研究目的:新人看護師の成長に影響を及ぼすOJT担当看護師についてスコーピングレビューを行い,指導の効果を測る方法と成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴について特定することを目的とした.
研究方法:PRISMA-ScRに従い実施.海外文献は,nursing,clinical,teaching and effectivenessで,国内文献は,看護,臨床,指導,効果で検索した.
結果:22文献がレビュー対象となった.海外文献15編は,コンピテンシー,対人関係を発展させる力,および性格特性が看護師の成長に影響していると報告されていた.国内文献7編は,コンピテンシーについて尺度開発されていたが,効果検証がされている論文はなかった.
結論:海外では,新人看護師の成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴が明らかにされていた.今後は,国内においてもOJT担当看護師のコンピテンシーを検討する際には,対人関係を発展させる力や性格特性も含めて定量的評価の検討が必要である.
Purpose: This study aimed to analyze the perceived characteristics of effective OJT nurses for new nurse and methods for measuring nurses’ teaching effectiveness through a scoping review.
Method: This scoping review was conducted and reported as per PRISMA-ScR guidelines, using. following keywords: nursing, clinical, teaching, and effectiveness.
Result: A total of 22 papers met the selection criteria. Fifteen foreign studies revealed that competency, interpersonal relationships, and personality traits influence effective instruction using a common evaluation scale. Seven domestic studies developed a scale for competency, but none of the papers verified its effectiveness.
Conclusion: Overseas, the characteristics of nurses in charge of the OJT that affect growth have been clarified. In the future, when examining the competency of nurses in charge of OJT in Japan, it is necessary to consider the quantitative evaluation, including their interpersonal relationships and personality traits.
医療の高度化,少子化や超高齢化による疾病構造の変化などを背景に,患者に安全で質の高い看護を提供できるよう看護師の育成を効果的に行う必要がある.
新人看護職員に対する病院の現任教育に関しては,2009年7月9日,「保健師助産師看護師法の一部を改正する法律」が可決された.これにより,病院の継続教育に関して整備され,病院の看護単位でOn-the-job Training(以下,OJT)を担当看護師教育プログラムや能力に関しても検討されつつある.
文部科学省(2009)は「看護師の人材養成システムの確立」事業を,附属病院を持つ12大学で開始した.この事業は,取り組むべき4つの柱のひとつに,病院の看護単位で教育を担当する看護師の養成が含まれていた.
日本看護協会(2015)は,専門職である看護職が,個々に能力を開発,維持・向上し,自らキャリアを形成するための指針として「継続教育の基準ver. 2」を提示した.これによると,組織の教育理念に基づく効果的な教育を展開するためには,専任の教育担当者を確保し,その人への能力開発を支援するシステムが必要であることが述べている.しかし,この「継続教育の基準」は,病院においてどのような教育的立場にいる看護師のことを言及しているのか不明確であり,一定の基準を示すに留まっている.
以上から,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師について,文献ではどのように表現されているのか,またどのような評価指標でOJT担当看護師を評価しているのか先行文献を確認した.
アメリカでは,Mogan & Knox(1987)により,Nursing Clinical Teaching Effectiveness Inventory(NCTEI)が開発され,実施した指導に関する評価基準が示された.この調査票は,コンピテンシー(Competency: teaching ability, nursing competency),対人関係を発展される力(Interpersonal Relation),性格特性(Personality traits)で構成されている.その評価基準を使用した調査結果からは,指導に関する知識や技術よりも性格特性が新人看護師の成長に影響していた(Viverais-Dresler & Kutschke, 2001;Rowbotham & Owen, 2015;Croxon & Maginnis, 2009).
そこで今回,OJT担当看護師についてその新人看護師の成長に影響を及ぼす特徴について明らかにし,その要因を定量化し客観的に評価ができる尺度を開発したいと考えた.OJT担当看護師がこの尺度を用いて自己評価をすることにより,振り返りや自信につながること,取り組むべき課題を明確にできるのではないかと考えた.また,組織管理者は,この尺度を用いてスタッフを評価することにより,人材の適正配置につなげる基礎資料として活用できると考えた.
その前提として,まずは,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師について先行文献のスコーピングレビューを行い,指導の効果を測る方法と成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴を明らかにする必要があると考えた.
新人看護師の成長に影響を及ぼすOJT担当看護師についてスコーピングレビューを行い,指導の効果を測る方法と成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴について特定することを目的とした.
職場での実際の職務を通して上司あるいは先輩が部下に行う個別指導.職場内で行われるため,継続的・反復的できめ細やかな指導が可能になり,その内容は実践的で具体的である.また,組織文化を伝承する上でも有効である(見藤ら,2011).
2. OJT担当看護師病院の看護単位で後輩や看護学生に指導を行う看護師とする.日本の現状においては,後輩指導と看護学生に指導をする看護師の役割は,どちらもある一定の経験年数になると担うため,学生に対する臨床実習の場面も含んだ.
本研究では,新人看護師の成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴について検討するため,Arksey & O’Malley(2007)が提唱した,体系的に研究領域の基盤となる主要な概念や知識を概説する方法であるスコーピングレビューを用いた.スコーピングレビューは,利用可能なエビデンスを特定し整理することを主要な目的としていることから,抽出された個々の論文の批判的吟味は一般的には行われていない.スコーピングレビューはPRISMA-ScR(Preferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-Analyses extension for Scoping Reviews)(Tricco et al., 2018)に従い実施した.今回は,新人看護師の成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴を把握するために,この方法が適していると考え採用した.
1. 対象論文の抽出データベースはPubMed,CINAL,ERIC,医学中央雑誌Web版を用いた.キーワードは,海外文献は,「nursing(看護)」and「clinical(臨床)」and「teaching and effectiveness(指導と効果)」で検索した.国内文献は,「看護」and「臨床」and「指導と効果」で検索した.適格条件は,原著論文,研究報告,資料,抄録ありに限定した.除外基準は,解説や特集,学会抄録とした.文献検索対象年度は,2000年~2021年としハンドサーチも加えた.文献の適格基準は,臨床現場における指導を担当する看護師に言及,成長に影響を及ぼす要因について明らかにしている文献とした.文献選択のフローチャートは,Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analysis(PRISMA)に基づいて作成した(図1参照).
PRISMAフローチャート
はじめに,対象文献に目を通し,目的,方法,結果を抽出した上で表にまとめた(表1,2).次に成長に影響を及ぼすOJT担当看護師は,どのように表現され,どのように指導の効果を測っているのかについて整理した.さらに,本文から成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴について抽出し,その内容を表にまとめた.最後に,文献で用いられている評価の測定尺度について概観した.このプロセスは研究者2名で同時に独立して行った.研究者2名のうち,1名は臨床現場でOJTに従事する看護師,1名は看護学教育の専門家であった.採用論文については,PRISMA-ScRのガイドラインに従って行い,リスク評価は行わなかった.
新人看護師の成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴(Characteristics)に関する海外文献の概要
著者名/発表年 | 対象n | 研究デザイン | 研究目的 | 研究方法 | 結果 |
---|---|---|---|---|---|
Nehring(1990) | 184 | Quantitative | 「best」「worst」なCNE※の特徴を明らかにする | NCTEI | 親しみやすく,自信があり,看護を楽しんでおり,教えることを楽しんでいる |
Clark(2013) | 10 | Mixed method | スタッフ看護師から臨床で教える時にどのように役割の中で特性を経験的に決定していっているか明らかにする | Focus groups and NCTEI | 良いロールモデル,教えることを楽しむ,自分の指導に責任をとる,観察力,ポジティブフィードバック |
Croxon and Maginnis(2009) | 20 | Mixed method | 臨床現場での学びを促進する臨床現場の教育者をグループモデルとプリセプターモデルを用いて比較する | Interview based with a Likert questionnaire | フレンドリーで親しみやすい |
Gignac-Caille and Oermann(2001) | 292看護学生+59 ADN | Quantitative | 効果的なCNE※の能力について看護学生と臨床で教育的立場にある看護師,両者に認識を確認に,その相違について明らかにする | NCTEI | 看護技術の実演,臨床判断能力,説明の明確さ |
Gillespie(2002) | 8大学院生 | Qualitative | 看護学生と教員の関係構築と学習効果を明らかにする | Unstructured interviews and focus groups | 対人能力(学習者との関係構築能力) |
Hou et al.(2010) | 218 | Quantitative | CNE※コンピテンシー尺度の開発の検証 | CNFCI | リーダーシップ,問題解決能力,教育に関する知識,一般的な教育能力,および臨床看護スキル |
Jowett and McMullan(2007) | 131 | Mixed method | CNE※,メンター,学生の3つの観点からCNEの役割の教育的効果を明らかにする | A questionnaire | 高い信頼性,近づきやすさ,親しみやすさ |
Kootnz et al.(2010) | 10 | Qualitative | 臨床現場の学習環境に関する看護学生の認識 | Semistructured interviews | 効果的な要素:オープンな人柄,看護への関心,肯定的態度悪影響:看護技術の不足,学習者の経験を評価することの欠如,自信のレベル |
Poorman et al.(2008) | 30 | Qualitative | 学習に苦労している学生に教員がどのように関わっているかを調査 | Narratives | 対人関係能力,性格特性が学習者の成長に影響 |
Rowbotham and Owen(2015) | 236 | Quantitative | 自己効力感を向上させるCNE※の能力について検討 | NCETI | 軽視することなく修正し,期待を伝え,頻繁に観察し,改善方法の提案 |
Salsali(2005) | 143 | Mixed method | 教育者の好ましい評価方法から実際の評価方法を調査 | A researcher developed questionnaire | 学習者の持っている能力と経験の尊重 |
Tang, Chou, and Chiang(2005) | 214 | Quantitative | 臨床教育者の専門的能力,対人関係,性格特性,教育能力の4つのカテゴリーのどれが,学習の有効性に多くに貢献しているか解明 | A essay question | 専門的能力,対人関係,人格特性,および指導能力について有能な教育者は4つ全てが高く,効果のない教師のスコアは,専門能力を除くすべてのカテゴリで低い |
Viverais-Dresler and Kutschke(2001) | 56 | Mixed method | 臨床における特定の行動に関する指導の重要性について検証 | A developed tool | 親しみやすく,公正で,率直で,正直で,相互に尊重している |
McAllister and Flynn(2016) | 266 | Quantitative | CNE※の効果的な教育的役割の尺度開発 | A questionnaire | 教育の知識と実践,看護の知識の活用,教育的な相互関係,リーダーシップ,研究活動を測定 |
Hoot(2017) | 46 | Mixed method | CNE※になる学生の意欲を評価するために,評価ツールを作成し調査を実施 | focus groups and questionnaire | リーダーシップ,個人的特徴,対人関係,指導スキル,コミュニケーションなどの資質で構成 |
※CNE(Clinical nurse educator:クリニカルナースエデュケーター,臨床看護教育者)
新人看護師の成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴(Characteristics)に関する国内文献の概要
著者名/発表年 | 対象n | 研究デザイン | 研究目的 | 研究方法 | 結果 |
---|---|---|---|---|---|
下元ら(2010) | 737 | Quantitative | OJTにおいて,指導者に必要な基盤となる能力にはどのような能力があるのかを明らかにする | 尺度開発 | 指導者の基盤となる能力を 「看護実践能力」 と 「心理的理解能力」 した |
近ら(2011) | 看護職員21名 新人看護職員4名 |
Qualitative | 個別の指導ポイントを作成することによって,新人看護職員の希望した指導を統一することができ,新人看護職員,指導看護職員共に働きやすい指導環境ができることを明らかにする | インタビュー | こまめな声かけや振り返りを一緒する |
本山ら(2017) | 学生88名,看護師33名 | Quantitative | 看護師の学内演習での協働が実習指導に効果を及ぼしているのかを看護師の演習経験評価と学生による実習指導評価で検討 | 研究者作成の質問用紙 | 学内演習で協働した看護師は協働していない看護師よりも情緒的な支援の項目で評価が高かった.これらのことから臨床看護師の学内演習での協働経験が実習指導に効果を及ぼした |
黒田ら(2019) | 550 | Quantitative | 「新人看護師教育担当者能力自己評価票」の信頼性・妥当性を検証 | 尺度開発 | 新人看護師教育担当者能力自己評価票は4因子で構成され,「OJTのための組織マネジメント・セルフマネジメント能力」,「支援関係構築の基盤となるコミュニケーション能力」,「自身の看護実践能力を前提とした教育力」,「実地指導者に対するコンサルテーション能力」であった |
大岩ら(2019) | 206 | Quantitative | 病院組織で教育を担当する看護師の教育指導能力を測定する指標を開発し,実地指導者との差異から指標の適正性を検証する | 尺度開発 | 病院組織で教育を担当する看護師の教育指導能力を測定する評価指標を開発し,因子分析の結果,「教育を実践する力」「教育を企画する力」「教育における姿勢・態度」「自己研鑽力」4因子で構成された |
石田(2020) | 1 | Mixed method | 先行研究や文献をもとに「実践知の引き出し」をつくる指導内容について検討し,それをもとに指導を振り返り,「実践知の引き出し」をつくる看護師育成指導の在り方の糸口を見つける | 文献検討+事例検討 | 指導者は,看護師が躓いている問題の本質を理解し,〈信頼・双方向性対話〉〈気づきの促進〉を意識して,患者の現状や看護の実際といった事実をもとに,看護師が〈看護としての視点〉から〈本質やパターンの認識〉が可能となるよう関わる |
中澤ら(2021) | 617 | Quantitative | 新人看護師が認識する実地指導者のサポート評価尺度を開発すること | 尺度開発 | 新人看護師が認識する実地指導者のサポート評価尺度を開発した.尺度は「実践面のサポート」と「情緒面のサポート」の2因子で構成 |
対象文献は,22文献がレビュー対象となった.海外文献15編からは,量的研究5編,ミックスメソッド研究6編,質的研究4編であった.国別の内訳は,アメリカ6編,カナダ2編,オーストラリア2編,イギリス1編,イスラエル1編,中国1編,イラン1編,台湾1編であった.国内文献は,7編中,量的研究5編,ミックスメソッド研究1編,質的研究1編であった(表1,2参照).
海外文献では,Mogan & Knox(1987)の評価基準が採用されている論文が多かったため,その評価基準の構成要素を参考に,コンピテンシー,対人関係を発展させる力,および性格特性に分けて他の論文も整理することにした.以下に,結果の詳細について述べる.
1. コンピテンシー海外文献からは,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師のコンピテンシーとして,Gignac-Caille & Oermann(2001)は,NCTEIを使用して,看護学生を対象に調査を実施し,看護技術を実際に見せてくれること,臨床判断能力,説明の明確さが最も重要であると明らかにした.
また,その他の研究では,コンピテンシーの中でも看護実践能力が成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴として最も重要であることが明らかにされていた(Hou et al., 2010;Jowett & McMullan, 2007).Hou et al.(2010)は,OJT担当看護師のコンピテンシー測定尺度を作成するために心理測定を実施した.その尺度のCronbach αは,0.91であり,信頼性があることを示している.この尺度は,リーダーシップ,問題解決能力,教育に関する知識,一般的な教育能力,看護実践能力で構成されていた.
Jowett & McMullan(2007)は,228名の看護師,学生とメンターの3つの観点から成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の役割を明らかにした.その結果は,そのような看護師は高い信頼性,近づきやすさ,親しみやすさがあることを明らかにした.
McAllister & Flynn(2016)は,OJT担当看護師の効果的な教育的役割について尺度開発し,教育の知識と実践,看護の知識を活用,教育的な相互関係,リーダーシップ,研究活動を測定することが下位因子として抽出された.
Hoot(2017)も,OJT担当看護師になる学生の意欲を評価する尺度を開発した.因子は,リーダーシップ,個人的特徴,対人関係,指導スキル,コミュニケーションなどの資質で構成されていた.
国内文献からは,下元・山田(2010)が,OJTにおいて,指導者にどのような基盤となる能力が必要であるのかを明らかにした.指導者の基盤となる能力を「看護実践能力」と「心理的理解能力」とした.尺度の信頼性・妥当性は検証されていた.
黒田ら(2019)は,新人看護師教育担当者能力自己評価票を作成し,その信頼性と妥当性を検証した.尺度は4因子で構成され,「OJTのための組織マネジメント・セルフマネジメント能力」,「支援関係構築の基盤となるコミュニケーション能力」,「自身の看護実践能力を前提とした教育力」,「実地指導者に対するコンサルテーション能力」であった.
大岩ら(2019)は,病院組織でOJT担当看護師の教育指導能力を測定する評価指標を開発し,実地指導者との得点の差異から指標の適正性を検証した.因子分析の結果,「教育を実践する力」「教育を企画する力」「教育における姿勢・態度」「自己研鑽力」4因子が抽出された.教育に関する研修を受けた群は,その他の看護師の群より得点が有意に高いことが報告されていた.
中澤ら(2021)は,新人看護師が認識する実地指導者のサポート評価尺度を開発した.尺度は「実践面のサポート」と「情緒面のサポート」の2因子で構成されていた.性別,社会人経験の有無,最終学歴の違いによる得点の差異がないことが報告されていた.
2. 対人関係を発展させる力海外文献16文献のうち4件で対人関係を発展させる力が,OJT担当看護師の新人看護師の成長に成長を及ぼす最も重要な特徴であると特定された.対人関係に関しては,Poorman et al.(2008)が,実習担当者30名にインタビューし,教わる側と教える側の肯定的な関係が学習を促進することを明らかにした.これらの結果は,Kootnz et al.(2010)が学生10名に半構造化フォーカスグループインタビューで明らかにした結果とも一致している.学生にとって,実習においてOJT担当看護師との信頼関係を確立することは,積極的な学びが促進される環境をもたらしたと報告している.
また,Croxon & Maginnis(2009)は,看護学生20名を対象に,ミックスメソッド法による研究を実施した.その結果,フレンドリーで親しみやすいことが対人関係を築く上で最も重要な要素であることを明らかにした.
Gillespie(2002)の質的研究は,OJT担当看護師の成長に影響を及ぼす指導をする最も重要な特徴として,教わる側と教える側の関係が構築されるに加えて,信頼関係による学習への影響を報告している.この研究では教わる側は,信頼関係が自尊心,自信を高めるのに役立ち,関係構築された指導者と一緒にいると,安心し,より快適になり,不安が少なくなったと述べた.OJT担当看護師との関係により,彼らはより多くのことを学ぶことができた(Gillespie, 2002)としている.また,Gillespie(2002)は,寛容であること,学生と時間をともに過ごすこと,精神面,体調についてなどを話す機会を提供することを行動例として示していた.
Tang Chou & Chiang(2005)は,有能なOJT担当看護師の特徴として,専門的能力,対人関係,人格特性及び指導能力の全てが有意に高いことを明らかにした.
国内論文からは,石田(2020)は,指導者との関係においてその看護師が躓いている問題の本質を理解し,〈信頼・双方向性対話〉〈気づきの促進〉を意識して関係性を築くことに言及している.
また,黒田ら(2019)の尺度も,「支援関係構築の基盤となるコミュニケーション能力」で対人関係を発展させることに影響する項目があった.
3. (性格)特性(Personality traits)海外文献16文献のうち5件は,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の必要な性格特性を明らかにした.
Nehring(1990)によるNCTEIを使用した初期の研究では,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師は,親しみやすく,自信があり,看護を楽しんでおり,教えることを楽しんでいる,と報告していた.Viverais-Dresler & Kutschke(2001)によるその後の研究では,最も望ましいOJT担当看護師の特徴として,親しみやすさは有意確率が最も高かったと報告した.Rowbotham & Owen(2015)による最近の研究では,自己効力感は,見下すことなく間違いを修正し,期待を伝え,頻繁に観察し,改善方法を提案することによって増加するとの結果であった.
Croxon & Maginnis(2009)も,建設的な学習環境とは,フレンドリーで親しみやすいOJT担当看護師のいる環境であることが確認された.
Clark(2013)は,調査対象を教える側とし,最も高得点であったのは,良い経験,観察,または行動に対して学生に積極的に関わっていることであった.つまり,教わる側は教える側よりも親しみやすさを重視する可能性があることを示唆していた.
Salsali(2005)は,研究者が開発したアンケートを使用して,学生70名を対象にOJT担当看護師の有効性を評価した.その結果,OJT担当看護師は「教わる側の能力と経験を尊重する」必要があると述べている.
Clark(2013)は,OJTを担当する時に,どのように役割の中で特性を経験的に決定していっているかを検証し,教えることを楽しむことなどが明らかになった.
国内文献では,近ら(2011)が,個別の指導ポイントを作成することによって,新人看護師の希望した指導を統一することができ,新人看護師,指導看護師共に働きやすい指導環境ができることを明らかにすることを目的とした.その結果,有効であった働きかけはこまめな声かけや振り返りを一緒にすることであったと報告している.
また,本山ら(2017)は,学内演習に参加した看護師の協働が実地指導に効果を及ぼす効果学生による実習指導評価で検討した.学内演習で協働した看護師は協働していない看護師よりも情緒的な支援の項目で評価が高かった.これらのことから臨床看護師の学内演習での協働経験が実習指導に効果を及ぼしたとしている.
石田(2020)は,先行研究や文献をもとに「実践知の引き出し」を作る指導内容について検討し,それをもとに指導を振り返り,「実践知の引き出し」をつくる看護師育成指導の在り方の糸口を見つけることを目的に調査を実施した.その結果,指導者は看護師が躓いている問題の本質を理解し,「信頼・双方向性対話」,「気づきの促進」を意識して,患者の現状や看護の実際といった事実をもとに,看護師が「看護としての視点」から「本質やパターンの認識」が可能となるように関わると述べている.
スコーピングレビューの対象となった文献を,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴についてコンピテンシー,対人関係を発展させる力,および性格特性と特定した.
コンピテンシーに関する海外論文はNCTEIという共通の評価尺度を使用していた.この尺度は,コンピテンシー(Competency: teaching ability, nursing competency),対人関係を発展される力(Interpersonal Relation),性格特性(Personality traits)で構成されていた.この評価基準により,看護実践能力が成長に影響を及ぼす指導をするOJT担当看護師の特徴として最も重要であることが明らかにされていた(Hou et al., 2010;Jowett & McMullan, 2007).国内論文においてもコンピテンシーを測定する尺度は開発されていた(下元・山田,2010;黒田ら,2019;大岩ら,2019;中澤ら,2021).しかし,これらの尺度の構成は指導能力,情緒面の支援,看護実践能力のどこかに偏っており,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴を捉えるために必要な内容が網羅されているとは言い難い現状があった.コンピテンシーに関しては,Spencer & Spenser(1993/2016)は,コンピテンシーを「ある職務または卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性」と定義した.つまり,新人看護師の成長に影響を及ぼすOJT担当看護師は,コンピテンシーが高い必要があることが推察されるため,そのコンピテンシーに関して適切に評価ができる指標が必要であると考える.
海外文献の分析からは,アメリカで行われた最近の研究の多数が,対人関係を発展させる能力を成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の最も重要な特徴として特定していた.効果的な指導ができる関係を築くことは,OJT担当看護師が教わる側をより快適にさせ,不安を和らげることができる結果につながると考える.このような関係は,教わる側が見くびられることを恐れずに質問をしたり,職場内に効果的な学習環境を作り出すことにつながると考える.海外文献で特定された,いくつかの性格特性は,OJT担当看護師が効果的な指導者になり,教わる側との肯定的な関係を築くのに役立つ可能性がある.結果で示された性格特性の親しみやすく,公正で,率直で,正直で,熱心で,教えることと看護を楽しんでいることが成長につながる効果をうむことが明らかにされていた.OJTにおける支援についての検討(McKeen & Burke, 1989;Noe, 1991)からも,企業内に良き人間関係を築き,また社会や企業内における文化や価値観を学び,1企業人としての倫理や自覚を身につけること,さらには仕事上のストレスの削減といった職場風土の向上を促す必要があることが言われていた.また,ノールズ(1980/2002)によれば,成人教育は肩の張らないリラックスした雰囲気の中で,教師と生徒,生徒同士の間に,互いの人格や意思を尊重しあう協力的で支援的な関係性が想定されている.そのため,職場内の職場環境を調整するために,対人関係能力や親しみやすく寛容な性格特性を持つことは成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴として重要であると言える.
2. 成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴を検討することの課題海外文献からは,NCTEIという共通の評価指標を用いた指導の評価がされていた.
また,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴として,コンピテンシー,対人関係を発展させる力,および性格特性であることが明らかになった.教育の有効性に関連するこれらの要素について検証するために,今後は国内においてもこれらの特徴を踏まえた研究を実施する必要があると考える.国内文献からは,質的に教育効果を検討した文献は見られた(近ら,2011;石田,2020)が,文件数は限られており今後は定量的に検証されていく必要があると考える.看護に関する指導の有効性と学ぶ側の情緒的支援を取り入れた尺度開発があった(下元・山田,2010;中澤ら,2021).しかし,尺度開発に留まっており,その尺度を使用した教育効果の測定までは至っていなかった.そのため,日本のOJTにおいても海外論文と同様に成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴が,コンピテンシー,対人関係を発展させる力や性格特性となるかは検証されていない.また,海外文献からは1990年代からOJTにおける実践に関する評価が共通の評価基準を用いて実施されており,国内においても共通した評価基準が確立されることで今後の病院内の看護単位で行われるOJTに関する検討資料になると考える.
そのため,日本においても関係探索研究などから,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴がコンピテンシーや対人関係を発展させる力,性格特性という海外文献と同様の結果であるかについて,今後検証していく必要がある.
海外では,実践した指導に関する評価研究も多く,成長に影響を及ぼすOJT担当看護師の特徴として,コンピテンシー,対人関係を発展させる力や性格特性が報告されていた.国内で開発されている尺度には,コンピテンシー,対人関係を発展させる力や性格特性について網羅されているものはなかった.今後は,OJT担当看護師のコンピテンシーを検討する際には効果的な指導を行う要素として,対人関係を発展させる力や性格特性も含めて充分な検討の必要がある.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MOは研究全般を実施,FYは文献の分析プロセスに貢献,原稿への助言を行い,すべての著者は最終原稿を読み,承認した.