2023 年 43 巻 p. 622-633
目的:「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」の概念を明らかにした.
方法:PubMed,CINAHL,APA PsycINFO,医学中央雑誌から抽出した24文献をRodgers(2000)の概念分析法で分析した.
結果:脳卒中後疲労のセルフマネジメントとは,脳卒中後疲労への適応,改善を果たすために【知識の獲得】【脳卒中後疲労の受け入れ】【ライフスタイル・価値観の変更】【セルフモニタリング】【エネルギーの消耗抑制】【活動意欲の保持】【活動予定の立案と柔軟な調整】【適正な生活習慣】【活動・休息バランスの保持】【生活環境調整】【他者からの理解・支援の要請】【教育・専門家支援の要請】という対処法を用いて,脳卒中後疲労に対処する【主体的な問題解決】のプロセスであった.
結論:脳卒中後疲労のセルフマネジメントは,脳卒中後疲労に対処する主体的な問題解決のプロセスであり,それを支援する介入の開発が期待される.
Aim: This study aimed to clarify the concept of “self-management of post-stroke fatigue.”
Methods: Search targets were publications recorded in PubMed, CINAHL, APA PsycINFO, and Igaku Chuo Zasshi. All 24 extracted publications were subjected to conceptual analysis as described by Rodgers (2000).
Findings: “Self-management of post-stroke fatigue” was a [proactive problem-solving] process to deal with post-stroke fatigue that involved measures such as [gain knowledge], [accept post-stroke fatigue], [change lifestyle/values], [self-monitoring], [reduce energy consumption], [maintain motivation for activities], [set activity plans and make adjustments flexibly], [maintain appropriate lifestyle habits], [maintain activity/rest balance], [adjust living environment], [request support/understanding from others], and [request education/support from specialist].
Conclusion: Self-management of post-stroke fatigue is a proactive problem-solving process to deal with post-stroke fatigue. The development of interventions to support problem-solving is expected.
脳卒中後の療養生活上の課題には,一般的に「疲労(fatigue)」「身体機能上の問題」「情緒の問題」がある(Lorig et al., 2020).特に,「脳卒中後疲労(post-stroke fatigue)」については,メタアナリシスの結果,脳卒中患者の50%(95%CI:43~57%,22文献,n = 3,491)(Cumming et al., 2016),あるいは,47%(95%CI:43~50%,66文献,n = 11,697)(Zhan et al., 2022)と,高い割合で脳卒中後疲労を保有することが明らかになっている.また,脳卒中後疲労は短期的な問題ではなく,脳卒中後数年から5年以上にわたり,長期的に疲労を保有する実態が複数の研究で報告されている(Eriksson et al., 2023).そして,脳卒中後疲労は,日常生活動作(activities of daily living: ADL)の低下(Glader et al., 2002),生活の質(quality of life: QOL)の低下(Tang et al., 2010)を招き,重度の疲労は,うつの発症リスク(Ormstad & Eilertsen, 2015),死亡リスク(Glader et al., 2002)を高めることが報告されている.脳卒中後疲労がもたらす結果の重篤性の観点からも,そのマネジメントは重要な課題である.
脳卒中をはじめとした慢性疾患は,医療の直接的な管理下にない在宅等において長期的な管理が求められる.長期の療養生活において,疾患に伴う症状が適切に管理されないことで,症状の悪循環をきたし,さらなる健康状態の悪化を招く(Lorig et al., 2020).脳卒中においては,複数の機能障害の併発により症状の悪循環をきたしやすい.脳卒中後疲労に関しても,疲労が適切にマネジメントされないことで,機能低下の悪循環をきたす可能性がある(Sato & Hyakuta, 2023).したがって,脳卒中後疲労等の療養生活上の課題に対して,患者が主体的に対処する「セルフマネジメント」の実践,および患者のセルフマネジメントスキルの獲得を支援する方法の確立が求められる.
脳卒中後疲労に対する薬物療法については,国外で複数の知見が積み重ねられているが,脳卒中治療ガイドライン2021(日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会,2021)等に,脳卒中後疲労に関する記載はなく,脳卒中後疲労の治療・ケアが標準的に行われている現状にはない.非薬物療法についても,近年,複数の知見が積み重ねられ,認知行動療法,マインドフルネス,運動,活動と休息に対する教育・カウンセリングが推奨されている(Lanctôt et al., 2020).しかし,エビデンスレベルが最も高いGrade Aの推奨事項は含まれず,米国心臓協会(American Heart Association)から,脳卒中後疲労に対する非薬物療法のエビデンスは構築されていないという声明が発表されている(Hinkle et al., 2017).長期の療養生活において,患者は脳卒中後疲労のセルフマネジメントを実践する必要があるが,その支援方法は十分に確立していない.
脳卒中後疲労のセルフマネジメントを支援するためには,「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」にはどのような意味が含まれるのか,すなわち,その概念(属性)を明らかにする必要がある.また,脳卒中後疲労のセルフマネジメントの前には何が起こっているのか,その結果として,何が起こっているのかを明らかにする必要がある.本研究では,脳卒中後疲労のセルフマネジメントを支援する介入の開発に向けて,「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」の概念分析を行い,その概念(属性),先行要件,帰結を明らかにすることを目的とした.
日本疲労学会(2011)の定義を引用し,「疲労とは過度の肉体的および精神的活動,または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定義する.なお,『疲労は「疲労」と「疲労感」とに区別して用いられることがあり,「疲労」は心身への過負荷により生じた活動能力の低下を言い,「疲労感」は疲労が存在することを自覚する感覚』(日本疲労学会,2011)とされている.また,『様々な疾病の際にみられる全身倦怠感,だるさ,脱力感は「疲労感」とほぼ同義』(日本疲労学会,2011)とされている.
2. 脳卒中後疲労(post-stroke fatigue)とは日本疲労学会(2011)の疲労の定義を引用し,脳卒中後疲労とは,脳卒中患者に生じる,「過度の肉体的および精神的活動,または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態」および,「疲労が存在することを自覚する感覚(疲労感,倦怠感)」と定義する.
3. セルフマネジメント(self-management)とは慢性疾患のセルフマネジメントの概念分析(浅井ら,2017)の結果を引用し,セルフマネジメントとは,「慢性疾患と共に生きる人が医療者とのパートナーシップに基づく協働により,疾患特有の管理とその影響の管理という課題に対処する活動であり,その人が問題とすることに主体的に取り組み,対処法が洗練されていくプロセスである」と定義する.
質的記述的研究デザイン
2. 概念分析の方法Rodgers(2000)の概念分析の方法を用いた.概念分析の方法は様々にあり,それぞれに独自の哲学的基盤がある.Rodgers(2000)の概念分析は,概念の普遍性を強調する本質主義(essentialism),絶対主義(absolutism)とは異なり,「概念は時間と文脈の中で変化する」といった,概念の「動的な」性質を強調している(Rodgers, 2000, pp. 99–100).脳卒中後疲労のセルフマネジメントは,保健医療情勢の変化や発展等に伴い変化する動的な側面をもつと考えられたため,この概念分析の方法を用いた.
3. データ収集方法 1) 文献検索データベースデータ収集の領域は,医学,看護学,心理学,行動科学分野とした.文献検索データベースはPubMed,CINAHL,APA PsycINFO,医学中央雑誌Webを用いた.各データベースの収録開始年から2023年4月まで(検索日:2023年4月14日)に収録された文献を検索対象とした.
2) 検索語および検索式文献検索データベースにおいて,検索語を「脳卒中後疲労(post-stroke fatigue)」「セルフマネジメント(self-management)」あるいは「マネジメント(management)」とすると,検索される文献が限定的であり,脳卒中後疲労のセルフマネジメントに関する文献が網羅的に抽出されなかった.脳卒中後疲労に関しては,「脳卒中(stroke)」と「疲労(fatigue)」の2つの用語に分けて検索することで,脳卒中後疲労に関する文献がより広く検索された.また,セルフマネジメントに関しては,その用語の定義が「慢性疾患と共に生きる人が医療者とのパートナーシップに基づく協働により,疾患特有の管理とその影響の管理という課題に対処する活動であり,その人が問題とすることに主体的に取り組み,対処法が洗練されていくプロセスである」(浅井ら,2017)ことから,「対処(coping)」という用語を用いることで,脳卒中後疲労のセルフマネジメントに関する文献がより広く検索された.したがって,検索語は「脳卒中(stroke)」「疲労(fatigue)」「対処(coping)」とし,「AND」検索を行った.
3) 分析対象文献の抽出方法以下の手順で分析対象文献を抽出した.①各文献検索データベースにおいて,検索式“「脳卒中(stroke)」AND「疲労(fatigue)」AND「対処(coping)」”で検索した.検索時に,CINAHL,APA PsycINFOにおいては「学術論文」,医学中央雑誌Webにおいては「原著論文」に限定した.②PubMed,CINAHL,APA PsycINFOで検索された全文献から,重複文献を削除した.③レビュー論文を削除した.④タイトル,抄録を読み,脳卒中後疲労のセルフマネジメントに関する文献,すなわち,脳卒中後疲労の「対処」に関する記述のある文献を選択した.①~④の過程により,PubMed,CINAHL,APA PsycINFOから20件,医学中央雑誌Webから2件,計22件の文献が抽出された.なお,④に該当せず除外された文献には,脳卒中以外の疾患を対象とした文献,介護者を対象とした文献,脳卒中後疲労以外の症状(疼痛,うつなど)や機能障害(認知機能障害など)に焦点を当てた文献,尺度開発に関する文献,脳卒中後疲労に対する介入研究が含まれた.
脳卒中後疲労のセルフマネジメントに関する文献はPubMedで最も多く検索され,CINAHL,APA PsycINFOで検索された文献の約7割はPubMedの検索結果と重複していた.そこで,「stroke」と「fatigue」に加えて,「coping」という検索語を入れたために検索から漏れた文献がないか確認するため,再度PubMedにおいて「stroke」と「fatigue」のみを検索語とし,「AND」検索を行った.その結果,2,360件が検索された.このうち,タイトルに「stroke」と「fatigue」を含む文献,学術論文,脳卒中後疲労に関する文献を選択すると321件となった.この321件には,脳卒中後疲労の実態調査,レビュー,評価ツールの開発,介入研究等様々な文献が含まれた.そして,実態調査の中に,脳卒中後疲労の体験とその対処に関する質的記述的研究が10件報告されており,10件全てにおいて脳卒中後疲労のセルフマネジメントに関する記述が含まれた.この10件のうち8件は前述の「stroke」「fatigue」「coping」を検索語としてPubMed,CINAHL,APA PsycINFOから抽出された文献と重複していた.重複文献を除いた2件を分析対象文献に加え,計24件を分析対象文献とした(図1)(表1).
脳卒中後疲労のセルフマネジメントに関する文献の抽出過程
「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」の概念分析に用いた文献一覧
著者 | 発行年 | タイトル | 出典 |
---|---|---|---|
Röding J, et al. | 2003 | Frustrated and invisible—younger stroke patients’ experiences of the rehabilitation process | Disabil Rehabil. 25(15), 867–874. |
Jaracz K, et al. | 2007 | Clinical and psychological correlates of poststroke fatigue. Preliminary results | Neurol Neurochir Pol. 41(1), 36–43. |
Visser-Meily JM, et al. | 2009 | Long-term health-related quality of life after aneurysmal subarachnoid hemorrhage: relationship with psychological symptoms and personality characteristics | Stroke. 40(4), 1526–1529. |
Carlsson GE, et al. | 2009 | Managing an everyday life of uncertainty—a qualitative study of coping in persons with mild stroke | Disabil Rehabil. 31(10), 773–782. |
千葉ら | 2009 | 脳卒中患者の在宅移行期における看護ニーズの検討 4事例の検討から | 長野県看護大学紀要. 11, 39–49. |
Zedlitz, et al. | 2011 | Patients with severe poststroke fatigue show a psychosocial profile comparable to patients with other chronic disease: implications for diagnosis and treatment. | ISRN Neurol. 2011, 627081. doi: 10.5402/2011/627081 |
White JH, et al. | 2012 | Exploring the experience of post-stroke fatigue in community dwelling stroke survivors: a prospective qualitative study | Disabil Rehabil. 34(16), 1376–1384. |
Kirkevold M, et al. | 2012 | Fatigue after stroke: manifestations and strategies | Disabil Rehabil. 34(8), 665–670. |
Barbour VL, et al. | 2012 | fatigue after stroke: The Patient’s Perspective | stroke Res Treat. 2012, 863031. doi: 10.1155/2012/863031. |
Eilertsen G, et al. | 2013 | Experiences of poststroke fatigue: qualitative meta-synthesis | J Adv Nurs. 69(3), 514–525. |
Young CA, et al. | 2013 | Poststroke fatigue: the patient perspective | Top Stroke Rehabil. 20(6), 478–484. |
Kitzmüller G, et al. | 2013 | Living an unfamiliar body: the significance of the long-term influence of bodily changes on the perception of self after stroke | Med Health Care Philos. 16(1), 19–29. |
Donnellan C, et al. | 2013 | Mapping patients’ experiences after stroke onto a patient-focused intervention framework | Disabil Rehabil. 35(6), 483–491. |
Wu S, et al. | 2014 | Psychological associations of poststroke fatigue: a systematic review and meta-analysis | Stroke. 45(6), 1778–1783. |
Eilertsen G, et al. | 2015 | Similarities and differences in the experience of fatigue among people living with fibromyalgia, multiple sclerosis, ankylosing spondylitis and stroke. | J Clin Nurs. 24(13–14), 2023–2034. |
Balasooriya-Smeekens C, et al. | 2016 | Barriers and facilitators to staying in work after stroke: insight from an online forum | BMJ Open. 6(4), e009974. doi: 10.1136/bmjopen-2015-009974. |
Worthington E, et al. | 2017 | The day-to-day experiences of people with fatigue after stroke: Results from the Nottingham Fatigue After Stroke study. | International Journal of Therapy & Rehabilitation. 24(10), 449–455. |
Thomas K, et al. | 2019 | How is poststroke fatigue understood by stroke survivors and carers? A thematic analysis of an online discussion forum | BMJ Open. 9(7), e028958. doi: 10.1136/bmjopen-2019-028958. |
Kjærhauge CL, et al. | 2021 | Quickly home again: patients’ experiences of early discharge after minor stroke. | Scand J Caring Sci. 35(4), 1187–1195. |
Harris WG, et al. | 2021 | Socio-ecological perspective on factors influencing acute recovery of younger stroke survivors: A mixed methods study | J Adv Nurs. 77(6), 2860–2874. |
安田ら | 2022 | 回復期リハビリテーション病棟入院初期の脳血管障害患者が経験する疲労と対処 | 摂南大学看護学研究. 10(1), 1–11. |
Ablewhite J, et al. | 2022 | How do stroke survivors and their caregivers manage post-stroke fatigue? A qualitative study | Clin Rehabil. 36(10), 1400–1410. |
Bicknell ED, et al. | 2022 | “I Give It Everything for an Hour Then I Sleep for Four.” The Experience of Post-stroke Fatigue During Outpatient Rehabilitation Including the Perspectives of Carers: A Qualitative Study | Front Neurol. 13, 900198. doi: 10.3389/fneur.2022.900198. |
Eriksson G, et al. | 2023 | Handling fatigue in everyday activities at five years after stroke: A long and demanding process | Scand J Occup Ther. 30(2), 228–238. |
概念分析に用いる文献数については,各分野または階層から少なくとも30,または母数の20%のいずれか大きい方とされている(Rodgers, 2000, pp. 88–89).脳卒中後疲労のセルフマネジメントに関する文献は2003年以降に報告されており,その概念は比較的新しく,母数が30に満たなかったため,本研究では医学,看護学,心理学,行動科学分野から抽出された24件全数を分析対象とした.
4. 倫理的配慮各文献を精読し,文献の意味内容に忠実に,データ抽出,分析を行った.
「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」の概念分析の結果,以下の概念(属性),先行要件,帰結が抽出された(表2)(図2).以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを[ ],文献から抽出された分析データを〈 〉で示す.なお,分析対象文献全24文献の分析過程において,10~15文献の分析を終えた時点でカテゴリに重複が多く認められるようになり,20~24文献で新たなカテゴリが生成されなくなった.
「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」の属性・先行要件・帰結
「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」の概念分析結果
「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」の属性として,【主体的な問題解決】【知識の獲得】【脳卒中後疲労の受け入れ】【ライフスタイル・価値観の変更】【セルフモニタリング】【エネルギーの消耗抑制】【活動意欲の保持】【活動予定の立案と柔軟な調整】【適正な生活習慣】【活動・休息バランスの保持】【生活環境調整】【他者からの理解・支援の要請】【教育・専門家支援の要請】が抽出された.
【主体的な問題解決】には,〈疲労という課題への対処はミッションであると捉える〉(Kirkevold et al., 2012)等の[脳卒中後疲労に対する主体的な問題解決],〈具体的な目標設定をする〉(Young et al., 2013)等の[脳卒中後疲労の改善に向けた目標設定]が含まれた.
【知識の獲得】には,〈疲労はなぜ生じるのか情報を求める〉(Röding et al., 2003)等の[脳卒中後疲労に関する情報の入手],〈経験を基に試行錯誤しながら疲労の誘因を認識し対処法を見つける〉(Bicknell et al., 2022)等の[脳卒中後疲労に関する経験知の獲得]が含まれた.
【脳卒中後疲労の受け入れ】には,〈脳卒中後疲労は非常に一般的であると受け入れる〉(Thomas et al., 2019)等の[一般的なこととしての脳卒中後疲労の受け入れ],〈脳卒中前のように機能できないことを受け入れる〉(Balasooriya-Smeekens et al., 2016)等の[脳卒中後疲労による活動・参加制約の受け入れ]という意味が含まれた.
【ライフスタイル・価値観の変更】は,〈今までの価値観・目標を見直し新たな価値観・目標を見つける〉(Carlsson et al., 2009),〈以前は好きだった活動も今はエネルギーが必要であるため優先順位を下げる〉(Eriksson et al., 2023)等の[発症前のライフスタイル・価値観・優先順位の変更]を意味した.
【セルフモニタリング】は,〈自分の体に耳を傾ける〉(Balasooriya-Smeekens et al., 2016),〈疲労に積極的に注意を払う〉(Bicknell et al., 2022),〈疲労日記を使って脳卒中後疲労をマネジメントする〉(Ablewhite et al., 2022)等の[セルフモニタリングによる疲労の認知・予測]を意味した.
【エネルギーの消耗抑制】には,〈意識的に省エネルギーの原則を日常生活に取り入れる〉(White et al., 2012)等の[省エネルギーな活動方法の選択],〈できることとできないことを見極めて対処する〉(Kirkevold et al., 2012)等の[限られたエネルギーで実行可能な活動の選択]という意味が含まれた.
【活動意欲の保持】は,〈ポジティブなセルフトークによりやる気を起こさせる〉(White et al., 2012),〈たとえ休息が必要になったとしても常に参加を決意する〉(Bicknell et al., 2022)等の[限られたエネルギーでの活動意欲の保持]ということを意味した.
【活動予定の立案と柔軟な調整】には,〈日常生活や社会活動への参加,休息について計画を立てる〉(Eriksson et al., 2023)等の[活動予定の立案],〈毎日の疲労度に合わせて活動や計画を変更する〉(Bicknell et al., 2022)等の[疲労に合わせた活動予定の柔軟な調整],〈活動時間を短くし休息を挟むというペース配分を行う〉(Worthington et al., 2017)等の[活動ペースの調整・スローペースな活動]という意味が含まれた.
【適正な生活習慣】には,〈疲れないように生活リズムを崩さない〉(安田ら,2022)等の[生活リズムの調整],〈食事を変えることによって脳卒中後疲労をマネジメントする〉(Ablewhite et al., 2022)等の[適正な食習慣],[適正なアルコール摂取]という意味が含まれた.
【活動・休息バランスの保持】は,〈休息または睡眠を毎日のスケジュールに取り入れる〉(Eilertsen et al., 2013)等の[戦略的な休息・睡眠の確保],〈座りっぱなしのライフスタイルを避ける〉(Worthington et al., 2017)等の[適度な身体活動],〈リラクゼーション・瞑想〉(Ablewhite et al., 2022)等の[精神的ストレスの回避],〈一時的に活動や社会参加を制限し,再び参加するようにコントロールする〉(Kirkevold et al., 2012)等の[社会参加の一時的な制限と段階的な拡大],〈レジャー活動への参加〉(Carlsson et al., 2009)等の[余暇活動への参加]が含まれた.
【生活環境調整】は,〈騒音を避ける〉(Carlsson et al., 2009),〈強い照明を避ける〉(Carlsson et al., 2009),〈疲労を軽減するための補助具(椅子など)を用いる〉(Worthington et al., 2017)等の[静かで安らぐ生活環境の調整]を意味した.
【他者からの理解・支援の要請】は,〈疲労の存在を他者に承認してもらうように働きかける〉(Eilertsen et al., 2013)等の[脳卒中後疲労に対する他者からの理解・支援の要請]を意味した.
【教育・専門家支援の要請】は,〈脳卒中後疲労,その持続的な影響,その対処法について入院中に教育を受ける〉(Worthington et al., 2017)等の[脳卒中後疲労に対する教育・専門家支援の要請]を意味した.
脳卒中後疲労のセルフマネジメントの概念として抽出されたカテゴリは,脳卒中後疲労の改善に向けて,目標設定を行い,様々な対処法を用いて,主体的に問題解決を図る動的なプロセスを意味した.
2. 脳卒中後疲労のセルフマネジメントの先行要件脳卒中後疲労のセルフマネジメントの先行要件として,【脳卒中後疲労の認知】【脳卒中後疲労に関する知識】【脳卒中後疲労による結果の重大性の認知】【活動・役割遂行への欲求・意欲】【他者からの理解・支援】【教育・専門家支援】が抽出された.
【脳卒中後疲労の認知】には,〈通常のライフイベントに伴う疲労とは異なる脳卒中後疲労を認知する〉(Kirkevold et al., 2012)等の[脳卒中後疲労の認知],〈ハードな活動をした後は回復に時間がかかると認識する〉(White et al., 2012)等の[脳卒中後疲労の発生要因の認知]が含まれた.
【脳卒中後疲労に関する知識】は,〈毎日良い休息をとることが重要であると認識する〉(White et al., 2012)等の[脳卒中後疲労とその対処法に関する知識]を意味した.
【脳卒中後疲労による結果の重大性の認知】は,〈脳卒中後疲労は認知機能,言語機能,身体機能に悪影響を及ぼすことを認識する〉(White et al., 2012)等の[脳卒中後疲労による機能低下リスクの認知],〈脳卒中後疲労と共に生きることを学ぶ必要があると認識する〉(Thomas et al., 2019)等の[脳卒中後疲労に対処する必要性の認知]が含まれた.
【活動・役割遂行への欲求・意欲】には,[価値を置く活動・役割の保有],〈疲労により仕事や家庭生活における役割遂行に支障をきたす〉(Kitzmüller et al., 2013)等の[脳卒中後疲労による参加制約・役割喪失・困難体験],[活動遂行への強い欲求],〈疲労を払拭して前に進まなければならない〉(Kirkevold et al., 2012)等の[脳卒中後疲労の改善に取り組む意欲・決意]が含まれた.
【他者からの理解・支援】は,〈協力的な家族や友人〉(Balasooriya-Smeekens et al., 2016)等の[脳卒中後疲労に対する他者からの理解・支援]を意味した.
【教育・専門家支援】は,〈退院時に脳卒中後疲労について説明を受けた〉(Kjærhauge Christiansen et al., 2021)等の[脳卒中後疲労に対する教育・専門家支援]を意味した.
3. 脳卒中後疲労のセルフマネジメントの帰結脳卒中後疲労のセルフマネジメントの帰結として,【脳卒中後疲労への適応】【脳卒中後疲労の改善】【意欲の改善】【活動・役割遂行】【他者の理解の向上】【QOLの向上】が抽出された.
【脳卒中後疲労への適応】は,〈時間経過とともに自分自身への期待の変化を伴う脳卒中後疲労を受容し適応する〉(White et al., 2012)等,疲労改善には至らないものの,[脳卒中後疲労への適応]を意味した.
【脳卒中後疲労の改善】は,〈疲労が軽減し休息時間が短くなる〉(Bicknell et al., 2022)等,[脳卒中後疲労の改善]を意味した.
【意欲の改善】には,〈障壁に対する問題解決ができたことで意欲が維持される〉(White et al., 2012)等の[意欲の改善],〈人生の正常性や楽しみを見出す〉(Bicknell et al., 2022)等の[ポジティブな感情]が含まれた.
【活動・役割遂行】は,〈徐々に役割喪失から逃れ,より優先度の高い役割に力を注ぐ〉(White et al., 2012)等の[価値を置く活動への参加・役割遂行],〈コントロール感覚を取り戻す〉(Young et al., 2013)等の[自立性・自律性の向上]が含まれた.
【他者の理解の向上】は,〈職場の理解の向上〉(Balasooriya-Smeekens et al., 2016),〈家族の理解を得る〉(Eriksson et al., 2023)等の[脳卒中後疲労に対する他者の理解の向上]を意味した.
【QOLの向上】には,〈人生が前向きに発展する〉(Eilertsen et al., 2013)等の[新たなライフスタイル・価値観の創出],〈満足感・充実感〉(Donnellan et al., 2013)等の[QOLの向上]が含まれた.
4. 脳卒中後疲労のセルフマネジメントの定義概念分析の結果から,「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」とは,「脳卒中後疲労への適応,改善を果たすために,知識の獲得,脳卒中後疲労の受け入れ,ライフスタイル・価値観の変更,セルフモニタリング,エネルギーの消耗抑制,活動意欲の保持,活動予定の立案と柔軟な調整,適正な生活習慣,活動・休息バランスの保持,生活環境調整,他者からの理解・支援の要請,教育・専門家支援の要請という対処法を用いて,脳卒中後疲労に対処する,主体的な問題解決のプロセスである」と定義された.
脳卒中後疲労のセルフマネジメントは,脳卒中後疲労という療養生活上の課題に対処する患者の主体な問題解決プロセスであった.慢性疾患のセルフマネジメントは,疾患特有の管理とその影響の管理という課題に対処する活動であり,その人が問題とすることに主体的に取り組み,対処法が洗練されていくプロセスであり(浅井ら,2017),患者が主体的に問題解決に取り組む点においては一致した見解が得られた.
加えて,本研究で新たに,脳卒中後疲労のセルフマネジメントには,【知識の獲得】【脳卒中後疲労の受け入れ】【ライフスタイル・価値観の変更】【セルフモニタリング】【エネルギーの消耗抑制】【活動意欲の保持】【活動予定の立案と柔軟な調整】【適正な生活習慣】【活動・休息バランスの保持】【生活環境調整】【他者からの理解・支援の要請】【教育・専門家支援の要請】という対処の意味が含まれることが明らかになった.
疲労は身体の活動能力の減退状態であり(日本疲労学会,2011),活動を遂行するエネルギーが不足している状態である.本研究結果から,患者は,脳卒中後疲労を有する自分の状態を理解して受け入れ,エネルギーの消耗を抑えながら,限られたエネルギーで戦略的に活動を遂行し,脳卒中後疲労の改善に向けて,主体的に対処し,対処法を獲得していると推察された.
疲労は心身への過負荷により生じる(日本疲労学会,2011)ため,一般的には心身の過負荷を避け,休養をとるという対処行動がとられる.しかし,本研究結果からは,単に疲れたら休むという受動的な対処行動では疲労改善は期待できないことが明らかになった.患者は疲労改善のために戦略的な休息・睡眠の確保を図りながら,適度な身体活動を行い,精神的ストレスを回避し,社会活動や余暇活動への参加を行い,活動と休息バランスの保持に努めていた.身体活動量については,先行研究において,脳卒中後疲労と身体活動量の低下は強く関連することが報告されている(Braaten et al., 2020;Duncan et al., 2015).また,米国心臓協会の声明(Hinkle et al., 2017)では,脳卒中後疲労は座位中心のライフスタイルによって悪化するため,定期的な運動が推奨されている.脳卒中後疲労の対処法として戦略的に休息・睡眠を確保した上で,適度な身体活動を行うことは医学的推奨事項と一致している.精神的ストレスの回避については,脳卒中後疲労に対する介入研究のメタアナリシスで,精神的ストレスの改善を目的としたマインドフルネスの効果が報告されている(Ulrichsen et al., 2016).社会参加,余暇活動による疲労改善効果に関するデータは十分に検索されないが,非活動的なライフスタイルにならない点においては,医学的推奨事項と矛盾はない.本研究結果から,脳卒中後疲労のセルフマネジメントの概念に含まれるこれらの対処法は,医学的推奨事項と一致または矛盾はなく,患者はこれらの対処法を自らの経験知,または,専門家からの教育によって獲得していると考えられた.
脳卒中後疲労のセルフマネジメントの先行要件には,【脳卒中後疲労の認知】【脳卒中後疲労に関する知識】【脳卒中後疲労による結果の重大性の認知】【活動・役割遂行への欲求・意欲】【他者からの理解・支援】【教育・専門家支援】があることが明らかになった.脳卒中後疲労のセルフマネジメント支援においては,前述の対処法の実践を支援することに加えて,これらの先行要件の強化が求められる.先行要件の強化においてはいくつかの課題があると考えられる.一つは,脳卒中後疲労の認知の際に課題となる,脳卒中後疲労の可視化の問題である.現在,脳卒中後疲労の評価法は,主として,疲労を測定する質問紙を用いた主観的評価法が用いられる.疲労はその時々の状況で変化する特性があり,患者には変化する状況に応じた対処が求められることから,主観的評価法に加えて,可視化された客観的評価法の開発が求められる.また,一つは,活動・役割遂行やセルフマネジメントの実践の際に課題となる,脳卒中後の意欲低下(Apathy等)の問題である.脳卒中後には約4割の患者が意欲低下,発動性の低下を主としたApathyを併発する(佐藤・百田,2022).脳卒中後疲労のセルフマネジメントは患者主体の問題解決プロセスであり,患者が主体的に問題解決に取り組むためには,意欲を高めるまたは,意欲低下を補う支援の提供が求められる.本研究結果からは,患者は少ないエネルギーで活動意欲の保持に努めていた.脳卒中後の意欲低下(Apathy等)と,脳卒中後疲労が併存した状態においては,意欲の保持はより一層困難になると推察され,意欲の保持に対する重点的な介入が求められる.さらに,一つは,現在,脳卒中治療ガイドライン2021(日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会,2021)に,脳卒中後疲労に関する記載はなく,その治療・ケアが標準的に行われている現状にはなく,他者からの理解・支援,および,専門家支援が充足している現状にはない.今後,支援方法を確立し,支援を充足する必要がある.
脳卒中後疲労のセルフマネジメントの帰結として,【脳卒中後疲労への適応】【脳卒中後疲労の改善】【意欲の改善】【活動・役割遂行】【他者の理解の向上】【QOLの向上】があることが明らかになった.脳卒中急性期における疲労の発生には,脳卒中の発症自体,つまり,脳卒中による炎症反応,神経毒性等が影響する(Ormstad & Eilertsen, 2015).特に,脳卒中後1週間は炎症反応による疲労の発生が予測されるため,この間に脳卒中後疲労の改善を果たすことは困難であると推察される.したがって,脳卒中急性期においては,疲労改善より,脳卒中後疲労への適応を果たすことが求められ,実際に患者は疲労への適応を果たしていたと考えられた.脳卒中後疲労の発生要因には,脳卒中の発症自体に加えて,感情要因,身体的要因,心理的要因,行動要因といった複数の要因がある(Wu et al., 2015).これらの要因に対する包括的なマネジメントが行われたことによって,疲労改善に加えて,心理的側面,社会的側面,さらにはQOLの向上が果たされたと推察された.
脳卒中後疲労のセルフマネジメントに含まれる概念は,医学的推奨事項と一致または矛盾はなく,脳卒中後疲労のセルフマネジメントによって疲労改善に加えて,心理的側面,社会的側面,QOLの向上が果たされた.脳卒中後疲労のセルフマネジメントの支援方法は十分に確立しておらず,本研究結果で明らかになった脳卒中後疲労のセルフマネジメントの先行要件を強化し,セルフマネジメントの実践を支援する介入の開発が期待される.
本研究では,医学,看護学,心理学,行動科学分野の文献を分析対象とした.脳卒中後疲労のセルフマネジメントに関する文献は2003年以降に報告されており,文献件数は全24件であったことから,脳卒中後疲労のセルフマネジメントの概念は発展途中であると考えられた.ただし,全24件の分析過程において,20~24件で新たなカテゴリが生成されなくなったことから,本研究結果は,現在ある研究データに基づく一定の質は確保できた.脳卒中後疲労のセルフマネジメントは,保健医療情勢の変化や発展等に伴い変化する動的な側面をもつと考えられるため,今後もデータを更新する必要がある.
「脳卒中後疲労のセルフマネジメント」とは,「脳卒中後疲労への適応,改善を果たすために,知識の獲得,脳卒中後疲労の受け入れ,ライフスタイル・価値観の変更,セルフモニタリング,エネルギーの消耗抑制,活動意欲の保持,活動予定の立案と柔軟な調整,適正な生活習慣,活動・休息バランスの保持,生活環境調整,他者からの理解・支援の要請,教育・専門家支援の要請という対処法を用いて,脳卒中後疲労に対処する,主体的な問題解決のプロセスである」と定義された.患者の主体的な問題解決を支援する介入の開発が期待される.
付記:本論文の内容の一部は,第41回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究は「脳卒中後疲労セルフマネジメントプログラムの開発」に向けた研究の一部であり,JSPS科研費JP20K19215の助成を受けたものです.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:佐藤美紀子は研究の全てを実施し,百田武司は原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.