日本看護科学会誌
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原著
看護職の経験学習を促進するリフレクションマッププログラム(Reflection-Map Program: RMP)の開発と効果の検証
飯岡 由紀子渡邉 直美田代 真理髙山 裕子榎本 英子廣田 千穂木原 円子遠藤 まりえ
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2023 年 43 巻 p. 676-688

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Abstract

目的:看護職の経験学習を促進するリフレクションマッププログラム(RMP)を開発し,その効果を検証する.

方法:RMPはALACTモデルを基盤とし,ブレインストーミングから抽出したテーマや問いを配置した5段階プログラムとして開発した.RMPに参加した看護職を対象に単群前後比較の準実験研究を行った.RMP開始前と直後に看護師レジリエンス尺度や心理的ストレス反応尺度等を含めた質問紙調査を行った.研究倫理審査の承認を得て行った.

結果:260名のデータを分析した.前後比較では看護師レジリエンス尺度得点が有意に増加した.看護に対するモチベーション3項目,自己肯定感2項目,看護実践に対する困難感2項目の得点に有意差があった.心理的ストレス反応尺度得点が有意に減少した.プログラム評価は満足度や役立ち度等が7点以上だった.

結論:RMPはレジリエンスの向上や心理的ストレス緩和の効果があることが示された.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to develop and examine the effects of a reflection-map program (RMP) that promotes experiential learning in nurses.

Methods: Based on the ALACT model, an RMP was developed as a 5-step program employing themes and questions derived from brainstorming. A single-group, before-after quasi-experimental study was carried out on nurses who participated in the RMP. Prior to the RMP and immediately after, a questionnaire including the Resilience Scale for Nurses and Psychological Stress Response Scale (SRS-18) was administered. This study received approval from the research ethics review committee.

Result: Analysis was conducted on data from 260 respondents. A before-after comparison showed a significant increase in scores for the Resilience Scale for Nurses, a significant difference in scores for 3 items related to motivation in nursing, 2 items related to self-esteem, and 2 items related to feeling difficulty in nursing practice, as well as a significant decrease in SRS-18 scores. The program evaluation received 7 or more points in areas such as level of satisfaction and utility.

Conclusion: The RMP was shown to be effective in boosting resilience and mitigating psychological stress.

Ⅰ. 研究背景

Bennerの研究の基盤となったドレスファイモデルは,達人の臨床的かつ倫理的スキルの獲得と形成に関して,どんな分野の学修においても初心者レベルから達人レベルへ進むためには,経験的学習が必要不可欠としている(Benner et al., 2009/2015).また,Bennerは技能を習慣的に使い実践に従事しながら得られた知識である実践知は経験的学習によって身につくと言及している(Benner et al., 2011/2012).つまり実践は,エビデンスを基盤とした実践だけでなく,その状況に適するよう柔軟な対応の繰り返しによって得られる実践知が重要である.看護実践知は,看護師が実務経験の中で発見・獲得・蓄積した看護師としてより良く働くために有用な知恵やノウハウと定義されている(藤本ら,2021).経験そのものが実践知につながることもあるが,Sohőnは,実践が繰り返され決まりきったものになるについて,実践の中の知の生成が暗黙的で無意識的になり,深く考える大事な機会を見失ってしまう(Sohőn, 1983/2009)と言及しているように,経験に対して内的対話や他者との対話による経験の熟考により実践知として認識する機会が重要である.Sohőnは,行為の中には何をするべきかという知的要素が埋め込まれ,行為の中の省察を提唱している(Sohőn, 1983/2009).また,このプロセス全体が,実践者が状況のもつ不確実性や不安定さ,独自性,状況における価値観の葛藤に対応する際に用いるわざの中心部分を占めていると言及している(Sohőn, 1983/2009).この経験から学習するプロセスについてKolbは経験学習モデルを提唱した(坂田ら,2019).経験学習モデルの具体的な経験を概念化する段階ではReflective Observationが必要とされ,リフレクションは経験学習に必要な営みである.リフレクションは,自分の体験を振り返り,「前提を疑う」ことで潜在的な価値観や暗黙的な判断や自分の思考パターンなどに対する学びを深めるプロセスである(坂田ら,2019).つまり,リフレクションは,経験を意識化・言語化し,潜在的な価値観などの気づきを通して実践知の獲得を促すと考える.そのためリフレクションは,専門職として求められる実践力を育成させる教授法と考えられ(Sarah & Chris, 2000/2005),看護基礎教育や継続教育に取り入れられている.

リフレクションは多様な形態で教育に導入されているが,明確な効果のエビデンスを示した研究は限られる.さらにプログラムの効果は質的研究で検討されていることが多い(新田ら,2019武藤・前田,2018児玉・東,2017千治松ら,2017Parrish & Crookes, 2014).また,教育プログラムの一部にリフレクションを含む場合もあり(安藤ら,2020),リフレクションのみの効果は明確ではない.そのような中でも,リフレクションによる効果として心理的ストレスの緩和(佐藤ら,2018Pai, 2015),批判的思考態度,クリティカルシンキングスキル,コミュニケーション能力の向上(池内・上野,2020Kim et al., 2018),臨床実践力の向上(岩國ら,2018Pai, 2015),エンパワメントの向上(児玉・東,2017)などが示されている.特に,心理的ストレスの緩和は量的研究によるエビデンスが示されている.近年,急速な高齢化に伴う疾病構造の多様化,医療技術の進歩,情報化社会,医療に対する国民の意識の変化など,医療を取り巻く環境が変化し(厚生労働省,2021),臨床で勤務する看護職のストレスは高まる傾向にある.看護職員の確保対策においてもストレス緩和は重要課題と考える.一方,病に苦しむ患者・家族に寄り添う看護職にとって,ストレスを激減させることは現実的には非常に困難である.近年,強いストレスを受けても自己を立て直す回復力としてレジリエンスが注目されている.ストレスの緩和という観点だけでなく,過酷なストレス状況であっても心理的強さを持ち,ポジティブな思考や柔軟な適応力を発揮するレジリエンスを向上させる観点が重要と考える.要するに,現代の医療現場で活躍する看護職にとってレジリエンスは重要な能力と考える.看護師のレジリエンスの概念分析では,属性に【自己理解,状況理解】が含まれ,自分の考え,感情,行動をモニターし批判的・客観的に省察することが言及されている(砂見,2018).リフレクションに関する既存研究にてレジリエンスの効果を量的に検証した研究はなく,本研究ではレジリエンスに焦点をあてた.

そして,リフレクションの効果が示された研究のプログラムは,その多くが数カ月に及ぶ介入であり,実臨床での教育プログラムとして実践するには難易度が高い.さらにリフレクションプログラムは,その方法によってファシリテーターの負担感や,スケジュール管理のしやすいさなどが異なる(飯岡ら,2019).臨床の看護職にとって実用性の高いプログラムでなければ定着しにくい.従って,実施時間の短縮化,スケジュール管理のしやすさ,ファシリテーターの負担感軽減などを考慮したリフレクションプログラムを開発し,そのプログラムの実用性や効果を検討する必要がある.この成果は,看護職の現任教育やキャリア支援への基礎的資料となり,ひいては看護職の離職率低下への示唆が得られると考える.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,看護職の経験学習を促進するリフレクションマッププログラム(Reflection-Map Program: RMP)を開発し,その効果を検証することである.

レジリエンスは,過酷なストレスにもかかわらず,高いモラールを持ち,逆境を克服していく心理的回復力と言及される(尾形ら,2010).RMPは自身の看護や思考過程を振り返り,経験の捉え直し,認知の柔軟性の高まり,看護観の再認識,フィードバックによる承認などにより心理的回復力が高まると考える.RMPによりレジリエンスが向上すると仮定し,Primary outcomeに設定した.そして,看護師のレジリエンスの概念分析では,自尊心の回復,肯定的感情の取り戻し,看護に対する肯定的な取り組みが帰結として示されている(砂見,2018).RMPによるレジリエンスの向上により,看護に対するモチベーションや自己肯定感が高まり,看護実践の困難感が緩和すると仮定した.また,RMPは,経験を語ることでのカタルシスの効果と見解の広がりなどにより心理的ストレスが緩和すると仮定した.

Ⅲ. 研究方法

1. 看護職の経験学習を促進するリフレクションマッププログラム(RMP)の開発

RMPは,リフレクション研修の経験を豊富にもつ看護師6名(専門看護師5名,認定看護師1名)と看護学研究者2名で開発した.プログラム開発前にはリフレクションに関する勉強会を開催し,基盤となる知識の統一化をはかった.その後,研究会議を繰り返し,以下の経過を経てプログラムを構築した.

RMPは看護職を対象とし,「体験を振り返ることで,新たな気づきを得て,実践に活かすことができる」を目的とした.RMPは看護実践への反映を重要視するため,学びを選択肢の拡大へと発展させるモデルであるコルトハーヘンのALACTモデル(坂田ら,2019)を基盤とした.ALACTモデルは,「行為(A: Action)」「行為の問い直し(L: Looking back on the action)」「本質的な諸相への気づき(A: Awareness of essential aspects)」「行為の選択肢の拡大(C: Creating alternative methods of action)」「試み(T: Trial)」で構成される(坂田ら,2019).このプロセスに応じて,RMPは①から⑤の段階として構成した(表1).ALACTモデルの「行為の問い直し」では,したかったこと(What),したこと(Do),考えたこと(Think),感じたこと(Feel),どのような文脈か(Context)の問いを提言している(坂田ら,2019).リフレクションにおいて,問いは思考を深める契機となり対話を促す効果があると考え,RMPでは問いを重視した.だがALACTモデルの問いは抽象度が高いため,看護職が経験を想起しやすく,思考が深まり,対話が活性化するための工夫が必要と考えた.さらに,実用性の高いプログラムにするため,各段階の思考や対話を促すテーマ設定が重要と考えた.従って,①~⑤の過程に対応して,リフレクションを促進するテーマや問いを検討した.テーマと問いの原案は,研究会議のブレインストーミングにて,RMPの段階を想定して,効果的なテーマや問いをポストイットに記載した.ポストイットは共通性と相違性を踏まえて集約して整理した.さらに,簡潔で分かりやすい表現になるよう検討を繰り返し,最終的に表1に示した通りとなった.各段階のテーマや問いは,1枚のシートに印字して一見してわかるツールとして開発し,“リフレクションマップ”と命名した.RMPは,ALACTモデル(坂田ら,2019)を基盤とし,リフレクションマップというツールを活用して,経験を活かした学習プロセスを促進するプログラムとした.RMPは2~6名程度のグループで展開し,各グループにファシリテーターを配置した.ファシリテーターは「安心安全な場づくり」「タイムマネジメント」を主な役割とし,マニュアルを作成した.ファシリテーターには,マニュアルを用いて,RMPの特徴と展開の講義と演習を含めた研修を行った.ファシリテーターは17名となり,平均看護職臨床経験は22.9年だった.また,RMPのグラウンドルールを設定し,参加者全員が厳守することとした.

表1 

看護職の経験学習を促進するリフレクションマッププログラムの概要

ALACTモデル 看護職の経験学習を促進するリフレクションマッププログラム
プロセス 実施方法 テーマと問い 所要時間(分) グラウンドルール
A:行為 ①テーマの選択 6つのテーマから振り返りたいテーマを一つ選択する. 6テーマ ・ジレンマに感じていること
・モヤモヤしていること
・思いがけずうまくいったこと
・やりがいを感じたこと
・成し遂げたいこと
・チャレンジできていないこと
5 ・安心安全な場での対話にします.誹謗中傷はおやめください.
・参加者の一人ひとりが主役です.自分だけでしゃべり過ぎず,グループ皆さんとの対話を大切にしてください.
・この場で出てきた話しは,この場だけのものにしてください.個人的なエピソードを,他の方に話すことはおやめください.
・話したくないことは,話さなくて大丈夫です.パスも可能です.自分のペースで安心してお話してください.
L:行為の問い直し ②ふりかえり グループ内の1名が「語り手」となり,①で選択したテーマに従ってエピソードを語る.その後,「語り手」以外のグループメンバー(「サポーター」)から26の問いを活用して「語り手」に問いを投げかけ,「語り手」が語る.この対話を繰り返す. 26の問い 基本の問い ・自由な質問「……」
・もう少し具体的に
20~30
あなたの思い・考え ・その時どんな気持ちでしたか?
・なぜそう思うのですか?
・その時どんな事を考えていましたか?
・(自分は)どうしたいと思いますか?
・解決したいことは何ですか?
・(相手に)どうなって欲しいと考えてますか?
状況理解 ・どのような人が関わっていましたか?
・相手はどう思っていたのですか?
・相手(周り)の状況はどうでしたか?
・相手にどのような変化がありましたか?
価値観 ・避けたいことは何ですか?
・ゆずれないことは何ですか?
・大切に思っていることは何ですか?
・あなたのどのような考え方が影響していますか?
・なぜそのような行動をしましたか?
視点の切り替え・広がり ・他にできることはありましたか?
・それは良くないことですか?
・それはあなたがやるべきことですか?
・あなたの目指すことはどんなことですか?
・自分が相手の立場だったらどう思いますか?
対処 ・あなたを後押しするものは何ですか?
・一歩踏み出すために必要なことは何ですか?
・あなたを助けてくれる人はいましたか?
・つらい時はどう乗り越えてきましたか?
A:本質的な諸相への気づき ③気づきの共有 ②の「語り手」は,5つのテーマから一つを選択し,気づきをグループメンバーに発表する. 5テーマ ・どんな変化がありましたか?
・振り返って感じたことは?
・振り返ってわかったこととは?
・自分に関する新たな発見とは?
・自分が大切にしていることとは?
5
④フィードバック 「サポーター」は5つのテーマから一つを選択し,「語り手」へのメッセージをメッセージカードに記載する.サポーター全員の記載が終了したら,メッセージを読み上げて,メッセージカードを「語り手」にプレゼントする. 5テーマ ・○○さんの強み
・○○さんができていたこと
・ふり返りを聞いて,私が学んだこと
・私が気づいた○○さんの新たな一面
・○○さんがチャレンジしたら良いと思うこと
15~20
C:行為の選択肢の拡大 ⑤自分へのメッセージ 「語り手」や「サポーター」としての体験を踏まえ,自分に対するメッセージを5つのテーマから一つ選択して,メッセージカードにメッセージを記載する.グループ全員の記載が終了したら,グループ内で発表する. 5テーマ ・まずとりかかること
・心がけたいこと
・チャレンジしてみたいこと
・私のビジョン(未来像)
・私の周りにあるチャンス
5
T:試み (各自の実践)

RMPは,看護教員2名と大学院生8名を対象に実現可能性を検討した.テーマや問いの表現を一部修正したが,他は特に問題は生じなかった.また,参加者が見やすく,ソーシャルディスタンスが取れるようリフレクションマップを拡大印刷した.

本研究のデータ収集期間中は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が繰り返され,感染状況に応じて対面とオンラインの2つの方法でRMPを開催した.対面は,換気,ソーシャルディスタンス,消毒を厳守し,研究協力施設の会議室で開催した.オンラインは,リフレクションマップを参加者に事前配布し,対話が活性化するようグループ人数を減らすなどの工夫を行い,Zoom Cloud Meetingsを活用した.

2. 看護職の経験学習を促進するリフレクションマッププログラム(RMP)の効果の検証

1) 研究デザイン

本研究は,単群前後比較による凖実験研究である.

2) 対象者

対象者は,研究協力施設(首都圏の大規模病院2施設)においてRMPに参加した看護職である.サンプルサイズは,本研究のアウトカム指標を活用した既存研究はなく,効果量の算出が困難なため,関連する研究の対象者数(8~260名)を参考にした(佐藤ら,2018Pai, 2015児玉・東,2017).RMPは開発初期段階のためサンプルサイズを200名と推定した.

3) データ収集方法

研究協力施設である2つの医療機関の看護部教育担当者に研究の目的・方法・倫理的配慮などを説明した.研究協力施設内にRMPのチラシを掲載し参加者を募った.RMP開始前に,対象候補者に書面と口頭で研究の詳細な説明を行い,同意書への署名をもって同意とみなした.質問紙は無記名とし,RMP開催会場に回収箱を設け,対象者が投函した.対象者はRMP開始前とRMP直後で質問紙に回答した.データ収集期間は2020年10月~2022年3月だった.

4) データ収集内容

(1) 対象者の属性

年齢,性別,看護職の経験年数,最終学歴,所属(病棟・外来・特殊ユニット(ICU・手術室など)),職位の6項目で構成した.RMP開始前に収集した.

(2) Primary outcome

(2-1) 看護師レジリエンス尺度(Resilience Scale for Nurse)

過酷なストレスであっても,高いモラールを保ち,逆境を克服していく能力(レジリエンス)を看護師に特化した尺度として尾形らが開発した看護師レジリエンス尺度を用いた(尾形ら,2010).信頼性と妥当性が検証され,〖肯定的な看護への取り組み〗〖対人スキル〗〖プライベートでの支持の存在〗〖新奇性対応力〗の4因子22項目から成り,「はい:5」から「いいえ:1」の5段階で測定する(尾形ら,2010).RMP開始前と直後で収集した.

(3) Secondary outcome

(3-1) 看護に対するモチベーション

リフレクションに関する既存研究から研究者が作成した.看護に対するモチベーションは「看護に対する意欲」「自分の看護に対する自信」「自分にとっての看護の重要性」の3項目を設定した.各項目は「非常にある:10」から「全くない:1」の10段階で測定した.RMP開始前と直後で収集した.

(3-2) 自己肯定感

リフレクションに関する既存研究から研究者が作成した.自己肯定感は「自分に対する肯定感」「自分の長所の理解」「今後の見通し」の3項目を設定した.各項目は「非常にある:10」から「全くない:1」の10段階で測定した.RMP開始前と直後で収集した.

(3-3) 看護実践に対する困難感

リフレクションに関する既存研究から研究者が作成し,「看護実践におけるモヤモヤした気持ち」「看護に関する困難感」「職場の人間関係に関する悩み」の3項目を設定した.各項目は,「非常にある:10」から「全くない:1」の10段階で測定した.RMP開始前と直後で収集した.

(3-4) 心理的ストレス反応尺度(New Psychological Stress Response Scale)

鈴木らが開発し,幅広い年齢層を対象とし,簡便に日常多く経験される心理的ストレス反応を測定できる心理的ストレス反応尺度を用いた(鈴木ら,1997).信頼性と妥当性が検討され(鈴木ら,1997),〖抑うつ・不安〗〖不機嫌・怒り〗〖無気力〗の3因子18項目から成り,「全くちがう:0」から「その通りだ:3」の4段階で評価する.RMP開始前と直後で収集した.

(4) プログラム評価

RMPに対する満足度,役立ち度,充実感,わかりやすさ,リフレクションマップの使いやすさ,ファシリテーターに対する満足度の6項目を「非常にある:10」から「全くない:1」の10段階で測定した.また,RMPに対する自由記載欄を設けた.RMP直後に収集した.

なお,研究者が作成した項目(看護に対するモチベーション,自己肯定感,看護実践に対する困難感,プログラム評価の項目)は,データ収集前に看護師6名を対象に内容の妥当性と表現の適切性を検討した.修正となる項目はなかった.

5) 分析方法

記述統計量を算出した.正規性の検定の後,尺度得点の得点比較はWilcoxonの符号付き順位検定を行った.対面群とオンライン会議群の群間比較は,介入前後の尺度の得点差を算出し,Mann-WhitneyのU検定を行った.経験年数は3年未満,3~10年未満,10年以上の3群にし,介入前後の尺度得点差を算出し,Kruskal-Wallis検定を行った.統計分析ソフトSPSSver26.0を用い,有意水準は5%とした.自由記載欄の記述は質的記述的に分析し,共通性と相違性を踏まえてカテゴリー化した.

6) 倫理的配慮

埼玉県立大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:20037).研究対象候補者には書面と口頭で研究の詳細な説明を行い,同意書への署名をもって同意とした.質問紙は無記名とし,紐付けは対象者が自由に記載する識別番号(数字4桁)で行った.回収した質問紙はID番号により管理した.

Ⅳ. 研究結果

RMPは対面で5回,オンラインで3回開催した.1回の参加者数は10~32名であり,全体で280名の看護職が参加した.対面は研究協力施設の会議室で開催し,198名が参加した.オンライン開催は82名が参加した.271名から質問紙を回収した.RMP開始前もしくは直後のみや,欠損データが多い11名の回答を削除し,260名のデータを分析対象とした(有効回答率92.9%)(図1).

図1 

研究のフロー図

1. 対象者の属性(表2

対象者の年齢は,18~24歳が106名(44.8%)であり最も多かった.職位はスタッフが216名(83.1%),所属は病棟が159名(61.2%)で最も多かった.最終学歴は専門学校が130名(50%)と半数を占めた.経験年数は1~3年未満が155名(59.6%)で最も多かった.

表2 

対象者の属性 n = 260

n %
年齢 18~24歳 106 40.77
25~29歳 77 29.62
30~34歳 16 6.15
35~39歳 9 3.46
40~44歳 7 2.69
45~49歳 19 7.31
50~54歳 10 3.85
55~59歳 9 3.46
60歳以上 7 2.69
性別 女性 257 98.85
男性 2 0.77
不明 1 0.38
職位 スタッフ 216 83.08
管理職 40 15.38
その他 1 0.38
不明 3 1.15
所属 病棟 159 61.15
特別ユニット(ICU・手術室など) 78 30.00
外来 7 2.69
その他 10 3.85
不明 6 2.31
最終学歴 専門学校 130 50.00
大学 89 34.23
短期大学 18 6.92
高等学校 12 4.62
大学院 10 3.85
その他 1 0.38
経験年数 1~3年未満 155 59.62
3~5年未満 38 14.62
5~7年未満 2 0.77
7~10年未満 8 3.08
10~15年未満 3 1.15
15~20年未満 7 2.69
20年以上 46 17.69
不明 1 0.38

2. 前後比較による効果の検証(表3

1) 看護師レジリエンス尺度

前後比較検討により,看護師レジリエンス尺度の合計得点は統計的に有意に増加した(p < .001).下位尺度の〖肯定的な看護への取り組み〗〖対人スキル〗〖プライベートでの支持の存在〗〖新奇性対応力〗のいずれにおいても有意に得点が増加した(p < .001, p = .014, p < .001, p = .010).

表3 

看護職のためのリフレクションマッププログラムにおける前後比較(n = 260)

プログラム前 プログラム直後
mean SD median 最小 最大 mean SD median 最小 最大 平均値の差 統計量 p
看護師レジリエンス尺度 合計得点 74.01 12.26 75 37 104 79.22 12.20 81 48 110 5.21 8.39 <.001**
下位尺度 肯定的な看護への取り組み 25.49 6.76 27 8 40 27.64 7.09 29 8 40 2.15 7.95 <.001**
対人スキル 17.86 3.04 18 9 25 18.42 3.26 19 5 25 0.56 2.46 .014*
プライベートでの支持の存在 19.67 5.25 21 6 25 21.83 3.33 23 7 25 2.16 6.21 <.001**
新奇性対応力 11.00 2.65 11 4 19 11.34 3.05 12 4 20 0.34 2.59 .010**
心理ストレス反応尺度 合計得点 10.44 10.07 8 0 49 6.43 8.19 4 0 39 –4.01 –10.90 <.001**
下位尺度 抑うつ・不安 3.50 3.75 2 0 17 2.02 2.92 1 0 15 –1.48 –9.38 <.001**
不機嫌・怒り 2.84 3.41 2 0 18 1.63 2.68 0 0 14 –1.21 –8.56 <.001**
無気力 4.11 3.79 3 0 18 2.79 3.25 2 0 16 –1.32 –9.29 <.001**
看護に対するモチベーション 看護に対する意欲 5.72 2.05 6 1 10 5.95 2.06 6 1 10 0.23 2.65 .008**
自分の看護に対する自信 4.71 1.73 5 1 10 5.70 1.83 6 1 10 0.99 8.83 <.001**
自分にとっての看護の重要性 5.70 1.90 6 1 10 5.98 2.04 6 1 10 0.28 3.25 .001**
自己肯定感 自分に対する肯定感 5.18 1.86 5 1 10 5.95 1.85 6 1 10 0.77 7.60 <.001**
自分の長所の理解 5.42 1.93 5 1 10 5.96 1.87 6 1 10 0.54 5.75 <.001**
今後の見通し 5.37 1.94 5 1 10 5.28 2.22 5 1 10 –0.09 –0.37 .712
看護実践に対する困難感 看護実践におけるモヤモヤした気持ち 5.97 2.02 6 1 10 5.11 2.00 5 1 10 –0.86 –6.53 <.001**
看護に関する困難感 6.01 1.96 6 1 10 5.42 2.12 5 1 10 –0.59 –4.77 <.001**
職場の人間関係に関する悩み 5.64 2.42 6 1 10 5.39 2.05 5 1 10 –0.25 –1.92 .055

2) 看護に対するモチベーション

前後比較検討により,看護に対するモチベーションの3項目(「看護に対する意欲」「自分の看護に対する自信」「自分にとっての看護の重要性」)は,いずれも得点が統計的に有意に増加した(p = .008, p < .001, p = .001).

3) 自己肯定感

前後比較検討により,自己肯定感の2項目(「自分に対する肯定感」「自分の長所の理解」)は,得点が統計的に有意に増加した(p < .001, p < .001).しかし,「今後の見通し」は得点の変化がみられず統計的な有意差はなかった.

4) 看護実践に対する困難感

前後比較検討により,看護実践に対する困難感の2項目(「看護実践におけるモヤモヤした気持ち」「看護に対する困難感」)は,得点が統計的に有意に減少した(p < .001, p < .001).しかし,「職場の人間関係に関する悩み」は得点の減少傾向は示されたが,統計的な有意差はなかった.

5) 心理的ストレス反応尺度

前後比較検討により,心理的ストレス反応尺度の合計得点は統計的に有意に減少した(p < .001).下位尺度の〖抑うつ・不安〗〖不機嫌・怒り〗〖無気力〗のいずれにおいても統計的に有意に得点が減少した(p < .001, p < .001, p < .001).

3. プログラム評価(表4

RMPの満足度平均得点は7.28(SD1.85),役立ち度7.25(SD1.84),わかりやすさ7.57(SD1.69),リフレクションマップの使いやすさ7.89(SD1.66),充実感6.99(SD1.82),ファシリテーターに対する満足度8.15(SD1.63)だった.自由記載の内容は52コードとなり,10カテゴリーとなった(表4).カテゴリー〔気づきがあった〕と〔思いを整理できた〕はコード数が多かった.

表4 

自由記載内容の分析結果

カテゴリー コード
気づきがあった 自分に足りないことや大事にしていきたいことが見つかった
自分では気づけない自分の強みがわかった
気づいていなかった自分の強みがわかり自信が持てた
自分を多角的に見つめることができた
自分の本当の気持ちに気づくことができた
自分を振り返ることができた
自分に関心を深める時間になった
語ったり聴くことで気づきがあった
新たな看護の気づきができた
思いを整理できた サポーターの支援で整理できた
リフレクションにより整理できた
話すと気持ちがスッキリした
自分の思いを浄化できた
自分の思いを表現して問題解決の糸口を見つけられた
気持ちを整理できていないまま行動していたことを振り返れた
リフレクションの大切さを実感した 話すことは良い振り返りになる
体験からの学びは大切と思った
話を聴いてもらえると安心できると実感した
承認してもらうことの大切さを痛感した
これからの仕事に役立つ
次に生かすことができる
他者の体験が参考になる 似ている悩みへの対処法が参考になった
他者の話を聴くのは参考になる
他者の話が参考になる
同期の経験や考えを聴ける良い機会だった
他者の看護観をしることができて学べた
良いプログラムと思った 学びのある研修で驚いた
良い研修と思った
参加して良かった
身になった研修だった
良いプログラムだと思った
質問やテーマがあると良い リフレクションマップがあるので質問の糸口を探せた
リフレクションマップは整理しやすかった
リフレクションマップに沿ったので過度な負担がなく進められた
テーマが決まっていて話しやすかった
質問やテーマがあるのでわかりやすかった
満足感が得られた 楽しみながら学べた
楽しかった
楽しい時間だった
清々しい気持ちで不思議に前向きになった
満足感が得られた
リフレクションを活用したい 院内でもリフレクションマップを活用したい
院内でもリフレクションの機会をつくりたい
スタッフに活用したい
幅広い年代に実施できそう
気持ちを共有できた 同じ気持ちを共有できてうれしかった
気持ちを共有できた
プログラムへの意見 リモートだから言いやすかった
オンラインでも違和感なかった
始めはzoomの操作が分からなかった
振り返りの時,テーマを使いこなせていなかった
リフレクションするには時間がもう少し必要

4. 開催方法と経験年数による群間比較(表5

各尺度の介入前後の得点差を算出し,開催方法別(対面群とオンライン群)に分け,得点差の変化を検討した.オンライン開催は対面開催と比べて看護師レジリエンス尺度は有意に得点が増加し,心理的ストレス反応尺度が有意に減少した(p < .001, p < .001).しかし,「看護に対する意欲」と「今後の見通し」は対面開催がオンライン開催と比べて得点が増加した(p = .009, p < .001).

表5 

開催方法と経験年数による群間比較

対面開催
n = 190)
オンライン開催
n = 70)
3年未満
n = 155)
3~10年未満
n = 48)
10年以上
n = 56)
mean SD mean SD 統計量 p mean SD mean SD mean SD 統計量 p
看護師レジリエンス尺度 合計得点 2.19 5.45 13.40 15.64 6.20 <.001** 3.90 8.08 7.80 11.78 6.73 14.51 5.58 .062
下位尺度 肯定的な看護への取り組み 1.34 3.21 4.37 7.36 3.81 <.001** 1.56 3.28 2.42 5.43 3.63 7.29 4.69 .096
対人スキル 0.21 2.02 1.49 4.21 2.05 .040* 0.22 2.37 0.73 3.17 1.33 3.54 5.70 .058
プライベートでの支持の存在 0.23 1.83 7.40 6.91 7.67 <.001** 1.81 5.06 4.35 6.08 1.27 3.27 12.47 .002**
新奇性対応力 0.41 1.58 0.14 2.76 –1.35 .177 0.30 1.81 0.29 2.14 0.5 2.24 0.05 .976
心理的ストレス反応尺度 合計得点 –2.93 4.78 –6.96 6.92 –5.37 <.001** –3.48 5.25 –3.87 5.65 –5.69 6.71 3.67 .160
下位尺度 抑うつ・不安 –1.03 1.94 –2.72 2.81 –5.18 <.001** –1.26 2.18 –1.58 2.29 –2.03 2.68 3.81 .149
不機嫌・怒り –0.92 2.03 –2.01 2.82 –3.42 .001** –0.94 1.98 –1.22 2.68 –1.99 2.69 5.25 .073
無気力 –0.98 1.84 –2.23 2.49 –3.86 <.001** –1.27 2.05 –1.06 1.92 –1.67 2.41 0.89 .640
看護に対するモチベーション 看護に対する意欲 0.44 1.33 –0.32 1.99 –2.62 .009** 0.36 1.52 0.15 1.25 –0.02 1.89 1.61 .446
自分の看護に対する自信 0.71 1.34 1.78 2.01 4.10 <.001** 1.01 1.50 1.24 2.00 0.75 1.57 1.97 .373
自分にとっての看護の重要性 0.39 1.19 –0.47 1.99 –1.56 .118 0.30 1.38 0.17 1.54 0.33 1.59 0.97 .616
自己肯定感 自分に対する肯定感 0.70 1.40 0.97 1.60 1.87 .061 0.68 1.27 0.93 1.73 0.96 1.64 1.63 .442
自分の長所の理解 0.46 1.30 0.84 1.88 2.25 .024* 0.41 1.47 0.65 1.25 0.46 1.66 2.32 .314
今後の見通し 0.46 1.37 –1.49 2.09 –6.82 <.001** –0.08 1.60 –0.35 1.99 0.24 2.18 4.30 .117
看護実践に対する困難感 看護実践におけるモヤモヤした気持ち –0.69 1.92 –1.28 1.88 –2.54 .011* –0.77 1.78 –0.57 1.54 –1.33 2.49 1.84 .398
看護に関する困難感 –0.55 1.97 –0.65 2.13 –0.77 .440 –0.56 2.01 –0.57 1.64 –0.65 2.31 0.09 .956
職場の人間関係に関する悩み –0.50 1.72 –0.21 3.41 –0.05 .958 –0.08 2.20 –0.96 2.33 –0.11 2.42 4.68 .096

経験年数は3群に分けて尺度得点変化を検討したが,看護師レジリエンス尺度の〖プライベートでの支持の存在〗以外はいずれも統計的に有意な得点差は示されなかった.

Ⅴ. 考察

RMP前後の質問紙調査により,看護師レジリエンス尺度得点において統計的に有意な増加が示された.また,「看護に対する意欲」「自分の看護に対する自信」「自分にとっての看護の重要性」「自分に対する肯定感」「自分の長所の理解」で統計的に有意な得点増加が示され,「看護実践におけるモヤモヤした気持ち」「看護に対する困難感」で統計的に有意な得点減少が示された.そして,心理的ストレス反応尺度で統計的に有意な得点減少が示された.従って,RMPはレジリエンスが向上することと,心理的ストレスが緩和する効果があることが示された.

1. 看護職の経験学習を促進するリフレクションマッププログラム(RMP)の効果

レジリエンスは「逆境からの心理的回復力」と定義されるため(尾形ら,2010),RMPにより心理的回復力が高まったと言える.レジリエンスが高い看護師の逆境時の対処行動には「過去の経験を活かし物事に挑戦すること,問題を避けずに時間をかけてでも振り返る,良好な人間関係を築き他者からの情緒的な支援を認識する」が示されている(千治松ら,2017).RMPでは,過去の経験に対峙することで学びを獲得し,フィードバックにより他者から情緒的な支援を得られたためレジリエンスが高まったと考える.RMPによる〖肯定的な看護への取り組み〗〖新奇性対応力〗の変化は,自身の看護や状況に対する認識の捉えなおしにより,看護への意欲や自己効力感が高まるためと推測した.また〖対人スキル〗や〖プライベートでの支持の存在〗の変化は,実際の関係性や存在は変化していないが,「うまく付き合える」という認識変化や重要他者の存在を再認識したためと推測した.〖肯定的な看護への取り組み〗と看護に対するモチベーションの増加は,体験の多角的な捉え直しや客観的視点からの承認により,看護の重要性や看護観を改めて実感し,看護への意欲や自信が高まったと考える.さらに,自由記載には自分が大事にしていることや自分の強みに気づいたという記載があり,RMPでは丁寧な体験の振り返りを通して自分が実践した看護を実感し,看護観の再構築が促されたと考える.従って,RMPは実践知の獲得プロセスに寄与すると考えることができる.そして,有意な増加が示された〖肯定的な看護への取り組み〗には「私には看護職としての目標がある」や「看護職として私の将来には希望がある」などの項目が含まれている.中堅看護師のキャリアビジョンには,同僚や上司からの内省支援や精神的支援が影響を及ぼしたと報告されている(宮地・久米,2021).よって,RMPはキャリア発達を促進する効果の可能性も考えられる.

心理的ストレス反応尺度の変化は,悩みや思いを語るというカタルシスの効果,悩みや思いに応じた他者からのフィードバック,看護に関する新たな学びの獲得という体験により,ストレスが緩和したと考えられる.実臨床には多くの倫理的課題があるが,RMPでは看護職のストレス緩和が期待できるだけでなく,その課題解決に向けたアイディアや認識の変化が得られるため,有効的な方法の一つと考える.自由記述に〔思いを整理できた〕の記載が多かったように,モヤモヤしたり違和感を抱く体験を語り,状況理解が深まり,自分の思考や感情を整理したことにより,看護実践に対する困難感が緩和したと考える.

一方,「職場の人間関係に対する悩み」と「今後の見通し」の得点の統計的有意差は示されなかった.リフレクションは個人の認識を対象とするため,他者との人間関係に直接介入することはできないが,リフレクションによる視点の広がりなどを経て苦悩が減少し,得点の減少傾向が示されたと考える.今後もデータを積み重ね,効果をより明確にする必要がある.見通しは問題の全体的構造を把握して解決を図るという意味がある(新村,2018).リフレクションは自身の経験を丁寧に紐解いて学びを得るプロセスであるが,看護は他者や環境要因が多様に関連するため全体的構造を把握した課題解決までの思いには至らなかったと推測された.一方,リフレクションにより臨床実践力が向上した(岩國ら,2018Pai, 2015)という報告があることから,RMPを繰り返すことにより看護実践への変容が生じ「今後の見通し」の認識に影響を及ぼす可能性がある.今後は長期的な効果を検証することが課題である.

プログラム評価の「ファシリテーターに対する満足度」が他と比較して高値だった.RMPはリフレクションマップというツールを活用したプログラムだが,ファシリテーターの態度や言動も非常に重要であり,両者を備える必要がある.RMPは,ファシリテーター研修会にて知識と態度の均質化をはかることが必須と考える.

本研究では個人の認識を中心にRMPの効果を検証したが,既存研究では臨床実践力やコミュニケーション能力の向上が検討されており(岩國ら,2018Pai, 2015Kim et al., 2018),今後は看護実践の変化を検証することが課題である.

2. 看護職の経験学習を促進するリフレクションマッププログラム(RMP)の活用

ファシリテーター主導型リフレクションプログラムは,時間を区切ることの難しさやファシリテーターの負担などの課題が示されている(飯岡ら,2019).本研究のプログラム評価のわかりやすさ,リフレクションマップの使いやすさは7点以上であり,RMPはALACTモデルのプロセスに応じた各段階でリフレクションマップの種類が異なるため,段階が明確になり時間で区切りやすく,思考が整理され,プログラムが運用しやすいと考える.また,リフレクションマップの活用は,「問い」を共有した対話になりやすく,対話に集中でき,誰からの問いかは意識化しにくく,共に考える雰囲気がつくりやすいと考える.さらに,③気づきの共有と④フィードバックにより,自分の体験の意味づけが促進されると考える.従って,RMPは効率的で実臨床の場の教育プログラムとしての利用可能性(applicability)は高いと考える.

既存研究のプログラム対象者は看護学生(Parrish & Crookes, 2014),新人・若手看護師(Kim et al., 2018児玉・東,2017)から中堅看護師(岩國ら,2018)と幅広い.本研究でも経験年数は3~20年以上と幅広く,所属部署も多様だった.経験年数による効果の差は示されなかったことにより,RMPは経験年数や所属部署が多様であっても実施可能なプログラムと考えられ,新人看護師や管理職への研修など多様な場で活用できると考える.

また,開催方法の群間比較では,オンラインが効果的な傾向が示されたが,結果は一貫していない.オンライン開催は,グループ人数を減らしたこと,オープンスペースでの対面開催よりも閉鎖空間が設定しやすく集中力が高まるなどの影響が予想される.本研究は開催方法の相違検討が目的ではないため,本結果だけで開催方法の有意性の結論は言及できない.今後も継続して検討する必要がある.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究の研究デザインは対照群を設定しない単群前後比較であり,選択バイアス,情報バイアスの可能性がある.また,データ収集はRMPの会場で行われたため社会的望ましさバイアスの可能性を否定できない.さらに,COVID-19の感染拡大中のデータ収集であり,対象者確保や開催方法相違による影響の可能性がある.だが,日本のリフレクションプログラムの介入研究は非常に限られ,質的研究による評価が多い中で,RMPの量的な効果を示せたことは意義があると考える.対照群を設定した研究デザインによる効果の検証や長期的効果の検証などが,今後の課題である.

Ⅵ. 結論

ALACTモデルを基盤として5つの段階のRMPを開発した.RMPの前後比較検討により,看護師レジリエンス尺度得点が統計的に有意に増加した.また,「看護に対する意欲」「自分の看護に対する自信」「自分にとっての看護の重要性」「自分に対する肯定感」「自分の長所の理解」で統計的に有意に得点増加が示され,「看護実践におけるモヤモヤした気持ち」「看護に対する困難感」で統計的に有意な得点減少が示された.そして,心理的ストレス反応尺度で統計的に有意な得点減少が示された.以上より,RMPはレジリエンスの向上と心理的ストレスの緩和の効果があることが示された.

謝辞:本研究にご協力くださいました看護職の皆様に深謝申し上げます.本研究にご協力くださいました東京女子医科大学八千代医療センター看護部長川崎敬子様,埼玉県立がんセンター看護部長佐川みゆき様に深謝申し上げます.なお,本研究はJSPS科研費基盤研究B(19H03934)の一部として実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YIは研究テーマの着想,研究計画,データ収集・分析・解釈,論文の作成を行った.NW,YT,MT,NK,CH,YN,HEは,データ収集・分析・解釈,論文の校閲を行った.

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