限ではできないので把握したニーズをそういう関係部署に提携するっていう形で調整する(Gさん) ・組織からの安全感だったりとか,何か自分たちがやっていることを認められてない感じがしないとか,そういうところが大きかたように思ったので,こんな声がでましたよっていうのをまとめて看護部長とかに報告したりしました.それはそれで看護部長が実際,病棟に行ったりとか対応してくださったりとか.その橋渡しみたいなことをしました(Jさん) ・師長さんがやっぱり要になると思ったので,師長さんの支援を積極的にするのは,やっぱり私だろうと思いました(Lさん) |
関係者間の分裂の察知 | 現場と組織,COVID-19感染患者に直接対応する部署とそうでない部署や部門,当該部署に元々いた看護師と異動や応援に来た看護師,同じ部署内でもCOVID-19感染患者に対応する看護師とそうでない看護師間で,感染リスクの認識,感染予防のための行動自粛などにおける温度差が高じ,双方の間に亀裂が入ったように非難的言動が交わされたり,感情的葛藤が生じたりする.そのため,協働して業務にあたることが困難となったり,患者の診療に支障をきたしたりしている状況. | ・COVIDに応援出しているから直接の部署じゃないけどすごく忙しくなって大変だったけど,直接の部署ばっかり目が行っててさ,みたいなところとか(Aさん) ・コロナを見るスタッフとみないスタッフの間にちょっと亀裂が入っているみたいで(Eさん) ・(医師が)病室に行かない.(看護師に対して)「採血しといて」とか,「だって僕たち行って感染したらどうすんの」とか(Eさん) ・(看護師が感染すると)常日頃から感染対策,標準予防策ができていなかったことですよねっていう目で周囲から見られるし,内輪同士(同部署)でも「何でしっかりやっていた人ちがこんなに働いて,(感染対策が)曖昧な人が休めるの?みたいな」(Qさん) |
看護師のケアの見守り | 看護師・看護チームと患者や家族の状況を共有しながらも,看護師たちのケアの主体性を尊重して,看護師が工夫していることや関わりの意味をフィードバックしながら,必要があれば相談に応じられる体制や距離で見守っている状況. | ・全部自分が入るんじゃなくって状況を聞いて自分が入らなくても,これは看護師さんにこういう風にやってもらったら大丈夫だなってことはそうやってお任せする(Hさん) ・認知症のデイケアを作ってみたり,できないできないではなくて,どうやったらできるかっていうのを柔軟な頭で結構やるようになって.それは多分カンファレンスでできてることあるよねっていうのを定期的に振り返る中で,自分たちでそういうことをやるようになってきた,というのはあリますね(Pさん) |
看護師のケア不全感の察知 | 患者・家族へ必要なケアができていないジレンマや,患者の重症度が変われば転院・転棟するために最後まで回復を見届けることができず適切な看護ケアができない,ケアをやりきれていないといった思いを抱き,看護師・看護チーム全体の士気が低下している,仕事の達成感が持てない状況. | ・今まで自分たちがやっていたようなケアが,例えば寄り添って側に長くいるとか,お話をたくさんして不安を軽減するとか,そいうことが時間の制限とか人の制限とかっていうことでできなくて本当に自分たちが看護をやれているんだろうかみたいなことはすごく言っていたんですね(Hさん) ・いつもの看護ができない,傾聴ができないということにすごくジレンマを感じてたっていう意見が○○(当該部署)では多くて,丁寧にゆっくり看取るというのを方針にしてたのに最低限の関わりで食事だけ運んでバイタル測ってみたいな.それでいいのかみたいな葛藤(Aさん) |
COVID-19パンデミック下における精神看護CNSによる看護師支援のカテゴリー統合関連図
この支援は,すべての精神看護CNSが実践し,他職種ではなく精神看護CNSが中心的に担っていたこと,そして他のカテゴリーは,この支援を展開していくための調整や環境づくりと位置付けられたことから,本カテゴリーをコアカテゴリーとした.
パンデミック発生直後,精神看護CNSは患者との面談が制限され,看護師や診療録の情報から患者や家族ケアに関わる問題を把握せざるを得ず,また三密を避けるためにチームで話し合いの場が持ちづらい状況で〈患者・家族ケアに関わる問題の把握と共有〉を行っていた.そして精神看護CNSは,治療法が確立されておらず患者の身体的苦痛が軽減できない,患者が家族に看取られることなく孤独のうちに亡くなる,感染対策上,患者の傍に寄り添い不安な気持ちを傾聴できない,次から次に患者が運ばれて一人ひとりのケアに目を向けられないといった看護師を取り巻く問題状況を把握していた.また平時では当たり前に行い,自分たちが価値を置いてきた方法でケアができないこと,受け入れ患者数増大に伴う部署再編が看護チームのダイナミクスを変化させ,対人関係の困難さ,チームのケア力低下を招き,患者ケアの困難さにつながっていることを把握していた.
そして精神看護CNSは,患者・家族ケアに関わる問題を看護師と共有した上で,〈自分たちにできる最善の看護ケアの模索〉を行った.感染防御策やケア環境の変化による制約はあっても,患者の身体的安寧や日常生活を支えるケアの工夫を出しあい,看護師たちが行っているケアを精神看護の視点から意味づけ,できないことでなく自分たちができたことに目を向けられるようにして,看護師たちがケアの自信を取り戻せるよう支援していた.Cさんは,徘徊して安静が保てない認知症患者に身体拘束をせざるを得ないかもしれないと精神科医から伝えられた.しかし身体拘束や鎮静をせず,ADLを低下させず退院できるように,自分たちにできるケアを看護師たちと模索していることを語った.
「じゃぁデイルームを解放しようって案を出してくれた看護師さんたちもいて.掃除をする範囲は広くなるけど,でもこの範囲だったら自由に歩いたらええやんっていうのを作ろうとか,今一緒に考えているところなんですよね(Cさん)」
そして精神看護CNSは,平時よりも柔軟に看護師と役割分担をしていた.社会の偏見や誹謗中傷の対象となっている未知の感染症に罹患し,隔離環境で強い不安を抱く患者に対する不安軽減やストレス対処の支援,看取りができなかった家族へのグリーフケアなど〈患者・家族への心理的な危機介入の引き受け〉を行った.患者・家族の直接ケアを引き受けることで,看護師の負担を軽減することを意図していた.
さらに精神看護CNSは,患者の背景や感染症の病態からせん妄発症のリスクが高いと考え,入院時からせん妄予防のための看護ケアを看護師と話し合い,精神科医と協働してせん妄発症時の治療やケアマニュアルを作成して〈予測される状況に備えた指針や対応の提示〉を行った.また,患者の不安やうつのスクリーニングについて説明し,相談依頼の基準やフローチャートを明示することにより,看護師の不安や混乱を最小にし,患者に必要かつ適切な治療やケアが導入できるようにしていた.
【危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援】は,どの精神看護CNSも実践していたが,状況から帰結へと至る支援プロセスは一様ではなく,支援の文脈に応じて,支援活動を展開させていた.以下,看護師支援のプロセスを3つに分けて説明する.
2) 看護師支援のプロセス (1) 《メンタルヘルスに関わる状況の把握》から《支援に入るための態勢の整え》,《いつでも相談できる窓口の保証》までのプロセス精神看護CNSは,所属施設で患者の受け入れが決まると,その準備段階から,看護師を取り巻くストレッサーやストレス反応から《メンタルヘルスに関わる状況の把握》を行った.平時と異なりレッドゾーンの看護師と直接話ができないため昼の休憩室の訪室,スタッフの状態をよく把握する看護師やパンデミック以前から面談している看護師から聞く部署の様子,更衣室での噂話からも状況を把握していた.また感染者もしくは濃厚接触者となり,入院や自宅待機をする看護師には病室への訪問や電話で様子を尋ねることもあった.状況把握が困難であったり,看護師の強いストレス反応,当該部署の看護師だけでなく職員全体に不安や動揺が広がる状況を把握すれば,《支援に入るための態勢の整え》を行った(図1,①).一方,看護師が不安を抱きつつも現状を受け止め,使命感をもって状況に適応ないし時間に伴ってストレス反応が改善している場合でも,《いつでも相談できる窓口の保証》を行った(図1,②).
《支援に入るための態勢の整え》として,精神看護CNSは看護管理者や感染対策部門など関係者との情報共有を意図的に行った.そして,現状の体制では支援に限界があると考え,精神科リエゾンチームや看護管理者と相談,もしくは病院長のトップダウンで患者・家族,職員のメンタルヘルス支援を目的とした多職種・多部門からなる新たなチーム(以下,心のケアチームとする)を立ち上げ,〈支援のための体制強化〉を行った.心のケアチームのメンバー構成,支援対象,活動内容,そしてチームメンバーそれぞれが担う役割は施設によって異なっていたものの,精神看護CNSの多くが中心メンバーとして多職種と協働し,看護管理者や事務部門を巻き込み,体制強化に関与していた.そして精神看護CNS自身も「こういう有事の際に何かできることを探すのが役割だと思った(Jさん)」と役割を自覚し,目前の危機と向き合っていくために,〈自らの態勢づくり〉を行った.心のケアチームや上司,家族,精神看護CNSのネットワーク等を活用し,支援に必要な知識や情報を集め,ストレス対処に取り組んでいた.関係者間の情報共有や多職種・他部門と協働することができ,自らの態勢を整えられれば,次の《看護師のメンタルヘルスを保つための支援》を展開した(図1,③).
一方で,管理職の職位でない精神看護C N Sのなかには,当該部署の看護師や感染した看護師への誹謗中傷の懸念や組織全体が混乱する状況で,組織内の情報共有がままならないこともあった.また平時からの看護師長との関係づくり,職員のメンタルヘルス支援に関わる多職種・他部門連携に課題を感じていたりした場合,精神看護CNSが当該部署の支援に入れなかったり,体制強化が困難なこともあった.そうした状況では,《いつでも相談できる窓口の保証》という支援につなげた(図1,④).
《いつでも相談できる窓口の保証》として,Jさんは,部署に定期的に入り,看護師とともに患者のベッドサイドで過ごしたという.「一緒に現場に入るようになって,例えばすごく声を掛けやすくなったと思うので,割と顔を覚えてもらって私たちもそこのスタッフの顔を覚えて,困ったことはすぐ聞けるみたいな感じになったっていうのは効果ですかね(Jさん)」と語った.そして「常に現場に負担なく自分たちが情報を共有するためには現場の申し送りに入らないと分からないだろう」と毎朝,部署のカンファレンスに心のケアチームのメンバーが入り情報共有をしたという.このようにして看護師が安心感をもてるように《いつでも相談できる窓口の保証》ができれば,《看護師のメンタルヘルスを保つための支援》を行なった(図1,⑤).しかしPさんは,患者の受け入れ当初に当該部署に入れず,相談窓口を案内するポスターを貼ったものの,看護師から「(そのポスターに)かなりムカついたと.自分から来ないで連絡しておいでっていうのはできるわけないだろうっていうことで.忙しくて夜に10人も(入院を)受け入れている中でそんなの行けないよ.そっちから来てくださいよって」と伝えられた.相談すること自体の負担感に配慮できなかったことで,「感染したくないからあの人(精神看護CNS)は遠巻きに見てたんだと思っていた」と受け取られ,《関係者間の分裂の察知》という帰結に至っていた(図1,⑥).
(2) 《看護師のメンタルヘルスを保つための支援》から《感染症との闘いを一部の人の問題にさせないための管理者との協働》,《関係者間の分裂の察知》までのプロセス《看護師のメンタルヘルスを保つための支援》の一つは〈安心して気持ちを表出できる場づくり〉であった.精神看護CNSは,部署ラウンドや院内で看護師に会った際に個別に声をかけるほか,看護師が様々な思いを表出することで気持ちを整理できるように,看護師長と相談してグループミーティングの場を設定することもあった.その際には,心の内面に入りすぎないよう配慮し,それぞれの思いを共有し合えるようにグループをファシリテートしていた.二つ目に,心のケアチームの心理職や精神科医と〈メンタルヘルスを保つためのセルフケア支援〉を行った.これは看護師が危機状況で生じやすい反応を理解し,自らのストレスに気づき,日常生活を整え,ストレス対処に取り組めるよう心理教育を通して行われていた.感染対策上,集合研修が難しいため,心理教育の内容を盛り込んだポスターやリーフレットの配布や掲示,イントラネット配信,さらに自宅待機となった看護師にリーフレットの郵送,応援派遣に出る看護師には送り出す際に話をするなどの方法で行われていた.三つ目に,精神不調により個別ケアが必要な看護師には,精神看護CNSの個別面接,心理職のカウンセリング,精神科治療につなぐなど〈個別ケアや治療への橋渡し〉を行った.パンデミック下で精神科クリニックの予約がとりづらいことを知った精神看護CNSは,精神科医と調整し,治療につなげていた.さらに感染後の後遺症症状から精神面に影響がでている看護師を後遺症外来につないでいた.
《看護師のメンタルヘルスを保つための支援》により,看護師がセルフケアに取り組み,仕事を継続できる状況を作ることができれば,【危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援】につなげた(図1,⑦).しかし「心理教育っていう体(裁)で(部署に)行っているけど,結局どんな事が心配かって聞いたら,家族に帰ってくるなって言われたとか言われて.じゃあどうしたらいいかなと言ったら,やっぱり官舎を使わせてほしいとかシャワーを浴びて帰れるようにしてほしいとか(Cさん)」や,「そもそも(自分の部署で患者を)受け入れたくないのにメンタルの話を(精神看護CNSに)聞いてもらっても仕方がないって風に思っている(Dさん)」など,看護師のメンタルヘルスに関わる管理上の問題があると考えた場合,《感染症との闘いを一部の人の問題にさせないための管理者との協働》を行った(図1,⑧).
管理者との協働の一つは〈現場の支援ニーズを組織に橋渡す〉ことであった.看護師たちが組織に望む支援を看護部長に直接伝えられる場を作る,看護師を対象としたうつや不安のスクリーニング調査結果を伝えるとともに休暇やローテーションを提案するなど,管理者が看護師支援のために速やかな意思決定ができるよう情報共有と調整を行った.精神看護CNSが橋渡しを行うのは,看護師長は組織とスタッフとの間で板挟みになりやすい一方,精神看護CNSは平時の活動を通して組織の承認が必要な事柄を誰にどう交渉すれば良いかを熟知している上,現場の情報を単に伝えるのでなくメンタルヘルスの視点から必要な支援を組織に提案できるからと考えていた.しかし,「ダイレクトに師長に言うと被害的になるし,看護部長に言うと(当該部署だけでなく全体の)バランス見ろって言うし,この問題を誰にどう言ったらいいんだろうっていうのが難しい(Nさん)」と管理者との間で葛藤が生じることもあり,平時からの看護管理者との関係づくりが協働の基盤になると意味づけていた.さらに対応の前線にいる看護師たちの,現場の大変さを当該部署ではない人たちに理解して欲しいというニーズに対して,職員向けニュースレターやイントラネット上で当該部署の看護師たちの1日を紹介するなどの情報発信を心のケアチームとともに行っていた.この働きかけをきっかけに,「各病棟の師長さんが,そういう(部署の)状況を分かって(夜間に)リリーフに出したりしていましたね(0さん)」と周囲から当該部署への支援が提供される状況が生まれていた.そして行動自粛に対する部署間の温度差に対して「院長からも病院が皆で応援しているよっていうのと(患者を)受けてないところは遊んでいて,受けているところは皆が自粛して,みたいなのがないようにしてほしい(Fさん)」と当該部署だけでなく病院全体で,感染症と闘う姿勢を持てるよう管理者に働きかけていた.二つ目に,混乱する状況で悩み,負担を抱えている〈看護管理者の支援〉を意図的に行っていた.Aさんは過去の災害支援の経験から,看護師支援の方策の提案,スタッフの全員面接を引き受ける等の方法で看護師長を支援することが看護師支援につながると考えていた.一方,Lさんのように,「私の仕事を増やさないでよとか,寝ている子起こさないで的なことも言われることもあると思うんです.難しいな(Lさん)」と,自分の提案に対する看護師長の反応に,困惑することもあった.
以上のような管理者との協働により,同居家族への感染防止のための宿舎,勤務後にシャワーを浴びられる設備,危険手当,勤務や業務体制の見直し,後遺症外来の設置などの体制が整えられ,また看護部長が自ら現場に足を運びスタッフの話を聞くなど組織の支援が看護師の目に見える形で伝わることで不安が軽減されることは,【危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援】につながった(図1,⑨).しかし組織として現場が望む支援に即座に対応できず,病院全体で感染症と闘う姿勢や現場への支援が目に見える形で伝わらず,看護師たちの不安が軽減されない状況が続けば,《関係者間の分裂の察知》という帰結に至った(図1,⑩).《関係者間の分裂の察知》は,現場と看護部を代表とする組織,そして患者に直接対応する看護師とそうでない者,元々当該部署にいた看護師と異動や応援に来た看護師間など関係者間に亀裂が入ったように非難的言動,感情的葛藤が生じ,協働して業務にあたることや,時に患者の診療に支障をきたすこともあった.精神看護CNSが《関係者間の分裂を(の)察知》すれば,《メンタルヘルスに関わる状況の把握》から再び支援プロセスを辿った(図1,⑪).
(3) 【危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援】から《看護師のケアの見守り》,もしくは《看護師のケア不全感の察知》という帰結へ以上,説明してきた行為/相互行為を経て,精神看護CNSは【危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援】を展開させていた.支援を通して,患者・家族の精神的問題が改善し,看護師がケアの自信を回復し,ケアの困難さが軽減できれば,《看護師のケアの見守り》という帰結に至った(図1,⑫).コロナ禍が持続する中で看護師たちの様子を見守り続けることは,《メンタルヘルスに関わる状況の把握》という次なる状況へとつながった(図1,⑭).しかし,看護師と問題を共有することや,ケア方法をともに模索できず,看護師のケア意欲や自信を回復できない状況が続けば《看護師のケア不全感の察知》に至り(図1,⑬),再び《メンタルヘルスに関わる状況の把握》から支援プロセスを辿った(図1,⑮).
本結果で明らかになった看護師支援のプロセスから,精神看護CNSが看護師,他職種と協働しながら展開するリエゾン精神看護の本質に関わる実践が示されたと考える.リエゾン(liaison)には,「つなぐ,橋渡す」という意味があり,(1)患者及び患者ケアにあたっている人たちをつなぎ,医療チームの連携を促進して患者にとっての治療的環境を整える,という機能と,(2)一般科,つまりパンデミック下においてはCOVID-19感染患者の看護に,精神看護の知識や技術を適用し,精神看護領域と他看護領域をつなぐという2つの意味をもつ(野末,2004).以下,この2点から精神看護CNSによる支援について考察する.
1. パンデミックという危機状況下で医療者間をつなぎ患者の治療的環境を整える精神看護CNSは,《メンタルヘルスに関わる状況の把握》により看護師を取り巻くパンデミック特有のストレッサーとストレス反応を把握していた.感染リスクのために看護師の安全感が脅かされ,安心感が保証されない状況が続くと,《関係者間の分裂の察知》という帰結へと至り,さらにストレッサーを強めるという悪循環につながっていた.精神看護CNSは,「つなぐ・橋渡す」機能を用いて,医療チームの連携を促進し,看護師にとって安全で,安心できる環境を整えていた.具体的には,《支援に入るための態勢の整え》として,情報共有を通して関係者とつながる,多職種・他部門と連携して支援体制を強化していることが示された.感染対策上,外部から遮断され,看護師は孤立感を抱きやすい状況にあった.そこで精神看護CNSは,現場に負担をかけないよう配慮をしながら,定期的に当該部署に足を運び,看護師とともに時間を過ごすことで《いつでも相談できる窓口の保証》をしていた.看護師にとって部署外の精神看護CNSや心のケアチームとつながっていられることは,安心感をもたらす意味をもっていた.さらに〈現場の支援ニーズを組織に橋渡す〉ことで宿泊施設やシャワー室などの環境整備がなされ,組織が現場の看護師を支援していることが目に見える形で伝わった.こうした働きかけは,看護師が安心して仕事を継続できる環境を整える意味をもつ.さらに《看護師のメンタルヘルスを保つための支援》により看護師が精神的に安定して看護を提供できるように支援することで,患者にとっての治療的環境を整えていたといえよう.
感染症との闘いは終息することなくアウトブレイクを繰り返し,誰もが先の見通しがもてない強い不安と恐怖を抱え続けながら第1波から第3波へと経過した.看護師が長期にわたるストレス状況に耐え,患者のケアを続けていくためには,看護師の心の回復力を高める,つまりレジリエンスを高める支援が重要である.Cooper et al.(2020)は,看護師のレジリエンスを,職場のストレッサーに前向きに適応し,心理的な危害を回避し,患者への安全で質の高いケアを提供し続けることを可能にする複雑でダイナミックなプロセスと定義し,リソースの活用と,組織の支援が必要だと述べている.精神看護CNSが《いつでも相談できる窓口の保証》,《看護師のメンタルヘルスを保つための支援》を通して看護師の支援リソースとなり,さらに組織関係者を巻き込んだ〈現場の支援ニーズを組織に橋渡す〉支援は,看護師のレジリエンスを高める意味をもつと考える.
2. 危機状況下で最善のケアをともに模索しながら看護師を支援する【危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援】は,看護師と連携し,精神看護領域と他看護領域をつなぐ「リエゾン」の2つ目の機能といえる.パンデミック以前に行われた山内ら(2013)の先行研究から,精神看護CNSの機能として「スタッフへのアドバイス」や「カウンセリング・精神療法」が示されている.パンデミック下においても〈自分たちにできる最善の看護ケアの模索〉や〈患者・家族への心理的な危機介入の引き受け〉に示されたように,看護チームへのコンサルテーションや患者・家族への直接ケアを通した支援が実践されていた.〈患者・家族ケアに関わる問題の把握と共有〉において,精神看護CNSは,パンデミック下で看護師たちがこれまで価値をおいてきたやり方でケアが提供できないことから,ケアに意味を見出すことや,仕事の達成感を得ることが難しい状況にあることを把握していた.このような看護師の体験は,コロナ禍における看護師のモラルストレッサー,モラルディストレスとして概念化され,バーンアウトにつながり得ると報告されている(Riedel et al., 2022).日々の業務負担感や情緒的疲労などのストレッサーに加え,《看護師のケア不全感の察知》という状況が持続すれば,バーンアウトを生じさせる可能性がある.《看護師のメンタルヘルスを保つための支援》は,看護師の精神的健康を高める支援の一つとして位置付けられる.それに加え,精神看護CNSは患者・家族の精神的問題の改善,看護師の負担感を軽減し,ケアの自信を回復できるように,看護師とつながり,協働して〈自分たちにできる最善の看護ケアを(の)模索〉したり,〈患者・家族への心理的な危機介入を(の)引き受け〉たりしていた.Chen et al.(2020)は,医療従事者の心理的問題への支援として支援チームを立ち上げ,オンラインコースや電話相談,心理的介入の体制を整えたものの,現場からニーズはないと拒否されたという.その後の面接調査から明らかになった現場の支援ニーズの一つは,不安やパニック状況にある患者へのケアスキルのトレーニングや,メンタルヘルスに関わる専門家が患者を直接的に支援することであったと報告されている.本研究結果で示された【危機状況下で最善のケアを提供するための看護師支援】は,まさにChen et al.が示した現場の支援ニーズに対応するものであった.
本結果から明らかになった,パンデミック下における精神看護CNS独自の役割は,様々な場面で多職種や看護管理者と連携し,患者のベッドサイドに自らも訪れ,看護師とともに最善のケアを模索しながら看護師を支援することであった.災害支援においては平時からの備えの重要性が指摘される.組織全体を揺るがす感染症との闘いにおいても,平時から組織横断的なリエゾン精神看護の実践活動を通して看護師,管理者,多職種との協働関係を築けていたことが,緊急時における速やかな支援体制の強化や看護師支援につながったと考える.
本研究は,インタビュー調査に同意が得られた,専門看護師として3~17年の実践経験を有する17名の精神看護CNSのインタビューをもとに,看護師支援のプロセスを明らかにしたものである.理論的サンプリングが十分でないこと,精神看護CNSの組織的位置付けの違いなどからデータの比較が十分ではないことは否めない.しかし,精神看護CNSによる看護師支援の仮説理論を提示できたことは本研究の強みであり,今後も生じうるパンデミックに向けて,精神看護CNSの役割を検討する上で,本結果は一つの手がかりを提供するものと考える.
謝辞:ご協力いただきました研究参加者の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は2020年度慶應義塾大学学事振興資金による研究助成を得て実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:NFは研究全体を統括し,研究計画からデータ収集と分析,最終原稿の作成に貢献した.KN,MT,CHは研究計画,データ収集と分析,原稿執筆に貢献し,すべての著者が最終原稿を読み,承認した.