日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
島嶼で活動するナースプラクティショナー教育課程修了者の看護実践
大城 真理子神里 みどり
著者情報
キーワード: 島嶼, NP教育課程, 看護実践
ジャーナル フリー HTML

2023 年 43 巻 p. 810-819

詳細
Abstract

目的:島嶼で活動するNP教育課程修了者に焦点を当て,彼らが島嶼で実施している看護実践を明らかにする.

方法:NP教育課程修了者4名に半構造化面接を実施し,質的記述的分析を行なった.

結果:島嶼で活動するNP教育課程修了者の看護実践として,【島の文化に根ざした個人の価値観を基盤とした看護・医療を実践する】,【治療の選択肢を広げるため島の限られた資源の活用範囲を変革する】,【島民の力を結集してケアを創り出す】,【予防から死に場所まで臨床判断に基づき生活者の視点で支える】実践をしていた.

結論:島嶼で活動するNP教育課程修了者の看護実践には,ホリスティックな視点を基盤に高度なリーダーシップとコーディネーション,コラボレーションのコンピテンシーが発揮されていた.今後は,NP教育課程修了者の実践がどのように患者・家族に望ましい変化をもたらすのかを評価し,看護実践の成果をより適切に捉えていく.

Translated Abstract

Purpose: To examine the nursing practice of graduates of the nurse practitioner education course (the NP education course) on islands.

Method: Semi structured interviews were conducted with four graduates of the NP education course, and the results were analyzed using a qualitative inductive approach.

Results: The nursing practice of graduates of the NP education course were induced as follows; [practice nursing and medical care based on individual values rooted in island culture], [transforming the scope of resource utilization on islands with scarce medical resources to expand treatment options], [creating care by gathering the power of the islanders], and [supporting from the dweller’s view based on clinical judgment from prevention to place of end of life].

Conclusion: The nursing practice of graduates of the NP education course on islands was preformed based on a holistic perspective, and, advanced leadership, coordination, and collaboration competency. In the future, it will be necessary to evaluate how the practice of NP educational course graduates brings desired changes to patients and their families, and to assess the results of nursing practice more appropriately.

Ⅰ. はじめに

1965年に米国において初めてナースプラクティショナー(以下,NP)が導入されて以来,世界的に多様な場所,分野でNPが活躍している(Sheer & Wong, 2008).NPの88%がプライマリケア領域を専門としており(Hamric et al., 2019/2020Duquesne University School of Nursing, 2020),人口増加や高齢化,罹患率の増加に伴い,プライマリケアナースプラクティショナー(以下,PCNP)の需要は高くなっている(Winters & Lee, 2021).米国において,PCNPは,ヘルスプロモーション,疾病予防,疾病管理,緩和および終末期ケアを含むプライマリケアを要する患者・家族に対する,あらゆるサービスを提供するための教育を受けており(Thomas et al., 2017),病院の外来やクリニックでの看護の他,人種的マイノリティーや貧困者など脆弱な人々,へき地を対象に看護を実践している(Hamric et al., 2019/2020).特に,へき地ではプライマリケア提供者が不足している中で(Spetz et al., 2017),NPの約18%がPCNPとして活動している(Duquesne University School of Nursing, 2020).このようなマンパワーの乏しい環境においてPCNPは質の高い看護実践の提供に寄与していることが先行研究で報告されている(Naylor & Kurtzman, 2010).

本邦においても,高齢化率の増加や地域包括ケアの推進等により,病気を抱えながら地域で療養する人々が,今後さらに増加することが予測され,質の高い医療を効果的に提供できる医療提供体制の構築が不可欠である.これらの背景を踏まえ,2008年に日本NP教育大学院協議会(以下,NP協議会),2015年に日本看護系大学協議会(Japan Association of Nursing Programs in Universities)(以下,JANPU)によりNP教育課程が設立された.NP協議会の教育課程では,名称を診療看護師(NP)と称し,「個々の患者の医療ニーズを包括的に的確に把握し,倫理的かつ科学的な根拠に基づき,患者および患者家族のQOLの向上に向けた看護,医療を提供できる人材の育成」を目標に人材養成がなされている(草間・小野,2020日本NP教育大学院協議会,2023).一方,JANPUのNP教育課程では,名称をJANPU-NPと称し,「保健・医療・福祉現場において病院・診療所等と連携して,現にまたは潜在的に健康問題を有する患者にケアとキュアを統合し,一定の範囲で自律的に治療的もしくは予防的に介入を行い,卓越した直接ケアを提供する高度実践看護師の養成」がなされている(一般社団法人 日本看護系大学協議会,2023).そして,2023年4月時点でNP協議会15校,JANPU 6校において修了生を輩出している.しかし,わが国におけるNPの歴史は国外に比べて浅く,その定義なども含めて,検討され始めたばかりである.よって,NP教育課程修了者の看護実践の効果などに関するエビデンスの蓄積は乏しく,とりわけ島嶼で活動するNP教育課程修了者の看護実践を明らかにした研究は皆無の状況である.特に,島嶼で活動する看護師は交通アクセス,専門職人材などが不足することが多い社会経済文化的環境のなかで,医師や他の医療専門家のいない場面でさまざまな問題の対応に迫られ,独りで的確な判断をくだし,時には,高度な緊急医療処置の実践が要求される(大平ら,2002).よって,島嶼では,とりわけ高度な看護実践が必要である.

そこで,本研究では,JANPU-NP認定資格審査で認定された,島嶼で活動するNP教育課程修了者に焦点を当て,彼らの看護実践を明らかにすることを目的とした.なお,NP教育課程修了者の看護実践を可視化し,研究を蓄積することは,島嶼における看護実践の質の向上のみならず,大学院教育における人材育成の観点からも重要である.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

島嶼で活動するNP教育課程修了者の視点から看護実践を明らかにするため,数値では表すことのできない研究参加者の見方を包括的に,そして正確に記述することに適している質的記述的研究デザインを採用した(サンデロウスキー,2000/2013).

2. 用語の操作的定義

NP:米国等のような医師の指示がなくとも一定レベルの診断や治療などを行うことができる公的資格(現在の日本にはない)(公益社団法人日本看護協会,2023

NP教育課程修了者:JANPUが認定する大学院のナースプラクティショナー教育課程を修了し,島嶼で活動する高度実践看護師

看護実践:NP教育課程修了者が,島嶼で行っている看護実践をさす.看護実践の範囲は,JANPUの教育目標(プライマリケア看護専攻分野)を基盤に,下記の通りに定義した.①島嶼におけるプライマリケア看護の高度実践看護師として,あらゆる発達段階に属する対象に対して,専門性やリーダーシップを発揮する.②急性疾患への初期対応や,比較的軽い症状や慢性疾患をもつ患者の様々な訴えに対して,看護学と医学の視点から包括的なアセスメントを行い,プライマリケア看護に必要な検査,臨床判断,治療の管理,治療効果の評価を自律的,かつ必要に応じて多職種と協働しながら実施する.③個人や家族の価値観,生活の質や意思決定を重視し,倫理に基づく,総合的なプライマリケアを提供する.④医療の質保証と安全の観点から,多職種と協働して組織的・体系的に取り組む.⑤個人と家族の健康に対して,エビデンスに基づいた知識と技術の教育を効果的かつタイミングよく実施する(日本プライマリ・ケア連合学会,2016一般社団法人 日本看護系大学協議会,2023).

プライマリケア:小児から高齢者までを対象に,あらゆる疾病から予防医療までを,総合的・継続的・全人的に対応するケア(一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会,2023).なお,プライマリ・ケア,プライマリケアといった多様な表記があるが(本谷ら,2020),本研究では,JANPUの表記に合わせてプライマリケアとする.

島嶼:海洋性,遠隔性,狭小性といった地理的特性や特徴的な文化・社会特性を持つ島嶼の環境(嘉数,2019

3. 研究協力者

A大学のプライマリケア看護分野の大学院教育課程を修了し,JANPU-NP認定資格審査(H年度)で認定された島嶼で活動する4名を対象とした.なお,本研究の研究協力者に該当するのは,4名のみであった.

4. データ収集期間及び方法

研究協力者が所属する3か所の医療機関の看護部長に研究の趣旨を口頭と文書で説明し許可を得た後に,研究参加者に面接調査を文書で依頼した.承諾の得られた研究参加者の希望する日時に,約1時間程度,2回の半構造化面接調査を行った.質問は,①大学院修了後に島嶼で実践している看護で印象に残っている小児から高齢者まで,そして予防から終末期までの事例を通しての看護実践,②勤務する島嶼診療所や病院の概要,③基本的属性について聞き取りを行った.面接は,プライバシーが保てる研究者の所属する施設内の個室,または研究協力者の医療機関等の個室で,対面またはオンラインにて実施し,許可を得てICレコーダーへ録音した.調査期間は2019年5月~2020年2月であった.

5. データ分析方法

分析は,島嶼における看護実践について質的帰納的に分析した.一語一句そのまま文字に起こしたデータから作成した逐語録を読み込み,本研究で定義した看護実践の内容について抽出した.次に,PCNPのコアコンピテンシーが明確に定義されているNational Organization Nurse Practitioner Faculties 2017コアコンピテンシー(Hamric et al., 2019/2020)を分析の視点として,意味内容を損なわないようにコードをつけた.さらに各コードの類似性に着目しながらカテゴリ化を行った.その際,PCNPの高度な実践事例(Hamric et al., 2014/2017)と,Winters & Lee(2021)のルーラル看護の書籍も参考にした.なお,分析に際して,島嶼で活動するNP教育課程修了者の看護実践の特徴が出ている生データを直接引用し,解釈を行った.分析・解釈の過程において2名の研究者で質的データの検討を繰り返し,最終的な分析結果を研究参加者に確認することで,真実性と妥当性の確保に努めた.

6. 倫理的配慮

本研究は,沖縄県立看護大学研究倫理審査委員会(承認番号16019-変更3)の承認を得た.研究協力者に対して,口頭と文書にて研究の趣旨,研究参加の任意性や中断の自由意思の尊重,結果の公表での匿名性の遵守,倫理的配慮について説明し,同意を得た.

Ⅲ. 結果

1. 研究参加者の概要(表1

研究参加者は30~50代の女性で,経験年数12~31年,島嶼看護師経験年数3~17年であった.

表1 

研究参加者の属性

ID 年代 看護師経験年数 島嶼看護師経験年数 活動場所 役職
1 30代 12 3 A島 主任
2 40代 17 4 B島 病棟師長
3 40代 18 15 B島 外来師長
4 50代 31 17 C島 病棟師長

インタビュー当時の情報(2019.9月現在)

2. 研究参加者の属する島嶼の概要(表2

研究参加者4名は,それぞれ,A島,B島,C島で勤務していた.A島は人口1,000人程度の小規模島嶼に位置づけられ,医療機関は診療所のみであり,全科を医師1名,看護師(NP教育課程修了者)1名で診ている.B島は人口7,000人程度で,島には外来・入院に対応できる病院がある.産科はなく島内での分娩は不可である.また,簡易的な処置には対応できるものの全身麻酔下での手術には対応出来ない.C島は人口40,000人規模であり,島には外来・入院に対応できる病院がある.出産や手術への対応は可能であるが,がんの放射線治療等は出来ない.このように,島の規模によって資源が異なる.なお,表2はM県の統計資料ならびに,研究参加者からの情報に基づき作成した.

表2 

研究参加者の属する島嶼の概要

A島 B島 C島
規模 小規模島嶼 中規模島嶼 中規模島嶼
人口(人) 1,329 7,755 47,564
高齢化率(%) 25.0 29.8 22.0
管轄母体 M県 公益社団法人 地域医療振興協会 M県
一般病床数(床) 40 258
診療科 全科 常設:内科,小児科,整形外科
応援医師:18診療科
24診療科,4附属診療所
常勤医師数/看護職数 1/1 6/39 55/265
外来者数/日 25 191 477
急患搬送数/年 21 123 27
主な業務 外来診療,訪問看護,薬剤業務,検査業務,放射線業務,看護管理業務,時間外急患対応,急患搬送(ヘリコプター) 外来・入院業務
退院調整
訪問看護
急患搬送(ヘリコプター)
外来・入院業務
退院調整
巡回診療
急患搬送(船舶・ヘリコプター)
特記事項 急変時,地元の消防団の協力体制有り
出産不可
島内に薬局無し
島内に歯科有り
手術不可
出産不可(但し,助産師外来で対応)
島内に歯科,診療所有り
手術可能
がん放射線治療不可
出産可
連携

人口(人) 本島.1,363,710 D島.1,843 E島.3,998 F島.2,443 G島.698 H島.514

3. NP教育課程修了者の看護実践(表3

島嶼で活動するNP教育課程修了者の看護実践として,4つのカテゴリが抽出された.カテゴリは【 】,サブカテゴリは〈 〉,研究参加者の語りは斜体で示す.なお,表3に示すように1つのカテゴリに複数のサブカテゴリが抽出されたが,文字数制限の関係上,結果の一部について説明を行った.

表3 

NP教育課程修了者の看護実践

カテゴリ サブカテゴリ コード(例)
島の文化に根ざした個人の価値観を基盤とした看護・医療を実践する 島の文化芸能と病態生理を結びつけた看護ケアを見出す ケア対象者のADLを拡大するために清明祭や十六日への参加を目標にしたり,島歌を歌うことで肺の拡張を促し呼吸機能を促進するという病態生理学的視点と文化芸能を看護に結びつける
ケア対象者の生活と治療を結びつけた視点で看護を実践する ケア対象者の生きがいを支えるために当事者の好み・価値観を基盤にし治療に向き合ううえでの心の支えをつくる
治療の選択肢を広げるため島の限られた資源の活用範囲を変革する 島内の限られた医療資源と出来る治療を把握し島外の医療も視野に入れて治療の選択肢を広げる 手術や透析・放射線治療などの高度な治療はできないため,島の資源の限界を把握し,緊急性のアセスメントを行いながら,島外での治療も考慮する
マンパワー不足を見越して実践で活用できる教育を行う 通常時,緊急時において人員(介護,専門職)が限られているため,日頃から協力者がすぐに実践で動けるように教育をする
ものがないため,自ら交渉し調達する デバイスや薬剤が最小限しかないため,自ら交渉し島外から物品を調達する
公共交通機関がないため,訪問する コミュニティーバスがないため往診する
インフォーマルな資源を活用する 介護施設や娯楽施設が少なく葬儀屋もないため,代替案を考える
新しい専門的看護・医学に関するエビデンスを活用し,ケアに活かす 自ら書籍や島外でのセミナーで専門的看護・医学に関する学ぶ機会をつくり,ケアに活かす
島民の力を結集してケアを創り出す みんなに情報を伝える 関係者に本人の意向を共有する
すぐにみんなで話し合う場をつくる 隣近所・民生委員・福祉課・ケアマネ・医療連携室・医師・警察・消防で対応について何度も話し合う場をつくる
最善のケアを促進するために,みんなの役割分担を後押しする 診療所・社会福祉協議会・包括支援センター・役場を含む関係者で状況を確認して各自の役割決定を後押しする
みんなで当事者を見守るための体制をつくる 地域・関係者で当番制を持って当事者を見守る体制をつくる
みんなでケアを振り返る場をつくる 各機関で集まって関わりが良かったのか振り返る場をつくる
予防から死に場所まで臨床判断に基づき生活者の視点で支える 医学・薬理学的な臨床推論に基づく総合アセスメント 検査データや本人の状況から医学・薬理学的視点も含めて総合的にアセスメントをする
患者の病態の緊急性と天候に左右される搬送の判断 患者の病態の緊急性と島外へ搬送できる天候なのかを常に意識する
治療に生活者としての視点を加味し,生活上の問題を解決する 治療に生活者としての視点を持ち込むかを意識し,生活する上での困りごとを解決するための看護を展開する
臨床判断に基づく予防を意識した実践の変革 問題を改善するために原因を調査し新たな取り組みを導入する
島内医療者間の健康問題についての情報共有 医師や保健師などと患者や地域の健康問題についての情報を共有する
早め早めのACPを推進する 島外に搬送されることを念頭に置いて,患者が元気なうちに,早めに患者・家族の意向を確認する
死に場所へのこだわりを理解し希望を支える 生まれ育った島・苦労して思い出のある島で死にたいという思いに沿って関わる
島外医療者からの専門的な看護・医療に関するコンサルトを受ける機会をつくる 島外の専門看護師や認定看護師から専門的な看護・医療に関するコンサルトを受ける機会をつくる

1) 【島の文化に根ざした個人の価値観を基盤とした看護・医療を実践する】

NP教育課程修了者は,対象者の価値観と生活,そして島の文化に根ざした視点で,患者中心の看護・医療を実践していた.

〈島の文化芸能と病態生理を結びつけた看護ケアを見出す〉

NP教育課程修了者は,ケア対象者のADLを拡大するために島民の生活と密接に関わる行事への参加を目標にした看護や,病態生理と島の文化芸能である三線や歌を結びつけた看護を見出していた.

「地域の行事を目標に使っている.清明祭や十六日に参加するために外出を目標にしたり.三線を弾いて歌を歌うっていうことに意味付けをすると,肺活量っていうか心肺機能をすごく高められるじゃないかと思っていて.ただ楽しんでもらうじゃなくて,文化だったり,芸能をもっとケアに活かす」(ID2)

〈ケア対象者の生活と治療を結びつけた視点で看護を実践する〉

NP教育課程修了者は,80歳の独居高齢者が,肺炎で本島の病院に搬送される際に,「以前,気づいたらくびられていた(抑制されていた)から入院したくない」という発言と,対象者が過去に環境の変化からせん妄を出現したことから,せん妄の出現のリスクを予測し,対象者の生活と治療を結びつけることで対象者が治療に向き合えるような看護を実践していた.

「(ケア対象者は)歩けて車も運転するから,(搬送先である本島の病院では)環境も変わって,せん妄になるからちょっと心配ねって言って…この人は三味線教室の先生なんですよ.あと,この人が一番大事にしてるのはヤギなんですよ.なので,民謡教室の写真とか,ヤギと,おうちの様子とか周りの様子を写真撮ってラミネートして,本島の病院にお見舞いに行ったときに窓際に飾って(島の)家の様子を伝えた…無事に抑制されずに島に戻ってきました」(ID1)

2) 【治療の選択肢を広げるため島の限られた資源の活用範囲を変革する】

3つの島々の共通点として,出来る医療に限界があるため,NP教育課程修了者は,限られた資源から視点を広げ,島内で出来る医療を把握し,医療従事者のマンパワー不足を見据えて日頃から実践的な教育をする等,資源の活用範囲を変革した看護実践を行っていた.

〈島内の限られた医療資源と出来る治療を把握し島外の医療も視野に入れて治療の選択肢を広げる〉

NP教育課程修了者は,在宅訪問時に急性胆嚢炎でショック直前の100歳の超高齢者に対し,島内で出来る医療と緊急性の判断を瞬時に行い,島外での治療の選択肢を広げた視点でアセスメントを行っていた.

「まず訪問看護として入って,そこでバイタル測定して,症状から在宅で治療が継続できるのか,あと島内で治療ができるのか,本島まで行かないといけないのかっていうところをアセスメントして.検査をするかしないかっていう話をご本人として.(検査の結果)胆嚢炎だったので,病態もショック直前だったので,手術が必要ってところで(島では手術が出来ないので)…超高齢だったのでほんとに手術できるかっていうところと,手術ができないっていうことであれば亡くなる可能性も出てくるので家族と話しをして,家族の希望で手術をしに本島にヘリ搬送をした」(ID3)

〈マンパワー不足を見越して実践で活用できる教育を行う〉

緊急時のマンパワー不足を見越して,NP教育課程修了者は,医療職以外の一般職へ緊急時にもすぐに動けるように実践的な教育をしていた.

「事前に予測して準備しておくとかってすごい大事…なので消防団(役場職員が兼務)にCPRのシミュレーションとかの教育をする.この時に,酸素・物品の場所とか,ここに酸素があるからこういうふうにやってくださいねとか.役割の分担をしたり,何て言われたらこれを持ってきて下さいねみたいなのを月2回ぐらいやっている.私と先生がいて(緊急時に)できることってすごく限られているので.私は,ライン取って,バイタルも管理しないといけない,いろいろ管理薬とか準備しないといけないから」(ID1)

3) 【島民の力を結集してケアを創り出す】

NP教育課程修了者は,島の限られた資源だからこそ,島に在住しているあらゆる職種,地域住民の力を結集し,当事者にとっての最善のケアを提供するために,島民間での情報の伝達,話し合い,役割分担,見守り,さらにケアを振り返る際に働きかけることで,島民が一丸となったケアを実施していた.

〈すぐにみんなで話し合う場をつくる〉

NP教育課程修了者は,帰宅欲求の強い認知症高齢者を自宅に帰すために,関係者が集まれる日を調整し,話し合いの場を設け,自宅療養を可能にしていた.

「警察から電話がかかってくるたびに同じメンバーで集まって,困っている人みんな呼んで話し合おうみたいな感じで,民生委員,警察,消防,ケアマネ,福祉課,駐在,ドクターも看護師も,地域連携,社協も入って,お隣の人も困っていたので,お隣の人にも来てもらって,っていう感じで全部で6回ぐらい話し合いをやりました.本人は帰りたいって言っているから.この人は意識があるうちは家で過ごすことが大事だったので」(ID2)

〈最善のケアを促進するために,みんなの役割分担を後押しする〉

終末期の独居高齢者の島で死にたい,島であれば死に場所はどこでもいいという意向を支えるため,NP教育課程修了者は,ケア対象者を含む島の関係者が集まる場を設けた.そして,島内には入院施設がないため,島のマンパワーで出来る範囲で,看取りを行うことをケア対象者も含めて検討し,社協の一室で看取るという合意形成と役割分担を行った.NP教育課程修了者の診療所の業務との兼ね合いで,昼間は関係者が見守りを行い,NP教育課程修了者は,22時に最終の見守りを行う役割を担った.

「診療所と社協と包括と役場,関係者と状況を確認して,(私は)夜22時に見て,朝は先生が6時ぐらいに見に行くみたいな.息しているか,苦しくないかとか,そういうのを見ればいいねっていうことを言って,時間の確認.休日の時間帯の確認も.(それぞれ)自分ここだったら行けるとかっていうのを連絡帳を作って.この日はきつそうじゃなかったとか書いて」(ID1)

4) 【予防から死に場所まで臨床判断に基づき生活者の視点で支える】

NP教育課程修了者は,予防から終末期まで,あらゆる場面に対応するために,医療資源の限界を見据えた対応をしていた.さらに,島内外の医療従事者との連携構築,ならびに島の環境や個人の価値観を把握したうえで,島民を巻き込んだ幅広い看護を展開していた.

〈医学・薬理学的な臨床推論に基づく総合アセスメント〉

NP教育課程修了者は,診療所において医師不在の外来対応を行った際に,医学・薬理学的な臨床推論に基づき患者の状態から疾患を総合的にアセスメントし,医師に電話で緊急度を予測した報告を行いながら,必要な検査を進める判断と実践をしていた.

「既往があって,こういう状況(即入院・本島への搬送)になるだろうっていう予測はしていたので,バイタルを測って,歩けてはいたので,そこまで(重症ではない)かなとは思ったんですけど.クレアチニンも上がってきていて,尿毒症なのかなっていうのを一番に疑って.この人は多分早めに診たほうがいいだろうなっていう私の判断でベッドに寝てもらって,(電話で)先生に今すぐ診るっていうわけではないけど先に検査はしていたほうが良さそうな人がいるっていうことを伝えて検査など対応した」(ID1)

〈患者の病態の緊急性と天候に左右される搬送の判断〉

島では,民間機で搬送できない場合は,自衛隊機を呼んで搬送しなければならず,民間機での搬送に比べて時間を要する.よって,NP教育課程修了者は,患者の緊急性の判断と島外へ搬送できる天候なのかを常に意識していた.

「アッペになったら搬送か,自分(患者自身)で本島に行くしかないな.今の状況見ていたら,飛行機間に合わないなってなる.まずその人を診察室に寝かし,カルテを一番前にして,先生がみている間に私はJALの空席状況をみて早く行けるように(患者の)職場の人に飛行機の席取っていてもらい,このとき行けるかもしれないとか天気予報士になれるくらい天候を見ていた」(ID1)

「この島では無理だから島外に連れて行くっていう判断をしないと助からない.本島だったら,様子見ていいは,自宅に帰すんだけど,様子見ていいの時点で判断をしないとヘリ呼んだりとか,真っ暗になると遅い.日没が命の切れ目っていうところが島ではあるので日没までに判断する」(ID2)

〈島外医療者からの専門的な看護・医療に関するコンサルトを受ける機会をつくる〉

NP教育課程修了者は,島外医療者から専門的な看護・医療に関するコンサルトを受ける機会を設けて,島の医療の質の向上を意識した実践を行っていた.

「常にコンサルティーみたいな…島でしている緩和ケアがここ(島)の限界になっちゃいけないって思ったんですよ.なので,外(島外)に助けを求める.しかも外から来るCNS(がん看護専門看護師)の人の意見は島の先生聞くんですよね.コンサルテーションではこの経験があったので.ストマの人(認定看護師)も(本島から島に)呼びました」(ID2)

〈臨床判断に基づく予防を意識した実践の変革〉

NP教育課程修了者は,熱中症で運ばれてきた島外から働きに来ている患者に対して,診療後に,熱中症となった根本的な原因を突き止めるために職場や地域環境を確認し,予防改善のための新たな取り組みを導入していた.

「予防的な関わりって大事っていうことを先生と話をして現場を見に行った.海に近いから多湿もあるから,休憩場所はちゃんとテント立ってるねっていうのを確認して,親方とか何人かいるので,その人たちに熱中症に関して「こういう症状に気を付けてね」とか「水だけじゃなくってミネラルを含む塩とかもあるといいよ」とか情報提供した.あとは商店(島には小さな売店が2つのみでコンビニやスーパー,薬局など全くない)に塩あめ売ってるとか確認して,店員に話しをして,経口補水液を置いてもらって.保健師さんに熱中症が多くなってきてるよとかそういう情報提供をしたり,役場の放送するところに注意喚起を依頼した」(ID1)

Ⅳ. 考察

1. 島嶼で活動するNP教育課程修了者の看護実践

本研究において,NP教育課程修了者は【個人の価値観や島の文化に根ざした看護・医療を実践】しており,【治療の選択肢を広げるため島の限られた資源の活用範囲を変革する】,【島民の力を結集してケアを創り出す】ことをしながら,【予防から死に場所まで臨床判断に基づき生活者の視点で支える】実践をしていた.島嶼では,緊急時の初期判断・初期対応をはじめ,外来から看取りまで,そして小児から高齢者までと幅広い対象者に少ないマンパワーで医療・看護を提供することが求められる(大平ら,2002春山ら,2011).特に,プライマリケアを担うNPが提供するケアは,①生理学や看護科学等のさまざまな領域の科学的知識を基盤としたアセスメントに基づく直接的な臨床実践,②ガイダンスとコーチング,③コンサルテーション,④エビデンスに基づく実践,⑤リーダーシップ,⑥コラボレーション,⑦倫理的意思決定支援の7つのコンピテンシーを発揮して看護実践をしていることが国外文献で報告されている(Hamric et al., 2019/2020).そこで本研究では,島嶼に特徴的なNP教育課程修了者の看護実践を,これら7つのコンピテンシーの視点から考察した.

島嶼研究において,島嶼では,独自の文化や風土が伝承されており,地域文化を理解したうえで看護活動を行うことが重要であるとされている(大平ら,2002宮崎ら,2010大湾,2021Winters & Lee, 2021).本研究においても,NP教育課程修了者は【島の文化に根ざした個人の価値観を基盤とした看護・医療を実践】していた.具体的には,〈島の文化芸能と病態生理を結びつけた看護ケアを見出す〉,〈ケア対象者の生活と治療を結びつけた視点で看護を実践する〉など,患者の問題を個人レベルから地域・文化にまで視点を拡大したホリスティックな視点をもった看護を実践していた.なお,ホリスティックな視点とは,NPの直接的な臨床実践において,個々の患者を一個人として深く理解し,社会や組織,物理的環境の影響も考慮した視点であり,NPの中心的な考え方である(Hamric et al., 2019/2020).

【治療の選択肢を広げるため島の限られた資源の活用範囲を変革する】看護実践においても,NPはホリスティックな視点をもって島の医療やマンパワー・もの・交通機関といったフォーマルな資源と,インフォーマルな資源を概観・評価し,患者のニーズや状況に合わせて,資源の活用範囲を変革していた.特に,〈マンパワー不足を見越して実践で活用できる教育を行う〉といった将来的に起こり得る予測やアウトカムを見越して計画的に事象を進める実践には,変革を導くための高度なリーダーシップ能力(Hamric et al., 2019/2020)が発揮されていた.

また,島嶼では人々の結びつきが強く,住民同士のつながりや助け合いも強いことが先行研究で明らかにされている(宮崎ら,2010大湾,2021).【島民の力を結集してケアを創り出す】では,NP教育課程修了者は,地域住民を巻き込み,島民の協働連携でケアを行う看護実践を創り出す働きかけをしていた.具体的には,NP教育課程修了者は,ケアの受け手である当事者の意向を確認し,その思いを叶えるために,フォーマルとインフォーマルな資源をつなぎ合わせ活用していた.その際,随所で調整力とリーダーシップを発揮し,関係者のコラボレーションを促進していた.

先行研究によると,島嶼で働く看護職者の専門性の1つとして,ジェネラリストのスペシャリストであることが言及されている(大平ら,2002Winters & Lee, 2021).スペシャリストには,専門看護師のような,特定の専門領域における深い知識が求められる.ジェネラリストには,小児から高齢者,予防から終末期までの幅広い対応をするための広い臨床知識が求められる(Cooper et al., 2019).つまり,島嶼で働く看護職者には,様々な対象者に対して対応できる幅広い専門性が求められる.本研究においても,NP教育課程修了者は【予防から死に場所まで臨床判断に基づき生活者の視点で支える】実践をしていた.緊急性の有無について,患者を医学・薬理学的な臨床推論に基づき,高度なヘルスアセスメントの技術を活用し,初期判断・初期対応を行っていた.先行研究でも明らかにされているように,島嶼では医療資源が限られているため,2次救急や3次救急が必要な場合は,船や飛行機を使用することから(大平ら,2002),〈患者の病態の緊急性と天候に左右される搬送の判断〉も併せて行わなければならない.NP教育課程修了者はこのような緊急時の搬送の可能性も考慮し,〈医学・薬理学的な臨床推論に基づく総合的アセスメント〉を行っていた.このような高度な直接的看護実践はプライマリケアを担うNPとして重要なコンピテンシーとして位置づけられている(Hamric et al., 2019/2020).

〈予防を意識した実践の変革〉では,ホリスティックな視点で先を見据え,熱中症の起こり得る状況を調査したうえで,地元の売店で販売する熱中症予防のための経口補水液を販売してもらうための交渉や地域の特徴を活かした変革を導く高度なリーダーシップ能力,そして,保健師や役場とも情報を共有するといったコーディネーション,コラボレーションといった,コンピテンシーを重層的に発揮していた.さらに,NP教育課程修了者は,質の高い看護を提供するために,島外医療者から直接,専門的看護・医療に関するコンサルトの機会を設けることや,島内医療者間の情報共有を行うなどNP教育課程修了者の個人の実践ではなく,周囲の医療者を巻き込みながら,質の高い直接的看護実践を行うための効果的な協働を行っていた.このような看護実践はNPとしての重要なコンピテンシーとして位置づけられている(Hamric et al., 2019/2020).

2. 研究の限界と今後の課題

本研究において,島で活動するNP教育課程修了者の看護実践を明確にした点は,今後の看護実践への示唆と人材育成の視点からも意義がある.

しかし,いくつかの限界もあった.1つ目の限界として,本来,JANPU-NPのコンピテンシーから看護実践の評価を行うことが望ましいが,現在,NPに特化したコンピテンシーについては明確に定義づけられていない.また,JANPUの定める高度実践看護師(CNS,NP)に求められる役割(実践,教育,相談,調整,研究,倫理調整)には(一般社団法人 日本看護系大学協議会,2023),リーダーシップの要素が含まれていない.また,JANPUの定める高度実践看護師の相談役割は,“ケアに関わる人の相談を受ける”ことが中心であり(一般社団法人 日本看護系大学協議会,2014),米国のNPのコンピテンシーとして位置づけられている患者ケアを強化するために“他の専門職からコンサルテーションを受ける”ことは含まれていない(Hamric et al., 2019/2020).よって,本研究では,プライマリケア看護のNPのコンピテンシーが明確になっており,米国で活用されているNPのコンピテンシーを用いた(Hamric et al., 2019/2020).今後は,JANPU-NPの高度実践看護師に求められるコンピテンシーをリーダーシップや相談役割の概念も含めて明確にしていくことが重要である.

2つ目の限界として,対象が一部島嶼に限定された4名のNP教育課程修了者の語りをデータにしていることから,多様なNP教育課程修了者の体験については,さらなる検討が必要である.今後の課題として,NP教育課程修了者を活用する管理者や,ケアの受け手である島民による評価を複合的に加味し,看護実践の質の評価を行うことが必要である.

Ⅴ. 結論

島嶼で活動するNP教育課程修了者の看護実践として,【島の文化に根ざした個人の価値観を基盤とした看護・医療を実践する】,【治療の選択肢を広げるため島の限られた資源の活用範囲を変革する】,【島民の力を結集してケアを創り出す】,【予防から死に場所まで臨床判断に基づき生活者の視点で支える】実践をしていた.これらの看護実践には,ホリスティックな視点を基盤に高度なリーダーシップとコーディネーション,コラボレーションのコンピテンシーが発揮されていた.今後は,NP教育課程修了者の実践がどのように患者・家族に望ましい変化をもたらすのかを評価し,看護実践の成果をより適切に捉えていくことが必要である.

付記:本研究の内容の一部は,第41回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご協力いただいた看護職者の皆様に心より感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費基盤研究(B)16H05568の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:M.Oはデータの分析,原稿作成に至るプロセス,論文執筆に貢献した.M.Kは論文の着想からデータ収集,データの分析,原稿への示唆に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2023 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top