日本看護科学会誌
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原著
看護師の研究活用の障壁と教育的支援によって変化可能な影響要因
塚越 徳子岡 美智代京田 亜由美瀬沼 麻衣子近藤 由香松本 光寛梨木 恵実子深澤 友子齋藤 明香高橋 さつき國清 恭子内田 陽子伊東 美緒柳 奈津子
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電子付録

2023 年 43 巻 p. 877-888

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Abstract

目的:看護師の研究活用の障壁と教育的支援によって変化可能な影響要因を明らかにする.

方法:A大学病院の看護師とA県内医療・福祉機関に所属もしくはA大学院修了の専門看護師計860名を対象に質問票調査を行った.研究活用の障壁を従属変数,看護研究への態度,臨床実践力,看護研究に関する経験を独立変数とする重回帰分析を行った.

結果:295名を分析対象とした.障壁が高かった因子は「研究活用の組織的支援」であった.重回帰分析の結果,全変数を投入したモデル1と教育的支援によって変化可能な変数を投入したモデル2では,回帰式の適合度にほぼ差がなかった.肯定的な看護研究への態度,専門性の高い看護実践,看護研究の指導経験がある看護師は障壁が少なかった.

結論:研究活用の障壁は,基本属性を除く教育的支援によって変化可能な変数で説明可能であった.影響要因として,看護研究の態度,臨床実践力,看護研究の指導経験が示された.

Translated Abstract

Objective: To clarify barriers to nurses’ research utilization and determine factors that can be influenced through educational support.

Method: A total of 860 nurses were the study participants, consisting of hospital nurses and certified nurse specialists working in medical and welfare institutions. A questionnaire survey was conducted with participants. A multiple regression analysis was then performed with barriers to research utilization as the dependent variable and attitudes to nursing research, professional practice skills, and experience with nursing research as independent variables.

Result: Questionnaire responses from 295 participants were analyzed. The factor with the highest barrier was “organizational support for research utilization”. Multiple regression analysis revealed that nurses with positive attitudes to nursing research, highly professional practice skills, and experience in teaching nursing research experienced fewer barriers. There was no difference in the goodness of fit of the regression equations between Model 1, which included all variables, and Model 2, which included variables that can be influenced through educational support.

Conclusions: Barriers to research utilization could be explained by variables that can be influenced through educational support. Attitude toward nursing research, professional practice skills, and experience in teaching nursing research were shown as influencing factors.

Ⅰ. はじめに

日々進化する医療と,複雑で多様化する患者・家族のニーズにあわせた質の高い看護を提供するためにはevidence-based practice(以下,EBP)が重要である.看護におけるEBPとは,エビデンスと看護の臨床的専門技能,患者・家族の選択を結合することで最適なケアを決定するプロセスである(Titler et al., 1999).看護師はEBPに取り組むことで,臨床における患者や家族への看護の質の向上を図ることが求められる.EBPは,最善の研究根拠,患者の価値観,医療者の専門知識の3つを統合して実践することが必要である(Sackett et al., 1996)が,最善の研究根拠,つまり研究成果の臨床活用(以下,研究活用)は容易ではない.

国内における看護研究の学習状況に関する調査では,病院で働く約6割の看護師に看護研究の学習経験があること(二見ら,2019)や,中・大規模病院985施設のうち約7割の病院で,看護研究に関する研修会を開催していること(坂下ら,2013)などが報告されている.しかし,病院看護師がケアに疑問を持った際に,最もよく利用する情報源は同僚看護師であり,ガイドラインや論文データベースといった科学的根拠を参照する看護師は少ない(二見ら,2019).また,全国38病院の看護師約400名のうち,看護実践への研究活用の経験が全くないと答えた看護師が半数に上る(亀岡ら,2015).このように,看護師は,看護研究に関する学習の機会はあっても,研究活用できないギャップを抱えている(Squires et al., 2011).

看護師による研究活用を阻害する要因には,新しいアイディアを実行する時間の不足,研究の実施に不適切な施設,看護師にケア手順を変更する権限がない,研究を読む時間がない(Jabonete & Roxas, 2022),研究活動への否定的なイメージ,研究発表の経験がない(清村・西阪,2004),年齢が若い(Kang, 2015)ことなどが明らかとなっている.一方で,研究活用の促進には,研究に対する肯定的な態度,研究会などの参加,大学院の修了,リーダーシップを発揮する役割,一般病棟よりもクリティカル領域の部署に所属,仕事の満足度が高い(Squires et al., 2011),看護実践スキルが高い(Dalheim et al., 2012村山ら,2022),経験年数が長い(清村・西阪,2004)などが指摘されている.また,Spiva et al.(2017)の報告によると,研究についての相談役やファシリテーターの役割をもつメンターからの支援を受けることや,文献データベース整備といった組織的な支援によって,看護師の研究活用の障壁は少なくなり,EBPが促進することも明らかとなっている.

このように,看護師が研究活用することを促進するためには,看護師個人に加え,組織的な教育的支援が重要である.しかし,これまで明らかになってきた研究活用に対する関連要因は,年齢,役職,大学院の修了といった基本属性,つまり変化が困難な看護師個人の要因も含めて検討されてきた.更なる看護師による研究活用やEBPを推進するためには,教育的支援によって変化可能な要因に焦点を当てて明らかにしていくことが重要と考える.

そこで,本研究の目的は看護師の研究活用の障壁とそれに対する教育的支援によって変化可能な影響要因を明らかにすることである.これにより,研究活用の促進に役立てることができると考える.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

研究デザインは横断研究とした.

2. 対象

対象はA大学病院に勤務する看護師・助産師(以下,看護師)とA県内の医療・福祉機関に所属もしくはA大学大学院を修了した医療・福祉機関に所属する専門看護師(Certified Nurse Specialist;以下,CNS)とした.看護師が研究に取り組む上での困難として,文献データベースや図書館などの職場環境の整備不足が明らかとなっている(井上ら,2014小久保・奥村,2022).このため,本研究では,先ずは文献データベースの利用などが容易な環境にあることが予測される大学病院を対象とし,また,職場環境による結果への影響を最小にするために1つの病院に勤務する看護師を対象とした.看護師のうち,看護部長,副看護部長は,対象への直接的ケアを行わず,管理・運営的役割が主のため,対象から除外した.また,CNSの役割には研究があり(日本看護協会,2022),看護師による研究活用を推進する上で重要な役割を担っていると考え,対象とした.

3. データ収集方法

1) データ収集期間

2022年11月~2023年2月に実施した.

2) データ収集方法

看護師に対しては,看護部長を通して看護師長に説明文書および研究協力依頼書,質問票の配布を依頼した.留め置き法による無記名自記式質問票調査とし,質問票を記入後に個別の封筒に入れたのち,配布から2週間以内に各部署に設置した回収箱に投函してもらった.その後,研究者が回収した.

CNSに対しては,無記名自記式Web調査を実施した.A県内の各専門領域のCNS会の代表者宛てに研究協力依頼書を送付し,許可を得た.その後,代表者を通してCNSに説明文書および研究協力依頼書をメール送付した.上記の会に所属していないCNSは,日本看護協会のホームページより検索し,各CNSが所属する機関の長へ郵送にて説明文書および研究協力依頼書の配布を依頼した.研究協力依頼書には,Web調査のURLおよびQRコードを記し,配布から概ね2週間以内に回答してもらった.

3) 調査項目

(1) 従属変数:研究活用の障壁

研究活用の障壁は,Barriers to Research Utilization Scale日本語版(岡ら,2005;以下,BRUS-J)を用いて測定した.研究成果を臨床看護領域で活用するときの障壁を測定することができ,「研究結果の入手しやすさ」「研究利用結果の期待」「研究活用の組織的支援」「研究活用への他者からの支援」の4因子から構成される.「全くそうではない」から「全くそうである」の5段階リッカート尺度に1~5点を付与した.本研究では結果の解釈のしやすさを考慮し,開発者の許可を得た上でオリジナルとは配点を逆転した.得点範囲は29~145点で,得点の高い方が研究活用の障壁が少ないようにした.本研究におけるBRUS-J全体のCronbach’ αは0.897で,各因子では0.642~0.789であり,先行研究(Taber, 2018)を参考に許容範囲内と判断した.

(2) 独立変数

① 基本属性

年齢,看護師経験年数,部署・所属施設,役職の有無,修士課程修了の有無,認定・専門看護師資格の有無を調査した.

② 教育的支援によって変化可能な変数

a.看護師の研究への態度

研究活用において,看護師の研究への態度が重要な予測因子の1つである(Wallin, 2003Squires et al., 2011)ため,調査した.松本ら(2022)は,看護師への患者教育研修によって,看護師の研究への態度が肯定的に変化することを明らかにしている.そのため,看護師の研究への態度は,教育的支援によって変化可能な変数と判断した.看護師の研究への態度は,Attitudes to nursing research scale日本語版(岡ら,2005;以下,ANRS-J)を用いて測定した.研究が看護実践に役に立つか,研究の専門的知識が昇進には必要かなどの研究の重要性の認識や態度を測定することができ,「全くそうではない」から「全くそうである」の5段階リッカート尺度に1~5点を付与した.得点範囲は11~55点で,得点の高い方が看護研究への態度が肯定的とした.本研究におけるANRS-J のCronbach’ αは0.681であり,先行研究(Taber, 2018)を参考に許容範囲と判断した.

b.看護師の臨床実践力

研究活用は,看護実践スキルの高い看護師ほど行っている(Dalheim et al., 2012)ため,調査した.看護師が臨床的スキルを獲得するためには,経験的学習を明瞭に言語化して振り返る教育的方策が重要である(Dreyfus & Dreyfus, 2009/2015).そのため,看護師の臨床実践力は,教育的支援によって変化可能な変数と判断した.看護師の臨床実践力は,Professional Practice Scale日本語版(岡ら,2005;以下,PPS-J)を用いて測定した.看護師が臨床で専門性の高い実践を行っているかについて測定することができ,「全くそうではない」から「全くそうである」の5段階リッカート尺度に1~5点を付与した.得点範囲は13~65点で,得点の高い方が,専門性の高い実践をしているとした.本研究におけるPPS-J のCronbach’ αは0.818であった.

c.看護研究に関する経験

看護研究に関する経験は,研究への態度や研究活用に関連している(Sari et al., 2012Moreno-Casbas et al., 2011Zhou et al., 2015)ため調査した.看護研究に関する教育を受けている看護師は,看護師になってから看護研究や研究活用を行うことが明らかとなっている(佐藤ら,2021亀岡ら,2015).そのため,看護研究に関する経験は,教育的支援によって変化可能な変数と判断した.看護研究に関する経験として,看護研究における看護師の継続教育に関する報告(坂下ら,2013),研究活用を推進するメンターのトレーニングプログラムに関する報告(Spiva et al., 2017)を参考に,医中誌Web利用経験の有無,PubMed利用経験の有無,それ以外の文献検索データベース(CiNii,Google Scholar,J-Stage,CINAHLなど)利用経験の有無,倫理審査受審経験の有無,学会発表経験の有無,査読付き論文の掲載経験の有無,研究成果の臨床活用経験度を調査した.研究成果の臨床活用経験度は,「活用していない」から「非常に活用している」の4段階リッカート尺度に1~4点を付与し,得点が高い方が研究成果を臨床で活用しているとした.

先行研究において,研究活用の障壁に対する看護師個人の研究活動との関連について調査(Kang, 2015Zhou et al., 2015)しているものの,他者への研究指導経験との関連は明らかにされていない.そのため,本研究では,看護研究の指導経験の有無についても調査した.なお,看護研究に関する経験についての調査項目は,看護師として勤務してからの経験を調査した.

(3) 研究成果の臨床活用の内容

研究成果の臨床活用経験度で,「活用している」もしくは「非常に活用している」に回答した方に,研究成果の臨床活用の具体的な内容について自由記載を依頼した.

4. 分析方法

BRUS-Jおよび独立変数について,単純集計および記述統計を行った.BRUS-Jは,各項目の平均値の順位を昇順に示した.

次に,BRUS-J合計得点および因子毎の得点を従属変数とした重回帰分析を行った.本研究では,変化が困難な基本属性を含む全変数を投入したモデル1と,教育的支援によって変化可能な変数のみを投入したモデル2の従属変数に対する影響度および回帰式の適合度を比較した.これにより,教育的支援によって変化可能な変数による影響要因を検討できると考えた.そのため,変数選択は強制投入法を用い,影響度は標準化係数(β),回帰式の適合度は調整済み決定係数(R2)を確認した.なお,モデル2は,教育的支援によって変化可能な変数として,ANRS-J,PPS-J,研究成果の臨床活用経験度,倫理審査の受審経験あり,学会発表経験あり,査読付き論文の掲載経験あり,看護研究の指導経験あり,文献データベース利用経験ありのみを投入した.文献データベース利用経験は,医中誌Web利用経験の有無,PubMed利用経験の有無,その他文献検索データベース利用経験の有無のうち,いずれか1つをありとした数を集計した.

重回帰分析の際には,独立変数間の多重共線性を考慮するために,相関係数0.7未満,Variance Inflation Factor(以下,VIF)10未満であることを確認した.有意水準は5%未満とした.統計ソフトは,IBM SPSS ver.28.0を使用した.

研究成果の臨床活用の内容は,臨床活用の一つの例が一文となるように短文化し,意味内容の類似性に沿って,サブカテゴリ,カテゴリに抽象度をあげてまとめた.

5. 倫理的配慮

本調査は,無記名による調査とした.対象者には文書を用いて,研究の主旨や目的,方法,研究参加による利益や不利益,自由意思による参加,個人情報は取得しないこと,本研究への相談窓口について説明した.本研究の参加は,質問票の冒頭にある研究参加の同意欄への記載を持って,同意を得られたとした.本研究は,群馬大学 人を対象とする医学系研究倫理審査委員会の承認(HS2022-127)を得て実施した.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の基本属性と看護研究に関する経験(表1

看護師804名,CNS56名(計860名)に質問票を配布し,358名から回収した(回収率41.6%).そのうち,BRUS-Jと関連要因に欠損値のない295名を分析対象とした(有効回答率34.3%).

表1 

対象者の基本属性と看護研究に関する経験 n = 295

項目 n (%) 平均±SD(範囲)
基本属性
年齢(歳) 35.04 ± 9.49(21~62)
経験年数(年) 12.01 ± 8.35(0~38)
役職 あり 45 (15.3)
なし 250 (84.7)
修士課程修了 あり 32 (10.8)
なし 263 (89.2)
認定・専門看護師資格 あり 44 (14.9)
なし 251 (85.1)
部署(病院看護師のみ回答) 病棟 200 (73.3)
外来 30 (11.0)
センター 19 (7.0)
その他 24 (8.8)
所属施設(専門看護師のみ回答) 病院 18 (81.8)
訪問看護ステーション 1 (4.5)
介護老人施設 1 (4.5)
保健所・保健センター 1 (4.5)
不明 1 (4.5)
看護研究に関する経験
医中誌Web利用経験 あり 247 (83.7)
なし 48 (16.3)
PubMed利用経験 あり 89 (30.2)
なし 206 (69.8)
その他文献検索データベース利用経験 あり 182 (61.7)
なし 113 (38.3)
倫理審査受審経験 あり 156 (52.9)
なし 139 (47.1)
学会発表経験 あり 168 (53.9)
なし 127 (43.1)
査読付き論文の掲載経験 あり 64 (21.7)
なし 231 (78.3)
看護研究の指導経験 あり 67 (22.7)
なし 228 (77.3)
研究成果の臨床活用経験度 活用していない 61 (20.7)
あまり活用していない 171 (58.0)
活用している 59 (20.0)
非常に活用している 4 (1.4)

[注]SD:標準偏差

対象者の年齢は35.04 ± 9.49(平均値±標準偏差,以下同様)歳で,経験年数の平均は12.01 ± 8.35年であった.役職ありの者は45名(15.3%),認定・専門看護師資格ありの者は44名(14.9%)であった.

看護研究に関する経験は,文献検索データベースの利用について,医中誌Web利用経験ありの者が247名(83.7%)であった.倫理審査受審経験ありの者は156名(52.9%),学会発表経験ありの者は168名(53.9%),査読付き論文の掲載経験ありの者は64名(21.7%)であった.看護研究の指導経験ありの者は,67名(22.7%)であった.研究成果の臨床活用経験度は,あまり活用していないと回答した者が171名(58.0%)で最も多かった.

2. BRUS-Jの得点(表2

BRUS-J合計得点は,88.15 ± 12.42点であった.各因子の平均得点は,「研究結果の入手しやすさ」が2.97点,「研究利用結果の期待」が3.26点,「研究活用の組織的支援」が2.73点,「研究活用への他者からの支援」が3.53点であり,「研究活用の組織的支援」が最も得点が低く,研究活用の障壁が大きかった.

表2 

Barriers to Research Utilization Scale日本語版の得点 n = 295

項目 平均値±SD(範囲) 順位※
研究結果の入手しやすさ 35.69 ± 5.05(12~49)
統計分析はなかなか理解できない 2.24 ± 0.87 4
関連する研究の文献は1ヶ所にまとめられていない 2.82 ± 0.87 7
実践のための研究の意味は明らかにされていない 3.23 ± 0.84 16
研究は分かりやすく読みやすいように書かれていない 2.82 ± 0.87 7
研究報告・論文はたやすく入手できない 2.82 ± 0.95 7
研究は追試されていない 2.89 ± 0.70 11
文献では矛盾した結果が報告されている 3.39 ± 0.65 22
研究には方法論の不適切なところがある 3.27 ± 0.66 19
研究報告・論文は必ずしも迅速に出版されているとはいえない 2.86 ± 0.69 10
研究は看護師の実践に結び付かない 3.56 ± 0.85 24
研究の情報量はすごく多い 2.23 ± 0.77 3
研究から引き出された結論は根拠が乏しい 3.56 ± 0.76 24
†2.97
研究利用結果の期待 22.79 ± 4.04(7~33)
研究結果を自分の部署で広く適用できない 3.15 ± 0.84 15
アイディアを変えたり新しく試みたりしない 3.13 ± 0.84 14
実践を変えることによる利益はほんのわずかだろう 3.25 ± 0.91 17
研究の結果は信じられるものかどうかよく分かっていない 3.25 ± 0.88 17
研究が自分にはほとんど役立たないと思っている 3.56 ± 0.92 24
実践は変えなければいけないと書かれたものはない 3.08 ± 0.66 13
実践に関する研究の価値が分からない 3.38 ± 0.92 21
†3.26
研究活用の組織的支援 19.09 ± 3.62(7~30)
患者の看護手順を変えるための十分な権限がない 2.77 ± 1.02 6
仕事中は新しいアイディアを実行するための時間が足りない 2.18 ± 0.84 2
研究の質を評価できる能力がない 2.39 ± 0.81 5
この施設は研究を実施する場に向いていない 3.75 ± 0.82 29
研究は理解できない 3.36 ± 0.93 20
仕事中に研究文献を読む時間は不十分である 1.66 ± 0.81 1
研究について討論できる同僚が近くにいない 2.98 ± 1.00 12
†2.73
研究活用への他者からの支援 10.59 ± 1.94(4~15)
上司は新しい考えの実施を認めないだろう 3.57 ± 0.92 27
医師は研究結果の実施に協力しないだろう 3.44 ± 0.81 23
他の職員は研究の実施に協力的でない 3.57 ± 0.80 27
†3.53
合計 88.15 ± 12.42(31~120)

[注]Cronbachのα係数:0.897(研究結果の入手しやすさ:0.667,研究利用結果の期待:0.789,研究活用の組織的支援:0.667,研究活用への他者からの支援:0.642)

SD:標準偏差

†:各因子の平均得点を示す

※:平均値の順位を昇順に示す

得点の低い上位項目,つまり研究活用の障壁が大きいものは,仕事中に研究文献を読む時間は不十分である(1.66 ± 0.81),仕事中は新しいアイディアを実行するための時間が足りない(2.18 ± 0.84)であった.得点の高い項目の上位は,この施設は研究を実施する場に向いていない(3.75 ± 0.82),上司は新しい考えの実施を認めないだろう(3.57 ± 0.92)であった.

3. ANRS-JおよびPPS-Jの得点(表3

ANRS-Jの得点は,34.66 ± 4.49点であった.ANRS-Jで得点の高い上位項目,つまり研究への態度が肯定的である項目は,研究は看護実践でなく看護師教育だけに関係する(逆転項目)(3.80 ± 0.87),研究の専門知識は臨床に従事する看護師にとって価値がある(3.77 ± 0.74)であった.得点の低い項目は,ケアで忙しすぎて研究報告を読む暇がない(逆転項目)(2.07 ± 0.92),日々の看護実践に研究成果を取り入れるにはあまりにも忙しすぎる(逆転項目)(2.21 ± 0.92)であった.

表3 

Attitudes to nursing research scale日本語版(ANRS-J)・Professional Practice Scale日本語版(PPS-J)の得点 n = 295

項目 平均値±SD(範囲)
ANRS-J
研究は日々の看護の仕事に直接結びつかない(逆転項目) 3.63 ± 0.84
研究の専門知識は昇進時に考慮されている 3.19 ± 0.88
看護職は研究に基づいた専門職になるべきである 3.22 ± 0.83
ケアで忙しすぎて研究報告を読む暇がない(逆転項目) 2.07 ± 0.92
研究は看護ケアを実践する上で役立つことが多い 3.60 ± 0.79
研究の専門知識は臨床に従事する看護師にとって価値がある 3.77 ± 0.74
実践ではほとんどの看護師が研究成果を使っていない(逆転項目) 3.04 ± 0.81
研究の専門知識は昇進時に考慮されるべきではない(逆転項目) 3.73 ± 0.80
研究は看護実践ではなく看護師教育だけに関係する(逆転項目) 3.80 ± 0.87
たいていの看護師は自分に関係する研究成果を知っている 2.40 ± 0.76
日々の看護実践に研究成果を取り入れるにはあまりにも忙しすぎる(逆転項目) 2.21 ± 0.92
†3.15
合計 34.66 ± 4.49(15~48)
PPS-J
新しい考えを試すとき,積極的に互いを助けあっている 3.62 ± 0.68
教育に役立つものを病棟に揃えておくことが推奨されている 3.56 ± 0.67
ケアのための新しいアプローチを試みている 3.13 ± 0.79
意思決定は部署の看護師たちによって民主的になされている 3.27 ± 0.79
自分の能力を最大限発揮することが推奨されている 3.53 ± 0.75
学習の機会を積極的に見つけ出している 3.35 ± 0.85
実践のフィードバックを積極的に求めている 3.19 ± 0.81
個々の患者のニーズは満たされている 3.09 ± 0.66
専門雑誌を読んで最新情報を得ている 2.53 ± 0.96
実践について振り返る時間をとっている 2.94 ± 0.90
家族は患者のケアに関する意思決定に参加している 3.35 ± 0.83
研究に基づいて実践している 2.78 ± 0.74
患者は自分のケアに関する意思決定に参加している 3.39 ± 0.75
†3.21
合計 41.71 ± 5.71(13~58)

[注]Cronbachのα係数:ANRS-J 0.681,PPS-J 0.818

SD:標準偏差

†:平均得点を示す

PPS-Jの得点は,41.71 ± 5.71点であった.PPS-Jで得点の高い上位項目,つまり専門性の高い実践を行っている項目は,新しい考えを試すとき,積極的に互いを助け合っている(3.62 ± 0.68),教育に役立つものを病棟に揃えておくことが推奨されている(3.56 ± 0.67)であった.得点の低い項目の上位は,専門雑誌を読んで最新情報を得ている(2.53 ± 0.96),研究に基づいて実践している(2.78 ± 0.74)であった.

4. BRUS-J合計得点および各因子の影響要因(表4

1) モデル1:全変数を投入

独立変数間の相関係数およびVIFから,年齢は経験年数(相関係数=.947,VIF = 7.880)との多重共線性を考慮し除外した.BRUS-J合計得点では,ANRS-J(β = .505, p < .001),PPS-J(β = .327, p < .001),認定・専門看護師資格あり(β = –.059, p = .027)と関連があった.「研究結果の入手しやすさ」では,ANRS-J(β = .435, p < .001),PPS-J(β = .270, p < .001)と関連があった.「研究利用結果の期待」では,ANRS-J(β = .505, p < .001),PPS-J(β = .244, p < .001)と関連があった.「研究活用の組織的支援」では,ANRS-J(β = .392, p < .001),PPS-J(β = .305, p < .001),看護研究の指導経験あり(β = .192, p = .013),文献検索データベース利用経験あり(β = –.178, p < .001)と関連があった.「研究活用への他者からの支援」では,ANRS-J(β = .316, p < .001),PPS-J(β = .320, p < .001),学会発表経験あり(β = –.184, p = .008)と関連があった.

表4 

Barriers to Research Utilization Scale日本語版(BRUS-J)の影響要因

独立変数 従属変数
BRUS-J合計得点 研究結果の入手しやすさ 研究利用結果の期待 研究活用の組織的支援 研究活用への他者からの支援
モデル1 モデル2 モデル1 モデル2 モデル1 モデル2 モデル1 モデル2 モデル1 モデル2
β p β p β p β p β p β p β p β p β p β p
経験年数 –.023 –.033 –.018 .023 –.066
役職あり .027 .003 .081 .003 –.011
修士課程修了あり –.009 .018 .100 –.110 –.105
認定・専門看護師資格あり –.059 * –.065 .001 –.080 –.059
ANRS-J .505 ** .512 ** .435 ** .440 ** .505 ** .490 ** .392 ** .420 ** .316 ** .332 **
PPS-J .327 ** .324 ** .270 ** .264 ** .244 ** .257 ** .305 ** .291 ** .320 ** .311 **
文献検索データベース利用経験あり –.080 –.071 –.067 –.055 .005 .021 –.178 ** –.192 ** –.015 –.001
倫理審査受審経験あり –.008 –.013 –.017 –.025 .017 .022 –.036 –.040 .025 .011
学会発表経験あり –.071 –.072 –.065 –.071 –.013 –.017 –.041 –.028 –.184 ** –.187 **
査読付き論文掲載経験あり .039 .024 .014 .010 .025 .041 .076 .029 .019 –.013
看護研究の指導経験あり .104 .094 * .085 .063 –.027 .060 .192 * .145 ** .143 .045
研究成果の臨床活用経験度 .039 .025 .026 .015 .048 .066 .058 .022 –.025 –.059
R2 .555 .552 .386 .382 .506 .496 .457 .439 .318 .301
調整済R2 .536 .539 .360 .365 .485 .481 .434 .423 .289 .282

[注]重回帰分析(強制投入法)

従属変数:BRUS-J合計得点および各因子

独立変数:

モデル1 経験年数,役職あり,修士課程修了あり,認定・専門看護師資格あり,ANRS-J,PPS-J,文献検索データベース利用経験あり,倫理審査受審経験あり,学会発表経験あり,査読付き査読論文投稿経験あり,看護研究の指導経験あり,研究成果の臨床活用経験度

モデル2 ANRS-J,PPS-J,文献検索データベース利用経験あり,倫理審査受審経験あり,学会発表経験あり,査読付き査読論文投稿経験あり,看護研究の指導経験あり,研究成果の臨床活用経験度

β:標準化係数

R2:決定係数

** p < .01 * p < .05

2) モデル2:教育的支援によって変化可能な変数を投入

BRUS-J合計得点では,ANRS-J(β = .512, p < .001),PPS-J(β = .324, p < .001),看護研究の指導経験あり(β = .094, p = .047)と関連があった.「研究結果の入手しやすさ」では,ANRS-J(β = .440, p < .001),PPS-J(β = .264, p < .001)と関連があった.「研究利用結果の期待」では,ANRS-J(β = .490, p < .001),PPS-J(β = .257, p < .001)と関連があった.「研究活用の組織的支援」では,ANRS-J(β = .420, p < .001),PPS-J(β = .291, p < .001),看護研究の指導経験あり(β = .145, p = .006),文献検索データベース利用経験あり(β = –.192, p < .001)と関連があった.「研究活用への他者からの支援」では,ANRS-J(β = .332, p < .001),PPS-J(β = .311, p < .001),学会発表経験あり(β = –.187, p = .006)と関連があった.

3) モデル1とモデル2の回帰式の適合度および影響要因の変化

BRUS-J合計得点の調整済R2は,モデル1が0.536,モデル2が0.539であった.モデル2では,モデル1では関連のなかった看護研究の指導経験ありが有意な関連を示した.

各因子の調整済R2は,「研究結果の入手しやすさ」でモデル1が0.360,モデル2が0.365,「研究利用結果の期待」でモデル1が0.485,モデル2が0.481,「研究活用の組織的支援」でモデル1が0.434,モデル2が0.423,「研究活用への他者からの支援」でモデル1が0.289,モデル2が0.282であった.各因子の解析では,影響要因に変化はなかった.

5. 研究成果の臨床活用経験の内容(表5

研究成果の臨床活用経験の具体的な内容について,52名から記述を得られ,67例,6サブカテゴリから,【看護ケアに活用】と【看護管理に活用】の2カテゴリが生成された.具体的な内容には,既存の研究成果を臨床活用した例と,看護師自身が明らかにした研究成果を臨床活用した例の両方が含まれていた.

表5 

研究成果を臨床活用した具体的な内容

主な例(合計 67例) サブカテゴリ(例数) カテゴリ(例数)
手術中の患者の体温管理や砕石位での神経障害のリスク因子と注意点について活用した 患者への観察計画に活用(10) 看護ケアに活用(52)
質的研究の結果を踏まえ,様々な体験をしている患者の理解を深めるケアに活かした
放射線の有害事象についての研究をみて,観察に活用した
治療選択のプロセスについて,患者理解に活用した
睡眠時間が確保できない患者に,日中の覚醒を促すために日の光を浴びてもらうなど, 患者への援助計画に活用(26)
研究で有効とされた看護実践を患者のために活用した
早産児のホールディングについて研究し,その結果を実践した
創処置,特に褥瘡を有する方のケアに活用した
意思決定時の環境整備,コミュニケーション方法を活用し支援を実施した
治療や副作用対策について,研究結果を踏まえて情報提供した 患者への教育・指導計画に活用(13)
放射線の有害事象についての研究をみて,セルフケア指導に活用した
患者の心理的状態についてインタビュー調査し,その結果を他患者の指導に活かした
多職種でのリフレクションに活用した 多職種との協働に活用(3)
部署外の医療者にケアの根拠を説明するときに使用した
看護師のモチベーション向上につながるやりがい感の獲得について教育に活用した 看護師教育に活用(8) 看護管理に活用(15)
看護管理として人材育成に活用した
がん看護の困難尺度を臨床活用した
コンサルテーションや教育機能を発揮する際,対象者に根拠として示すために活用した
業務改善をする際の根拠として活用した 業務改善に活用(7)
パートナーシップ・ナーシング・システムを活用した
ケアシステムを変更するときに使用した

Ⅳ. 考察

対象者の特性

本研究の対象者は,役職,大学院修士課程修了,認定・専門看護師資格の割合(佐藤ら,2021),学会発表経験の割合(佐藤ら,2021清村・西阪,2004),査読付き論文の掲載経験の割合(清村・西阪,2004),研究成果の臨床活用経験度(佐藤ら,2021),ANRS-J,PPS-Jの得点(岡ら,2005松本ら,2022)のいずれも先行研究と大きな差は見られず,一般的な対象と考えられた.

1. 看護師の研究活用の障壁の実態

研究活用の障壁が最も大きかった因子は,「研究活用の組織的支援」であった.Barriers to Research Utilization Scaleの原尺度(Funk, et al., 1991)とBRUS-Jの因子構造は異なるが,因子に共通する仕事中に研究文献を読む時間は不十分である,仕事中は新しいアイディアを実行するための時間が足りないといった項目は,先行研究(Jabonete & Roxas, 2022遠藤・布施,2010Kajermo et al., 2010)においても障壁が大きく,勤務中の時間的な制約に関する課題が浮き彫りとなった.加えて,ANRS-J,PPS-Jの結果(表3)においても,得点の低い項目は,時間の不足に関連した内容であり,勤務時間に研究活用を促進させるシステム構築が重要と考える.

対照的に先行研究(Jabonete & Roxas, 2022Kajermo et al., 2010)と異なる結果となった因子は,「研究活用への他者からの支援」であり,上司は新しい考えの実施を認めない,他の職員は研究の実施に協力的でないといった項目の障壁が少なかった.これは,病院や看護部の基本方針の一つに臨床研究が掲げられていることが影響した可能性がある.

2. 看護師の研究活用の障壁に対する影響要因

本結果における重要な知見は,全変数を投入したモデル1と,教育的支援によって変化可能な変数を投入したモデル2において,BRUS-J合計得点および各因子においても回帰式の適合度にほぼ変化がなかったことである.つまり,基本属性を用いなくても,教育的支援によって変化可能な変数のみで看護師の研究活用の障壁は説明が可能であることが明らかとなった.看護師としての経験年数を重ねることや修士課程を修了すること,認定・専門看護師資格を有することだけでなく,看護研究への態度や臨床実践力を向上し,看護研究に関する経験を積むことが重要である.

また,教育的支援によって変化可能な変数を投入したモデル2では,モデル1において関連のなかった看護研究の指導経験が有意な関連を示した.他者への指導経験は,自身の知識を深化させ,学習を促進する効果がある(小林,2020).看護師個人の研究経験だけでなく,他者への研究指導経験を得ることで,研究への障壁が少なくなる可能性があると考えられる.看護研究の指導経験は,本研究で独自に用いた変数であったが,本結果から研究活用の障壁を少なくする重要な影響要因であることが明らかになった.

さらに,BRUS-J合計得点および各因子に共通して影響度の高い要因は,ANRS-JとPPS-Jであった.先行研究(Jabonete & Roxas, 2022清村・西阪,2004Dalheim et al., 2012Wallin, 2003Squires et al., 2011)においても,研究への態度が肯定的で,専門性の高い実践を行っている看護師は,研究活用の障壁が少ないことは明らかとなっているが,本研究によって,看護研究への態度が最も高い影響要因であることが明らかになった.また,表3において,PPS-Jの中でも,スタッフが互いに助け合っている,教育に役立つものを病棟に揃えているなどの得点が高かった.これらは,看護師個人の努力に加えて,所属施設・部署での組織的な取り組みによって専門性の高い実践ができ,研究活用の障壁を少なくすることにつながると考える.

研究活用の障壁が大きかった「研究活用の組織的支援」では,文献データベースの利用経験のある人は,ない人と比べて研究活用の障壁が大きいことが明らかとなった.「研究活用の組織的支援」は時間的な制約の質問項目が多く,文献データベースの利用によって時間の不足を障壁として認識している可能性が考えられた.二見ら(2019)の調査では,看護師がケアに疑問を持った時に論文データベースといった科学的根拠を参照する看護師は3割程度で少ないことを明らかにしている.本研究では,利用頻度は不明だが,約8割の看護師に文献データベースの利用経験があり,約2割の看護師に研究活用の経験があった.このことから,一定数の看護師は文献データベースを利用しているものの,その利用には,時間や技術が必要であることが考えられた.

3. 研究成果の臨床活用を促す看護師教育

本結果から,基本属性を除いても,教育的支援によって変化可能な変数を用いて看護師の研究活用の障壁について同程度説明できることが明らかとなった.また,看護研究に関する経験の中でも,看護研究の指導経験を有することが重要であった.病院看護師の継続教育プログラムには,看護研究を取り入れている施設も多い(坂下ら,2013)ため,役職や資格の有無に関わらず,看護研究の経験を積み重ねていくことは可能である.しかし,研究指導となると,師長などの看護管理者や専門・認定看護師等が多い現状にある(Saunders&Vehviläinen-Julkunen, 2017).研究活用には,看護管理者だけでなくピア・サポートが重要とする報告(Thompson et al., 2006)や,看護研究における他者との共同研究やデータ収集に関与することで,研究に対する看護師の態度が肯定的になる報告(Arthur et al., 2019)もある.そのため,看護管理者や有資格者だけでなく,研究経験を有する身近な看護師が看護研究のメンターになることで,研究活用が推進される可能性が考えられる.看護師自身が看護研究に取り組むことに加え,共同研究者として研究に参加しながら,指導経験を積むことでメンターとしての能力の習得につながる.これにより,看護師の研究活用を後押しし,EBPを促進させることができると考える.

さらに,時間的な制約に関する課題が明らかとなった.1998年の日本看護科学学会研究活動委員会報告(1998)でも,看護師の研究活用の障壁として時間的な課題が挙げられており,約25年が経過しても同様の課題を抱えていた.佐藤ら(2021)は,看護研究は,看護の対象への支援の質を向上するものよりも,キャリア開発や実践能力を高める教育方法と捉えられていることを指摘している.本研究の対象者の研究活用の具体例(表5)には,臨床での疑問を自身の研究によって解決し,実践に活用する例だけでなく,既存の研究成果を実践に取り入れる例もあった.医師のEBPを例にみると,対象者の病気の診断や治療法に関して,事例研究をはじめとした研究成果を活用していることは既知の事実である.看護師も同様に病棟で即座に文献データベースにアクセスし,研究成果を組織的に吟味し取り入れていく前向きな職場環境が求められる.

4. 研究の限界と課題

本研究は,横断調査であり,因果関係は不明である.本研究では,強制投入法を用いたが,他の変数選択法を用いることで異なる結果が明らかになる可能性がある.本研究では,文献データベースの利用頻度や,所属施設の研究に対する支援体制については調査しなかったが,調査項目に追加することで,より詳細な関連要因を理解することができる可能性がある.

本研究では大学病院に所属する看護師を対象とした.大学病院は,文献データベースの利用などが容易な環境にあることが予測される.看護師の研究活用を促進するためには,一般病院や病院以外で勤務する看護師への調査を行う必要がある.

Ⅴ. 結論

本研究は,看護師の研究活用の障壁と教育的支援によって変化可能な影響要因を明らかにした.BURS-Jで看護師の研究活用の障壁が大きかった因子は,「研究活用の組織的支援」であり,勤務中の時間的な制約に関することであった.BRUS-Jの合計点および各因子を従属変数とした重回帰分析の結果,基本属性を含めた全変数を投入したモデル1と教育的支援によって変化可能な変数を投入したモデル2では,回帰式の適合度に大きな差はなかった.モデル2において,モデル1で関連のなかった看護研究の指導経験ありが有意な関連となった.看護師の研究活用に影響する要因として,看護研究の態度,専門性の高い看護実践,看護研究の指導経験が示された.看護師の研究活用の障壁は,基本属性を除く教育的支援によって変化可能な変数で説明可能であることが示唆された.

付記:本論文の内容の一部は,第70回北関東医学会総会において発表した.

謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力くださいました調査参加者の皆様,研究協力施設関係者の皆様に深く御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:塚越は研究デザイン,データ収集,統計解析,結果の解釈,草稿の作成;岡は研究の構想,研究デザイン,研究プロセス全体への助言;京田は研究デザイン,データ収集,結果の解釈,原稿への加筆・修正;瀬沼・近藤は研究デザイン,結果の解釈,原稿への加筆・修正;松本・梨木・深澤は研究デザイン,データ収集,原稿への加筆・修正;齋藤・高橋・國清・内田・伊東・柳は研究デザイン,原稿への加筆・修正.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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