2024 年 44 巻 p. 22-31
目的:クリティカルケア領域初期キャリア看護師を対象とする看護実践能力を評価するためのルーブリックを開発することである.
方法:「集中治療に携わる看護師のクリニカルラダー」をもとに,指導者看護師との相互評価を前提とするルーブリック素案を開発し,専門家会議で評価観点の内容妥当性確認と評価基準等の表現を検討した.続いて初期キャリア看護師とその指導者看護師を対象とした試行調査を実施し,最後に専門家へ評価観点の確認を依頼した.
結果:専門家会議の結果,内容妥当性のない評価観点を削除し12項目,3段階の基準を持つルーブリックとなった.試行調査は1組のみの実施となったが,ルーブリックを使用した相互評価のみでは能力開発につながりにくい可能性が明らかとなった.
結論:12項目の評価観点からなるルーブリックの妥当性は確認できたが,相互評価を課題発見につなげるためのツールを作成する必要性が見出された.
Objective: This study aimed to develop a rubric to evaluate nursing competency for early career nurses in the critical care area.
Methods: First, we developed a draft rubric for peer review by instructor nurses and early career nurses based on the “Clinical Ladder for Nurses in Intensive Care”. Next, we discussed the validity of the content of the evaluation perspectives and the expression of the evaluation criteria at an expert meeting. Then, we conducted a trial survey with an early career nurse and an instructor nurse, and finally, we asked the experts to confirm the evaluation perspectives.
Result: As a result of an expert meeting, we developed the rubric with 12 items and three criteria levels by eliminating the evaluation points that did not have content validity. Although we conducted the pilot study with only one pair of an early career nurse and an instructor, it became clear that peer review using the rubric was unlikely to lead to skill development.
Conclusion: Although we confirmed the validity of the rubric consisting of 12 evaluation items, we identified the need to create a tool to link peer review to the discovery of issues.
2010年から新人看護職員の研修等は努力義務(厚生労働省,2014)となっており,看護職を雇用する組織等において,生涯学習を支援する取り組みの指針として「看護職の生涯学習ガイドライン」(日本看護協会,2023)が示されている.卒後2~3年目の看護師はそれまでに獲得した基礎的な技術を土台とし,より高度な看護ケアに発展させていく学習段階にある(谷脇,2006).しかし,クリティカルケア領域における卒後2年目初期の看護師の実践に対する認識を調査した研究では,重症な患者の全体像が把握し切れていないことや,不確かなままケアをしている現状があり(明神ら,2018),一般病棟の卒後2~3年目の看護師では,充実したスタッフ教育や継続教育プログラムが不足していると感じていること(成田・石井,2015)が報告されている.そして,看護実践能力の自己評価が低いことや能力に対する不安は,離職意思に影響を与えていることが明らかとなっている(Sawatzky et al., 2015).
こうした現状の中,日本看護協会(2016)があらゆる施設や場で活動可能な看護師の育成・教育支援,継続性の強化のため,「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」(以下,看護協会版ラダー)を開発した.これに続き,日本集中治療医学会(2019)は看護協会版ラダーの看護実践能力を土台として,集中治療看護の専門性を反映させた「集中治療に携わる看護師のクリニカルラダー」(以下,「ラダー」)を開発した.このラダーの普及が,集中治療に携わる看護師の実践能力の向上に寄与することや,継続的に自己啓発を行い,専門的能力を高める機会を得ることにつながると期待されている.クリニカルラダープログラムの先行研究では,プログラムへの参加が仕事に対する高い満足度に影響を与えており(Coleman & Desai, 2019),実態調査では,看護師の定着促進とコスト削減につながっていることが明らかとなっている(Drenkard & Swartwout, 2005).一方で,クリニカルラダーに対する認識を明らかにした研究では,指導者の能力に対する課題や評価基準が不明瞭といったことが指摘されている(久留島・豊田,2010).
実践している看護師の能力を評価することは,専門的能力の開発や教育の必要性を見極める上で非常に重要であり(Meretoja et al., 2004),青木(2017)は,実践能力を適切に客観的に評価するためには,実践能力の定義と,それを可視化したルーブリック(rubric)が欠かせないと述べている.ルーブリックは絶対評価の判断基準表を意味する教育用語として,1980年代以降,広く使用されるようになった(田中,2008).ルーブリックを使用することで,評価基準の達成水準等が明確化され,評価者・被評価者の認識の共有や複数の評価者による評価の標準化等のメリットがある(中央教育審議会,2012).また,ルーブリックを使用する理由としてタイミングの良いフィードバックや他者とのコミュニケーションの活性化などが挙げられており(Stevens & Levi, 2013/2014),実践能力を評価するだけでなく,学習の過程における進捗状況のフィードバックや学習者自身が学習プロセスを管理するためにも重要であると言われている(青木,2017).
近年,看護基礎教育の臨床実習などの評価においてもルーブリックが使用されており,その学習効果が報告されている(宗内ら,2020).実習等のパフォーマンスが中心の学習は「学習状況を明確にする」,「学習状況に応じて教える」という学習者,教育者双方向のコミュニケーションが不可欠であり,このような学習環境では学習者は自らの課題を発見し,主体的な学びが実現され,教育者も教える意欲が喚起される(中野・麻生,2017).また,他者からの効果的な質問は,個人が目標を明確化することを助け,行動の選択肢を広げることができる(江見,2014).
以上のように,卒後2~3年目は看護実践能力を養う時期であるが,クリティカルケア領域の看護師は看護実践能力に課題を抱えており,看護実践能力の自己評価の低さが離職意思に影響を与えている可能性もあるため,教育体制を整備することは重要である.看護実践能力評価のためのルーブリック開発は,標準化された評価ツールによる看護実践能力の相互評価を可能にする.この相互評価を通して評価者・被評価者が共通の認識を持ってコミュニケーションを行うことで,学習課題が明確になる.そして,その課題を解決するために計画を立案し,学習を進めていくことは,初期キャリア看護師の看護実践能力を向上させることに寄与すると考えられる.
本研究の目的は,クリティカルケア領域の初期キャリア看護師を対象とする看護実践能力を評価するためのルーブリックを作成することである.
・クリティカルケア領域:特定集中治療室管理料1・2もしくは救命救急入院料2・4を算定している集中治療室のこと.
・初期キャリア看護師:クリティカルケア領域で勤務する卒後2~3年目の看護師のこと.
・指導者看護師:初期キャリア看護師の指導的役割を担う看護師のこと.
・看護実践能力:「看護協会版ラダー」および「ラダー」に基づいた,「ニーズをとらえる力」,「ケアする力」,「協働する力」,「意思決定を支える力」の4能力のこと.
・ルーブリック:評価基準の達成水準を明確化し,評価者・被評価者の認識の共有や評価の標準化を図るツール
・相互評価:初期キャリア看護師の看護実践能力を評価対象とし,初期キャリア看護師の自己評価と指導者看護師の他者評価の結果から,課題発見や目標設定を目的とした協議を両者で行うこと.
2021年7月から2022年1月まで
2. ルーブリックの開発過程の概要はじめにルーブリック素案を作成し,専門家会議(以下,会議)で評価観点および評価基準の妥当性などを確認した.会議の結果をもとに,ルーブリック素案の修正を行い,調査用ルーブリックを作成し,試行調査を行った.試行調査では,評価基準の明瞭性と表面妥当性の確認,看護実践能力の評価などを目的に調査を行った.この結果を専門家にフィードバックし,調査用ルーブリックの内容妥当性の確認を依頼し,ルーブリックVer. 1を作成した.
1) ルーブリック素案作成ルーブリック素案は,日本集中治療医学会(2019)が開発した「ラダー」に基づき作成した.ルーブリックの評価観点は,「ラダー」のレベルIIIの実践例19項目を使用し,評価尺度は研究者が独自に「達成・発展途上・参入期」の3段階に設定した.また,評価基準は「ラダー」の評価観点に使用されている実践例の記述を参考に設定し,「達成」は初期キャリア看護師が卒後3年目で習得すべき看護実践能力とし,「発展途上」および「参入期」は「達成」と比較して不足している看護実践能力がある表現とし,ルーブリック素案を完成させた.併せて,ルーブリックの使用経験がない看護師も活用できるように,「ルーブリックを使用するためのガイド」(以下,ガイド)を作成した.ルーブリック素案は,看護教育学の教員と看護教育学を専攻する大学院生の意見を取り入れ改善を重ねた.
開発するルーブリックは初期キャリア看護師が自身の看護実践能力を自己評価し,指導者看護師が初期キャリア看護師の看護実践能力を他者評価した後,相互評価することを想定した.相互評価を行うこととした理由は,評価者・被評価者が共通の認識を持って看護実践能力向上に向けたコミュニケーションを行うことで,初期キャリア看護師の課題の発見や目標の明確化が促進されると考えたためである.
評価の時期と回数は病院で行われている中間評価や年間評価のタイミングで,年に1~2回を想定した.
「ラダー」の使用については,開発元の日本集中治療医学会から許可を得た.
2) 専門家会議専門家のリクルートは機縁法で行い,組み入れ基準はクリティカルケア領域の臨床経験が10年以上ある属性の異なる看護師5名とした.
会議では事前に質問紙を配布し,ルーブリック素案の評価観点に対する評価と評価基準についての意見を自由記載欄にまとめてもらうよう依頼した.評価観点の評価には内容妥当性指標(content validity index;以下,CVI)(Lynn, 1986)を用いた.観点ごとに「1;関連性がない」,「2;項目を修正しないと関連性を評価できない,または項目は関連性がないほど修正が必要である」,「3;関連性はあるがわずかな修正が必要である」,「4;非常に関連性があり簡潔である」の4段階で評価してもらい,3もしくは4を同意,1もしくは2は不同意として観点ごとにCVI(項目に同意した人数/全参加者)を算出した.この方法論では,内容妥当性を確認するためにCVI .83以上が必要であり,それ未満の場合には項目を削除するか修正が必要である.会議に参加した専門家は5名のため,内容妥当性が認められるCVI .83以上を得るためには全員の同意が必要であった.
会議はWeb会議サービスアプリケーション(Zoom)を使用して開催し,時間は120分とした.会議の内容は参加者の許可を得てレコーディング機能で録画し,音声データのみを研究データとして使用した.音声データをもとに逐語録を作成し,評価観点,評価基準,評価尺度,ガイドに関する意見をセンテンス単位で抜き出し,類似しているものは統合して,意見を集約した.これらの意見をもとにルーブリック素案の評価観点,評価基準,評価尺度,ガイドの内容を修正した.CVI .83以上の評価観点は採択し,CVI .83未満の評価観点については修正を加えるか,削除した.会議の開催は1度とし,その後の修正したルーブリックの内容確認は全て専門家へのメールで行った.
3) 試行調査試行調査は,評価基準の明瞭性と表面妥当性の確認,看護実践能力の評価などを目的に,初期キャリア看護師1名と指導者看護師1名を1組とし,8組を対象に調査を実施した.
調査用ルーブリックを使用した試行調査では,初期キャリア看護師には自己評価,指導者看護師には他者評価を実施してもらった.その後,2人1組で意見交換をしながら相互評価を実施してもらい,質問紙に同封した返信用封筒で返信してもらった.初期キャリア看護師と指導者看護師の回答はペアとして扱うため,どちらかが同意の撤回をした場合には両者のデータとも使用しないこととした.
また,ルーブリックの評価のための質問紙調査も行った.初期キャリア看護師および指導者看護師それぞれを対象に,属性,所属部署でのクリニカルラダー使用の有無,調査用ルーブリックの評価基準の明快さおよび表面妥当性,評価のためのコミュニケーションが促進されたかどうか,看護実践能力の向上を目的とした課題発見につながるかどうかなどを5段階のリッカート尺度を使用した質問紙および自由記載欄を使用して調査した.
データの分析は,自由記載欄から得られた回答をセンテンス単位で抜き出し,類似しているものは統合した.得られたデータからルーブリックの妥当性,表現の明快さ,使用に関わる改善点を検討し,修正を行った.
3. 倫理的配慮本研究は聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号:21-A020).
会議への参加を依頼した研究対象者には,研究の目的と研究への参加は自由意思であること,不参加によって不利益を被ることはないこと,プライバシーの保護と匿名性について文書を使用して口頭で説明を行い,書面で同意を得た.
試行調査は,はじめにリクルートを依頼する看護師(以下,リクルート看護師)を機縁法で選定した.次に,リクルート看護師が所属する病院の病院長および看護部門長に文書で研究協力の依頼を行った.協力が得られた施設では,クリティカルケア領域の看護管理者へ文書で研究協力の依頼し,リクルート看護師へ研究対象者の選定を依頼した.試行調査の研究対象者には,研究の目的と研究への参加は自由意思であること,不参加によって不利益を被ることはないこと,プライバシーの保護と匿名性等について依頼文書で説明を行った.協力の意思がある場合は初期キャリア看護師自身に指導者看護師を選んでもらい,その指導者の同意も得られた場合に同意書を返送してもらうことで研究協力の同意を確認した.
研究全体のプロセスと内容妥当性指標による評価観点の推移を図1に示す.〈 〉は専門家からの意見や自由記載の記述を示す.

専門家会議は急性期看護学教員2名,集中ケア認定看護師1名,看護教育学博士前期課程修了者1名,クリティカルケア領域の看護管理者1名,計5名に依頼し全員から協力を得て,2021年7月26日に実施した.
会議の冒頭で,事前に回答を依頼した評価観点の内容妥当性の結果を収集し,内容妥当性指標を算出した.CVI .83に満たない評価観点1,3,8,10~19を中心に評価観点の妥当性や修正方法について協議した.
1) ルーブリック素案の修正(1回目)会議では,評価観点および評価基準について,表現の抽象度の高さや曖昧さ,冗長性などに関連した具体的な意見や修正案が出た.会議で得られた意見をもとに,1回目のルーブリック素案の修正を行った.CVI .83未満であった評価観点13項目のうち7項目を削除し,残り6項目は修正を加えた.CVI .83以上の評価観点6項目と合わせて,12項目の評価観点となった.
削除せずに採択した6項目の評価観点では,〈表現が抽象的で評価が困難である〉,〈用語の定義が不明確である〉,〈初期キャリア看護師の看護実践として不適切である〉といった意見を反映し,表現を修正した.削除した7項目の評価観点では,〈複数の評価観点で表現が類似しており,実践内容の違いが明確でない〉という意見があった.
評価基準については,〈看護実践の表現に具体性がない〉,〈他の評価基準との統一性がない〉などの意見を反映し,修正した評価観点に合わせて表現を修正した.
評価観点・評価基準全体の表現に関わる意見として,〈[臓器障害のある][生命維持装置が必要な]という表現が繰り返されるが,網羅的な評価観点では[クリティカルケアが必要な]という表現が良いと思う〉と具体的な修正案が出たため,ガイドの使用方法に,ルーブリックの評価観点・評価基準に記載されている「患者」が「集中治療が必要な患者」であることを追記することで,評価基準の冗長性を改善した.
評価尺度は,達成・発展途上・参入期の3段階で作成したが,複数の専門家から,「参入期」という表現がわかりにくいとの意見が出たため,「未達成」へ変更した.
2) ルーブリック素案の修正(2回目)会議に参加した専門家に,修正したルーブリック素案の評価観点の内容妥当性と評価基準の表現について確認を依頼した.その結果,CVI .83以上の評価観点が5項目で,CVI .83未満の項目が7項目であった.この7項目については5名の専門家のうち4名は内容妥当性があると判断しており,「ラダー」の行動目標の内容から,クリティカルケア領域の初期キャリア看護師の看護実践能力を評価する上で必要な評価観点であると考え,全て修正を加え,採択した.会議を経て,2回の内容妥当性確認と修正を加えたものを調査用ルーブリックとした.
2. 試行調査試行調査は4施設に依頼したが,新型コロナウイルスの流行期であり,研究許可が得られたのは2施設であった.そのため,追加で1施設に研究依頼を行い,初期キャリア看護師6名へ調査依頼を行った.最終的に,1施設の初期キャリア看護師と指導者看護師1組が調査に参加した.
研究に参加した1組の属性は,初期キャリア看護師は卒後3年目で指導者看護師は卒後5年目で両者とも女性,基礎教育課程は大学,所属は救急集中治療室であった.指導者看護師は,正式な指導役割を担ってはおらず初期キャリア看護師をよく知る看護師であった.対象者が所属する部署には4段階のクリニカルラダーがあり,両者ともラダーレベルIIであった.
1) 調査用ルーブリックを使用した看護実践能力の評価初期キャリア看護師が調査用ルーブリックを使用して看護実践能力を自己評価した結果は,ニーズをとらえる力とケアする力の評価観点1~7の7項目を「発展途上」,協働する力と意思決定を支える力の評価観点8~12の5項目を「達成」と評価した.
指導者看護師が調査用ルーブリックを使用して看護実践能力を他者評価した結果は,評価観点4,6,14,19の4項目を「達成」と評価し,残りの8項目を「発展途上」と評価した.
自己評価と他者評価で差異がみられた評価観点は4,6,9,12,15の5項目で,そのうち初期キャリア看護師が行った自己評価のほうが高い評価観点は9,12,15の3項目であった.相互評価の結果,差異がみられた項目はいずれも他者評価と同様の評価となっていた.
評価の所要時間は,自己評価および他者評価がそれぞれ10分で,相互評価は5分であった.
2) 調査用ルーブリックの評価ルーブリックを評価するための質問紙調査では,相互評価が今後の能力開発につながるかについて,[1]全くつながらない~[5]おおいにつながった,の尺度で初期キャリア看護師は[2],指導者看護師は[3]と回答していた.看護実践能力の評価ができたかについて,[1]全く思わない~[5]とてもそう思う,の尺度で初期キャリア看護師,指導者看護師いずれも[4]と回答していた.
自由記載では「評価基準が明確で迷わなかった」という意見があったが,一方で,評価観点3の評価基準に関連して「どのように評価するのか少し迷った」という意見もあった.重要な点として,相互評価が今後につながるかについて,初期キャリア看護師および指導者看護師両者から「現状の振り返りになったが,教育計画や課題発見までは深められないと思う」という意見があった.
3. 調査用ルーブリックの修正会議に参加した専門家5名に,調査用ルーブリックの評価観点の内容妥当性と評価基準の表現について確認を依頼した.
専門家が評価観点の内容妥当性を評価した結果,CVIが.83に満たなかった評価観点は2,12,19の3項目である.この3項目については看護教育の専門家と検討を行い,能力評価には不可欠の項目であると判断したため,専門家の意見を踏まえて修正を加えて,ルーブリックVer. 1の項目として採択した.
上記に加えて,試行調査ではルーブリックを使用した看護実践能力の相互評価が学習課題の発見に至らないという回答を得たため,専門家に意見を求めた.
複数の専門家から「他者評価を行う指導者看護師」に関して,〈具体的な事例を抽象化して振り返るには指導者看護師の教えるスキルが重要ではないか〉などの意見があった.これらの修正を加えたルーブリックVer. 1を図2に示す.なお,ルーブリック素案からルーブリックVer. 1作成のプロセスで,修正および削除した評価観点を一覧にして表1に示す.


ルーブリックVer. 1の特徴と能力開発ツールとしての評価の2側面について考察する.
1. ルーブリックVer. 1の特徴本研究で開発したルーブリックは,「ガイド」,「12項目の評価観点からなるルーブリック」で構成されており,2つの特徴がある.
一つ目に,「12項目の評価観点からなるルーブリック」は,開発の過程で参考にした「ラダー」の実践例と比較して,評価基準が明確化されていることである.ルーブリックVer. 1を用いた看護実践能力の評価は他者評価および相互評価を前提としているため,客観的な評価が可能となるように,観察可能な表現を使用した.一部の評価観点では「ニーズをとらえる」や「合併症をとらえる」といった表現を使用したが,評価基準で「支援・助言を受けながら」のように基準を明確化している.
評価基準が存在しないことや,その基準が曖昧であることは,期待されていることについての困惑の原因となり,フィードバックも曖昧で,期待とパフォーマンスを一致させることができない(Weaver, 2006)と言われている.そのため,ルーブリックVer. 1を使用した看護実践能力の評価は,具体的なフィードバックを行うことが期待できる.
二つ目の特徴は,ルーブリックVer. 1の評価基準には期待される看護実践能力が記述されているため,看護実践能力の可視化が可能になることである.また,評価の際に看護実践能力が十分に身についていない場合には,期待される看護実践能力との差異も明確にすることができる.加えて,評価を繰り返すことで,前回の評価と比較して看護実践能力が向上したかどうかを可視化できる点も特徴である.学習の過程における進捗状況のフィードバックや,学習者自身が学習プロセスを管理するためにもルーブリックが重要であると述べられている(青木,2017).したがって,ルーブリックVer. 1は,初期キャリア看護師自身が看護実践能力向上を目的とした学習のプロセスを確認することができるツールとなり得る.
また,ルーブリックVer. 1は開発のプロセスの中で,評価観点の削除や統合を行ったため,参考にした実践例と比較して評価観点が減少した.その結果,看護実践能力の構成概念が変化している可能性があるが,専門家会議でクリティカルケア領域初期キャリア看護師に必要な看護実践能力を網羅的に記述されていること,評価観点の内容妥当性を確認することができている.一方で,試行調査は対象者の確保が困難であったため,さらに調査を行い統計学的に構成概念妥当性の検証を行っていく必要がある.
2. 能力開発ツールとしての活用方法と評価本研究で開発したルーブリックは9項目の評価観点で内容妥当性を確認できており,試行調査では評価基準が明確であるとの回答が得られた.この結果から,臨床における看護実践能力の評価では,内容妥当性を確認できた評価観点とその評価基準の記述を参考にすることが可能である.
一方で,ルーブリック単独での使用が学習課題の発見や学習計画の立案につながらない可能性があるという結果も得られている.この結果は当初の想定と異なっていたが,卒後2年目以降の看護師への教育に対する指導力のばらつきがあること(下元・山田,2010)や,指導的役割を担う看護師が指導について専門的な教育を受ける機会に恵まれていない(北別府ら,2021)ことなどが関連している可能性がある.このことを考慮すると,ルーブリックで他者・相互評価を行う全ての指導者看護師が適切に学習課題の発見や学習計画の立案を支援できない場合も想定する必要がある.
On-the-Job Training(以下,OJT)における指導する立場の看護師のコンピテンシーの一つに【指導実践】があり,その中には,「コーチングスキルに基づいた指導を行う」ことが含まれており,看護師は交代勤務で指導者を固定することが困難で,多くの看護師がOJTで指導的な役割を担う必要がある(北別府ら,2021).そのため,ルーブリックを使用した相互評価から能力開発に向けた課題の設定ができるよう,指導者看護師が「コーチングスキルに基づいた指導」を実践できる仕組みが必要である.
3. 研究の限界と今後の課題本研究の限界と今後の課題として以下の3点を挙げる.
第1に,試行調査の対象が1組であったため,調査の対象者を増やし,正式な指導役割を担っている看護師が看護実践能力を相互評価した場合には結果が変わる可能性がある.
第2に,試行調査で使用した質問紙はルーブリックの使用に関わる課題を抽出するために作成しており,信頼性と妥当性を厳密に検証できていない.
第3に,ルーブリックVer. 1の能力開発ツールとしての評価を十分に検討できていない.今後はルーブリックVer. 1に課題発見のためのツールを組み入れ,能力開発ツールとしての評価を行う必要がある.
本研究では,専門家会議と試行調査を経て,クリティカルケア領域初期キャリア看護師の看護実践能力評価のためのルーブリックを開発した.結論は以下の2点である.
1.会議のプロセスを通して12項目中9項目で内容妥当性を確認することができ,残り3項目については修正を加えて,ルーブリックVer. 1の評価観点とした.
2.試行調査では,評価基準等の表面妥当性や明瞭性について同意が得られた.また,ルーブリックを使用した相互評価を通じて学習課題の発見や学習計画を立案するためには,それを支援するツールが必要であることが示唆された.
付記:本研究は,2021年度聖路加国際大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正したものである.本論文の内容の一部は,第50回日本集中治療医学会学術集会で発表した.
謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただいた研究対象者の皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:RYは研究のデザイン,調査の実施,結果の解釈,論文執筆を行なった.KOは研究の着想およびデザインに貢献するとともに,論文執筆および研究プロセス全体への助言を行なった.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.