2023 年 43 巻 p. 752-760
目的:高知県を対象に地理情報システムを用いて,訪問看護ステーション(VNS)のサービス提供体制別にみた空間アクセシビリティの評価を目的とする.
方法:オープンデータを用いてVNSのサービス提供体制の分布を求めた.VNSの空間分布と自動車の法定速度で,30分で到達可能な勢力範囲を割り出した.
結果:最寄りのVNSまでの直線距離の平均は2,199.8 m,最短が623.1 m,最長が6,793.5 mだった.全てのVNSの勢力範囲とサービス提供体制別の勢力範囲の比較では,24時間対応,緊急対応,精神看護で一部空白区域があったが,概ね30分の勢力範囲をカバーしていた.リハビリ専門職が配置されたVNSの勢力範囲において,西部の沿岸部に空白区域が認められた.
結論:VNSの偏在による空間アクセシビリティの不公平性に対して,人口やVNSの報酬体系,移動距離,地理的特徴を考慮したソリューションの検討が必要である.
Purpose: To evaluate the use of a geographic information system to assess the spatial accessibility of visiting nursing stations (VNSs) and highlight the uneven distribution of VNSs and gaps in service delivery.
Methods: We calculated the distribution of VNS service provision systems using open data. Specifically, we estimated the spatial distribution of VNSs and service areas that could be reached in 30 minutes by car at the legal speed limit.
Results: The average straight-line distance to the nearest VNS was 2,199.8 m, and the shortest and longest distances were 623.1 m and 6,793.5 m, respectively. A review of the service areas of all VNSs by service type indicated that they included almost all services, although blank areas existed in 24-hour response, emergency response, and psychiatric nursing. Among VNS service areas staffed by rehabilitation staff, a blank area was observed on the western coast.
Conclusion: To address inequalities in the spatial accessibility of VNSs, solutions must consider regional populations, VNS payment systems, travel distances, and geographical features.
世界の人口は急速に高齢化しており,人口規模が縮小に転じている国が増加している(Department of Economic and Social Affairs, 2019).高齢化は年金,医療,介護などの重要な公共政策において顕著な影響を及ぼすことが指摘されている(Muramatsu & Akiyama, 2011).わが国では,病院・病床機能の分化,在宅医療の充実(厚生労働省,2012)と,自治体が主体となって,地域の実情に合わせた保健医療介護サービスが提供できる地域包括ケアシステムの構築が推し進められている(Kato et al., 2019).一方で,近年,地域包括ケアシステムの概念は変化しつつある.医療技術の進歩を背景に,人工呼吸や吸引など,いわゆる医療的ケアが必要な子どもが増加している(厚生労働省,2017, 2020a).地域包括ケアシステムは,高齢者にとどまらず障害児・者も含めた様々な支援を必要としている者が,地域で暮らすことができる地域共生社会の実現のための手段として注目されている(中村,2019).要介護者や障害児・者が,医療的なケアを受け続けながら地域生活を送るために,訪問看護は欠かせないリソースのひとつである.一方で訪問看護事業は,巡回移動と採算性の問題から,都市部への偏在が指摘されている(Miyazawa, 2003).地方では,地域包括ケアシステムで定めた日常生活圏域内に訪問看護ステーション(Visiting Nurse Station: VNS)が存在しない地域も多く,訪問看護が提供できないことによる退院困難事例が報告されている(藤村ら,2015).人口と採算性の目安として,人口密度の平均が808人/km2を下回る自治体では,事業所の経営状態を度外視してサービスを提供している傾向が指摘されており,地理的な特徴を考慮した財政安定化のための仕組みの必要性が強調されている(Fukui et al., 2014a).中山間地域における持続可能な訪問看護事業の要件として,移動距離の長さや,豪雪などの厳しい気象条件への配慮が挙げられているものの(李・山本,2016),具体的な対応策は示されないまま,それぞれの工夫や自助努力に頼っているのが現状である.訪問看護サービスは,要介護者や障害児・者の医療的な依存度が高いほど必要性が高まるという特徴がある.一方で,地域ごとにみると医療的な依存度が高い者は少数であり,VNSからみた経済的合理性は低くなる.とりわけ,医療的な依存度の高い者にとって訪問看護は重要なリソースのひとつであり,地域の需要と適正配置を考慮すると,サービスを提供するための対象者へのアクセスの距離やサービス内容,量,種類(空間アクセシビリティ)(Guagliardo, 2004;Matthew, 2012;Zhuolin et al., 2018;Siqin et al., 2021)の検討は喫緊の課題である.
地域の社会資源の特徴,施設のロケーションを考慮した空間アクセシビリティの分析には地理情報システム(Geographic Information System: GIS)が有効である(Fradelos et al., 2014).GISベースの分析は,サービス利用の地理的および人口学的な関連要因を同定し,公衆衛生に関する課題解決や保険医療政策における意思決定を支援することが実証されている(Cinnamon et al., 2008;McLafferty, 2013).かねてより,国内外で医療資源の空間アクセシビリティに関する課題は,広く議論されている(Beccaro et al., 2007;Guagliardo, 2004).例えば,カナダのブリティッシュコロンビア州では,緩和ケアサービスの空間アクセシビリティを分析し,医療資源の有効活用が示されている(Cinnamon et al., 2008).イギリスではホスピスや緩和ケアへのアクセス格差が認識されているものの,対策の指針となるエビデンスの不足が指摘されている(Wood et al., 2004).わが国では,救急医療に関する空間アクセシビリティの報告が散見される.愛知県知多半島を対象として,災害時のヘリコプターによる救急搬送の空白区域を特定し,場外離発着場所の配置や(鈴木ら,2017),三次救急医療へのアクセス時間の推計(河口・河原,2006),既存の救急医療機関の集約化シミュレーション(山田,2009),島根県における救急搬送カバー率の検討(木村ら,2011),秋田県における医療アクセスの分析(森・坂口,2020)が挙げられる.訪問看護に関係する報告は,VNSから10分圏内の高齢者割合とサービス利用の関係を可視化し,VNSから離れている高齢者はよりサービスの利用率が低いことを指摘した報告や(Naruse et al., 2017),石川県におけるVNSの勢力圏と高齢化率の関係の検討(堀池ら,2018),緩和ケアの認定・専門看護師の空間分布を求め,訪問看護師との同行訪問を想定した場合の実行可能性が検討されている(清水・長内,2014).しかし,VNSのサービス提供体制ごとのサービス提供範囲(勢力範囲)を可視化し,県全体の空間アクセシビリティを検討した研究はない.
そこで本研究では,高知県を対象にGISを用いてVNSのサービス提供体制別にみた空間アクセシビリティの評価を目的とした.地域におけるVNSの適正配置と空白区域に対する政策立案への寄与が期待される.
高知県は四国の南半分を占め,北側を急峻な山々に囲まれ南側は太平洋である.森林の占める割合(森林率)は全国で最も広く84%である(高知県,2018).高知県の人口は2023年6月1日現在668,671人で(高知県,2023a),高知市に県人口の約47.5%(317,832人)(高知市,2023)が居住している.2021年の高齢化率は35.8%である(高知県,2022).
2. データ収集方法高知県訪問看護連絡協議会のウェブサイトより,VNS一覧(高知県訪問看護連絡協議会,2022),高知県指定自立支援医療機関(精神通院)一覧(精神訪問看護)(高知県,2023b),厚生労働省の介護サービス情報システムよりサービス提供体制を取得した(厚生労働省,2022a).調査内容は,VNSの事業所名,住所,常勤換算人数,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士(リハビリ専門職)の合計人数,事務職員,リハビリ専門職の配置,緊急時訪問看護加算,24時間訪問看護対応加算,精神訪問看護の提供だった.調査期間は2022年12月25日から2023年1月22日だった.
3. 分析方法データソース(高知県訪問看護連絡協議会)の区域区分を用いて集計を行った.区域分類別にみたVNS,常勤換算人数,リハビリ専門職数,リハビリ専門職・事務職員の配置,緊急時訪問看護加算,24時間訪問看護対応加算,精神訪問看護の提供は分布を求めた.住所はGISを用いて座標値に変換し,地図上にプロットした.常勤換算数について,ウェブ上で取得できなかった施設は,指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準で定められている最小の員数を参照し2.5人を代入した(厚生労働省,2020b).e-Stat(総務省統計局,2008)より2020年の国勢調査情報が付与された,高知県の行政区域を示すポリゴンフィーチャ(esri, 2023b)を取得し,人口密度をドット表示した.VNSの偏在を検討するために,各VNSから最近接のVNSまでの距離を,近接フィーチャへの計測ツール(esri, 2023a)を用いて算出し平均距離を求めた.訪問看護サービスの勢力範囲を特定し可視化するために,Arc GIS Network Analystの到達圏解析を実施した.到達圏解析とは,到達可能な道路の範囲を,任意のパラメーターに基づいて地図上に描写できるネットワーク解析である(esri, 2023c).全国訪問看護事業協会の調査を参考に,道路交通ネットワークに従った自動車の制限速度でVNSから30分(一般社団法人訪問看護事業協会,2013)で到達できる範囲を特定し,範囲外を空白区域とした.なお,リハビリ専門職が配置されているVNSは何らかの訪問リハビリテーションが提供されている前提で解析を行った.解析はesri社のArcGIS Pro. 3.0.3を用いた.本研究はウェブ上で広く公表されているオープンデータを用い,個人情報は一切用いていない.
高知県のVNSは80施設,高知県訪問看護連絡協議会による区域別では中央が33(41.3%),次いで中央東・安芸が17(21.3%)などだった.常勤換算数の中央値(範囲)は,4.5人(2.5–16.5)で,最寄りのVNSまでの直線距離の平均は2,199.8 m,最短が中央の623.1 m,最長が高幡・中央西の6,793.5 mだった.VNSのサービス提供体制,区域別分布を表1に示す.
VNSのサービス提供体制と区域別分布,最近接のVNSまでの平均距離(n = 80)
| 項目 | n | % | ||
|---|---|---|---|---|
| 看護師常勤換算数,中央値(範囲)(n = 64) | 4.5(2.5–16.5) | |||
| リハビリ専門職数,中央値(範囲)(n = 64) | 1.3(0.0–13.2) | |||
| 最近接の訪問看護ステーションまでの直線距離の平均(m)(n = 75)*1 | 2,199.8 | |||
| 地区*2 | 中央 | 623.1 | 33 | 41.3 |
| 中央東・安芸 | 2,871.5 | 17 | 21.3 | |
| 東部 | 911.6 | 13 | 16.3 | |
| 高幡・中央西 | 6,793.5 | 9 | 11.3 | |
| 幡多 | 4,456.7 | 8 | 10.0 | |
| ウェブサイトでの常勤換算数の公表 | なし | 16 | 20.0 | |
| あり | 64 | 80.0 | ||
| 事務職員の配置 | なし | 40 | 50.0 | |
| あり | 24 | 30.0 | ||
| ウェブ未公表 | 16 | 20.0 | ||
| リハビリ専門職の配置 | なし | 20 | 25.0 | |
| あり | 44 | 55.0 | ||
| ウェブ未公表 | 16 | 20.0 | ||
| 緊急訪問加算(介護保険) | なし | 8 | 10.0 | |
| あり | 62 | 77.5 | ||
| ウェブ未公表 | 10 | 12.5 | ||
| 24時間対応加算(医療保険) | なし | 8 | 10.0 | |
| あり | 62 | 77.5 | ||
| ウェブ未公表 | 10 | 12.5 | ||
| 精神訪問看護提供 | なし | 24 | 30.0 | |
| あり | 56 | 70.0 | ||
*1 Arc GIS Proの空間統計ツールにて算出
*2 高知県訪問看護連絡協議会(https://www.kochi-houkan.com)による分類
自動車で30分の勢力範囲を図1に示す.人口密度のドット表示と30分の勢力範囲を視覚的に確認したところ,VNSのサービス提供空白区域は,高知県北側の地域全域とAとCで囲んだ区域だった.Bの区域はVNSが1施設で,沿岸部に空白区域が認められた.Cの区域にVNSが2施設あったが,沿岸部の勢力範囲外に一部空白区域が認められた.

VNSから自動車で30分の勢力範囲
自動車で30分の勢力範囲をブルーで示し,VNSのサービス提供の主な空白区域をAからCで示した.詳細は結果参照.高知県訪問看護連絡協議会の許可を得て区域区分を転載した(高知県訪問看護連絡協議会,2022).
図2,3,4は,自動車で30分の勢力範囲にサービス提供体制ごとのレイヤーを重ね,格子模様で示したものである.サービス提供体制ごとの空白区域は次の通りである.医療保険による24時間対応と介護保険による緊急訪問対応の空白区域はDで示した東部の1区域だった(図2).

緊急訪問体制,24時間対応を提供ししているVNSの勢力範囲
Dは,介護保険による緊急訪問対応と医療保険による24時間対応の空白区域を示している.

精神訪問看護を提供しているVNSの勢力範囲
E,F,Gは,精神訪問看護のVNSの空白区域を示している.

リハスタッフが配置されているVNSの勢力範囲
IとHは,リハスタッフが配置されているVNSの空白区域を示している.
精神訪問看護のVNSの空白区域は,E,F,Gで示した区域(図3),リハビリ専門職が配置されているVNSの空白区域は,HとIで示した区域だった(図4).
高知県のVNS間の直線距離の推計によると,中央と比較して中央以外のVNSは最大で約10倍遠く,中央と中央以外で顕著な偏在が認められた(表1).ただし,この値は単に近接したVNSとの距離の平均を求めており,地形や標高,道路状況を考慮すると,中央と中央以外に距離以上のアクセシビリティの差の存在が示唆される.
GISを用いて,自動車で片道30分の勢力範囲を俯瞰すると,図1に示したA,B,Cの区域に空白区域が存在し,Bの区域の1施設は,24時間対応,緊急訪問,精神訪問看護を担っていた.一般的にVNSは,自施設の対応キャパシティが越えた場合,一人の利用者に対して複数のVNSが連携してサービスを提供する(奥野ら,2019).Bの区域における1施設のロケーションでは,利用者の需要が一時的に高まったとしても協力体制が取れる施設がない.すなわち,Bの区域は,距離的なアクセシビリティの低さに加え,連携できるリソース不足による脆弱性が存在する可能性がある.
サービス提供体制別にみた勢力範囲では,24時間,緊急対応,精神看護で一部空白区域を認めるも,概ね30分の勢力範囲をカバーしており,一部の空白区域では,サービス提供のために片道30分以上の移動を要している可能性がある(図2,3).リハビリ専門職配置のVNSの勢力範囲において,図4のHとIの区域に空白区域が認められた.Hの区域は高知県西部(高幡から幡多)の沿岸部を占めており,訪問リハビリテーションへのニーズに対して,VNSは採算性が低い状態でサービスを提供しているか,当該区域の訪問リハビリテーションの需要が低い可能性が考えられる.今回は,サービス需要の調査は実施しておらず,空白区域との関係は不明である.ただし,HやIの区域の利用者に必要なサービスが届いていない可能性があるため,実際のサービス提供状況や需要に関する調査の必要性が示唆される.
近年,在宅支援に携わる事業所は独立採算が求められており,介護保険が開始された2000年以降,社会福祉協議会でさえ採算性を重視する傾向が指摘されている(Miyazawa, 2003).VNSのサービス提供の対価は,原則として利用者に対しての看護の提供に限られ,移動距離や時間は考慮されない(厚生労働省,2020c).日本のVNSの多くが小規模で,経営的にも脆弱なことが指摘されており(Fukui et al., 2014b),採算面における事業の持続可能性を考慮すると,人口集中区域への偏在は至極当然な結果である.一方で,VNSの偏在は,サービスを受ける側からみたアクセシビリティの公平性が担保できていない.地域包括ケアシステムの冒頭に示されている「住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステム」(厚生労働省,2022b)について額面通り解釈し堅持した場合,VNSへの報酬の仕組みと,地域包括ケアシステムの方針との間に政策上の矛盾が生じる.ただし,地域包括ケアシステムは,地域の実情に合わせて柔軟に構築すべきとも示されており,これを加味すると,地域特性を踏まえて,かつVNSの採算性も担保できる仕組みの構築が必要である.具体的には,全国で最も高い森林率(84%)である高知県のロケーション上の特徴(高知県,2018)を考慮して,高知県訪問看護連絡協議会による分類の中央とそれ以外の区域を分割し,地域の実情に合わせたVNSへの単価設定が考えられる.その際に,単に中央と中央以外区域を画一的に二分するのではなく,GISの空間解析を用いて地理的な変数を考慮した分割案と,VNSのサービス提供体制を再考する必要性が示唆される.
本研究にはいくつかの限界がある.まず,2023年1月時点にウェブサイトで公表されているデータを用いた推計であり詳細なリリース日までは把握できてない.かつ,サービス提供の実情は一切考慮されていない.到達圏解析による勢力範囲は任意のポイントから到達可能な道路までの範囲を示しており,道路から対象者までの範囲は考慮されていない.視覚的な空白区域の確認では,地形や標高の影響が考慮できていない.今後は今回の解析結果と実際のサービス提供体制,空白区域,提供時間等を考慮した検証が必要である.
本研究ではウェブサイトで広く公表されているデータを用いて,高知県における訪問看護ステーションのアクセシビリティについて検討した.高知県の訪問看護に関する政策を検討するうえで次の2点の考慮事項が示された.図4のHとIに示された区域で訪問リハビリテーションを提供する場合,片道30分以上の移動時間を要している可能性があり,サービス提供の実態と訪問リハビリテーションのニーズ調査の必要性が示唆される.2つ目に高知県におけるVNSの偏在によるアクセシビリティの不公平性へのソリューション案として,中央と中央以外の区域の空間アクセシビリティを考慮して分割し,人口,地理特性,道路交通情報,気象などの変数を用いたVNSへの報酬体系の検討など,地域における持続可能なVNS事業の検討が挙げられる.オープンデータを用いた空間アクセシビリティの評価は,地域診断や政策立案前の,リソースの空間分布の把握や,課題の明確化に寄与する可能性がある.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:HN,YN,RH and TIは研究の着想及び方法を行った.HN and YNはデータ収集,集計を行った.HN,YN,RH and TIは空間解析を行った.RH and TI は空間解析の助言を行った.HN and YNは視覚化及び,論文の原案を作成した.HN,YN,RH and TIは論文の執筆を行った.HNはプロジェクトの管理を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.