目的:人生を脅かす疾患や障害と生きる人々の時間軸を含むライフ経験とレジリエンスとの関連を文献から明らかにし,看護実践と研究への示唆を得る.
方法:医学中央雑誌,PubMed,CINAHL,PsycInfoを用いて論文を検索し,結果を抽出して内容を整理した.
結果:計18文献が抽出された.深刻な疾患や障害と生きるライフ経験は,レジリエンスを包含しながら,発症後に崩壊や落ち込みを経験するが時間とともに回復する道筋が示された.レジリエンスは,困難からの回復プロセスや能力,身体・心理社会的アウトカムと直接的・間接的に良好に関連する要因であった.レジリエンスの資源や促進要因は,周囲との良好な人間関係,自己効力感や社会参加が挙げられた.
結論:時間軸を含むライフ経験上の回復や良好なアウトカムと関連するレジリエンスを獲得するための,心理学的介入アプローチと研究蓄積の必要性が示唆された.
Purpose: The purpose of this study was to examine the correlation between life experiences and resilience including timeframes of people living with life-threatening diseases and disabilities, to gather suggestions for nursing practice and research through a comprehensive review of the literature.
Method: A comprehensive review of the literature was conducted. Articles were searched using the Igaku Chuo Zassi, PubMed, CINAHL, and PsycInfo databases to extract appropriate results and organize the content from the review.
Results: Eighteen studies were extracted. Living with a serious disease and disability entailed a course of recovery that follows periods of disintegration and despair while including resilience over time. Resilience was the process or ability to recover from difficulties; it had direct and indirect positive relationships with physical and psychosocial outcomes. Resources and related factors that fostered resilience included cultivating good relationships with others, self-efficacy, and social participation.
Conclusion: Psychological intervention approaches for acquiring resilience in relation to recovery and positive outcomes on life experiences, including timeframes, have been proposed. Prospects for further research have been presented.
過酷な疾患や障害と生きる人々は,発症によって深刻な生命と生活上のリスク状況に長期的に陥りやすい.病期の進行に伴い,精神機能障害を伴う場合は重要な人生の役割を全うできず主要な人生活動が制限され(Sanchez, 2022),身体機能障害を伴う場合では断続的な身体機能の喪失や身体的苦痛に加えて,抑うつや絶望,孤立や社会的役割喪失等の心理・社会的恐怖を引き起こし(Barskova & Oesterreich, 2009;平野・山崎,2013;平野,2017),人生が脅かされる恐れがあることが報告されており,支援策の検討が急務である.
このような疾患や障害と生きる人々への理解促進や支援のあり方を検討する上で,2001年に世界保健機関で採択された国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF)の,ライフ(生命・生活・人生)を包括する生活機能を人が生きることの全体像と捉え,プラス面を重視する見方の活用が広まっている(上田,2023;World Health Organization, 2023).また,困難な状況を余儀なくされても,疾患や障害の状態にとらわれず,困難とうまく付き合い生活の質(Quality of life: QOL)を良好に維持する対処資源や戦略,ポジティブ感情を保持する重要性が注目を集めている(Snyder et al., 2002;Wister et al., 2016).なかでも,レジリエンスは,誰でも獲得でき高めることができ(Wister et al., 2016),身体・心理社会的アウトカムや健康関連QOLと良好な関連をもつことが示されており(Stewart & Yuen, 2011;Edward et al., 2019;Ovaska-Stafford et al., 2021),レジリエンスを高める要因を探ることが支援策を考える上で鍵になると考える.しかし,レジリエンスの定義は,素質や個人特性(Wagnild & Young, 1993),環境との相互作用で時間とともに発達変化する能力や学習可能な能力(Robertson et al., 2015;Edward et al., 2019),時間とともに変化して発達する力動的で多次元的回復プロセス(Luthar & Cicchetti, 2000;Johnston et al., 2015),これらを包含した環境と個人の資質との相互作用のプロセス(Kumpfer, 1999)と報告されてきたが,いまだ一定の合意は得られていない(Wister et al., 2016;小玉,2021).
そこで,深刻な疾患や障害をもつ人への支援策を検討するために,長期的視座でのライフ経験と獲得可能なレジリエンスとの関連について,まずは既存の知見を整理することが重要であると考える.
本研究の目的は,人生を脅かす疾患や障害と生きる人々の時間軸を含むライフ経験とレジリエンスとの関連について,文献から明らかにして,看護実践と研究の取り組みへの示唆を得ることである.
本研究で用いる「ライフ」とは「人生や生活全般」(Schroots & Ten Kate, 1989)を意味するものとし,「時間軸を含むライフ経験」とは「一時点ではない長期的視座での人生や生活全般における経験」とする.なお,本研究で用いる「ライフ」は,ICFの人として生きることの全体像を捉える視点(上田,2023;World Health Organization, 2023)をも含むものとする.
また,「人生を脅かす疾患や障害と生きる人」とは「発症や重症化により通常の日常生活や人生設計の変更を余儀なくされる恐れのある比較的重症度の高い精神機能障害あるいは身体機能障害を伴う疾患と生きる人」(Barskova & Oesterreich, 2009;Loughan et al., 2023)を指すものとする.なお,災害,事件・事故,暴力,虐待,喪失体験によっても心的外傷後ストレス症(Post Traumatic Stress Disorder: PTSD)等を続発して通常の人生が脅かされる恐れがあるが,これらは突然の極めて破壊的で著しい脅威や恐怖体験であり(金,2021),通常の病の発症に伴う体験とは機序が異なることが指摘されていることから(Bonanno, 2004),重症度の高い身体機能障害を伴う場合を除いて対象から除外する.
文献検索はスコーピングレビューのPRISMA声明拡張版(PRISMA-ScR: PRISMA extension for Scoping Reviews)(Tricco et al., 2018)と日本語版(沖田ら,2021)の方法論を参照して行った.学術論文データベースの医学中央雑誌Web版,PubMed,PsycInfo,CINAHLを使用し,2023年1月末までに掲載された学術論文を2023年1月末に検索した.検索キーワードは,医学中央雑誌Web版では,レジリエンスAND心理学AND「人生ORライフ」AND「スパンORプロセスORコースOR経験OR歴史OR軌跡」AND「障害OR疾患OR難病OR希少疾患OR未分類疾患OR慢性疾患」を組み合わせ,英文データベースでは,resilience AND psychological AND life AND「process OR span OR course OR line OR experience OR history OR trajectory」AND「disability OR disease OR rare disease OR undiagnosed disease OR chronic illness OR illness」についてMeSH Major検索を中心に行った.対象文献は本文が入手可能な研究論文とし,対象言語は日本語と英語に限定した.まず,抽出された論文のタイトルと抄録を精査し,先行研究を参考に,深刻な身体疾患として,癌,後天性免疫不全症候群,心臓疾患,多発性疾患,関節リウマチ,脳脊髄損傷,整形外科的外傷性疾患,火傷(Barskova & Oesterreich, 2009;Loughan et al., 2023)等,深刻な精神疾患として,抑うつ,双極性障害,統合失調症(Sanchez, 2022)等の,通常の人生や生活を脅かす恐れのある重症度の高い疾患と生きる18歳以上の成人期の人々を中心に対象とした,時間経過を含むライフ経験とレジリエンスとの関連が論じられている論文のみを抽出した.次に,抽出された論文の本文を入手して内容を精査した.
2. 分析方法入手した論文本文の精査は,論文の評価のため,質的研究はStandards for Reporting Qualitative Research(SRQR)(O’Brien et al., 2014),量的研究はStrengthening the Reporting of Observational studies in Epidemiology(STROBE)(STROBE Initiative., 2023)を参考にした.文献の分析方法は,一般的にデータに忠実に特性を記述するものとされ結果の高度な統合は行わないとされるスコーピングレビューの文献分析手法を参照した(Tricco et al., 2018).まず,分析対象文献の,著者名,出版年,国,目的,方法(対象,対象数,研究デザイン,データ収集と分析方法)を整理した.次に,質的研究は,論文を精読して時間軸を含むライフ経験とレジリエンスとの関連性に関する主な記述を抽出した.量的研究は,レジリエンスを測定する尺度と統計学的に有意に関連が認められる変数についての記述を抽出した.その上で,質・量的研究ともに,ライフ経験のなかで果たすレジリエンスの働きに関する記述部分について,含まれる意味内容を忠実に表すような必要な内容を全文より補いながら抽出した.最後に,抽出した各記述間の類似点や相違点に着目しながら論文間の比較検討を行い,意味内容を損なわない範囲で抽象度を上げて統合した内容を記述した.文献検索と抽出にあたっては専門家のスーパーバイズを得て行い,分析過程ではレジリエンスまたは質的研究の専門家と協議を行い真実性の確保に努めた.
3. 倫理的配慮文献内容の要約に際しては,文献内容を精読し,内容に忠実に要約した.
文献検索の結果,PubMed 229件,PsycInfo 193件,CINAHL 94件,医学中央雑誌Web版19件の合計535論文が抽出された.重複論文91件を除外した.表題と抄録で内容を精査し,英語・日本語以外,文献レビュー,患者当事者以外を対象,全員が18歳未満あるいは全員が65歳以上を対象,総説・解説,COVID19感染等のパンデミック・災害・事件事故・暴力・虐待・喪失体験の著しい脅威や恐怖体験に続発するPTSD等のストレス関連症群の国際疾病分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, Eleventh Revision: ICD-11)の診断基準に該当する症状(金,2021)を有する者のうち重症度の高い身体障害を持たない対象を取り扱った論文を除外して,残った計139論文の本文を精査した.その結果,日本語・英語以外2件,文献レビュー4件,患者当事者以外(介護家族,医療従事者,軍人)と対象全員が高齢者や子ども・思春期の人々23件,総説・解説5件,レジリエンス未使用12件,一時点に着目している横断研究55件,プログラム・治療評価やランダム化比較試験17件,本文取り寄せ不可3件を除く計18論文が抽出された.そのうち13件が2017年以降に発表されていた.質的研究が11件,量的研究が7件であった.質的研究結果を表1に,量的研究結果を表2に示す.結果の記述では用いた論文の番号を表と照合させ,質的研究では〈 〉,量的研究では[ ]で示した.
人生を脅かす疾患や障害と生きる人々の時間軸を含むライフ経験とレジリエンスとの関連性についての質的研究の概要
No | 著者(出版年)国名 | 目的 | 研究対象者(人数,平均年齢,性別) | データ収集方法 | 主な結果 | 時間軸を含むライフ経験のなかで果たすレジリエンスの働き |
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〈1〉 | Livingstone et al.(2011) オーストラリア |
糖尿病による四肢切断患者の体験として永続的なレジリエンスの辿る道を探索 | 糖尿病による四肢切断患者(5名,61.6(41~77)歳,女性1名) | 病院内で対象を選定.半構造化面接を実施.「切断が生活に与えた影響」を質問.グラウンデッドセオリー法で分析. | 切断後は手足の機能障害や身体機能の合併症の影響を受けショックや悲嘆を経験したが,病いと生きるプロセスのなかで自身の生活に対処する顕著な能力を発揮して希望を発展させていた.これらより「経験として押し付けられた無力感」「機能的な適応」「耐久性」の3つのカテゴリ,これらを統合した「永続的なレジリエンスの道筋」のコアカテゴリが抽出された. | 切断治療や糖尿病を抱えながらの生活にうまく適応して生活を維持する上で必要な基本的な心理社会的プロセス |
〈2〉 | 徳田他(2011)日本 | 4度にわたる腎代替療法の変更を経験した患者の病いの経験の理解 | 4度にわたる腎代替療法の変更を経験した患者(1名,64歳,男性) | 病院の外来患者から対象を選定.半構成面接を計2回実施.「各治療期における体調・生活・思い」等を質問し,ライフ・ライン・メソッドにてライフ・ライン(人生の浮き沈み)を聞きとり. | 危機的な局面においてもライフ・ラインは低下せず,常に前向きな立ち直り期へと転換した.治療変更の際にもライフ・ラインの大きな浮き沈みがなかった.その要因は,家族の支え,前向きな考え,生活の編み直し,自己管理能力,医療者との信頼関係,レジリエンス能力の高さであった.レジリエンス能力はどの局面においても十分に発揮された. | 本来人間が有し,個人内で発達させ可逆性で促進させることができる人間の生きる力を強める機能で,家族の支えや医療者との信頼関係によって形成し高められる,危機的状況を受け止め克服していく,「次はどうするか」「やってみよう」という考えに向かう能力 |
〈3〉 | Machida et al.(2013) 米国 |
身体障害をもつスポーツ選手の経験をレジリエンスのプロセスとそのプロセスの中でのスポーツ参加の役割を明確化 | 脊髄損傷の四肢麻痺の車椅子男性ラグビー選手(12名,21~41歳,男性) | 車椅子ラグビートーナメント参加者から対象を募集.半構造化面接を実施.「身体機能を失った経験」を質問.Richardson and colleaguesのレジリエンスモデルを適応. | 逆境前からの要因や経験,逆境後の感情の混乱,様々なソーシャルサポート,特別な機会や経験,様々な認知行動的対処戦略,変化に適応する動機を経て,レジリエンスの再統合が行われ,それらのレジリエンスプロセスから学びや得られるものがあった. | 悲嘆や身体機能障害から社会復帰させる生物心理スピリチュアルな個々の能力や特徴を獲得する,既存の要因や逆境前の経験を含む多要因からなるプロセス |
〈4〉 | 石田(2014) 日本 |
苦悩や生きづらさに一時的に不適応に陥ったとしてもそれを克服して回復するプロセスの概念モデルを案出 | 精神療養病棟長期入院患者(6名,45.5 ± 13.6歳,不明) | 院内で長期入院中の患者から対象を選定.半構造化面接を実施.「これまでの人生でやったという体験・心が押しつぶされそうな悩んだ出来事,助け・変化・力・大切なもの」を質問. | 回復プロセスの概念モデルは,出来事生起以前,困難・脅威を齎す出来事の生起,回復途中,回復の完了,影響する要因に分類整理でき,レジリエンスに影響する要因として,家族や周囲の人との良い関係を保つこと,希望や自信を高めること,人生を楽しむ姿勢や柔軟性と調和を維持することが挙げられた. | ポジティブな適応や心理的な自己修復力として,常に人に備わっているダイナミックなプロセス |
〈5〉 | 武政他(2014)日本 | 障害から立ち直り,ぴあサポーターとして社会参加している人々が,どのようにスピリチュアルペインを回復させていったかを質的に解明 | 地域で活動する精神障害ぴあサポーター(8名,30代前半~60代後半,女性2名) | PSWや地域活動支援センター等より対象の紹介を受けた.グループ面接を実施.「なぜピアサポートを行っているか」等10項目を質問.CarverのResilience-Thrivingモデルに沿ってKJ法で分析. | レジリエンス(回復)のプロセスのイメージを一本の線で提示した.レジリエンスプロセスは「病気による崩壊」「葛藤しながらの回復」「障害受容」「支援者との距離と期待」「障害を理解できる仲間の必要性」「役割感の再構築」「当事者が輝くとき」の7つの枠組みからなるプロセスであった. | 同じ障害を抱えた人たちを知ることで障害を受け入れ,スピリチュアルペインからスピリチュアルウェルビーイングを促進させていくことで新しい人生を創造する道を作るプロセス(「崩壊-再構築-繁栄」のプロセス) |
〈6〉 | Woodhouse et al.(2017) オーストラリア |
胃不全麻痺とともに生きる経験と適応を解明 | 胃不全麻痺と生きる人(10名,40.2(21~70)歳,女性) | 広告等で対象を募集.解釈的現象学的アプローチ法を用いた半構造化面接を,8名は電話,1名はスカイプ,1名は対面で実施.「発症後の経験と心身社会的影響」を質問. | 診断後,葛藤,アイデンティティ,対処・適応の3つのジャーニー(旅程)を辿っていた.全員一律に葛藤を経験するが,その後のアイデンティティは健康に焦点化された場合(レジリエンスあり)と病気に焦点化された場合(レジリエンスなし)にわかれ,それぞれの対処・適応は効果的,非効果的に枝分かれしていた. | 健康に焦点化されたアイデンティティ |
〈7〉 | 日高(2020) 日本 |
AYA世代癌サバイバーの経験を記述し,レジリエンスの視点から解釈 | 10年前に横紋筋肉腫罹患した成人(1名,30代,男性) | 半構造化面接を実施.「癌に罹患してから今までの経験」を質問.ライフヒストリー法にて分析. | 癌の罹患から退院まで,復学と進路選択,就職に際しての思い,就職後に感じる大変さについて語られ,行動を選択していく自己調整力や病を受け入れる力,現実的楽観的な視点を持てることが,本人のレジリエンスであると考えられた. | 体調を考慮して行動を選択していく自己調整力や病を受け入れる力,現実的かつ楽観的な視点を持てる力 |
〈8〉 | Williams et al.(2020) オーストラリア |
婦人科癌経験女性における癌の支持医療の必要性を探求 | 婦人科癌を経験した女性(190名,18~96歳,女性) | 公的婦人科病院の外来患者から対象を募集.記述式質問紙調査と電話面接調査を実施.診断後の経験の中で「支持医療の必要性」「支持医療の経験」「支持医療の改善策」を質問. | 診断後に支持医療を受ける経験として,「経験に基づくコミュニケーションスタイル」「病気についてだけではないこと」「情報を得ることへの願望」「レジリエンスを使用すること」「医療ケアシステムを導くこと」の5つのテーマが抽出された. | 癌とともに生きる過程のなかで自分自身を同一視する本質的な一つの方法で,癌治療の経験が課す挑戦の克服に使える戦略 |
〈9〉 | Li et al.(2021) 中国 |
肺癌手術後の5年以上長期生存者のレジリエンスプロセスとその保護要因の探求 | 肺癌手術後の長期生存者(19名,62.5 ± 9.9歳,女性9名) | 病院の外来患者のうち18歳以上の手術後5年以上生存者を選定し電話で対象を募集.半構造化面接を実施.Kumpfer resilience frameworkに基づく「診断時,身体的・心理的にどのように感じたか」等10個を質問.現象学的に分析. | レジリエンスプロセスは「最初のストレス」「病気への適応」「個人的成長」の3つのステージに要約され,「秀でた心理的素質」「良好なソーシャルサポート」「定期的な生活様式とエクササイズ」「社会的活動への参加」「漢方薬」の5つのテーマが影響を与えていた. | 環境と個人の相互作用を通して発展し,外的環境要因,個人環境相互作用プロセスの保護的要因,内的な自己性質を含む多くの要因から影響を及ぼされるダイナミックなプロセス |
〈10〉 | Qiu et al.(2021) 中国 |
心臓血管疾患の入院患者のライフイベントと自己管理の適応的対処方法との関連を探求 | 心臓血管疾患の入院患者(28名,62.5(32~86)歳,女性7名) | 大学病院に入院中の18歳以上の6か月以上心臓血管疾患と生きる患者から対象を募集.半構造化面接を実施.「疾患を持ちながらの生活」等を質問.異なるライフイベントとともに生きる際の対処アプローチを質問. | ライフイベントは「毎日のルーチン」「生活・人生の変化」「生活・人生を脅かす経験」「情緒的苦悩」の4つのカテゴリー,適応的対処アプローチは「意思決定」「逃避」「一貫した反応」「挿話的な反応」の4つのテーマに要約され,心理学的レジリエンスはストレスフルな出来事とそれへの反応の間の重要な仲介要因であった. | 逆境的なライフイベントでのとりわけ感情的なストレスをポジティブ・ネガティブ反応を通して適応する過程を仲介する顕著な保護要因で,健康行動やより良い心身・社会的アウトカムを齎す |
〈11〉 | Loughan et al.(2023) 米国 |
脳腫瘍患者が人生を脅かす病いと生きる経験についての情緒的な軌跡を探求 | 脳腫瘍患者(15名,45.0(18~76)歳,女性53%) | 癌センターで対象を募集.4つのフォーカスグループで半構造化面接を実施.病いと生きる過程でのケアニーズをディスカッション.Nvivoソフトウェアを用いたテーマ内容分析を実施.人口学的属性,疾患の状況や症状の程度はオンラインで質問項目に回答する形式を採用. | 「ストレスへの情緒的反応」「実存的思考」の2つのテーマのもと,診断後,「恐れ」「絶望」「レジリエンス」の3つのカテゴリーを辿っていた.それぞれ「ショック・再発・将来の不確実性・人生の目標を見失う・継承可能性」「イライラ・抑うつ・目的を問う・情緒的な負荷・孤立」「対処・診断の受容・死亡率の受容・希望」の計14個のコードが抽出された.各カテゴリーの該当率は31~35%であった. | 深刻な疾患を抱えながらも,今の瞬間を生きていくための行程のうちの回復部分そのものであり,対処戦略としても働く(対処・診断受容・死亡率の需要・希望) |
人生を脅かす疾患や障害と生きる人々の時間軸を含むライフ経験とレジリエンスとの関連性についての量的縦断研究の概要
No | 著者(出版年) 国名 |
目的 | 研究対象者 (人数,平均年齢,女性の割合) |
データ収集方法 | レジリエンスの測定 | ライフ経験のアウトカム | 主な結果 | 時間軸を含むライフ経験のなかで果たすレジリエンスの働き |
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[1] | Campo et al.(2017) 米国 |
個人的レジリエンス資源が高い人は心理的アウトカムが高いか,抑うつ症状の減少や意味づけのプロセスを介在するかを検討 | 癌移植後9か月から3年のサバイバー(254名,54.8 ± 11.6歳,57%) | 癌移植時と,9か月から3年後に,質問紙調査を実施. | Personal resilience resources | PTSD症状,人生の意味づけ | より多くのレジリエンス資源をもつことで,困難な癌治療後のPTSD症状と人生の意味づけの改善と直接的な関連を示した.これらは抑うつ症状と病の負の意味づけの減少が介在する(間接的関連)ことによってより促された. | 逆境下でもwell-beingを維持し回復する能力 |
[2] | Echezarraga et al.(2017) スペイン |
双極性障害患者のレジリエンス次元とメンタルヘルスアウトカムとの関連を検討 | 双極性障害患者(125名,46.1 ± 10.9歳,62%) | クリニックで対象を募集.ベースライン時と,6ヶ月から12ヶ月後に,質問紙票調査を実施. | Resilience Questionnaire for Bipolar Disorder | 障害の自己回復,生活の質,内的状態(Well-being,抑うつ,活性度,精神病理),仕事や社会的適応 | レジリエンス次元の自己管理,ターニングポイント,セルフケア,自己信頼は,ベースライン時のメンタルヘルスと関連した.ベースライン時の自己信頼はフォローアップ時の障害の自己回復の増強を直接予測した.自己信頼の改善はベースライン時の対人サポートとセルフケアとフォローアップ時の障害の自己回復との関連を仲介した. | 生活の質の回復・改善を予測する様々な要因 |
[3] | Edwards et al.(2017) 米国 |
1年後のレジリエンスの変化が抑うつ・疲労・睡眠質・身体機能の変化と関連するかを検討 | 身体障害を持つ人(筋ジストロフィー,多発性硬化症,脊髄損傷等)(893名,55.3 ± 5.7歳,64%) | リサーチ会社の広告や複数の障害団体で対象を募集.ベースライン時と1年後に,郵送質問紙調査を実施. | Connor-Davidson Resilience Scale(CD-RISC) | 抑うつ,疲労,睡眠質,身体機能 | レジリエンスは1年後の他の変数と関連を示した.レジリエンスの増強は,睡眠の質と身体機能の向上と関連し,逆にレジリエンスの衰退は,抑うつや疲労の増強と関連していた. | 日常的なストレスや主なライフストレスに直面した時に心身の健康を回復あるいは維持する能力 |
[4] | SchrierI et al.(2019) ニュージーランド |
複合性局所疼痛症候群1型の切断治療終了後の好ましくないアウトカムと関連する心理社会的要因を検討 | 複合性局所疼痛症候群1型による切断治療を受けた患者(31名,37.5 ± 12.5歳,81%) | 切断治療終了前と終了後に,電話インタビューと質問紙調査を実施. | Connor-Davidson Resilience Scale(CD-RISC) | 痛みの変化,身体機能の変化 | 切断後の痛みの増強は,ソーシャルサポート不足や切断前の痛みと関連した.機能面での改善を認めた患者はベースライン時により高いレジリエンスを保持していた. | ストレス対処能力指標 |
[5] | Mohlin et al.(2021) スウェーデン |
乳がん診断時と1年後の女性の心理的レジリエンスと健康関連QOLの関連を検討 | 乳がん診断女性(418名,62 ± 11(31~85)歳) | 診断時と1年後に,質問紙調査を実施. | Connor-Davidson Resilience Scale(CD-RISC) | 健康関連QOL | レジリエンス得点と健康関連QOLは時間とともに有意に低下した.レジリエンス得点は診断後1年で健康関連QOLと正の関連を示し,レジリエンスはQOLを維持する重要な要因であった. | 癌診断など深刻な逆境にもうまく対処する主な保護的な心理的メカニズム |
[6] | Macia et al.(2022) スペイン |
癌への適応に重要な心理的変数間の関連性を縦断的に探求し,健康モデルを探索 | 癌患者(71名,53.0 ± 8.2(37~74)歳,83%) | 癌センターで心理的サポートを受けている患者から対象を募集.ベースライン時と6ヶ月後に,質問紙郵送調査またはオンライン調査を実施. | Connor-Davidson Resilience Scale(CD-RISC) | 身体的・精神的健康(精神的身体的生活の質,情緒的ストレス,視覚的スケール) | ストレス感覚は身体的健康の展望を予測し,精神健康の展望は全ての心理的変数によって影響を受けた.ベースライン時の意識,外向性とレジリエンスの変化は,精神健康の展望と間接的に重要な良い関連を示した.レジリエンスの変化は,身体的精神的健康の展望両方と良好な関係性を示した. | ストレスフルなトラウマティックな状況でも効果的に対処するばかりでなく,精神健康を増強して維持する能力 |
[7] | PiętaI & Rzeszutek(2022) ポーランド |
HIV患者の1年後の心的外傷後成長と低下の軌跡の探索と心理的レジリエンスがそれらを予測するかを検討 | HIV患者(71名,41.1 ± 11.1(20~73)歳,18%) | 病院の外来患者から対象を募集.6か月間隔で合計3回,郵送質問紙調査を実施. | Brief Resilience Scale(BRS) | 心的外傷後成長と低下 | 心的外傷後成長と低下はそれぞれ異なる軌跡を辿り,異なる予測因子と関連した.ベースライン時のレジリエンスは,心的外傷後成長の奇跡と関連が見られなかったが,心的外傷後低下の奇跡とは強い関連が見られ,レジリエンスが高いほど,外傷後低下の減少幅がより大きかった. | ストレスフルなライフイベントの余波に対して「跳ね返る」能力 |
質的研究では,対象者の疾患や障害は,癌〈7~9, 11〉,精神疾患〈4, 5〉,腎疾患〈2, 6〉,四肢切断や麻痺〈1, 3〉,心疾患〈10〉であった.データ収集は半構造化面接法が主体であった.分析は,Carver,RichardsonおよびKumpferのレジリエンスモデルを参考に〈3, 5, 9〉,KJ法〈5〉,ライフヒストリー法〈7, 8〉,ライフ・ライン・メソッド〈2〉,グラウンデッドセオリー法〈1〉,現象学的分析〈9〉を用いていた.
量的研究は縦断的研究デザインを用いた論文が多く,レジリエンスと身体的・心理社会的要因のアウトカムとの関連性の検討を目的としていた.対象者の疾患や障害は,癌診断後や移植手術等の治療後[1, 5, 6],身体機能障害[3],複合性局所疼痛症候群の切断治療後[4],ヒト免疫不全ウィルス[7],双極性障害[2]であった.データ収集は,郵送による質問紙調査を最短6か月以上の間隔で2回ないし3回実施していた.レジリエンスの測定はConnor-Davidson Resilience Scale(CD-RISC)を4件が採用した[3~6].レジリエンスを構成する下位概念とアウトカムとの関連性を検討した論文も見られ,レジリエンスの下位概念として楽観主義,セルフエスティーム,統御感の個人的資源の3要素や[1],自己管理,ターニングポイント,セルフケア,自己信頼,対人サポートの5次元[2]に着目していた.
2. レジリエンスを包含したライフ経験の辿る道筋とその中で果たすレジリエンスの働きそれぞれの疾患や障害とともに生きるライフ経験は,レジリエンスを包含しながら,出来事生起以前,病気による崩壊・困難・脅威・絶望・葛藤・ストレスによって落ち込み,アイデンティティ・自己の再構築・対処・適応,繁栄・個人的成長によって回復していくプロセス〈2~6, 9, 11〉を辿り,その道筋を一本の線で視覚的に図示した質的論文が複数認められた〈2, 4, 5, 11〉.
研究結果から導かれた時間軸を含むライフ経験でのレジリエンスの働きとして,質的研究では,プロセス〈1, 5, 9〉あるいは能力・機能・要素〈2, 6~8〉とする論文に大別され,その両方とする論文も見られた〈3, 4, 11〉.プロセスとしては,病を抱えながらの生活を維持する上で必要な基本的心理社会的プロセス〈1〉,崩壊-再構築-繁栄プロセス〈5〉,逆境や恐怖への適応プロセス〈9〉といった困難や逆境からの回復プロセス全体をレジリエンスのダイナミックなプロセスとした論文と〈1, 3~5, 9〉,回復過程に限定してレジリエンスの行程とした論文が認められた〈11〉.能力としては,質的研究では,困難から回復して自己を調整する力〈7〉,病を受け入れる力〈7〉,現実的楽観的な視点を持つ力〈7〉,「次はどうするか,やってみよう」という考えに向かう能力〈2〉,健康に焦点化されたアイデンティティ〈6〉,自分自身を同一視する本質的な戦略〈8〉,深刻な疾患を抱えながらも今の瞬間を生きていくための対処戦略〈11〉であると示された.量的研究では,ストレスフルな逆境下でも心身健康を回復・維持させる力[1, 3, 4, 6, 7]やメカニズム[5],仲介要因[2, 6]であると示された.
また,対象者の年齢別では,乳癌診断1年後のレジリエンスレベルは65歳未満と65歳以上で有意差がないこと[5],疾患や障害を患うことによって不安や恐れが生じるにもかかわらず年齢に関係なく強固な適応を得ることができたこと〈9〉が報告されていた.
3. 時間軸を含むライフ経験のアウトカムとレジリエンスとの関連性時間軸を含むライフ経験のアウトカムとして,質的研究では,より良い心身・社会的アウトカムや健康行動が取りあげられ,レジリエンスはストレスフルな出来事からより良いアウトカムを齎すポジティブ・ネガティブ反応を仲介する重要な要因であることが示された〈10〉.量的研究では,アウトカムとして,PTSD症状,人生の意味づけ,抑うつ症状,障害の自己回復,生活の質,心的外傷後成長と低下[1~3, 5, 7],痛み,疲労,身体機能,睡眠の質の身体的要因[3, 4],心身両方の健康関連QOLや心身健康[5, 6],仕事や社会的適応[2]の身体的・心理社会的要因に着目した結果,レジリエンスのアウトカムとの関連はいずれの論文でも認められ,直接的・間接的に良好な関連性が認められた.直接的な関連が認められたのは,PTSD症状の改善や人生の意味づけ[1],睡眠の質や身体機能向上,抑うつや疲労の減少[2],切断後の機能面での改善[4],下位概念の自己信頼による障害の自己回復の増強[5],1年後の健康関連QOLの向上[5],身体的健康の良好な展望[6],心的外傷後低下の抑制・改善[7]であった.間接的な関連が認められたのは,抑うつ症状の減少や病の負の意味づけと,PTSD症状や人生の意味づけとの関連性[1],ベースライン時の対人サポートとセルフケアと,フォローアップ時の障害の自己回復との関連性[2],ベースライン時とフォローアップ時の間の精神的健康への展望の変化[6]においてであった.
4. 時間軸を含むライフ経験の良好なアウトカムと関連するレジリエンスを獲得・促進させる要因と今後の実践および研究への示唆時間軸を含むライフ経験の良好なアウトカムと関連するレジリエンスを獲得・促進させる要因は,家族や周囲との良好な人間関係〈2~4, 9〉,自己肯定感〈4〉,自己管理能力〈2〉,人生を楽しむ姿勢〈4〉,楽観主義〈7〉,柔軟性や調和の維持〈4〉,認知行動的対処戦略〈3, 11〉,秀でた心理的素質〈9〉,定期的な生活様式とエクササイズ〈9〉,社会的活動への参加〈9〉,漢方薬〈9〉,診断や告知内容の受容〈11〉,希望〈4, 11〉であった.レジリエンスはこれらの要因を得ることによって獲得・促進できるとされ,病への適応を促すためにレジリエンス資源の獲得やレジリエンスを促進する心理学的介入アプローチの必要性が複数の論文で示された[1, 2, 4~7]〈1, 3, 5, 8, 9, 11〉.
対象者の年齢に着目した結果として,より若い人々は家族の存在のために病と闘う力を獲得してレジリエンスを高めること〈9〉,高齢になるほど人との繋がりの不足や経済変化等の社会的に制御不可能な出来事がレジリエンスに負の影響を及ぼすことが示された〈10〉.
また,論文で記されている研究の限界点として,対象者の属性,疾患のステージと種類の偏り,対象数の少なさ〈1, 4, 6, 8~11〉[2, 6, 7],深刻な疾患と生きる人の経験を把握する上で強く影響しあう介護家族の経験を同時に把握できていないこと〈11〉,縦断調査の回数が2回ないし3回と少ないこと[1, 2, 3, 6],レジリエンスと関連があると想定されるライフ経験を変化させる他の変数との関連性が明らかにできていないこと[1]が挙げられ,今後の研究の発展への期待が記されていた.
文献検討の結果,過酷な疾患や障害と生きるという経験は,レジリエンスを包含しながら,一旦は崩壊・困難・脅威・絶望・葛藤・ストレス等の落ち込みを経験するが,時間をかけてそれらを克服して回復・適応・対処していく道筋が示された.この道筋としては,従来の慢性疾患の病みの軌跡理論(Corbin & Strauss, 1988)やライフ・ライン・メソッドによる難病と生きる経験(平野・山崎,2013;平野,2017)と類似し,レジリエンスを包含しながら,逆境下の崩壊・混乱から再構築・社会復帰・繁栄のプロセスを辿るレジリエンスモデル(Carver, 1998;Richardson, 2002)を支持するものであった.
時間軸を含むライフ経験の中で果たすレジリエンスの働きは,質的研究では,レジリエンスは困難への克服・回復プロセスの一部やそのものであるとする研究と,力・機能・要素であるとする研究に大別され,量的研究では,レジリエンスを困難から回復する力,メカニズム,要因と捉えて,身体的・心理社会的アウトカムと直接的・間接的に良好な関連を有することが示された.発症後一旦は困難や逆境を経験するが時間をかけて回復していく経験のなかで,レジリエンスは,その意味や役割は一貫しないが,逆境や困難からの回復に寄与する点で一致していたことが特徴的である.レジリエンスとは,先行研究では「逆境を乗り越える力や回復力」と一概に理解され,その定義は,個人特性(Wagnild & Young, 1993),時間とともに発達変化する能力や学習可能な能力,戦略(Robertson et al., 2015;Edward et al., 2019),時間とともに変化して発達する力動的で多次元的な回復プロセス(Luthar & Cicchetti, 2000;Johnston et al., 2015)であること,レジリエンスと関連する要因として,横断研究では,身体症状,個人特性,心理的健康,社会・経済的状況との有意な関連性,縦断研究や無作為化比較試験研究では身体・心理社会的アウトカムや健康関連QOLとの有意な関連が報告されており(Stewart & Yuen, 2011;Edward et al., 2019;Ovaska-Stafford et al., 2021),本研究でも幅広い対象に着目した先行研究を支持する結果が得られたと言える.一方,災害や事件事故,喪失体験や虐待経験の突然あるいは断続的な著しい脅威や恐怖体験におけるレジリエンスは自身の平衡を保つ能力として常に持ち続けて回復に寄与するが,回復は数か月から2年程度で可能となる場合もあり,レジリエンスと回復とは同等でないことが報告されている(Bonanno, 2004).つまり,ライフ経験とレジリエンスとの関連性は,本研究対象の深刻な疾患や障害と生きる人々と,災害や虐待等の突然あるいは断続的な著しい恐怖体験をした人々とでは異なることが示されたと言える.
2. 時間軸を含むライフ経験上の回復や良好なアウトカムと関連するレジリエンスを獲得・促進させる看護実践への示唆深刻な疾患や障害をもち人生や生活の再編成を余儀なくされるライフ経験では,時間が経過するなかでレジリエンス資源や力を獲得することによって,良好な身体・心理社会的アウトカムを得ることが可能であることが示され,複数の論文が支援のあり方の検討を最終目標に掲げていた.病への適応の促進のため,レジリエンス構築と向上のための心理的介入アプローチや資源獲得の必要性を示唆している点が特徴的である.本研究ではレジリエンス資源や促進要因として家族や周囲との良好な人間関係が複数の論文で示され,肯定的な個人要因である自己肯定感,自己管理能力,自己効力感,人生を楽しむ姿勢や楽観主義,柔軟性や調和の他,社会的活動への参加も挙げられた.対象を幅広く捉えた先行研究では,レジリエンスは資質的および獲得的要因からなる個人要因とソーシャルサポートを代表とする環境要因から構成され,個人的,社会的,環境的資源によって助長される能力やプロセスであり(Kumpfer, 1999;Wister et al., 2016),レジリエンスのメタ分析ではレジリエンスを保護する極めて重要な要因として自己効力感やソーシャルサポートが示されており(Lee et al., 2013),本研究結果はそれらを支持するものであった.
レジリエンスは誰でも獲得でき高めることができるとされていることからも(Wister et al., 2016),困難からの回復に寄与するレジリエンスを獲得・促進させる看護実践は極めて重要となる.個人要因を強化する取り組みとして,病への適応を促すための効果が無作為化比較試験研究で実証された腎臓移植患者へのセルフエフィカシー向上のためのレジリエンスプログラム(Mansooreh & Shahini, 2021),癌患者等深刻な健康状態にある人が対象の認知行動療法に基づく心理的柔軟性の向上を目指すレジリエンストレーニング(Giovannetti et al., 2022),あるいは肯定的心理資源の形成を意図した育成プロセス焦点型アプローチ(Hueber et al., 2009)等の実践を検討していくとともに,周囲の人のなかでも,ライフ経験で最も過酷な時期や場面で密に関わる機会の多い保健師や看護師等の専門職において,疾患や障害と生きる人々の生きることの全体像に着目して理解を深め,それらの人々との信頼関係構築に努めることが極めて重要である.
3. 本研究の限界と今後の研究への示唆本研究の限界として,分析対象の18論文中11論文で研究対象が少数ではあるが65歳以上の人々が含まれていたことが挙げられる.研究結果には加齢に伴う身体的・社会的課題の影響が含まれている可能性が否定できず,結果の解釈には注意が必要である.
また,今回抽出された論文の研究の限界点として,対象者の属性,疾患の種類や程度の偏り,対象数や縦断調査の回数の少なさが挙げられた.当該領域の実証研究は2017年以降報告が増えてきたものの,倫理的問題やコミュニケーション方法等調査方法上の難しさもあり報告数は少なく,当該領域の研究の蓄積はこれからと言える.診断確率や医療技術の向上,我が国での急速な高齢化に伴い深刻な疾患や障害と生きる人の数は増えており,当該分野の実践的取り組みや研究的発展は喫緊の課題である.過去に対象とされてこなかった医療的ケアが必要な人やより重度の全身性の身体障害をもつ人を含めた幅広い疾患や障害と生きる人に加えて,抽出論文でも示された疾患や障害と生きる人を介護する家族にも同時に焦点を当てていくことが期待される.
人生を脅かす疾患や障害と生きる人々の時間軸を含むライフ経験とレジリエンスとの関連について文献検討を行った結果,計18文献が抽出された.深刻な疾患や障害と生きるライフ経験は,レジリエンスを包含しながら,一旦は落ち込みを経験するが時間とともに回復する道筋が示された.レジリエンスは,回復プロセスや能力,ライフ経験上の回復や身体的・心理社会的アウトカムと直接的・間接的に良好な関係性を有する要因であった.レジリエンスを獲得するための心理学的介入アプローチと研究蓄積の必要性が示唆された.
謝辞:本研究は,2022年度SFC研究所スタートアップ補助および2023年度文部科学省科学研究費助成事業「基盤研究C」(課題番号2 3 K 1 0 3 5 3)の助成を受けて行われました.貴重なご助言,ご示唆を頂きましたすべての皆さまに深く御礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.