2024 年 44 巻 p. 1105-1116
目的:思春期に摂食障害を発症した当事者の回復までのプロセスを明らかにすることである.
方法:現在は摂食障害から回復をしている4名に半構造化面接を実施し,KJ法にて分析した.
結果:発症には,【周囲からの評価を気にするあまりの過剰な反応】と【ありのままの自分を認めてもらえない家庭環境への葛藤】が影響しており,【痩せることで得られた負の代償】だけが浮き彫りとなっていた.しかし【寄り添おうとする家族の変化】が徐々に回復へと導き,信頼できる人々の存在が【摂食障害と対峙する精神的な支え】となった.これらを通して【自己の内面的な変化】を培うともに,【摂食障害から回復したからこそ抱く思い】を実感していた.
結論:回復までのプロセスは,信頼できる人々の存在や自己受容等の内的変化が精神的な支えとなっていたことから,これらの要素を取り入れた予防的介入の必要性が示唆された.
Objective: This study aims to explore the process of recovery of those who developed eating disorders during adolescence.
Method: We conducted semi-structured interviews with four individuals currently in recovery from eating disorders and analyzed them using the KJ method.
Results: In the development of eating disorders, “overreacting because they are too concerned about what others think of them” and “conflict in a home environment that does not approve of me as I am” In the process of losing weight, “the negative cost of losing weight” became the main focus, resulting in an extremely distressing experience while battling the illness. A “family change toward seeking to become emotionally close” gradually led to the participants’ recovery, and having people they were able to trust became a “psychological support for confronting the eating disorder” Through these steps, participants increased “internal change of self”, and also experienced “thoughts and feelings that I can only have because I recovered from my eating disorder.”
Conclusion: The process of recovery from eating disorders was supported emotionally by the presence of trusted people and internal changes such as self-acceptance, suggesting the need for preventive interventions that incorporate these elements.
摂食障害の発症には生物学的,心理的,社会的要因との関連が指摘されている(安藤,2019).生物学的要因では,極端なダイエット行動をとることで脳内の摂食行動を調整する部位に異常が起こり,摂食行動に関与するセロトニン濃度の低下が生じ,空腹を感じにくくなるとされている(切池,2012).心理的要因は,周囲からどのようにみられているかという不安が影響していると指摘があり(大谷,2017),自己評価や自己受容の低さは摂食障害の発症と関連があるとされている(Romano et al., 2021).さらには,米国精神医学会の診断基準であるDSM-5(American Psychiatric Association, 2013/2014)には,体重増加への恐怖,体重や体型への自己評価の影響が記述されており,痩せ願望や体型不満は摂食障害の中核的な心理的要因であると考えられる.社会的要因では,痩せを礼賛する風潮やスリムな体型でいなければならないという社会的圧力,「痩せていることが望ましい」とするメディアへの曝露が挙げられており,低年齢からのダイエットへの関心の高まりや若年層を中心としたダイエットの流行を助長している(西園,2023;小川ら,2024).特に,心理的要因と社会的要因については,痩せを礼賛する社会風潮においてその価値観を自分自身のものとして取り入れる痩せ理想の内在化が生じ,その結果体型不満や自己評価の低下を助長させるという点が指摘されている(Stice, 2002).
このような背景から,心理的及び社会的要因から摂食障害の予防的介入が必要であると言える.しかし,我が国においてこれらの要因に着目した予防的介入に関する研究は少ない.また,報告されている研究はいずれも対象は高校生以上であり予防プログラムの内容は心理教育が中心である(永井ら,2005;高畠・勝原,2005;三井,2006;杉山・横山,2007;宮地ら,2020;山蔦,2021).一方で,摂食障害を取り巻く課題として発症の低年齢化が挙げられており(中井,2010;堀川,2012;清家ら,2018),近年においては,コロナ禍を経て増加傾向にあった20歳未満における摂食障害患者数は男女ともに減少することなく高止まりとなっている(国立成育医療センター,2022).また,中学生を対象に行った中村・森(2018)の調査によると,特に女子は学年が上がるごとに摂食障害傾向が強くなることが明らかにされている.中学生男子においても,学年が上がるごとに男子特有の筋肉質の理想体型の内面化のみならず,痩身理想も強くなり,一部の男子生徒ではボディイメージの歪みから食行動に問題が生じていることが報告されている(中島ら,2015).したがって,思春期の心理的特徴を踏まえた対応及び予防的介入の検討は急務である.
そこで本研究では,特に心理的要因と社会的要因に着目し摂食障害発症の契機及び回復までのプロセスを探ることで,思春期における摂食障害の予防的介入の示唆を得ることを目的とする.
研究対象者は,摂食障害の好発期とされる,中学生または高校生で摂食障害(当時の診断基準DSM-IVにて神経性食欲不振症)と診断され現在は回復をしている者とした.中高生の年代である思春期は「自我の目覚め」ともいわれ,自分自身を客観的に内省することが可能となる時期であると同時に,身体的にも内面的にも変化の受容が求められ始める時期でもある(伊藤,2006).このことから,中高生の年代に摂食障害と診断された者を対象とすることで,周囲からの影響や自己受容がどのように摂食障害の発症から回復に影響を及ぼしたかを見出すことが可能となると考え,中高生に摂食障害と診断された者を対象とした.また,摂食障害は約9割が女性患者であるとされていることから(日本摂食障害学会,2012;横瀬,2021)本研究の対象者は女性に限定した.本研究における「回復」とは摂食障害に関する定期的な通院及び治療が終了しており,自身で摂食障害からの回復を実感できているということが前提であり,現在までの経過を自身の言葉で語れることを選定要件とした.また,研究対象者の年齢については,年齢の下限は25歳程度,上限は45歳程度とし,その根拠は以下の通りとした.摂食障害の回復にはある程度の期間を有することが明らかとなっており,ある追跡調査では寛解率が7割を超えるのは10年かかると報告されている(中井ら,2004;Keel & Brown, 2010).したがって,思春期に発症後からおおよそ10年経過した者を対象とするのが妥当であると考えた.また,社会を取り巻く環境は時代とともに変化をしており,調査項目のひとつである社会的要因についてはそれらに大きく依存していると考えられる.そのため,若年層向けのファッション雑誌が全盛期を迎えインターネットが社会に普及し始めた1990年代以降に思春期であった者を対象とした.対象者の選定は,機縁法にて行い,同意の得られた者を研究対象者とした.
2. 調査期間2022年1月から2022年2月にかけて実施した.
3. データ収集方法インタビューガイド(表1)をもとに,研究対象者に半構造化面接を行った.具体的には,痩せを礼賛する社会の風潮,周囲からの「痩せている方が美しい」といったプレッシャーや,メディア広告が摂食障害発症に及ぼしていた影響の程度について,発症前の他者からの関わりや自己の内面への意識的な働きかけはどうであったか,またそれらは発症にどのように影響していたと考えるか,等とした.いずれの内容においても,発症から回復までのプロセスにおける自己の内面的及び行動面での変化に関する自由な語りを促した.
| Q1.基本属性について(年齢,摂食障害を発症した年齢) |
| Q2.摂食障害を発症してから回復するまでの経過(自身が考える発症の要因,治療,入院の有無も含む) |
| Q3.摂食障害発症から回復に至るまでにおいて,痩せを礼賛する社会の風潮,プレッシャーなどがどのような影響を与えていたと考えているか(具体的なエピソードも含む). |
| Q4.摂食障害発症から回復に至るまでにおいて,メディア広告がどにような影響を及ぼしていたと考えているか(具体的なエピソードも含む). |
| Q5.摂食障害回復過程において,痩せ礼賛の社会や周囲からのプレッシャー,メディア広告について等に対する自身のとらわれや考え方はどのように変化していったか. |
Q6.摂食障害発症前における他者からの関わりについて,肯定的・共感的なフィードバックの経験の有無とその具体的な事例(ここでの他者とは,家族,学校での友人関係,教師,主治医など,関わる方すべてを指す) また,それらは回復の過程においてどのような変化があったか(具体的なエピソードも含む). |
Q7.摂食障害発症前について 自己洞察や自己表出に関するご自身の傾向についておよびそれは発症にどのように影響していたと考えているか. また,それらは回復の過程においてどのような変化があったか(具体的なエピソードも含む). |
| Q8.上記の質問以外で,発症にまつわる要因やエピソードについて,補足点等 |
本研究は,摂食障害発症から回復のプロセスにおける感情や体験を時間的変化の中で捉えようとするものであり,混沌とした質的情報を包括的に明らかにするには,個々の断片情報群に内在する論理を発見し理論構築する質的統合法(KJ法)(山浦,2012)が適していると判断した.質的統合法(KJ法)は,KJ法の基本原理と基本技術に準拠し,KJ法の実践と指導に長年従事した山浦氏が理論と技術の両面から独自に探究した手法であり,多くの変数を捨象することなく,全体像を構造化することが可能とされている(正木,2008).
分析は,山浦(2012)の質的統合法(KJ法)の手順に従い,まず対象者ごとの個別分析を行い各対象者の摂食障害発症から回復までのプロセスの独自性を明らかにした.次に,全ての対象者の総合分析により摂食障害発症から回復までのプロセスの様相を明らかにした.分析の手順は以下の通りである.
1) 個別分析逐語録より,摂食障害の発症からその回復に至るプロセスが表現されている部分を広く取り出し,1つの意味内容ごとに区切り,可能な限り語られた表現のまま要約し元ラベルを作成した.次に一面に並べた元ラベルを読み,意味内容に類似性があるものを2~3枚集めグループ編成を行った.集まったラベルのセット全体が何を訴えかけているかを読み取り,表札として文章化した.グループ編成は,山浦(2012)に基づき,ラベル間の関係性を簡潔に表現するためにグループ総数5~7枚になるまで繰り返し,それらを最終ラベルとした.最終ラベルの訴える内容が意味の上で最もわかりやすく,一貫した相互関係配置となる構造図ができるよう,ラベル同士の関係に納得がいくまで模索し空間配置図を作成した.さらに,最終ラベルの内容を表すシンボルマークを命名した.シンボルマークは,【事柄:エッセンス】の二重構造で示した.その後,ラベル同士の関係を示す「添え言葉」を用い,空間配置を説明する文章を作成し,事例のもつ全体のストーリーとした.
2) 総合分析個別分析の後,総合分析を行った.総合分析の元ラベルは,4事例の個別分析の最終ラベルの2段下がったラベルを用いた.個別分析の最終ラベルを元ラベルとした場合,総合分析結果の抽象度が高くなりすぎる危険性があり,個別の分析の具体性とリアリティを残しつつ,分析の効率も考えた上で最終ラベルの2段下を使用するのが経験的に適切とされている(山浦,2012).個別分析と同様の手順でグループ編成を繰り返し,最終的に空間配置図の作成,説明文章の作成を行った.
5. 真実性と信用性の確保個別分析が終了した時点で了承が得られた対象者に空間配置図の確認を依頼することで真実性の確保を行った.また,分析の信用性を確保するために,研究者は質的統合法(KJ法)の研修を受講し分析過程の手法の修練に努めた.グループ編成から空間配置図作成の過程において研究者間で意見が一致するまで議論を繰り返し,分析過程を通して指導経験が豊富な研究者にスーパーバイズを受けた.
6. 倫理的配慮本研究は,東邦大学看護学部研究倫理審査委員会の審査及び承認を得て実施した(承認番号:RE2021028).研究対象者に,研究目的と方法,研究参加の任意性の担保及び同意撤回の権利,個人情報の保護とデータ管理等について文書を用いて十分な説明を行い,同意の署名を得た.得られたデータは,匿名性,安全性を確保し厳重に管理した.
対象者は,20歳代後半から40歳代前半の女性4名であり,いずれも摂食障害の発症及び診断時期は思春期年代であった.平均面接時間は約60分であった.研究対象者各々の個別分析を通して明らかとなった4名それぞれの属性及び摂食障害の発症から回復までのプロセスの概要を表2に示した.
| 研究対象者の基本属性 | 個別分析結果の概要 |
|---|---|
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A氏:40歳代 診断時期:高校生 面接時間:62分 元ラベル:75枚 |
A氏は,自己のことを認めてもらえず感情表出が困難な成育環境の中で育った経験から,幼少期から自己の感情について種すら蒔かれない状態と感じていた.さらに,痩せ礼賛の社会風潮で“痩せている=美しい”という周囲からのプレッシャーに直面をしていた.これらが複雑に絡み合い摂食障害の発症につながっていた.また,闘病の過程では,家族から認められ評価されたいという思いで家族との関わりを求め続けていた.しかしそのような中で,家族がA氏に寄り添おうとする「家族の変化」がみられ,その結果,家族との関わりを求め続けた気持ちが徐々に満たされたことで「摂食障害という病を手放せた実感」をしている.このような体験から,「肯定的に受け容れてくれる環境と信頼できる人の存在」が「自己肯定感を育むということ」につながると感じている. |
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B氏:30歳代 診断時期:中学生 面接時間:54分 元ラベル:84枚 |
B氏は,中学時代に容姿で評価されることで感じる焦りとストレスを拒食という形で表出した.さらには家族からの「女子はこうあるべき」という固定観念の押し付けが相俟って,摂食障害発症に大きく影響をしていた.その過程で,本来であれば,痩せていくことがB氏にとって嬉しいことであったはずが,痩せることによる急激な身体的不調と「この体型を維持しなければ」という強迫的な思考に苦しむ結果となった.また,自分の思いや求めに対する両親の対応を「あと少しのところで伝わることが難しい」と感じており,そのズレに気付いて欲しい一心で両親への反抗を拒食という形で表現していた.このような体験の支えとなったものは,学校の教師やカウンセラー,主治医などの信頼できる大人の存在であった.さらにもうひとつの側面として兄の私に寄り添おうとする「兄の変化」であり,これらは摂食障害からの回復を実感する礎となった.このような闘病体験を通して摂食障害から回復した今だからこそ,「周囲の評価に流されずありのままの自分でいることの重要性」を実感している. |
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C氏:20歳代 診断時期:中学生 面接時間:62分 元ラベル:72枚 |
C氏は,周囲の評価とメディアに影響された痩せ願望により始めたダイエットを始めたが,痩せれば痩せるほど強まる満たされぬ思いとの葛藤で苦しんでいた.一方で,今まで両親の言う通りに従ってきた自分が拒食をすることで両親への初めての反発をし,今までの自分からの脱却を模索していた.これらの体験の支えとなったものは,ありのままの自分を受け容れてくれる信頼できる人々の存在であった.また,C氏が回復への歩みを進める中で,両親がC氏に寄り添おうとする「両親の変化」がみられ,これらは摂食障害回復に向けての基盤となった.このような闘病体験を通して,摂食障害から回復したからこそわかることとして自己表出や自己洞察をするスキル習得の重要性と,両親の不器用さゆえの親としての葛藤に気付くことができた. |
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D氏:20歳代 診断時期:高校生 面接時間:63分 元ラベル:80枚 |
D氏は,同級生による体型についての誹謗をきっかけとした,自己の体型に関するコンプレックスを抱いていた.さらには,メディアからのダイエット情報に翻弄され,妥協を許さないダイエット法の実践により急激な体重減少を体験していた.また,家庭環境による自己肯定感の低さがゆえに,自己表出できない状況への葛藤と絶望を感じており,このことも摂食障害発症に影響を及ぼしていた.しかしこのような闘病体験の中,母がD氏に寄り添おうとする努力という「母の変化」がみられ,家庭全体の雰囲気が変化していくきっかけとなった.このような体験を支えたものは,家族以外の居場所と信頼できる人々の存在であり,この支えられた経験を通して,「自身の行動変容と相手を受け容れる努力」という「自己の内面的な変化」がみられた.またこのことは摂食障害の回復を支えたもうひとつの重要な側面でもあった.それゆえに,摂食障害から回復したからこそ言えることとして,「自己肯定感を得られる居場所と悩んだ時の対処法の獲得は自己受容につながる」と実感している. |
総合分析は,ラベル55枚を用いた.5段階のグループ編成を経て,7枚の最終ラベルに集約され,図1の全体像が浮かび上がった.図1には最終ラベルとシンボルマークを示した.以下,シンボルマークごとに説明をしたのち,7つのシンボルマークの関係性について説明する.シンボルマークは【事柄:エッセンス】,最終ラベルは《 》,元ラベルは「 」を用いて記述する.なお,総合分析全体の概要を表3に示した.

| 【事柄:エッセンス】最終ラベル | 元ラベル一例 |
|---|---|
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【周囲からの評価を気にするあまりの過剰な反応:痩せることへの執念からくるいき過ぎたダイエット】 対人関係などの環境の変化によるストレスと,新たな環境での痩せていることを好む周囲の風潮に過剰に反応するあまり,痩せることに固執してしまった結果,メディアから発信されるダイエット情報を厳密に模倣することで自己を追い込み体重減少に歯止めが利かなくなっていた. |
・真っ先に目立った理由みたいなのは,中学校に入ったときに制服をみんな着たんですよね.その時に,男子も女子も制服を着た時に,体型の差が一気に出たのが結構大きかった. ・結構周りから,振り返ると全然普通の,今でいうと標準体重よりちょっと痩せているくらいだったんですけど,男子からまあからかわれる,“デブ”って. ・モデルさんが,どうやって体型を維持しているかとか,食生活大公開,みたいなのがあるじゃないですか.その通りにしていれば痩せられると信じていましたね.“私は絶対に成功してやる”みたいな意地,“絶対にやり遂げる”みたいな.痩せれば痩せるほど,そういう気持ちも強くなりましたね. ・いろいろメディアの情報とか雑誌とか,あとはそのとき好きだったモデルさんのダイエット方法とかをブログで毎日チェックして,一日これだけ,メニューは,これ,これ,とかすごいそれを真似していました. |
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【ありのままの自分を認めてもらえない家庭環境への葛藤:親からの肯定的関わりを求めた先の拒食】 どんなに努力をしても認めてもらえず,自分の意見すら表出できない家庭環境の中で,何としてでも私の気持ちを理解し振り向いて欲しいという一心で拒食という形で反発をし,親からの肯定的な関わりを求めもがく自分と葛藤をしていたことは摂食障害発症に影響を及ぼしていた. |
・家族に,特に父にもっと認められたかったみたいな内容を手紙に書いてて,ちゃんと見てほしかったんだと思います.でも父からの反応はなく.だから,自分の主張とかももう種すら蒔かれなくなる,芽が出てこなくなった. ・発症前は,お母さんの言う通りじゃないけど,自分の意見は言えなかった.反発することも難しかったですね.だから,痩せ始めてからも,“食べなさい,食べなさい”ってお母さんに言われたんですけど,本当に初めて食べないことで意思表示をしたっていうか. ・母親が部活の試合についてきて,試合で3位とかに入賞しても,“もっと頑張れば”とか,“あの子は部活始めたばっかりなのに入賞して,あなたは何年やってるのに”とか,他の子と比べられたりとか,本当そういうのすごく多かったですね.言い返すと母は機嫌を悪くしてしまうし,父も“お前が悪いんだよ”みたいな感じだったので,“じゃあ私が悪いのか”みたいな. |
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【痩せることで得られた負の代償:満たされぬ気持ちと深刻な心身の不調】 痩せることであれほど求めていた評価が得られ自信が持てると思っていたが,それとは裏腹に気持ちは全く満たされるどころか常に頭の中は食べ物と体重のことでいっぱいとなり,さらには身体的にも深刻な状況に陥り,心身ともに辛くなってきていた. |
・痩せても気持ちは全然満たされず,むしろ辛くなってきた.もっとより良くなる,自分にもっと自信がつくと思って痩せたんですけど,結局食べ物と体重のことしか考えられなくなっちゃって,学校に行って楽しく過ごしている妹がキラキラして見えたり,心も体もこのままじゃ辛いなって思ったりとか. ・30 kg切ったときはもう身体がきつかった.本当に30 kg切ったときは,辛かったです.本当もうやばいかもって危機を感じました. ・ダイエットをして痩せてきたとき,評判が一瞬だけよくなってた時があったんですよね.でもそのころにはもうなんか体型のことしか考えられなくなってたから,自分の思考的にその評価が全く耳に入ってこない感じでしたね. |
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【寄り添おうとする家族の変化:家族というしがらみからの解放の実感】 私の病を通して家族は,それぞれが前向きな変化に向け私に寄り添う努力をしてくれた結果,今まで私を支配してきた家族間のしがらみや固定観念から解放され,それを実感できたとき,摂食障害という病を手放せたような気がした. |
・回復を実感できたのは,自分が親から自立しようとして自分の考えていることを母親に話した際に,“それでいいよ”と了解をもらったときに“しがらみから出られたな”というのがありましたね.だから心理的にはそのあたり.親からの呪縛から出られたな,と. ・お母さんが聞き役にまわる,っていうことをしてくれたなっていうのはすごく思いますね.だから話しやすくなったのかなって. ・少なくとも兄としての自分,兄の基準というのが多分昔と今とではだいぶ変わってくれたと思うんですよね. ・過干渉だった母親も,一緒にカウンセリングを受けるようになって,“食べろ,食べろ,と言ってはダメ”とか“無理に食べさせようとせず見守るように”という心理師の先生からの助言を守っていてくれていたらしいです. |
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【摂食障害と対峙する精神的な支え:信頼できる人々の存在と安心感】 食行動に関連した症状を他罰的に捉えてしまう自分のずるさと向き合い対処していく過程で支えとなったのは,信頼できる人々の存在であり,その存在を通してありのままの自分を出しても良いと思える安心感を得られたとき,摂食障害からの回復を実感できた. |
・学校の先生が話を聴いてくれて,いろいろな辛い経験も含めて受け止めてくれたことが心の支えになりました. ・友達に“今の方が全然いいよ”って.“私今のままでいいんだ”って.そうやって言葉にしてくれるのは嬉しかったですね. ・高校で仲いい友達ができて,自分はこのままの自分でいいんだって思えるようになって. ・少しずつ頑張って食べれるようになって,そんな時(医療者の)皆さんは優しく“頑張ってるね”なんて言ってくれてすごく嬉しかったです.自分に自信が持てた,というか. ・(摂食障害という病は)食行動だけの病気ではないと思っているので,摂食障害らしさ,というか,その一番の問題みたいなのは,“ずるさ”にあると私は思っていて.その“ずるさ”をどうにかしたいと思うことが,私にとっては回復につながっていた気がするし,それは現実的な問題との付き合い方になったと思うので,そういう意味ではそのことを主治医との関わりを通して気付くことができました. |
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【自己の内面的な変化:自己の行動変容と相手を受け入れる努力】 闘病生活を通して学んだことは,相手に変化を求め変わってくれないことに矛先を向けるのではなく,自分中で折り合いをつけ考え方を変えることも重要なことであり,そうすることで徐々に相手を受け容れられるようになったと実感している. |
・母も自分の気持ちを伝えるのが苦手な方だったのかもしれない,不器用なんです.だからそういう母の一面に接した時には今はストレスを溜めないように適度に周囲に相談をできるようになりました. ・本当に,今となって,こういう親だったんだな,って思えたのは楽になりましたね. ・両親とは,以前に比べたら関係性も良くなりましたけど,でもちょっと完全に分かり合うことは難しいんじゃないかって思うので,お互い適度な距離を保ってお互いに折り合いをつけて,ですかね. ・変わらないものを変えるのは疲れちゃうかな,と思って.だから相手に変化を求めるのではなく,自分の関わり方を変えていけばいいんだと思えるようになりました. |
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【摂食障害から回復したからこそ抱く思い:ありのままの自分を受け容れられる環境と折り合いをつけることの重要性】 回復した今だからこそ言えることは,周囲からの評価に左右されることなく,痩せること以外で自分に自信を得られる方法や世界を持つことで,ありのままの自己をポジティブに捉えられるような内面的なスキルを身にけることにつながり,自分自身を大切にできるようになると実感している |
・もっと自信をもててたら良かったのかな,と思ってて,自信がなかったんですよね.もっと自分を褒めてもよかったのかなって思うことはありますね.そしてもうちょっと自分のことを客観視できてたら違ったと思うんですよね. ・やっぱりコミュニティが狭いので,部活でもいいし,習い事でもいいので,いっぱい持ってればよかったのかなって.家にいる時間がやっぱり長かったりするから,ダイエット,ダイエット,って集中しちゃったわけで,コミュニティを何でもいいので自分の世界をいっぱい持つことが大事だと思いますし,それは今の中高生の子たちにも伝えたいことですね. ・美しさってひとつじゃない,っていうこと.“痩せている=美しい”だけじゃないことを伝えたい.メディアから発信される情報に惑わされるのではなく,もっと自分の,体型とか痩せているということ以外の部分での自分らしさを大事にして欲しいなと思います.そして痩せることよりも熱中できることとか,コミュニティ,自分の世界をいっぱい持つことでいろんなところに自分の居場所や拠り所ができると思うから. |
最終ラベルは,《対人関係などの環境の変化によるストレスと,新たな環境での痩せていることを好む周囲の風潮に過剰に反応するあまり,痩せることに固執してしまった結果,メディアから発信されるダイエット情報を厳密に模倣することで自己を追い込み体重減少に歯止めが利かなくなっていた.》であった.対象者は発症の契機となった事柄について,「真っ先に目立った理由みたいなのは,中学校に入ったときに制服をみんな着たんですよね.その時に,体型の差が一気に出たのが結構大きかった.」のように,環境や対人関係の変化に伴い,周囲からの体型に関する評価や考え方に翻弄され「痩せた方が良い」,「痩せなければ」という思いが表面化していた.さらには,ダイエット方法について,「モデルさんが公開している食生活の通りにしていれば痩せられると信じていましたね.“私は絶対に成功してやる”“絶対にやり遂げる”みたいな.痩せれば痩せるほど,そういう気持ちも強くなりましたね.」というように,メディアから発信されるダイエット情報の厳密な実践と「絶対に痩せる」という強固な執念が体重減少を助長していた.
(2) 【ありのままの自分を認めてもらえない家庭環境への葛藤:親からの肯定的関わりを求めた先の拒食】最終ラベルは,《どんなに努力をしても認めてもらえず,自分の意見すら表出できない家庭環境の中で,何としてでも私の気持ちを理解し振り向いて欲しいという一心で拒食という形で反発をし,親からの肯定的な関わりを求めもがく自分と葛藤をしていたことは摂食障害発症に影響を及ぼしていた.》であった.「発症前は,お母さんの言う通りじゃないけど,自分の意見は言えなかった.反発することも難しかったですね.だから,痩せ始めてからも,“食べなさい,食べなさい”ってお母さんに言われたんですけど,本当に初めて食べないことで意思表示をしたっていうか.」,「母親が部活の試合についてきて,試合で3位とかに入賞しても,“もっと頑張れば”とか,“あの子は部活始めたばっかりなのに入賞して,あなたは何年やってるのに”とか,他の子と比べられたりとか,本当そういうのすごく多かったですね.言い返すと母は機嫌を悪くしてしまうし,父も“お前が悪いんだよ”みたいな感じだったので,“じゃあ私が悪いのか”みたいな.」のように,家族から肯定的な関わりを得られない環境で過ごしたがために,自己の感情を表出することが困難な状況となり,拒食という手段を使うことで反発する思いや葛藤を「自己表出」をせざるを得ない状況であった.
(3) 【痩せることで得られた負の代償:満たされぬ気持ちと深刻な心身の不調】最終ラベルは,《痩せることであれほど求めていた評価が得られ自信が持てると思っていたが,それとは裏腹に気持ちは全く満たされるどころか常に頭の中は食べ物と体重のことでいっぱいとなり,さらには身体的にも深刻な状況に陥り,心身ともに辛くなってきていた.》であった.対象者は,痩せることへの強固な執念や,拒食を自己表出のひとつの手段とし,自ら痩せることを強く望んでいたにもかかわらず,「痩せても気持ちは全然満たされず,むしろ辛くなってきちゃった.自分にもっと自信がつくと思って痩せたんですけど,結局食べ物と体重のことしか考えられなくなっちゃって,学校に行って楽しく過ごしている妹がキラキラして見えたり,心も体もこのままじゃ辛いなって思ったりとか.」と,痩せることで得られると思っていた自信や自己肯定感が得られるどころか,むしろ心身ともに辛い状況に陥っていた.
(4) 【寄り添おうとする家族の変化:家族というしがらみからの解放の実感】最終ラベルは,《私の病を通して家族は,それぞれが前向きな変化に向け私に寄り添う努力をしてくれた結果,今まで私を支配してきた家族間のしがらみや固定観念から解放され,それを実感できたとき,摂食障害という病を手放せたような気がした.》であった.「回復を実感できたのは,自分が親から自立しようとして自分の考えていることを母親に話した際に,“それでいいよ”と了解をもらったときに“しがらみから出られたな”というのがありましたね.だから心理的にはそのあたり.親からの呪縛から出られたな,と.」のように,親から認めてもらえる体験は回復につながる体験であった.また,「過干渉だった母親も,一緒にカウンセリングを受けるようになって,“食べろ,食べろ,と言ってはダメ”とか“無理に食べさせようとせず見守るように”という心理士の先生からの助言を守っていてくれていたらしいです.」というように,それぞれの回復のプロセスに共通することは,「家族の変化」であった.
(5) 【摂食障害と対峙する精神的な支え:信頼できる人々の存在と安心感】最終ラベルは,《食行動に関連した症状を他罰的に捉えてしまう自分のずるさと向き合い対処していく過程で支えとなったのは,信頼できる人々の存在であり,その存在を通してありのままの自分を出しても良いと思える安心感を得られたとき,摂食障害からの回復を実感できた.》であった.「学校の先生が話をきいてくれて,いろいろな辛い経験も含めて受け止めてくれたことが心の支えになりました.」,「友達に,“今の方が全然いいよ”って.“あ,私今のままでいいんだ”って.そうやって言葉にしてくれるのは嬉しかったですね.」というように,身近な存在である周囲の大人や友人からの受容と“ありのままの自分”を認めてもらえたと実感できたことが自己と向き合う支えとなっていた.また,「(入院中)少しずつ頑張って食べれるようになって,そんな時(医療者の)皆さんは優しく“頑張ってるね”なんて言ってくれてすごく嬉しかったです.自分に自信が持てた,というか.」というように,医療者の関わりが摂食障害という病と対峙するひとつの契機となり,精神的な支えとなっていた.
(6) 【自己の内面的な変化:自己の行動変容と相手を受け容れる努力】最終ラベルは,《闘病生活を通して学んだことは,相手に変化を求め変わってくれないことに矛先を向けるのではなく,自分の中で折り合いをつけ考え方を変えることも重要なことであり,そうすることで徐々に相手を受け容れられるようになったと実感している.》であった.「母も自分の気持ちを伝えるのが苦手な方だったのかもしれない,不器用なんです.だからそういう母の一面に接した時には今はストレスを溜めないように適度に周囲に相談をできるようになりました.今となって,こういう親だったんだな,って思えたのは楽になりましたね.」,「変わらないものを変えるのは疲れちゃうかな,と思って.だから相手に変化を求めるのではなく,自分の関わり方を変えていけばいいんだと思えるようになりました.」と闘病体験を通して,自己の行動変容と相手を受け入れる努力を学び実践をしていた.
(7) 【摂食障害から回復したからこそ抱く思い:ありのままの自分を受け容れられる環境と折り合いをつけることの重要性】最終ラベルは,《回復した今だから言えることは,周囲からの評価に左右されることなく,痩せること以外で自分に自信を得られる方法や世界を持つことで,ありのままの自己をポジティブに捉えられるような内面的なスキルを身にけることにつながり,自分自身を大切にできるようになると実感している.》であった.対象者は自身の回復過程を振り返り,「もっと私,自信をもててたら良かったのかな,と思ってて,自信がなかったんですよね.もっと自分を褒めてもよかったのかな,って思うことはありますね.そしてもうちょっと自分のことを客観視できてたら違ったと思うんですよね.」と自己受容や自己洞察の重要性を実感していた.さらには,「美しさってひとつじゃない,っていうこと.“痩せている=美しい”だけじゃないことを伝えたい.メディアから発信される情報に惑わされるのではなく,もっと自分の,体型とか痩せているということ以外の部分での自分らしさを大事にして欲しいなと思います.そして痩せることよりも熱中できることとか,自分の世界をいっぱい持つことでいろんなところに自分の居場所や拠り所ができると思うから.」とありのままの自分を受け容れられる環境と折り合いをつけることの重要性を感じていた.
2)摂食障害発症の契機と回復までのプロセスの全体像図1に示した7つのシンボルマークを用いて以下に全体像を説明する.
摂食障害発症の契機から回復までのプロセスの全体像は,摂食障害という闘病体験を通して様々な葛藤や辛い状況と向き合う中で,家族の変化や自己の内面的な変化を実感できたことが回復を実感することにつながり,さらには,その先の自己受容に至る過程を示すものであった.
摂食障害の発症は,【周囲からの評価を気にするあまりの過剰な反応:痩せることへの執念からくるいき過ぎたダイエット】として表れ,これに相俟って【ありのままの自分を認めてもらえない家庭環境への葛藤:親からの肯定的関わりを求めた先の拒食】として姿を現し発症の大きな契機となっていた.これらは悪循環サイクルとなり,摂食障害という病はより深刻なものとなっていた.その結果,痩せていく中で【痩せることで得られた負の代償:満たされぬ気持ちと深刻な心身の不調】だけが浮き彫りとなった.しかしそのような中で,【寄り添おうとする家族の変化:家族というしがらみからの解放の実感】に至り,それは回復につながる体験であった.このような体験を支え原動力となったのは,【摂食障害と対峙する精神的な支え:信頼できる人々の存在と安心感】であり,これらを通して,【自己の内面的な変化:自身の行動変容と相手を受け入れる努力】がみられた.また,このことは摂食障害の回復を支えたもう一つの重要な側面でもあった.それゆえに,このような闘病体験を通して【摂食障害から回復したからこそ抱く思い:ありのままの自分を受け容れられる環境と折り合いをつけることの重要性】を実感しているということが示された.
摂食障害の発症は,周囲からの評価,痩せている方が美しいといった社会的プレッシャーや,ありのままの自己を認めてもらえなかった養育環境の中で生じた不安や葛藤,自己評価の低下が大きな契機となっていたことが対象者の語りから推察された.思春期は第二次性徴が顕著となり,身体的に大きな変化が訪れる時期である.そのため,この時期は自己の身体的変化に大きく戸惑い,自己と他者との身体の違いに気付かされる時期である.対象者の摂食障害発症時期はまさにこのような時期であったと考えられる.この時期は,自己を振り返る際に必ず「他者からの目」を取り込み,それらを通して自らを評価するという特徴があるとされていることからも(伊藤,2006),常に他者から自己をどのように捉えられているかという他者からの評価に敏感な時期であると言える.また,摂食障害における痩せは,自分の価値と同等の重さを持つものであり,痩せを自身の価値の指標と見るところにその病理がある(橘,2015)とされていることからも,【周囲からの評価を気にするあまりの過剰な反応:痩せることへの執念からくるいき過ぎたダイエット】のように,最も変化を実感しやすい体型の変化や体重という数値に価値を見出すことで,自己に対する付加価値を求めた結果が極端なダイエットであったと示唆される.
もう一つの契機として,【ありのままの自分を認めてもらえない家庭環境への葛藤:親からの肯定的関わりを求めた先の拒食】が見出された.家庭環境や家族関係との関連性については,摂食障害の発症と家族の機能不全との関連を述べている先行研究(長谷川ら,1999;大場ら,2002)を支持する結果となった.親に対して自己を認めてもらいたいと思う一方で自分の感情や意見を表出できない環境は,自己評価の低さとありのままの自己を受け容れることの困難さを生じさせたと推察される.摂食障害を発症する者に共通する性格特性として,否定的な自己評価や低い自尊感情が挙げられる(成尾,2007;橘,2015).さらに,Bruch(1978/1979)は,摂食障害の異常な摂食行動の背後には,自己認知の深い混乱と自己の過小評価に関連した内的な無力感というアイデンティティの葛藤があり,これらを覆い隠すことができるのが痩せであると述べている.対象者は,この自己評価の低さとアイデンティティの不安定さを痩せることで補おうとしたと考えることが可能である.
また,思春期における摂食行動やボディイメージとメディアとの関連は先行研究で述べられている(Stice et al., 1994;瀧本ら,2000;Chung et al., 2021).本研究においても,対象者らの,「モデルさんがどうやって体型を維持しているかとか書いてある雑誌を読んでそれを信じていた.むしろそれ以上のことをやっていた」,「好きだったモデルさんのダイエット方法をブログで毎日チェックして,それを忠実に真似していた」の発言からも明らかであるように,発症の過程でダイエット方法や容姿,ボディイメージについてなど,メディアから発信される情報に翻弄され多大なる影響を受けていたことが示唆された.
2. 摂食障害発症から回復のプロセスより見出された予防的介入への示唆本研究の対象者の語りより,摂食障害の回復につながる事象として,信頼できる人々の存在,自己の内的及び行動変容が重要なターニングポイントであることが示唆された.摂食障害の根底にある自己評価の低さに対し,ありのままの自己を受け容れられるようになるには,「今のあなたでよい」と認め受け容れてくれる他者が必要である.さらには,自己受容をすることで食行動の変化もみられ不安を抱えながらも自己実現の道を歩もうとする(渡邉,2010).これらを摂食障害発症の予防的な観点に置き換え考えると,発症の好発期とされる思春期年代において,自己受容を育むアプローチや介入が必要であると考える.さらには,自己評価の低さに関連した周囲からの評価に過剰に反応するという悪循環を生じさせないためにも,体型や容姿などの外的指標のみを自己評価の指標とするのではなく,自分らしさや自己の強みとなる性格や個人の特性などの内的指標にも気付く視点をもつことが重要である.
本研究において対象者が回復過程を振り返り,「もっと自分に自信を持てていればよかった,自信がなかったんですよね」と語っているように,自己評価の低さは思春期特有の課題でもある(若本,2011;Inchley et al., 2011).しかし,思春期において,他者から認められるという経験や,自己を振り返り自己の課題に向き合うという姿勢をもつということは自己受容を促進させる契機となる(中村ら,2021).具体的には,自己に関する認識や価値を自己の体型や容姿で測るのではなく,内面的要素にも目を向けるような働きかけを行うことが必要であると考える.このような機会を教育現場や健康教育等の場面において意図的に設けることは,ありのままの自己を洞察し自分らしさに気付くとともに,仲間同士でそれらを認め合える経験となる.その経験の積み重ねこそが,思春期の自己受容を育み自己評価の低下を防止することにつながると考えられる.
また,対象者は,発症の過程でボディイメージやダイエット方法についてなど,メディアから発信される情報に大きく影響を受けていた.思春期における摂食行動やボディイメージとメディアとの関連は多くの先行研究で述べられていることからも(Stice et al., 1994;瀧本ら,2000;Chung et al., 2021),メディアから発信される情報を適切に受け止め自己に取り入れることができるような支援や対策を講じる必要があると考える.加えて,森ら(2012)が行った女子大生を対象としたファッションに対する関心や摂食態度に関する調査によると,「おしゃれのために痩せている方が良い」と考え始めた時期は中学生時代と回答した者が最も多く,そのきっかけとして,「テレビのモデルやタレントを見て」と回答した者が7割以上を占めていた.また,向井ら(2018)は,特に中学生から高校生にかけてメディアから受けるプレッシャーをより強く感じ,メディアを痩身や理想体型の情報源としてより重視する傾向が強くなると指摘している.中学生から高校生の時期は,自己と他者との差異を感じ自己を意識し始める時期であり,この認知を基盤として実際に痩せるという行動として現れやすいことからも,思春期年代への早期介入は急務である.
したがって,これらの要素を取り入れた摂食障害の予防的介入方法を模索していくことが課題である.また,本研究において対象者が回復したからこそ抱く思いとして語られた,周囲からの評価に左右されることなく,痩せること以外での自己の強みを見出すということや,居場所を見出すことは摂食障害の予防的介入に不可欠な要素であると言える.さらには,ありのままの自己を受け容れる,すなわち自分自身を大切にすることにつながると考える.
本研究は,摂食障害の回復者という限定された者を対象とした調査であったため,対象者の人数と選定に限界があった.そのため,本研究結果を一般化して論じ難い.また,過去の闘病体験を想起した語りを得ているため,想起バイアスについても考慮する必要があった.しかし,4名すべての研究対象者は自分の言葉で自身の体験を語ることができ,摂食障害からの回復を実感できていたと考える.質的研究において経験の多様性を描くことができる人数について4 ± 1人であるとされており,現象の多様性を見出すことができるとされている(安田・サトウ,2012).つまり,4名という対象者数においても,本研究テーマにおける意義を見出すことは可能であり,対象者の語りに基づき摂食障害の回復を記述したことは貴重なデータであったと考える.今後は男性にも研究対象者を拡充することで,摂食障害の性差による発症から回復過程の知見や予防的示唆を深め,思春期の摂食障害の予防プログラムを構築することが課題である.
本研究において対象者の語りより得られた摂食障害発症から回復のプロセスは以下の通りである.質的統合法(KJ法)により7つのラベルに集約され,周囲からの評価と自己を認めてもらえない環境,さらにはメディアから受ける影響が発症の契機となりその後の経過に関与していた.回復過程では,ありのままの自己を認めてくれる信頼できる人々の存在や自己の認知などの内的変化が精神的な支えとなったことから,回復したからこそありのままの自己を受け容れられる環境と思考の重要性を認識していた.したがって,社会的プレッシャーやメディアからの情報を適切に受け止め,さらには,自己受容を育む働きかけや自分の強みや良さを見出し認めることができる介入の必要性が示唆された.
付記:本研究は,東邦大学大学院看護学研究科に提出した博士論文の一部を加筆・修正したものである.また,第26回日本摂食障害学会学術集会にて発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました研究対象者の皆様に心より御礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:HNは研究の着想および研究デザイン,データ収集,分析,論文草稿の作成のすべてを実施した.KIは研究デザイン,分析,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を確認し,承認した.