目的:病院に勤務する看護師の離職意思に与える職業経験の質および個人特性の影響を明らかにする.
方法:病院に勤務する看護師279名を分析対象とした.離職意思,個人特性,看護職者の職業経験の質尺度を用いたWebアンケートで調査した.分析は離職意思「ある群」と「なし群」の2群に分け,記述統計,単変量解析を行ない,その後離職意思を目的変数,個人特性および看護職者の職業経験の質尺度の6つの下位尺度を説明変数として多重ロジスティック回帰分析を実施した.
結果:離職意思には「30代」,「40代」,「介護のあり」が有意な正の関連を,「子あり」,「仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」が有意な負の関連を示した.
結論:病院に勤務する看護師の離職対策には,看護管理者が看護師に対して個々の課題を克服できるように支援し,「仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」を積み上げられるように働きかけることが重要と示唆された.
Aim: To determine the effects of the quality of occupational experience and personal characteristics on turnover intentions among nurses working in hospitals.
Methods: The study analyzed 279 nurses working in an acute care hospital. A web-based questionnaire was used to determine turnover intention, personal characteristics, and quality of occupational experience of nurses. Descriptive statistics and univariate analysis were conducted. A multiple logistic regression analysis was conducted using turnover intention as the objective variable and personal characteristics and six subscales of the quality of occupational experience scale as explanatory variables.
Results: In their thirties, in their forties, and having a caregiver were significantly positively related to turnover intention, while having a child and experience in building a personal daily life while continuing to work were significantly negatively related.
Conclusion: Nursing managers should support nurses in overcoming individual challenges. They should also help nurses gain “experience in building a daily life that suits them as they continue to work” to prevent nurse turnover in hospitals.
離職による看護師不足は世界中の医療機関が長年抱えてきた問題である.WHOは,すべての国が健康と福祉に関する持続可能な開発目標3を達成するために2030年までに世界で900万人の看護師と助産師が追加で必要になると推定している(WHO, 2020;Nove et al., 2021).しかし,高い仕事の要求度やバーンアウト,ワーク・ライフ・バランス(Work Life Balance; WLB)が取れないなどのストレスが看護師を離職させ,看護師不足問題が深刻化している現状がある(Aamir et al., 2016;Van der Heijden et al., 2019).医療現場での看護師不足は看護ケアの質に影響を及ぼし,患者死亡率の上昇と関連すると報告されていることからも(Aamir et al., 2016),施設管理者,看護管理者はそれぞれの施設や部署レベルで看護師の離職意思に関連する要因を探索し,効果的な対策を取る必要がある.
我が国の看護師を対象とした離職意思の先行研究では,離職意思を高める要因としてバーンアウトや職務満足度,対人関係の困難さなどが明らかになっている(古屋・谷,2008;松谷ら,2022;山口ら,2017;山住,2017).さらに,日本看護協会の病院看護師実態調査(公益社団法人日本看護協会,2020)では年齢や結婚・育児・介護などの個人特性に起因する離職理由も報告されている.これらの個人特性と離職意思の関連要因を探索した量的な先行研究では,年齢により離職意思に差があると示した研究(池田ら,2011;松谷ら,2022;Kitamura & Nakai, 2023;Saijo et al., 2016),学歴が離職意思に差があると示した研究(Saijo et al., 2016;松谷ら,2022).現在の勤務場所や(池田ら,2011),夜勤の有無により離職意思に差があるという研究(白石ら,2013)などがある.加えて,結婚している者は離職意思が未婚と比較して低い(池田ら,2011;松谷ら,2022)や子がいる者の方が離職意思が低い(松谷ら,2022)などが報告されている.しかし,先行研究の中には調査項目にこれらの個人特性を入れて離職意思との関連を探索したが関連を示さなかったという報告や,子の有無と離職意思の関連では,離職意思が「常にある」群は子どもが「いない」が有意に高く,離職意思が「全くない」群は子供が「いる」が有意に高いという結果を示した研究もある(白石ら,2013).したがって,離職意思への個人特性の影響は一貫していないものの,看護師の離職意思の要因を探索する際には個人特性を考慮した議論が求められる.
一方で鈴木ら(2001)は,看護職者が就業継続していくためには,職業経験をより客観的に捉え,肯定的に意味付けていくことが重要であると指摘している.鈴木ら(2001)は,5年以上病院で職業を継続している看護職者を対象とした質的研究を行い,「この看護婦の経験は,職業の継続という視点から見るとどのような経験か」という持続比較のための問いを設定し,看護概念創出法を用いて分析した.その結果,病院に就業している看護師の職業経験を説明する6つの概念を創出している.すなわち,【I.問題克服による看護実践能力の獲得と役割の深化】,【II.日常生活構造の変調と再構築】,【III.組織構成員との関係形成と維持】,【IV.発達課題達成と職業経験の対立】,【V.職業経験への迷いと選択】,【VI.看護職への理解進展と価値基準の確立】であり,看護職者は,これらの職業特性に関わる経験と成人期にある職業人としての共通の経験をしながら職業を継続していると示した.さらに鈴木ら(2004)は,これらの看護職者の職業経験が客観的に評価できるように,看護職者の職業経験の質を測定する尺度を開発している.この尺度は前述の職業経験の概念を尺度に適応し,6つの側面から(「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」,「2.看護実践能力を獲得し,多様な役割を果たす経験」,「3.他の職員と関係を維持する経験」,「4.看護職としての価値基準を確立する経験」,「5.発達課題の達成と職業の継続を両立する経験」,「6.迷いながらも職業を継続する経験」)測定することができ,病院に就業する看護職者が個々の職業経験の質向上にむけ,その検討と活動の改善・調整を行うために利用可能と示している.本研究では,この職業経験の質に着目し,職業経験の質と離職意思の関連を評価することで看護師の離職予防のためにどのような対策が必要なのかを検討する基礎資料が得られると考えた.
職業経験の質は,自己効力感や職業性キャリアの醸成,精神科看護技術得点との関連が示唆されており(平田,2011;佐々木ら,2016;狩野ら,2015a),職業経験の質の6つの側面それぞれが離職意思と関連を示す可能性が高いが,職業経験の質に関する先行研究では離職意思との関連を調査した文献は見当たらない.加えて,離職意思には年齢や学歴,婚姻の有無などの個人特性を考慮した上で議論することが求められる.よって本研究では下記の通り2つの仮説を設定し,これらを検証することで効果的な離職防止対策を検討する上での議論を拡張したいと考えた.
仮説1:職業経験の質が高い看護師ほど,離職意思が低くなる.
仮説2:看護師の離職意思には,個人特性が影響する.
病院に勤務する看護師の離職意思に与える職業経験の質および個人特性の影響を明らかにする.
・離職意思とは,看護師自身が現在の職場を離れたいと考える個人的で主観的な思考とする.
・職業経験の質とは,職業の継続を通した個々人の経験であり,主体としての人間が,社会的分業の一端を担い,個性を発揮し,環境との相互行為を通して一定の収入を得る過程において知覚した人間と環境との関連の仕方やその成果の総体である(鈴木ら,2001).
・個人特性とは,個々の看護師の年齢や性別,学歴,配置場所,勤務形態,婚姻の有無,子の有無,介護の有無など個人の背景とする.
2. 本研究の概念枠組み図1に本研究の仮説と概念枠組みを示した.仮説1では,職業経験の質が高い看護師ほど,離職意思が低くなるという仮説である.また,仮説2では,個人特性が離職意思に影響するとの仮説であり,先行研究で示されてきた年齢や性別,学歴,配置場所,勤務形態,婚姻の有無,子の有無,介護の有無などの個人特性(池田ら,2011;白石ら,2013;Saijo et al., 2016;公益社団法人日本看護協会,2020;松谷ら,2022;Kitamura & Nakai, 2023)が離職意思に影響を及ぼすことが報告されていることから,これらの個人特性が離職意思を高くする,あるいは低くする影響を検討する.

無記名WEBアンケートによる横断的研究
4. 研究対象者研究対象者はA県の地方都市に所在するB病院(県内唯一の第3次救急病院)の全看護師とした.除外基準を,管理業務を主とし,患者へのケアに直接参加しない看護師長および看護部長等とし,対象から除外した.調査対象となる看護師数は590名であった.調査期間は2019年12月~2020年1月であった.
5. 調査項目 1) 個人特性個人特性は,前述の先行研究(池田ら,2011;白石ら,2013;Saijo et al., 2016;公益社団法人日本看護協会,2020;松谷ら,2022;Kitamura & Nakai, 2023)を参考に,年齢,性別,学歴,配置場所,勤務形態(日勤のみか夜勤ありか),婚姻の有無,子の有無,介護(家族内に介護が必要な者)の有無を尋ねた.
2) 離職意思離職意思は,「離職を考えた経験があるか」の単一質問で尋ねた.回答は「はい」または「いいえ」で求めた.なお,B病院は離職予防および看護の質向上を目的として,2018年度から次年度の配置希望を聴取し,可能な限りそれに沿った配置転換を行うという新しい配置転換制度を開始している.そのため,質問の想起期間について2018年度の制度開始から調査回答日までの約2年間と回答者に示した.
3) 職業経験の質鈴木らによって開発された看護職者の職業経験の質評価尺度を使用した(鈴木ら,2004).本尺度は前述の鈴木ら(2001)で創出された6つの概念を測定するために開発された尺度で,無作為抽出された全国の病院に就業する看護師1,060名を対象にした調査で信頼性および妥当性が確認されており(鈴木ら,2004),その後,統計学的な頑健性に優れた尺度であると報告されている(狩野ら,2015b).また,本尺度の質問項目は普遍的なものであり,現在の看護師の離職要因を調査する上で適格であることから採用した.
本尺度は,「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」「2.看護実践能力を獲得し,多様な役割を果たす経験」「3.他の職員と関係を維持する経験」「4.看護職としての価値基準を確立する経験」「5.発達課題の達成と職業の継続を両立する経験」「6.迷いながらも職業を継続する経験」の6つの下位尺度でそれぞれに5項目,計30項目の5件法(1:あまり当てはまらない,2:やや当てはまる,3:わりに当てはまる,4:かなり当てはまる,5:非常に当てはまる)で構成され,得点が高いほど職業経験の質が高いことを示している.
6. 分析方法各変数の記述統計を算出した.単変量解析では,離職意思「あり群」と「なし群」で,個人特性および看護職者職業経験の質評価尺度をの6つの下位尺度得点を比較した.比較には,χ2検定,Fisherの正確確率検定,Mann-WhitneyのU検定のいずれかの方法を用いた.なお,各変数の欠損値はそれぞれ分析時に除外をした.多変量解析では,離職意思の有無を目的変数,その他の項目を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析(尤度比による変数増加法)を実施した.分析前に,説明変数間に多重共線性がないことを説明変数間の相関係数で確認した.個人特性は調整変数として強制投入とし,年齢,学歴,配置場所はダミー変数を作成して分析した.統計解析にはIBM SPSS Statistics Version 28およびHAD(清水,2016)を用い,有意確率はp < .05とした.
7. 倫理的配慮本研究は,山梨県立中央病院看護局倫理審査委員会(承認番号:1219-11)の承認を得て行なった.研究機関の長へ文章と口頭で研究協力の依頼を行い,承諾が得られた後に各責任者を通じて研究依頼書を勤務する看護師へ配布した.加えて,各責任者には文章による掲示を依頼した.対象者は配布された研究依頼書を読んだ上で,自由意志で院内WEBシステム上のWEBアンケートにアクセスし回答した.WEBアンケートへの回答をもって調査に同意したものとみなした.調査対象となる看護師数は590名であった.さらに,研究実施に際して対象者へ研究調査依頼用紙を用いて,調査目的,個人情報の保護,研究に協力しないことが不利益とならないこと,調査はWebアンケートで行われ,無記名であり,研究参加の同意はWebアンケートの回答をもって同意とみなすこと,研究結果の発表の可能性と匿名性を遵守することを説明した上で実施した.
調査を依頼した590名のうち,395人(回答率69.4%)の回答が得られた.そのうち,欠損値や回答に不備があるもの(n = 116)を除いた279名を分析対象とした(有効回答率70.6%).
表1は対象者の特性を示した.年齢は20代が最も多く131名(47.0%),性別は女性が256名(91.8%),学歴では大学・大学院卒が121名(43.4%)で最多であり,配置場所は病棟が165名(59.1%)と最多であった.勤務形態では「日勤のみ」が198名(71.0%),婚姻の有無は「あり」が130名(46.6%),子の有無は「あり」が101名(36.2%),介護の有無は「あり」が37名(13.3%)であった.
(n = 279)
| n | % | ||
|---|---|---|---|
| 年齢 | 20代 | 131 | 47.0 |
| 30代 | 93 | 33.3 | |
| 40代 | 45 | 16.1 | |
| 50代以上 | 10 | 3.6 | |
| 性別 | 女性 | 256 | 91.8 |
| 男性 | 23 | 8.2 | |
| 学歴 | 専門学校 | 114 | 40.9 |
| 短大 | 44 | 15.8 | |
| 大学・大学院 | 121 | 43.4 | |
| 配属部署 | 病棟 | 165 | 59.1 |
| センター系 | 59 | 21.1 | |
| 外来 | 51 | 18.3 | |
| その他 | 4 | 1.4 | |
| 勤務形態 | 日勤のみ | 198 | 71.0 |
| 夜勤あり | 81 | 29.0 | |
| 婚姻の有無 | なし | 149 | 53.4 |
| あり | 130 | 46.6 | |
| 子の有無† | なし | 178 | 63.8 |
| あり | 101 | 36.2 | |
| 介護の有無‡ | なし | 242 | 86.7 |
| あり | 37 | 13.3 |
†;子がいる者の年代別の人数(割合)は20代131名中11名(8.4%),30代93名中52名(55.9%),40代45名中31名(68.9%),50代10名中7名(70.0%)であった.
‡;介護者を持つ者の年代別の人数(割合)は,20代131名中8名(6.1%),30代93名中15名(16.1%),40代45名中12名(26.7%),50代以上10名中2名(20.0%)であった.
表2および表3は離職意思の「あり群」と「なし群」それぞれで基本属性および看護職者職業経験の質評価尺度の各下位尺度と単変量解析を行った結果を示した.
(n = 279)
| 項目 | 離職意思 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| なし群(n = 143) | あり群(n = 136) | p値 | |||
| n | % | n | % | ||
| 年齢 | |||||
| 20代 | 86 | 60.1 | 45 | 31.5 | <.001*** |
| 30代 | 37 | 25.9 | 56 | 39.2 | |
| 40代 | 15 | 10.5 | 30 | 21.0 | |
| 50代 | 5 | 3.5 | 5 | 3.5 | |
| 性別 | |||||
| 女性 | 130 | 90.9 | 126 | 88.1 | .60 |
| 男性 | 13 | 9.1 | 10 | 7.0 | |
| 学歴 | |||||
| 専門学校 | 54 | 37.8 | 60 | 42.0 | .07 |
| 短大 | 18 | 12.6 | 26 | 18.2 | |
| 大学・大学院 | 71 | 49.7 | 50 | 35.0 | |
| 配置場所 | |||||
| 病棟 | 88 | 61.5 | 77 | 53.8 | .028* |
| センター系 | 36 | 25.2 | 23 | 16.1 | |
| 外来 | 17 | 11.9 | 34 | 23.8 | |
| その他 | 2 | 1.4 | 2 | 1.4 | |
| 勤務形態 | |||||
| 日勤のみ | 115 | 80.4 | 83 | 58.0 | <.001*** |
| 夜勤あり | 28 | 19.6 | 53 | 37.1 | |
| 婚姻の有無 | |||||
| なし | 87 | 60.8 | 62 | 43.4 | .011* |
| あり | 56 | 39.2 | 74 | 51.7 | |
| 子の有無 | |||||
| なし | 99 | 69.2 | 79 | 55.2 | .05 |
| あり | 44 | 30.8 | 57 | 39.9 | |
| 介護の有無 | |||||
| なし | 136 | 95.1 | 106 | 74.1 | <.001*** |
| あり | 7 | 4.9 | 30 | 21.0 | |
*:p < .05,**:p < .01,***:p < .001
χ2乗検定またはFisherの正確確率検定を実施.
(n = 279)
| 項目 | 離職意思 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| なし群(n = 143) | あり群(n = 136) | p値 | |||
| Median | IQR | Median | IQR | ||
| 1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験 | 15 | 13~18 | 12 | 9~15 | <.001*** |
| 2.看護実践能力を獲得し,多様な役割を果たす経験 | 17 | 15~20 | 16 | 14~20 | .106 |
| 3.他の職員と関係を維持する経験 | 18 | 15~20 | 16 | 15~19 | .008** |
| 4.看護職としての価値基準を確立する経験 | 15 | 15~19 | 15 | 13~18 | .005** |
| 5.発達課題の達成と職業の継続を両立する経験 | 15 | 13~17 | 14 | 10~17 | .011* |
| 6.迷いながらも職業を継続する経験 | 16 | 15~19 | 15 | 13.25~18 | .042* |
*:p < .05,**:p < .01,***:p < .001
Mann-WhitneyのU検定を実施.
離職意思は年齢(p < .001),配置場所(p = .028),勤務形態(p < .001),婚姻の有無(p = .011),介護の有無(p < .001)で両群の回答分布に有意な差が確認された.離職意思が「あり群」の方が「なし群」と比較し,年齢では,20代が少なく30代や40代が多かった.配置場所では,外来が多く病棟やセンター系は少なかった.勤務形態では,夜勤ありと回答した割合が少なかった.婚姻の有無では,婚姻ありと回答した割合が多かった.介護の有無では,介護ありと回答した割合が高かった.
職業経験の質の下位尺度の比較では,離職意思の「あり群」は「なし群」と比較して,職業経験の質の6つの下位尺度のうち「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」(p < .001),「3.他の職員と関係を維持する経験」(p = .008),「4.看護職としての価値基準を確立する経験」(p = .005),「5.発達課題の達成と職業の継続を両立する経験」(p = .011),「6.迷いながらも職業を継続する経験」(p = .042)の5因子がそれぞれ有意に低いと示された.
3. 離職意思の関連要因(多変量解析)表4は離職意思の関連要因を多重ロジスティック回帰分析を用いて検討した結果を示した.本研究の分析対象者は279名であり,多重ロジスティック回帰分析において必要なサンプル数を満たしていた(Peduzzi et al., 1996).加えて,離職意思を目的変数としたモデルでは,Nagelkerke決定係数は.344,Hosmer-Lemeshowの適合度検定はp = .80,判別的中率は74.9%であり,モデルはおおむね良好に適合した.離職意思には,「30代」(調整済みOR:2.21,95%CI:1.03~4.74,p = .042),「40代」(調整済みOR:2.92,95%CI:1.02~8.37,p = .047),「子供あり」(調整済みOR:0.37,95%CI:0.15~0.90,p = .029),「介護の有無」(調整済みOR:4.31,95%CI:1.64~11.28,p = .003),「仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」(調整済みOR:0.81,95%CI:0.76~0.87,p < .001)有意に関連した.看護職者職業経験の質評価尺度の「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」以外の下位尺度は有意な関連を示さなかった.
(n = 279)
| 調整済みオッズ比 | 95%CI下限 | 95%CI上限 | p値 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 年齢(基準:20代)† | 30代 | 2.21 | 1.03 | 4.74 | .042* |
| 40代 | 2.92 | 1.02 | 8.37 | .047* | |
| 50代以上 | 1.49 | 0.28 | 7.91 | .641 | |
| 性別(0=女性,1=男性) | 1.14 | 0.40 | 3.26 | .801 | |
| 学歴(基準:専門学校)† | 短大 | 0.88 | 0.38 | 2.07 | .773 |
| 大学・大学院 | 0.94 | 0.49 | 1.80 | .843 | |
| 配置部署(基準:病棟)† | センター系 | 0.59 | 0.28 | 1.21 | .150 |
| 外来 | 0.84 | 0.26 | 2.70 | .774 | |
| その他 | 1.35 | 0.12 | 15.64 | .810 | |
| 勤務形態(0=日勤のみ,1=夜勤あり) | 3.00 | 0.97 | 9.28 | .056 | |
| 婚姻の有無(0=なし,1=あり) | 1.43 | 0.65 | 3.18 | .378 | |
| 子の有無(0=なし,1=あり) | 0.37 | 0.15 | 0.90 | .029* | |
| 介護の有無(0=なし,1=あり) | 4.31 | 1.64 | 11.28 | .003* | |
| 仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験 | 0.81 | 0.76 | 0.87 | <.001*** | |
| Nagelkerke決定係数 | .344 | ||||
| Hosmer-Lemeshowの適合度検定 | .80 | ||||
| 判別的中率 | 74.9 | ||||
*:p < .05,**:p < .01,***:p < .001
検定方法:多重ロジスティック回帰分析(尤度比による変数増加法)
目的変数:0=離職意思なし,1=離職意思あり
説明変数:職業経験の質尺度の6つの下位尺度(「仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」,「看護実践能力を獲得し,多様な役割を果たす経験」,「他の職員と関係を維持する経験」,「看護職としての価値基準を確立する経験」,「発達課題の達成と職業の継続を両立する経験」,「迷いながらも職業を継続する経験」)を投入.調整変数として,「30代」,「40代」,「50歳以上」,「性別」,「短大」,「大学・大学院」,「センター系」,「外来」,「その他」,「勤務形態」「婚姻の有無」,「子供の有無」,「介護の有無」を強制投入した.
† 学歴,学歴,配置部署はダミー変数を作成し分析した.
本研究の目的は病院に勤務する看護師の離職意思に与える職業経験の質および個人特性の影響を明らかにすることであった.単変量解析では,離職意思の「あり群」は「なし群」と比較して,個人特性では,年齢,配置場所,勤務形態,婚姻の有無,介護の有無の回答の分布に有意な差を認めた.職業経験の質は,6つの下位尺度のうち「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」「3.他の職員と関係を維持する経験」「4.看護職としての価値基準を確立する経験」「5.発達課題の達成と職業の継続を両立する経験」「6.迷いながらも職業を継続する経験」がそれぞれ有意に低いと示された.
多重ロジスティック回帰分析の結果では,離職意思は「30代」,「40代」,「介護あり」であると離職意思が高くなるという正の関連を,「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」が高いほど,または「子供あり」であると離職意思が低くなるという負の関連を示した.しかし,職業経験の質の「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」以外の下位尺度は有意な関連は示さなかった.また,モデル全体の説明率を示すNagelkerke決定係数は.344であり,最終モデルは離職意思の34.4%が説明された.
1. 離職意思と看護職者の職業経験の質の関連本研究は,職業経験の質が高い看護師ほど,離職意思が低くなるとの仮説を立てた.多変量解析において他の変数を調整した結果,離職意思には職業経験の質の6つの下位尺度のうち「仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」のみが有意な関連を示した.しかし,他の因子は単変量解析では離職意思が高い方が職業経験の質が有意に低いことを示したものがあったが,多変量解析の最終モデルに残らなかった.よって,仮説は一部が支持されたと言える.
「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」は看護師の職業経験を説明する概念である【II.日常生活構造の変調と再構築】を測定する下位尺度であり,看護職者が職業生活を開始し,その継続に伴い,これまでの日常生活のパターンを変化させ職業生活に合わせて日常生活を新たに築き上げるという経験を説明している(鈴木ら,2004).この下位尺度を構成する質問項目は,「仕事に打ち込めるように生活環境を整えられるようになった」,「食生活を管理できるようになった」,「自分に合った生活パターンを作れるようになった」,「仕事と生活にメリハリをつけられるようになった」,「仕事以外の時間を有意義に過ごせるようになった」の5項目であり,これらは仕事と仕事以外の生活を調整するという経験の質を反映し,つまり,WLBが取れるように調整してきた経験と言い換えられる.ストレス研究の分野では,WLBを仕事役割と家庭役割間の葛藤(Work-Family Conflict;WFC)の強さで測定しており(渡井,2018),WFCと離職意思の関連をメタ分析した研究では(Yildiz et al., 2021),WFCと離職意思の間に中程度の正の関係,かつ有意な関係があることが示されている.したがって,「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」で評価された職業経験の質は,WLBを保つ,もしくはWFCが起きないように調整してきた経験の質であり,それが離職意思を下げる要因となったと考えられる.一方,多変量解析では「1.仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」以外の下位尺度は有意な関連を示さなかった.この理由として,本研究の調査範囲外の相互作用のある因子が存在する可能性がある.本研究の最終モデルのNagelkerke決定係数は.344であり本モデルで離職意思の34.4%を説明できることを意味しているが,先行研究では離職意思を高める要因としてバーンアウトや職務満足度,対人関係の困難さ,看護実践能力などが明らかになっており(古屋・谷,2008;松谷ら,2022;山口ら,2017;山住,2017;高瀬ら,2015),これらの変数との相互作用が本研究に影響した可能性がある.したがって,今後の研究では,本研究の結果を発展させ関連性を探索する研究デザインを用いる必要がある.
2. 離職意思に関連する個人特性本研究の2つ目の仮説は,看護師の離職意思には,個人特性が影響するであった.本研究の結果から,「30代」,「40代」,「介護あり」が有意な正の関連を,「子あり」が有意な負の関連を示した.よって,仮説2も一部支持されたと言える.
30~40代が離職意思に関連した理由として,この年代の看護師が抱えるライフステージ上の問題が関連していると考えられる.岡本(1999)は,潜在看護師の離職理由は結婚や育児などのライフイベントが上位を占めていると報告しており,仕事と家庭の両立がこのライフステージにいる看護師の課題となっている.加えて,仕事と家庭が両立できないとWFCが高くなることが関連し離職へ繋がると考えられるため(Yildiz et al., 2021),30~40代が離職意思に影響を与えたと考えられる.
「介護あり」は離職意思に有意な正の関連を示した.介護役割と離職意思の関連は先行研究と一致している(桐野ら,2018).一方,本研究では介護役割が出現する可能性が高くなる50代以上では離職意思と有意な関連は示されていない.この理由として,本研究の介護者を持つ者の年代別の人数(割合)は,20代131名中8名(6.1%),30代93名中15名(16.1%),40代45名中12名(26.7%),50代以上10名中2名(20.0%)であり,特に40代の介護役割の割合が高く,50代以上は対象者数が少ない.したがって,「介護あり」は有意な関連が示されたが,「50代以上」は有意な関連が認められなかった可能性がある.
「子あり」は離職意思と負の関連があった.Kang & Kim(2011)は,看護師において子育てストレスが離職意思と関連し,勤務形態,子どもの数,子育ての罪悪感が離職意思の有意な予測因子であると明らかにしており,さらに,育児役割はWFCの関連要因でもあるが(Greenhaus & Beutell, 1985),本研究では「子あり」ほど離職意思が低くなると示されている.本研究の子がいる者の年代別の人数(割合)は20代131名中11名(8.4%),30代93名中52名(55.9%),40代45名中31名(68.9%),50代10名中7名(70.0%)であり,子を持ちながらも多数の看護師が就業継続をしている現状がある.岡崎ら(2022)の子育てをしながら就労する母親が感じる困難感に対する文献検討では子育てのための経済的負担や不安があることが報告されている.加えて,近年の日本では子育コストの増加や社会不安が強い傾向にあることから,子を持つ看護師は子がいるからこそ経済的安定を維持するために離職意思が低下した可能性が考えられる.しかし,この結果には生存バイアスが存在する可能性が高いと考えられるため,子育て期の就業看護師および離職した看護師への実態調査を行い,この仮説を明らかにしていく必要がある.
3. 看護師の離職予防に向けて本研究の結果は,看護師の離職予防に職業経験の質,特に「仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」を高めることが重要と示した.この結果から,病院に勤務する看護師の離職対策には,看護管理者が看護師に対して個々の課題を克服できるように支援し,「仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」を積み上げられるように働きかけることが重要と示唆され,その対策にはWLBへの対策が援用できると考えられる.WLBを高める対策として,上司の支援やロールモデルの存在(本島ら,2017),職場のワーク・エンゲージメントを高める(De Simone et al., 2018;渡邊・生野,2016;Kato et al., 2023)などの看護管理上の対策が重要であると指摘されている.さらに,育児や介護などの看護師一人ひとりの個人特性を把握・理解しながら柔軟な働き方を提案・提供する,既存の仕事と家庭の両立支援策の積極的活用などのWLBへの支援を病院や管理者が行うことが重要であると考えられる.
4. 研究の限界本研究の限界は4点挙げられる.第1に,本研究は横断研究であるため因果関係の推定はできない.第2に,1施設の看護師のみを対象としているため本研究の結果を一般化することは難しい.特に本研究で調査した施設は関東圏の地方都市に位置しており,都心部と比較した地域特性として,親族からの育児サポートが受けやすい環境であることが離職意思に影響した可能性がある.第3に,本研究では調査時点で就業している看護師を対象としているため,すでに離職している看護師のデータは反映できず生存バイアスが生じている可能性が高い.第4に,本研究では職業経験の質および個人特性と離職意思の関連を調査したが,職場環境や職業性ストレス,WFCまたは個人の健康状態などを考慮できておらずこれらの調査範囲外の変数が職業経験の質や個人特性に相互作用を与える可能性を考慮する必要がある.そのため,今後はサンプルサイズを拡大しつつ,関連因子およびバイアスを回避する方策を検討して調査を実施することが重要である.
以上の限界はあるが,本研究は職業経験の質と離職意思の関連について探索し,看護師の離職意思には職業経験の質の中でも「仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」が重要な要素であることを明らかにした.この知見は病院に勤務する看護師の離職予防対策を検討していくための資料として有用であると考える.
病院に勤務する看護師の離職対策には,看護管理者が看護師に対して個々の課題を克服できるように支援し,「仕事を続ける中で,自分に合った日常生活を築く経験」を積み上げられるように働きかけることが重要と示唆された.
謝辞:本研究にご協力いただきました看護師の皆様,研究を実施するにあたり多大なご協力・ご助言をいただきました皆様に心より感謝を申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:TSは統計解析の実施および原稿作成までの研究プロセスに貢献した.MTはデザイン,データ収集,および原稿への示唆を行なった.HA,MIは研究の着想,データ収集を行なった.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.